第1回 リザルト(手記部)
兄貴からお使いを頼まれた。明日で良い、つってたけど自分で買いに行けよ……。
えーっと、何時ものように忘れない様に此処に書いておく。
牛乳、卵、生クリーム、砂糖、あとかにぱん。……かにぱん?
……にしてもこの内容、明日帰ったらすぐにプリンでも作れと言わんばかりの内容だな……いや言われるんだろうけど。
はーあ、今日いきなり!って言わねーだけマシなのか?何にせよ、忘れると後が怖いからな、絶対に忘れない様にしようっと。
(締切:1月3日朝10時前後)(執筆:お弟子さん)
(例:終夜 朔の手記)
ウラノツカサに放り込んで今日で2週間。アイツもそろそろこの辺りに慣れたころだろう。
だが、何時までも中でじっとさせておくのも問題があるだろう。
……折角なので、簡単な使いでもやらせてやろう。内容は……そうだな、私はプリンが食べたい。
方向音痴の件もある、当日は背後からこっそりと見守ってやろう。はじめてのおつかいのようにな。
(執筆:お弟子さん)
┌─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─┐
│ 領 収 証 (控) │
│ ****年**月**日 │
│ エルダーフラワー 様 │
│ │
│ ¥3,024- │
│ 但 パン代として │
│ 上記、正に領収いたしました │
│ │
│ ベーカリー・ハコラ │
└─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─┘
(クイニーアマン2個、シナモンロール、チョコチップスコーン、ヨモギ餅パン、胡桃パン、ぶどうぱん、あんぱん、きなこ揚げぱん、かにぱん各1個を購入したレシートが添付してある。)
(執筆:たろ)(ありがとうございます!
エルダさん結構やんちゃしいにしてしまいました……!)
(ウラノツカサ 経理担当職員の作業日誌のコピーとそれに付与された付箋)
○○年××月△△日
経理処理が難しい領収書が回ってきたため、提出主を探しだして説明を求めた上で不適切と判断、その旨を説明して本人へ返却した。
ついでに書類上の不備も見られるので指摘し、理解を得た。不適切な例としてコピーを添付する。
領 収 証
****年**月**日
ウラノツカサ 様
¥80,640-
但 接待交際 代として
上記、正に領収いたしました
にゃん♡にゃん♡ぱらだいす☆
(付箋部)
付記はウラノツカサにて経理担当職員に成り代わり潜入、工作した成果の一部である。上記日付でなにか重要な会合が行われた可能性が考えられる為、他情報との整合を取られたし。
また、経費精算を却下する事で職員の財布に地味なダメージを与え、組織内に不和を生む効果も見込めると考えられる。職員が更迭されれば息が掛かった者を送り込む事も可能になるだろう。
さらに加えて言うのであれば経理部にはどのような経路か不明瞭な経緯での領収書が届く事があり、職員達は頭を悩ませているっていうかコレ持ち主探すのに一日仕事になるわあっちこっちたらい回しで聞いて回る羽目になるわでふざけんなっていうか朝から始めて終わったの退勤じk(以下非常に細かい字で延々愚痴が書いてある)
(サイトゥーン)(参加ありがとうございます!これ、書き手の名前が無かったのでモブ判定にしたんだけどよかったんでしょうか……)
(その日の田中の日記)
「あーてる」と「しとろん」と「ある」が三人で「いけめん」について語り合っているのを聞いた。
どういう漢字で書くのかと聞いてみたら、あるが「池面」だと言うのだが、
それではまるで人面魚だから、間違っていると思う。
少なくとも「麺」もしくは「綿」ではないのだろうか。
「麺」なら、おそらくは流しそうめんのようなもの、「綿」なら「海綿」の淡水版あたりだと推察する。
いずれにしろ、あーてるにとっては「アタシは食うならもっと若いってか、ちっちゃくてカワイイほうが好み」であり、
しとろんにとっては「見かけより味が問題なのじぇ!!」であり、
あるにとっては「食えない奴も多いですよねー」という代物であるようだ。
何処かに売っていたら一度買って食べてみるのも良いかもしれない。
現代の若者の言葉は実に難解だが、この先の事を考えれば俺も勉強していかなければなるまい。
明日は本屋にでも行ってみよう。
「いけめん」関係の書籍を手に入れることができれば彼女たちの話していた内容がもう少しわかるかもしれない。
(文責:さい)(参加ありがとうございます、田中さんは本編でも結構仲良なれそうだったので、しました(どういう))
□11時 美容室
□17時 卵タイムセール(アヤとん連れて行く!!)
