鯨波兵庫

登録日:2021/04/30 Fri 19:59:57
更新日:2024/05/06 Mon 18:22:45
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愚問!!!

「武身合体」のこの鯨波兵庫にしくじりなど無い!!!!





鯨波(くじらなみ)兵庫(ひょうご)とは『るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-』の登場人物。



人物


雪代縁によって招集された集団六人の同志の一人であり、武身合体(ぶしんがったい)異名を持つ男。

短く刈り上げた坊主頭と奇妙な形の唇、濃いクマに縁どられた鋭い目、そして肘先半ばで断ち切られた右腕が特徴。
安慈より一回り大きい作中屈指の巨漢で、全体的に筋肉質であるが年齢のためかやや下腹が出ている。作者曰く「中年太りのマッチョ」。
茶色いボディスーツのようなものに腰布を巻き付けただけの簡素な装いで、それも全体的にボロボロでかなり薄汚れている。

元は武士であり、幕末の動乱期には幕府方の一員として戦に参じていた。
そしてその中で対峙した人斬り抜刀斎との戦闘で利き腕であった右腕を切り落とされ、その時の因縁から抜刀斎(剣心)への復讐「人誅」を目論む六人の同志の一員となった。厳密に言えば、抜刀斎に介錯を頼んだが断られたことが抜刀斎への憎悪の原因である。

やや粗暴さを感じさせる見た目とは裏腹に素の性格は落ち着いており、他者の厚意を素直に受け笑顔で感謝を示す素朴な人柄を持つ。

だが、武士としての誇りを持っていたが故、死に場所を失い過ごした10年という歳月はその素朴さや善性で祓えない苦悩を伴っており*1*2*3、その原因となった抜刀斎への憎悪は抑えられないほどに深まっていた*4*5
そしてその憎悪はやがて狂気へと至り、鯨波自身を暴走させていくこととなる。


来歴


人誅編

以前から外印によって人誅に誘われており、剣心一行が京都から帰還して間もなく東京を訪れ、剣心たちの馴染みの店である赤べこに来店。
その際、自分を気遣って注文した一番安い麦飯ではなく鮭飯を出してくれた妙に感謝を告げた。
そして退店時に丁度来店した剣心とすれ違い、その存在に気付きながらもその場を後にした。


その夜、かねてからの計画通り訪れた上野山で縁と初対面。
「同志」を名乗る縁から赤べこのことを問われ「いい店だった」と素直に答える鯨波だったが、計画を中止するかと問われ幕末のことを思い返す。



――――幕末・鳥羽伏見の戦い。
戦場で抜刀斎と対峙した鯨波は龍翔閃の一撃で利き手だった右腕を切り落とされた。
既に幕府方の敗色が濃厚となった中、鯨波は「銃砲火器によっての時代は終わり、自分のような武士の生きる場所は無くなる」と考え、最強と謳われる抜刀斎の手で武士のままその生涯を終えられるなら本望と語り、自分にトドメを刺すよう訴えた。

だが、ある一件を経て出来るだけ人を殺めたくないという思いを抱いていた抜刀斎はそれを拒否し、「新しい時代に生きてくれ…」と言い残しその場を去った。

鯨波にとってそれは武人としての自分自身を奪う行為に他ならなかった。


待て抜刀斎!
貴様は…維新志士(きさまら)は自分から武人の誇りと時代を奪うだけでは飽き足らず
武人としての死に場までも奪おうというのか!!
抜刀斎!!!
抜刀斎―――ッ!!!



――――自身の復讐心の始まりを振り返った鯨波は計画の実行を決断。
用意してあったアームストロング砲を右腕に装着し、狂気の笑みを浮かべながら赤べこを砲撃。
一撃で店を全壊させ*6、人誅の始まりを告げる狼煙を上げた。

その後、縁と共に外印が手配した横浜の屋敷へと移動し、そこで番神瓢湖無名異らと合流。
集団名を決める際「外印と愉快な仲間達」という案には「不愉快だ」と返すなど終始ぶっきらぼうな態度だったが、縁の提案する人誅の計画には従い第二の襲撃でも瓢湖が退却した直後の浦村家への砲撃を行った。


