走れコウタロー

登録日:2021/07/03 Sat 01:06:12
更新日:2024/01/18 Thu 00:23:53
所要時間:約 4 分で読めます





走れコウタロー』とは、日本のフォークシンガーグループであるソルティー・シュガーによるコミックソング。1970年7月に発売された。
発売当初はそれほど売れなかったものの、時間が経つにつれ口コミなどでジワジワと売れ行きを伸ばすようになり、最終的に100万枚に近いヒットを記録するに至ると共に、翌1971年の1週目にオリコン1位を獲得したというちょっと変わった経緯がある。

だがそれ以外にも特筆すべきところがある。
……というか、そもそもこの曲自体がとてもユニーク
まずは一部抜粋した下記の歌詞をご覧いただきたい。

走れ走れ コウタロー
本命穴 かきわけて
走れ走れ コウタロー
追いつけ追いこせ引っこぬけ

そう、つまりこの曲は競馬(おウマさん)について歌っているのだ。

競馬に関する曲は、増沢末夫氏による『さらばハイセイコー』や、サブちゃんこと北島三郎氏による『ありがとうキタサンブラック』などのように、確かにこれまでも何曲か発表されてきた。
ただ、これらは特定の競走馬に寄せたもので、かつ、往年の名馬たちへの惜別や感謝の気持ちを歌い上げたスローテンポな曲となっている。
その他、JRA(日本中央競馬会)のCMソングも広い目で見れば競馬に関する曲と言えなくもない。

一方『走れコウタロー』は、タイトルこそ特定の競走馬の名前が含まれてはいるが、実際はコウタローのことばかりではなく競馬の様子そのものも描いている上、笑いを誘う内容のアップテンポな曲となっている。
そういった歌というと意外と他にあまり無いので「競馬の歌といえば『走れコウタロー』でしょう」とお考えの方も多いかもしれない。

とはいえ、実は当初は競馬とは何ら関係が無い歌だった。
発端は、当時はソルティー・シュガーのメンバーで、後に『岬めぐり』でも名を馳せ、『午後は○○おもいッきりテレビ』初代司会者も務めた故・山本厚太郎(コウタロー)氏が、同グループの練習によく遅刻していたこと。
それを茶化す形で、上記にも引用しているよく知られたサビの部分「走れ走れ コウタロー」だけが先に出来上がっていた。
その後、実在した競走馬「ミノル」への応援歌として作るつもりだったが語呂が良くなかったので、最終的にこちらも実在した競走馬「コウタロー」に向けてのものになったという。

歌の内容は実際のレースの流れを大体なぞっている。
出走直前の光景が浮かぶ歌い出しから始まり、いざ各馬一斉にスタート。
……したかと思いきや、出遅れたり引き離されたり、何やら色々なハプニングが巻き起こっているぞさあ勝負の行方やいかに、といった顛末を描写している。
ちなみに2番には観客と思しき「オイラ」の心情も挟まれる。
なお「4歳馬」が「ダービー」に出走すると歌われているが、これは2001年に馬齢の数え方が国際基準に合わせて変更される前の曲であるため。現代の基準では、ダービーに出走できる馬齢は3歳馬と呼ばれる。
また「ダービーの歌なのに実況部分で『本日の第4レース……』と言うのはおかしい」というツッコミもあったとか。*1

そして何よりやはりそこはコミックソングらしく、色々とやりたい放題な歌になっている。
  • いわゆる「合いの手」が入っている
  • 実際の競馬実況を彷彿とさせる部分があり、更にここに登場する馬の名前は麻雀用語や当時流行ったギャグやアイドルグループに由来している
  • 本曲発表当時、公営ギャンブル廃止に取り組んでいた知事・美濃部亮吉氏のモノマネを(風刺の意味も込めて)披露している
  • 「オイラ」が「ここでコウタローが負けたら暮らしがままならない」(意訳)と縋っている
  • しかもレコードのジャケットには顔はメンバーの似顔絵、首から下は馬の体というケンタウロス(くだん)*2を混ぜたような生き物が載っている*3

……などなど大変カオス。

発売から50年以上経った今でも、コミカルで賑やかな曲調であることに加えて「走れ走れ」というフレーズが連呼される*4からか、運動会で使われることもあるらしい。
思い切り競馬用語出てくるんですけど風紀上大丈夫なんですかね?というかちびっ子に解るのかな?




