奇蟲(ペット)

登録日:2023/04/01 (土) 10:50:00
更新日:2023/11/21 Tue 11:29:57
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奇蟲(奇虫、きちゅう)とは、ペットとして採集・取引・飼育される無脊椎動物の一群を指す言葉である。



【概要】

基本的には、「ペットとして取引・飼育される、昆虫以外の陸生節足動物」を指す。
ただし、場合によってはゴキブリカマキリなどの一部の昆虫を含むこともある。
また、ヒル、ミミズ、カギムシ、陸貝などの節足動物以外の無脊椎動物を指す場合もある。

一般的に不快害虫として知られる動物が多いが、その独特なシルエットに魅力を感じる人も多くおり、飼育趣味の1ジャンルとしてはわりと古くから飼われている動物たちである。
奇蟲のみを専門的に飼う人も多いが、爬虫・両生類や熱帯魚などと一緒に飼う人も多い。
取り扱いショップも、奇蟲専門店の他に爬虫類ショップやアクアショップなどでも扱われている。
これは保温を必要とする奇蟲類は、爬虫類や熱帯魚と一緒に飼うのに相性がいいことにもよる。

子供でも飼える丈夫な種から、かなり飼育難易度の高い種までおり、値段もピンキリ。
一部のものは有毒である。
現在流通している奇蟲には、命に影響を及ぼすような強いのものはいないとされるが、体質や体調にもよるので扱いには要注意(特にアレルギー体質の人)。

そして、何より重要なことは「逃がさない」ということ。
前述のように人命にかかわるような強毒の種は流通していないが、弱毒種や無毒種であっても不快害虫であることには変わりはなく、ちょっとした騒動になる恐れもある。
また、逃がすことによって生態系に悪影響を及ぼす可能性があり、そもそも日本の環境で生き抜くことは難しい奇蟲たちも多い。
飼い主は責任をもって管理しよう。


【主な奇蟲のグループ】

◆節足動物

・タランチュラ

最もメジャーな奇蟲であろう。有毒の大型のクモ類である。
伝説の毒蜘蛛に由来する名前だが、実際には毒は弱く、噛まれても大事に至ることはまずない。
ただし、種類によっては体毛を周囲にばらまくことがあり、これが皮膚に刺さると痛いし、目や呼吸器に入ると健康に関わる。

かなり多くの種が流通しており、集める楽しさもある。
大きく分けて
  • 温厚で丈夫な飼いやすい種が多い初心者向けの「バードイーター」
  • バードイーターよりはやや性質が荒い「バブーン」
  • 樹上性の種である「ツリースパイダー」
  • 地中性で最も性質が荒い「アースタイガー」
の4グループに分けられる。
初心者はバードイーターのメキシンカンレッドニーやローズヘアから育て始めるのがいいだろう。

バードイーターは、普通に飼っていれば噛まれることがまず無いと言っていいが、ツリースパイダーやアースタイガー系は要注意。
ケージのフタを開けた瞬間に飛び出してくることもある。

オスとメスとで寿命が全く違うのだが(メスは20年近く生きる場合もあるが、オスは成熟すると1年ほどで死んでしまう)、成熟していない状態では識別するのは困難。
最初から同じ種を数匹飼っておくのがいい。

総じて成長が遅く、世話の手間も大してかからないため、「一匹だけを育てる」という飼い方だとどうしても飽きがち。
気に入った種を集めるのがオススメ。


サソリ

クモに近縁の節足動物。
以前はかなりが強い種も輸入されていたのだが、軒並み特定外来生物に指定されたため、現在では弱毒種のみが十数種ほど流通する。
(なお、この規制により、マダラサソリは「宮古・八重山諸島では在来種*1なのに特定外来生物」という変な立場になってしまった)

良く知られているように、尾の先に毒針があるのだが、わざわざ指を毒針の先に持っていったり素手の上に乗せたりしない限り、まず刺されることはない。

タランチュラ以上に手がかからない動物であり、毎日の世話は水を切らさないようにすることくらい。
平面活動しかしないのでケージもごくシンプルでいい。
あまりに手がかからないため、正直、これだけを飼っているとタランチュラ以上に飽きやすい。他の奇蟲とセットでどうぞ。


ムカデ

奇蟲界最凶悪グループ。合法的に飼える最も危険な動物とすら言われるほど。
30cmを超える大型になる種も多く、見た目のインパクトは凄まじいものがある。
言わずもがな有毒なのだが、タランチュラやサソリと比べても強毒。
特にペットとして流通するベトナムオオムカデやペルビアンオオムカデ、ガラパゴスジャイアントなどの大型種では毒の量も多いため、シャレにならない症状が出る場合もある。



