ラプラスの箱

登録日:2019/09/11 Wed 19:30:10
更新日:2020/01/02 Thu 07:46:20
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「それこそが『ラプラスの箱』

我々を100年の長きに渡り、縛り付けてきた呪いの正体だ

…そして、祈りでもある…」



「ラプラスの箱」とは、連作小説/OVA『機動戦士ガンダムUC』のストーリーの中核に居座るキーワード/キーアイテムである。

【序盤の概要】

宇宙世紀0096、ジオン共和国の独立自治権が地球連邦に返還されるまで、残り4年。
シャア・アズナブルによるアクシズ大蜂起も失敗に終わり、スペースノイドの独立意識が消沈していた時期。
地球連邦とアナハイム・エレクトロニクス社の両方に影響力を持つ血族組織「ビスト財団」が、
その影響力の秘奥である「ラプラスの箱」をネオ・ジオンに譲渡するという意向を示し、その情報は各勢力を戦慄させた。
「その中身が開け放たれれば、地球連邦が根底からひっくり返る」と言われ、しかしその正体は誰も知らない「ラプラスの箱」。
それの場所を示すRX-0-1:ユニコーンガンダム1号機が、機動戦士ガンダムUCのストーリーの根幹を支える。

この存在は、最初から地球連邦を激変させる秘密であったのではない。
何段階かの、多くは偶然を経て、隠されているからこそ後戻りできなくなった「呪い」である。




以降の記述は、機動戦士ガンダムUCと機動戦士ガンダムNTが示す
ガンダムシリーズの歴史的展開に関わる重大なネタバレが含まれています!


















では、君は信じているのか?「ラプラスの箱」の存在を。
誰も見たことがない、中身も定かでない「箱」なるものに本当に連邦政府を覆すほどの力が秘められていると?

───フル・フロンタル





【その起源】

歴号が西暦から宇宙世紀(ガンダムシリーズ)に切り替わる元年、その当日の改暦セレモニー。
地球連邦首相官邸である宇宙ステーション「ラプラス」が、爆破テロを受け破壊された。この「ラプラス事件」で、
当時の地球連邦首相リカルド・マーセナス、同席していた各国首脳、地球連邦の首脳官僚といった要人が死亡し、
地球連邦の今後を示す、各国首脳直筆サインが刻まれた「宇宙世紀憲章」の石碑は失われ、
レプリカがダカールの地球連邦政府本部に据え置かれた。

だが、爆破テロの混乱の中で失われたと思われていたオリジナルは生きていた。
テロ実行犯の1人である「サイアム・ビスト」という若者が、爆発に吹き飛ばされ宇宙を漂流する中で、
たまたま近くを漂っていたこれを確保していたのである。

このオリジナルには、レプリカ作成の際に削られた記述が各国首脳のサインと並んで残っている。


第七章 未来
第十五条
地球連邦は大きな期待と希望を込めて、人類の未来のため、以下の項目を準備するものとする。

1.地球圏外の生物学的な緊急事態に備え、地球連邦は研究と準備を拡充するものとする。

2.将来、宇宙に適応した新人類の発生が認められた場合、その者達を優先的に政治運営に参画させることとする。

フル・フロンタルが語った通り、増えすぎた人口を宇宙に送り出す宇宙世紀のスペースコロニー移民計画は
ある種の棄民政策でもあった。だが、当時の為政者達はその罪悪感と未来への希望を混ぜ込みにし、
「いつか宇宙に棄てられた民が、人類の本道を導くものになるように」と、宇宙世紀憲章に祈りの言葉を加えていたのだ。
このある意味で非常にリベラルな条文を、「ラプラス事件」後に地球連邦を主宰する事になった保守派は「なかった事にした」。