追記・修正は競馬に思いを馳せながらお願いします。









































……さて。この『走れコウタロー』(以下「原曲」)は、上記の通りかなり変わった特徴があるわけだが、さらに変わっている点は、後年別々のコンテンツにおいて数度に亘りカバーされていることだろう。これはレアケースと言える。
カバーといっても、原曲がそっくりそのまま使われているのではなく、作品や商品の世界観(と、『BOSS競馬』版を除き発表当時の都知事にまつわるあれこれ)に合わせて歌詞及び実況部分がアレンジされているが、
とはいえこれによりアニヲタ諸兄にもなじみ深い1曲になったのではないだろうか。
更に原曲が昭和時代、『みどりのマキバオー』版が平成時代初頭、『ウマ娘 プリティーダービー』版が平成時代終盤*5、『BOSS』版が令和時代序盤と、四世代に跨って(競馬が題材なだけに)愛されている曲でもある。



『走れマキバオー』


週刊少年ジャンプ』で連載されていた、つの丸による漫画『みどりのマキバオー』(以下『マキバオー』)が1996年にアニメ化された際にオープニングテーマとしてカバーされた。

歌っているのは「F・MAP」という耳慣れないグループ*6だが、そのメンバーはフジテレビのアナウンサーである福井謙二氏、三宅正治氏、青嶋達也氏の3名。
3人は歌手ではないものの、原曲の雰囲気もしっかりと再現されている。
アニメ作中でもアナウンサーとして声の出演を果たしているし、更に三宅アナ・青嶋アナは実際に競馬中継も担当しているため*7実況部分はフィクションでありながらある意味「本物」
プロによる臨場感たっぷりの実況は必聴。

原曲から変更された箇所は下記の数点を除けばあまり無い。
  • 序盤に実況パート(歌詞)が追加
  • 「コウタロー」の部分は「マキバオー」に
  • 都知事のモノマネ部分は『マキバオー』放送当時の都知事(で、かつて作詞した『スーダラ節』に「競馬で大損」なんてパートも入れたことがあった)青島幸男氏を意識したものに。
    • 記者役の三宅アナとのやり取りでは「都市博中止」*8も出てくる。
  • 原曲にあった中盤の実況パートの増加と一部変更


『走れウマ娘』


Cygames社によるメディアミックス作品『ウマ娘 プリティーダービー』(以下『ウマ娘』)のCMソングとして制作され、2018年10月にCDシングルとして発売された。

歌っているのが全員女性声優である*9ことや、作品内容から文字通りターフに伝説を残していった実在馬の名前がたくさん登場すること、
原曲の1.6倍、『マキバオー』版の3倍近くの人数が参加していることもあり、華やかで賑やかで楽しさを感じられる仕上がりとなっているのが特徴。
歌唱・出演している声優及び各自の役名は以下の通り。