さらに厄介なのがその性格。
とにかく動きがすばしっこく、しかも脱走名人。
タランチュラやサソリなら、逃げられたところで速度は知れているので、落ち着いて捕まえればいいのだが、ムカデはあっという間に家具の隙間などに逃げ込んでしまう。
そして、体の先端に顎肢と呼ばれる前足が進化した毒牙を持ち、生物などにぶつかるとほとんど反射的に毒牙で噛みつくというとんでもない性質を持っている。
部屋の中に逃がそうものなら、おちおち寝ることすらできなくなる。
ましてや屋外に逃がしたりしたら目も当てられないので、ケージから逃がしたらもうすぐに殺虫剤で殺すくらいのつもりでいたほうがいい。
(同じ部屋に他の奇蟲がいる場合、薬物系の殺虫剤だと全滅するので瞬間冷凍系などを使うといい)
スリッパなどで叩きつぶそうとしてもかなりしぶとく、ピンセットでつまんでも身体が長いため、上半身をひねってピンセットを持っている手を噛んだりする。

以上のことを読んで、それでも飼いたいという人だけどうぞ。

ケージは爬虫類用などの頑丈なものを使うこと。プラケース、それも使い古しのものなどを使うと、蓋を食い破られることがある。

とにかく危険なので、「奇蟲は一通り飼いたいから」くらいの気持ちでは手を出さないほうがいい。
「同じ部屋の中に危険生物がいる」という感覚を味わいたい人だけが飼うべきだろう。
とはいえ、愛好家はかなり多く、ムカデをメインに扱う専門店なども存在している。


・ヤスデ

一見ムカデに似ているが、全くの無害なグループ。
エサも奇蟲では珍しく植物食であり、そういう意味では手を出しやすいのだが、長期飼育が難しい上級者向けのグループである。
温度や湿度、餌などを色々試行錯誤して頑張れる人向け。
メジャーなタンザニアオオヤスデは比較的飼いやすい。


・ワラジムシ

陸上にも進出した甲殻類の仲間。ダンゴムシやフナムシ、深海生物として人気のグソクムシなどもワラジムシ目に含まれる。
一般人にも身近な存在であり、ダンゴムシやワラジムシを子供の頃に飼育していたという人もいるだろう。
また、海外産のカラフルなダンゴムシが輸入されて販売されている。
ちなみに世界最大のダンゴムシとして販売される「メガボール」はヤスデの仲間である。


ヒヨケムシ

世界三大奇蟲の1つ。詳しくは単独項目参照。
危険性は全く無いが、飼育難易度は奇蟲界トップクラス
半年飼えればまあ成功、一年飼えれば上級者というレベルである。
古くから多くのマニアが挑んでいるのだが、いまだにベストな飼い方が見つかっていないという点で、その難関っぷりがうかがえるだろう。
今日も誰かが死なせてる。

地中性の種は比較的長生きさせやすいと言われるので、まずはそこから始めるのが無難だろうか。


ウデムシ

世界三大奇蟲の1つ。形態の異形っぷりは奇蟲界でも有数。
「ある程度高さのあるケージで飼わないと脱皮に失敗して死ぬ」
「常に隠れられる場所を作ってあげて落ち着かせる必要がある」
という点さえ注意すれば、ごく普通の肉食性節足動物として容易に飼うことができる。

飼育難易度は高くなく、全くの無毒無害で、それでいでいかにも奇蟲という存在感を持つグループなので、奇蟲入門者にはオススメ。


サソリモドキ

世界三大奇蟲の1つ。詳しくは単独項目参照。別名ビネガロン*2
飼い方はサソリとほぼ同じで、飼育は容易。
無毒だが、驚かせたり急に持ったりすると、ものすごい刺激臭のある液体を噴射する
これはなかなか取れないので要注意。



◆有爪動物

・カギムシ

その特徴から「生きている化石」とも呼ばれる、有爪動物という分類群に属する動物
独特な見た目が可愛いと話題になることもあり、近年ペットとして飼育されることが増えている。


◆環形動物

環形動物の中でもケヤリムシやイバラカンザシなど、よく飼育される種類は当頁では扱わない。

ミミズ

一般人にも身近な存在であるミミズだが、ペットとして楽しむ人は少ないのではないだろうか。
しかし、美しい体色を持つシーボルトミミズなどは、マニアから人気がありペットとして飼育されることがある。


・ヒル

この趣味の極北。こんな動物も売られている。
いわずもがな、餌は血。
餌用に売られている魚やカエルの血を吸わせるのがセオリーだが、筋金入りのマニアは自分の血を吸わせる
これは感染症の危険もあるので、やるなら自己責任で!!
奇蟲飼育趣味の行きつく先と言えよう。



追記・修正はヒヨケムシの繁殖に成功してからお願いします。

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最終更新:2023年11月21日 11:29

*1 なお小笠原諸島にも生息するが、こちらは20世紀に入ってマリアナからやって来たのが定着したとされる。

*2 酢を表すビネガーが由来