標準に従って(?)仕切り線で次の人へ。
- ティッシュ配りから始まる恋もあるよねということで。異能アイルがティッシュを配るだけのリレーです。
- 受け取るもよし、通りすがるもよし。見守るもよし。
- あまり難しいことは考えなくてOKです。自分も考えてません(←)
ティッシュを配るだけの簡単なお仕事というものがある。
やることはダンボール数箱分のティッシュを配る。それだけ。あとは冬の寒さと夏の暑さに耐えられるだけの体力と気力さえあれば勤まる。
ここにも一人、冬の寒さを我が身に課せられた試練とし、ひたすらティッシュを配る女が居た。
ただ手を出すだけではスルーされる。図々しいぐらいに、相手の進路の前に出て視線のちょうど先にティッシュが見えるように。
こうすれば、人間は反射的にティッシュを取ってしまうのだ。初日に先輩に叩き込まれた極意である。
今日も順調だった。文字通り飛ぶようになくなるティッシュ。風邪の時期、鼻をすすっている人が多い。そこに差し出されたティッシュの束。まさに救世主が如しである。
ティッシュ配りの女、アイラ・ミルシュピルンは黙々と業務をこなしていた。あと、自分に課せられた使命も。
ティッシュには2枚の紙片が入ってる。
一枚は広告。当然だ、別にボランティアでティッシュを提供しているわけではない。
他にもう一枚。アイラが夜なべして作った「使徒の標」が入ってる。
使徒の標にはこう書かれている。
「アイオーン・ソフィアの名のもとに、使徒よ集いたまえ。 この言葉に心打たれたる者は、標を手渡した者に名乗り出よ。私は何時もここにおり、貴方を待っている」
コピー?なにそれおいしいの全部手書きに決まってるだろうがよ。
作るのもアレだがこっそりティッシュに忍ばせながら配るのも手間がかかる。
ティッシュを取るその手は使徒のものか。俗人のものか。あるいは、悪しき世界を作りし邪神の眷属か。
今日もアイラはティッシュを配る。善き世界を導く者として。時給800円で。
「この辺りの通りを適当にブラつけだって…?意味が分からん…まあいい。いつもの命令よりは楽だ。」
時は夕方。
サルクは愚痴を言いながらボテボテと歩いていた。サラリーマンの帰宅ラッシュの中、流れに逆らうようにして道を進んでいく。どこか荒っぽい雰囲気の青年が、1人だけ逆方向に歩いているのはなんとも不自然な光景であった。しかし、通りを歩く人達は誰もそれを気にしない。
それはサルクが『不自然な青年の行動という事件』の証拠を抹消していた為であった。
「……暇だ。」
サルクは歩きながらボソリと呟く。丁度その時、「どうぞ」という声という声と共にティッシュが差し出された。それを無視して行こうとしたが差し出された位置は絶妙であり、無視するには露骨に避けるしかない。結局ティッシュを受け取る事にした。わざわざ避けるのも面倒くさいと思ったからだ。
サルクはティッシュに入った広告を見る事にした。大した情報でもないだろうが多少は暇潰しになるだろう、と。
すると、ティッシュの中にはどうやらもう一枚紙が入っているようだ。その紙を読んでみると…
「アイオーン・ソフィアの名のもとに、使徒よ集いたまえ。 この言葉に心打たれたる者は、標を手渡した者に名乗り出よ。私は何時もここにおり、貴方を待っている」
意味不明な内容。しかも手書きである。
「…ふっ」
サルクはその紙を見て鼻で笑い、その内広告にも飽きたのかティッシュを見るのを止め、手に持ったままトボトボと歩みを進める。
…偶然近くを通った人の財布を抜き取り、代わりに先程のティッシュを差し込みながら。
「チッ…しけてやがる。能力持ってなかったら、絶対やろうと思わねーだろーな」
青年は能力を行使して証拠を抹消しながらそう呟き、この通りを去って行った。
