ある夜、お祖父様に手を引かれて、屋敷の地下に行った。
初めて入る区画、暗い夜でもさらに光の差さない場所に、何だか興奮したのを覚えている。
お祖父さまの手は温かくて、力強くて、不安ではなかった。
鍵のついた扉をいくつも潜り抜け、殺風景な部屋に入った。
壁によくわからないマークが描かれていて、その前に祭壇のようなものがあって。他の部屋の様に立派な家具はなかった。
お祖父様は壁に描かれた模様にお辞儀し、知らない言葉を唱えていた。
そして台の上にあった瓶から、コーヒーカップに何か赤黒い液体を注ぐ。
私はお祖父様が何か神聖な儀式をしているのだということはわかって、大人しくしていた。
お祈り(?)が終わると、お祖父様はカップの中の液体を私の額にちょんとつけ、それから残りを飲みなさい、と差し出した。
ちょっと嗅いでみたが薬臭くて、舐めてみたらまずかった。
舐めるくらいしか残ってなくて良かった、と思った。
いい子だ、と撫でてもらって、その日は終わりだった。
それから毎日、同じ儀式が続いた。
お薬(?)の量は少しずつ増えていって、最後の頃はマグカップ一杯を飲まなければならなかったが、もう慣れっこになっていた。
儀式が始まったころから、体を動かす遊びと言えば格闘技だった。
お祖父様はお忙しくて、大抵は執事さんが相手になってくれた。
強くなればなるほど、お祖父様は喜んでくれて、たまに相手をしてくださると「ルーシーは強いなぁ、将来が楽しみだ」と笑ってくださった。
その日も同じ儀式をして、眠りにつくはずだった。
いつもと違うのは、祭壇の上にモルモットの入ったケージがあったことだった。
いつものお祈りをすると、お祖父様が一匹を出して、私に手渡す。
暖かくってふわふわで、可愛い、と思っていると
「じゃあ、血を吸ってごらん」
こともなげに、お祖父様はそういった。
理解できずにいると、この辺りの血管が太いから吸いやすいよ、とさらにアドバイスされた。
意味が分からない、そんな顔をしていたと思う。
お祖父様はもう一匹のモルモットを抱え上げると、噛みついた。牙を剥く、という言葉がよく似合う、なんて頭をよぎった。
液体をすする音が響き、じたばたしていたモルモットが動かなくなり、やがて口を放したお祖父様は、ぽいっとモルモットを床に打ち捨てた。
私は腕の中にいたモルモットを抱きしめ、びくっと後ずさった。
お祖父様は、「さあ、やってごらん」とばかりに、私を見ていた。
イヤダコワイコワイイヤダ
何分そうしてお祖父様と見つめ合っただろう。
ひょっとしたらほんの少しだったのかもしれないが、永遠のようでもあった。
逃れることができない眼差し。
私がもう思い出せない名前を教える時と同じ。
意味が分からないし怖かったけど、折檻されるのはもっと嫌だった。
私は「ごめんね」と小さく呟いて、モルモットに噛みついた。
生暖かい液体が口に入ってくる。
もっと嫌な感じがすると思ったが、不思議とどこか慣れた味だと思った。
それからの事は、朧げにしか思い出せない。
頭の中がぼうっとして、体が熱くて、もっと、もっと欲しい、そう思っていた気がする。
視界で動くものに反応し、もっと奪い取ろうとして拳を振るった。
頭に衝撃、そして暗転。
…気づけば朝だった。
自分の部屋の天涯付きベッドの中で目を覚ます。
夢かと思う間もなく私を覗き込むお祖父様の目とぶつかった。
お祖父様は私の頭を優しく撫で、おはようと言った。
愛し気な眼差しは、間違いなく私を称賛していて。
いつになく嬉しそうな声で、これからはお祖父様と一緒に仕事をしよう、と言われた。
「これでルーシーも、立派なトワイライト家の一員だよ。」
たすけてかあさま。
最終更新:2015年12月28日 19:28