そして人誅最後の神谷道場決戦では他の五人と共に気球で道場の上空に出現。
ここにきて抜刀斎への憎悪が抑えられなくなっていた鯨波は真っ先に気球から飛び降り、空中から地上の剣心たちへ砲撃を行おうとする。
しかし左之助の拳を足場に空中へ飛び上がってきた剣心が放った九頭龍閃を喰らってしまい墜落。
それでも起き上がりアームストロング砲を放つが今度は左之助が持ち出してきた斬馬刀によって砲弾を弾き返され、それを撥ね退けたうえで第二弾を装填しようとするが接近してきた剣心が逆刃刀の峰で砲身を両断。
更に返す刃で右脇腹を打ち据えられ肺に強い衝撃を受けた結果呼吸困難に陥り動くことさえままならず無力化されてしまった。

こうして行動不能なまま同志たちの戦いの脇にいた鯨波だったが、激痛で意識も混濁する中で高まり続けた抜刀斎への憎悪によってとうとう完全に理性の箍が外れ発狂
同時に精神が肉体を凌駕したことで動き出し縁と戦闘中だった剣心に襲い掛かり、直後に加勢した斎藤の手で鎮圧されるが、この時剣心が鯨波に襲われた僅かな時間によって縁の人誅は完遂されることとなった。
手早く無力化する必要があったとはいえ、剣心の中途半端に鯨波を倒す行為は結果として完全に裏目に出る事になってしまった。

その後、番神ら同様警察に捕縛されるが理性が戻らず発狂したままで会話すらままならない状態になっており、警察署の独房で蹲ったままブツブツと「抜刀斎」と呟いていた…



ところがある日、牢番だった警官らの雑談の中で出てきた「人斬り抜刀斎」の名前を耳にしたことで鯨波は再度暴走。
素手で牢を破壊して脱走したうえ保管室から押収されていた連射型改造擲弾射出装置を持ち出し装備。
発狂しているのに武器の在り処を探し当ててしっかり装備してしまうのがタチが悪い…
その火力で署内を破壊し尽くして火の海にするが、それでも鯨波の暴走は治まらず市街地へと侵攻する。

そして街中にて彼を食い止めんとする弥彦率いる新市をはじめとした警官数名と交戦*7し、火力や体格の差によって圧倒する。
だが、道の両脇に立ち並ぶ家屋を利用した戦法に手古摺り手傷を負わされたうえ、何度打ちのめされようと決して闘志を失わず向かってくる弥彦の姿に抜刀斎(剣心)の姿が重なり始める。
抜刀斎への憎悪のままに弥彦と対峙した鯨波は一対一の勝負を挑まれ、弥彦の奥義である刃止め・刃渡りで先の戦いと同じく右脇腹への打撃を受けてしまうもかつて同じ一撃を浴びせた剣心の顔を想起しこれを堪え、とうとう弥彦を捉えて彼を蹂躙、弥彦を捕らえたまま至近距離から擲弾を発射しようとする。

しかし寸前で復活した剣心が駆け付け九頭龍閃で発射を阻止。
それでも尚立ち上がり彼を攻撃しようとするが更に龍翔閃の一撃で擲弾射出装置を切り落とされ、すべての始まりとなった右腕の喪失を再度体験したことで鯨波は理性を取り戻す

理性が戻ってなお鯨波は今度こそ剣心に自分を殺すよう求めるが拒否され、殺さぬなら残った炸薬で自爆しこの場を皆殺しすると言い出すが、それを止めようと立ちはだかったのは先ほどまで自分と戦い続けた弥彦だった。



今はそんなでもお前侍だったんだろ………
剣心も侍 お前も侍
だから違う信念のもと 闘えば死んでも承知のはず…

なのになんでお前は右手一本で済んだとよしと出来ねェ!!
侍が侍を恨む道理なんてねェはず!

誇りがどーの時代がどーの…侍が口にしてわめいてもそんなの空しく響くだけ
侍なら拾った命で新しい時代にこれから何を為すか考えろ!
剣心はずっとずっと人を守って闘ってきた!
お前は失くした右手に弾を仕込んで暴れただけで残った左手でいったい何をしてきた!!

それでもまだ()るっていうならこれで左腕同士!もう一度俺が闘ってやる!!

―――……



侍としての道を叫び、自ら右手を傷付け左手で対等に戦うと宣言する弥彦に沈黙する鯨波。


(わっぱ) 名は?

