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The Best Branches3


「……え、なんだって、もう一回。やっちまった、って、だから何をどう……?」
何か信じられないことをきいた、とでもいう表情で雅は手入れのためにに手にしていた軍刀に問い掛ける。

――九八式帝国陸軍軍刀。
支那事変後布かれた軍事非常時体制に伴う礼装廃止の流れのもと、第二佩鐶を外され外装は簡素化されたものの、
その後軍需に応じて大量生産されていったものよりは古式ゆかしい日本刀の面差しを残す。
「最後の日本刀の一つ」と謳う者は謳う。

裏銘の日付のみが刻まれた無銘のその刀にはごく最近、名前が付けられた。「牛鬼」と。
何でその名前なんだとかそれでいいのかと、雅にしてみれば思うところなのだが、当人、
というか当の刀霊は甚くその名が気に入っているらしい。


問いかけに答えるように、刀身からひょろりと滲み出すように現れる、半ば透き通った小さな人影。
肩に小さな蜘蛛を載せたそれは、雅自身とよく似た少年の姿をしている。
一瞬、困ったように肩に乗せた小蜘蛛と視線を交わしたのち、何か言いかける白い刀の霊体。

『まあ、薄々勘付いていたとは、思うのじゃが、そ』
「……あ、いや、イイ!! 生々しい話は良いけど!!」
自分で話を振っておいて慌てて牛鬼の霊体の言葉を遮るように目釘抜構えていた片手を振ると、
やれやれ、とでもいうように額に手を当て、雅は一つため息をつくと、ムキになって作業を続けながらぶつくさ文句を言い始める。

「まさか、自分の刀に先越されると思わなかった。……くそ。あの日か?いや違うな、あんときは未遂って感じだったよなお前」
『あのときというと、戻った瞬間にお前がト』
「生々しい話は良いつったろーが!!」

げちげちがしょん、とわざわざ殊更に雑に引いた油を拭って手入れを終えると、もう一度深くため息をついて。

「そういうことなら……よし。わかった。俺も今からアーテルのトコ行ってヤッてくる。お前とはもうこれきりだ」
『!?!?』
ぽい、と居間の片隅に放り投げられる軍刀に繋がる足元から引きずられるように驚愕の表情のまま白い牛鬼の霊も床に落ちる。
それを立ち上がって腕を組んで見下ろして、雅。

「裏切り者!! ムッツリ助兵衛!! エロジジイ!!」

とりつくしまもなく駆け出していく足音と、ぴしゃりと閉じられる玄関の戸の音。

『……追うべきだろうか。シトロン。雅の奴、完全に手を離したようだ、呼びかけに答えぬ』
肩の小蜘蛛にぐぬぬ、としつつも若干おろおろとした表情で問いかける牛鬼に
「ほっとけばいいのじぇ」という空気で小蜘蛛が腕を2対、かるくあきれたようにすくめて見せた。



そうしてそのまま走り去っていった雅のその後の首尾を、その夜に限らず一生、牛鬼とシトロンが知ることはなかった。
翌日からふっつりとアーテルと共に二人の消息は途切れたからだ。
『親父』がやってくることもなければひょいと二人が戻ってくることもなかった。



「いつかのどこかで、幸せに暮らしていると、良いのだがな」
「自己満足なのじぇー。遠くであたいたちが何を思ってても、無関係になるようにしかなってないのじぇ。……それでも」
「うん?」
「そーだったらいいな、とは……あたいも思わないわけでもないのじぇ?」

 お互い嘘をつき合うことなどできないほど、長く近い間柄の文字通りの相棒だった。あのとき言わなくてもいつかはバレたにちがいない。
だが、それがあれほどに彼を傷つけることになろうとは。まさかあれが今生の別れになるとは夢にも思わなかった、と牛鬼は呟く。


「棄ておけど 棄てなば行けぬ道程の 道行く君ぞ 幸あらん」
「季語がない。っていうか反応に困るからそういうのやめてなのじぇ」


FIN.(ED03)

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最終更新:2016年07月21日 12:49