エスパー魔美

登録日:2019/04/24 Wed 02:04:15
更新日:2025/06/21 Sat 12:16:05
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『エスパー魔美』とは1977年に発表された藤子・F・不二雄漫画作品。


【概要】

ある日突然超能力に目覚めた少女・佐倉魔美がその力を使って人助けに奔走していくというのが大まかなあらすじ。

小学館の雑誌『マンガくん』(1978~1979、『サマー・ドッグ』まで)、『少年ビッグコミック』(1979~1983、『魔美が主演女優?』から始まる不定期掲載)に連載された。

藤子・F・不二雄がSF(すこしふしぎ)作品の新機軸として描いた一作で、「少女主人公」「中学校が舞台」「お色気要素」など今までのF作品にはなかった要素が組み込まれている。要するに今までよりも少し対象読者年齢が高め。

魔美がバイトで父のヌードデッサンのモデルをやっているという設定のため、魔美は高頻度で脱いでおり読者へのサービスシーンはやたらと多い。魔美の中学生離れしたスタイルの良さもあり、満足した読者は少なくないだろう。
ちなみにF先生がお色気要素を学ぶために、SMクラブに行って風俗嬢を縛るだけ縛って特に何もせずデッサンだけして帰っていったというのは割と有名。
そのためか『ただいま誘拐中』とか『エスパーもさらわれる』にて見せる縛られた魔美の姿も中々にエロい。

対象読者年齢が上がったため、ただでさえ広かったドラえもんと比べてもさらにシナリオのバリエーションが増えていおり、
「天才少女魔美」「問題はカニ缶!?」「ウソ×ウソ=!?」のようなコメディ回、「スランプ」「魔美を贈ります」「名画と鬼ババ」のような心温まる話、
「サマー・ドッグ」「黒い手」「リアリズム殺人事件」のような鬱展開な話など非常にバラエティに富んでいる。

藤子作品としては珍しく全ての単行本で全話収録を達成しており、てんとう虫コミックスや文庫版、大全集版とどれを買っても大丈夫。

ちなみにプロトタイプ作品として1974年に「赤毛のアン子」(単行本版名:アン子大いに怒る)という作品が発表されている。
主人公が赤毛でフランス人の血を引く超能力者であることや父親が画家(正確には絵本作家)、ボーイフレンドが高畑に似ているなど魔美と共通点が多い。

【登場人物】

声:よこざわけい子
演:笹岡莉紗
本作の主人公。明月中学校に在学中の中学2年生。
外見は赤毛と団子鼻*1が特徴で結構美少女であるらしい。赤毛はフランス人である父方の曾祖母の隔世遺伝。
通称は「マミ」「マミ公」。
ある日突然超能力に目覚め、その力を世のために使おうと奔走していくことになる。

  • 高畑和夫
声:柴本浩行
演:上條誠
魔美のボーイフレンド。ぽっちゃりとした小太りの体系が特徴の少年。魔美からは「高畑さん」と呼ばれ、彼は「魔美くん」と呼んでいる。
魔美が初めて超能力を使ったとき(それが高畑を対象としたテレポーテーションだったため)高畑は自分が超能力に目覚めたのだと勘違いし、魔美に超能力開発を手伝ってもらったことで交流が始まった。その後超能力者が自分ではなく魔美だと知って落胆し一時は距離を置いていたが、紆余曲折あり魔美のパートナーとなった。

温厚で生真面目な性格でありなど間違ったことが嫌い。同時に魔美以上に思いやりの強い性格であり、一度だけ魔美のために信条を破って嘘をついたことがある。ストレートに言えばF作品きっての聖人であり、結構ファンも多い。「理屈じゃないんだよ、人を信じるってことは。」や「見ていてくれよ、僕は生まれて初めて死に物狂いになるぞ。」など名言製造機でもある。「きれいなジャイアン」とか「外見以外は最高の男」とか言われている。特に魔美を守ろうとするときのイケメン度は本当に高い。

