真空投げ

  1. 初代『ストリートファイターII』のガイルのバグ技
  2. 『餓狼伝説』シリーズのギース・ハワード、及びロック・ハワードの投げ技
他、『カイザーナックル』の梨花、『デッドダンス』の紫狼も同名の投げ技を持つが、ここでは割愛。


1. 初代『ストリートファイターII』のガイルのバグ技



「俺がただ待っているだけの男でないことを見せてやろう」

対戦格闘の創始者的存在の初代『ストリートファイターII』におけるガイルのバグ技。
リバーススピンキック(一定距離以内でレバー入れ立ち強キック)が出る間合いで、
「←方向溜め→後10フレームくらい間を置いて、任意のレバー方向+強キック・中or強パンチ」
というコマンドを成功させるとガイルが一人でジュードースルー(中パンチでの通常投げ)のポーズを取り、
その時は相手がジャンプ中だろうがどこにいようが投げられたかの如く地面に叩き付けられるというものである。
これは完全無敵の昇龍拳の上昇中どころか、金網に張り付いているバルログやダウン中の相手ですら、その無敵状態を無視して投げてしまえる
さらに投げモーション中のガイル側も完全無敵(尤も投げモーションが無敵でないケースは、タッグ戦が標準装備なゲーム以外ではかなり稀*1)であるため、
逆に相手側がそれを阻止する手段が一切存在しない。
しかもダウン中の相手には連続で決めることができてしまえる極悪技である。
さらにスタン値があるためこれでスタンさせられるとほぼ絶望的な状況になる。
というのは通常スタン状態の相手に何かしら技を当てればその状態が解除されるが、
この技の最も恐ろしい点がスタン状態を維持したままという後の『III』シリーズのスタンコンボに似た状態である。
しばしば誤解されるが、成立する間合いは上記のように非常に広いものの無制限ではない。

なお、このバグ技に開発者は全く気付いておらず、香港のプレイヤーがこれを発見し、
カプコンにVTRを送ってきたことによってその存在が知れ渡ったのであった。
ただでさえ「待ちガイル」という悪名があるのに、こんな極悪技まで使われりゃ、そりゃリアルファイトにも発展するだろう。

『ハイパーストリートファイターII』の初代仕様ではこのバグ技は削除されている(当たり前だ)
しかし、『カプコンジェネレーション 第5集~格闘家たち~』及び『カプコンクラシックスコレクション』に収録されている初代『II』では、
この真空投げも完全に移植されている。
この移植版ではAC版初代『II』では不可能だった同キャラ対戦も可能になっており、
両者が全く同時に真空投げを発動すると両者が吹っ飛ばされるという珍現象が起きる。
ただし、タイミングが非常にシビアで一瞬でもズレると遅れた側が負ける。

また、『ストリートファイター30thアニバーサリーコレクション』に収録されている初代『II』においても真空投げを使用することができる。
しかもガイルはどういうわけか『アニコレ』で新たなバグを手に入れてしまっていたり
これが真空投げだ!

+ 原作における真空投げバグの仕組み
真空投げバグとは、ソニックブームによる空キャンセルで技が化けてしまうバグの一つである。
コマンドは前述の通り、
「←方向溜め→後7~10フレーム間を置いて、キックボタン・強パンチ」
「←方向溜め→後9~10フレーム間を置いて、キックボタン・中パンチ」
というもの。キックボタンを中or強パンチよりやや先に押す。
このとき、本来出るべき技(中or強パンチを押さなかった時に出る技)によって化けて出る技も変わる。
具体的には以下の通り。

本来出るべき技 化けて出る技 見た目がおかしい点
キック
(屈弱K)
ジャブ
(屈弱P)
スライドキック
(屈中K)
ストレート
(屈中P)
ドラゴンスイープ
(屈強K)
リフトアッパー
(屈強P)
ムエタイキック
(立弱K)
ジャブ
(近立弱P)
遠距離でもジャブ(『II'』以降は遠距離でもこの技)
スラストキック
(近立中K)
ストレート
(遠立弱P)
近距離でストレート
(レバー入力の有無で後述のニーパット→スピニングバックナックルに化けることもあり、
   使い分けが意外と難しい)
ローリングソバット
(遠立中K)
フック
(近立中P)
遠距離でフック
トラースキック
(近立強K)
トルネーディーアッパー
(遠立中P)
近距離でトルネーディーアッパー
(レバー入力の有無で後述のリバーススピンキック→真空投げに化けることもあり、
   使い分けが意外と難しい)
ラウンドハウスキック
(遠立強K)
ボディーアッパーカット
(近立強P)
遠距離でボディーアッパーカット
ニーパット
(近レバー中K)
スピニングバックナックル
(遠立強P)
近距離でスピニングバックナックル(『スパII』以降は近距離でも出せる)
リバーススピンキック
(近レバー強K)
ジュードースルー
(中P投げ)
存在自体がおかしい。相手はどんな状況でも投げ飛ばされたかのように地面に叩き付けられる

