シャーロック・ホームズ


"Elementary, my dear Watson."

(なあに、こんなのは初歩だよ、ワトソン)

+ 担当声優(日本語吹替の他、日本のアニメ・ゲーム作品等も含む)
中村正
『シャーロック・ホームズの冒険(1970年映画版)』
仲村秀生
『シャーロック・ホームズの素敵な挑戦』
千葉晃市
『新シャーロック・ホームズ おかしな弟の大冒険』
露口茂
『シャーロック・ホームズの冒険(1984年ドラマ版)』
諸角憲一
『シャーロック・ホームズの冒険(1984年ドラマ版)』(追録分)
広川太一郎
『名探偵ホームズ』
柴田侊彦
『名探偵ホームズ 赤い紅玉の巻』『名探偵ホームズ2 改定財宝の巻』
山寺宏一
『ヤング・シャーロック/ピラミッドの謎』(フジテレビ・ソフト版)、『シャーロック ホームズ(2014年人形劇版)』
堀内賢雄
『ヤング・シャーロック/ピラミッドの謎』(テレビ朝日版)
神谷明
『ヤング・シャーロック/ピラミッドの謎』(機内上映版)
田中秀幸
『名探偵コナン ベイカー街の亡霊』
藤原啓治
『シャーロック・ホームズ(2009年映画版)』(劇場公開・ソフト版)、『シャーロック・ホームズ シャドウ ゲーム』
大塚芳忠
『シャーロック・ホームズ(2009年映画版)』(テレビ朝日版)、『バットマン:ブレイブ&ボールド』
諏訪部順一
『探偵オペラ ミルキィホームズ』
三上哲
『SHERLOCK』
三木眞一郎
『エレメンタリー ホームズ&ワトソン in NY』、『アンデッドガールズ・マーダーファルス』
坂部文昭
『Mr.ホームズ 名探偵最後の事件』
水島大宙
Fate/Grand Order
川田紳司
大逆転裁判』シリーズ
古川慎
『憂国のモリアーティ』
小西克幸
『歌舞伎町シャーロック』
星野貴紀
『エノーラ・ホームズの事件簿』シリーズ
小原雅人
アニメ『ルパン三世』PART6

藤原氏が担当した映画作品での演者はロバート・ダウニーJr.氏であり、『アイアンマン』と並んで「藤原氏が吹き替えるRDJ」として印象深い。
しかしてワトソンの吹替が森川智之氏なのは今となって見ると妙な運命を感じざるを得ない

三上氏は英国制作のTVドラマ『SHERLOCK』にて演者ベネディクト・カンバーバッチ氏の吹替を担当して以降、
殆どの作品で同氏を吹き替えるフィックスとして定着している他、
ゲーム『文豪とアルケミスト』では『ホームズ』シリーズの原作者である文豪コナン・ドイル
(正確にはこのゲームの「文豪」は本人ではなく生まれ変わりという設定であるが)の声を担当している。
ちなみに同作には『エレメンタリー』の三木氏と『憂国のモリアーティ』の古川慎氏も別の文豪役で出演している。

サー・アーサー・コナン・ドイル氏が執筆した探偵小説『シャーロック・ホームズ』シリーズの主人公。
推理小説好きなら最早説明不要の男である。

初出は1887年の『A Study in Scarlet(邦題:緋色の研究。この機体のパイロットにも名前の元ネタとして使われた)』。
世界一の名探偵と言えるキャラクターであり、『名探偵コナン』の主人公・江戸川コナンこと工藤新一は、
「平成(令和)のシャーロック・ホームズを目指していた」と設定されている等、その影響は大きい。

+ シャーロック・ホームズ略歴
1854年に誕生。
1872年に大学進学(恐らくオックスフォード大学クライスト・チャーチ)。その2年後、学位を取得せずに中退。
1875年頃、モンタギュー・ストリートに下宿し、私立探偵を開業。しかし依頼は少なく、大英博物館図書館とセント・バーソロミュー病院で研究に励む。
1879年にマスグレイブ家の使用人達の奇妙な失踪事件を調査し、チャールズ1世の失われた王冠を発見。

1881年1月1日、知人であるスタンフォード医師の紹介で、アフガンから帰国した医師ジョン・H・ワトソン*1と出会う。
スタンフォードはワトソンの元助手で、ホームズが実験室を借りていた病院に勤務しており、二人が新居を探している事を聞いていたため仲介を行った。
ホームズとワトソンは利害の一致から家賃を折半し、ベイカー・ストリート221B番地にて同居を開始。
同時期に人間の表情からその深層心理を読み解けるという記事「人生の書」を執筆、雑誌に掲載される。
同年3月、スコットランドヤードから依頼を受け、ワトソンとのコンビで初めて殺人事件を解決(『緋色の研究』)。警察からの依頼が増えはじめる。
また、ホームズの推理能力に感銘を受けながらも彼が警察に手柄を譲り渡してしまうために世間的な評価を受けない事に不満を覚えたワトソンは、
いつか必ずホームズの活躍を世間に伝える事を決意し、彼の伝記作家として事件を記録していくようになる。
以後、2人は数々の難事件に関わり、未解決に終わった事件もあるものの、多くの事件を解き明かしていく。

1887年、ワトソンの執筆した事件記録『緋色の研究』が発表され、名探偵シャーロック・ホームズの名が一躍イギリス中に知られるようになる。
1891年、犯罪王モリアーティ教授から命を狙われ、最終的にライヘンバッハの滝に落下(『最後の事件』)。
しかし辛うじて生き延び、教授の一味残党からの報復を避けるため、偽名を用いて姿を隠す。
ワトソンは同年7月に『ボヘミアの醜聞』を発表し、以降1893年12月までホームズとの冒険、思い出を発表し続けるが、『最後の事件』を以て断筆する。

