そこは某N国の巨大都市T、その日は朝からしとしとと雨が降り始め、昼頃には大降りになっていた。
土砂降りの雨の中進む一つのバイク。そのバイクは栗のような色の塗装がしてあり、また乗る者の体長に合わせてあるのか普通のバイクよりも一回り小さかった。そのバイクはその大きさに似合わずかなりのスピードが出ていたが、それに乗っている男は表情をピクリとも動かさない。その様子は土砂降りの雨も異質なバイクも、全ては当たり前というかのようであった。そして、バイクは次第に人気の少ない閑散とした地域の方へ進んでいく。街並みがスラム街のような様相を呈し始めたとき、男はバイクを止めて近くの家屋へと入っていった。どうやらここが男の目的地だったようだ。
男・・・サルクは目の前の病弱そうな中年に拳銃を向け、説得と言う名の脅迫を行っていた。
「御託はいい。早く貸した金返せ。こちとら忙しいんだよ」
「ヒィ!?ま、待ってください!せめてあと三日は」
「三日?舐めてんの?ほら、今すぐだ。早くしろ」
パキュン!
サルクは拳銃の引き金を容赦なく引いた。中年のすぐ傍の足元に銃痕ができる。
「ヒ、ヒィィ!!??ほ、本当に一円も持っていないんです!御慈悲を!!」
「ああそうか、出せないってんならあんたの家族を殺すしかないな」
いつの間にか銃口は中年から外され、代わりにこちらを覗いていた少女の方に向けられていた。少女は突然現れた死の恐怖に蛇ににらまれた蛙のようになってしまう。
「む、娘の命だけは止めてください!出します!今あるもの全て出しますから!!」
「初めからそうすればいいんだ。ほら、早くしろ」
銃口を少女に向けたまま、早く出すように促す。中年は脂汗をかきながら、必死で金を取り出しサルクに渡した。
「これが私たちがもっている全財産です!今日はどうかこれで・・・」
「ふむ、少し足りないがこれでいいだろう。それじゃあ、死ね」
パァン!!・・・ドサリ
「そ、そんな・・・!どうして!」
中年の視線の先には、拳銃で頭を撃ちぬかれ無残な姿になった娘の姿があった。
「なぜかって?それはお前らが生きる価値のない屑だからだ」
そういってサルクは再度引き金を引く。銃弾は中年の頭に命中したが、当たりどころが良かったのかまだ生きている。
「誰か・・・たす・・・け・・・」
ドパァン!
助けを求める中年に対し、サルクは容赦なくトドメをさした。そして他に誰もいなくなった家の中で静かに呟やく
「ヒーローなんか、来るわけないだろ?」
その瞬間、世界は一変した。中年の近くにあった銃痕はなくなり、中年や娘の血痕も消え去っている。いや、それどころか先程の銃声の音やサルクが家屋に入っていくところを見たという記憶、はては中年や娘が今日ここに存在していた事実すら・・・・初めから無かったことになっていた。
「ふぅ。てこづらせやがって・・・」
そう言いながら短く溜息をつき、家を出ていく。いつの間にか土砂降りだった雨は上がっていた
今日の仕事の一つを片付けたサルクは、バイクに戻ってヘルメットを被り、鍵をさしこんだ。
「時間が押してるな・・・急ぐぞ、ES-710」
そう言いながらバイクのエンジンを掛ける。バイクは呼応するようにブゥゥゥゥン!!とエンジン音を掻き鳴らした。
「ったく、どいつもこいつも屑ばっかりだ。・・・俺も含めてな」
バイクを走らせながら皮肉気な独り言をもらす。しかし言葉とは対照にその顔は無表情であった。バイクのエンジン音が、心地よく響く。まるで彼を慰めるように・・・
「ああ、大丈夫だ。俺は大丈夫。」
彼は自分に言い聞かせるように呟きながら、バイクのスピードを上げ、次の目的地へと急ぐ。
彼の被っているヘルメットから、雨の雫がぽたり、ぽたりと落ちた。
最終更新:2016年01月07日 00:43