さよならを教えて ~comment te dire adieu~
【さよならをおしえて こまん とぅ でぃーる あでゅー】
ジャンル
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ファナティックアドベンチャーノベル
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 オリジナル版
 あそBD版
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対応機種
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パッケージ
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Windows 95~Me
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あそBD
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BDプレイヤーズゲーム
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DLsite専売
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WindowsVista~10 Android(11)
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販売元
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ビジュアルアーツ
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開発元
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CRAFTWORK
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発売日
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パッケージ
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2001年3月2日
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あそBD
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2011年12月16日
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DLsite専売
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2016年1月29日
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定価
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パッケージ
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8,800円(税別)
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あそBD
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4,300円(税別)
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DLsite専売
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Win
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2,750円(税込)
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Android
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2,420円(税込)
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レーティング
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アダルトゲーム
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判定
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良作
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怪作
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ポイント
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伝説のプレミアエロゲー 徹頭徹尾救いがない 壊れていく主人公
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CRAFTWORK作品 for elise ~エリーゼのために~ - flowers ~ココロノハナ~ さよならを教えて ~comment te dire adieu~ - Geminism ~げみにずむ~
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WARNING!!!!!!!
鬱気味など精神的に不安定な人は真面目に読まないことをお勧めします。
概要
アダルトゲーム史の極北で今も語り継がれている伝説のエロゲー。
キャッチコピーは「言葉、男、狂気、少女、さよなら」であり、異色な作品を数多く発表しているCRAFTWORK作品の中でも一際異彩を放っている。
タイトルは歌手・フランソワーズ・アルディの代表作から取られている。
歌の内容は、一方的に別れを宣告されたとおぼしき女性の心情をつづったものであり、決して奇をてらったものではない。
ジャンル名につけられている「ファナティック(fanatic)」とは、「狂信・熱狂」という意味である。この時点で既に嫌な予感がした方も多いだろう。そう思えたあなたは正しい。
