フォン(前置詞)

登録日:2018/02/25 Sun 03:53:53
更新日:2025/05/03 Sat 10:33:26
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我が名は○○・フォン・■■である!

フォン(von)とは、なんかドイツor貴族っぽいと思われている名前である。


■華麗なる概要

フォンとはドイツ語の前置詞であり、スペルはvon。動作の起点を指し、通常は英語のfromに相当する。
また、爵位or君主号 von 〜(地名)で、〜全域を治める領主であることを意味し、英語のオブ(of)やフランス語におけるド(de)に当たる。
比較的類縁のオランダ語ではファン(van)
前置詞としては与格変化を後ろの冠詞に与えることがあり、定冠詞デア(der)→デム(dem) 不定冠詞アイン(ein)→アイネム(einem)となる。
くっつくとフォム(vom)になるが人名ならあまり関係ない。

主にドイツ圏で使われるほか、北欧や東欧やロシア果てはアメリカなどでも使用されている。
フォンの名前を持つことは貴族の末裔であると認識され、フォンの後には家名や家の領地が入る事が多い。
フォンは人名においては「〜出身」「~の」と言う意味であり家門の発祥地を示している例としては、神聖ローマ帝国の皇帝を輩出したハプスブルク家や、ドイツ帝国のホーエンツォレルン家などに代表される。

しかし必ずしも領地が一致しているわけではなく、中世以降は苗字的な扱いも多くなっていきユンカー*1、騎士(リッター)、領主(ヘル)*2などの準貴族に列せられた者が、元々の姓にフォンを冠して名乗るケースもある。

近代においては代々の貴族だけでなく功績によって称号を与えられたケースも多く、日本史で有名なシーボルト家(与えられたのは1816年でちょうど日本史で有名な人のパパン時)などがそれにあたる。
……なお、どこの国でも同じ事だが、特権階級であるからと言って豊かであるとは限らず、経済事情やくらいの格式の高さはまちまちで名ばかり貴族も存在した。
貴族を自称する、あるいは単に出身にあやかったであろう例もある程度は存在している。魔術師のアグリッパ・フォン・ネッテスハイム(赤ザコの先祖になってる実在の魔術師)などがそれにあたる

ドイツ語圏外で使われている場合は、こうしたフォンの名を持つドイツ人が移住していった人々とその子孫と考えられる。
ロシアでは、実際にはドイツ人だったエカテリーナ二世代に多くのドイツ人が移住してきたという歴史がある。
また、ハンガリーは「オーストリア・ハンガリー帝国」と呼ばれるようにハプスブルク家の領域であった。オーストリア革命で分離した時期を経験した人にはドイツ/ハンガリー二つの名を持つ者もいる。例えば科学者のテオドール・フォン・カルマン/カールマーン・トードルなどがそうである。

なお、
オットー・エドゥアルト・レオポルト・フュルスト(侯爵)・フォン・ビスマルク=シェーンハウゼンのように爵位を持つ場合は、フォンの前に入れる。
この場合、「フュルスト・フォン・ビスマルク侯爵」と訳すのは重複表現となるので注意。


●そして現在へ

ドイツでは現在もフォンの名を持つ人はおり、1919年に特権は廃止されたが世襲として名を継承することが出来る。
一方オーストリアでは同時期に爵位は撤廃されており、名乗ることも禁止されているので現在では "von" はつけないのが一般的なようだ。
苗字とするか否かは意見が分かれているようだが、フォンブラウンなど苗字として扱う例も存在する。
現在でもドイツ語で海外の皇族や貴族を表記する際にはフォンと訳されていることも多い。

現在のドイツ語圏外で聞く場合は上記の通り。ドイツ貴族っぽさを出すためにあえてフォンを中に入れる有名人たちもいる。

余談ではあるが、オランダ語のファンは語源を共にするが、こちらは貴族だけでなく一般人にも用いられるので、昔のドイツにおいて貴族のフォンと混同されることがあったようだ。
例えば、ベートーヴェンは祖父がフランドル地方(現ベルギー)出身だったらしく名前にファン*3がついていたので、ウィーンの人々から貴族の出身と勘違いされたというエピソードがあるようである。


●創作での扱い

さて、アニヲタ的な話にやっと移るが、漫画や小説で「フォン」と言う名前を聞いたことがないだろうか?
大体の場合貴族的あるいはドイツ風なキャラクターにつけられていなかっただろうか?

