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The Best Branches6


「え?ちょっと待って」

怪訝な顔をして雅の言葉を止めるアーテル

「それってつまり、もしアタシがあなたとの間に子供産もうとしたら、お父様が爆誕しちゃうってこと?それアタシ困るんだけど」

問い返された言葉にがく、とどこか心挫かれた様子でアーテルの肩に頭を乗っけてくる雅。

「何でまずそれだよ……」
「あなたとの赤ちゃんが欲しいからに決まってんじゃない聞くな」

照れ隠しのようにまた軽く頭を殴ろうとしてくるアーテルに、苦笑交じりに眉を下げて笑って、雅。

「お前ってほんっと……」

人の話きかねーな!とか緊張感ねーな!とでも言いたそうなあきれ顔の雅の首に反射的にネックブリーカー噛まそうとして、
その弱弱しい手ごたえにやっとアーテルは子供産みたいなら現状最も火急の問題に気づく。

「ってゆーか!! だからてめーがまず死にかけてんじゃねえよ!服脱げ、何処ケガしてんだ!!うわひでえ!」

そのままの勢いでばさばさ服を脱がせかけたアーテルは、肩口から袈裟懸けに切り裂かれた深手の傷にうへえ、となる。
とても応急手当の止血で凌げるものではない。専門的な治療を受けさせなければ失血だけでもこの場でほどなく彼の命は尽きるだろう。

「一人目は男がいーな。二人目は女の子…お前に似てるといいなあ」
「煩い、下らない事言ってないで黙ってなさい体力温存して。
 ……病院ね。 救急車呼んでどっか……モラトリアムのコネ効くトコとか……なければ、中央病院、乗っ取ってでも」

ぎゅ、ととりあえずタオルで彼の肩口縛りながら、
ようやく需要が生じたことと相まって鳴り続けていたのを放置してたスマホを手に取ると、
アーテルは発信者を確かめ通話開始のアイコンをフリックする。

「Pronto? いま物凄くトリコミチュウなんだけど、蜜柑ちゃん、そちらも何かあった?」
シトロンが、そちらに何か無かったか確かめてって。例の刀が何か言ってきたらしい』
「牛鬼クンだっけ?」
『シトロンは、そう呼ぶわね』

蜜柑の返答に若干日々の感情の綾を感じつつも、とりあえず今起きたことをかいつまんで説明するアーテル。
すでに言葉なくぐったりと倒れこんだままの雅の手首にまだ脈があることは片手で触れて確かめながら。

『それなら、救急車呼んで。中央病院じゃなくてAヶ丘病院の救命救急センターに依頼すればいいわ』
「そっちのほうが乗っ取りやすい?」
『最近少し院長に裏の伝手を作ったのよ。アーテルおねーさん、間違っても、入り口でバリケード作って暴れたりしないで」
「……蜜柑ちゃん、あなた、なんというか……やり手ね」
『今話とおしておくから、5分したら電話して。番号言うね』

ごくり、と唾をのみ込んで、とりあえずは後でまた連絡を、と通話を切り、アーテルは言われた病院へ電話をつなぐ。
事情も何も聴かれないまま、ごくあっさりと救急車はやって来た。

「いつ孵るかわからない卵……? そんなの不発弾みたいなモンでしょ。
 そら、処理し損ねて死ぬこともあるでしょうよ。でも不発弾の近くで幸せに暮らしてる人とか、処理して助かった人とか世界中に何人いると思ってんの。
 あたしが、あなたと生きる未来を先に諦める理由に、それがなると思って?ハナから不発弾だか時限爆弾だか背負ってますって顔して現れた君が。

 誰も知らない昔の田舎でノンビリ?いいわね、でもあんたの親父、あたしもやれるもんならぶちのめしてやりたいからコッチから逃げるのはごめんだわ。
 そうね、あたしの子供に生まれ変わったりしたいなら、来ればいい。キッチリしつけてあげるから。

 惚れちまったら一緒に生きるか、一緒に死ぬか、どっちかよ。イタリア女の執念なめんな」




「……これで、まあ向こうはひとまず安泰だと思うけど、ソッチはどうなの」
どこぞの病院の院長に何やら陰険な脅しをかけ終えて、蜜柑はスマホを離してシトロンのほうを振り返る。
いつものように並んで眠っていた夜半、いきなり胸元を押さえて飛び起きてきたシトロンが、
嫌な予感がするからアーテルの無事を確かめろというのでそもそも彼女は電話を掛けたのだ。

「ん、んー……」

若干要領を得ない呟きを返しながら、ベッドの上に腰掛けたシトロンは手にした鎖鎌をくるりと弄びながら首を捻っている。
鎖鎌から尾を引いて小さな白い影がシトロンの肩に乗っていた。
彼女が牛鬼、と名付けた刀霊の、ミニチュア。
白い髪と頭に生えた角、右腕が蜘蛛の腕のように分かれている以外は雅とよく似た面差しの少年の霊体。
小さな牛鬼は何やらぴと、と彼女の首を抱えるように抱きついている。

「……なによこれ」
つん、と蜜柑が手を伸ばしてつつくと、やーん、とでもいうように殊更にシトロンのほうにしがみつく身の丈15センチ程度のそれには若干手ごたえがあって、
まるきり幽霊という物でも無いようだ。