パッケージの特徴
このゲームのパッケージには、以下のような他のアダルトゲームではお目にかかれない奇妙かつ陰鬱な注意書きが書かれている。
・現実と虚構の区別がつかない方
・生きているのが辛い方
・犯罪行為をする予定のある方
・何かにすがりたい方
・殺人癖のある方
※このソフトには精神的嫌悪感を与える内容が含まれています。上記に該当する方はご遠慮くださるよう、あらかじめお願い申しあげます。
CD-ROMの盤面デザインすら狂気を感じさせる。ネガティブな単語が盤面の隅から隅までびっしりと細かく書かれているのだ。
ここで嫌な予感がした方も多いだろう。くどいようだがそう思えたあなたは正しい。
あらすじ
主人公は女子高に通う教育実習生。彼は学校での生徒や教師との付き合いに精神的な疲れを感じていた。
ある日、彼は美しい天使が異形の怪物に蹂躙される夢を見る。校内の保健医にその夢のことを相談していると、1人の少女が保健室に入ってくる。その少女は彼の見ていた夢の中の天使に酷似していた…。
システム
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表示されるテキストを読んで時折出現する選択肢を選んでいく、極めてオーソドックスなサウンドノベル式ADV。
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メッセージウィンドウは無く、画面全体にテキストが被さるスタイルである。
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舞台の5箇所それぞれに1人ずつ、5人のヒロインがいる。彼女たちの居場所は常に変わらず、そこを訪れれば問題なく親交が深まる。ゲーム終盤、ターニングポイントとなる選択肢でその時最も親しいヒロインを指名すれば、そのまま正規終了を迎える。
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選択肢でルートが分岐するケースもほとんどなく、特に攻略が必要となるほどの関門はない。なお、個別ルート選択までに3人まで同時進行が可能。
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演出が少々変わっている。
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攻略ヒロインの5人は、キャラ立ち絵にポーズや表情の変化が無い。その代わり、感情表現描写として「キャラの目元の素描風イラスト」がカットインする。
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CGは大胆な部分拡大を多用する。そのため初見のCGは全貌がわからず、特にグロテスク描写を含むCGはプレイヤーを不安な気持ちにさせる。なお、見たいかどうかは別だが、回想モードでならCGの全体図を見やすい。
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テキストの表示方法にも工夫があり、表示位置を不規則にしたり、文字列で画面を埋め尽くしたり、強制字送りでテンポを速めたりといったシーンはインパクトが強い。
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ボリュームは少なめである。各ヒロインの個別ルートも結末を左右するほどの違いはなく、部分変化程度に留まる。
キャラクター
登場キャラは以下のとおり。
非攻略キャラ(女性)も2人いるが、その2人にも肌色CGはある。
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主要キャラクター
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人見広介
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本作の主人公である教育実習生。だがいまいち臆病で自信がなく、精神的に疲れ気味。本作は上記のとおり彼が奇妙な夢を見るところから始まる。
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小さな物事でも奥深く考えてしまう性格で、それを自分一人で抱え込んでしまうため自己嫌悪に陥りやすい。
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詳しくは下記になるが、後半になるにつれ彼の行動はプレイヤーでも制御できないほどおかしなものになっていく。
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巣鴨睦月
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主人公が夢で見た天使と酷似している少女。本作のメインヒロインであり、主に教室に現れる。
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主人公は彼女の持つ神聖さに憧れと恐れを感じている。
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そして物語が進むにつれ彼女の存在は主人公の中でどんどん神に近いものになっていく。
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高田望美
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たばこを吸いに来た屋上で出会える少女。給水タンクの上でいつも下界を眺めている。
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快活な印象を与える反面、自殺願望のようなことを呟くことも。
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家庭環境に問題があるらしく、父親から性的虐待を受けている模様。
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田町まひる
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校庭で出会える主人公の幼馴染。内面も外面も幼い。
