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桜田門外聖ステラ絵巻
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桜はちょうど緑に色づいていた。
僕はまた視線を感じた。今朝から五度目だ。確実に誰かにつけられている。一旦気にしてしまうと、昇降口から校門までの僅かな距離でさえ長く感じてしまう。
視線を意識し出したのは一週間前ほどのことだ。お嬢様高校、聖ステラ学院に裏口入学して一年、僕はできるだけ平凡であることに心血を注いでいた。平穏に学校生活を送ることにおいて、普通の人であることは重要だ。出る杭は打たれる。ただでさえ天然茶髪の僕はいろいろと誤解されがちなのだ。
「国井君って誰だっけ」
「ほら、あの、茶髪だけど意外と普通の人」
「いたいた。あまり話さないけど」
「他校生かな。最近よくいるよね」
女子のそのような会話を耳に挟むたびに、僕は心の中でガッツポーズをしたものだ。
努力の末、見事「普通の人」の称号を僕は手に入れつつあった。ここで「ストーカー被害者」なんて不名誉なレッテルを貼られるわけにはいかない。
僕は校門の前で立ち止まった。靴がアスファルトと擦れる硬い音がした。自分ではない、明らかに近くの他人の音だった。夕暮れ時、野球部の威勢のいいかけ声が遠く聞こえる。どっと背中から冷や汗が吹き出た。振り向くか、振り向かないか。いやここで振り向かなかったら何が起こるか分かったものじゃない。僕は交番の位置を思い出す。だけどここからでは遠すぎる。
足音がした。僕は鞄の取っ手を握りしめた。じっとりと手の平が湿っている。再び足音がした。近づいている。脳裏に「高校生、校内でストーカーに殺害される」という新聞の見出しが躍る。
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田中はじっと窓越しに塀を見やると、突然がつがつと猛烈な勢いで白米をかきこんだ。魚を頭からかじり、骨が喉に刺さって慌てて味噌汁を口に注ぐ。炊き合わせの人参や大根も口一杯に頬張り、最後に錠剤ごと水で全てを飲み込んだ。
「カルディア」
彼は刀を背負った。囚われの身では、誰も何も教えてくれないのだ。彼女しか、外の世界の情報源は無い。
「傍から見たら変態であろうな」
離れの地下にある共同浴場で、田中はおっかなびっくり女湯と書かれた暖簾をくぐった。いや、直接聞けばいいというのは愚策で、やはり戦いの基本は諜報活動からなのだと無理やり自分を納得させる。別に彼女の裸に興味があるわけではない。断じてない。
昼時であるせいか、組織に雇われた掃除婦たちも昼食を取っているようで、幸い脱衣場にはカルディアらしき服しか見当たらなかった。
自分は変態ではないと呟きながら、田中はその着替えをそっと手にする。下水道にいたせいか、汚水にまみれたその服は鼻が曲がるほどの臭いを放っていた。鼻をつまみながら、何か無いかとまさぐる。
まず始めにとても小さなプラスチックのケースをつまみ出した。そうっと開けると、指先に乗るくらい小さい、黒い皿のような物が二つ納まっている。彼は首をかしげ、ケースの蓋を閉じて服の中に突っ込んだ。
次に指先に固い感触が伝わった。彼は気になってそれを引っ張り出してみる。そして、それの正体を知った瞬間に後悔した。
彼女がいつも腰に下げている拳銃だった。
昨夜の惨劇を思い出してしまい田中は嘆息する。服の奥に拳銃を戻した。
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最終更新:2016年01月25日 14:13