「ええと、ね……ぎゅーき、雅おにーさんに、捨てられたらしいのじぇ」
「らしいって何よ。コイツ、喋れないの?」
「まあ、ええと……あたいたちが、一匹だけ、みたいな感じ?たぶんめさめさパワー不足なのじぇ、本体が無くなったから」
「ふうん?棄てた張本人はなんか、瀕死の重傷でアーテルおねーさんとこに夜這いかけてたみたいだけど」

ちょっと面白くなってきたのかつんつん、とさらに小さな牛鬼をつついてはシトロンからひっぺがそうといじわるしてみたりしながら、蜜柑。
やめてよー!!ヤダー!!と、何処か子供っぽい仕草でぺちぺちと蜜柑の手を殴り返したりしてくるものの、言葉を発する様子はない。
シトロンの言い方からすると、彼女には「なんとなく」コレの云いたいことが分からなくもないのだろうが。

「なんか、お前が居ると邪魔だって、どっかに棄てられたらしいのじぇ、本体」
「どっかって何処よ。……『いつ』の『何処』って聞かないといけないのかな。アイツらの話だと。……なんだかめんどくさそ!」

肩を竦めてそう言って、蜜柑はぽふり、と牛鬼の乗っかってないほうのシトロンの肩に顎をのっける。
少しだけいじわるな口調で小さく彼女の頬をつつきながら。

「拾いに行ってやりたいの? いーじゃない、ほっとけば。
 あの刀無かったらそもそもキチガイ親父も自分も無茶できないからそれがいい、って結論になったんでしょ。
 これくらいちっちゃいのが黙ってちょこまかしてるだけだったら、置いといてあげてもいいわよ。邪魔にならないし……それとも」

言葉を切る蜜柑の顔を何言うんだろ?って顔して視線合わせるシトロンと、彼女の髪に捕まりながら同じように顔をのぞき込む小さな牛鬼の霊体。
二ィ、と笑ってシトロンの額に頭をつけながら、蜜柑。

「キスしたりキモチイイことしてくれたり寂しい時ぎゅって抱きしめてくれる力強い腕がないのは、モノタリナイ?」
「!?!? み、蜜柑、何、言っ!?」
「やだー、えっち!」
顔真っ赤にして何か反論にならない反論言いかけるシトロンの鼻の頭ちょん、とつついて芝居がかった調子で笑いながら、蜜柑。
逆になんだか至極素直にとてつもなくションボリとした空気でシトロンの髪のひと房掴んだまま俯く牛鬼の霊の頭をぴん、と人差し指ではたいて。

「正直でよろしい。そのほうがまだ、いつものスカした大義名分ばっか並べたがる本人より、まだ可愛げあるわ。
 いっそ、そのまま諦めて消えてくれたほうが、未練がましくそんなカッコで本音訴えられるよか、シトロンは泣いたかもしれないけど、私スッキリしたかもしれないけどねぇ」

軽く笑いながらそう言って、ベッドを降りると寝間着を着替え始める蜜柑。


「さっさと支度しなさいよ。とりあえず、病院行ってみましょ?棄てた本人に聞くのが一番でしょ。生きてれば」
「う……ん……。落ち着いたら、あとでいく。今すぐいっても、話せるじょーきょーじゃ、無いと思うのじぇ」

ちらり、と肩口の小さな霊体に目をやってそう呟くシトロンに、じゃあ、あたしは行って状況教えるね、とまた軽く肩をすくめ、
服装と髪を整えた蜜柑は一旦隠れ家から出ていく。


「……読まれて、ない、のか。見逃してくれたのか」
その後ろ姿を見送って、ぽそりと呟くシトロン。さきほど意識をかわした時に、蜜柑には知られていてもおかしくない。
とっさに隠そうとしたいくつかの事柄。

「このまま雅おにーさんが死んだら、どっかに捨てられてるぎゅーきは、あの親父さんの物になる、自動的に?」

こくり、頷く肩の霊体は、そうしてそのままぎゅ、とシトロンの首筋にしがみつく。ちょん、とその頭を指で撫でて。

「………ソレは嫌だ、お前の傍に、居たい?」
また、こくりと素直に頷く霊体に、若干顔覆ってしみじみと顔赤くするシトロン。

「こーゆーのは、だから、察して言ってあげるんじゃなくて! ちゃんと自分の口で言ってほしいのじぇ!!今無理ってのは解ってるけど!」

そうして、胸元の鎖鎌きゅ、と握りなおして顔をあげると、じ、と肩口の霊体の顔を見て。

「雅おにーさんが、生きてる間に。……助かってくれれば一番だけど。あと、ちゃんと戻ってくる。蜜柑の居る場所に戻ってくる」
すう、と一つ息を吸って、気持ちを落ち着けるように、自分に向かってそう呟いて。

「とはいっても、結果がどうなるか知らないけど、あたいをそこに連れてって。いまぎゅーきの本体が居るところ。
 邪魔な粗大ごみ扱いした雅おにーさんとか、くれんならもらっとくよ便利だしなキチガイ親父とかより、
 ずっとぎゅーきの事が好きで欲しいあたいの物でいたいなら。……それで、ちゃんと身体取り戻して、言葉取り戻して、自分の口でそう言って」


きらり、その言葉にこたえるように光った鎖鎌の光と共に、シトロンの姿はその部屋から消えた。

FIN.(ED06)

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最終更新:2016年07月26日 18:26