真名は「アンリマユ」。これは拝火教に登場する悪神の名と同じだが、彼は神霊ではない。
その名を押し付けられ、この世全ての悪の原因として周囲から扱われた結果名前を失った一般人が英霊化したモノである。
生前は悪神どころか魔術も神秘も知らない、ごく平凡な片田舎の青年だったが、
ある日突然、村の権力者によってその一生を魔として扱われる偶像に選ばれ、
人々から呪いを押し付けられて迫害される役目を負わされた。
「私たちの生活がまるで楽にならないのは、原因となる悪がいるからだ」
解決のできない問題、救われることのない人々の心は、憎悪を叩きつけても良い必要悪として生贄を求め、
彼は何の非も無いのに「村人達の善を脅かす悪」「物事が上手くいかない元凶」「無条件で貶めてよい何か」と扱われ、
人間として扱われないだけでなく、片目と喉を潰され、四肢の指を全て切り落とされ、
残った目も閉じないように目蓋を固定されるという責め苦を受けた。
無論、彼自身に そこまでされる謂れはなく、選んだ権力者は彼の顔も知らなかった。
彼は村の都合で一生を滅茶苦茶にされた被害者であったのだ。
肉親であった者に指を切り落とされた時点で彼の精神は崩壊し、自分に呪いを向けながら生きる人間達を憎み続けたが、
呪われることで彼らを結果的に「救った」ため反英霊とみなされた。
そして、冬木の第三次聖杯戦争 *1においてアインツベルン家のルール違反によって召喚される。
通常のサーヴァントは七種類のクラス( セイバー、 アーチャー、 ランサー、 キャスター、 ライダー、 アサシン、 バーサーカー)
の中から選ばなければならないのだが、当主ユーブスタクハイト・フォン・アインツベルンおよび同家は魔術戦を不得手としていたため、
それを補う切り札として七種類に含まれない「 エクストラクラス」のサーヴァントで一発逆転を狙い、
「殺すことに特化した悪魔」という伝承を持つアンリマユを呼び出そうとしたのだが
(他作品によれば、事前に 裁定者と復讐者の二つを候補に定めて厳選しようとしたらしい)、
実際に呼ばれたのは彼、つまりその名を勝手に冠されただけで宝具も特異な能力も無く、
魔術も神秘も知らない一般人であったため、僅か四日で敗北。そのまま聖杯に取り込まれた。
しかしその際、「周囲からの願いだけで模造された英霊」という特殊な出自から、
聖杯がアヴェンジャーを魔力リソースではなく「願い」として受諾してしまうバグのような事態が発生。
これによって、贋作とはいえれっきとした願望器であった聖杯は汚染された悪性を以って「殺し」という手段で願いを叶える性質へと変容してしまった
(「世界一の魔術師になりたいと願う→世界中の願い手より上の魔術師を皆殺しにして世界一にする」など)。
聖杯が汚染されたことで聖杯戦争にも影響が出てしまい、以後の聖杯戦争は反英霊が召喚されるなど狂っていくことになる。
そして第三次終結後も「この世全ての悪であれ」という願いは大聖杯の中に残り汚染し続け、
聖杯に満ちる力を養分に「この世全ての悪」として現界しようとしていた。
これは基本的に冬木の大聖杯が癒着して生まれた呪いの杯そのもの、及びそこから溢れる「黒い泥」として存在しており、
常人ならばこの泥の呪いに侵されると発狂し死ぬ。
聖杯の一部であるため、そのシステムで降霊している特にサーヴァントにとっても特によく効く毒となり、
近寄るだけで魔力を吸われ、直接触れれば溶けるなど重大な害悪を及ぼす。
これに直接触れて耐えられたのは破格の自我を持っていた ギルガメッシュだけであり、逆に泥を飲み干して受肉を果たしている。
セイバーの見立てでは、彼以外にこの泥を浴びて平気な英霊はいないという
(人間だとギルガメッシュとのパスから逆流する形で触れた言峰綺礼は歪な精神と間接的な接触だった、
『strange Fake』世界のバズディロット・コーデリオンは特殊な魔術系統に加えて同じく元から精神が壊れていたため、それぞれ無事)。
名前のない被害者、何の偉業も結果も出せなかったモノは、皮肉なことに聖杯の願いによって本物の「悪魔」 になったのだ。
第四次聖杯戦争では寸前で聖杯の正体に気付いた 衛宮切嗣が セイバーに無理矢理聖杯を破壊させたため顕現は免れたが、
壊したのはアンリマユ本体が眠る大聖杯ではなく、その蛇口に過ぎない小聖杯であったため、溢れた中身の泥が周囲を侵食し、
冬木大火災を引き起こす結果になった。
第五次聖杯戦争では各ルートで「器」とした者に呼応し、
「泥」(『Fate』)、「肉塊」(『UBW』)、「人間全てを呪う宝具を持ったサーヴァント」(『HF』)として現れようとした。
そして第三次聖杯戦争においてただの虚無であった「この世全ての悪」は聖杯に取り込まれ、
名前だけの魔力の渦であった冬木の聖杯とは違う、微力ながらも真の意味で持ち主の願いを叶える聖杯、
つまり「人間の願いを叶える悪魔」という新たなサーヴァントへと成長したのである。
しかし、誕生を前に大聖杯はどのルートでも 衛宮士郎とその仲間達の手によって破壊され、
依代を失った「この世の全ての悪」は英霊の座へと戻されようとしていた。
消滅を恐れた「この世全ての悪」は、 言峰綺礼によって ランサーと令呪を奪われ瀕死となったバゼットを発見し、
