登録日:2023/04/01 (土) 10:50:00
更新日:2025/04/07 Mon 10:49:45
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奇蟲(奇虫、きちゅう)とは、ペットとして採集・取引・飼育される無脊椎動物を指す語である。
【概要】
1985年初版の図鑑に「小学館の学習百科図鑑シリーズ第46巻 珍虫と奇虫」がある。
この図鑑は、海外の様々な昆虫を、美麗なカラー写真と共に紹介したものである。
ここから窺えるように、「奇虫」は「奇抜な形態や生態を持つ昆虫」が本来の意味で、「虫屋」の間で自然発生的に誕生した造語であった。
時を同じくして、
日本は
バブル経済の好景気に沸き、
ペット業界では何度目かの
熱帯魚ブーム、
爬虫類ブーム、
珍獣ブームを迎えていた。
このブームの際に、爬虫類や珍獣を扱っていた一部の動物商が、
目新しいペットとして扱い始めたものにタランチュラやサソリがあった。
欧米では既に飼育マニュアルが出版されており管理の目処がある程度立っていたこと、同時期の熱帯魚ブームで脚光を浴びた
アジアアロワナ用に活き餌の
フタホシコオロギが安定供給されて流用可能になったこと、そして何より
既存のペットには無い奇抜な外見や生態に魅了された者が続発し、最初は先鋭的なマニアの耳目を集め、徐々に爬虫類マニアや熱帯魚マニアにも波及していくこととなった。
1996年に
植物防疫法が一部改正され、生きた植物食の昆虫(及びそれに類する無脊椎動物)であっても、事前の申請と検査を経た上で無害と判断されれば輸入が許可されるようになる。本来は大学や博物館などの学術・教育機関での展示・研究目的を想定したものであったが、商業利用にも規制が緩和され、2000年以降に大幅に輸入解禁されたものが出てきた。
海外産のカブトムシとクワガタである。
これ以前、日本で「趣味が昆虫」というと標本採集や蒐集、あるいは生態写真の撮影であって、飼育は子供の遊びか、害虫種の防除対策やモデル生物としての利用のために農業試験場や大学などの研究機関で行われるもの、というイメージが強かった。
少し前の1993年頃に発生した
オオクワガタ飼育ブームも相俟って、この時代に
「昆虫飼育」がハイエンド的に洗練された趣味への移行が開始され、ペット業界に一大派閥を形成することとなる。
一方で、虫屋側もこのブームに呼応することになるが、元々の趣味が標本蒐集に起因するためか、産地情報や学名が不明の種など学術的要素が薄いものには食指が動かないマニアも少なくなく、第一に彼らの興味の対象はあくまで「昆虫」であって、それ以外の無脊椎動物には関心を抱かないことも多かった。
こうした経緯を踏まえて、2000年頃から改めて「奇蟲」の語が用いられるようになった。
「蟲」の漢字が、「数多くの虫」ひいては「雑多な様々な虫」意味合いを持つことから「ペットとして取引・飼育される、昆虫以外の陸生節足動物」を指す、現在の意味が定着したようである。
ただし、奇蟲は昆虫とは完全に袂を別ったかというと必ずしもそうでもなく、
ゴキブリや
カマキリなど奇蟲界隈と虫屋との両方で扱われるものも少なからずあり、更にマニアの嗜好や流通路の多様化から、もはや
節足動物に限定されることが無く、
カギムシ、
陸貝、
ヒル、
ミミズ、
コウガイビルなどの
節足動物以外の無脊椎動物をも含む場面が多くなりつつある。
昨今は専門ショップや即売会が開かれ、ネットオークション上でも様々な種類が取り扱われているが、前述の流通の歴史上、爬虫類店、エキゾチックアニマル専門店、アクアリウムショップなどでも扱われるものもまた多い。
必然的に、飼育者も奇蟲のみを専門的に飼う人も増えつつあるが、爬虫類や熱帯魚などと同時進行的に飼う人も少なくない。
飼育の難易度は、
初心者でも飼育繁殖が容易く行えるものから、歴戦のマニアでさえ歯が立たないほど飼育困難なものまで様々で、流通価格も小学生の小遣い程度の安価なものから、中古車が買える程度の高級品までピンキリ。日本国内で採集可能なものもいる。
