ドクター・キリコ

登録日:2022/02/24 Thu 00:33:00
更新日:2025/04/20 Sun 16:54:33
所要時間:約 10 分で読めます






生きものは死ぬときには自然に死ぬもんだ……

それを人間だけが……無理に生きさせようとする

どっちが正しいかねブラック・ジャック



ドクター・キリコとは、漫画ブラック・ジャック』の登場人物である。

CV山路和弘(OVA版)/速水奨(TVアニメ版)/鹿賀丈史(劇場版)/若本規夫(劇場版予告)/田中秀幸(インターネットアニメ)/清水紘治(ラジオドラマ)/諏訪部順一(『ヤング ブラック・ジャック』)
演:草刈正雄(ビデオ版)/森本レオ(本木雅弘版)/小澤征悦(『ヤング ブラック・ジャック』)


■概要

本作の準レギュラーキャラクター。
「ドクター・キリコ」は通称で、本名や国籍等多くのパーソナルデータは不明。
長髪と左目の眼帯、およびこけた頬が特徴的な、不気味な雰囲気を漂わせる男性。年齢は不明だが少なくとも30代以上か。
一人称は原作では「おれ(俺)」だが、媒体や加筆によって異なる場合もある。

回復の見込みの無い患者の安楽死を請け負う異端の医師で、「死に神の化身」の異名を持つ。
どんな命も救おうとするブラック・ジャック(以下「BJ」)とは対極の存在で、「医師の使命とは何なのか」「患者を延命させることが本当に幸福なのか」という本作品のテーマを、BJとは違う形で体現したキャラクターである。
ただし初期の『その子を殺すな!』ではBJの方が「生きていく見込みのなく苦しむだけの生命は楽にしてやった方が幸せだ」と考えて無脳症の胎児を能動的に死なせていた*1ため、そういう思想を他のキャラに担保させた方が良いと考えて生み出されたのがキリコであるとも考えられる。
準レギュラーキャラクターと言いつつも、200話以上あるエピソードの中でわずか9回しか登場しない*2が、安楽死に反対するBJとは対になる存在で人気は高く、キリコを主役に据えたスピンオフ作品『Dr.キリコ~白い死神~』も作られている。


親族には「ユリ」という名の美人のがいる。父もいたが……(後述)
また、山本賢治によるリメイク版ではピノコにあたるような幼女の助手を連れているが、何者なのか不明なまま終わった*3
ちなみに『99.9%の水』を原作とするエピソードでは、妹も助手もBJによって服を全て脱ぐよう命令され、生まれたままの姿全裸)にされる。
その際、恥ずかしそうに乳首や股間などの大切な部分を隠している。


■人物

元々は歴とした軍医として活動していた*4
しかし、満足に医薬品も用意できないような戦場でキリコが見たのは、手足がもがれ胸や喉が潰されるような重傷を負いながら、なお死ぬことができず苦しむ兵士達の姿だった。
もはや助かる見込みは無いからと、兵士達を毒薬で安楽死させたが、彼らは恨むどころか「ありがとう」と心から感謝しながら死んでいき、他の瀕死の兵も次から次へと彼に「救い」を求めてくる……。
この経験から「助かる見込みの無い患者を下手に苦しませ続けるのなら、安らかに息を引き取らせるべき」という信念を持つに至り、法律にふれないように安楽死を請け負うようになった。

安楽死に使うのは薬物から特殊な超音波を発する機械など様々で、使える物は何であれ積極的に取り入れる。
これらを調達する資金に充てるためか報酬も取るが、その金額については「いかに気持ちよく死ねるか」で上下するらしく、ある寝たきりの女性に依頼された際は100万円を要求していた。

BJからは「殺し屋」と侮蔑され、死神という異名から、一見安楽死させるのを楽しんでいるように思われる。
が、キリコは決して殺人に快楽を抱く殺人鬼や自らの行為を正しく認識できないサイコパスなどではなく、むしろ医師としての責任感・倫理観はしっかり持ち合わせている*5
キリコにとっての安楽死とは「本人が生き続けようとする意志を持たず、かつ、医学的にも既に手の施しようの無くなった患者に対する最終手段」で、事実、作中で彼が安楽死させようとしたのは、BJでもなければ手に負えない末期患者のみ。
ただBJにとっては「まだ助かる見込みがある相手」でもあるため、彼からの批判も間違ってはいない*6

では本来のまっとうな医療技術についてはどうなのか、というと腕はむしろ良い方。後述のキリコの父親の件では、BJも
「キリコの腕前ならありとあらゆる方法で治療を試みた筈で、この患者を治療するのは並大抵のことではない」と覚悟していたことからしても、思想対立はどうあれ彼程の医師もキリコの腕前には一目置いていることが窺える。

そもそも、キリコ本人も「治せる患者は治す」としっかり明言している。
『死への一時間』では、誤って安楽死用の薬を服用してしまった患者を助けるために尽力し、救命後にBJから「どうだい大将 殺すのと助けるのと気分はどっちがいい?」と皮肉られた時には、