出木杉くんレベルの秀才であり、一度チラッと聞いただけのことを完全に理解して暗記するなど天才的な頭脳を持つ。実際教科書を盗まれ魔美に借りたときはパラ読みだけで「明日の分は覚えた」と言っていた。知識も幅広く民間伝承から六法全書に後楽園球場の芝の数と作中で様々な知識を披露している。知らないことの方が少ない気がする。ただ本人は特に勉強もしていないのに秀才であることを周りに申し訳なく思っているらしく、テストのときはわざと数問間違えることにしているらしい。

その知識を作中では使える限り使い、頭脳だけで四次元ポケットレベルのパワーを持っているというある意味すさまじい存在である。
手先も器用であり、前述のとおり「テレポーテーション・ガン」を作ったのは彼である。しかも殺し屋に破壊されたときには、次の話でしれっと作り直していた。
その反面ぽっちゃりとした外見の通り、スポーツは苦手であり大好きな草野球でもイマイチパッとしない活躍が多い。というか単純な体力面では魔美に負けていると思わしき描写がある。草野球は下手の横好きというレベルであり、友達からは「野球さえやりたがらなければいいやつ。」と言われていた。だが好きなことへの努力は惜しまず、時間さえあればバッティングマシンで練習をしている。

魔美とは友達以上恋人未満の関係であり、彼自身魔美を特別意識しているわけではないが、彼女がナンパされていたりすると露骨にいやそうな顔をしている。魔美も魔美で結婚占いを試そうとしたときとりあえず相手役の男に高畑を選んでいた。
アニメ版では一度だけ超能力らしきものを使っている。

  • コンポコ
声:日比野朱里、小桜エツコ(2015年版Fシアター)
ポンポコではない。
魔美の飼い犬。室内犬。「フャンフャン」という何とも名状しがたき鳴き声をしている。犬……なのであるが、血筋がはっきりしない雑種であるために全く犬には見えずむしろタヌキに近い姿をしている。少なくともドラえもんよりはタヌキっぽい風貌。アニメではアライグマと間違えられていた。
プライドが高い性格であり、名前を間違えられたりタヌキ扱いされたりすると噛みついてきたりする。その癖油揚げが大好きでそれが事件につながることもある。
本質的には飼い主に似ておっちょこちょいで図太い性格のため、変なミスをすることも多い。とある回では空き巣が侵入していたのに、全く気が付かず昼寝をしていたことも。
ブービーのように動物とは思えない高い思考力を持っており、少なくとも人間の言語を完全に理解している。逆にジェスチャーや物を使うことによって人間と意思疎通を図ることもある。

魔美とは超能力に目覚める直前に出会った。そのため高畑には魔美が超能力に目覚めるきっかけ(媒介)となったのではないかと考察しており、超能力に目覚めるために自分も仲良くなろうとしていた。……だが「ポコペン」だの「ポンポコ」だの「チ〇ポコ」と連続で名前を間違えたので逆に嫌われてしまった。

  • 佐倉十朗
声:増岡弘
演:草刈正雄
魔美の父であり画家兼高校の美術講師。もっとも画展を開いても閑古鳥が鳴いているなどあまり売れておらず、かなりマイナーな画家であるらしい。ただ、画家としては強い信念を持っている。
母方の祖母がフランス人であり一応クォーターである、のだが外見的にはさえない中年日本人男性にしか見えない*2*3
むしろ隔世遺伝で赤毛の魔美の方がフランス人に見える。
魔美からは画家としてもひとりの人間としても尊敬されており、悩み事があれば相談相手として高畑に次いで彼を選ぶ。「あいつはけなした!ぼくはおこった!それでこの一件はおしまい!!」や「モデルは素材にすぎん。イマジネーションをふくらませていくのが画家の仕事じゃないか!!」など現代にも通じる名言も多い。
愛車は妙にボロボロであり、「ポンコツッポンコツッ」と分かりやすくポンコツな効果音を立てながら走っている。
時代がおおらかだったとはいえ、ヌードデッサンのモデルが中学生の実の娘という色々な意味で危険すぎる行為は度々ネタにされる。完成品は(風景画などの絵もあるとはいえ)普通に画展に出しており、顔も高畑が見て魔美とすぐにわかるレベルというかなり危ない線を渡っている。