その他、歌唱には参加していないが実況部分によればマルゼンスキーダイワスカーレットも出走していることが判る。

こちらは『ウマ娘』の世界観に合わせて歌詞が少なからず変更されており、
  • 「ライブ」や「勝負服」という語が出てくる*10
  • 『ウマ娘』におけるレースはギャンブルではないという設定なので、そうした事柄を連想させるような箇所は変更されている課金はどうなんだって?話をややこしくしないのが大人ってものだぞ)
    例「ここでおまえが負けたなら おいらの生活ままならぬ」
    →「ここであの子が負けたなら ライブで応援できないぞ」*11
  • 実況部分で先頭を走っているのがサイレンススズカ
  • 2番の歌い出し「スタートダッシュで出遅れる」の部分を担当しているのがあの*12ゴールドシップ&トウカイテイオー
  • モノマネパートはたづなさんのアナウンスに変更されたが、都知事ネタはしっかり踏襲している*13
  • 「いつしかトップにおどり出て ついでに騎手まで振り落とす」と、ズッコケオチ*14が待っていた原曲&『マキバオー』版とは異なり、
    この部分が「勝利のライブで盛り上がる!」とハッピーエンドで締められている*15
  • 終盤の「はっしれはっしれ」と独特のリズムで歌われる部分が「はしれーはしれー」と違うリズムで歌われている*16

といった具合に、原曲の要素はもちろん、ウマ娘たちの元ネタである実際の名馬たちのエピソードもしっかり反映させた内容になっている。
名目上は原曲の替え歌とされているが、アニメ版においてメインを務めるチーム〈スピカ〉所属のキャラたちに加えて、特別出番が多かったわけでもないタマモクロスとウイニングチケットも参加しており、前述の『マキバオー』版の知名度が高いことも意識していると思われる。*17


『BOSS競馬』


缶コーヒーの「BOSS」でお馴染みのサントリー社から「ボス 本命の一服」「ボス 三冠の一杯」発売記念として、なんとこちらもCMソングとしてアレンジされた。
アニメ、ゲーム、競馬のいずれにも無関係の企業の「出走」は初めて。*18

こちらの特徴はとにかく豪華仕様であるとの一言に尽き、
  • 序盤の『GI競走ファンファーレ』を担当したのは『ドラゴンクエストシリーズ』でお馴染みだった故・すぎやまこういち氏
  • 更に歌い手・演奏者はMEN'S5『とってもウマナミ』でボーカルを務めた淡谷三治氏
  • 極めつけに実況パートに起用されたのはあの関西テレビ競馬実況のレジェンド・杉本清氏

多種多様に一生懸命働いて活躍してる人々に向けてジオラマで作られた映像には、人や馬が出走している映像が映し出されている。そして天皇賞、菊花賞などの実際のレースの映像も。まるで原曲と『マキバオー』と『ウマ娘』を組み合わせたかのような。
これまでとは打って変わって、歌詞が原曲と全然違うものになっているのも特徴と言える。

  • 『ウマ娘』版同様に賭け事と騎手に関するマイナスな歌詞は含まれない
  • 歌詞には働いている人に向けてのエールで「自分のペースでいけばいい」や「ひと休み」などなど励ましの言葉が盛り込まれている
  • 競馬関連の歌詞も当然含まれている(適性のみ)
  • 映像自体の尺が1分強とあって、曲も1メロ→1サビ→ラストサビと『マキバオー』OPよりも短い構成になっている。よって都知事ネタは無い*19

ここも大方アレンジされてはいるものの、明るいイメージに仕上がっている。

ソルティー・シュガーが生まれていなければ後年の作品にも曲が伝わらなかった原点である逃げの『コウタロー』
ギャグ&下品なシーンはあるが各喋る競走馬達の熱いドラマを描いたジャンプ漫画の先行の『マキバオー』
競走馬を美少女化しながらも熱く泣けるストーリーと元ネタも細かく作り上げられている差しの『ウマ娘』
50年以上も飲料水を作り続けてきて他企業とのコラボもCMも多彩な数を持つ追込の『SUNTORY』

どの世代の人々も、聞けば懐かしさと嬉しさに溢れるだろう。



追記・修正は四世代に渡って『走れコウタロー』を歌ってからお願いします。

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最終更新:2024年01月18日 00:23

*1 中央競馬における通例では1日に12レースが組まれ、ダービー(東京優駿)など注目度の高いいわゆるメインレースは終盤、多くの場合11Rに設定される。日本ダービーにおいては10レースに組まれる年がほとんどである(その一方、有馬記念において多くの年は9レースに組まれた)。最終レースとしない理由は「メインレースが終わって帰る客と、最後まで観戦する客とを分け、混雑を緩和する」「メインの後にもうひと勝負しようと考えている観客に最終レースの馬券の購入を促す」……といった目的があるため、とされている。