このように、立ち技のほとんどは遠近が引っくり返っている。
真空投げコマンドを遠距離で入力してうまくいくと近距離立ち強パンチが出たり、
真空投げコマンドで押すキックボタンを強Kから中Kに変えて上手くいけば遠距離なら近距離立ち中パンチが、近距離なら遠距離立ち強パンチが出たりと、
真空投げ以外もおかしなことになっている。
また、このバグで出た弱P系の技には連打キャンセルがかけられるため、
「遠距離立ち弱パンチキャンセル近距離立ち弱パンチ」という奇妙な連携もすることができる。
そしてそのまま立ち弱パンチを連打すると高確率で相手はピヨる
ちなみに、化けて出た技に空キャンセルをかけて弱ソニックを打つという、全く意味の無いこともできる。

なお、MUGENではここまでしっかり再現しているキャラは少ない。残念。

+ かなりマイナーな余談
GUILTY GEAR』シリーズを世に送り出したサミーからかつてリリースされた実写取り込み格ゲー『サバイバルアーツ』において、
ラスボスのダンテルとプレイアブルキャラの1人、ハンナの2名がそのままズバリ「真空投げ」という技を持っている。
その性能が地上の相手ならどこにいても投げてしまえるという、ガイルのものを大分マイルド化したような代物であった。
ただし、ハンナのものは発生激遅で、ダンテルのものはそれより発生が速いが、そもそもラスボスなのでプレイヤーには使えず、CPUの使用頻度も低め。

…うん、そうなんだ。筆者もふと検索して引っかかったので初めて知ったんだ(´・ω・`)
MUGENにもキャラがいないようなゲームなんでこの事実を知る人もむちゃくちゃ少ない事だろう。
……と言うのも今は昔。2018年の時点で3名ほどMUGEN入りしており、しかも内1人は上記のダンテルさんである(流石に間合いは有限だが)。


MUGENにおける真空投げ(ガイル)

MASA@DAS氏製作のガイルにmimimimi氏製作のAI(待ちガイル)に実装されており、ピンチになった時に使ってくるようになっている。
ただしAIのみが使用可能でプレイヤー操作では出すことができない。

相手キャラが12Pカラー(12Pに限り狂キャラ化するキャラは少なくない)を使用していたり、
ゲージが4以上溜まってる(アルカナハートのキャラ等)と真空投げを自重しなくなってしまう。
なお、真空投げはAIの設定で使わないようにすることもできる。
元々バグ技であるのだが、あえて仕様として実装させるとは末恐ろしい。

ただしMUGENの仕様上、相手がどんな状態でも強制的に投げてしまうバグ技ではなく、
通常投げの攻撃判定を全画面に広げているだけにすぎない。
そのため相手が"NotHitby"で投げ無敵を保っている状態や、喰らい判定(Clsn2)自体を設定していないキャラには通用せず、
原作では大いにネタになった「完全無敵の昇龍拳を投げる」「金網に張り付いているバルログを投げる」といった光景は再現出来ない。

なお、攻撃判定を持つ昇龍拳には"ReversalDef"(当身)を併用することで擬似的に投げる事が可能であるが
阿修羅閃空などの攻撃判定を持たない無敵移動技に対してはどうしようもない。

……と思いきや、永続ターゲット等であらかじめ相手本体のターゲット確保ができていれば、上記の状態であっても投げることができるようであり、
原作同様に無敵状態をも投げてしまえる。
これはWinMUGENに限らず、新MUGENである1.0や1.1でも可能。
昨今の神キャラ製作者が1.0以降を敬遠している理由に「1.0以降では%nバグや親変更といった技術が使えなくなった」という事情があるが、
この「永続ターゲット」は1.0以降でも使用可能で、真空投げは未だ健在である。
しかし、いずれにしても凶悪キャラなどに多く見られるステート抜けを実装しているキャラにはまず通用しない。
8:30~