□DVD返却 □航空優待券 □新幹線回数券(名古屋2 京都1)
□洗剤 □歯ブラシ □ゴミ袋 □パスタ □麦茶 □トマト缶 □めんつゆ
(執筆:たろ)(2PCめの参加ありがとうございます!キースさんの喋り方が出てれば幸いです!)
(
コンビナートの命令書のようだ。極秘機密で暗号化されていたのであろうが、解除されている。)
□17時30分 ”手癖の悪い従妹”にお仕置きをすること。
"司祭"、"交渉屋"が立ち合い始末を確認する事。
場所はXXオフィス(繁華街で買い物をしたりその帰り道で住宅街にも繋がる道のビル。)。
蜂の巣にしてきっちり反省させ、あまりの恐怖に”黙らせる”こと。
(ということで要するにふれでりさんと
ギルテさんで下級構成員と共に街中のあるビルを蜂の巣にして立ち去る所が、
ブロウさんの帰り道にぶつかったらいいなー、ぐらいの)
(執筆:あいはら)(参加ありがとうございます、すいません締め切り後に追加されたので気づいてなくて盛り込めてません!)
第1回 リザルト(結果)
ある昼下がり。
書店、食料品店、青果店、パン屋などが立ち並ぶ商店街の一角、買い物袋を手に提げながら黒い衣服の青年――終夜 望は首をかしげていた。
「……牛乳、卵、生クリーム、砂糖。一応無茶振りにも応えられるよう多目に買った……のは、いいんだけどよ……」
はあ、と一つため息。その目線は『かにぱん』の四文字を追いかけていた。
かにぱん。蟹の形をしたパン。それは望にもわかっている。だが、これは自分が欲しい物ではない。意地悪の捻くれ者、オマケに性根が腐っている兄からの提示なのだ。
かにぱん、の4文字が指す其れが自分の思い浮かべている物と全く同一でない可能性が大いにありうるのだ。そして、その問いを外したのならば何と言って貶されるか。
「かにぱん……かに、ぱん………、かにぱん……?」
その4文字から別の何かを引き出そうと新しい頓知を試みるが、思い当たらず唸っているとその背中をぽんぽんと叩かれた。
「そこで立ち止まっている貴殿、少し聞きたい事があるのだが」
「……え?何だ?道でも聞きたいって言われたら別の奴を進めるけど……」
振り返った望の後ろに居たのは黒い学生服に長い髪を縛った一人の男。その背には木刀らしきものが入っていそうな袋を背負っている。
望は知らないのだが、彼の名は田中。そしてやはり望は知らないのだが、知る人ぞ知るテロ組織、モラトリアムの一員である。
「『いけめん』というのを探している。そこの書籍屋を見ても今一概要がつかめなかった。
故に、一度実物を見て見なければならぬと思い立ったのだ。何処に行けば見れる?」
「えっ…………ええー………。い、いけめん……?一体何を求めてどういう探し方したんだよアンタ……」
急に降って沸いた新しい頓知問題に、神妙な顔を浮かべる事しかできない望。
でも相手が困っていそうな雰囲気を察したからか、突き放すような返答はしない。優しいからね、彼。
「流し素麺の親戚だと思ったが……書籍の欄を見てもどこにもなくてな。
店員に問うてみたら、何やら服ばかりが載っている雑誌を進められたのだ。
確かにある意味では綿ではあるが、毛糸製品についての着こなしや扱いにばかり書かれていて訳が分からぬ」
「オーケィ、俺もアンタの言ってる意味がわかんねぇわ。……とりあえず俺が知ってるイケメンは物質じゃない」
望が知っている、という単語を口に出した瞬間、僅かに田中の表情が明るいものにへと変化した。
軽くたたいただけの手を下げ、買い物袋をぶら下げている望の腕をがっつりホールド離さない。
「そうか、貴殿は『いけめん』が何たるかを知っているのだな。なら教えてくれ、先の書籍屋にその情報は存在するのか」
「あーあー、解った、解ったからひっぱるな、教えるって言うかこれ説明しづらいなぁオイ!?」
等と言いながら、田中の手でずるずると書店へと引っ張られていく望。
彼ら二人が書店に入ると同時に、3店舗程隣の100円均一ショップの扉が開く。
「……これで本当に全部なんだな?」
「あー、全部全部!マジ全部!」
買い物袋を複数手からぶら下げながら隣の男にぱん、と両手をすり合わせて頭を下げたのは
公安33課のキース、と名乗っている男。