ふざけるな おれも医者のはしくれだ

いのちが助かるにこしたことはないさ……


と答えており、BJとは確かに思想的には相容れないながらも、本質は彼と同じく命を尊ぶ医療人なのだ
『浦島太郎』では、55年間肉体の老化が止まったまま昏睡していた患者を巡って、意地を張り合うような形でBJ→キリコの順で処置をすることになった際も、患者の訃報を聞いて*7驚いた様子を見せている。結果的に二人とも患者のことを考え切れていなかったことを突きつけられ、「おれたちはばかだっ」と叫ぶBJと共に落胆することとなった。

なお安易な自殺の幇助は絶対にしない
「普段やっている事も結局はそうじゃないか」と思いがちだが、キリコにとっての安楽死とは、先述のようにたとえ延命したとしても物理的に苦痛以外に有り得ない絶望的な人間に対する「救済」で、健康な人間の一時の落ち込みなどからの「逃避」とは別物。
実際『小うるさい自殺者』にて、中二病を拗らせた甘ったれた動機で自殺したがる少年をBJが当て付けのように寄越してきた際、キリコは「おれの仕事は神聖なんだ!」と激怒し拒絶した。*8
少なくとも「学校でクラス中からいじめられてもう生きるのが嫌」「これ以上頑張っても極貧生活から抜け出せそうにないから」程度の理由では、どれだけ懇願されようと金を積まれようと引き受けはしない。

一方で「安楽死させるかどうか」の線引きはしっかり行うものの、一度そうするべきと判断した場合は「少しでも早く楽に」という考えから、迅速に安楽死を強行しようとする悪癖がある。*9
『弁があった!』にて、自身の父親が縦隔気胸で苦しんでいた際も、5年に渡って最善を尽くすも原因が特定できず安楽死を決意。
実行前に妹・ユリの依頼でBJが執刀し、今まで誰にも判らなかった気胸の原因をなんとか見つけ出し、後は治すのみだった。
……が、立ち会っていたキリコは原因を見つける直前に見切りをつけて毒薬を注射してしまうという大失態を犯していた。
異変に気付いたBJによる懸命の処置も虚しく父親は死亡。成功を確信して嬉し涙まで流していたユリは違う涙で泣き崩れ、助けられたはずの患者を殺されたBJは「命をなんだと思ってやがるんだ!!」と激昂してキリコを張り飛ばし、彼もこの時ばかりは自身の行いを後悔し項垂れるしかなかった。
しかし根本的なスタンスは変えず、『99.9%の水』では自分自身が奇病で死の淵に立たされた際も、感染拡大を防ぐために自ら安楽死を遂げる覚悟だった*10

ちなみに、初登場エピソードである『死に神の化身』初掲載時は「なおして役に立ちそうな病人はかならずなおす そのかわり なおしても役に立たんやつはえんりょなく殺す!」「自殺したがっている奴も殺した」などと、今のキャラクターとは大分かけ離れた発言をしている。
このエピソードは単行本化された際に『恐怖菌』と名前を変え内容も大幅に変わったが、その際に前者のセリフは「俺だって殺してばかりはいやしない なおせる相手ならなおすよ やせてもかれても一応は医者だからな」と改変され、また後者のセリフはカットされた。


■OVA版

出崎統が監督を務めたOVAシリーズでは、カルテⅣ『拒食、ふたりの黒い医者』にて登場した。
原作と違い、常に敬語で話す落ち着いた印象の人物になっている。自分で作曲したり名前を尋ねられて(今回の患者であるミシェールとのやりとりから)「モーツァルト」と名乗って立ち去るなど気障な一面も。

このエピソードでは、冒頭で登場した際こそ、BJが受け持っていた大富豪を翌日に手術する予定があったにもかかわらず安楽死させたものの*11、原因不明の拒食症に苦しむ女優・ミシェール・ロシャスを助けるため、いち早く原因を突き止めその情報をBJに提供し彼の手術の手助けをする、ミシェールから苦しみのあまり(当人と知らず)安楽死を請け負う医者を教えて欲しいと尋ねられた際に「お金がかかるんでしょう?(=BJに手術費を払うので自分に払う分は残らない)」と遠まわしにそれを断るなど、「治せる患者は治す」スタンスが特に強調されている。
中盤でミシェールが単独で外出するも衰弱のあまり川で事故を起こした際は、彼女を介抱し点滴で応急処置をしたり朝食を勧めたりしていて、またその中で彼女の身体に出現していた特徴的な斑点から彼女の拒食症の原因に勘づいて資料を読み漁り、それが大戦中に開発された生物兵器の生き残りであることを特定。
「毒物のプロ」としてこの情報を提供しなければ、BJ単独ではどう足掻いても彼女を救う事はできなかった。
その為かBJとも原作ほど険悪な関係ではない。


■TVアニメ版

アニメ本編にはOPに映っていたにもかかわらず未登場だったが、映画『ふたりの黒い医者』ではBJと共に主役を務める。
本作ではOVA版と違って原作通りのダーティーな一面もクローズアップされている為、BJとの仲は険悪。
しかし本質も原作と同じなので、医者として助かる命は助けるスタンスや、肝心な時はBJと息の合った動きを見せるなど、全体的に原作のキャラクターを凝縮した造形になっている。
あと、ピノコから先生に似た雰囲気のイケメンと呼ばれるが、雰囲気はともかくイケメンかと言われると……どうかな……。

