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「東都探偵倶楽部事件簿:ファイルXX《ガイノイド》(※嘘予告)」

「見なさい、この縫い針の先についた赤い液体を――
 見なさい、あなたの指先から零れ落ちるものを――

 あなたは人間だ!
 人間だ!
 人間なんだ!

 ガイノイドなどという、
 頭のからっぽな、ものを考えぬ、
 美しい人形などでは断じてない!

 愚かしく哀しみ、汚らしく怒り、
 卑しく笑っては、ぬか喜びにひたる、

 人間だ!

 醜くなれ、エリザヴェータ……
 あなたは……あなたは人間だ……どうしようもなく人間だ、

 人間なんだ!



 春のうららかなある日、ひとりのガイノイドが故障した。



「『ガイノイド』が恋をした?」
「ええ。なにやらしきりにパン屋に通ってましてね」
「パンに恋をしただけでしょ。アンタが前にやったメロンパン、やけに気に入っていたじゃないか」


「……恋。だと思う」
「恋? まるでメロンパンみたいに甘い、すてきなこの昂ぶりを、恋と言いますの?」
「…………。それは、捨てたほうがいい」
「なぜ?」
「不幸な未来が、ある」


「選択肢はふたつ」

「逃げるか、捨てるか」

「どちらも、不幸な未来」



「――『ガイノイド』が失踪した!」



「馬鹿な」
「あれにそんな感情はない!」
「プログラムされていないはずだ!」



「“司祭”。君の記憶操作は不完全だったようだな。責任は負ってもらうぞ」
「感情までは制御できませんよ。……それより、責任を負うべきは他にいます」
「ふむ?」
「二年前の『ガイノイド』暴走事故――あのときのガイノイドの世話役、誰でしたっけ」
「それは――確か――」



ギルテ=モルグン。上からの召喚状が来ている」



「ガイノイド抹殺司令の総指揮官だって? 随分とお株が上がったねえ」
「汚らわしいベツレヘムの犬め」
「いい情報をあげるよ。命令が変わった」

「生け捕りもありだ」

「記憶はリセットして、二度と会えないけどな」

「どっちを選ぶんだい、“お父さん”?」



「ほとんどはじめまして――かな。
 俺はミラビリスと呼んでくれ。
 ミス・エリザヴェータ、ミスター・国井、あなたたちの国外逃亡に協力することになった」

公安33課が全面協力、しますっ」

「ど、どうしてたかが女の子ひとりと高校生に公安が出てくるんですか! それに国外逃亡って――」
「大企業の御曹司さん、ですよねっ。ご存じじゃないんですか?」




「はじめから――彼女を殺すつもりだったのか、カルディアさん……!」
「ギルテ=モルグン、頭を冷やせよ。
 たかが『ガイノイド』に多額の資金を費やした結果がコレだ。
 ガイノイドプロジェクトは閉鎖。不要になった個体は処分。
 オレとてアンタをむざむざ殺したくないんだ。
 命令を出せよ、総指揮官。

 出せよ。
 命令を。

 ――――偽善者がぁッ!!」





「構えは」
「手首の骨の延長に、銃身と銃口がまっすぐに伸びるように」
「支えは」
「親指の付け根で」
「発射後リコイルの衝撃は」
「肩で受け留め、る」
「完璧です、エリザヴェータさん。本当にあなたは成長した」

「狙いを定めてください。
 そう。あとは引き金をひくだけだ。
 銃とはそういう武器なんです。
 誰でも、簡単に、人を殺せる武器です。
 たとえあなたでも――あなたでもです、エリザヴェータさん!」




 私は。
 人間になんて、なりたくなかった。
(人間になれて、とても幸せだった。)



「――いっしょに遊ぼうよ。
 外の世界は楽しいよ、エリザ」





「東都探偵倶楽部事件簿:ファイルXX《ガイノイド》(※嘘予告)」

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最終更新:2016年01月09日 00:16