【積み重なる呪い】


【第1の秘密】

その後、別の船舶に助けられ地球に帰還したサイアム・ビストは、手にしたオリジナルとダカールのレプリカ憲章の食い違いをネタにし、地球連邦に強請りをかけた。
「ラプラス事件は、宇宙移民に対しリベラルな立場を取るリカルド・マーセナスに不満を持つ保守派が引き起こしたテロなのではないか?」
地球連邦を掌握した保守派はこれらのスキャンダルを騒ぎにしたくないという思惑があり、彼らはサイアムの強請りに応じた。
一方政治感覚の鋭いサイアムは、あまりに大きく要求を出せば連邦が実力行使に動いて事が台無しになるであろうと理解しており、
当時新興だったアナハイム・エレクトロニクスに連邦が便宜を図る程度以上の要求をしなかった。
こうしてサイアムと連邦の間に、秘密の共有が成立した。

【第2の呪い】

しかし宇宙世紀0050年代、ジオン・ズム・ダイクンが「人類は宇宙生活に適応して次世代に移行する」という思想を打ち出し、
これが宇宙の民に広まると話が大きく変わった。
「将来、宇宙に適応した新人類の発生が認められた場合」という宇宙世紀憲章オリジナルの文面がこれにがっつり合致するからである。
「地球連邦は、発足当初から宇宙に適応した新人類の発生を予想しており、それを隠蔽するつもりだったのではないか?」
という新たな疑惑がかぶさる可能性が発生したのだ。
もちろんリカルドもサイアムも、「人類の新時代」という事をまともに現実視していたわけではないだろう。
しかし、後付的に「箱」の意味合いが重くなってしまったのだ。

【悲劇、第3の呪い】

だが一年戦争という惨劇の中で、ジオン氏の思想を裏付けるニュータイプ(ガンダムシリーズ)という新人類的存在が
本当に現れてしまった。この現実を前に、「箱」の呪いはますます重くなってしまった。
「今後もし箱の中身が開け放たれれば、第2の呪いに言い訳する余地もなく、宇宙の民は打倒地球連邦に結集する。
しかし、人類を二つに分けるような戦争が再び起これば、本当に人類は破滅する」
為政者達は、一年戦争のような人類全体の悲劇を繰り返さないためには
「宇宙に適応した新人類の発生」を旗頭にした宇宙移民達の武力闘争の希望をへし折らねばならない、という恐怖に駆られたのだ。

こうして「宇宙世紀の始まりの頃から祈られていた、宇宙に適応した新人類の発生による人類の革新への期待」は、
地球圏のある程度の平穏を破壊する最悪の呪いとして封じ込められたまま、
バナージ・リンクスオードリー・バーンの手で開け放たれるまで、各勢力を翻弄する事になった。

【開放】

時期としてはU.C.0096少し前。サイアムはこの頃、自らをコロニー船「メガラニカ」内部の氷室に「箱」と共に秘匿、
機械で生命維持をしながら「箱」の開封の刻を待っていた。
タイミングを得たと判断したサイアムは、「箱」を連邦政府に譲渡すべく
孫のカーディアス・ビストに連絡、ビスト財団を通じて連絡を取りつけた。この時訪れたのがガランシェール隊である。
またカーディアスは、連邦がニュータイプ殲滅計画のために用意したユニコーンガンダム1号機を利用することを考え、
NT-Dシステムに連動して「箱」のありかを示す座標を示す座標を提示する「ラプラス・プログラム」を密かに組み込んでいた。

ところが、財団内部で「箱」の奪取を狙うマーサ・ビスト・カーバインが横槍を入れ、これに伴い「袖付き」が襲撃。
この混乱の中でカーディアスは落命するものの、彼の妾腹の息子であるバナージがユニコーンガンダムを受領、
最終的に彼とオードリーによって「箱」は開けられ、その真実が公開されることになった。
この頃のエピソードが「機動戦士ガンダムUC」である。

その後「箱」の中身である宇宙世紀憲章オリジナルの石碑は、
コロニービルダー「メガラニカ」と「特異点1号」ことRX-0-1もろとも、
ジオン共和国の管理化で封印状態にされてしまっている(機動戦士ガンダムNT)。












