登録日:2012/05/25 Fri 01:18:35
更新日:2025/03/23 Sun 12:28:40
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「そのカード」は2022年現在、登場からすでに20年以上経過している。
しかし今なお、多くの古参デュエリスト達の
トラウマとして語られている。
「そのカード」はレアリティが高いわけではなく、ステータス(攻守)が優秀なわけでもなかった。
「そのカード」はノーマルカード、低ステータスのモンスターとしてブースターパックに収録され、デュエリスト達の前に突如登場した。
「そのカード」とは――
《
八汰烏》
星2/
風属性/
悪魔族・スピリット
ATK200/DEF100
このカードは特殊召喚できない。
召喚・リバースしたターンのエンドフェイズ時に持ち主の手札に戻る。
このカードが相手に戦闘ダメージを与えた場合、
次の相手ターンのドローフェイズをスキップする。
【概要】
一部の例外を除き特殊召喚ができず、召喚・リバースしたターンのエンドフェイズに手札に戻るスピリットモンスター共通のモンスター効果を持つ。
攻撃力・守備力はかなり低いが、このカードの真の恐ろしさは後半の効果にある。
もう一度見返してみよう。
このカードが相手に戦闘ダメージを与えた場合、次の相手ターンのドローフェイズをスキップする。
遊戯王OCGのみならず、あらゆる
TCGにおける基本的なルールのひとつ、
ターン開始時のドローを封じる効果を持つ。
こいつの攻撃を通してしまうと、次のターンのはじめに相手はカードを引くことができなくなる。
ドロー1回=手札1枚を失うだけと考えれば、
首領・ザルーグの手札破壊と差はないように見える。
しかし、新しいカードが引けないことは、状況を変えられないということであり、対策がない状態でこのカードの直接攻撃を許すと、次の直接攻撃を防ぐ手段もなくなり、敗北がほぼ確定してしまう。
そうでなくとも、ゲームスピードが速いOCGでは1度攻撃が通ってしまうだけでもプレイヤーは大きな痛手を負ってしまう。
また、
遊戯王OCGはコストの概念が薄く、手札枚数が勝利に直結しやすいタイトルである。
故に他TCGと比べてドローソースには条件や制約がついている場合が多く、ドローの機会が減ることは不利になりやすい。
サーチカードに関してはドローソースほどではないが、手札枚数が増えるサーチはほとんどない。
そんな大切な手札を稼ぐ数少ない機会を、このカードはたった1枚で叩き潰す。
ドロー自体を許さないので、プレイヤーはあらゆる行動が一手遅れてしまうことを覚悟しなければならない。「ドローしたカードをそのまま墓地に送る」効果だったら、逆に墓地アドバンテージを稼げる可能性もあったのだが…。
ステータスの低さから戦闘ダメージを与えるには直接攻撃を通すことがほぼ必須となる。
だがそれは《
奈落の落とし穴》のような攻撃力を参照する召喚反応型罠にはひっかからないという利点にもなる。
もう一つのエンドフェイズに手札に戻ってしまうというデメリット効果も、
言い換えれば相手ターンには当時制限カードだった《
サンダー・ボルト》や《死者への手向け》といった除去魔法で対処されないメリットと言える。
もちろん
ハンデスには弱いのだが、このカードを積極的に狙ってくるという点ではそれはそれで利用価値がある。
特殊召喚できないことも、相手に《
死者蘇生》などで奪われることがないと言えてしまう。
このように自身の弱点を全て長所として捉えることができるのもこのカードの強さの一つである。
この一撃通せば大損害という汎用性の高さから、元から相性のいいハンデスデッキはもちろん、その他のありとあらゆるデッキのパーツとして大暴れ。
第5期終盤までの
遊戯王OCGはカード1枚1枚の
アドバンテージが重視されており、仮にロックが成立しない状況でも攻撃が通るだけで相手に手札-1の損害を与えることができた。
登場直後に僅か一月ほどで制限カードとなるも、そのステータスの低さから《クリッター》や《黒き森のウィッチ》で容易にサーチできるため焼け石に水であり、
レアリティも
N-Rareではない単なるノーマルカードゆえ入手も非常に容易く、環境はまさに【八汰ロック】一色となった。
これだけでも十分と言えるが、そこから1年ほどが過ぎた頃、このカードにさらなる追い風となるモンスターが登場する。
《
混沌帝龍-終焉の使者-》
星8/
闇属性/
ドラゴン族・効果
ATK3000/DEF2500
このカードは通常召喚できない。自分の墓地の光属性と闇属性のモンスターを1体ずつゲームから除外して特殊召喚する。
1000ライフポイントを払う事で、お互いの手札とフィールド上に存在する