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G国生まれの両親譲りの白い肌に、銀色の髪。
ここN国ではなかなかお目にかかる機会は少なく、それ故に周囲の目を引き、時に威圧的な雰囲気すら漂わせる。
雑踏を歩けば何人かは、興味と畏怖の視線とともに振り返るが、当の本人がそれに気を止めることはない。
いつも通り、ヘッドホンから僅かに音漏れをさせ、両手を白いダウンベストのポケットに突っ込んで、人混みの間を縫うようにして歩く、無表情な〝死体〟。
音漏れするほどの音量で両耳を塞いでいれば、人混みの雑踏も何も聞こえない。
「―――…!」
唐突に、ずい、と自分の目の前に差し出されたティッシュ。
気付かずにそのまま通り過ぎようとして、ティッシュを差し出している手にぶつかってしまった。そこで初めて、目の前の状況に気付き、一瞬足を止める。
手の主は、自分とそう歳も変わらないであろう少女だった。
「……?」
反射的、という言葉が相応しいように、何気なく、差し出されたティッシュを手に取ってしまった。普段の自分であれば、まず無視して通り過ぎるところだ。
「―――」
少女の口元が僅かに動いたのが見える。
相変わらず大音量でダイレクトに響く音に遮られ、声は一切聴こえない。が、唇の動きから、「ありがとうございます」と言われたのは辛うじて分かった。
行く手を遮る手が引っ込められたところで、再び〝死体〟は歩き出す。
受け取ったティッシュに視線を落とすと、繁華街でありがちな『如何わしい高額バイト』の広告。…の下に、もう一枚紙が入っていた。
――アイオーン・ソフィアの名のもとに、使徒よ集いたまえ。 この言葉に心打たれたる者は、標を手渡した者に名乗り出よ。私は何時もここにおり、貴方を待っている――
プリントされた文字ではなく、ご丁寧に手書きで書かれたらしいそれ。
しかし、
ルフェウスはもう一度、その紙を一瞥する。
「………意味が分からない…」
無機質な言葉が漏れた。
丁度進行方向の道端に、自販機に備え付けられたゴミ箱があったので、そのままティッシュをゴミ箱に放る。「ビン・カン・ペットボトル専用」と書かれてあったが、気に留めることもなく。
どうやらこの〝死体〟は、紙の主が言う〝使徒〟ではなかったようだ。
「ちょーっと待った!!」
ぱしっ。亜麻色の髪をなびかせて、ゴミ箱行きの運命であったテッシュを救出…
もとい、華麗にキャッチした女性がいた。
そうして、それを放り込もうとした主に向き直る。
「もったいないことしないのー!
受け取っちゃったからには、ちゃんと使ってあげなさいよ!
それに、ちゃんと分別しなさい分別!」
もー、と言いながら相手にまくし立てるも
「あっ…… えっと、CAN YOU JAPANISE? えっと…… NO MOTTAINAI」
相手が日本人でなさそうだと見てとれば、
突然のカタコトが飛び出る程度の語学力のせいだろうか。
それとも、可愛い猫耳のついたヘッドホンから漏れ聞こえる音のせいだろうか。
有瀬芹亜はティッシュを手にしたまま、雑踏に紛れて行く相手を見送ることしかできなかった。
「ピリッ」とした。
この国に来てから時折味わう感覚。頭の芯を針で突かれるような感覚。
アイラは思わず顔を上げた。視線の先にあるのは、先程ティッシュを受け取った青年。
何をやったかは分からない。だが、あの青年は「ピリッ」とした。
足を踏み出したが、もう遅い。雑踏が彼と彼女を遠く隔てた。
「ヘマイトスは言った。 『人の一生に出会う人間は無数である。 そのうち生涯を共にする者は片手で充分である』」
「さるく」という音が頭の中に響いた。青年の名前だろうか。
これ以上は知ることができない。距離が離れすぎているのか、あるいは安易に力を使うなかれという神の戒めなのか。