一部のものは
有毒であり、現在、商業流通しているものについては、命に影響を及ぼすような強い
毒のものはいないとされるが、体質や体調にもよるため扱いには要注意(特に
アレルギー体質の場合)。
また、最近は趣味人に限らず、その独特な形態や生態から着目して、動物園や水族館、昆虫館などの公的施設でも飼育展示される例が増えつつある。場合によってはゴキブリやダンゴムシなど、危険性がないものについてはハンズオン展示(直接触ることが出来る展示)に供されることもある。
興味はあるが、個人での飼育は難しいという方は調べてみてもよいだろう。
飼うに当たって最も重要なことは、
「絶対に逃がさない」こと。
人命にかかわるような強毒の種は流通していないとはいえ、
一般的には不快害虫として扱われるものも多く、弱毒種であっても実害が全く出ないという保証は無いため、もろもろ騒動になる危惧はある。
単なる一過性の騒動で済めば良いが、飼育個体の脱走が一つの契機となり、キョクトウサソリ科の全種が愛玩目的での飼育が不可能になった外来生物法の制定などの前例もあるため、趣味人自らの首を絞める結果にならぬように充分に注意されたい。
また、外国産の
ヒラタクワガタなどで問題になっている遺伝子汚染、
マダラコウラナメクジの定着による農業被害など、
外来種化することで生態系や産業に悪影響を及ぼす可能性もある。
管理が野放図で、責任を持てないのであれば、これら魅力溢れる蟲たちのオーナーになる資格はない。
【主な奇蟲のグループ】
◆節足動物
A鋏角亜門
節足動物には珍しく触角を持たないグループで、先端が鋏状になった鋏角という肢が口のすぐ近くにある。奇蟲界隈で扱われるものは蛛形綱(ちゅけいこう、くもがたこう)に属するものであり、いわゆるクモとその近縁グループである。世界三大奇蟲は全てここに属する。
オオツチグモ科に分類されるクモの総称。
レッグスパンが15㎝越えは普通で、最大種の
ゴライアスバードイーターは30㎝を越えるなど、重量級のクモたちが犇めいている。
イタリアの港湾都市ターラントの伝説に由来する名を持つため、世間では毒蜘蛛として名を轟かせているが、実際の毒は比較的弱く、咬まれても大事に至ることはほぼない。
ただし、種類によっては腹部にある刺激毛という体毛を周囲にばらまくことがあり、これが皮膚に刺さると痛痒く、目や呼吸器に入ると健康を損なう。
熱帯・亜熱帯地域を中心に世界で1100種以上が知られており、ペットとしても常時50種以上、単発的なものを含めれば300種以上が流通したため、蒐集癖のあるマニアによく刺さる。
飼育設備・技術上の観点から、
- 北米大陸から南米大陸にかけてとカリブ地域に産する地表生または半地中生の「バードイーター」
- アフリカ大陸とアラビア半島及びその周辺属島に産する地中生の「バブーンスパイダー」
- 亜熱帯から熱帯アジア及びオセアニア地域に産する地中生または懸垂土壌生の「アースタイガー」
- 産地を問わない樹上生の種の総称である「ツリースパイダー」
の4グループに分けられる。
バードイーターは飼育の歴史が最も長いタランチュラであるメキシカンレッドニーBrachypelma hamoriiが含まれるグループであり、この種を含めて温和で長寿、丈夫で飼育し易く美麗な種が多く、初心者は勿論のことベテランをも魅了し続けている。
飼育下繁殖個体が頻繁に流通するチャコジャイアントゴールデンストライプニーGrammostola pulchripesやメキシカンレッドランプTliltocatl vagans、カーリーヘアT. albopilosusやブラジリアンブルーLasiocyano sazimaiなどが特に初心者向けで、慣れて来たら小型美麗種のグアテマランタイガーランプDavus pentalorisやコロンビアンパンプキンパッチHapalopus sp.、気性がやや荒い重量級の種のサンタレムピンクヘアードAcanthoscurria geniculataやバイーアスカーレットLasiodora klugi、やや生態に癖のあるブラジリアンブラックG. pulchraやスケルトンタランチュラEphebopus murinus、そして飼育難易度は高めだが、クモ目の最大種であるゴライアスバードイーターやゴライアスピンクフットTheraphosa apophysiなど、飼育者のレベルや嗜好に応じてレベルアップしていけば良い。