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主人公に最初から友好的で、主人公側もある程度心を許している。そのためか専用BGMが異質なほど明るい。
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主人公は過去のとある存在と彼女を重ねるのだが…?
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目黒御幸
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図書室で司書係を務める少女。生真面目な眼鏡娘。
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主人公と同じく人付き合いが苦手で、世の中を達観したような見方でとらえている。
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会いに行くと大抵勉強しているか本を読んでいるかのどちらか。彼女と話すと様々な方面の雑学を教えてくれる。
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上野こより
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弓道部室で出会う少女。攻略キャラの中では一番スタイルがいい。
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つねにほんわかした口調で話すがかなりの毒舌家であり、容赦なく主人公の心を傷つける。
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個人ルートでは暴走する主人公に対して唯一反撃に近いことをしてくる。
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大森となえ
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保健室の先生であり、主人公のよき相談相手。ヘビースモーカー。
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非攻略キャラだが彼女を攻略したかったという意見も多い。もっとも、真実を知ると複雑なものだが…。
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高島瀬美奈
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学園の教員。となえと同じく非攻略キャラ。主人公の担当教師でもあるが、主人公は彼女のことをかなり苦手としている。
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冷酷な印象を与える一方、となえと何かを話していたり、主人公の書いた日誌を見て突然泣き崩れたりするなど謎が多い。
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なお、これ以外の人物は全く登場しない。学園内のはずなのにモブ生徒どころか背景にすら誰もいない。
これは演出ミスではなく、れっきとした理由がある(以下の「ストーリーの特徴」のネタバレ部分にて解説)。
ストーリーの特徴
プレイヤーは教育実習生の主人公を操り、5人のヒロインがいるそれぞれの場所を選択して彼女たちに会いに行く。
ゲームの展開は「保健室で保健医と会話 → トイレで用を足す → 各ヒロイン達と会話 → 職員室で担当教師と会話 → 一日終了」という流れでスケジュールをこなす。
主人公を操作する時間帯は決まって放課後の夕暮れ時。そのため背景は常に橙一色であり、独特な雰囲気を醸し出している。
ある日付まで話を進めたらヒロインを選択して個別ルートに入り、エンディングを迎える。
ところが、ゲームを進めるにつれ、主人公が段々おかしくなっていく。
主人公は最初こそ謙虚にヒロイン達と関わっているのだが、ゲームが進むにつれ態度が変化。
ヒロインをレイプするのはもちろん、弓矢で貫いたり四肢をもぎ取ったりとやりたい放題。しかし、翌日になるとヒロインが元通りになっており、何事も無かったかのように話しかけてきたりする。
また、主人公と同様におかしくなっていくものに「学校のチャイム」がある。最初はただの放課後のチャイムなのだが、日が進む毎に音がおかしくなっていき、最終的にはチャイムどころか音というのもおぞましい何かになる。
※主人公の壊れっぷりの一例
保健室にて「あのコが……天使……なのかい?」と問いかけてきた保健医の先生に対し、以下のような返答の選択肢が出てくる。
「絶対に違う!」
「彼女は天使であって天使ではない」
「それは僕の妄想にすぎない」
が、なんと主人公はどの選択肢を選んでも、
「そうです。あのコが僕の畏敬する天使様なのです」
と答える。これは不具合やミスといった類のものではなく、製作者が意図したものである。
「ヒロインをレイプ」などといった主人公の変貌は、上記のシーンを境に決定的なものになる。
以降は崩壊の度合いが加速し、選択肢の内容までおかしくなってくる。これらもバグなどではなく、意図的な演出である。
さらにシナリオ終盤になると、学校内の移動先とその風景すら一致しなくなってしまう。
もちろんこれも主人公の崩壊具合を示す演出なのだが、当初は製作者の意図が理解できず「背景画の指定ミス」と誤解したプレイヤーも多かった。
とにかく終始一貫して重苦しいストーリーである。「恋人の死」や「裏切り」といったテーマを扱ったゲームなら他にもいろいろあるが、これはそういったものとは違う意味で重いため余計にタチが悪い。
また先述の通り、ヒロインが手足をもがれ達磨にされるなど残酷なシーンが非常に多い。
そしてその先に待っているのは、あまりに救いようがなく、かつ斜め上なエンディング。その突き落としっぷりは未だに語り草になっている。
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以下、主人公のこの奇行の理由とエンディングについて(ネタバレ注意)
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ここまで読んで気付いた人も多いだろうが、実は主人公は教育実習生などではなく、統合失調症を患う精神病患者である。
主人公は教師を目指していたが、受験に失敗し教師の姉へのコンプレックスや女性への不信感から、元々不安定だった精神がさらに追い詰められ、精神を病んでしまった。