そしてその頭を下げられたのは同じく公安33課の聖和 綾人という男である。
「……そもそも卵のタイムセールに付き合え、と言う話じゃなかったのか」
「そりゃもー、そうなんだけど。チケショだけじゃなくって他4店舗くらい巡らせちゃって、あ、時間あるしお茶でも奢るよ。
何だったらあのパン屋でもいいし……あ、ラッキー!テラス席空いてるよ、埋まらないうちに早く行こうぜー!」
キースにくるくると会話の内容をスライドさせられれば、綾人は苦い顔をするしかなかった。
「……全く。何て落ち着きのない……おい、待て」
自分が何か割り込む前に何時の間にかパン屋に寄り道する事に決まっているし、了承の返事をする前にさっさとキースはパン屋へと駆けこんで行く。
そもそも奢ってもらうということ自体あまり好ましくはないのだが、放っておけば自分が食べるパンさえも決定されそうな勢いだったので、そのまま彼の背後を追いかけた。
キースは空いた席に、綾人はそのキースの背中に目が行っていたので気づかなかったのだろう。
彼らの真横を、パン屋の紙袋いっぱいにパンを買いこんだ『白い災害』と呼ばれる人物がすれ違った事に。
「………………はぁ」
ウラノツカサの経理担当職員――暫定的に、佐藤、としよう。彼女は己に振りかかった不運に嘆きのため息をあげた。
偶に何処からか落ちてくる不明瞭な明細があるのだが、昨日のそれはひどかった。
明らかに怪しいお店の名で書かれた其れは、誰が回してきたのかすらわからず聞き込みに次ぐ聞き込みで結局わからないという事が解ったので
どのように処理するかも決めかねている。却下するにも、渡す相手が見当たらないのだ。
退勤時間まで粘ったのだが結局終わらず、残業時間に突入すれば今度は話を聞くのが難しいので諦めた。全く週明けの仕事が恨めしい。
「最近の成果も時々ピントが外れた物が増えてきてるから……そろそろ潮時かしらね。ああでも腹が立つ、一体誰よ、あの領収書で落としやがった奴!」
腹立たしさといら立ちをぶつける様に、傍にあったゴミ箱に向けて飲み終わったペットボトルの容器を投げた。
けれども、感情のせいか少々勢いがつきすぎてしまい、大きく弧をかいたそのペットボトルは、
前を行くゆるふわ森ガールのような恰好をした背丈の高い女性に頭にクリティカルヒット。――しかも悲劇はそれだけじゃないんです!
不運にも彼女は買ったばかりの焼き立てパンを食べようと大きく口を開けたところであり、そんな時に後頭部から軽めの一撃をもらった為、パンと顔面を激突させてしまう。
未だだ、まだ、この悲劇は終わりじゃない。
そしてその衝撃で僅かに体制をずらしてしまい、紙袋の中身がそのまま路上へとダイナミックログイン。
あ、前方からバイクが商店街の中だというのに結構なスピードを出して走ってきましたよ。
「……あ」
そこはかとなく物悲しげな声が女性の方から上がると共に、バイクがパンを蹴散らし爆走していく。
哀れなパンは宙に舞い、残骸を撒き散らし、そしてぺちゃんこになりながらも路上へとその身を二度叩きつけた。
「あーっ……え、ええと、その………」
これには参った顔をするしかないのが佐藤さんだ。まさか自分が引き金を引いたとはいえこんな悲劇が起きるとは思っていなかったのだ。
逃げるか、謝るか。2つに一つの選択肢を迷っていると、前方の女性がぐるりと振り返った。
――それも此方を的確に、睨みつけるようにして。
「…………、白い、災害……」
その姿を両眼でしっかりととらえた瞬間、つま先から頭の天辺に至るまで、凍りつきそうなほど冷たい物が駆け巡る。
「ああ、あなた、だよね、さっきの。……ねえ、どういう事?」
口調こそは柔らかい物が含まれているものの、其処から放たれるのは尋常とは思えないほどの、殺気。
ひ、と小さく悲鳴のような息を漏らしてスパイとしての生存本能から全力で逃げるべきだと散々訴えているものの、
ピクリとも動けないのは彼女の力か、それとも蛇に睨まれた蛙のようにすくみ上ってしまっているからか。
田中がその異変に気付いたのは、十数分して購入した書物と共に本屋から出てきた直後であった。
何事かと少し周辺を見れば、『白い災害』と呼ばれモラトリアム内部ですら危険視されている存在が、なにやら若めの女性に絡んでいたのだ。