  • 佐倉菜穂子
声:榊原良子
演:涼風真世
魔美の母*4。魔美に似て美人。ちなみに下の名前はアニメ版で初めて明かされた。
朝売新聞の外信部に勤めている。パパと比べるとあまり出番がなく、せいぜいお茶の間でマスコミとして聞いたニュースを話すくらいしか活躍がない。だがたまにそれが事件に発展することも。
アニメでは新聞社としての活躍が描かれるなど人物像が掘り下げられている。

  • 間宮幸子
声:江森浩子
演:井端珠里
魔美とよくつるんでいる友人。クールな性格の少女。初期こそ出番が多かったが、終盤になるにしたがって空気になっていった。
アニメ版ではのり子にも言えることだが高畑と並んで魔美とよく遊ぶ描写が増やされている。おっちょこちょいな魔美のことを非常に気にかけており、同性の友人として高畑では気が付かなかった部分の助言をかけている。また原作でも描かれていた竹長との関係がかなり深く掘り下げられており、その姿は嫁にしか見えない。

  • 桃井のり子
声:渕崎ゆり子、江森浩子(第5話のみ)
魔美とよくつるんでいる友人その2。眼鏡をかけたお調子者の少女。
通称「ノンちゃん」
原作にも彼女らしい少女はいたが、名前が決められたのはアニメ版であるため実質的にアニメオリジナルと言えるかもしれない。
魔美、幸子と3人でつるんでよく遊んでいる。だが3人の中で唯一非彼氏持ちであるために話の都合でハブられることも。

  • 竹長悟
声:佐々木望
魔美や高畑たちとよく遊んでいるクラスメイト。親が別荘を持っていたりとお金持ちだという描写がある。幸子とは付き合っている疑惑アリ。初期こそ出番が多かったが(ry
彼もアニメ版では人物が掘り下げられている。原作で片鱗を見せていたように、高畑とは違った意味でいい男として描かれている。最終的には生徒会長になった。幸子が惚れるのにも納得のものである。顔がアニメ版『21エモン』の21エモンにそっくりに見えるのは誰もが通る道。てか声優も同じ。

  • 富山隆志
声:平野義和
魔美のクラスメイト。眼鏡をかけたスネ夫顔のクラシックマニア。魔美に片思いをしているのか、よくクラシック鑑賞に誘っている。だがいつも魔美にはにべもなく断られている。というか魔美が誘いを受けたのは2回、実際に行ったのは1回だけである。

  • 番野兆治
声:塩屋翼
明月中学の不良番長。原作に名前は登場せず、アニメ版で付けられた。
彼の不良グループが高畑を襲った事がきっかけで、 魔美の超能力が目覚めた。

  • 黒沢庄平
声:飛田展男
明月中学の映画研究部副部長。3年生だが背が低いために1年生と間違えられる事も。
魔美に片思いしており、ふとした事から彼女の超能力を目撃した事から、彼女の気を引く事とエスパーだという証拠を押さえる事を目的にあれこれ策を用いるストーカー

  • 陰気さん
声:京田尚子
魔美の家のお隣さん。名前通り陰気な性格であり、佐倉家のどうでもいい粗探しをしたり、いたずら電話をかけ続けたりと嫌がらせを続けていた。
時には、魔美の超能力の使用現場を目撃して魔女と疑い、正体を暴こうとすらしている(どれも失敗に終わっているが)。
実は教育熱心過ぎたためにグレて家出してしまった息子がおり、更に夫は病床に伏せていると、不幸続きな家庭環境で、
幸せな佐倉家をねたんで嫌がらせをしていた。
息子が帰ってきてからは事態が好転して明るく穏やかな性格になり、飼い犬とコンポコが遊ぶのを許すなど円満なご近所付き合いをしている。

  • 黒幸妙子
声:鶴ひろみ
序盤で登場。 原作だと出番は2回だけ登場*5という単発ゲストとも準レギュラーとも違う立場。
高畑の年上の幼なじみ。ディスコや酒が好きな不良少女。高畑のことを好いているため仲の良い魔美にキツく当たっている。
アニメ版ではただの幼馴染ではなく「高畑のいとこ」だとされ、出番が増え動物好きな一面を見せたり、魔美と気の合うライバルとして描かれたりとなにかと優遇されている。