*2 人間の頭部を持つ牛の妖怪

*3 ジャケットイラストは針すなお氏によるもの。「ものまね王座決定戦」の似顔絵を描いていた人、と言えば分かる人には分かるか。

*4 「走れ」という語は合計26回出てくる。

*5 アプリゲームは令和でリリースしているため、一部は令和に含む場合も。

*6 「Fuji Men’s Announcer Project」の略で、SMAPのもじり。

*7 三宅アナは『めざましテレビ』のキャスターとなった後はスポーツ中継から退いているが。

*8 フジテレビ本社が当時あった新宿区河田町から移転してくる前に、お台場で開催される予定だった「世界都市博覧会」のこと。閉幕後はオフィス街に転用開発されるはずだったが、これがニュースとなったことで臨海副都心に関心が集まった結果、当時何にも無かった「13号埋立地」を「お台場」という一大観光スポットにさせるきっかけになった。今でも現地には当時の遺構がいくつかある。

*9 この曲を女性がカバーするのも、歌い手が全員女性なのも、いずれも初のケースである。

*10 レースに出るウマ娘たちはアスリート兼アイドルのような存在で各自持ち歌があり、レースのあとに上位のウマ娘がライブで披露する。また、勝負服とは実際は騎手が着用する(システム上は騎手ではなく馬主ごとに1デザイン)ものだが、『ウマ娘』作中世界においては騎手にあたるものが存在せず、勝負服を纏うのはウマ娘たち自身。そのため例えば「史実では(馬主が同じなので)同じ勝負服のはずだが、『ウマ娘』においては2人でデザインが違う」ということもある。

*11 これもあってか、『ウマ娘』における馬券の設定は「バ券で投票したウマ娘が勝利した場合、レース後のライブの席が最前列の上席に変更される」ということになっている。

*12 3回目の宝塚記念のスタートで出遅れるどころか立ち上がってしまったのが元ネタと思われる。ここを勝っていれば宝塚記念史上初の3連覇達成馬、かつ前年にこれも初の連覇を達成していたため圧倒的な1番人気だったが、案の定というかさすがのゴールドシップでも追込しきれず負けた。ゴールドシップを指定した馬券の売上から通称「120億円事件」

*13 2016年より現職の小池百合子都知事の好物がラーメン餃子。ちなみにこの部分の影響か、後発のアプリ版においてもたづなさんはラーメンが好きということになっている。

*14 ルール上スタート後に騎手が落馬した場合馬も失格となり、馬券は紙くずと化す。なお本曲発表後、ギャロップダイナ(1985年札幌日経賞)・ボルトフィーノ(2008年エリザベス女王杯)等、この状態で実際記録上の一位を追い抜き失格扱いながらゴールした馬が登場した。一応ゴール判定後の落馬だったら失格にはならず、実際「レース終了後、ついでに」ジョッキーを振り落としてしまった馬には2011年菊花賞、あと前年の新馬戦のオルフェーヴルがいる。

*15 そもそも『ウマ娘』に騎手は居ないので落馬オチなんて使えないのだ。

*16 原曲は馬のギャロップ走法のリズムを意識したものだったが、『ウマ娘』は二足歩行なので人間のストライド走法を意識したものになっている

*17 公式に明言されてはいないものの、この2人のモデルになった競走馬がマキバオーのモデルと推測されている。

*18 プロ野球の愛甲猛の応援歌とか、スズキ自動車のCMといった、1パートだけ使用した前例は存在する。

*19 そもそも『ウマ娘』版から3年しか経過しておらず、小池百合子都知事が再選により続投している。