その様子があまりにも剣呑なものがあったからか、通行人もその二人から遠ざかる様に歩いている。
「……うぅむ、何やら不穏な空気を感じるな。悪い事は言わん、貴殿は早く帰った方が良い」
「何だよいきなり、つーか俺まだかにぱん買えてねーし……こうなりゃパン屋で買うか……あれ?」
その『危機』を手早く察した田中は隣の心優しい協力者に助言をしてみるが、
望はそこは察せなかったようでくるりとパン屋を探そうと視線を向け――そして彼も気づいたのだ。
「佐藤さん……?おいあれ、何かヤバいもんに巻き込まれてんじゃねーのか……!?」
「おい待て、知人の危機だろうかもしれんがむやみに近づいては――!」
田中が声を荒げるが、時すでに遅し。望はぱっと駆け出しそのまま白い災害――エルダの方へと急接近している所であった。
望の無知ゆえにあまりにも軽率な行動に田中は内心で舌打をする。
少なくとも今日の目的――『いけめん』を知ることが出来た自分はさっさと逃げ戻った方が今後というか今の自分のためではあるし、
それに何より彼には一度警告はしたのだ。それで、此度の恩義は果たせたと言えよう。
「…………、やれやれ、面倒事は嫌いなのだがな」
けれども、此方の質問に使いの途中だというのにツッコミは入れて来たものの嫌な顔をしなかった一般人の青年。
何となく、このまま見殺しにするのは、『好ましくない』。田中は本を抱きなおすと、彼の後ろを歩いて行くのであった。
「うわ何これどういう状況、佐藤さん一体何があったんだよ!」
九死に一生、地獄の真っ只中に蜘蛛の糸。恐怖で声すら忘れかけていた佐藤さん(仮)は天の助けに感謝した。
が、今だ体は満足に動かせないままだ、首だけぎりぎりと軋み音を立てそうなほどゆっくりと動かし、目だけで道を訴える。
それが奇跡的にも伝わったらしい、望は路上に転がる無残なパンを見て色々察する事が出来たらしい。
「ぱ、パンが残念なことに!?」
「……あなた、何?私、今凄く機嫌が悪いの。……そう、凄く。五月蠅く喚き散らすだけなら、静かになってもらうけど」
声を掛けられて、望は視線を向けなおす。目の前の彼女――エルダの目は屠殺場にいる豚でも見るかのようなものであった。
そして同時に望は直感する。恐らく彼女は自分や兄と同じく疾患者であり、佐藤さんがなんかやらかしてパンをぶちまけたというのだという事を。
「いやあの、パンについてはご愁傷様としか……!も、勿論それだけだとアンタの気が済まないよな。でも、こういう場でやりあうのってよくないと思うんだけど……」
「それで困るのは、あなた達の方だよね?……クイニーアマン、シナモンロール、チョコチップスコーン、
ヨモギ餅パン、胡桃パン、ぶどうぱん、あんぱん、きなこ揚げぱん、かにぱん……絶対に、許さない」
いったん納めて、とばかりに取り成すように望は声を掛けてみるが、エルダの視線は絶対零度へと冷え込みをかけるばかり。
あっこれアカン奴や、と本能的に理解、仕方がないので説得の方針を転換。
鞄の中から今日のおやつで試作品であるドライフルーツをふんだんに練り込んだフィナンシェを詰め込んだ袋をさっと取り出す。
「俺、そこの人と関係者。こういうの、作ったりするの、趣味。お詫び、といっちゃ何だけど……此処で納めてくれれば、プリンが作れる」
「……………………」
どことなくカタコトな望の説得に、エルダの口は閉ざされた。
長い沈黙の中でフィナンシェをガン見した後、それを奪うように望の手からとり、袋をばりっと破いてもさもさ口に運ぶ。
その瞬間、何となく目つきが柔らかい物に変化したように見えたのだが、それから更にしばらくの思案。
「…………ど、う、かな……、多めに材料買ったし、多少の無理はきかせるぜ……?」
不安になりながらも進んで望は問いかけた。エルダは4つめのフィナンシェを飲みこんでからこくん、とうなづいた。
「バケツなら、許してあげてもいいけど」
「バケツは無理だ。あれやったら自重で崩れてひでー事になる。でも、茶碗なら出来るぜ」
「じゃあそれでいい。4つで手を売ってあげる」
「4つ!?……ま、しゃーないか。いいぜ、とりあえず機材が部屋まで戻らないとねーから、いいよな」
再び頷いてフィナンシェをもりもり食べながら此方の後ろについて来る雰囲気のエルダに、望は心をなでおろしながらも息を吐く。