主人公が学校だと思っている場所は大学病院の精神病棟であり、嫌っている先輩教師は彼の姉、保健医の女性は担当の精神科医である。
放課後の夕暮れ時にしか操作できないのは主人公が精神を病んでいることを暗に示しており、先述した「チャイムの音がおかしくなる」という演出も、主人公の内面世界の崩壊を表している。
そんな主人公の一人称で進む本作の物語は、現実と妄想の境目がひどく曖昧である。
このゲームに出てくる女性は、主人公の姉(高島瀬美奈)と担当医(大森となえ)、メインヒロインの睦月(同じ病院に入院している鬱病患者。夢に現れる天使に酷似している)以外実在しない。
他のヒロインは主人公の妄想の中の存在であり、屋上のカラス、ホルマリン漬けの標本、ゴミ捨て場の人形、猫などを女性に見立てて話しかけていたのである。
殺したと思ったら生き返っていたり、酷いことをされたにもかかわらず普通に話しかけてきたのもこのためである。
また、彼女たちの名前をよく見てみると「山手線の駅名が織り込まれている」ことに気付くだろう。ちなみに、その駅を全て線で結ぶと五芒星が現われるような位置関係になっている。
そして主人公の姉(高島瀬美奈)と担当医(大森となえ)は山手線の駅名が入っておらず、これらも開発者の意図的で意味深な演出であると考えられる。
ヒロインの中では唯一実在している睦月。となえと姉の目線からも、主人公と睦月は正常に接していると映る様子であり、睦月ルートでは「彼女と2人でなら元に戻れるのでは?」という希望が見える。
しかし、現実から目を逸らし続ける主人公が正面から彼女と向き合うのは、どれほど困難なことだろうか。
そして、エンディングの時点で睦月は既に退院してしまう。皮肉にも、主人公が話しかけてくれた事が退院のきっかけとなった。
また、主人公の崩壊を決定づけたのも彼女であった。主人公は一度だけ精神科医に心を開き悩みを全て打ち明けようとする。
だがその時、睦月と偶然鉢合わせてしまい、「喋ろうとした自分を天使が責めに来た。他言は許されない」と思い込んでしまうのである。
ラストはバッドエンドも含め、更に悲惨な結末を迎える。
個別ルートのエンディングでは、女性全員から「さよなら」を告げられて場面が暗転。
精神科医と主人公の姉によって主人公が精神病患者であること、そうなってしまった詳しい理由などが明かされていく。
エンドロール後、主人公は保険医だと思い込んでいた精神科医をきちんと認識して話しかけるため、元に戻ったのかと思いきや、今度は自分が見習い医師だと思い込んでしまっている。
さらに最後にネガ反転した色調に全裸になった5人のヒロインたちが主人公を取り巻き「先生!」と呼ぶという、さらなる事態の悪化を暗示するかのような1枚絵が表示されて本作は幕を閉じる。
攻略可能なヒロインは5人いるが、どのヒロインのルートを選んでもエンディングは変わらない。
何の救いもないのだが、全てを失った主人公が辿り着いた安住の地がこの結末だったことを思えば、このラストシーンも一概に否定出来ない。そこにこの物語の悲哀がある。
一方バッドエンドは、「叫び暴れる主人公が取り押さえられ、鉄格子窓の病室に隔離される(=他人に危害を加える恐れのある末期患者)」という、とことん救われないもの。ちなみにこの結末では、それまで誰もいなかった背景の様子に変化が現れる。
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評価点
緻密に練られた狂気のシナリオ構成
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イレギュラーなテーマを扱ったシナリオということもあって、文章のそこここに「意味不明さ」「不自然さ」を感じさせる表現を多用している。しかし伏線の張り方や文体・言葉遣いなどは丁寧で、意外と読みやすい。
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上記の通りかなり一般的なゲームシナリオから逸脱としているが、狂気とエロティックな展開は他に無いオリジナリティがある。暴力とエロス、そして倫理から外れた本作は、アダルトゲームという媒体を最大限に活かしているシナリオと言っても過言ではない。
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展開や結末も理解しやすく、一度エンディングにたどり着けば演出や選択肢の意図に気付けるだろう。
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ネタバレの項で上述したように、結末を知った後でプレイすると新たに気付けることもあり、奥深さも兼ね備えている。
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主人公の内面の葛藤などを表した迫真の描写
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多かれ少なかれ一般人もコンプレックスや劣等感はある。これらを丁寧に描写しているため、ついうっかり共感してしまい、「こんな鬱まみれの作品に同調してしまうなんて自分はもうダメなんだ…」とならないよう、くれぐれもパッケージの注意書きにはきちんと目を通しておくこと。
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妖艶で陰湿で残酷な世界観
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序盤の日常的な雰囲気から後半の一気にインモラルでエロチックなシナリオに、嗜虐的で残酷なシナリオを混ぜた本作は恐ろしくミスマッチしている。
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しかしそのミスマッチ加減が結果的にシナリオの世界観を広げており、本作の魅力を高めている。
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キャラクター
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女性キャラクターが細かく設定されているのはもちろんであるが、アダルトゲームでは有象無象の男性主人公も細かく設定されている。端々で見られる主人公の過去と性格から現在の異常な環境へと至る理由付けが丁寧である。
BGM
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さっぽろももこが作曲。作品内容との一体感がよく出ているとされ、高く評価される傾向にある。
