魔王

登録日:2017/12/25 Mon 17:01:47
更新日:2025/05/04 Sun 23:13:04
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魔王とは……一言で説明するのはとてつもなく難しい。
代表的なイメージは「魔族の王」なのだが、単にそれだけとも言えない、複雑怪奇な概念であると共にアニヲタ的には大変重要な概念の一つとも言える。

その「語り切れなさ」はある意味では魔王というキャラクターの持つ大変深い魅力を表していると言えるかもしれない。

以下、主にフィクションにおける歴史に沿って「魔王」という概念がどのように変遷していったか、を解説してみたい。


発生初期・宗教的概念としての魔王

日本では仏教において悟りを妨げる魔界外道の上位階級として魔王の概念があり、その中でも最上位とされたのが他化自在天の魔王であるマーラこと第六天魔王波旬である。
キリスト教ではこれにあてはまるのがルシファーサタンである。

この頃の魔王は一言で言うとみみっちい
たとえば上記のマーラは菩提樹の下で修行中のブッダに様々な誘惑を仕掛けた事で有名だが、そもそも魔という字自体がマーラを指すものである、つまり魔王=巨根。
あるいはイエス・キリストが40日の断食を行っている際現れた魔王でもいい。
あの魔王は言葉でキリストを惑わせようとしているが、キリストが強い意思でそれを拒絶しただけで去っている*1

基本的にこの頃の彼らは「宗教的堕落を誘う存在」というイメージであり、物理的な実体に関してはかなり貧弱な存在であるかのように描写されている。
「甘い言葉と誘惑で正しき人々を魔道に誘う」のが魔王……「エデンの園の蛇」の役割だったのだ。
もちろん「善なる神」と戦う際は神話の中ではそれなりに強大な存在として描かれていることもあり、「沙石集」や「太平記」などでは日本には仏教が浸透しそうと感づいた第六天魔王が国土を滅ぼそうとして天照大神が土下座外交で許してもらったり、
聖書では負けはするものの天使の軍団とガチバトルしてたりするのだが、なぜか人間と絡むと弱体化する傾向がある。

まぁ同時に宗教者からは大変恐れられる存在でもあったのだが。
仏門の増上慢と武装化を危険視し、駆逐に乗り出した信長が第六天魔王を自ら称していたのも、その辺りの事情が絡んでいると思われる。
そもそも、信長以前にも大和朝廷に抵抗した豪族のリーダーや反旗を翻した者が第六天魔王=仏敵、神敵と名付けられたり、自称していた歴史がある。
他にも崇徳上皇は自称で「日本国第一の魔王」を名乗っている。

焼酎の銘柄の「魔王」は、白ワイン赤ワインなど熟成中に減る酒を「天使の取り分」と言うことにちなんで、「天使を誘惑する」という意味で名付けられたのでこの意味での魔王が由来。

また「災厄の神」というイメージで語られる魔王は打って変わってかなり危険。
水滸伝の百八星や西遊記の牛魔王なんかがここに当てはまり、物理的にもかなりの強者。
宗教的観点から外れたオカルティズムでの魔王はこちらのイメージに近く、あくまでも神の影の部分としてマッチポンプを担う存在等ではなく、暗黒に由来する神の世界の破壊者としての信仰を受けていた。
ファンタジーでいう魔王(特に、現代のゲームなんかでのイメージ)は此方に近い。

なお、シューベルトの「魔王」という楽曲をご存じだろうか?
中で魔王はたかだか子供一人をさらうのに木の影からこっそり機会をうかがうという情けなさを見せている。
とは言え、曲の内容的にかなりホラーな雰囲気は出ているが。
この曲はデンマーク伝承の「妖精の王」を「ハンノキの王」に誤ドイツ語訳した物語「ハンノキの王の娘」に基いて書かれたゲーテの詩を元にしており、これらの事情や内容を鑑みて明治時代の翻訳時に直訳せず「妖魔王」と当初は訳され、後に少し変えて「魔王」にしたという経緯。
子供「マイファーザ、マイファーザ」。

過渡期・物理的実体を持った魔王

大きくイメージが変化するのは、サブカルチャー文化が定着し始めた頃だと思われる。
大魔王シャザーン('68)」「ハクション大魔王('69)」と言った作品では「魔法使いの王」や「魔人/魔神の王」といった中東で言うジンやジニーの和訳というイメージであり、この辺りから言葉の印象の転換が始まったと思われる。
「悪党キャラ」「なんか悪そうなやつ」というようなイメージも出てきており、「チキチキマシン猛レース('70)」のブラック魔王がそんな感じ。


など、敵が地球侵略を企い宇宙人な作品が多かったため「魔王=悪い宇宙人の親玉」というケースも多い。
ジュラルの魔王(「チャージマン研!('74)」)?何だろうねあれは……。

一方、「デビルマン('72)」「ポールのミラクル大作戦('76)」など、「魔王=悪魔の王」というイメージも定着し始める。
魔王のイメージが変化した正確な時期こそ不明だが、絶対悪の存在としてRPGなどのファンタジー(剣と魔法の世界など)ものなどが影響を及ぼしている。

