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時には昔の夢を

(公安時代のミラビリスロビンさんはこんな感じの関係だったんじゃないかな、という妄想になります。)



異能対策なんて言ったところで、所詮はお役所仕事なこの職場。保護とはつまり秘匿にも似ているわけで、つまりは現場での仕事なんてのは、『疾患者』と『異能』の存在によって起こされる不可解な事態を一般常識の枠の中に落としこんで再構成することだ。

「……とりあえず、これにて一件落着か」

溜息半分に呟いて白手袋を取り払い、現場から少し離れて、若干の酩酊が残る頭を振る。異能を制御しているとはいえ、犯罪現場に触れれば、否応なくその場に残る情報が飛び込んでくる。それら全てが愛おしき罪の残滓であるのだが、酔いしれてのめり込みそうになるのを抑えるのは少々骨が折れる。
今回の役目は異能の隠匿であって、事件そのものの解決でないから尚更に。不本意なことではあるが、それが上からの指示だ。

「お疲れ様。 ……やっぱり、不満か?」
「解るか? あー、いや。ロビン女史なら解るわなぁ」

そんな不満を読み取ったか、同じく現場を離れてきたロビンが声をかけてきたのを、苦笑でもって出迎える。それなりに隠せていたと思ったのだが、流石は相棒、一目瞭然だったらしい。

「不満ってか、不本意だな。事件の真相は闇の中に沈められたまま、一応の筋だけは通った表向きの建前がまかり通って、犯人は監視と収容込みとはいえ『保護』扱いだ。 ……それに、まだ裏があるみたいだしな。だが……」
「表向きの収束がついた以上、これ以上の追求は行われない、か」

頷きのみで返し、現場の方を見る。撤収を始める捜査官たちの視線が、これで終わりだと、これ以上立ち入るなと訴えるようで、何故か笑いがこみ上げてきた。
公安33課の特異性故か、一般の警察とも、公安の他課とも折り合いは微妙である。彼らにとってもまた、『疾患者』、『異能』というものは恐怖の対象なのだろう。

「ま、しゃーねぇか。 帰ろう、ロビン女史」

言って踵を返し、歩き出す。遠くに見える白亜の病院が、どこか黒ずんで見えた。




      *     *     *




「……こっちの監視カメラには手がかりなし。となると死角をカバーできるのは……」

明かりの落ちた、病院内の事務室……という名の公安33課の部屋。デスクライトの明かりを頼りに、ミラビリスはひたすらにキーボードを叩く。既に報告書の作成は終わっている。これは、ある意味では公安の枠を外れた行為だ。しかし、それでも気にかかるから、調べる。
こういうとき、自分の疾患は便利だ。偏愛の方向性もあり、こういった逸脱した調査をそこまで強く咎められない。咎めることで、別の方向に嗜好が傾くことを警戒しているのだというのを知ってなお利用している自分に呆れる心も確かにあるのだが……と、そこまで考えて自嘲の笑みを零す。
疾患者に、そんなことを言って何になるのかと。

「何にもならねーよなぁ……」

一人ごちて再びキーボードに向かう。趣味半分とはいえ、今日も徹夜だな、と笑ったところで――

「何が『何にもならない』んだ? あと、明かりを付けないと目を悪くするよ」
「ぅわっΣ ろ、ロビン女史!? いつの間に……」
「君が画面に向かって呟いてたときから」

声と同時に灯った明かりに顔を上げ、最初からかよ、と唇を尖らせる。そんなミラビリスに、ロビンは笑って缶コーヒーを差し出した。

「やっぱり、納得していなかったんだな」
「ありがと。 ……あれで納得しろって方が無理だっての。杜撰にも程があるだろ」

缶コーヒーを受け取り、一口口にする。ブラックの微糖、疲れたときによく飲むそれに、見抜かれてるなぁとしな垂れた笑みが零れた。

「君ならそう言うだろうと思ってたよ。 どれ、手伝おう。監視カメラのチェックだろう?」

どこからだ? なんて言いながらパソコンを起動するロビンの、その自然な態度に、むしろミラビリスの方が焦る。

「ちょ、俺がやりたいからやってるんであって、ロビン女史まで巻き込むわけにはいかねぇよ!」
「私もやりたくてやるんだ、気にするな」

からからと笑って言い切られ、思わず二の句を失くす。
一応は、問題となる行為であると解っているのだ。自分は疾患の都合上、禁止する方がデメリットが大きいと黙認されているだけで。だが、それは自らのみに適応されるのであって。

「……あんたの立場、悪くするのは嫌なんだよ」

ぼそり、呟く。黙認されているのは、あくまで自分だけ。もしバレれば、ロビンには通常通りに罰則が待っているだろう。
だが、それすらロビンは意に介した様子はない。 手早くソフトを立ち上げて、未処理の監視カメラの映像を呼び出す。その僅かの間に、モニターから目線を外して……

「バレなければ問題はないさ。 ここにいるのは私と君だけ。ほら、何も問題ないだろう?」

見惚れるような笑みを残して、再びモニターに集中するロビン。しばし呆けたように彼女を見ていたミラビリスもまた、やがて悪戯っ子のような笑みを浮かべた。

「……ったく、しゃーねぇなぁ。 そうまで言うなら、本当に頼っちまうぜ? 覚悟しとけよ、相棒」

場違いな程に明るい声が言って、ミラビリスもまたモニターに集中する。説明も、探す情報すら言わず、それきり会話は途絶え、ただ僅かにキーボードとマウスの音が落ちるのみ。
しかし、それは暗い沈黙ではない。信頼の上で背を任せあうような、そんな戦友の絆に似た信頼があった。言わずとも、相手の求めるものは解っているのだと。そう、互いに欠片も疑わない。


そうして、夜は更け、時は過ぎる。
その数日後、終わったはずの事件に新たな進展が起こること。結果、ひとりの疾患者の心が救われること……それは、この瞬間に確定したのだった。





      *     *     *




ふと、意識が浮上する。数度目を瞬かせて周囲を見れば、常と変わらない仮眠室のベッドの上。窓の外はまだ暗く、起きるには少々早い時間だと解る。

「……夢、か。また随分と懐かしい夢を見たものだ」

若干の眠気が残る目に笑みを刻む。早いとはいえ寝なおす気にはなれなくて、そのままゆっくり起き上がった。
あの頃から、自分は随分変わった。夢に見た彼女も、同じように変化しているだろう。立場を違え、属する組織を違えて。それでもなお違わない真実。それに思い当たり、あぁ、と笑みを深めた。
なぁ、と、無人の空間に声をかける。面と向かって言うことは、きっとないだろうけれども……

「あの時から、進む道は違えることになったけどさ。 『信頼』してるのは、今も昔もあんただけなんだぜ? ロビン女史……いや、『花蓮』さん。 ただ一人の、俺の相棒」

それが真実なのだ、と。夜明け前の闇に溶けた言葉は、どこまでも穏やかだった。

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最終更新:2016年02月19日 22:54