他には or2=3氏製作のガイルが裏モードを選択することでこの技を使えるようなっており、間合いやコマンドも原作通りで出せる。
くねくね氏製作のガイルには標準で搭載されている。
KAZ氏製作のガイルにも標準で実装されているが、こちらは相手の距離とは無関係に出せる上、
『ハイパーストII』仕様の方は、原作同様スタン状態を継続させる所まで再現されている。
また、AIも相手が長時間上空で滞在している状態を検知すると出してきたり、一部キャラの特定行動に対して的確に出してくる。
おまけにパワーゲージが強制的に0になり、一部の凶悪キャラに対して即死技に変更させる等、原作には無い仕様が沢山ある。
これら三者のガイルには上述の永続ターゲットが使用されているので、
ターゲットを取られていた場合は無敵移動技等で回避することができない原作再現仕様となっている。

一応人操作の地上時限定で、技中にずっとレバーを後ろに入れ続けることにより回避自体は可能。
ただし、永続ターゲットは原則的にガード入力を継続することで回避できる仕様となっているのだが、
それ以外の行動が一切出来ないため、そこからの切り返しは相手側に何らかのが無い限り原則不可能である。

MUGENでは「神キャラ」と呼ばれる存在にはそれらに対して当然ながら対策が施されている。
また、通常なら完全無敵で相手側の如何なる攻撃手段に対し完全無効化をしているキャラが、
本項目のようにイレギュラーな技で妨害された場合、ペナルティ強化を発動するといった例も存在する。


2. 『餓狼伝説』シリーズのギース・ハワード、及びロック・ハワードの投げ技

相手を下半身から浮かすように掴み、両腕で円を描くような動きと共に後方に大きく投げ飛ばす技。

餓狼伝説SPECIAL』で通常投げの一つとして初登場し、『REAL BOUT 餓狼伝説2 THE NEWCOMERS』(RB2)で必殺技に昇格した。
客演作品にも登場しているが、こちらも通常投げになっている場合とコマンド投げになっている場合がまちまち。
コマンドも↘+ボタンだったり→+ボタンだったり一回転だったり→↘↓↙←→だったりで安定しない。

モーションが独特なため当初から人気はあったものの、微妙に出しにくい、起き攻めしにくい、連続技に組み込みにくいなど、
魅せ技」に近いポジションになりがちだが、コマンドが一回転になった『RB2』では
特殊技の「雷光回し蹴り」を空キャンセルすることで擬似的に移動投げとして使うことが可能で、
「雷光投げ」と呼ばれる重要な崩しテクニックになった。
スタッフが意図したのかどうかは定かでないが、このあたりのテクニックは後述のロックの真空投げに通じるものがある。

『RB2』ではさらに上位技として潜在能力「羅生門」が追加されている。
こちらは相手を真上に放り投げ、落ちてきた所に強烈な掌底を叩き込むという見るからに痛そうな技で、実際ダメージも高い。
掌底が決まると同時に、ホワイトアウトした背景に大きく「羅生門」の書文字が浮かぶという印象的な演出が入る。
決まったときの爽快感と見た目の格好良さから、ギース数々の技の中でも屈指の人気を誇る技である。
THE KING OF FIGHTERS』でも2000年代より頻繁に起用されており、
マスターギースをはじめとしたMUGENのギースもよく使用するので、サムネホイホイで見かける機会も多いだろう。
PotS氏のギースの場合背景の白黒が逆転して黒地に白文字となっている。
歴代羅生門集

ロックのものは完全に必殺技のコマンド投げ扱いで、コマンドも一回転で統一されていた。

餓狼MOW』では投げ間合は狭いし発生も遅いが、他に頼れる技が無いロックにとっては重要な崩し手段兼火力である。
しかしオヤジ同様、下段避け攻撃であるアークキック*2から空キャンセルで出せるため、
下段無敵のまま接近して投げることが出来る。これもロック使いには重要なテクニック。