実のところ、アイラも神より賜りし御力を使いこなせているわけではない。まさに奇跡と言うべき現象を起こすこともあれば、手足を使ってやった方がましだった、ということもある。
あの青年は、無数の一人にすぎないのか、あるいは自分の掌に収まるのか。
頭と裏腹に、体は決まった動作を繰り返す。
通行人に目星を付ける。進路を(あからさまでない程度に)塞ぎ、視線の先に来るようティッシュを差し出す。
今度の通行人は、明らかに他と異なっていた。
耳にはめた器械から漏れる音。音楽だろうか?「シャカシャカ」という耳障りな音しか聞こえない。少なくとも聖歌ではなさそうだ。
白い肌に銀色の髪。N国では全くと言っていいほど見かけない色である。
首尾よくティッシュを受け取ってくれた。この点は他の通行人と変わらない。
「ありがとうございます」
母から最初に教えてもらった言葉だ。N国の言葉で「tenk taa」にあたる。
雑踏に消える後姿を見送りながら、アイラは聖書の一節を呟いた。奇跡を求めるのではなく、純粋に口をついて出た言葉だった。
「神は地に這う者に名を問われた。地に這う者は言った。『我々は多すぎる』」
「あっ、どうも…」
基本押しに弱い少女は、差し出されたティッシュを受け取ってもごもご礼を口にし、歩きながら広告を見る。
しばらく社会から隔絶された生活を送っていた彼女は、最初はタダでティッシュくれるなんて親切だなー、なんて思っていた。
もちろん親切でくれているわけではない、と教わった時は驚いたものだ。
それからはなるべく受け取らない様に…と思ってはいるのだが、結局断れずもらってきてしまうのである。
そんなことを考えながら歩いていたせいか、広告が二重になっているのに気づくのはだいぶ遅れた。
珍しいな、と思ってめくってみると、二枚目は手書きの文字。
「……アイオーン…? 使徒…?」
そう呟いていた時には、自然と足が止まっていた。かなり困惑した顔をしている。
だが振り返っても、ティッシュ配りの人はもう見える位置にいない。
「……、広告配りに見せかけた新興宗教の勧誘…?」
真っ先にそんな考えが浮かぶ。
「…
ミラビリスさんに報告してみた方がいい、かなぁ」
「ちょーっと待った!!」
大きな声が上がった方を見る。先程の銀髪の女性。に、亜麻色の髪の女性が何やらまくしたてている。
ティッシュを手にしていた。声の調子からして、銀髪の女性を咎めているようだ。
アイラは確信した。彼女はこう言っている。
「標を粗末に扱うべからず」
間違いない、彼女は使徒だ。
胸が高鳴る。N国で伝導を始めてからどれぐらい経っただろう。期待に反して標を手に現れる者は居なかった。
だが見よ、継続は力なりである。
アイラは力強い足取りで女性の元に向かった。
勿論、業務を疎かにすることはない。ティッシュを何個か持ち、配りながら行くのだ。
途中、一人の少女に目が行った。流れるような動作でティッシュを差し出す。
僅かに躊躇した様子があったが、拒否することなく受け取ってくれた。
自分より何歳か年下だろうか?何故か彼女には目を惹くものがあった。
少し口ごもるような礼に、笑顔を向ける。彼女に何か感じるところがあれば、標を手に現れることだろう。
雑踏を掻き分けながらティッシュを差し出す。
もう一歩踏み出せば手が届く距離になった時、亜麻色の髪の女性に声をかける。
「ようやく会えましたね、第二の使徒。 私はアイラ・ミルシュピルン。洗礼名は
アイルナッシェ。 貴方の、神より賜りし名を教えてください」
ティッシュ配り。このN国では首都圏や大きい都市の駅では比較的よくみられる活動のひとつ。
一見するとただで消耗品を配り歩く慈善事業だが、その狙いは同梱した広告にありそれを見てもらう事によって売り上げを伸ばそうという会社の涙ぐましい努力の一つの形。