それは…分かりません。でも、一瞬で世界のバランスを変えてしまう知識や情報というものは、確かにあるように思います。
旧世紀の核爆弾も、ミノフスキー粒子やMSだってそうです。
世界は安定しているように見えても少しずつ変化しています。そういった力のある発明や実験なら、タイミング次第で…
───バナージ・リンクス


【その存在意義と、評価への議論】

ラプラスの箱、あれほど大物めいて語られる割には一部の人間からは大したものではないと思えるだろう*1
だが、政治力というのはタイミング次第。
フル・フロンタルが語った通り、経済力(実力)においてはすでに地球は多数派ではない。
ならば、何らかの旗印を元に各スペースコロニー勢が結集し、経済的に地球を追い出してしまえば勝ちじゃねえか、という話は間違っていない。
宇宙の民をまとめる旗印になり得る大義名分は、地球連邦にとって確かに必殺の事柄ではあったのだ。
たとえ、その後の地球圏が今まで以下の規模で縮小再生産を繰り返す器でしかなかったとしても。

だが、実際に「箱」が開かれ真実が明かされたタイミングでは、ジオン内部に既に厭戦の空気が強かったこと、
そもそもフロンタルという「シャアの替え玉」を用意せねばならないほど組織としての結束力が落ちていたこと、
何より連邦からの独立という大目標自体がスペースノイドにとってさほど魅力的ではなくなっていたことがあり、
宣言から二か月後にはワイドショーのネタになる程度で終わってしまい大した影響は及ぼさなかった。*2
「箱」を原因にして再度戦争が起きるのを避けたいというオードリー・バーンの望みは果たされたわけだが。

そも、「箱」が開けられたタイミング=宇宙世紀0090年代には既に、経済力の高いスペースノイドは政治の世界に進出して一定の立場を得ていた。「志を持った者」は、「箱」の有無など関係なく既に相応しい立場を得ていた。第七章碑文は既に実現していたのである。

宇宙世紀の始まりからおおよそ100年。その月日は、サイアム・ビストという個人の「祈り」も、「箱」が帯びた「呪い」すらも風化させてしまっていた。結果的に、一時的とはいえ「神」と化したユニコーンと同型のバンシィこそが「シンギュラリティ・ワン」として注目されるなど、「箱」ではなく「鍵」の方が歴史的に重要になっている。

おまけに上述した「政界に進出したスペースノイド」の存在は、回り回って『F91』『クロスボーン』『Vガンダム』におけるさらなる戦乱へと繋がって行くことになる。


【時代と言葉の変遷】

また、『「箱」がもはや現実世界を動かすものではなかった』という言葉は、「箱」をそのまま「ジオニズム」や「ニュータイプ」に変えても成立する。
スペースコロニーやサイドは「国」の名前こそ持たないものの、すでに地球連邦政府からの干渉を受けることなく自立しており、もはや「国号なき国家」として実質独立していた。
そもそもジオン・ダイクンが生きていたころから、スペースノイドは全世界の人口の半数以上を占め、しかもさらなる拡張を続けていた。
アムロ・レイの育ったサイド7は、0079時点で新規建造されたコロニーだった、つまりスペースノイドは、世界の半分を占めてまだ伸びしろがあったのである。
スペースノイドは確かに最初「棄民」だったかもしれないが、だいぶ早い段階から、世界の主流は彼らに移っていたのだ。
さらに言うと、スペースコロニーは完全な「計画都市」なので、自然環境との兼ね合いを考える必要がなく、むしろ地球の貧困地帯よりもずっと清潔で裕福な暮らしができる「新天地」であった。
社会格差はあっても地球のそれよりははるかに平等であり、下級市民であっても教育は受けられたという。地球とコロニー社会で「底辺」は天と地ほどの差があったのだ。