バブーンスパイダーの代表種はキングバブーンPelinobius muticusやウサンバラオレンジPterinochilus murinusなどである。
ウサンバラオレンジはそうでもないが、キングバブーンは非常に成長が遅く、逆に若い個体を入手出来れば相当に長い期間楽しむことが出来る。緩い社会性を持つ種が少なからずおり、同腹の個体(つまり兄弟姉妹)に限って、複数飼育が可能なものがいる。
他にも頭胸甲から角のような突起が生えるストレートホーンドバブーンCeratogyrus marshalliや地表生と樹上生の要素を合わせ持つトーゴスターバーストHeteroscodra maculataなどが興味深い種がいるが、総じて低温と乾燥に弱く、気性も荒いものが多いので取り扱いは要注意。
アースタイガーの代表種はコバルトブルーCyriopagopus lividusやタイランドブラックCy. minaxなどである。
タイやラオス、中国南部など昆虫食が盛んな地域に産するものが多く、食品として売られるタランチュラはこのグループのものが殆どである。そうした背景から日本のペットルートにも野外採集品が流通し易い傾向があるが、逆に飼育下繁殖個体の流通が少なく、現地での乱獲が特に心配されるグループである。
体色は黒や茶褐色を基本とした地味な種が多いが、コバルトブルーやインディアンバイオレットChilobrachys fimbriatus、シンガポールブルーLampropelma violaceopesなどクモ目全体でも珍しい青色系の美しい発色を呈するものがいる。バブーンスパイダー同様に、低温と乾燥に弱く、気性が荒い上に瞬発力に長ける種も多いので扱いは一層注意。
ツリースパイダーは更に中南米産のグループとインドを中心とした南アジア産のものに分けられ、特に後者はコモンネームから「オーナメンタル」とも呼ばれる。
中南米産のツリースパイダーの代表種はピンクトゥータランチュラAvicularia aviculariaで、シート状の広い網を張って、長い脚をパタパタと動かして移動するのが印象的である。エクアドリアンパープルピンクトゥーA. purpureaやアンティルツリーCaribena versicolorなどの近似種が数多くいるためマニアが種の識別に悩むことも少なくない。また、三次元的なトンネル状の巣を張って、その中をジェットコースター宜しく高速に移動するようなものもおり、それらの代表種はグリーンボトルブルーChromatopelma cyaneopubescensやサンタイガーPsalmopoeus irminia、トリニダードシェブロンP. cambridgeiなどがいる。
オーナメンタルはインディアンオーナメンタルPoecilotheria regalisを筆頭に、脚や腹部に虎柄模様が走り、灰褐色と黒のツートンカラーに黄色や橙色色がアクセント的に入る燻し銀の美しさを誇る玄人向けのグループだが、サファイアオーナメンタルP. metallicaという鮮烈な藍色を基調とするタランチュラ最美麗種を擁する。普段は頭部を重力方向に従う向きにしてケージの一角に鎮座しているが、獲物を襲うときの瞬発力はタランチュラ随一であり、「タランチュラの皮を被ったアシダカ軍曹」と称されることさえある。振動を含めた刺激にも敏感で、ケージの蓋を開けた瞬間に飛び出してくることもあるためタランチュラとしては最も扱いに注意すべきグループでもある。
比較的短命なバードイーターの小型種やツリースパイダーでも10年は普通に生きて、長命な種になると30年以上の寿命があり、下手な犬猫よりずっと長生きである。
