《 注意 》
・この小説は、[[東都探偵倶楽部事件簿:ファイルX 《~Neighborhood of parallel lines~》 (※嘘?予告)]] を元にした、結崎七日さん・ひとしろさん、千颯による[[リレー小説]]です。
・[[カルディア]]さんとミラビリス、[[コンビナート]]、東都探偵倶楽部、[[ネイバーフット]]あたりが中心となります。
・「----」で区切ったら次の人へ回す合図になります。(※環境によって表示は違うかもですが、テキストそのままではなく、仕切り線タグが挿入されます)
・順番、長さは適当です。書けたら繋げていきましょう。
・自キャラの登場シーンだけは、PL様本人が書いて頂けると助かります。
- 小説内に出してもいいよ! というPCさんを募集しております。出していいよ、という方は、twitterで千颯までDMorツイートして頂く、もしくは下の《 出演OKPL・PCさん 》のところに書き込んで頂けると嬉しいです。
なるべく登場させたいと考えていますが、話の都合上出せない・僅かしか出せない ということもあります。申し訳ありませんが、ご了承下さい。
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筆者同士の補足、質問ページ(注・大いにネタバレあり) |
こんな行動をしたいんだぜ、とか、ここの場面はそういうことなんだぜ、とか、
バトンを渡しやすくするための補足や質問どうでしょう。
Q.なぜ内臓その他消えてるの。
A.蘇生の際に犠牲者の身体細胞を大量に使うから。
骨ももろくなってる部分が多々あります。
Q.今回の手口は。
A.売春してた生徒に直接声をかけて公衆トイレに呼び出した。
第六疾患者であることは事前に何らかのルート(ふんわり)で知ってた。
自殺道具は長い針なので、男自身の出血はほぼ皆無。
もちろん回収済み。
Q.被害者は誰ですか。
A.モブ疾患者です。聖ステラ学院の女子高生です。
学年は決めてないですが二年生ぐらいじゃないかな…?
売春以外は真っ当な世界に生きてたので、中野総合病院に通院歴あってもおかしくない。
Q.連続殺人事件の共通項は。
A.事件はT都とその周辺区域に集中している。(移動時間の関係)
すべて第六疾患者が狙われている。
人目のない場所を選んでいる。
たいてい、近くに水場がある。公衆トイレ、川岸、マンションの一室など。
そうでない場所でも水浸しになっていることが多い。
(蘇生直後は被害者の血を浴びているため、身体を洗ってから現場を出ている)
腹~胸あたりから真っ二つに裂かれていて、内部の身体組織が大いに欠損している。
容易に死体を片付けられる環境でも、敢えて死体を放置している。
(第六疾患者を狙っていると見せつけるのも目的のため)
Q.ネイバーフットその他との繋がりは。
A.「第六疾患者の危険性」を知らしめ、
第六疾患者や有力者間に不信感を生むことも主な目的でもあるため、
ネイバーフットは行動をある程度は把握している……と思う(*´∀`)
ターゲットだけ殺しても無問題か確認を組織にとって、場所や時間は自分で決めています。
一時的な滞在や隠れ蓑に、組織が抑えている部屋とか使ってるかもしれない。
普通に殺すだけならもうちょっとうまい方法があります。
しかしどう見てもこの殺人方法は常人ではなく、
見る人が見れば一発で第六疾患者の犯行だとわかりますから、見せしめにはぴったり。
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「気が進まねぇ……」
昼下がりの窓から注ぐ光が室内を照らす中、〝探偵〟ミラビリスは本日何度目になるか解らぬ溜息を落とした。
時間が時間であるため、助手たちは学校に行っていて不在。それ故に遠慮なく声に出しての愚痴であるのだが、それにしても多い。伝承の如く溜息によって幸せが逃げるのならば、たっぷり半年分くらいの幸せを逃した後で、ミラビリスはぐったりと項垂れた。