ジオン・ダイクンは、時代の主流がスペースノイドに移り行く状況で、それを「ジオニズム」と名付けた。しかしその状況がそのまま普遍化し、名付ける必要もないほどの常識となると、「ジオニズム」はわざわざ掲げる必要はなくなっていた。
古代中国の思想家・老子が説いたように、「仁義がもてはやされるのは、世の道理が乱れて仁義が貴重になったからで、世が平穏なら仁義だのなんだの持ち出す必要はない(大道廃れて仁義あり)」。
「ジオニズム」の普遍化と風化は、ジオン・ダイクンが生きていたころからの必然だったのだ。ラプラスの箱もそうである。

(同時に、地球連邦が力を失っていくのも必然だったといえる。いくら宇宙軍を増強しても、その宇宙軍を動かすのはスペースノイドだから、スペースノイドが繁栄して軍事権を握り、実質自立していくのは、ザビ家の一年戦争がなくても確実であった)


一世を風靡した「ニュータイプ」論も、「宇宙移民者の輝かしい未来」から「心を読む超人集団」、「達人パイロット」と次々意味が軽くなっていき、最後は「昔そんなのがいたけど、大抵不幸だったらしい」と、ある種の昔話にまで落ちぶれた。
普遍化することで意識に上らなくなったジオニズムとは逆だが、時代の変遷で価値がなくなってしまったということでは同じである。
だいたい、たかが三十年足らずでこんなにコロコロ意味が変わる理論が、重要なはずがなかったのである。ラプラスの箱もそうである。


ラプラスの箱、ジオニズム、ニュータイプ。それらは、しかるべき時期なら光芒を放ったが、いずれ必ず風化するものだった。誰が悪いのでもない。時代が変わって価値がなくなっただけのことだ。

突き詰めればラプラスの箱を巡る動乱とは、時宜を読めなかった人たちの徒労であったといえる。


だが、全ては無意味だったのだろうか?
戦いと箱の開封の結果、わずかでも、変化の種を受け取った若者はいた。
それも全てが無意味と言えるのであろうか…?



【クロスオーバー作品において】

さすがにパンチが弱いため、主にスパロボにおいて設定の追加が成されている。

第3次Z』においては天獄篇において、原作通りの事実に加えてZシリーズの戦乱に深くかかわっていた
「『御使いサイデリアルとその下部組織・クロノによる人類の飼育』*3に関する、エルガン・ローディックの演説の映像」が隠されており、
「箱」の開放と共に全世界のネットワークに公開されるよう仕向けられていた(ちなみにこのネットワーク公開はヴェーダを通じてリボンズが実行)。
後に地球を支配していたサイデリアルへの反撃の狼煙となる。

BX』においてはEXA-DBへのアクセス端末としての機能が追加されており、アナハイム・エレクトロニクスに狙われていたが、開示に伴い無効となっている。

V』においては箱の内容自体に大きな変化はなかったものの、本作の始まりの舞台「新正歴世界」では開示するにはまだ戦乱の空気が収まっていなかったのか負の影響力はあったらしく
「空白の10年」と呼ばれる、真の宇宙世紀憲章の影響を恐れた連邦政府による意図的な情報隠蔽が行われ、マフティー動乱と合わせてガンダム的世界観→ヤマト的世界観に流れる切欠になっていた模様。
平行世界の「宇宙世紀世界」において原作に比べて宇宙側に一触即発の空気も残っていたことから、バナージ、オードリー、そしてフロンタルらの意志によって、あえて開示せずこれからを乗り越える選択肢が取られた。
ちなみに同作ではシャア(故人)も接触していたが切り札として使うには躊躇いがあったとも言及されている。



【その他】

2015年にプレミアムバンダイにおいて「ラプラスの箱マルチスタンド」が発売。
OVAにおいてデザインされたラプラスの箱とその設置用のフレームを模しており、フレームにある穴にペンなどを差せるようになっている。


「それでも!追記・編集するんだ!!」

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