「… この写真の少女か? 探して欲しい娘っていうのは。」
探偵倶楽部の主、探偵、
ミラビリスは机に置かれた一枚の写真を手に取る。
そこには、おそらく十代半ばぐらいの聖ステラ学院の制服を着た赤髪ツインテールの少女が写っていた。
「…はい、私の可愛い娘なんです。 家出をするような子ではないのですが…。」
―――――――… 物語は、とある少女の捜索願から始まった。
「え、公安の方での捜索の進展? … っつっても、俺、こういう書類ごとはあんまり…。」
ちょうど倶楽部に来たばかりである、メガネかけていた公安の男…、通称、
キースは探偵の持っている写真を目を凝らして見た。
「… どうだ? この子の情報とかはなかったか?」
「… んー、情報も見たこともないかもしれないしあるかもしれない。
なんせ、このどりるん少女がいなくなったあたりって、この頃行方不明事件多いんだよなー。
公安も厳重に監視してるはずなのに、犯人捕まらねぇの。」
「… 行方不明事件?」
―――――――… そこから見つかる、連続行方不明事件…。
「… おい、あんただろ。 さっき
ルーシー嬢に乗り移って操ってたの。」
物陰に潜む男に、探偵は眉をひそめて声を低くしつつ尋ねる。
その様子に参ったと言わんばかりに両手をあげ、影から出てきたのは人の良さそうに笑う緩い天パの青年であった。
「いやー、悪気はなかったつもり…。 ゴメンネ。 ちょっと気になっちゃって。」
「… 気になる? そういえば、確かさっき、あの子の話でうろたえてたみたいだが…。」
「… …だって、行方不明とかさっき聞いたんだよ、俺。 その子…、
アーネちゃ… 鐘里天音ちゃんだろ?
あの子、そんな簡単に誰かに捕まるような子じゃないし。」
―――――――… 少女をよく知る謎の青年は語る。
ひらりと少女が映った写真を手で弄ぶ金髪の女性。
その写真を眺め、ちらりと探偵の方を向いた。
「… この女の子を、コンビナートが攫ったか、って?」
「ああ、一応、聞いておきたくて。」
「… ……組織のことを、あんたに言うとでも?」
「… だろうなぁ。」
もう一度、コンビナートの人工疾患者である女性、カルディアは写真を見た。
その様子をチラリと見つつも、探偵は紅茶を傾ける。
「… 現場予測のあたりじゃ、コンビナートは活動してないな。完全な穴場、ってところか。」
ぼそり、と呟く。
「証拠が残ってるなら、たぶん、蛇頭のところでもねぇよ。あそこは優秀な“情報消し役”がいるからな。」
―――――――… これは疾患者を狙う組織の犯行か?
「わっ、
レグルスくん。どうしましょう…。 雨、降ってきたみたいですし、風も吹いてますね…。」
「困ったなぁ…。どうする? ルーシー。 傘、僕たち持ってきてないよね?」
「… このまま走って帰っても、買った物も私たちもずぶ濡れになりますよね…。」
「… ……僕のチカラで雨、止ませようか?」
「や、やめとておいたほうがいいですよ…! ここ、人が多すぎますし…。」
そう言い合う二人の背後の扉、つまりは屋根を借りて雨宿りをしている花屋の店の扉がガラリと開く。
その音に驚いて振り向くと、少し緑がかった金髪の、少し怖めの医療用眼帯をした男が出てきて、ふわりと二人にタオルをかけた。
「… おーい、そこのガキんちょども。人の店の前で雨宿りすんなら中入れや。
店前で寒がってるのは見てて気になっちまうよ。 … 今なら、あったかいココアも出すぞ。この雨、1時間ぐらいすりゃ止むっぽいしなー。」
そう言って、彼はニカッと笑って見せた。
―――――――… 重なっていく偶然。
探偵は、おそらく少女がいなくなっただろう場所へと来ていた。
そこは何の変哲もない路地裏であった。そこにはいろんなものが山積みに置かれており、脇あたりに少し雑草が生えている。
そこには、何もない、 … はずだった。
「… ?、 黒い、土? それに… この壁についてるのは… 。」
―――――――… 分かっていく物証。
「よぉ! ミラビリス! … お前さん、何してんだよー? なんかの仕事か?」
ひらりと手を振り、カランコロンと下駄を鳴らしてくる和服の男性。その腰には木刀がさしてある。
「… 誰かと思えば、
ハーメルンの風来坊か。ま、探偵のな。 … そういうあんたは、またフラフラと歩き回ってるのか?」
「いつも俺が賭けやって金を摺ってるなんざぁ思うなって! 俺ァ今、勧誘してんだよ。 か・ん・ゆ・う!」
「…ナンパか?」
「まー、ナンパできそーな美女とかだったら俺も乗り気なんだけどよー…。
ふつーの金髪の男、だな。男。 いいツッコミになってくれそうなやつ!