「それでも、受けないわけにはいかねーんだよなぁ。 ……妨害されるよりマシと思うしかねぇんだろうけど」
しみじみ言って、また一つ幸せを逃がす。いい加減に覚悟を決めなければならないと思いつつも悩むのは、依頼人があまりにもな存在だったからで。それでも断れないのは、案件が自らに直結するものであるからで。
だからこそ、ひたすら溜息と一緒に鬱々とした気分を追い出そうとしているのだが、いまのところそれが成功しているようには見えなかった。
何度も目を通した資料に、再び目を向ける。
ここ最近話題となっている連続殺人事件。その資料が、そこにはあった。場所も、時間も、被害者も、全てがばらばらに思われる、ただ手口だけは間違えようもないほどに特徴的なもので、それが『連続』殺人であるという証拠にもなっている。
……いや、もう一つ、一般人には知らされていない共通点が、そこにはあった。
即ち、『被害者は全て疾患者である』ということ。組織も、異能の種類も、何もかも異なるとはいえ、それは確かな事実で。
だからこそ、『あの組織』が動いたのだろうけれども。
あいつらも、と。思い浮かべる知り合いの疾患者たち。幸いと未だ被害には遭っていないものの、楽観はできない。
気の乗らない重い手つきで書類を作成し、新しいファイルを取り出して、一部コピーしてそれに挟む。そうして、書類的な手続きを終えて、ミラビリスは立ち上がった。
「まさかこの俺が、一時とはいえ『コンビナート』と手を組むことになるとは。本当、気が滅入るぜ」
しみじみと重い息を吐き出して、コートを手に歩き出す。
事件は、未だ始まったばかりだ。
右ひざを上げる。足首を肉から引きずり出し、地面につく。
左脚も同様に肉から出す。
夜の住宅街は静かだ。公園の公衆トイレならなおさら。
男のほか、誰もいない。足元のスポーツバッグを拾った。
ファスナーを開ける。ハンドタオルを取る。
ハンドタオル越しに落ちた服を集める。
服はふくらみを持っていて、抜け殻のようだった。
「…………」
男はやおら振り返った。
女の死体が転がっていた。
狭い個室だ。壁にもたれかかり、ずるずると血痕を引き摺っていた。
腹から胸にかけて真っ二つに裂かれている。
首元や、硬いはずの顎までも粉々に砕け、眼球があらぬ方向にあふれていた。
「……ふふ」
ほんの少し、口元がゆるんだ。
あの体内を支配した高揚感に襲われる。
無理やりこじ開けた帝王切開と、見事に揶揄したのは誰だったか。
気色悪いほど己を観察したがっていた研究者だったか。
思い出せない。“産まれる”前の記憶は、常に靄の中だ。
バッグを肩にかける。ビニールが素肌に触れる。冷たい。
男は個室から出た。手洗い場が三つ並んでいる。
掃除用具入れからホースを取り出し、繋げ、死体のある個室に伸ばす。
蛇口を全開までひねる。
あとには、死体だけが残された。
“XX/XX XX:XX 近隣住民の通報で遺体が発見される。
場所は某区住宅街の公園の公衆トイレ。木々の陰になっており、見通しが悪い。
被害者は同区在住、聖ステラ学院の生徒XXXXX。
足跡は消された上に水が撒かれ、判別は困難。
犯行手口は連続殺人事件と同様である。
生徒のSNSから売春行為が発覚した。
近年、裕福な家庭の子女が刺激を求めて売春に及ぶことがあり、犯罪の温床と――”
(某警察の報告書より)
“「綿抜き殺人またも被害者」
T都に伝染する恐怖。
遺体からは、まるでぬいぐるみの綿を抜くように、内臓の大部分の他、骨など身体組織の一部が消えていた。
変わり果てた娘の死体を前に、遺族はただ言葉を失うばかり云々。
異常嗜好者説が有力だが、一部では宇宙人による犯行とまで囁かれており云々。”
(某週刊誌より)
――えー、近年増加している若者の売春行為ですが……。
――そうそう、インターネットの掲示板を通じて募集したりするんですよ。
――当日、女子生徒と犯人がやりとりした形跡は?