1894年、残党を壊滅させてベイカー・ストリートに帰還。探偵業を再開(『空き家の冒険』)。
1903年、探偵業を引退してサセックスで養蜂を営むようになる。
同時期にワトソンがホームズの帰還を描いた『空き家の冒険』を発表し、再びホームズの事件記録を発表していく。
1912年、英国政府の依頼でドイツのスパイを捕縛するのに協力する(『最後の挨拶』)。
1926年、ワトソンの執筆した作品を馬鹿にした事で「なら自分で書いてみろ」と怒られてしまい、事件記録を執筆、発表する
(『白面の兵士』『ライオンのたてがみ』)。

ロンドンのほぼ中心に位置するベイカー・ストリートを拠点に活動している、聡明で精力的な探偵。
警察や軍などから依頼を受けて捜査のアドバイスを行う諮問探偵、コンサルタント探偵を自称しており、
持ち込まれた困難な事件や奇妙な事件について、何が起こったかを解き明かす事でそのキャリアを築いた。

その推理方法は「遡及的に推理する」というもので、「これこれこういう経緯だからこうなった」と考えるのではなく、
「この結果があるという事は、その前にはこういう事があったのだろう」という風に思考していく。
そうすると「うまく説明できないもの」が必ず存在するため、これを手掛かりとしてさらに遡っていくのだ。
「全ての不可能を消去して、最後に残ったものが如何に奇妙な事であっても、それが真実となる」
これがホームズの探偵としての信条である。
「しかしホームズ、真犯人は耳が無いのに口笛を聞き、柱を登れ、金庫の中でも窒息せず、牛乳だけで生きてられる毒蛇だっていう、
   『まだらの紐』は流石に無理があるんじゃないか?」

猿のエキスを注射したら猿の能力を手に入れて思考まで猿になった『這う男』よりはマシだろう」*2

一方で事件が無いと引きこもりがちになり、食事のために部屋から出る事さえなくなる程。
退屈な時、あるいは容赦なく立ち込めるロンドンの霧*3で憂鬱な時はコカインの7%溶液を注射して相棒のワトソンを困惑させたり
(当時のイギリスではコカインやアヘンは合法で、パイプ貸出式の阿片窟も業態として存在した。故に清とのアヘン戦争が起きたのだが、それは別の話)、
拳銃を持って肘掛け椅子に座り、自室の借家の)に向けてヴィクトリア女王を意味する「V.R.」の文字を発砲による弾痕で作ったりする等の奇行も見られる。
社交性が皆無というわけではないものの、読書やバイオリン、化学実験といった孤独な趣味を好んでいる事に加え、
「女性とは信頼ならないものだ」と常々述べており、女性との交際を避ける事からワトソンに「計算機械みたいな男」とも評されている。
その性格が問題解決への科学的なアプローチへと繋がってもいる一方、どこか非人間的で倫理観の危うい側面もしばしば描写されているため、
パートナーのワトソンが「ごくごく普通の善人」というかけがえのない資質を持っている事で、そういった面を補っている。
この事はホームズも自覚しており、ワトソンを無二の親友として心から大切に思っている。*4
……とは言ったものの、ワトソンも依頼人との間で秘密にする約束をしていた事件を容赦なく本にして発表する男である。守秘義務とは一体……*5

ワトソン以外の関係者としては兄マイクロフト・ホームズの存在が語られている。
マイクロフトは弟以上の頭脳を持つ超人的な天才である一方、弟よりさらに出不精かつ非活動的なため、
ホームズからは「もし探偵業が全て安楽椅子の上で済むなら私以上の名探偵になれた」と評されている。
現在は政府要職(諜報関係であるとされる事が多い)として、弟に国家事業に関わる案件を依頼している。
後述のグラナダテレビ版では主演俳優の体調不良に伴ってホームズが登場できない回があり、
そこで代役としてマイクロフトが登場、ワトソンと共に事件解決に動く珍しい姿を見る事ができる。

また、下宿の大家であるハドソン夫人もシリーズ通して出番が多く、ホームズと親密な関係にある数少ない女性の一人と言える。
奇人変人の類でまともな店子とはとてもいえないホームズ(とワトソン)の生活全般を事細かに世話してくれる出来た人で、
一部の事件では解決にあたって協力者として二人のサポートをしてくれる事もある重要人物なのだが、
彼女の外見や容姿、過去については全く触れられていない。「夫人(ミセス)」な以上は旦那もいるはずなのだがこれも不明。
そのため一部のパスティーシュ(二次創作)ではあろう事か、『ボヘミアの醜聞』でホームズを出し抜いた美女アイリーン・アドラーの変装、とする事もある始末。
あと一度だけ何故か「ターナー夫人」という名前になっていた事がある。無論熊殺しのマッスル・デビルとは何の関係も無い。
後述のアニメ『名探偵ホームズ』では、若くして婚約者を失くした未亡人として描かれ、事実上のメインヒロインとなっており、
婚約者が飛行機乗りだったため飛行機や自動車に強く、かつては「街道マリー」のあだ名で知られる走り屋だったとかで、
心優しく美しい貞淑な大家さんとしての姿と、自動車を乗り回しリボルバーをぶっ放す姿のギャップに魅了されてしまった視聴者も数多い。

あとは60作の事件記録中実に13回も登場してホームズと共に事件解決にあたる、スコットランドヤードのレストレード警部も関係者と言える。
記念すべき第一回『緋色の研究』でホームズと対面した頃は彼をアマチュア捜査官気取りとして見くびっている描写も多かったのだが、
回を経るにつれホームズの実力を認め、対抗心を抱きつつも素直に称賛して頼り、あるいは逆にホームズの要請を受けて捜査に協力するようになる。
所謂探偵ものにお約束の「無能な刑事」ポジションのテンプレートとなったような人物ではあるのだが、
レストレード警部に捜査の指示を出した際にホームズは「レストレード警部なら信用して任せて大丈夫だ」と太鼓判を押しており、
「推理力は完全に欠けているが、一度やるべき事を理解したらブルドッグのように粘り強い。それが彼をスコットランドヤード一番の刑事にした」と、
基本的に警察を無能扱いしているホームズにしてはかなりの高評価を与えている。