……その理由は、(おそらく)発音が無駄にかっこいいからである。
覚えやすく濁音がないのに重厚で高貴なその響きから貴族的な名前やドイツ的な名前をつける際に使用されることも多く、ある年代の方の中には銀河英雄伝説で知ったケースも少なく無いだろう。
また、ドイツ軍やドイツ国防軍の将校は伝統的に貴族出身者が多く歴史クラスタやドイツマニアだけでなくミリオタ諸氏にとってもなじみ深いものと思われる。
今後もプロアマ問わずフォンの名前を持つキャラクターは増えていくものと思われる。

なお、このような事情は日本だけでなくヨーロッパ圏やアメリカなどの創作作品でもドイツ人や貴族のステレオタイプとして名前に付けられることも少なくないようだ。
ドイツ軍の軍人としての他に、上記のフォンブラウンのイメージから科学者役も多いらしい。

ちなみにフォンの名を持つドイツ人ないしドイツ系の科学者は実際に多いが、彼らに関連したに事項に「フォン・なんちゃら」とつくことも多い。
フォン・ノイマン型計算機とかフォン・シュレンクス・ビターン(オオヨシゴイの英名)とかフォン・コッサ染色法とか…

■フォンの称号を持つ実在の人々

ここでは歴史上フォンの称号を持つ人々をざっと挙げてみる。

●実際に称号を持つ人々

カール・マリア・フリードリヒ・エルンスト・フォン・ヴェーバー(作曲家)
オットー・エドゥアルト・レオポルト・フュルスト・フォン・ビスマルク=シェーンハウゼン(政治家・ドイツ王国宰相。鉄血宰相の異名で有名。)
マリア・テレジア・ヴァルブルガ・アマーリア・クリスティーナ・フォン・エスターライヒ(オーストリア大公)
フィリップ・フランツ・バルタザール・フォン・シーボルト(学者)
ヴェルナー・フォン・ブラウン(ロケット研究者。アポロ計画の中心的人物。)
ゲッツ・フォン・ベルリッヒンゲン(ドイツの騎士)*4
マンフレート・フォン・リヒトホーフェン(ドイツ陸軍軍人・パイロット)*5
ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ(ロマン主義作家。ファウストの作者)*6
アウグスト・ヴィルヘルム・フォン・シュレーゲル(〃)*7
フリードリヒ・フォン・シュレーゲル(〃。上の弟)*8
パラケルスス/フィリップス・アウレオールス・テオフラストゥス・ボンバストゥス・フォン・ホーエンハイム(錬金術師)*9

ブラウンやリヒトホーフェンは男爵である。シーボルトは貴族に列せられているものの爵位はない。

●ステレオタイプなイメージとして自称している人々

ジョセフ・フォン・スタンバーグ (映画監督)
エリッヒ・フォン・シュトロハイム (映画監督)
ラース・フォン・トリアー(映画監督)
フリッツ・フォン・エリック(プロレスラー。鉄の爪の異名で有名。)

上記二名はドイツ系ユダヤ人の移民、トリアーはデンマーク人、エリックに関してはリングネームである。


■キャラクターとしてのフォン

さて、アニヲタ的な話になるが、主にドイツやドイツ風のキャラクターとして名付けられるケースと
貴族らしいアクセントとしてフォンと名前に付けられているケースに分かれる。
そこで紛らわしいが分類してみた。

両者にまたがる(なんちゃってを含んだ)「ドイツ貴族風」「ドイツ軍人風」なんてパターンや、
功績により物語の途中から称号を得たパターン…なんてものもあるので便宜的なものであることには注意されたい。