――それがないんですよ。犯人は、被害者と直接コンタクトをとったものと思われます。
――なら近い関係なんでしょうかねえ。
――そうとも限りません。ああいうのは専門業者や暴力団などと繋がってますから、誰かが仲介したのかも。
――現代の若者は物質的に恵まれていても孤独を抱えていて云々。
――深夜に徘徊する女子高生たち。彼女らの心の闇に迫ります……云々。
(昼のワイドショーより)
“被害者は、第六疾患者である。”
(某組織の報告書より)
――『 』、あの…
……懐かしい、記憶だ。
――何、またテスト?学生は大変だよね
――『 』だって学生だろー
――あたしはいいの、ちゃんと勉強してるから
ゆらゆらと、夢幻を揺蕩うような感覚に、ゆるりと手を伸ばす。
ああ、懐かしい。もう、随分と遠い記憶に感じる――
――ほら、またクッキーでも焼いてやるから頑張れよ
――マジ!?ならやる!
――ったく、現金なこと
――ほら、おいで?『 』
……待って、『 』。
「………ん、」
ゆる、と目を開けた。いつの間に寝ていたのだろう。
だんだん思考が覚醒してくれば、見なれた借り部屋の天井が見える。
「……何を、見たんだっけ」
なんだか胸の奥に何かが引っかかっているような、妙な違和感。
だがそれは頭に霞かかってうまく思い出せず、がしがしと乱暴に髪をかき回して、起き上がった。
頭を切り替えて、サイドコーナーに置いたスマホをいじって予定を確認する。
「……ああ、そういえば」
呆れたような、苦笑のような、なんとも言えない目で見て。ハンガーにかかっていた白衣をばさりと羽織ると、こまごましたものをハンドバックに詰め込んで、足早に部屋を出る。
「まさか、仕事であそこに行くはめになるとはなあ…」
はふ、と。未だ眠気から覚めぬ声が、ぼやいた。
水に浸され、部分的に白くふやけた肌。ぶよぶよとした質感と、内臓を無くして萎んだ胴体。血と共に洗い流された熱は既に戻ることはなく、ただそこに「ある」少女は、打ち捨てられた前衛芸術のようにも見えた。
「また一人被害者が出た、か」
甘美な犯罪の気配に浮つきそうになる思考を吐息ひとつで押さえ込み、ミラビリスはスマートフォンを取り出す。電話帳に登録された番号の一つを選択し、コール数回の後に聞こえてきた声に早口で現状を告げる。古巣の仲間との会話を楽しむのはまた後日に回し早々に電話を切ると、周囲を見回し僅かに目を眇めた。
自らの異能に頼らずとも解る程度に、異能を保持する疾患者による犯罪を強調する奇妙な死体。なるほど、『コンビナート』がやっきになるのも理解できる。
「見せしめ、だろうな。疾患者に対するものか? ……確かこの子も、公安の資料にあったはず」
公安の『保護』する疾患者一覧を脳内で繰り、その顔を探し当てて。しかし、どことなく納得していない雰囲気で顔を上げる。 何を、ということはない。ただ、漠然と何かが引っかかる。こういった場で、己のその感覚は外れたことがない。しかし、何が、と特定することは出来ない。
もどかしげに首を振り、ミラビリスは溜息を零した。
「ま、今はそれを追及する時ではないな。 公安が着く前に、やれるだけやっとかねーと」
ふ、と短く息を吐き、慎重に意識を広げていく。自らの異能が齎す感覚に身を委ね、なおかつ委ねすぎず、恍惚と酔いしれる心を制して。 時折ゆるりと周囲を見回し、動き、少しだけ触れてみて……
「……っと。時間切れか。仕事、速いなぁ。 事務所に帰れるのは、もうちっと後になりそうかな」
ぽつりと呟いて、公園の入り口を見る。俄かに騒がしくなる近隣の家と、飛び出してくる野次馬と。それらの人垣を割って歩いてくるかつての同僚たちに、ミラビリスは僅かに微笑んで手を振った。
『コンビナート』はT都を中心として、まるで蜘蛛の糸を伸ばすかのようにネットワークを持っている。
裏方仕事が中心であるカルディアにとっては馴染みの深いものだ。もっとも、組織に対して感情の薄い故に、どこまでのものかを完全に把握しているわけではないのだけれど。