それ以外にもベーカー街の孤児達をベイカー街遊撃隊として組織し、優秀な密偵として雇用している他、
ホームズを一度は出し抜いた女性アイリーン・アドラーや、最大の宿敵ジェームズ・モリアーティ教授などもいるが、
遊撃隊は隊長のウィギンス少年以外は詳細が不明な事に加えて『緋色の研究』『四つの署名』にしか登場しておらず、
アイリーン・アドラーとモリアーティ教授も実際にホームズと対峙したのはそれぞれ一事件だけの人物であるため、ここではあまり触れない事とする。

詳細についてより知りたければ彼の助手にして親友、そして伝記作家であるワトソン博士の執筆したとされる各種事件の記録小説を読むか、
ベアリング・グールドによって執筆されたホームズの伝記『ガス燈に浮かぶその生涯』を読むと良いだろう。
原典にあたる小説群については著作権が切れている事もあり、青空文庫や「コンプリート・シャーロック・ホームズ」などをはじめとした、
有志による私家翻訳版が無料で公開されているため、誰でも手軽に参照する事ができる。

言うまでもなく世界的な傑作のため、様々なメディア展開も行われている。
本項冒頭のフレーズは原典『背中の曲がった男』(1893年)で登場、初のメディア化作品である1899年の舞台版で使われたもので、
それ以来様々な派生作品で用いられた事で、現在はホームズの決め台詞として定着している。
「まあ私は『初歩だよ(Elementary)』の一言だけ、それも一度しか書いてないんだけどね」
アムロ行きまーすとかお前はもう死んでいるみたいなものさ、ワトソン」

ドイル氏は当初、ホームズに色恋沙汰には関わってほしくないと考えていたが、
後に主演のウィリアム・ジレット氏に「一切を委ねる」とし、ジレット氏の手で多くのアレンジがなされ、
アイリーン・アドラーをモデルにしたアリス・フォークナーを恋人として登場させたり、原作では名無しだった給仕の少年にビリーと名付けたりした。
ちなみにこのビリー、20年以上後に制作された『マザリンの宝石』で再登場した際には、名前が原作に逆輸入された。
服装や小道具関連では、セリフの言い易さを考えてパイプを曲がった物にした他、原作では被っていない鹿撃ち帽(ディアストーカー)を被っており、
「曲がったパイプと鹿撃ち帽」というビジュアルは、後のホームズのビジュアル像に大きな影響を与えている。

一方、あくまでも原典に忠実なドラマ化を目指したグラナダテレビ版『シャーロック・ホームズ』ではこうした要素を省いており、
名優ジェレミー・ブレットによる神経質で繊細な変人ながら何処か茶目っ気のあるホームズも、後年のホームズ像に及ぼした影響は大きい。
日本においては宮崎駿氏が手掛けた冒険活劇、(擬人化された)犬のホームズが活躍するアニメ版『名探偵ホームズ』による印象が強いが、
三谷幸喜氏による学園モノに翻案された2015年の人形劇『シャーロック ホームズ』を見て育ったという若い世代も多いだろう。
中には『アイアンマン』のロバート・ダウニーJr.氏演じる、暇を持て余してピットファイト(賭け試合)で殴り合いに興じ、
既婚者のワトソンの尻野獣の眼光で見つめる変人度増しましのホームズが印象に残っている人もいるかも知れない。
徹底再現された19世紀ロンドンの町並みも美しい
名優達による吹替版も見事
海外版でのタイトルは『シャーロック・ハウンド』
寄宿学校の繊細な少年として描かれるホームズ

あまりにも偉大な名探偵であるため後年の様々なフィクションに及ぼした影響については最早逐一述べていったらキリが無く、
有名な所を幾つか挙げれば『怪盗ルパン』シリーズには、そのまんま『ルパン対ホームズ』*6というルパンと対決する作品が存在する。
DCコミックではバットマンが「名探偵」ヒーローであるため、50周年記念特別号の『Detective Comics』では135歳のホームズと出会う話が制作されている他、
『バットマン:ブレイブ&ボールド』第15話(デーモンゲスト回)では過去に転移したバットマンがホームズと出会い、
ホームズはバットマンの衣装を一瞥しただけで、その人物像を正確に推理してみせた。
他にもゲスト出演歴が色々あるので、もう「 DCユニバースのシャーロック・ホームズ 」のキャラ設定ができてしまっている。初出は1943年なんだとか……。
19世紀末を舞台にした『ゴッサム・バイ・ガスライト』では、「ロンドンの名探偵」を友人に持つバットマンがゴッサムに現れた切り裂きジャックと対決する。
英国留学から帰国した医者の息子で女に目がなく連日深夜徘徊してる大富豪ブルース・ウェインが第一容疑者だろ!って言われたらそれはそう
日本では前述通り『名探偵コナン』が特に有名で、江戸川コナンという偽名の由来も「江戸川乱歩(エドガー・アラン・ポー)+コナン・ドイル」。
さらに実際に劇場版『ベイカー街の亡霊』ではVRゲーム内ではあるものの、コナンとホームズが対面を果たしている。
これらの作品で描かれるように、ほぼ同時期に現実で現れた殺人鬼である切り裂きジャックとホームズの、ある種の夢の対決も、しばしば創作の題材となっている。
OVA版『ゴッサム・バイ・ガスライト』
劇場映画第六作『ベイカー街の亡霊』予告