全てのカードを墓地に送る。
この効果で墓地に送ったカード一枚につき相手ライフに300ポイントダメージを与える。
このモンスターの登場により、環境は
カオスに塗りつぶされる。
詳細は《
混沌帝龍-終焉の使者-》のページを参照していただきたいが、これらのカードを使った文字通りの
必殺コンボが生み出されてしまった。
当時の環境は阿鼻叫喚の様相を呈し、
遊戯王OCGはここから長らくの暗黒期を迎えることになる。
その後、2004年にこのカードは禁止ルール制定と同時に初の禁止カードに指定され、上記の《混沌帝龍-終焉の使者-》もその半年後禁止となった。
……それから後、「八汰烏の骸」という罠カードが登場した。
発動するとカードを1枚ドローでき、相手の場にスピリットモンスターがいる場合は2枚ドローできる。
完全に八汰烏のメタカードとしてデザインされたものであることが分かる。
カード名を見ても、八汰烏が今後制限復帰することはないと示唆されていると言えるだろう。
「八汰烏は死んだ!もういねえ!」
ちなみにこのカード、禁止カードになってから国内では緩和されるまでに実に18年7ヶ月もの歳月を要した(後述)。
他の最初の禁止カード群は環境の変化やエラッタとともに緩和されたり、一度緩和されたもののすぐに禁止カードに戻ったりしたが、このカードと《サンダー・ボルト》だけは禁止カードのままだった。
しかし2019年4月の制限改訂で《サンダー・ボルト》が15年と1月ぶりに制限カードに緩和されることが決まったため、《八汰烏》は禁止ルール制定から一度も緩和されたことのない唯一のカードとなっていた。
【その後……】
現在の
遊戯王OCGは《八汰烏》の全盛期と比べて、格段にアドバンテージを稼ぎやすくなっており、
特に
第9期以降は「初手で理想的な盤面を作れる」「先攻で強固なロックを作り相手を封殺する」「後攻でワンショットキルを狙う」といったデッキが台頭している。
それらはドローよりも、任意のカードを望む場所に置けるサーチ・リクルート効果を多用し、また
《強欲な壺》の禁止指定などにより一時は環境から遠ざかっていた汎用ドローソースも
《強欲で貪欲な壺》や
《強欲で金満な壺》などから復権が続き、ドローフェイズの依存度が高いデッキは好まれなくなった。
結果、このカードの凶悪性を裏付けていたドローフェイズの価値、引いては「OCGはアドバンテージを稼ぎにくい」という基本概念が崩れつつある。
さらに
- 《エフェクト・ヴェーラー》などの相手ターンに効果モンスターの効果を無効化する手段が増えた。
- 墓地で効果を発動できるモンスターも増えており、手札・フィールドをがら空きにしても完全なロックは決まりにくくなった。
- 相性の良かったカードの規制・エラッタによる相対的な弱体化
こうした事情もあり、当時のような活躍は望めずに緩和の可能性もあるのではないかと度々囁かれるようになった。
そんな《八汰烏》であったが、2022年5月17日に海外で制限復帰を果たす。
上述した考察がありつつも永久禁止といわれていたこのカードが、海外限定とはいえ再び使えるようになったことは驚きの声をもって迎えられた。
これについては、国内版であるOCGとTCGでのルールの違いによる影響があると言われていた。
OCGは未だにサレンダー/投了がルールに存在せず、対戦相手が認めなければ試合の降参が成立しない。
そのため、何らかの方法で相手をロックし、試合の時間を目一杯使って第一試合に勝利するだけで時間切れによってマッチ戦に勝利するというTOD(タイム・オーバー・デス)が(モラルの問題はともかくとして)ルール上可能となっている。
《八汰烏》が日本で
禁止カードのままだった理由は、TODを成立させるのに時間を稼ぐカードとしてもってこいなのも一因という考察が多かった。
もし、OCGの大会規定では、「展開しきった後に《八汰烏》でドローロックしてTODを狙う」戦術が狙えてしまう。
しかし、インフレと高速化が進んだ現在の環境においてもドローを封じられる影響は大きいが、いかんせん特殊召喚できない制約と攻撃力の低さによって戦闘ダメージを通すのが格段に難しくなっている。
後攻で手札に握ったとしても、相手の強固な布陣を突破するために他のモンスターに召喚権を回したい場面の方が多いはず。
コンボデッキが基本となっている現在の環境では、コンボの展開に無関係のこのカードに召喚権を使う余裕が少ないこともあるだろう。
何より、このカードの効果を発動できる時点で自分が相当有利な状況なわけだが、
現在のOCGでは、そのような状況で1ターンでライフ8000を削り切れない方が珍しい。そうでなくとも2ターン目で終わるだろう。
つまり
ドローロックなどするまでもないし、2ターン=止めるのが1手だけなら