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数自体は少なめで、イベントの内容に応じて細かく曲を変えるような演出法は使われていない。各ヒロインごとのテーマ曲はそれぞれの性格に合わせた個性的なものだが、通常BGMは黄昏時らしくスローテンポ。淡々と繰り返される人見青年のけだるい一日を象徴するかのごとく、いつも同じ曲が流れている。
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エンディング曲の「『さよならを教えて ~comment te dire adieu~』 原詞:長岡建蔵 作詞・作曲:さっぽろももこ 編曲:高瀬一矢(I've) 歌:MELL(I've)」は、美声の女性ボーカル、退廃的な歌詞、重々しい伴奏のバランスが作品の雰囲気にほどよく調和した、人気のある曲である。
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ちなみにボーカルのMELLは後にアニメ『ブラックラグーン』の「Red fraction」などを歌う人で、高瀬一矢は『Kanon』の「Last regrets」「風の辿り着く場所」や『AIR』の「鳥の詩」の編曲も手掛けた。I'veは当時業界で最も勢いのある音楽グループで、ゲームのパッケージには「I've sound」のロゴがあしらわれている。
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発売当初、パッケージの一部と実費を送るとサウンドトラックが入手できた。長岡氏がCD-Rに手焼きしており、20人ほどしか手に入れていないという。
その後ゲームのDL販売に合わせ、改めてプレス盤(通常のCD)でサウンドトラックがリリースされた。現在は廃盤となりこちらもプレミアが付いてしまったが、iTunes StoreなどでDL購入可能。
その他
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上述したようにADVとして類を見ない演出が用いられており、それがしっかりとシナリオに生かされている。
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主人公が見ているものがプレイヤーにも伝わり、共感しやすい。
賛否両論点
アダルトゲームとしての実用性
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基本的には期待できないものと考えていい。やらしくないのではなく、シチュエーションが特殊すぎることと、初見のプレイヤーにとっては不整合なシーンの繋ぎ方をしていることがその理由である。
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なんの気なしにヒロインに会いに行くつもりで場所を選択したら、暗転から復帰直後にいきなりアダルトシーンが始まった、しかもその内容が猟奇的なものだったら……ただあっけに取られるしかないのが普通だろう。
欝描写
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かなり救いの無いシナリオであり、通常のゲームのBADエンドよりも遥かに胸糞悪いオチ。
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人によってはそこが本作の魅力であり、そこが本作の欠点である。
問題点
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実際の精神医学と比較してみると突っ込み所も多く、現実ならば上記の担当医は信じられないほど無能な医者ということになる。技術が稚拙なうえ、「患者を誘惑する」という倫理的にもありえない行為に及ぶからである。これについては「あまりにも純粋すぎる主人公の内面に惹かれて、治療のために自分の体を許してもいいと思ってしまった」という説明もあるのだが、どちらにせよ医者としては失格である(作中で担当医自身が自分は医者失格だと言及しているので、自覚していないわけではない)。
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また、主人公を(トラウマの原因の1つである)姉と毎日会わせるというミスを犯している。そんなことをしたら病状が悪化するのは目に見えている。こちらは作中でもミスと見なされているが、担当医がそれを知らないというのはどうなのか。
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セーブはテキスト表示中に行う。移動先や選択肢を選ぶシーンではセーブできない。
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テキストADVを遊ぶにあたり「むしろそこでセーブしたい」というポイントに限って対応していない。システム周り全般は、同時期のADVと比較すると不便な方だろう。
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代替措置(?)として、セーブ不能になるポイントの一歩手前で、文頭に「∴」記号が表示される。また、既読スキップもそこで一時停止する。
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あそBDでは移動先などの選択肢でもセーブが可能となった。
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DL版ではどこでもセーブできるようになり、改善されている。
総評
尖った表現を躊躇しないアダルトゲーム全般の中にあっても、従来のゲームとは明らかに一線を画した作品。一人の悩める男の日常を描いた学園物であるかのような物語の中にそれとなく不安定な非現実感を織り交ぜる手法で、作品世界に読み手を強く引き込んでくる。
いちADV作品としてはかなり簡略化されたシンプルな構成をしている上に、プレイ環境も快適とはいいがたい。しかしその強烈な内容に衝撃を受けたプレイヤーは多く、今なお熱心なファンが存在する。
なにぶん、現実と非現実の境目を曖昧にした作風とグロテスク表現の存在から、パッケージに大々的な注意書きのなされた作品である。
触れてみる際は自己責任で、また絶対に「ネタ要素の話題性ありき」で甘く考える事の無いように注意。
余談