有名作品故に熱狂的なファンも多く、シリーズについて徹底的な研究を行っている人々は「シャーロキアン」と呼ばれている
(そして大体『エルキュール・ポアロ』シリーズのファンとは仲が悪い。あっちでは度々話の中でホームズが話題に出てきては散々こき下ろされるのだ)。*7
前述の『ガス燈に浮かぶその生涯』などもシャーロキアン達が原典を参照し、断片的な情報を拾い上げて創作した「架空の伝記」であり、
この他にも公式・非公式を問わず膨大な研究書や二次創作作品が制作されている。
日本人の手によるものでは後に伝説的考古学者となる少年と巡り合う五十嵐貴久氏の『シャーロック・ホームズと賢者の石』や、
ホームズの姪である貴族令嬢クリスティの目を通して"伯父様"の冒険を追いかけていく新谷かおる氏の『クリスティ・ハイテンション』などがある。

ドイル氏は元々医者であり、彼の恩師が教えた「検死する上での心得」がホームズの捜査術にも影響しているのだが、
『シャーロック・ホームズ』シリーズのヒットによってこれが現実の警察の捜査にも反映されるようになったという。
しまいには、既に作家業に専念していて医師でも警察関係者でもないドイル氏がとある事件の被疑者から捜査依頼を受けて冤罪を証明してみせるという、
そのまま小説に出来そうなエピソードまで存在する。正しく「事実は小説より奇なり」である。

ドイル氏としては医師時代に本業の片手間で受けた仕事が、何時しか執筆業のメインに侵食している状況の挙句、
当時の本人はノンフィクション歴史小説を執筆したいのに、編集者が「そんな事よりホームズの新作まだですか」、
ファンも「ホームズシリーズ大好きだけどドイル先生の他の作品知らない興味ない」という有様に嫌気が差してしまい、
『最後の事件』において彼をライヘンバッハの滝壷へと落とし生死不明にして一度は物語を完結させた。
しかしシャーロキアン達の熱は冷めやらず、ワトソン博士の「ホームズが生きてた頃の回想」として長編『バスカヴィル家の犬』が執筆されたが、
それでもまだまだシャーロキアン達からの圧力は衰えず、遂には「実は生きていた」としてホームズを復活させざるを得なくなってしまった。
超高額の原稿料をふっかけて追い返そうとしたらアメリカの出版社コリアーズ社が札束でぶん殴ってきて引っ込みつかなくなったせいでもある
作品人気の前には、作者本人の意向も時に押し切られてしまう一例であろう。それでも毎回傑作を書き上げるプロ意識は流石であるが。
再度書かれた最終回『最後の挨拶』で、ホームズは養蜂家として余生を過ごす事になった。これも農業エンドって事だろうか?
ただしそれ以降も「ワトソンが昔の事件簿を漁って公開できそうな事件を見つけてきた」という扱いで、10話以上も作品が発表されている。
内2作品は「遂に堪忍袋の緒が切れたワトソンに『じゃあお前も書いてみろ』と言われたホームズが、ワトソン不在時の事件の記録を発表する羽目になった」
という内容。

勘違いされがちだがホームズ以外の小説が不人気だった・売れていなかったという事ではなく、ホームズの売上が圧倒的だっただけで、
百年戦争が舞台の歴史小説『白衣の騎士団』や、ホームズと真逆なガチムチ脳筋寄り主人公のSF冒険小説チャレンジャー教授シリーズ』、
ナポレオン戦争を戦い抜いたフランス軍軽騎兵団の颯爽たる快男児『勇将ジェラールシリーズ』などのヒット作を数多く世に送り出している。
例えるなら、鳥山明氏の『ドラゴンボール』の世界的ヒットの前では、日本で大ヒットしたはずの『Dr.スランプ』でさえマイナー作品扱いみたいな話である。
余談だが、無礼で粗暴な野蛮人の如き性格だが勇猛果断で頭脳明晰という盛り過ぎな人物像をした前述のチャレンジャー教授も、
実在した恩師(生理学の教授)がモデルだそうな。ドイル氏も濃い人にばかり教わったものである。

また、ホームズ生還の理由として「バリツ」なる謎の日本武術を使用したというのも有名であるが、その詳細は明らかになっていない。
これはホームズとモリアーティ教授のライヘンバッハの滝での戦いをワトソンが伝聞でしか知らず、その内容も推測したものに過ぎないためで、
だからこそ「一緒に落ちた」とホームズが偽装する事に成功、後に「実は生きていた」として帰還を果たした際、ホームズが語ったのがこの「バリツ」なのである。
にもかかわらず「あのホームズが使う謎の武術」としてあっちこっちに登場するから困る。『探偵オペラ ミルキィホームズ』に至っては最早ギャグの域である
格闘漫画『ケンガンアシュラ』では幕末の頃に渡英した日本の武道家がボクシング等を取り込んで創始したとされているが、当然この作品内のみの設定である。
2009年版実写映画では「卓越した頭脳により相手の行動を予測、最小限の動きで最大効率の打撃を加える独自の格闘術」などの解釈もされている。
シャーロキアンによる研究では「武術(ブジツ)」や「柔術(ジュー・ジツ)」をワトソン博士が聞き間違えたという説が提唱されている他、
当時ホームズと同じ雑誌で発表された、柔術とステッキ術を組み合わせた全く新しい護身術「バーティツ」であるという説が有力。
バーティツは完全に廃れてしまっていたが、後にホームズの影響もあって改めて復興され、「バリツ」として研究書が日本でも出版されている。
『ニンジャスレイヤー』第4部シーズン4では、珍しく「バリツではないバーティツ」に言及しており、
英国式チャドー使いによる途中に膝蹴りを挟んだ五連続打撃「バーティツ・コンビネーション」として登場、
バーティツが廃れた理由は闇の英国式チャドー使いに奥義を奪われたためである事が示唆されている。
他、クトゥルフ神話TRPGの19世紀末サプリメント『クトゥルフ・バイ・ガスライト』では格闘技技能の一つとして「バリツ」が実装されており、
基本的にはホームズ専用技能なのだが、公式リプレイ「るるいえがすらいと」では19世紀末ロンドンに迷い込んだ女子高生PCが習得している。
技能としては判定に成功すると、〈組み付き〉発生か〈こぶし〉での2回攻撃のどちらかを選択できるというもの。もちろん〈キック〉もできるぞ!
とはいえ前述通り、実際にライヘンバッハの滝でどのような戦いが繰り広げられたのかは全くの不明なのだが、
某ネトゲとは無関係な『リーグ・オブ・レジェンド』のタイトルで映画化もされたアメコミ『リーグ・オブ・エクストラオーディナリー・ジェントルメン』では、
ライヘンバッハの滝の決闘でホームズが必殺のバリツを繰り出す場面が描かれているので、興味のある方は一度読んでみると良いだろう。