さらにロックの場合、高速移動技「レイジラン・Type「シフト」」からキャンセルで出して表・裏から揺さぶることが可能で、
これが決まると通常よりも相手を高い軌道で投げることができる(通称「レイジ投げ」「シフト真空」)。
「コマンド投げで表裏二択を迫っても」と思うが、シフト真空は相手のバックステップを狩れるため、起き攻めの強化に一役買っている。
さらにブレーキングに対応しており追撃が可能。
ブレーキングしても真空投げ自体のダメージは減らないため、ここからのコンボはロックとは思えない高火力を生み出す。
自分画面端の真空投げ(または対戦相手画面端でのシフト真空)から8~9割奪うことも可能である。

通常真空、シフト真空の違い、画面位置などで追い打ち出来る技が違うため、きっちり全部覚える必要があるものの、
最弱を争う厳しい性能であるロックの数少ない武器になり得る技で、
この技と超必殺技「シャインナックル」を上手く使いこなせるかどうかがロック使いの腕の見せ所である。

なお「羅刹」という専用追撃技があるが、やたら当てにくいわ当てた所でダメージは低いわで、はっきり言って使えない
見た目は格好良いのだが、恐らく原型と思われる「羅生門」とは比較にならないダメっぷりである。
唯一の使い道は、真空投げで相手をKOした時に羅刹を入れることでゲージをちょっとだけ回収することくらい。
それ以外の条件ならBR弱烈風拳に全て劣っている。

CAPCOM VS. SNK 2』や『NEOGEO BATTLE COLISEUM』でも有効な崩し・コンボの起点となり、
ロックの主力と言っても過言ではない重要な技となっている。
『CVS2』では羅刹も実用レベルになっており、特に最後をMAXレイジングで締めるコンボはダメージ・魅せ共に申し分なし。

KOFXIV』ではとうとう天地返しコマンドに変更になり、ジャンプに化ける心配無しに仕掛けられるようになった(一応アークキック空キャンも可能ではある)。
…それはいいが、逆にtypeシフトからのキャンセルはやりにくい。これに関しては一回転コマンド避けなくてよかったのに……。
流石にこれは難がありすぎるからか、『XV』からはこの場合のみボタン一つで構わないようになった。どうせ他に出せる技もないんだし
また真空投げ自体のダメージが相手が地面に落ちた瞬間に入るように変わったため、
下手な追撃するくらいならブレーキングだけして起き攻めに移る方がよかったりなんかも。
羅刹はEX版で出すと自動でやってくれるようになり、さらにワイヤーダメージになったので追撃も決めやすいと、
EX必殺技らしく申し分ない性能になっている。
…さらには『XIV』で実装直後のバージョンではコマ投げの癖に浮いた相手を投げることまででき
端背負いの位置でならEX真空投げがMAXモードが終わるまで入り続けるというゲージ効率パナイ投げコンボができたのだが、
流石にアップデートですぐに不可能になってしまった。見た目は面白かったのだが…。

なお『サムライスピリッツ 天下一剣客伝』の黒子も「黒子真空投げ」としてこの技を使う。
追加入力で「黒子羅刹」を出せるため、ロックの方が元ネタであるようだが、
その動作は旗を振り上げ→振り下ろして飛び道具…あれこれ全然違う技じゃ…?
そもそもこの剣サム黒子、のポーズで八神の闇払い撃ったりしてるけどさ

MUGENでは、コンバット越前もこの投げ技を使ってくる。
ただし越前の場合は投げた相手に攻撃判定が発生しており、敵味方問わずヒットするようになっているので、
画面端に追い詰められた時にこの投げを使うと自爆してしまったりする。


*1
だが、実は『ストリートファイターII』シリーズには動作中完全無敵ではない投げは多く存在しており、
むしろ完全無敵ではない投げを持たないキャラの方が少なかったりする。
実際、件のガイルも『II』シリーズでは空中P投げに無敵は無い(『初代』から『X』まで全て)。
尤も、空中投げと相打ちを起こせるような技は『II』シリーズには無いのだが…

*2
この技名は『CVS2』で最初に登場。カプコンが独自に付けたものとプレイモアスタッフが判断したのか、
『NBC』ではこの技名を使用せず単に「下段避け攻撃」とシステムの説明通りな名前にされていた。
が、『KOFXIV』で再登場の際この名前が復活。
元『餓狼』スタッフの小田氏が関わっているを考えると、『MOW』時代から決まっていた技名だったのだろうか?
(この頃には通常技などの名前は発表されないのもザラになっていたとはいえ)


最終更新:2025年07月21日 20:18