「……やっぱ、『裏』の関わりが強いわけではなさそう、か」
手にしたスマートフォンを弄びつつ、ほてりと小首を傾げて。いわば子会社に当たるビルから、徐々に人が増える通りへと。
なんの因果か、表向き協力体勢半敵対である『探偵』との共同戦線を命じられて、数日。ひとまず被害者の情報をもう少し洗い出すことから始めていたのだが、やはりそれ自体に共通点はあまり見当たらなさそうだった。
明確なのはただ一つ。疾患者であるということだけ。
しかし、それにしても疑問が残る。
偽名を使った行動に代表されるように、基本、疾患者である事実は隠すものだ。普通に生活しているだけなら、知られることはほとんどない。
なのに、今回の事件は狙って彼らを殺害している。……一体、どこから情報を探ったのだろう。それが、ずっと引っかかっていた。
ぐるぐると思考の渦に沈みかけていたところで、手にしていたスマートフォンが電子オルゴールのメロディを歌いだした。
ディスプレイに表示された名前におや、と瞬いて――通話ボタンを押す。
「はい、もしもし?」
『ミラビリスだ。今、いいか?』
慣れ親しんだ男の声が聞こえてきて、カルディアは人の通りから一本外れた路地へと入った。
壁へともたれかかり、改めて耳を澄ませる。
「何かあった?」
『次の被害者が出た』
端的に述べる声は、どこか固い。時折漏れてくる雑音から察するに、未だ現場からはさほど離れていないのだろう。
現状、わかっている被害者の情報を問う。手帳にそれを書き綴りながら、これまでの被害者の情報と照らし合わせ。
「……一応聞くけど、また疾患者?」
『公安の資料にあった。確認してみたら、当たりだったよ』
「てことは、保護されてた子?」
「まあな。……最近は悪い遊びにご執心だったようだけど」
「あん?悪い遊び?」
「花売り」
僅かに潜めた声は、一応人の目があることを気にしてか。
なんとなく、気遣うような声に聞こえたのは……果たして自分の気のせいか。
「……それなら、こっちのツテを辿ればひょっとしたら見た顔があるかも」
あくまで声は平常を返して。重いため息を欠伸に変えて吐き出せば、注意深い電話の主は耳ざとくそれを聞きつけたようで。
『……また眠れてないのかよ』
「仕事入ると大体こんな感じだよ?」
人死にに関わると、特に。
付け加える言葉は……口に出すことはなかったけれど。
壁から背を離して、再び歩き出す。話を付けるべき顔と、それにかかる時間を計算しつつ、聞こえてくる小言を遮って、口を開く。
「それよりミラ」
『……なんだよ』
「仕事終わりにミルクティーが飲みたい」
すごく遠回しな言葉だったが、電話口の向こうの相手はちゃんと察してくれたらしく。
くすりと小さな笑みが聞こえてきた後、「アッサムでいいか?」と了解の意が返ってきた。
「帰ったら淹れるか。ミルクはまだあるし、茶菓子も……ミルクティーなら甘すぎない方がいいかな」
電話を切って後も、そう穏やかに笑う。これだけのことで胸中が温まる自分に呆れつつ、仕事の後の楽しみが増えたと思うのは止められない。とはいえ、未だ状況は不透明なのだから、と、ひとつ深呼吸して浮ついた心を鎮めた。
現場に到着したのは、確かに見知った公安33課の者だ。しかし、そこはかとない違和感に襲われ、僅かに目を眇める。
「おかしいな。何故、誰もいない?」
違和感の正体。それは、実働部隊とも言える異能持ちの捜査員の姿が誰一人見えないこと。明らかに異能関連の犯罪と解るこの場に、その姿がないということは……と。そこまで考えて、ミラビリスは一つ溜息を落とした。
「上の過激派の妨害、だろうな。あそこも相変わらずなことで」
自分がいたときから変化ないその体質に再び溜息を零したくなるも、それよりも先にやるべきことがある。