(参考資料:『シャーロック・ホームズの世界大図鑑』)


ゲームにおけるシャーロック・ホームズ

世界一有名な名探偵だけあって、ホームズのゲームも多数発売されている。
当然、普通は推理もののアドベンチャーゲームであり、このwikiで採り上げられるような格ゲーに持って来れそうな2Dでのアクションシーンは無いはずである
(ホームズはボクシングの名手であり、バリツなど格闘術にも秀でているが、全て文章で進行するアドベンチャーゲームではその描写も文章に限られる)。

だが、何故か世の中にはホームズが格闘で戦うアクションゲームなどという代物が存在する。
1986年12月11日にトーワチキから発売されたファミコン用ソフト『シャーロックホームズ 伯爵令嬢誘拐事件』がクソゲーとして有名。
犯罪組織「パパイヤ団」に誘拐されたマーガレット嬢を救助する事が目的で、一応はホームズらしく謎解き要素もあるのだが、
ノーヒントだったり、使用しないと説明書に書かれているはずの2Pコントローラーが攻略に必須だったりもしもしノックスメン
被ダメージ時の無敵時間が無いばかりか、手掛かりを求めてイギリス中を移動する都合上、旅費としてお金が必要不可欠なため、
何故かホームズを殺しにかかってくるイギリス中の一般市民を蹴り殺してお金を強奪していくストロングスタイルな捜査方法が最大の問題点となっている。
これがバリツ……!あとボクシングどこいった
人呼んで「英国紳士キック」
正直擁護しようのないクソゲーなのだが何故か続編が二本も作られた。
さすがにアクションゲームとしての続編ではなく、続編は普通のアドベンチャーゲームである。だが、そのせいであまり知名度が高くない事を悲しむべきか……。

また、格闘では戦わないものの、謎解き云々よりも客船内に何故か仕掛けられたトラップで探偵が頓死するアドベンチャーゲーム、
『ミシシッピー殺人事件』も有名なクソゲーだが、こちらの探偵の名はチャールズ・フォックスワース卿という全くの別人。
助手の名前こそワトソンだがホームズとは全くの無関係なので注意が必要である。そもそも舞台はアメリカなのだし。
ワトソンも元のPC版だと「リージス」という別名なので、和訳の際に「探偵助手と言えばワトソン」というイメージで変名されたと見られる。
しかし『シャーロックホームズ 伯爵令嬢誘拐事件』の攻略本に記載されたストーリーでは、
『ミシシッピー殺人事件』の顛末を知ったホームズとワトソンがフォックスワース卿をこき下ろすどの口でほざくかこいつという、
FC史上に残るクソ探偵ゲームのクロスオーバーが行われていたりする。
ホームズ「向かいの部屋で殺人事件が起ったというのに、探偵が気づかなかったという事件だよ」
ワトソン「ははは。なんとも言えませんな。ホームズ、君ならこの事件は、フォックスワース卿の半分の時間で解決できたんじゃないかい」
……あちらはあちらで、 プレイヤーから「探偵と助手以外の登場人物全員がグル」と考察される 異様な怪事件ではあったが。
ただ『ミシシッピー』と『伯爵令嬢誘拐事件』に大きな違いがあるとすれば、それはファミコンに移植された際に何故か即死トラップが設置されたという点である。
元のPC版では即死トラップは無く、セーブ・ロード機能も備わっており、そもそも本作は容疑者の証言をきちんとメモして推理しなければ解決できないため、
バリツキックでロンドン市民を蹴倒しノーヒントで突き進んでくどっかのホームズと違ってフォックスワース卿はちゃんとした立派な名探偵なのだ。

ホームズゲーの大手であるFrogwares社の若かりし頃のホームズを描いたオープンワールド推理ゲーム『Chapter One』では、
純粋な推理アドベンチャーゲームでは無くなった事もあり、ボクシングや銃器によるバトルパートが存在する。
また同社が出しているゲームの中には、あくまでオカルトを装った普通の事件だった原作から魔改造され、
過去の事件現場にタイムワープしてアイテム探しをしたり、マジックアイテムの力でアイテム探しをする
ガチのオカルトものになったポイント&クリックアドベンチャーの『バスカヴィル家の犬』や、
クトゥルフ神話を題材にした『The Awakened』(『Chapter One』の世界観で再構成したリメイク版もある)なんてものもある。
色物はファミコンのだけじゃ無かった
なお『The Awakened』では少年時代のポアロがカメオ出演している。
当然と言うかなんと言うか、クトゥルフ神話TRPGの19世紀末サプリメント『クトゥルフ・バイ・ガスライト』にもNPCとしてホームズのデータが記載されており、
なんなら(KPとPLで合意が取れているのなら)ホームズをPCとして神話事件に挑む事もできるので、彼の凄まじさを実感できるだろう。
正直「目星スキルを成功させたらKPが答えを教えてくれる」とかでないと、プレイヤーによるロールプレイ(演技)の方が追い付かない気がする……。
心理学100%はルールで禁止スよね?
ホームズはルール無用だろ
やっぱし怖いスねシャーロック・ホームズは