しかし一方で貰う側の立場からしてみれば広告は無視すればそれ以上は何かあるわけでもなくかなり大盤振る舞い的な広告手法じゃないかなんて、
素人の私でも思ってしまうせいなのかは分からないけれど。少し前に比べればだんだんと数を減らしてきているような気がする。
少しは広告の効果を増やそうなんて目論みなのか、ポケットティッシュではなくボールペンとパンフレットを透明な袋に入れたものとかを配る旅行代理店などを代表とした亜種が存在するけれど、
やはりそれは邪道と言わざるを得ないだろう。ポケットティッシュはポケットティッシュだから良いのだ。消耗品で、かさ張らず、あればちょっとした時に便利。
私は直接知らないけれど、きっと色々な試行錯誤と淘汰を経てこの形に落ち着いたのだろうと思う。
そう考えるとなんとなくこのまま無くなってしまうのも寂しかったり不便だったりするような感じもあって。
——つまり、何が言いたいのかというと。私、
シンディ・マクドナルドはポケットティッシュを配っている所を目にしたら基本的に貰いに行く事にしているのだ。
今回ティッシュを配っている人はなかなかに手慣れているようで、無理なく無駄無く受け取りやすい位置にすっと差し出している。
これがまだそこまで手慣れていない人だと不自然ではないように貰いに行くのも結構大変で、場合によっては純粋な女学生のフリをして「ご苦労様です♪」なんて小芝居を挟まないといけない時すらある。
——いや、フリをしてというか、私は純粋な女学生そのものではあるのだけれど。この聖ステラ学院の制服は伊達ではない。多分。
そんな事を考えながら、ティッシュを配っている彼女の前を通る人の流れに乗った私は着々と距離をつめていく。
二つ前の人はスルーした。目の前の人は受け取った。補充で一度手が引っ込むから、僅かに歩調を緩めてタイミングが合うように調整する。3、2、1——
——!?
狙い通りに差し出されたポケットティッシュ、その裏面に指が触れたか触れないかくらいの瞬間。ぞくりと何が寒気のようなものが背筋を走って、思わず私は動きを止めた。
——これを受け取ってはいけない。直感的に浮かんだ考えに従って、進路を半歩ずらして何事もなかったかのように歩き出す——いや、歩き出そうとした。
その進路を塞ぐように差し出されたティッシュさえ無ければ。
通常こういうティッシュを配っている人というのは、上級者程1人の通行人に固執しない。
十分な通行量があるのであれば、なかなか受け取ってくれない1人も簡単に受け取ってくれる1人も同じ1人である以上試行回数を増やした方が最終的に配れる量は多くなるからだ。
そしてこの人は間違いなくティッシュ配りのベテランで、少なくともつい先ほどまではそんな動きをしていたと思ったのに。
なのに。
なぜか。
私の行く先々へ回り込んでティッシュを差し出してくるのはどういった事なのだろう。
回り込み、すり抜け、フェイント。そんな攻防を一体どのくらい繰り返したのか。それは1秒だったのかもしれないし、もしかしたら20秒くらいやっていたのかもしれない。
とにかく、しびれを切らせた私は両手が空いているというメリットを最大に生かす事にした。
とはいえここはあくまで人目の多い場所。手荒な事や無茶をするわけにはいかない。
そして手は空いているとはいえ、だからこそ迂闊な動きをしては即座にその手にティッシュを握らされていたなんて事も起こりえるだろう。——考えろ。今、私が取りうる手段は……!
「あっちむいて、ほい!」
こちらを見る女性の目の前に人差し指を突きつけて。右、にぴくりと動かしてから大きく左へと。視線を誘導できればその隙に距離を取ろうと、私はあっちむいてほいを仕掛けた。
最終更新:2016年01月17日 23:13