彼女の「死にたくない」という願いを叶える代わりに彼女をマスターとして契約し現界を維持。
身体を仮死状態にして生かし続けつつ「第三次聖杯戦争を再現した、最初の四日間を繰り返す世界」を作り、
それを再現することでこの願いを叶えた。
アンリマユの見た目は、全身くまなく刺青の施された少年めいた姿。
……といっても、これは士郎の「殻」を被って現出したもの。
本編におけるアンリマユの人格もまた殻となる人間、つまり衛宮士郎をモデルに作った物にすぎない。
元々のアンリマユは虚無のモノであるため、確たる性格というものはない。
本質的には生前とも呼べる人間性を剥奪された文字通り「顔のない誰か」であり、
アンリマユという「真名」はあれど「本名」は呪術によって消され、世界から失われている。
その結果、通常の英霊ならば当然保持している筈の「自己」という概念が殆ど存在せず、決まった姿や人格も無く、
本来は人型の影として活動する。
「彼」の在り方を決めるのは、サーヴァントとして現界するにあたって被った既存の「誰か」の「殻」である。
「この世界すべてを探してみても俺より弱い英霊は存在しない」と自負しており、何ならマスターであるバゼットの方がずっと強いという。
しかし詳細は明かされていないが「英霊クラスの超人であろうと、人間である限り俺には勝てない」とも豪語している
(ただ、速さで「犬」と「 蜘蛛」には敵わないとも述べている)。
とはいえ、直接戦闘能力が低すぎてサーヴァント相手ではまず決定打にならない。
- 宝具「偽り写し示す万象(ヴェルグ・アヴェスター)」
「いくぜ!てめえの自業自得だ!」
「逆しまに死ね!『悪魔偽り写し示す万象』!」
自分の傷を、傷付けた相手に共有する形で返す「報復」の呪詛。
反射攻撃ではなく魂に写すため、この宝具で受けた傷の痛みはアヴェンジャーの傷が治らない限り決して治らない。
ただし、使用できるのは一人の敵に対して一度だけ。さらに自動発動ではなく任意発動のため使用するタイミングが難しく、
重い一撃で自分が即死しては発動すら出来ないし、逆に軽い一撃に対して発動してしまってはほとんど効果をなさない。
アンリマユですら「クソっタレな三流宝具」と称する使い勝手の悪い宝具。
なお、この宝具はバゼットのサーヴァントとしてのアヴェンジャーを形作った際に得たもので、
第三次において召喚されたアンリマユは持っていなかった。
他、武器として「右歯噛咬(ザリチェ)」「左歯噛咬(タルウィ)」という奇形の短剣を振るう。
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他作品におけるアンリマユ |
『月姫』で存在のみ言及されてる死徒二十七祖の第十八位エンハウンスが所持する魔剣「アヴェンジャー」は、
彼が登場予定とされていた『月姫2』で同じく『hollow ataraxia』のキャラであるカレンらしきキャラの登場が示唆された事もあり、
『月姫』と『Fate』の世界線が別と奈須きのこ氏から断言されるまで長らくアンリマユとの関連が疑われていた。
『Fate/Grand Order』では虚淵玄シナリオの『Fate/Zeroイベント『Fate/Accel Zero Order』にて、
フレンドポイント召喚にサイレント実装された。
排出される確率が極めて低く設定されており、しかも課金とは無関係なフレンドポイント召喚でしか出てこないため、
引き当てるまでに数年かかったプレイヤーも少なくない。
レアリティは☆0という他に例の無い特殊なものになっている(レベル上限やコスト、ステータスは実質☆2相当)。
また、聖杯を使用すると、聖杯のアイコンが真っ黒になるというこれも他に類を見ない特殊なものになっている。
他にもアップデートの告知で常に「アンリマユ」という固有名詞が一切使われずに居ないもののように扱われたり、
絆レベル10達成という他に類を見ないような大変な条件をクリアしないと幕間の物語が見られない、
その幕間の内容がメインストーリーの未回収の伏線に関わる意味深な内容であるなど、特殊な扱いを受けている。
宝具「偽り写し記す万象」はHPを回復しつつ待機状態となり、自分がそのターン中に受けたダメージを敵全体に倍返しするというもの。
使用時に相手がアンリを殴ってくれないとダメージ0、反面殴られすぎて倒されてしまったら不発、
無敵や回避などでノーダメで攻撃を受けたり、ガッツ復活などで宝具発動時より体力が増えてしまった場合もダメージ0、
といったようにワンオフだが本当に扱いが難しい効果となっている。
これでもゲームバランスの都合で、「同じ相手に何度でも使える」「等倍ではなく倍返し」「単体でなく全体」など強化されてはいるのだが。
もっとも、弱くて使いにくいこと自体が『hollow ataraxia』での設定の再現となっているため、むしろファンからは好評な要素ではある。
西洋のアジサイのイラストが描かれた絆礼装「最後の欠片」は、1回のガッツを付与し、
さらに自身に ビーストクラスの敵に対する200%攻撃優位状態を付与するという、使用機会は少ないが絆礼装の中でも唯一無二の効果となっている。
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