MUGENにおけるシャーロック・ホームズ

+ Brucewayne74氏製作
  • Brucewayne74氏製作
        
MUGEN1.0以降専用。
現在は海外サイト「The Mugen Multiverse」における氏のフォーラムにて公開されている。
スプライト嘉神慎之介等を元にしている模様。
背後には常にワトソン(ベースはこの人)が随伴しており、コマンドに応じて多彩な攻撃を繰り出してくれる。
勝利演出ではディズニーアニメ『オリビアちゃんの大冒険』に登場するネズミ版ホームズことバジルや、
前述のジブリ版ホームズが友情出演(?)するお遊び要素もある。
なお、コマンド表が付属していないため、各種コマンドはcmdファイルを開いて確認されたし。

操作方法は『MVC』風の6ボタン方式で、チェーンコンボやスーパージャンプが可能。
ステッキで攻撃すると何故か斬撃音がしたり相手が燃えたりするが、そこはまぁバリツ格ゲー補正という事で……。
必殺技三種の神器が揃ったバランスの良い技構成。
中には地面を調べて証拠品を入手するという、探偵ならではのユニークなものもある。でも証拠品を投げ付けるのはどうかと思いますホームズ先生
  • 地面を叩いて本を3冊落とす「book」
  • スライディングを放つ突進技「slidekick」
  • 地面に投げ付けた煙幕で相手の動きを止める「whitedust」
  • 中段から下段にかけて4枚の紙を投げ付ける「paper」
  • 銃を発砲する飛び道具「gun」
  • 対空技の「upper cut」
  • 杖による連続突き「flash cane stick」
  • 放物線上に投げ付ける爆弾「explosive potion」
  • ダッシュしてルーペで殴る突進技「dash magnificent glass」
  • ルーペで攻撃を受け止めて反撃する当身技「reverse」
  • 地面を調べ、様々な効果を持つアイテムをランダムで入手する「clue」
  • ワトソンが銃や傘、徒手空拳で援護してくれる「watson」

超必殺技は以下の7種。
  • 本を大量に積んだ縄を上空へ吊るし、敵がロープに攻撃すると落ちてくる設置技「Falling books trap」
  • 三連続でupper cutを放つ「Triple Uppercut」
  • 杖による乱舞技「Multiple Slasher Uppercut」
  • 空中専用の乱舞技「jump hyper combo」
  • バイオリンの音符7つを扇状に放つ飛び道具「Relaxing music hobby」
  • ワトソンが馬車で轢き逃げする「Dr. Watson Hyper」
  • ロンドン警視庁の警官達が一斉に突撃する「hyper police」
中でもhyper policeはフルヒットで4.5割持っていく火力もさる事ながら、大挙して押し寄せ100ヒットを叩き出す警官隊が圧巻である。
なお、Dr. Watson Hyperは使用後ワトソンがしばらくの間画面外に行ってしまい、戻ってくるまで援護を受けられなくなる点に注意。
AIは未搭載。
紹介動画

+ あんころね氏製作
  • あんころね氏製作
前述した『伯爵令嬢誘拐事件』のドットを用いて作られたホームズ。
技がバリツキックとピストルのみ、かつLIFE450という凄まじいっぷりを誇るキャラだが、
小さい上に無駄にライフ管理&ステ固定付きの常時アーマーのため妙に強い。
更に12Pだとターボモードになり攻撃が高速化、ピストルが永久になる。銃で撃たれると人は死ぬ

出場大会

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*1
今日、多くの日本語媒体では彼のラストネームは「ワトソン」と表記されるが、古くは「ワトスン」と表記される事もあり、
そちらを支持する熱心なシャーロキアンも少なくないそうである(現に当ページも作成当初は「ワトスン」表記で書かれていた)。ワタソン当然違う
また、ミドルネームの「H」については「ヘイミッシュ」(「ジェームズ」と語源が同じだとか)の頭文字とも言われている。
なお、ここで「ジェームズ」が取り沙汰されているのは、ホームズの宿敵ジェームズ・モリアーティ教授と被るという意味で、当然MI6の諜報員とは無関係。
ただアメコミ『リーグ・オブ・エクストラオーディナリー・ジェントルメン』および映画『リーグ・オブ・レジェンド』では、
両者が意外な形で本編に関わる事になる。
また、『憂国のモリアーティ』でも同じく意外な形で関わりを持ってその名が登場するに至っている。

*2
事件のあらましは、若い嫁さんを貰う事になった老教授が年齢差を気にして若返りのために猿のエキスを注射したら行動まで猿になってしまい、
不審がった助手の依頼でホームズが調査したというもの。
……ギャグみたいに思えるかもしれないが、本当にホームズが解決した事件の一つ
(ちなみに原典中2作しかないホームズがワトソンに「この事件発表しろ」と言い出した事件の一つだったりする)。

というのも動物のエキスを注入して活力を得たり、猿の睾丸を移植する事で精力を蘇らせるといった怪しげな手法が、
当時の最先端医療として発表されていたのが19世紀末と言う時代なのだ(実際、この事件の黒幕的人物の正体に真っ先に気付いたのはワトソンである)。
その黒幕も老教授の身に起きている症状を聞いて、
「エキスに使う猿の種類をもっと類人猿にした方がいいと思うし、この状況は絶対怪しまれるから自重してね……」と警告していたりする