童じゃねェ!東京府士族明神弥彦!!さあやるのかやらねェのか!


弥彦の名を聞いた鯨波は静かに踵を返し、傍に佇む剣心に語り掛ける。



士族か…そんなものは名ばかりだと思っていた
新時代に武の心も士の魂も滅ぶばかりと思い込んでいたがどうやら自分の思い違いの様であった…

自分の負けだ

士族 明神弥彦の言う通り侍が侍を恨む道理無し…迷惑をかけた…


自身の行為が自身の最も重んじていた武士の誇りを貶めていること、そして新時代にも武士の誇りを持つ者がいることを気付かされた鯨波は静かに涙を流していた。
そしてそんな彼に剣心も語り掛ける。



鯨波兵庫
新しい時代にもう一度生きてくれ…


それは幕末の時と同じ言葉だったが、弥彦の言葉を聞いた鯨波の反応は以前と違っていた。



――……重ね重ね二度もの御厚意……かたじけない…


午後四時四十七分、鯨波は自ら縛に就き一件は終結したのだった。



戦闘能力


見た目に違わずその巨躯には常人離れした怪力と耐久力を備える。
元々九頭龍閃の直撃を喰らって上空から地表に激突しても問題なく立ち上がるほどの耐久力を誇っていたが、
発狂した状態では牙突を肩に受けても問題なく立ち上がるなど生半可な傷では止めることすら出来なくなっており、まさしく動く災害の如き脅威となる。

先述の通り隻腕であるが切断された右腕の部分にコネクターを埋め込んでおり、ここに接続することで各種兵器を操ることが出来る
「武身合体」という名もここから来ており、その巨体と技量を活かして普通の人間では到底扱えない大型火器を使いこなす。
そのため戦闘スタイルは移動砲台に近い。
本編中には以下の二種類の兵器を用いているが、接続には兵器側にも独自の改造が必要でありこれら以外の兵器を使用したことがあるかなどは不明。


アームストロング(カノン)

幕末三大兵器に数えられる大砲
鯨波の体格から比較するにおそらく艦載砲や要塞砲として使用された40ポンド(口径12.07cm)アームストロング砲を改造したものであると思われる。
射程が長いうえ、家一軒を容易に吹き飛ばす威力の砲弾を放つことが出来、砲身の側面にはシールドのようなものも装着されている。
全長が鯨波の身の丈ほどもあり重量も相応だがコネクターに接続することで自在に扱っており、赤べこへの砲撃時には射程距離ギリギリでかつ風が出ている中一発で命中させている。
ただし反動も大きく、一発撃つだけで背後にあった太い御神木がへし折れてしまったほど。*8
また、装填にやや時間がかかるようで*9神谷道場戦ではここを衝かれて破壊されてしまった。

これも縁の武器マフィア組織から提供されたものであるが普段の管理は鯨波自身が行っており、横浜のアジトでは庭で砲の手入れをしている場面もあった。


連射型改造擲弾射出装置(カスタムグレネードランチャー)

神谷道場決戦前に縁から提供された新兵器。
ドラム型の擲弾射出装置で下部にはナイフが一本銃剣のように装着されている。
射出される擲弾はアームストロング砲には劣るものの人間相手には必殺の威力。しかも武器マフィアで改造された結果、側面に繋がった給弾ベルトから弾を装填することでかなり短い間隔での連続発射が可能になっている。
そのためアームストロング砲と比較すると対人戦や市街戦での脅威度はこちらのほうが勝る。というか、神谷道場戦でもこちらを使われた方がヤバかったと斎藤から評されている。

神谷道場決戦ではアームストロング砲が使われたため、こちらは未使用のまま警察に押収されていたが脱走時に鯨波が取り戻し弥彦たちとの戦闘で使用された。



再筆


元武士という部分を強調され、ちょんまげ頭になり軽装の鎧も身に付けている。また特徴的だった唇は形はほとんどそのままヒゲに置き換わった。
隻腕で右手の代わりに武器を装着しているが、三本のカラクリアームで接続され遠中近に対応しており、アームストロング砲・回転式機関砲・太刀が装備されている。
これらのカラクリを操るため背面に動力となる蒸気機関を内蔵したタンクを背負っているが、そのせいで機動力は皆無となっている。