●主にドイツ人・ドイツ風のキャラクターとして

バロン・フォン・ストラッカー(キャプテン・アメリカ)
バロン・フォン・ブリッツシュラーグ(キャプテン・アメリカ)
エネミーエース/ハンス・フォン・ハマー(DCコミックス)
ルードヴィッヒ・フォン・ドレイク教授(ミッキーマウスとロードレーサーズ)*10
エルンスト・フォン・バウアー(黒騎士物語
イリヤスフィール・フォン・アインツベルンFate/stay night
アイリスフィール・フォン・アインツベルンFate/Zero
クロエ・フォン・アインツベルンFate/kaleid liner PRISMA ILLYA プリズマ☆イリヤ
ルドル・フォン・シュトロハイム少佐ジョジョの奇妙な冒険 Part2 戦闘潮流
ヴォルフガング・クラウザー・フォン・シュトロハイムKOFシリーズ
キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー(ゼロの使い魔
クラウス・ハインツ・フォン・デム・エーベルバッハ(エロイカより愛をこめて
フリッツ・フォン・ブラウン宇宙の騎士 テッカマンブレード
エルザム・V・ブランシュタイン*11スーパーロボット大戦シリーズ*12
ベアトリス・ヴァルトルート・フォン・キルヒアイゼンDies irae
エレオノーレ・フォン・ヴィッテンブルグDies irae
マキナ/ゲッツ・フォン・ベルリッヒンゲンDies irae
クラリッサ・フォン・リヒトホーフェン (uni.)
エリーゼ・フォン・リヒトホーフェン(聖鍵遣いの命題)
ルセリア・フォン・ディアマンテ(巨乳ファンタジー
グラディス・フォン・ワッケンハイム(巨乳ファンタジー
アーデルハイト・フォン・ベルクシュトラーセ(フローラル・フローラブ)
アーデルハイト・リッター・フォン・ヴァインベルガー(時計仕掛けのレイライン)
ノーベルゴールド/プティフール・フォン・ローゼンベルグ(プリズム☆ま〜じカル PRISM Generations!
マリーカ・フォン・ヴィッテルスバッハ(Golden Marriage)
エーリカ・フォン・アウフシュナイター(マテリアルブレイブ)
トロッケンハイト・フォン・メルクーア(天使の羽根を踏まないでっ
蛙の王子/フロッシュケーニヒ・フォン・メーヒェン(絶対迷宮グリム
いばらの王子/ドルン・フォン・リューネ、いばら姫/ローゼン・フォン・リューネ(絶対迷宮グリム
ジークムント・フォン・アルンハイム男爵(髑髏城byディクスン・カー)
コンスタンツェ・アマーリエ・フォン・ブラウンシュバンク=アルブレヒツベルガー(リトルウィッチアカデミア
エリーゼ・フォン・ディートリッヒ(スカイガールズ
アーダルベルト・フォン・丸山(陸上防衛隊まおちゃん
ライアー・フォン・エルティアナ(ダイバージェンス・イヴ)
フィーネ/オルトフィーネ・フリーデリカ・フォン・エイルシュタット(終末のイゼッタ
ユリス=アレクシア・フォン・リースフェルト(学戦都市アスタリスク)
ルーシア・フォン・エルデ・ファーン(黒き英雄の一撃無双)
アリス・フォン・デア・フォーゲルヴァイデ(鋼鉄のアナバシス 死神と呼ばれた少女 )
アデル・フォン・アスカム(私、能力は平均値でって言ったよね!)
エルンスト・フォン・アドラーアカツキ電光戦記
フリドリッヒ・フォン・プルクシュタール(強殖装甲ガイバー
ウェルナー・フォン・ミュラー(ロックマンDASH2 大いなる遺産
エリィ/エリーゼ=フォン=バルバロック(大魔法峠)
エルス=フォン=クラーゲン(XBLAZEシリーズ)
シャルロッテ=フォン=ハノーファー(ステーションメモリーズ!)
ビクトル・フォン・ゲルデンハイム(ヴァンパイアシリーズ)
カール・リヒター・フォン・ランドル(新世紀GPXサイバーフォーミュラ
クラウス・フォン・ヘルゼン(爆丸バトルブローラーズ)
ミハエル・フリードリヒ・フォン・ヴァイツゼッカー(爆走兄弟レッツ&ゴー!!WGP
シュミット・ファンデルハウゼン・フォン・シューマッハ(爆走兄弟レッツ&ゴー!!WGP)
リュディガー・フォン・シュロッタ―シュタイン、アンナ・イルムガルト・フォン・シュロッターシュタイン(ちびっこ吸血鬼
ウリー・フォン・ジンメルン(飛ぶ教室
ゲルハルト・フォン・バルシュタイン、レリック・フォン・バルシュタイン、フェレット・フォン・バルシュタイン(ヴぁんぷ!!)
ルツィエ・フォン・フリッシュ(アクエリアンエイジ
フーベルタ・フォン・ボニン(ストライクウィッチーズシリーズ)
カルラ・G・E・フォン・ローゼン(ストライクウィッチーズシリーズ)
レーヴァント・フォン・シュヴァイツァー(エクシズ・フォルス)
イレーネ・フォン・ローゼンバウム(エクシズ・フォルス)
ヨハネス・フォン・シックザールGOD EATER
エミール・フォン・シュトラスブルクGOD EATER 2
銀河英雄伝説幼女戦記の帝国貴族の皆さん
まるマシリーズの十貴族の皆さん
王立教師ハイネや軍靴のヴァルツァーの王国貴族の皆さん
星刻の竜騎士のゼファロス帝国皇族の皆さん
トリニティ・ブラッドの薔薇十字騎士団の皆さん