花屋をやってる男なんだけどよぉ、電車の時にけっこー活躍してたやつなんだよなー。」
「…っ!!、 … 少し、詳しく話を聞いてもいいか? 気になることがあって。」
―――――――… そして、重要参考人。
ごそっ、と土が盛り上がる音が聞こえた。ルーシーがその小さな音に反応してそちらを見る。
すると、温室の花壇から、白くて綺麗な、『手』が生えてきた。
ごそ、ごそ、ごそごそごそごそごそごそごそごそっ。
よく見れば、花壇のいろんな場所から白い手が『生えて』くる。
「… ひっ!?」
そしてその白い手が土をかき分け、姿を現した時、ルーシーは小さな悲鳴をあげた。
それは、土の中から人が現れたからではない。その人に植物が生えていたからではない。
… 土から出てきた人たちが、見たところとても穏やかそうな顔で笑っている、異様な表情だったからだ。
探偵はその様子にギリッと歯をかみ、目の前の男を睨む。
土の中から出てきたのは、連続行方不明事件の被害者たちであった。
赤髪ツインテールの少女も、その中に入っている。
「… なるほど、な。 これが… あんたの『楽園』の正体か。」
「―――――――… みーんな、安らかな顔だろ? 悩みも不安もない。俺が最初見た時よか、断然いい顔してるじゃねぇか。」
花屋の男はニヤリと笑って、シャベルを軽い物のように片手でブンと振る。
すると、温室にあった植物たちはそれに合わせるようにうねりをあげた。
「… 楽園へようこそ。 俺は歓迎するぜ? 誰でも、な。」
―――――――… たどり着いた犯人。 しかし、彼は… ……。
「ち、 …がう。」
ぽつり、と呟いた。彼の手からガチャンッ、とシャベルが落ちる。
「ちがう。」
「違う…ッ!」
「違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違うッ!!!」
先ほど見せたような冷静さはなく、狂ったように彼は自分の頭をかき回し、否定の言葉を続ける。
その目には迷いが残っており、震える唇を噛んだ。
「… 葉隠、お前は―――――――。」
「うるせぇっ!黙れぇぇぇええええぇぇぇっ!!」
探偵が話しかけようとするが、その言葉を制する。
彼の迷いが、戸惑いが、恐れが、不安が、 … 植物にまで反映したかのように、不規則な動きを始めた。
「… 違う、 そんなこと、 ない。」
植物がぐるぐると不規則な動きをしていたが、ふとした瞬間にある一点に矛先が集中した。
「そんなことないっ!! … 未亜、は。 未亜は… っ!!」
その一点とは、 … 彼が愛してやまない、『恋人』に向かって、 植物が一斉に伸びる。
「 未亜 は 生きてるっ!!! 俺と同じように蘇ったんだよっ!! そんなはずはねぇんだ!!」
『恋人』の体に植物が巻き付き、どんどん、どんどんとカサを増して大きくなる。
そして植物でできた、顔のようなものは温室中に響くような低い唸り声をあげた… ―――――――。
「東都探偵倶楽部事件簿:ファイル1 《~楽園の花編~》 (※嘘予告)」
プルルルルルッ プルルルルルッ
ガチャッ
「… こちら、実験体番号109番。 標的を発見したわ。」
「これより、狩りを開始します。 命令を。」
(>>続かない<<)
最終更新:2016年01月08日 13:50