実写映画版



演:阿部進之介

『最終章 The Final』に登場。
原作同様幕末に抜刀斎によって右腕を切り落とされながら見逃され、死に場所を奪われたことから縁一派に与し、剣心への人誅を行う。
右腕にはアームストロング砲の他にも回転式機関砲を接続し、背中に刀も背負っているなど、やや再筆に近いコンセプトのビジュアルになっている。

赤べこを訪ねる事なく、すぐに店を破壊して妙や燕を負傷させた他、市街地への無差別砲撃を行うなど原作以上に暴虐を尽くす。
そして中盤では回転式機関砲を装着し、街中で剣心と一騎打ちを行うが、武器を切り落とされて敗北。
自分を殺すよう求めるが、不殺の誓いを理由に拒否され、嗚咽を漏らしながら連行された。
外印丸カット*10、弥彦とのやりとりなどが省略された結果、原作のような改心も出来ぬままの退場となってしまった。



余談


実は縁から枝分かれして誕生したキャラ。
元々縁を造形する際に隻腕の剣客として知られる伊庭八郎の要素を組み込もうとしたが、「隻腕で奥義習得した剣心と渡り合う説得力」「ラスボスは画的に刀対刀のシンプルな形がいい」など諸々設定を考慮した結果、隻腕の要素が縁から分離することとなりそれを再利用する形で鯨波が生まれた。
その他にも宇水の時に入れられなかったターミネーター的要素も入れようとしたものの結局果たせず、弥彦戦でも制作陣一同疲労困憊で描写に入れる余裕が無く断念したという。

デザイン上のモチーフはその特徴的な唇からも分かる通り『X-MEN』の大ボス・アポカリプス
八ツ目無名異もそうだがけっこうそのまんまである。

あと何故か『スナックバス江』に意外な形でゲスト出演していた。

北海道編での再登場が期待されているキャラだが、やったことを冷静に見直してみれば
無人とはいえ故意に 赤べこの店を砲撃して全壊 し、
非戦闘員も中にいる 現職の警察署長の自宅と神谷道場に砲撃 して署長の家を破壊し、
捕縛されても反省しないどころか警察署を壊滅させた上に東京の街一つを火の海にする
これで死刑にならないなら何をやればなるのか というレベルでやらかしている。*11
これで大丈夫なんだから煉獄で砲撃した程度じゃ東京の街で混乱は起きないだろう。
再登場時はその辺をどう処理するのかを注目したいところ。


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最終更新:2024年05月06日 18:22

*1 出で立ちや「久し振りに人間らしい食事をさせてもらった」という台詞からも、真っ当な生活は送れていなかったことが窺える。

*2 鯨波自身も予想していた通り、銃火器の普及によって、武人それも旧幕府側の人間が貰える仕事も限定されていたと思わしい。

*3 隻腕であるため、自給自足すらほとんど不可能。

*4 肝心の抜刀斎も、利き腕を失った鯨波を手当てもせず不殺の理由も告げずに「生きろ」とだけ伝えて戦場に置き去りにした。

*5 利き腕を失っただけでなく、九頭龍閃や牙突を余裕で耐えたり空から落ちてもピンピンしているほどの頑丈さを持つため、仮に自殺しようとしてもできなかった可能性もある。

*6 ただし店に人がいないタイミングを狙ったためけが人は無く延焼なども防がれた。

*7 この時剣心は人誅のせいで心が壊れ動けず、左之助は行方知れず、斎藤と蒼紫は捜査で遠出、と味方サイドの強者が軒並み不在だった

*8 実際に使用する際にも砲の反動を後ろに逃がすため砲座に後退する台車や車輪を取り付けてある。反動をバネや油圧で相殺する駐退機付きの砲が普及するのはこのもう少しだけ後

*9 アームストロング砲は今の大砲のように砲尾栓の一部だけネジ山が切られた方式でなく、尾栓全体がネジ状の構造となっているので、前装砲よりは遥かにマシなものの装填には時間を要する

*10 第1作で武田屋敷の傭兵として番神と揃って登場し、敗北して投獄されたため。これにより薫の死体人形が作られない、呉黒星の軍勢が粛清されず丸ごと人誅に投入されるなど大きく流れが変化した

*11 現実の明治15年近辺の日本で死刑になったのは大久保利通を暗殺した不貞浪人だけなのだが、もちろん史実で明治の東京を焼いた例はないので比較できない。