葉問(ようもん、広東語:Ip Man(イップ・マン)1893年-1972年)は19世紀末~20世紀に実在した香港の中国武術家であり、詠春拳葉問派の創立者。
本名は葉継問だが、現在では葉問が一般的。
現在の広東省仏山市の畑や工場を経営する裕福な家に生まれ、11歳の時に詠春拳を学ぶ。
16歳時の香港留学中も現地の詠春拳使いと稽古を積み、後の詠春拳葉問派の基礎を作る。
成人後は
警察官職に就き、結婚して子宝にも恵まれるなど順風満帆な生活を送っていたが、1937年に日中戦争が勃発。
戦争終結後も国共内戦、共産党政権の樹立などの混乱を経て財産を失っていた葉問は、
自身が国民党の要職を歴任していた事から身の危険を感じ、妻子を残して偽名でマカオ経由で香港へ亡命。
そこで詠春拳を教えて生計を立てる日々を送った。
1953年、当時18歳だった
ブルース・リーが入門し、葉問の下で5年間修行を受けた。
1964年になると武館(道場)を閉め、個人教授のみを受け付けるようになる。
1968年に葉問派詠春拳の統括団体「詠春體育會(設立当初は詠春聯誼會)」を設立、主席を務めた。
1972年、香港の自宅で逝去。79歳没。
生前の人柄について、
「カンフーは喧嘩のためのものではない。他人を虐げるためにそれを使えば、勝っても負けてもそれはただの負けでしかない」として争い事を避る一方、
晩年は抜き打ちで弟子の家の呼び鈴を鳴らし、身構えもせずにドアを開けた弟子に蹴りを入れたりするなど、
武術に対して真摯であると同時にいたずら好きで茶目っ気ある性格だった事が関係者より語られている。
世間的には弟子のブルース・リーの方が知名度が高く、葉問は影に隠れていたが、
2008年に映画『イップ・マン 序章』が公開。
同作はヒットし、第28回香港電影金像奨の最優秀作品賞を受賞し、中国国内でイップ・マンブームを巻き起こし、海外でも高く評価された。
また、ニコニコ動画でも2014年より
何故か例のアレ関連で度々取り上げられるようになっている。
MUGENで製作された葉問も同映画の影響が見て取れる。
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『イップ・マン』シリーズについて |
『イップ・マン』シリーズは2008年に一作目が公開された中国・香港合作のカンフーアクション映画。
それまであまり知られていなかった葉問を主人公とした作品であり、
葉問を演じたドニー・イェン氏による流麗かつ力強い詠春拳のアクションが映し出される。
一作目の『序章』では仏山市における他の拳法家や 大日本帝国軍の空手家との対決が描かれ、
以後、『葉問』ではイギリスのボクサー、『継承』では地上げ屋(演: マイク・タイソン)や同門、
『完結』ではアメリカ海兵隊軍曹(ただし演者はイギリス人)とも死闘を演じた。
日本でも2011年に『序章』が上映され、以後の続編も同様。
『葉問』までは往年のアクションスターである サモ・ハン・キンポー氏がアクション指導を務めた。
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裏話 |
『イップ・マン』は実在の人物を題材としている映画だが、物語はかなり脚色されている。
例えば『序章』においては、史実の葉問は共産党に財産を没収され香港へ出稼ぎに行っているのだが、
そんな内容を共産党政権下で作れる訳がないので 大日本帝国軍に接収された事にするなど、抗日ドラマ風味に仕上げている
(一応、邸宅を日本軍司令部として奪われた事自体は事実であるとされている)。
ただし、それだけで同映画を他の雑多な抗日神劇 *1と同列に語る事はできない。
以下、詳細を記す。
俳優の池内博之氏のもとへ、『イップ・マン 序章』の出演オファーが届いた。
配役は同作の ラスボス・三浦閣下こと三浦武介。
子供の頃から知っているサモ・ハン・キンポー氏と一緒に仕事が出来るという事で、凄く嬉しかったという。
撮影にあたり、池内氏は香港でサモ・ハン氏から一ヶ月の特訓を受けている。
脚本製作の段階では、三浦閣下は極悪人の設定だった。
