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Conflict of model personality

…僕には幼い頃の記憶があまりない。思い出そうとしても、記憶の断片すら見つけることができない。違和感はあった。まるで幼い頃は僕が居なかったかのようだと。だけど今はそんなことはどうでもいい。僕にはもっと大事なやるべきことがある。

仕事がひと段落つき、ホッと息を吐き出す。ここはHHBと呼ばれる派遣会社、僕はここで疾患者と呼ばれる“能力者”達のサポートスタッフとして働いている。僕がこの会社に入る時、20歳だと嘘をついてしまっっている。長身が功を奏し、疑われることもなくすんなりと認められた。嘘をついているのは少し心苦しいが、目的のことを考えれば悠長に大人になるのを待っていられないので仕方がない。そう、僕がこの奇妙奇天烈な会社に勤めているのは目的があってのことだ。僕は、今どこに居るかも分からない敬愛する兄のことを思い浮かべる。


僕達は中国系マフィアに属する親の元に生まれ、教育という名の酷い虐待を受けていた…筈だ。記憶は曖昧だが、そんな過酷な環境下の中でも、兄は僕に対してはずっと優しかったことだけはハッキリと覚えている。
僕達は脱走を計画した。一刻も早くこの地獄から抜け出したかった。結果、脱出することには成功。しかし、その先がまた地獄であった。
いつまでも途切れることのない追手、日に日に磨り減っていく精神に何度も諦めて戻ってしまおうと思ったが、それをしなかったのはやはり兄が支えてくれたお陰だった。
ある日、遂に僕達は捕まってしまった。最悪の未来が脳裏に過ぎったその時、後ろから強く背中を押された。
兄が自分を囮にして僕を逃したのだ。僕は兄の思いを無駄にしないために、全速力で逃げた。「必ず助けを呼んで戻ってくるから!」そう心の中で念じながら。


記憶を辿っていると、不意に電子音が鳴った。メールが届いたらしい。内容は新たな疾患者のスカウトに成功したという報告であった。
僅かな期待を抱きながら文章を読み進める。疾患者の名前を見たとき、大きな落胆を感じた。
「やはり、早々見つからないか…」
その疾患者は“兄”ではなかった。疾患は、強い精神ストレスによって発症することが多いらしい。となれば、兄も疾患者となっていてもおかしくない筈。そう思って、疾患者を集めているこの会社に入ったのだが、未だに兄さんらしき疾患者は現れない。
(もしかして、兄は既に殺されて…)
最悪の想像を頭を振って吹き飛ばす。兄はマフィアに利用されている立場だ。この平和ボケした会社がそのような人物と接触できるとは思えない。
「…自分で探すしかないか」
自分にはまだその権限はないが、いずれ公的にスカウトが出来るようになるだろう。それまでに兄さんを助ける為の然るべき準備を整えておこう。
そんなことを考えながら、残りの仕事を片付け、帰路へと着いた。

家に帰ると、シャワーを浴び、夕食の準備をしてテーブルに腰掛け、テレビを付ける。テレビは静寂を誤魔化す為に付けるだけで、普段はその内容など全く見ていない。だが、今日は番組の内容を見て、思わず一瞬手が止まった。
「ここはT都◯◯区です!この辺りで“人喰い”という噂が広まっているそうで…怖いです!怖いですが…頑張って調査していこうと思います!」
どうやらバラエティ番組のようだ。内容は都市伝説の調査、若手芸人が不慣れな様子でロケをしている。
だが僕が気になったのはそのロケ地、◯◯区と言えば…
「うちのすぐ近くじゃないか…」
急に不安になる。“人喰い”。そんな噂があったのか…
テレビの内容が正しいなら、犯行は路地裏など目立たない場所で行われていて、その死体には人間のものらしき噛み跡が残っているらしい。「人が喰われてるんだぞ!?なぜ警察は動かないんだ!?」という近隣住民の叫びが印象的だった。
僕は仕事に行く際、大通りしか通らない。ならば、“人喰い”に狙われることもないだろう。そう自分に言い聞かせながら、テレビを切り、食べ終わった食器を洗う。明日は休日、何をして過ごそうか…そう思った時、不意にあることに気がついた。
(休日に何をしていたか覚えていない…)
またもや押し寄せてきた言いようのない不安。思わず手に持っていた皿を落としてしまう。
僕の思考は皿が割れた音で現実に戻った。割れた皿に特に思い入れはなかったが、勿体無いことをしてしまったと反省する。
割れた皿を片付けないと…。僕は箒と塵取りを取りに行った。



「…フフフ」
僕は思わずこらえきれずに笑みを浮かべていた。
ちょろい奴らだ。ちょっと道案内をお願いしたら、まるで警戒心もなく応対してくれる。流石に一緒にきて案内をしてほしいと言った時はちょっと渋っていたが、困った様子を演じたらあっさり引き受けてくれた。
そして今の僕の目の前にいるのは道案内をしてくれた二人組、今は全身を真っ赤にして転がっている。いやあ、殺す時のあの恐怖に染まった顔。最高だったよ。それにしても、皿の破片ってのは案外いい凶器だね。包丁みたいにスパッと切れるのも良いけど、皿の破片が肉を破っていく鈍い音もこれまた気持ちいい。
っと、物思いにふけってたよ。早速この死体を“料理”しよう今日はどうやってぐちゃぐちゃにしようか…

そして僕はしばらく無心で皿の破片を振った。出来上がったのは二つの肉塊。今回はなかなかの出来だ。僕は満足感を抱きながら、意識を手放していく。よく分からないんだけど、後処理は僕が眠っているうちに誰かがやってくれるんだ。おいしいところだけ貰えるなんて、本当に至れり尽くせりだよね。

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最終更新:2016年03月03日 16:33