手に持ったままのスマホを操作してメールを起動し、短い文章を打ち込んでいく。今回目撃した事件についての初見調査の内容と、自らの異能が告げた予感。そして、公安内部の動きがどうなっているのか、可能な範囲で教えて欲しいとの依頼。聞き届けられるかは微妙なところだが、内部資料をこちらに流してくれた以上、実働部隊が動けないなりに手段を講じようとしているのだと判断する。
「
ロビン女史、と……ネット関係で情報を拾ってると考えると、
ヘンリエッタ女史にも声かけたほうが良さそうかな」
今も頼りに思う元相棒と、機械と語らう元同僚に宛ててメールを飛ばし、次いで『疾患者狙いであることは確実。各自厳重に注意するように。危険を感じたら、なるべく出歩かないこと。その間事務所へ来なくてもいい。』との連絡をルーシー嬢とレグルスに。
『
ウラノツカサ』は、この手の事態となれば早々出ることはないだろう。あそこは異能者を重んじる組織、無為に危険に晒すような真似はするまい。付き合いは薄い組織だが、そういった点では信用できる。
「となると、後は『
ハーメルン』か。足長に連絡入れておくかねぇ……」
疾患者を狙った犯罪であるという点と、各自注意した方がいいとの旨を記したメールを送り、さて、と顔を上げる。少しばかり離れた場所にいたためか、こちらに気付いた捜査員はいなかったようだ。
簡単に調査を終えて既に捜査員たちは撤収し、集まった野次馬も三々五々帰路について、公園は元以上の静けさを取り戻す。殺人事件があったばかりとあっては遊ぶ子供たちの姿もなく、通り抜けようと考える人もいないようで。
―― それは、ミラビリスにとっても大変都合のいい状況だ。
「さて、と。……没頭しすぎないように、注意しねーとな」
独り言を落として、現場に立ち入る。膝をつき、洗い流されてもなお根強く残る血痕に触れて。僅かに伏せた目が、『罪』の残滓を感じてとろりと恍惚を湛えるのを自覚しながら、ミラビリス慎重に自らの異能を解放した。
* * *
カーテンが締め切られた薄暗い部屋の中、真紅の瞳がゆらり、揺れる。外は冬とはいえ暖かな日差しが溢れているだろうに、この部屋はどこまでも寒々しい。暖房器具は確かに熱を供給しているというのに、部屋の雰囲気自体が冷え込んでいた。
ゆらり、と、少女の瞳がまた揺らぐ。
部屋の暗さは、少女が望んでのことだ。色素の薄いその身に、陽光は毒にしかならない。闇と光が程よく入り混じった空間で、少女はひとつ、吐息を零す。
「カルディアの未来、ですね。 さて、最近はあの方の不幸を見ることも減ったのですが……見えた以上は、伝えねばなりますまい」
『コンビナート』より支給されているノートパソコンを引き寄せて、電源を入れる。立ち上がるのを確認して、開くのはメール画面で。
少女は、キーボードをじぃ、と見て、感情のない顔に僅かに困惑を滲ませた。
「この国の文字は、まだ慣れないのですけれどもね」
ぽち、ぽちと、ゆっくりと文字を綴り。何度か読み返して、辞書を確認して。間違いがないことを確認してから、送信をクリックする。
宛先は、見えた未来に姿を垣間見た人。同僚と言うべき女性。 送り主たる自分の欄には、ただ4文字、〝Ciel〟とだけ。
「さて。この未来もまた、逃れられるものだとよろしいのですけれども」
不幸の預言者
シエルが送った、短いメール。
その中には『死神に出会ったのなら、その名を決して知ってはいけない』と書かれていた。
国立中野中央病院――の、地下居住区域の一角、いわゆる訓練室と言えるべき場所。
がしゃんっ、と音を立てて、サンドバックに見立てた人形が無様に崩れ落ちる。呼吸を整えつつ、ゆっくりと構えを解いて……しかし、どこか苛立った様子で髪をかき上げる女、ロビン。
「……忌々しい、」
髪に触れていた手は首元へと伸び。そこにはシンプルながら異質を放つ、金属製の首輪がはめられていた。
これは本来、異能を使わざるを得ないかもしれないという『仕事』の時のみつけるストッパーのようなものだ。なぜそれをつけられたのかといえば……簡単に言えば、『厳罰処置』であった。
口出しをしてはいけないのはわかっていた。それでも動かないことには異議があった。故のこの仕打ちである。――表向きには『守るため』と称してはいるものの。