このため出演を躊躇した池内氏は、監督に対し、
「武道を通じて二人(葉問と三浦)が通じ合える瞬間がある、そういうものだったらやりたい」と伝えたという。
監督も戦争の話ではなく武道の話にしたいと思っており、要求が通って作中の三浦閣下像が出来上がった。
正々堂々を好む高潔な武人たる三浦閣下は、池内氏によって生み出されたと言えるだろう。
三浦はラスボスであるため、クランクインから一ヶ月間は池内氏の出番は無かった。その間にずっとアクションの練習を重ねていた。
ちなみに多くの視聴者のヘイトを集めたであろう佐藤大佐は最後に作られた登場人物だった。
劇中で佐藤大佐が行った悪行は、本来三浦閣下が行う予定だったのかもしれない。
事前に台本は渡されていたが、大まかな指示しか書いておらず、監督の指示に従いながらその場その場でシーンが撮影された。
これには池内氏も苦労したようである。本番直前になって突然入れられたシーンもあったらしい。
池内氏は 黒帯を締めるほどの柔道家だが、アクションは初挑戦だった。
後のインタビューで「(格闘するシーンで)うそ臭いの嫌だ」と明言しており、妥協を許さない姿勢で撮影に望んでいたという。
そのため池内氏の体には生傷や痣が絶えず、「もしマネージャーがいたら撮影を中止させていただろう」と苦笑気味に答えていた。
初挑戦だけに撮影は苦労の連続だった。池内氏は前もってアクションの練習をしていたが、全然ついていけず、「大変でしたね」と当時を振り返る。
葉問役のドニー・イェン氏とも交流があった。
ドニー氏は紳士的で「この作品でこれだけ出来れば、他の現場に行っても大丈夫だよ」と励ましてくれたという。
優しい人物だがお茶目な一面もあり、池内氏に悪い日本語を聞きたがっていた。教えたお返しに池内氏も悪い広東語を教わったという。
葉問と三浦閣下の対決は短いが、撮影には二週間を要している。
妥協を許さぬ姿勢だったようで、少しでも当たってないように見えたらリテイクを喰らった。
表情にもこだわり、ドニー氏とともに「本当にこの顔で良いか」と何度も試行錯誤を重ねた。
佐藤大佐を演じた渋谷天馬氏も「そこまでするのか?」と驚いていた。
見ごたえのある迫力のラストシーンは、こうして作られていった。
以上のように、佐藤大佐を憎まれ役とする事で三浦閣下を礼儀正しく高潔な武人として描いた他、
中国人にも悪役を用意する、ラム(葉問の関係者)の三浦閣下への不意打ちも日中双方の人間が見ても納得が行く描写
(中国側なら抗日戦士の鑑、日本側なら試合が終わっているのに不意打ちという反則を犯したので殺害は報いと取れる)
にするなど、単なる抗日ドラマとは一線を画する割と中立的な映画に作られている。
それを抜きにしてもアクション映画として面白く、名作である事は間違いないため、
未見の方も食わず嫌いをせずに、実際に視聴して確かめてみてはいかがだろうか。
ちなみに、池内博之氏は『序章』を見たディン・ジェン監督から演技を惚れ込まれ、
オファーを出された事で映画『レイルロード・タイガー』(2016年公開)への出演が決まった。
同作での池内氏は抗日レジスタンスを追う憲兵隊長山口を演じ、中国での人気が爆発。三浦閣下役をきっかけに、活躍の舞台を中国に移した。
佐藤大佐役の渋谷天馬氏も『序章』出演以降出演オファーが激増した上に敵役としての日本軍人以外の役も回ってくるようになるなど、
池内・佐藤両氏にとって不動不変の出世作であるといえる。
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ニコニコ動画では |
元々日本国内でもそれなりに知名度と人気がある作品だったのだが、
同映画に登場する三浦閣下が 見た目(坊主頭)も苗字も空手を修めている事も『真夏の夜の淫夢』のMURに似ているというこじつけにより、
2014年にニコニコ動画にて出演シーンの一部を淫夢関連の動画として投稿されてしまう。
結果、「MUR閣下」という新たなキャラクター像が確立され、
池内氏演じる三浦閣下はMURの覚醒形態または池沼化する前の姿として淫夢ファミリーに取り込まれてしまった。 そんなに死にてえのかぁ…?