医師でもあったコナン・ドイル氏がこんな治療法を信用していたのかどうかについては分からないが(ただし交霊術等に傾倒していた事は有名)、
「野蛮で下品な人間ばかりが生き長らえ、崇高な人間は死を厭わない。これではこの世は下水と変わらないではないか」と、
ホームズはこうした無意味な延命や若返りといった行為には否定的な見解を述べている。

『まだらの紐』に関しても、現代日本人とて「蛇使いは蛇が入っている籠を蹴ったり笛の動きで蛇を挑発し、笛の音で操っているかのように見せかけていた
という事実を知る人は少ないだろう(よく思い出してみれば、「籠の外に居る蛇を操れた人」はいない事に気付くだろう)。
また舞台となった19世紀末はまだまだ未開拓の秘境が数多く、件の蛇も「インドから持ち込まれた最も危険な毒蛇」という設定でその特異性は担保されている。
実際、地球上の何処かにこうした特殊な性質を持った未知の毒蛇がいる可能性自体は、否定できるものでもないのだ。

*3
ちなみに、このロンドンの街を覆っていた霧とは厳密には自然現象の霧ではなく、
石炭の燃焼によって生じた煙や粒子が滞留した人工的な「スモッグ」である、とは有名な話。
当時のロンドンは急速な人口爆発に伴う大気汚染が深刻な域に達しており、
ただ街を歩いているだけでも霧に混じった煤が服に付着するため、コートが無ければまともに外出も出来なかったのだとか。
実際ホームズの作中でも「黄色い霧が漂う陰気な街」として描写されている。

*4
……なので「どっちか女の子にするとこれもう完璧にラノベやギャルゲの主人公とヒロインだよね」とよく言われ、実際そういう作品もある。
そしてそれをアラサー男二人でやった結果、大昔から海外含めてお腐れ様達にとっては古典の域だったりも。
ホムワトはガチ、特にホームズの女性不信っぷりとワトソンへの親友と呼ぶにはあまりにもな執着描写が説得力高めちゃってる
挙句、現代を舞台に翻案されたTVドラマ『SHERLOCK』においては、ハドソン夫人からもそういう関係だと思われている設定になっている。

乙女ゲーム『Code:Realize ~創生の姫君~』ではメインルートを担当するのがアルセーヌ・ルパンという事もあり、
ライバルであるホームズ……もといエルロック・ショルメも攻略対象なので、主人公はルパンとホームズの間に挟まる事になるのだが、
続編『祝福の未来』からはショルメの元相棒ワトソン(※ウィルソンではない)も登場するため、
ホームズとワトソンの間に挟まる女子にもなれる。

なお、ワトソンの名誉のために言っておくが、あくまで本人の弁ではあるもののむしろワトソンは女好きあれ?名誉になってなくないか?
なんなら、原典第二作の『四つの署名』のラストで依頼人のメアリー・モースタンと早くも結婚してベイカー街を出て行ってたりする
メアリーとは『最後の事件』の後にホームズが行方不明になっている間に死別した(という説が有力)が、
その後も再婚しており、その際にホームズが「自分達の関係の中で唯一のワトソンの自分勝手な行動」と言うほどの大喧嘩をしたとか。
そしてこの一件の後の自分を「僕は独りぼっちだった」と激重感情で回想するホームズである

*5
かの有名な『まだらの紐』では冒頭で「事件の事を秘密にする約束をしていた依頼人が死んだので、もう約束を守る必要ないぜ!(意訳)」と言い出している。
他にもホームズと関係者が事件の事を絶対に秘密する約束をしている場面が何度かあり、つまりその度にワトソンは約束を破っている
(一応『ボヘミアの醜聞』のように期限付きの約束だった事件もある)。
当時の読者達からもワトソンの守秘概念の薄さはツッコまれていたのか、
『覆面の下宿人』の冒頭では事件の関係者から故人の名誉を傷つけないでほしいという訴えが来ている事を明かし、そのような事はしないと約束するに至っている。
「ワトソンは沈黙という美徳を持っているのだが、こと執筆に対してはその美徳をドブに投げ捨てるからね」
「ホームズ???」
「ボスコム谷の惨劇』で故ジョン・ターナー氏との間で絶対に守り通すと約束した秘密を洗いざらい全部書いたのを知れば、不安がるにきまってるだろう」
「それを言われると何も言い返せない」
それはそれとして秘密を守るためにワトソンに脅迫を行った者もおり、
そのような者達には今後同じことをすれば秘密を発表することでホームズの了承も得られたと警告もしている。

*6
後にドイル氏から苦情の手紙が来た事で「エルロック・ショルメ(英:ハーロック・ショームス)」に変更されたのだが、
SHERLOCK HOLMES のSを後ろに移動させて HERLOCK SHOLMES にしただけの、一目見れば分かるあからさまな変更で、
作中での描写も「パーカー街219」在住の探偵で、鹿撃ち帽とインバネスコートという舞台で描かれたホームズ同様の衣装を着ているとされる一方、
「ホームズのような名探偵と聞いて期待していたが、実物を見てみると印象がまるで違ってがっかりする」という反応が描かれており、一応は別人となっている。
作中での描写も助手のワトソンことウィルソンは友人ではなく部下扱いだったり、(主役がルパンなので当然だが)ルパンに出し抜かれる描写も目立つ。
……が、日本語訳されたものでは分かり易さを優先する形で、シャーロック・ホームズに訂正されて『ルパン対ホームズ』として出版される事が多い。
一方ゲーム『大逆転裁判』の海外版ではホームズがショルメに改変されるという、正に真逆の現象が起きていたりもする。
なお、対決の結果は「ルパンから宝物を奪還できたが、公にするには憚られる事件のため、ワトソンはこれを発表しなかった」という引き分けに終わっている。
まあ、ルパンから話を聞いたモーリス・ルブラン氏(作者本人劇中に登場している)が本にして出版しちゃったわけだが。