やり場のない怒りの発散役にさせられた哀れな人形を一瞥して、ため息を一つ。
とりあえず頭を冷やすべきかと、くるりと入口を振り返って……そして、固まった。
なぜなら、ずりずりとこちらへと向かってくる――段ボールが、あったから。
ぱこ、と開いた蓋から顔を覗かせる、黒髪の青年。おどおど気味に顔半分だけでこちらを伺う姿に、思わず苦笑を零す。
なんでわざわざ被る必要があったのかというのは……多分突っ込んじゃいけないのだろう。
イジドール。普段は公安に保護されている疾患者である彼に助力を頼んだのは、彼のその能力にあった。
そう、『自分の存在感を消すこと』という能力は、まさしく偵察にはうってつけだったから。
「ご苦労様。面倒なことを頼んですまなかったな。……それで、どうだった?」
「あ、ええと……」
ごそごそとメモ帳を取りだし、中を読み上げる。時折補足を投げかけながらも、静かにそれを頭に叩き込んで。一通り聞いて、はふ、と息を吐いた。
結論から言えば、上はこの一件にストップをかけたようだ。半ば予想通りだったとはいえ、実際に聞くとなおさら腹が立つ。
「あ、あの…?」
「……ああ、悪い、考え事。改めて、危ない橋渡らせるマネさせて悪かったよ。ゆっくり休んでくれな?」
「いえ、お役に立てたのなら、何よりです……」
丁寧に頭を下げて。段ボールを折りたたんで抱えてからぱたぱたと出ていく青年を見送って、さて、と頭を切り替える。
部屋の隅に邪魔にならないように置いてあった鞄からスマートフォンを取り出し、一つのアドレスを開いて。手早く今得た情報をまとめて打ち込み、送信ボタンを押して。
「……こんなことしかできないが。多少進展があれば動ける可能性もなくはないんだけどな」
連絡をくれた相棒のことを思い、呟く。与えられた情報はそれほど多くはないが、多分彼ならうまく使ってくれるだろうという確信にも似た信頼があった。
自分もなかなかに危ないことをした自覚はあるが、その渦中へと向かうことになる彼の危険はもっと大きいだろう。ならば、離れていても自分にできる守り方を。それは、道を違えてからも変わらぬやり方だ。
「……こんなことを言ったら、また羨ましがられるな、きっと」
案外やきもち妬きな『彼女』のことを思い、ロビンは一人微笑ましそうな笑みをこぼすのだった。
「……っくしっ」
「……まだまだ冷えるなあ」
「風邪か? ……ミルクティーよか、生姜入りのチャイにでもするべきだったかねぇ」
濃い目に淹れられたアッサムと、たっぷりのミルク。お茶請けにはバターの効いたフィナンシェ。探偵倶楽部の仮眠室――というよりは、ほぼワンルームマンションのような様相の部屋ではあるが――のテーブルを挟んで、ミラビリスとカルディアは座っていた。
「いや、多分違うと思うけど……」
「気をつけろよ? 本当、まだまだ寒いんだし。 ……にしても、まさかこんな形で会うことになるとはな。」
「オレも驚いたさ。何より、ミラが『うち』と組むことを承知したってことに」
「あー……まあ、やむを得ずな」
紅茶のお代わりを差しだしつつ、苦笑するミラビリスに、カルディアもまた苦笑混じりの軽口で返す。表裏なく、〝探偵〟のコンビナート・モラトリアム嫌いは有名だ。受けると返答したときには、あの〝司祭〟の鉄面皮が動いたというのだから、どれほど希少なことか知れるであろう。
とはいえ、ミラビリスにも彼なりの事情はある。確かに現状、異能者殺しの通り魔が脅威となっていることは事実。それなのに、動くべくはずの組織は動かない。ならば、自衛のためにも自ら動くしかないだろう。それが例え、気に入らない相手の手を借りることになったとしても。
「……っと、ちょい失礼」
胸元で震えたスマホを取り出し、指を走らせる。画面を見る目が徐々に曇っていくのを見て、カルディアは首をかしげた。
「何? メール?」