それどころか本場中国でも(主にbilibili動画で)MUR閣下が伝播する始末。 この畜生めがァ!!(哀哭)
尤も、この動画がきっかけで『イップ・マン』シリーズに興味を持ち、ファンになったホモも多く、
一概に風評被害だと糾弾する事ができない側面もあったりする。
何はともあれホモビ男優と一緒くたにされる池内兄貴かわいそう
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詠春拳について |
詠春拳は18世紀頃に現在の広東省にて創始された、少林拳を祖とする中国武術。
伝説上の開祖は女性とされるが、その伝承に沿うかのように短橋狭馬(橋は手腕を意味し、馬は歩型や歩幅を意味する)を特徴とし、
リーチとスタンスをコンパクトに使った柔軟で素早いテクニックが特に有名。
とにかく無駄な動きを排した 格闘スタイルのため、一見すると地味だが、
それ故に攻防一体の隙のない精密な動きを実現できている強力な拳法に仕上がっている。
そのシンプルかつダイレクトなスタイルは中国拳法の中でも実戦的であるという評価を受けている。
葉問が立ち上げた詠春拳葉問派は、それまでの伝統的な指導方法とは異なり、
葉問が学生時代に培った科学的で理解しやすい、合理性・論理性のある伝習方法を採用し、詠春拳の普及に貢献。
弟子のブルース・リーによって世界的に有名になり、世界各地で詠春拳葉問派が学ばれるようになっている。
格闘ゲームにおける詠春拳の使い手は少数ながらも存在し、
『 ヤタガラス』の 数珠丸恒次、『 鉄拳』シリーズのリロイ・スミスが有名。
リロイに関してはモーションアクターに実際に葉問の甥から詠春拳を教わった人物を起用しており、
本格的なモーションをキャプチャーする事に成功している。
2:53~
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『イップ・マン』の葉問との比較
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(以上、ニコニコ大百科、Wikipediaより一部抜粋、加除)
MUGENにおける葉問
また、この葉問をchuchoryu氏が改変した葉問も存在。
頭部及び小
ポートレイトが映画『イップ・マン』の葉問演じるドニー・イェン氏を意識した
ドット絵に変更され、大ポトレも同映画のものが使われている。
それ以外は据え置きだが、とりあえず葉問らしくなさは軽減している。
出場大会
最後に、当然の話だが葉問氏は実在した人物である。
MUGENを含む二次創作を他所に持ち出し、当人の関係各所に迷惑を掛ける事は絶対に許されない行為である事を忘れてはならない。
使用する場合はネタをネタとして楽しみつつ失礼の無いよう節度を持った振る舞いを心がけよう。
*1
日中戦争における中国共産党(not国民党。というか国民党の功績を共産党のものにされている)の活躍を描いたドラマの通称。
普通の恋愛物やアクション物だと中共に規制される描写も、抗日ドラマなら許容される傾向にある。
この事情に加え、需要も一定以上ある事、抗日要素があれば制作資金を捻出してもらえる事から数多くの抗日ドラマが製作されているが、
その実態は粗製乱造であり、
- 不十分な歴史考証(当時存在し得ないはずの物が普通に出てくる)
- 超人染みた身体能力の中国人キャラ(放たれた銃弾を肉眼で回避、投擲した手榴弾で敵機を撃墜、1人で日本兵を無双する等々)
- それを相手にする日本軍もチート級の科学力を有する