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本作の原点は『蛹化の女』という音楽もシナリオも無い、ただ数枚の絵がストーリーを描いていくだけの作品。
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元は1994年にHARD社から発売されたオムニバスソフト『塊~かたまり』のコンテンツの一つだったが、2023年にDLsiteで単独配信された。
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ビジュアルアーツの馬場社長の「『Kanon』の様なゲームを作れ」というお達しによって誕生したエロゲである。完成したのは似ても似つかない代物だったが。
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後年のインタビューでは、「『Kanon』のような泣きゲーを作れ」ではなく「『Kanon』ぐらい売れるゲームを作れ」の意味合いだったのではないかと振り返っている。(長岡建蔵インタビューより)
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なんと作中に『スーパーマリオ』の話題があろうことか実名で出てくる。要約すると「マリオは、幻覚キノコや大麻の花で大きくなったり火を出す妄想をしている。助けるべきお姫様も本当にいるのか、いたとしても怪物に囚われているのかどうか…」というもので、知る人ぞ知る伝説のネタとなっている。
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「ヒロインを助けなければならない」と勝手に思い込む主人公をなだめる文脈で放たれたセリフなのだが、やはりというべきか、結果として主人公の妄想を深めるだけで通じることはなかった。
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『素晴らしき日々~不連続存在~』では本作のこのシーンをネタにした台詞がある。
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スタッフロールは黒い背景に赤字の明朝体というカラーリング。それまでの引き締まった雰囲気を継続させる演出も含まれている。
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スタッフロール内の協力欄に「上野公園にいたおじさん」という謎の人物が書かれている。目黒御幸ルートで出てくる「宇宙は薔薇に似ている…」の台詞などが、そのおじさんの話を参考にしているという。
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「上野公園にいたおじさん」に限らず、職種がはっきりしない「協力」欄に書かれた人物は多い。
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またエログロ漫画家として知られる氏賀Y太氏も協力欄にクレジットされているが、後述の増補改訂版が頒布されたイベントの際何をしたのか質問され、本人は「特に何もしていない」、長岡氏は「その時期に知り合って飲みに行っただけ、スペースが余ってるからなんとなく」と答えている。
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劇中や販促ポスターで使われている「彼女の唇はさよならのカタチをえがいて…こわばる。」という文は、BGMを担当したさっぽろももこがかつてRIKA名義で歌手として活動していた際のデビュー曲「雨の中で僕は」の歌詞からの引用である。
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2021年3月13日、阿佐ヶ谷ロフトにて発売20周年を記念したイベントが行われた。
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長岡健三氏・石埜三千穂氏・さっぽろももこ氏によるトークショーに、さっぽろももこ氏率いるPINPONSのミニライブが挟まれる形。目黒御幸役 紬叶慧氏・大森となえ役 涼森ちさと氏も声だけではあるが出演。新規グッズやコラボドリンクの販売も行われた。
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プレゼントコーナーでは、ポスター・描き下ろし色紙・未開封シュリンクにサインの入った「地獄SEEK 公式ビジュアルブック」・チューブからしなどがプレゼントされた。
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終演後YouTubeでのアフタートーク配信にはイベント出演者に加えケロQのSCA自氏も参加した。
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2023年にはイベント公式Twitterにて映像商品化がアナウンスされた。
プレミア化・再販
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プレミアが付き、6~7万円以上の値段が付くことさえある。
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箱が特殊な構造のため、開封時に傷つきやすい。そのため、美品や新品は特に高値。
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2010年10月7日、TwitterにてCRAFTWORK主宰の長岡建蔵氏からDLの許可が下り、再販が決定。その後2011年12月16日にあそBD(BD-PG)で再版された。
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一部の表現に修正が入っているため、オリジナル版所持者からの評価は低め。
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それでも売れ行きは非常によかったらしく、長岡氏はBD-PG版の利益で借金を完済したことをTwitterで発言している。
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しかし再販から時間が経つにつれ、廉価版まで値上がりした。
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2016年1月29日にDLsiteで2,700円で独占販売開始。ようやくPCで安価でのプレイが可能となった。