「あぁ、ロビン女史から。 ……やっぱり公安は動きそうにない。上からストップかかってるってさ。ただ、今回は過激派の強行じゃなくて、あちこちの思惑が絡み合った末のことみたいだ。だから、状況が動けば対応も変わる可能性が高い。ま、そういう意味では、今回の公安はまだコントロールしやすい。 ……ったく、あんま無茶するなっての。情報は有難いけどさぁ」
淡々と内容を読み上げ、溜息をひとつ落とす。情報が綴られたメールの裏側、かけがえのない相棒の思惑を読み取って。こうして、情報を渡すという形で守ってくれているのだと……全く、彼女は本当に、自分には勿体無いほどの人だ。そう思い僅かに笑みを零し……
「………」
複雑そうな目でこちらを見るカルディアの眼差しに気付く。じ、と笑み混じりに見つめれば、それで更にむくれる彼女に、ミラビリスは耐え切れずに笑って口を開いた。
「なーに? 深心」
「……別に」
仕事の時間はおしまい、と、その名を呼ぶ。ふいっと目を背ける彼女を追って席を立ち、ソファの肘掛に腰掛けて顔を覗き込む。それでも逃れようとするその顔に、羨望と悋気に似た色を見て、ミラビリスは僅かに目を細めた。
「顔、見えないのは寂しいな」
「……」
「ねぇ、深心。不謹慎だけど、俺嬉しいんだぜ? こうやって、誰に秘密にする必要もなく、一緒にいられるってのがさ。 勿論、そんな生易しい事態じゃないってことは解ってるけど……」
「し、おん……」
ゆるりと視線が絡み合う。未だ躊躇いを残す手がそっと伸びて……
瞬間、ミラビリスのスマホが甲高い音を発した。
「ぅえっ!!?」
「Σ ちょ、空気読めよ!! …… はい、もしもし? ……何!?」
お互いに頬を染めつつそっぽを向いて、誤魔化すように勢い良く電話に出たミラビリス。その声が真剣なものに変わるまで、さほど時間はかからなかった。
「……ん、解った。 場所は……あぁ、了解。すぐ行く。 ……OK。あと、連れが一人一緒に行くかもしれないけど、大丈夫か?」
抑えた声で手短に通話を終え、カルディアに向き直ったその時には、既に男の顔は〝探偵〟ミラビリスのそれとなっていて。
「悪い知らせだ。被害者がまた出た、てさ。 ……現場行くけど、一緒に来るか?」
軽く目を伏せたまま伸ばされた手は、常より幾分か硬いものであった。
『猟奇殺人未だ収まらず』
『T都に潜む闇』
広げられた新聞、雑誌、ラジオから流れるニュース。
表現方法は違っても、ほぼ話題は同じもので持ちきりのようだった。
安物の蛍光灯の光がどこか薄暗く明かりを落とす部屋の一室で、彼らはそれらを囲んで話し合っていた。
浮かべる表情は様々だ。不安だったり、不満だったり、からかいだったり。
しかし、その心中はある意味皆同じなのだろう。――彼らが死ぬのが喜ばしい、と。
不意に、部屋の隅へと声が飛ぶ。
静かに熱く語り合う彼らから距離を取るように、ウォークマンのイヤホンを片耳だけつけてぼんやりと音楽を聞いていた少年は、ゆるりと視線だけで何かと問う。
「彼からの連絡はどうなってる?」
その言葉に少しだけ目を細めると、首から下げたメモ帳を開き、さらさらとペンを走らせて。
『まだ来てない。予定合わせ?』
「ああ。また次のターゲットの擦りあわせもしておきたいからな」
『じゃあ、呼ぶ?』
「おう、なるべく早いうちにとな」
こくり、頷いて。重い鉄製のドアを開けて、静かな足取りで外に出る。
すでに傾きかけた日差しが赤く視界を染めて、一瞬目がくらむ。
――まるで血の色のようだ、とは想っても声は出さないけれど。
廃ビルの錆びた非常階段を降りて、大通りへ。
足早に人波をすり抜けていくサラリーマン、きゃいきゃいと甲高く騒ぐ女子高生達、小さな子供の手を繋いで歩く母親。
すれ違う喧騒にもどこか憂い気味に視線の隅に流しながら、そっと意識を集中させる。
ヴァン、と。少し低めの無愛想な声と、振り返る長い黒髪を思い浮かべて、彼は遠く『声』を投げた。
* * *
カタン、と軽い調子で小さなキーボードを叩く。にわかに騒がしくなってくる遠くの声を聞きつつ、ぐいっと伸びをして。