TVアニメ2期『ブラック・ジャック21』にもユリ(CV:久川綾)と共に登場。父親が永遠の命を求める「ノワール・プロジェクト」の関係者になるなど設定が追加されている。


■実写版

ビデオとしてリリースされた単発ドラマシリーズの3作目『ブラック・ジャック3 ふたりの黒い医者』に登場。
「人間は死には勝てない」と絶望から理想主義を捨てた経緯を語るなど、退廃的な雰囲気を漂わせる。
原作の『浦島太郎』を元にしたエピソードでは、BJと共に絶望した原作とは一転、患者を結果的に死に追いやった彼を嘲る。
しかし、BJが医者としての決して譲らない信念を示すと穏やかな表情で再会を誓うなど、かつての自分と違い理想を追い続ける彼に対する敬意の一面も覗かせた。
BJもキリコに対して、原作での敵意むき出しの態度とは異なり最後まで真摯な態度で応じていることから彼を認めている節が窺え、認め合いつつも相容れはしないという原作以上に複雑な関係が描かれている。

TVドラマの本木雅弘が主役を務めた単発ドラマシリーズでは、カルテⅢ『悲劇の天才料理人』にて登場。
BJの手術に立ち会って煽ったり、手術の成功後にかつての患者が死んだことを伝えたりするなどライバル心をむき出しにしている。
最終的にBJに対して敗北を認めるが、「生きることが辛い患者に対しては俺の方が上だ」と語り最後までブレないライバルキャラを貫いた。

岡田将生主演のTVドラマ『ヤング ブラック・ジャック』にも登場。
しかし、こちらはもはや完全に別物となっており、原作の面影はほとんど無い。

2024年に単発スペシャルで放送されたTVドラマ『ブラック・ジャック』ではなんと 女性 として登場。
その役どころも「奇病による自殺願望のある女性に対し、自殺幇助をするが本意ではないと見抜き話を聞きながら自殺を止める」という原作の要素を用いつつもズレた内容となっている。
ちなみに初登場時には車椅子に乗った白髪の人物を安楽死させたかのような意味深なシーンがあり、このキリコは名を継いだ別人であると受け取れる描写がされている。

ところで……この記事はだれが追記・修正してくれるのかな ずーっとたどってみるとどうもおまえさんらしいな

ばか せっかくの気分をぶちこわすな!!

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最終更新:2025年04月20日 16:54

*1 とはいえこの件に関してはBJと言えど胎児を救う手立てはなく(へその緒を切った後死ぬ描写があるので自力で生存能力自体がなかった模様)、放置したら母の方も危険な状況であった。この回のゲストである超能力者ハリ・アドラも当初は「自分なら両方救う」とBJを非難したが、実際に取り出した胎児の有様を見て天を仰ぎ、苦悶の表情を浮かべて去っている。

*2 それでもBJとピノコを除くキャラの中ではトップクラスの登場回数を誇る。

*3 この助手、初登場回でキリコを逆恨みして襲ってきた人を返り討ちにした場面と、『死への一時間』がベースの話で原作だとキリコの不注意でカバンが盗まれたのが、本作では彼女がカバンを持っていたためキリコが彼女を怒る場面が追加されているぐらいで活躍場面が少なくセリフもなかった。

*4 いつの戦争でどこの国の軍医をしていたのか原作では不明だったが、スピンオフの『ヤング ブラック・ジャック』では、ベトナム戦争下のアメリカ軍の軍医という設定になっている。

*5 ある患者を機械で安楽死させようとした際は、「できる限りこれは使いたくない」と零しており、安楽死させる行為には微塵も快楽を見出していないことがわかる。

*6 実はBJも相手によっては見捨てることもある。上記の『その子を殺すな!』の胎児の他、精神のイカレた独裁者、第一話の傍若無人な成金息子など。胎児はともかく、後者二件は「生かしておいてもダメだ」「彼らの死が罪もない人間を助ける事に繋がる」という判断から、患者以外の生命・人生を優先した結果である。中には患者そのものにはもう手を施せないと判断し、相棒だった馬の脳を移植して別人として融合・復活というとんでもない離れ業もある(馬の脳であることは伏せたが、患者の父の了承は契約書で得た上でのこと)。

*7 オペ自体は成功したものの、それが原因で一気に老化して老衰死してしまった。

*8 結局、少年がどうしてもと食い下がったため条件付きで引き受けたが……?

*9 無論、患者の容態によってはすぐには実行せず、限界まで発作などで苦しみ抜かせる事もある。

*10 結局ユリの依頼を受けたBJによって一命を取り留めている。その際、彼から原因となったアメーバを見せられ「こいつを安楽死させてやったらどうだね」と皮肉を言われている。

*11 富豪の息子の台詞から、BJの手術を前にしても尚生きる希望を失っていた事がうかがえる。安楽死代を振り込んだのも息子。