ゲームの一例だと、『スーパーマリオブラザーズ('85)』のクッパは「城に住み、魔法を使い、配下の軍勢を率いて姫をさらう悪の親玉」であり、
ドラゴンクエストⅠ('86)」のりゅうおうは魔王の肩書ではないものの「魔物の軍勢を率いる悪の統率者」というイメージが挙げられる。

「怪物(モンスター)の勢力を束ねる敵の親玉」という概念は非常に受け入れやすくわかりやすい長所があり、多くのフォロワーを生み出していった。
「勇者VS魔王」という構図もこの時代に確立していき、魔王はラスボスのわかりやすい象徴や記号として多用されるようになる。
この時期の魔王の特徴はとにかく強い
「物語上倒さなければならない強大な敵」としてのポジションであるため、「主人公に倒されなければならないだけの理由」と「倒すことが困難な強さ」を両立している。

また、主人公とは別に物語を能動的に動かしていく役割を持ち始め

  • 大魔王は同じ存在の関係
  • 勇者魔王の(ry
  • クロノトリガーの魔王は選択次第では主人公サイドに協力する仲間となる

など、ダークヒーローめいた魔王も多くなってくる。

発展期・政治家としての魔王

「軍勢を率いる悪の総大将」という魔王のイメージはさらなる発展を遂げることになる。

  • 軍勢がいるなら国家があるのではないか?
  • 国家があるなら経済があるのではないか?
  • 教育もあるのではないか?

このような連想が起きるのはごく自然な流れだったと言えるだろう。

「単なる邪悪の象徴」から 「人類に相対する一国家の首脳」 という魔王が生まれてくるのに時間はかからなかった。
ただしキリスト教の悪魔には、地獄の皇帝あるいは大王を筆頭に、「王」「君主(Prince)」「公爵」「侯爵」「伯爵」「長官」「騎士」などと悪魔の世界に領地と軍団をどれだけ持っててどの悪魔と主従関係といった現実になぞらえた爵位や階級付けが近世頃に結構行われてたりはする。

この時代まで来ると魔王を扱う物語は恐ろしく多様化してくる。
魔王が主人公」というストーリーも珍しいものではなくなり、「魔王と勇者が手を取り合い別の敵と戦う」という今まででは考えられないシナリオも登場するようになった。
人類と敵対しているにしても「 理不尽に人類を虐げるだけ 」の存在から

  • やむを得ない事情を抱えている
  • 人類側にも非がある
  • むしろ人類のせいで魔王が生まれる
  • そもそも魔王と言うものはあくまでも人類側からの呼称悪魔だけに

などの「正義と敵対するのはまた別の正義」の構図も出てくるようになってきた。
純粋な強者に対して種族を問わず「魔人」と表現する作品が複数あるのに対して、「魔王」と表現する作品は滅多に無いことからも、という役職イメージがより重要視されているのがわかるだろう。

価値観の多様化に伴い

  • 魔王とは一体何なのか?
  • 魔王とは本当に倒さなければならない存在なのか?

と問いかけてくるようなストーリーも増えてきたのだ。

この様な魔王のイメージは 一言で語れるようなものではない
創作者の数だけ魔王像はあり、今まで通り悪の軍勢の親玉としての魔王も健在であるし、より「概念的」「抽象的」な宗教めいた存在へと回帰した魔王も登場している。

魔王としての強さも

  • それこそ天皇やローマ法王のような単なる象徴としての魔王
  • 政治的能力の高い官僚的魔王
  • 戦闘能力も普通に最強クラス

などブレがある。
一つ言えるのは、語り切れないほどに魔王にまつわる物語が増えたということである。
ただあまりに多様化しすぎてただの気のいい子煩悩魔王も普通に登場してしまう昨今、魔王の明日はどっちだ!

魔王一覧

全部並べるとあまりに多くなるので、詳しくは タグ検索:魔王 辺りも参照。

仏教的魔王


キリスト教的魔王

etc・・・

神話的魔王

etc・・・

創作の魔王

etc・・・

その他

  • 青木志貴 - アカウント名が「魔王」
  • 杉田かおる - 番組内で「魔王」というあだ名がついた芸能人
  • 古坂大魔王 - 芸名
  • 本格焼酎「魔王」 - 鹿児島県のブランド芋焼酎
  • 歌曲「魔王」 - フランツ・シューベルト作曲
  • 魔王金粒 - 精力剤
  • 魔王/魔王 JUVENILE REMIX - 伊坂幸太郎の書いた小説及びそのコミカライズ。作品名が「魔王」。
  • 森田交一 - 「魔王魂」を名乗る音楽家。

余談

読みは同じだが麻黄(マオウ)は関係ない。
こちらは、漢方・生薬の一種で、かの有名な“葛根湯”などにも含まれている。





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最終更新:2025年05月04日 23:13

*1 本来のサタンとは『敵対』『障害』を意味する語でしかないため。