Frogwares社のゲームにもルパンと対決する『Sherlock Holmes:Nemesis』と言うものが存在する。
なお、本作の場合も最終的にホームズがルパンの盗みを阻止する事になる。
この作品のホームズは『The Awakened』でSAN値直葬されず生還した猛者のため、流石に格が違った。
それぞれ本国では英雄扱いされている二人のため、執筆したがるワトソンに「イギリスとフランスの国際問題になるから本にするな」とホームズが釘を刺している。
さらに言えばこの作品、ワトソンがホームズに送られたレジオン・ドヌール勲章を無断で譲渡するシーンがあるため、
公表したらワトソン自身がフランス側から訴えられかねない……。

ルパン三世 PART6』でも、ルパンと同様に名を継いだ探偵としてエルロック・ショルメではなくシャーロック・ホームズが登場している。
ホームズは女嫌いだから子作りしてなさそうだし兄のマイクロフトの血筋だろうか?
一応『ガス燈に浮かぶその生涯』では当時の人気探偵小説『ネロ・ウルフ』の同名主人公をシャーロックとアイリーンの子では?と書いているけど……。
ゴドフリー・ノートンは亡くなるか離婚されるかしたという事だろうか?
ルパンは題名通り三代目と分かっているが、この『PART6』のホームズが何代目かは言及されていない。
なお『PART2』には二名の「ホームズ三世」が別々に登場していたのだが、あまり有能ではなかったせいか、
『PART6』以降は視聴者から偽物扱いされている模様。看板倒れすぎたとは言え酷い有様である。
だが「シャーロック(個人名)三世」ならともかく「ホームズ(家名)三世」なら複数人居ても問題ない気もする。
なんなら「ルパン三世」の方も、その座を争った別系統の孫が登場してたりするし。

ルパンを設定に取り込んだスーパー戦隊シリーズ作品『快盗戦隊ルパンレンジャーVS警察戦隊パトレンジャー』では、
劇場版のゲストキャラとして名探偵エルロック・ショルメが登場している。
演者がお笑いコンビ「ココリコ」の田中直樹氏であったため「タイキックでやられる」「デデーン」(シャモ星が消える奴に非ず)とかネタにされたりした。

なお、怪盗ルパンをコミカライズした『怪盗ルパン伝 アバンチュリエ』でハーロック・ショームスが登場した際は、
原作者であるモーリス・ル・ブラン氏が、
「ルパンの冒険の数々の中で私が最も本領を発揮したのが、エルロック・ショルメことシャーロック・ホームズとの数度の闘いである」と述べていた事、
つまり名称や描写を修正して以後も一貫してエルロックをホームズその人として書いていたという事実その割にボロクソにけなしてなかった?を受けて、
「あの方の分身なので、言わずもがなの天才」であり、
「コナン・ドイルの著作に記されている伝説的な活躍は正にこの男の現実の功績だったのだと確信させてくれる」ような、
怪盗紳士アルセーヌ・ルパン最大の宿敵として立ちはだかってくる。

*7
ポアロは容疑者の証言を重要視する推理スタイルのため、現場を丹念に調べて物証を重視するホームズを「犬じゃあるまいし」と批判しているのだ。
ホームズも先輩の探偵キャラであるオーギュスト・デュパンやルコックをこき下ろしていた(後に評価を改めているけど)のでお互い様と言えばお互い様。

「デュパンは無能な人物だよ。
 十五分間黙っておいて突然友人に口を出す、あの悪戯は非常に派手で薄っぺらなやり方だ。
 無論、ある程度は分析的才能がある。しかしポーが述べたような非凡な人間では全く無いね」

この辺は当時の探偵小説が『既存の名探偵を馬鹿にする』お約束があった事が大前提のため、単純なヘイト創作というわけでは無い事を留意されたし。
実際デュパンとルコックのファンであったワトソンは内心穏やかでなく「こいつ賢いけどめちゃくちゃ思い上がってるな」と断じている。
「……それに正直なところ、君も大概派手好きだと思うけどねホームズ」
「ワトソンくん???」
「君も『ボール箱』でデュパンの真似をしてドヤ顔してたし、『銀星号事件』はサプライズ重視過ぎて競馬の反則をしたし、
   なにより『瀕死の探偵』に『最後の事件』『空き家の冒険』の事を私は忘れていないぞ?」

「いや本当申し訳ない」

実際にポアロの原作者であるアガサ・クリスティ女史自身はシャーロック・ホームズの大ファンであったという。
しかしその一方、クリスティ女史もドイル氏にとってのホームズ同様にポアロというキャラクターを持て余しており、
あえて自分からポアロと距離を置くため、作中でホームズ批判を繰り返させたと言われている。

アダルトゲーム『漆黒のシャルノス』ではこの辺りの要素を拾っており、メインヒロインのアガサ・クリスティことメアリ・クラリッサ・クリスティは、
ホームズ作品に登場する多くの人物達と関わり、時としてホームズ自身の助力を得ながら、怪事件の発生するロンドンの街を奔走する事になる。
また同作と世界観を共有する小説『What a shining league』のメインヒロインを務める安楽椅子探偵少女オーギュスティーヌ・デュパンは、
ホームズの事を毛嫌いしており、原典とは逆にホームズの事をクソミソに貶すという小ネタが織り込まれていたり。
「ホームズ!? 言うにこと欠いてホームズだと!?
 よりにもよってあんな派手なだけの薄っぺらな無能といっしょくたにされるとは!
 いいか、奴のやっていることなんか、所詮ただのおままごとだ!」

……という数々の事例を踏まえて考えると、ファミコンの『伯爵令嬢誘拐事件』の攻略本でフォックスワース卿を貶していたのも、
実は探偵もののお約束を踏襲した一幕だったのだろうか……?


最終更新:2025年08月03日 10:04