確実に兄が望む分だけのプリンが用意できそうにないからだ。これは酷い言葉で貶されると考えながらも、どうしようもないな、とあきらめの感情を抱くしかなかった。
「うむ、貴殿の作る菓子はなかなか美味そうだ、是非ご馳走になろう」
「……ちょっと待って、なんでアンタもついて来るかなぁ!?……いいけどよ……」
「うむ、流石俺の見込んだ男。優しいなぁ」
「見込まれた覚えはねーよ!?」
しれっとその隣に混ざってくる田中に、こうなりゃ毒を食らわば皿までだ、と望は息を吐いた。
どうあがいても兄のお使いが失敗したという事実は変わりない、成ればこそどうにでもなれ、と言った所だろうか。
そして、ふと、背後に視線をやり、潰れたパンを作った犯人がこの場から居なくなっている事にふと気づく。
「……あれ?そういや佐藤さん逃げちまったのかな?……ま、普通巻き込まれたくねーもんな」
無事ならば何よりだ、そう考えながら望はお使いの代わりに2人の奇妙な連れと共に帰路に就いたのだった。
かにぱんの事を、すっかり忘れてしまいながら。
――……同時刻、パン屋テラス席の1つのテーブル。
そこを陣取っているのは『3』人の男。到底和気藹々とした空気には見えないそのテーブルは、奇妙な雰囲気が漂っていた。
「……やー。助かりましたよー、ホーント。あのまんまだとあやトン突っ込んでいっちまいそーでしたし?」
軽薄な笑みを携えながら店内で購入したフレンチトーストを食べているのはキース。
名を呼ばれた綾人は殺しそうな勢いを持ちながら同僚をすげーきつく睨みつけるのであった。
「怖っえー、あやトン、怖っえー。
……あんな天災に今喧嘩売っても死ぬだけっしょ?俺もそういうのに巻き込まれるのパース」
「……では、どう報告するつもりだ。白い災害が一般人に手を下しそうでしたが自分の命を優先しました、とでもいうつもりか」
「だからその前提が間違っている。あれを取り成したのも巻き込まれた一般人とやらも一応総て我らがウラノツカサの関係者。
態々私達に刃を向けてくれなかっただけの事、そうだろう?」
かにぱんの足をむしってカフェオレとギリギリ呼べなくもない液体に沈めつつうっさん臭い笑みを浮かべているのは、白い衣服を着た男、終夜 朔であった。
ちなみにその液体には顆粒が残る程の砂糖がぶちこまれています。
「ほらみー?ここはこの人の善意に従っとくべきだって。めっちゃ下心ありそうだけど」
「あ、私その有無に聞かれたらダブピかまして勿論あります!って笑顔で言うぞ」
「…………………」
不快を通り越して嫌悪、そしてそれすらもぶち抜いた殺意の二文字を綾人は朔に向かって視線だけで叩きつける。
朔は朔で、最近の若い子怖いわー、とか妄言をかましながら余裕綽々に肩をすくめてみせた。
「まあ、お前がどれだけ釈然としない感情を抱いていても、だ。あれが奇跡的に、そして実に的確に場を納めた。……今更蒸し返す事もないだろう」
朔はかにパンをむしって出来た銃を綾人に向けて、ばーんと撃つような真似事をしてみせた。
彼らが此処に会合したのは、望が丁度駆け出したころ。綾人が席を立とうとした瞬間、朔が合席を申し出たのが始まりだった。
朔の目的は二人の望に対する干渉の妨害。キースの目的は綾人の無茶の停止。
二人の望んだ方向性が似通っていたため、争いを生むことなくなあなあの空気のまま現在に至る。
「帰る」
「え?あ、ちょ、待――」
ばん、と乱暴にテーブルに手を叩きつけて綾人が立ち上がると、キースの方から素っ頓狂な声が上がる。
しかし綾人はそれに配慮する事も無く、空のカップや皿が乗ったお盆を持ち、店内へと戻って行ったのだった。
「……うう、タイムサービスに付き合ってくれる約束だったのに、酷いぜあやトン……。
あ、おにーさん、よければどう、夕方17時から卵安くなるんだけど、俺の哀しい懐事情につきあってくんない?」
キースの同情を誘うような声色に、朔はわずかに口元を歪めて笑ってみせる。
「――悪いな、これから1件、お茶目をかました愚か者に鉄槌を下す程度の用事があるので、ね」
めでってぇ!(なおお使いはダイナミックに失敗判定の模様)
最終更新:2016年01月03日 22:00