手札誘発と大差ない仕事である。
ゲームスピードが上がりすぎた結果、
先攻1ターン目では特に役目がなく通常召喚して素材になるくらいしかできない死に札なのも欠点になり、後攻専用という括りなら《サンダー・ボルト》のような相手の布陣を突破できる強力なカードとも枠を奪い合うことになる。
現在でも脅威になり得る効果を持つことは間違いないが、「安全にゲームを終わらせる以外に役割を持てないカード」ともいえるので、カードパワー的には適正レベルまで達したといっても過言ではない。
猛威を振るったのは、手札含めてお互いのリソースを全て無に帰すエラッタ前の混沌帝王龍の存在が大きく、そこからのドローで五分五分になる状況を確実に勝ちに変えることができたからと言えよう。
そうした事情が考慮されたのか、2022年10月のリミットレギュレーションより、日本国内でもエラッタ無しで制限復帰が決定。
一方で、サレンダーのルールは2022年9月現在制定されないままであり、今後の動向が注目されていた。
しかし、目立った活躍が見られなかったためか、23/01/01には準制限カードに緩和、23/04/01には遂に制限解除された。
2022年に緩和されるまでは最長の禁止期間を誇っていたが、現在では《苦渋の選択》などに抜かれている。
現代での運用方法としては、
単体では攻撃力が低い、守備表示で出されるとダメージが与えられないという点を補うため、《
覇王眷竜スターヴ・ヴェノム》が効果をコピーして、攻撃力2800の貫通持ちとして使う方法が考案されている。
この方法なら召喚権を使わないで済むことも大きく、他の展開とも組み合わせ易い。
【アニメ・ゲームでの活躍】
アニメではDMの乃亜編で
乃亜が使用している。
召喚しただけで大して活躍したわけではなく、影が薄い。もし効果が発動してたら王様は死んでたが……。
GBAで発売された「エキスパート2006」以降のゲーム作品では、相手のフィールドと手札にカードがない時にこのカードでロックをかけると、ご丁寧に専用のメッセージ付きでCPUがサレンダーしてくる。
ゲームによってはこのサレンダーによる勝利がチャレンジ項目に設定されているものもあり、このカードの凶悪性を物語っている。
ただこのサレンダーには相手の場や手札にカードが存在する場合、それが役に立たない場合でもサレンダーに値すると判断されないという落とし穴が待っている。
当然だがその状態で殴り続けても単なる時間をかけたダイレクトアタックでの勝利と扱われ、チャレンジ項目を満たせないので注意が必要。
【余談】
このカードは前述の通りノーマルカードとして登場したが、後に登場した海外版ではシークレットレアにまで引き上げられている。
海外で登場した際に日本版よりレアリティが引き上げられるカードは他にも多数存在するが、
このカードの様に最低ランクのレアリティから一気に最高レアリティにまで登り詰めるのはかなり珍しい。
このカードの凶悪さが公式に認められた結果だろう。
なお、このシークレットレア仕様の八汰烏は正に神話の如きふつくしさ。
機会があれば1度だけでも見ておくことをお勧めする。
初期スピリットモンスターの例に漏れず日本神話の「ヤタガラス」が由来。
神武天皇とその軍勢を熊野国から大和国へ道案内したとされる三本脚の烏であるが、その正体は賀茂建角身命の化身であり、真の姿ではない。
ただしあちらの表記は「八咫烏」である。意訳すると「大きなカラス」。
このモンスターの汰は淘汰の汰、「たくさんより分けるカラス」になってしまう。他が元ネタに忠実な表記の中、なぜ効果も連想させない名前に変えられたかは不明。
神話では勝利を呼ぶ縁起のいい烏として描かれるが、
遊戯王OCGでは味方に勝利を、相手に敗北という名の地獄を呼び込む存在である。
このモンスターは一目でわかる通り鳥がモチーフのモンスターだが、種族設定は
鳥獣族ではない。
「神の使い」なので
天使族……というわけでもなく、どういうわけか
悪魔族である。
紛らわしいし、確かに効果は悪魔そのものだが……。
アニメ『
遊戯王ZEXAL』第79話には「サッカー部部長の
八咫烏くん」が登場するが、御覧の通り元ネタの方の表記。
恐らくサッカー日本代表のユニフォームに八咫烏があしらわれていることからの命名である。
もっとも、《
カオスエンド・ルーラー -開闢と終焉の支配者-》という悪ふざけをした前科があるZEXALスタッフのこと、ネタにされることを狙った可能性もある。
《追記・修正の骸》
通常罠カード
次の効果から1つを選択して発動する。
- 自分のデッキからカードを1枚ドローする。
- 相手フィールド上に編集が表側表示で存在する場合に発動する事ができる。自分のデッキからカードを2枚ドローする。
最終更新:2025年03月23日 12:28