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Vista以降10までの最新OSに対応している他、バックログやバックログからのロードなどの新機能が追加されている。
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フォントがデフォルトではゴシック体になっているが変更可能。なお長岡氏は「明朝でやってくれ」と発言している。
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設定資料集やテレホンカード等の関連商品も、軒並みプレミア化している。
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発売から15年以上経ってからも新規のフィギュアやキーホルダー等の関連商品が販売されている。制作人からもファンからも愛されているのが窺える。
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設定資料集はDLsiteで購入可能
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2002年コミックマーケット63にて「CRAFTWORK side.c」名義で頒布したもの。前述のあそBD版ブックレットにて原稿・DTPデータが現存しておらず再販は不可能である旨記載されていたが、長岡氏が所有する本をスキャンしたものが2012年とらのあなダウンロードストアにて販売されていた。が、同サービスが終了したためDLsiteへ移管した形。
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2018年、長岡氏が増補改訂版の制作を宣言し、上記の設定資料集は一時販売休止。2019年にイベントでの頒布後『comment te dire adieu さよならを教えて 設定資料&原画集[増補改訂版]』が販売された。同時に旧設定資料集も販売再開されている。
CRAFTWORKに関して
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本作を製作したCRAFTWORKの作品にはクセの強いものが多く、代表作には『for elise ~エリーゼのために~』と『flowers ~ココロノハナ~』があり、開発に協力したものには『地獄SEEK』がある。
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この中で一般エロゲーマー(?)向けの作品は「CRAFTWORK side:B」ブランドの『ココロノハナ』のみで、『エリーゼ』は恋煩いに悩んだ男性が妄想に心身を支配される話、『地獄SEEK』は地獄の鬼が罪人の女性に責め苦を与えるというぶっ飛んだ話である。
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『エリーゼ』に関しては登場したヒロイン全員が主人公に殺される上、恋煩いの相手以外に愛は全く無いので『さよなら』以上に救いがない、と見るプレイヤーもいるらしい。
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その後CRAFTWORKは実質上の解散状態に陥り、本作を最後に新作は発売されなかった。というか、もともと「赤字覚悟・利益度外視」で生産していたらしく、実際パッケージ裏には「最狂最悪最高最期の物語」「断末魔」など、これで最後と言わんばかりの宣伝文句が載っていた。そこまでして出したかったのだろうか…。ある意味、その執念もすさまじい。
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そんなCRAFTWORKだったが、2022年に突如Twitterアカウントが開設され、謎の新作『Geminism ~げみにずむ~』が発表され、2023年11月24日に発売された。
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尚、CRAFTWORKのメンバー自体はその間も2004~2006年にかけてフライングシャインのブランド、FlyingShine黒で再結集し『おまえのなつやすみ』『おまな2 おまえんち萌えてるぞ』『ピエタ 幸せの青い鳥』の3作を発売している。
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ちなみに主催の長岡建蔵氏はその後、Geminism発売までの間『とらドラ・ポータブル!』や『俺の妹がこんなに可愛いわけがない ポータブル』などコンシューマーゲームのUIデザインでゲーム開発に携わっていた。
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長岡氏と共に脚本を手掛けた石埜三千穂氏はその後、エロゲー業界を離れて故郷に戻り地元、諏訪地方の郷土史研究家に転身した。
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21年にはNHKの番組「ブラタモリ」の諏訪特集の回でゲスト出演(参照)した他、少年ジャンプで連載中の松井優征の漫画「逃げ上手の若君」の監修や解説に名を連ねたりと意外なところで現在も活躍している。
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上記の新作Geminismで久々にゲーム開発にもシナリオ補佐として参加。
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三大電波ゲーと呼ばれる『ジサツのための101の方法』とも若干ながら関わりが有る。
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理由としては、CRAFTWORKと公爵(デューク)との間で交流が有り、また『ジサツ』のシナリオライターである山田おろち氏の名前が原画集に確認されているためでもある。こちらもまた、狂気染みた展開が多い作品では有るが。
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なお長岡氏は『終ノ空』『書淫、或いは失われた夢の物語。』『ジサツのための101の方法』を三大アレゲーと評している。
最終更新:2024年01月13日 21:28