- 『リング』の貞子が登場する
- 「武田信玄」「黒崎一護」等、どこかで聞いたような名前が出てくる
- ストーリーそっちのけでエロに走る
等々、荒唐無稽で現実離れ、かつ明らかに制作側が悪ノリしている作品がとても多い
(前述通り抗日物でないと規制される場合があるために
仕方なくそうしている面もあるのだが。特に6番目)。
そんな有り様に当の中国ではどう思われているのかというと、
やはりこのページを見ている貴方と同じであろう感想を抱く人が多いようで、真面目に非難する人もいれば、
「昔の英雄はウルトラマンより強かったんやなあ」「バットマンよりスゴい装備で戦っとるやんけ」
「神のように強い中国人を何百人も相手にしているのに、ずっと戦えている日本軍も強い」
などとネット上でネタにする人もしょっちゅうであり、若年層からは皮肉を込めて「抗日神劇」と呼ばれている。
整合性が無くとも「抗日だから」で説明が付いたり日本軍が強大な戦闘力持ちとして描かれる辺りは
NINJAにも通ずると言える。
ただ、あまりにも好き放題やりすぎたためか、2013年3月頃より抗日ドラマの規制が強化される事となり、ハチャメチャな内容の作品は数を減らしている。
一方でそれと入れ替わるように時代考証をしっかりとした戦争ドラマと言えるような作品が増えてきている。
2020年7月にも中国のドラマや映画などを総括する国家広播局は「
常識に背き、歴史を面白おかしく解釈して過度に娯楽化しないように」と釘を刺している。
「いずれにしても抗日要素のせいで悪影響があるんじゃ…」と心配する人もいるかもしれないが、
実の所、抗日ドラマにおける日本軍は『
仮面ライダー』における
ショッカー、『
ガンダム』における
ジオン軍的な印象を持たれており、
制作スタッフに日本軍マニアがいたり、ドラマのおかげで逆にファンになる中国人が多かったりする。
日本軍将校にイケメン俳優を配役したり悪のカリスマのように描写する作品や中国兵と共に反戦を訴える道徳的な作品もあり、
女性人気が伸びたり、日本軍が好きすぎて日本に移住してそこの会社で働く中国人がいたりする他、
歴史研究などと称して日本兵のコスプレをする人もいた程(コスプレは後に共産党が禁止してしまっているが)。
「抗日」を隠れ蓑に共産党の政治を遠回しに皮肉る作品もあったようだ
(明の時代に書かれた『
金瓶梅』も時代設定を北宋末としつつ当時の明の風俗を指摘していたりと、この手の描き方は今に始まった事ではない)。
ブルース・リー主演の映画『ドラゴン怒りの鉄拳』も典型的な抗日映画であったが、
リメイク作品『フィスト・オブ・レジェンド』(
ジェット・リー主演)では主人公の良き理解者としての日本人を出すなどマイルドになったケースもある。
抗日ドラマを観て育った日本軍マニアの中国人というのは一定数存在するのである。
ちなみに、倒される日本兵役には主に中国人が起用されており、一応雇用創出の側面を持っている。
また日本人俳優が中国で活躍しようとした場合、まず最初は抗日ドラマに出演する事になる。
『イップ・マン 序章』に出演した池内博之氏は同作でブレイクして人気俳優に上り詰めており、登竜門のような扱いでもある。
なお、中共規制はドラマ以外の分野にも及んでおり、
ゲーム『アズールレーン』では本家中国版だと
重桜(大日本帝国モチーフ)の艦船を自軍に組み込むと日本名から中国名に改名されるという例がある。
(以上、ニコニコ大百科より一部抜粋、加除)
最終更新:2023年02月04日 22:18