【アニメ版】

1987年4月からテレビ朝日「藤子不二雄ワイド」内でアニメ化され、同年10月から独立番組となり、1989年10月まで放送された。全119話。

監督は「オトナ帝国」で頭角を現していくことになる原恵一。
丁寧にアニメ化されており、演出や描写がアニメシナリオ向きに補完・調整されるなど力を入れられている。さらに原作からの未アニメ化エピソードがたったの2話しかないなどかなり頑張ってつくられている。
ついでに言っておくとその2話もそれぞれ内容が暗すぎる、放送コードにひっかかる描写が前提になっているなど決してスタッフの怠慢ではない。
ただ「リアリズム殺人事件」や「魔女・魔美?」など結末が180度真逆になっている*6エピソードもある。もっともこれらはゴールデン枠でやるにはあまりにも結末に救いようがなさすぎるためまあ当然の措置と言えるものであるのだが。
原作だと第6話目の「くたばれ評論家」がアニメだと第94話と恐ろしく後(これ以後はアニオリ回のみ)だったり、前述の「リアリズム殺人事件」も第91話*7と遅い事を考えると、相当スタッフが原作の使いにくい回もどうにかして使用しようと考えたっぽい痕跡も…

またアニメオリジナルエピソードも質が高く、原作で描かれていなかった部分を掘り下げていたり(例えば原作で1回だけのゲストだった妙子が再登場など)と世界観の幅を広げている。シナリオなど原作回と比べて違和感のないつくり。
特に最終回の「動き出した時間」(原作最終回は通常エピソードのままほぼ打ち切り同然に終了している)は評価が高い。

ドラえもん のび太のパラレル西遊記」の同時上映として劇場アニメ化もされている。

ちなみにゴールデン枠の放送であるためヌードシーンは減っている……どころかむしろ心なしか増えている。あとパンチラも増えている。スタッフGJ!
後期OPで初っ端からセクシーポーズを決めながら半裸の水着姿を見せる魔美が印象深く残っている視聴者もいるだろう。

制作会社と放送局が同じという縁から、とある回でスネ夫本家の声優&BGM付きで登場しているという話はあまりにも有名(ドラえもん・のび太・しずか・ジャイアンも声なしで登場)。……スタッフ頑張りすぎだろ。

また、現行のアニメ第2作第2期でも台詞こそないもののチョイ役で登場する回が存在する。スタッフに好きな人が居るのだろうか。

【ドラマ版】

2002年NHKでまさかの実写ドラマ化がされた。主演は笹岡莉紗。全10話。
(放送局がNHK名古屋のため)舞台が名古屋市に変更されていたり、魔美がダンス部だったり原作とやや差異がある。
魔美の特徴的な髪形を再現しようとしたりと頑張ってはいる。
ヌードデッサンのシーンはすべてレオタード姿に置き換えられた。まあ主演が当時リアルJCなので当然の話だが。
コンポコはポメラニアンをそれっぽくカットしている。CGという案もあったが金がかかり過ぎるから無理だったそうだ。








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最終更新:2025年06月21日 12:16

*1 あまりそういう印象はないが「恋人コレクター」の回で本人がそう言っている。

*2 ちなみに原型作品の『赤毛のアン子』ではアン子の母親が外国人の血を引いている設定だったので父親はそれっぽくなくて当然だった。

*3 この設定を考慮してか、ドラマ版ではアメリカ人の血を引く草刈正雄氏が演じていた。

*4 ちなみに原型作品の『赤毛のアン子』ではアン子の母親は故人であり本編未登場。やはりヌードモデル設定追加(アン子もヌードモデルをやっている描写があるがこれは魔美連載後の単行本追加場面)時に母親が認めていることにしないとまずいと思われたのだろうか?

*5 「超能力をみがけ」と「友情はクシャミで消えた」

*6 「魔女・魔美?」の方は厳密にいうと原作では「この後どうなったかは想像に任せます」状態だったので真逆というより補足かもしれないが、「リアリズム殺人事件」は黒幕に当たる監督が原作では表題通りの殺人を犯そうとする狂気の人物だったのが、アニメではうまくセリフを差し替えそれさえも芝居だったことになっている。

*7 「リアリズム殺人事件」の原作は第59話と連載最終版ではあるがこれ以後の第60・61話はずっと前にアニメ化済み。