ミラビリスに連れられて次の事件現場へと訪れたが、何分自分は部外者だ。その辺りの諸々の算段を付けるのには、少しだけ手間がいる。
それに、彼はどうせ異能を使うのだ、最初の現場検証は邪魔をせず一人でやらせてあげようと思っていた。
ので、カルディアは少し離れた場所で、支給された小型ノートパソコンで『コンビナート』への報告メールをせっせと打っていた。
毎日のようにあっちこっち聞き込みに走ることになるため、いちいち戻るのが面倒なので経過報告はまとめて送ることで話をつけてある。
元々トラウマの権化であるあの場にできることならなるべく居たくないのだから、好都合だ。……その分、事務所にいられる時間が増えるから、とはさすがに言わないけれど。
2、3度内容を読み返して確認してから、送信ボタンを押す。ひと仕事終えたのにほっと息を吐いて……ふと、受信メールのタブをクリックした。
先ほど仲間たる少女から送られてきた『予言』のメール。短いたった一文のそれを、何度も読み返して。
「……シエルの言うことなら必ず何かしらあるんだろうが。どういう意味なんだろうなあ……」
ぼんやりと思考に没頭しそうになって……直後、自分を呼ぶ声に引き戻される。
今行くよ、とのんびり返して、カルディアはノートパソコンを閉じた。
やはり前衛芸術じみた死体。少し離れた場所で捜査を続ける現場担当の捜査員たちに感謝しつつ、ミラビリスは一人その前に立つ。 警察機構としては躍起になって操作している事件も、公安33課としては静観を決め込んでいるもので、捜査に対する熱は薄い。そんな中、こうして調査を掲げる男が易々と死体に対面している。
何てことはない。この事件を止めたいと思う人物は、確かにいるのだ。ルールの隅、僅かな間隙を縫うように協力してくれる者もいる。それだけの話。
「人の心までは、縛れないからな」
ぽつり、呟く。その後に続く『善し悪し問わず』という言葉を飲み込み、現場に意識を集中した。 こうしていられる時間は、そう多くはない。協力者に迷惑をかけるわけにもいかない、と、急ぎ意識を集中する。
そこに残る、色濃い『罪』の痕跡に触れて………
―― 憎い。
―― 殺さねばならない。
―――― 全ての『化け物』を……
意識が、引きずり込まれる。 強く、深く、難解な憎しみ。それらに触れて……
「あんまり見てると、あなたでもきついわよー? 〝探偵〟さん」
「!? …… 情報屋……?」
「ええ、久しぶりねー。相変わらず、方々に首突っ込んじゃってるのね。お疲れ様、と言うべきかしらー?」
ふわり、と。ゆっくりと空中から降りてきた少女の声が、男を現実に引き戻した。
〝情報屋〟
ソール。その通称以外全て不詳という謎の多い疾患者は、地に足をつけることなく滞空する。
「あー……確かにきつかった。 助かったよ、礼を言う」
「いえいえー。 それに、善意ってわけでもないしね。 この事件の情報、要らない?」
あっけらかんという少女を、男はいぶかしげに見つめる。
「どういうつもりだ?」
「どういうも何も。この件が長引くのは、『疾患者』にとって、良い事じゃないから。 で、いるの? いらないの?」
「そりゃ、貰えるなら欲しいけど……」
「りょーかいよー。メールで送っておくから、後で確認してねー」
そうして、用は済んだとばかりに飛び去っていく少女。周囲は誰もその存在に気付いていない。 『縁』を断ち切る、彼女の異能故に。
「やっぱ、あいつはどうにも読めないや」
溜息混じりに言って、顔を上げる。胸元でスマホが振動したのを感じて、恐らく言っていた「メール」であろうとあたりをつけて。
「ま、何にしろ……これ以上は、一緒に見てもらった方がいいな」
カルディア女史、と。周囲の目を慮って、呼ぶのは仮初の呼び名で。それを少しばかり寂しく思う自分に苦笑しながら、ノートパソコンを閉じる彼女を手招いた。
(執筆中~独立場面なので、先に続けて大丈夫です byひとしろ)
最終更新:2016年03月31日 20:06