●王侯貴族風の名前として

ヴァネロペ・フォン・シュウィーツ(シュガー・ラッシュ
アレクサンダー・フォン・キュモールテイルズ オブ ヴェスペリア
Dr.ドゥーム/ヴィクター・フォン・ドゥーム(ファンタスティック・フォー)
アリーア・フォン・レイジ・アスナガンダムビルドファイターズ
ヒルデガルド・フォン・クローネ(ソウルキャリバーシリーズ)
ミカエル・アウスバッハ・フォン・ロアーヌロマンシング サ・ガ3
ヘルベルト・フォン・カスペン機動戦士ガンダム MS IGLOO
ギルバート・クリス・フォン・ミューア(FINAL FANTASY Ⅳ
バッシュ・フォン・ローゼンバーグ(FINAL FANTASY ⅩⅡ
ガブラス/ノア・フォン・ローゼンバーグ(FINAL FANTASY ⅩⅡ
ジル/アレクトラ・マリア・フォン・レーベンヘルツクロスアンジュ 天使と竜の輪舞
ポリーナ・ミーロヴナ・フォン・シュヴァルツァハーゼ(ハナヒメ*アブソリュート!)
レア=シェリング=フォン=ヴォルフスブルク(トラベリングスターズ)
アイギス・フォン・オルフォビウス(塔の下のエクセルキトゥス)
メヨーヨ・フォン・ガバルディ(BLACK WOLVES SAGA)
オージェ・フォン・ガバルディ(BLACK WOLVES SAGA)
ヴィーノ・フォン・ロンザード(DAME×PRINCE)
ミミ・ウリエ・フォン・シュヴァルツラング(トトリのアトリエ ~アーランドの錬金術士2~
クーデリア・フォン・フォイエルバッハ(ロロナのアトリエ ~アーランドの錬金術士~
イルメリア・フォン・ラインウェバー(フィリスのアトリエ ~不思議な旅の錬金術士~)
ドロッセル・ジュノー・フィアツェーンテス・ハイツレギスタ・フュルスティン・フォン・フリューゲルファイアボール
ナギ・ヴァルハルト・フォン・ノースメイア(アイドリッシュセブン)
リベール王国の王族の皆さん(英雄伝説 軌跡シリーズ)
エーデルガルト=フォン=フレスベルグを始めとするアドラステア帝国貴族(ファイアーエムブレム 風花雪月)

●その他

エブラ・フォン(ダレン・シャン) - 前置詞でもなんでもなく「フォン」が苗字。あまりに中途半端なので名乗る度に「フォンで終わり?」と聞かれる。
蜂王フォン・ニードバトルスピリッツ) - 王侯貴族風なのは確かだがつづりが「Fong」。
ルーク・フォン・ファブレテイルズ オブ ジアビス)- 英語スペルだとLuke fone Fabreとなっている。もともとスペルがこうだったのか英語発音を重視したためか(vonは英語だとヴォンヤボン
が多い)は不明。

追記・修正は称号を名乗ってからお願いします。

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最終更新:2025年05月03日 10:33

*1 エルベ川以東に成長した地主層を起源に持つ貴族。「ユンカーとはドイツ貴族」は正しいが「ドイツ貴族全てがユンカー」とは限らないので注意されたい。

*2 敬称としても用いられる

*3 日本語ではルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンの表記が一般的だが、ドイツ語ではルートヴィヒ・ファン・ベートホーフェンに近いようである

*4 鉄腕ゲッツ。Dies iraeのマキナやベルセルクの元ネタ

*5 通称レッドバロン。WW1のエースパイロット。DCコミックスのエネミーエースの元ネタ

*6 列せられたのは1782年から

*7 列せられたのは1812年から

*8 列せられたのは1814年から

*9 鋼の錬金術師ヴァン・ホーエンハイムとある魔術の禁書目録アウレオルス=イザードの元ネタ

*10 正確にはオーストリア系。なお、英語圏ではフォンではなくヴォン

*11 V=Von

*12 ちなみに彼の弟であるライディース・F・ブランシュタインは現行の設定では「実家と縁を切った際に貴族階級である「フォン」(V)を捨て、義姉の姓であるフジワラ(F)をミドルネームとして名乗るようになった」となっているが、実は最初に設定した際にvonの綴りを誤解してミドルネームをFとしてしまったという経緯がある。