尤も、これは雌の成体の話であって、雄は性成熟後1年程度しか生きないものが殆どで、繁殖させる場合はペアを揃うように入手のタイミングを調節する必要がある。こうしたことを踏まえて性の判別が難しい幼体から飼育する場合は、最初から同種を複数入手しておくとよい。
「一匹だけ大事に育てる」という飼い方も勿論素晴らしいが、世話の手間やコストが大したことがないため、「様々な生き物を飼う中での一点飼い」や「種ごとの形態や生態の微妙な違いを楽しむ」というコレクション的飼育も楽しめる。
まさに奇蟲界の原点にして頂点とでもいうべき存在である。
勿論、タランチュラも歴としたクモであるが、奇蟲界隈ではオオツチグモ科以外のクモ目を意味する時に使われる語である。
流通量こそタランチュラに比して遥かに少ないが、世界で5万種以上が記載されている鋏角亜門の二大巨頭の一角であり、形態や生態は千態万様の一言に尽きる。日本だけでも2000種が記録されており、本項目からは脱線するが、飼育に限らずフィールド観察でも充分に楽しめるという利点がある。博物館や大学サークル、社会人同好会での観察会も意外とあり、そのような場所に参加して知見を深めるのも良いだろう。
話を飼育関連に戻すと、飼育の対象に選ばれ易いものには、トタテグモ科、ジョウゴグモ科、ジグモ科、イワガネグモ科、ヒメグモ科、コガネグモ科、キシダグモ科、コモリグモ科、アシダカグモ科、カニグモ科、ハエトリグモ科などがいる。
トタテグモ科、ジョウゴグモ科、ジグモ科はオオツチグモ科に近縁な、やや古いタイプのクモである。
どのグループも基本的には地中生だが、トタテグモ科は糸と土で作られた開閉可能ない扉を持った網、ジョウゴグモ科は中央が窪んだ広いシート状の網、ジグモ科は壁や構造物に沿った管状の網といった具合にそれぞれ独特の網を持ち、獲物とする小動物に絶妙に対応した網を作り分けていて興味深い。脚は短めだが頭胸部と腹部が重厚な印象があり、レッグスパンの数値に比べてボリュームがあるように感じる。また、シリキレグモ属Cyclocosmiaという腹部が途中で切断されているような形状で、断面のように見える部位に貨幣のような刻印を呈するという非常に奇妙な特徴を持つクモもこの類である。
小型の地中生タランチュラという趣であり、10年以上生きる長命なものも多く、飼育は容易な種が多い。
イワガネグモ科は日本には産しないクモで、ヨーロッパから中央アジアに掛けてのユーラシア大陸とアフリカ大陸北部に分布する。
Ladybird Spiderの英名通り、赤色系の腹部に斑紋が入り、非常に華美な外見を持つが、その特徴が雄成体というのが鋏角類としては例外的で印象深い。また、ムレイワガネグモStegodyphus lineatusはクモには珍しく社会性を持つため、コロニー飼育に挑戦するのも一興であろう。
寿命はタランチュラほどは長くはないが3〜4年ほど生き、乾燥や低温には強いが、過度の湿度と高温には注意した方が良く、日本の夏場は管理に注意が必要である。
ヒメグモ科は悪名高い毒蜘蛛であるセアカゴケグモLatrodectus hasseltiiやクロゴケグモL. mactansが含まれるグループである。
籠網(かごあみ)または襤褸網(ぼろあみ)と称される不規則網を垂直方向寄りに張り、網の下端に虫が掛かると吊り上げて食べるという面白い捕食を行う。ついでに極小の餅巾着といった雰囲気の卵嚢も吊り下げていることが多い。
セアカゴケグモやハイイロゴケグモL. geometricusは、2025年現在、特定外来生物に指定されているため愛玩目的での飼育は認められないが、外来生物法施行以前には一部のマニアが飼育を試みており、咬まれないように注意すれば、飼育管理自体は手間が掛からないとされていた。法的に飼育の規制がないものではオオヒメグモParasteatoda tepidariorumやニホンヒメグモNihonhimea japonicaなどが同様に飼育可能であり、特にオオヒメグモは倉庫や校舎の隅、街灯回りやビルの階段裏や路地に放置された粗大ゴミの中からなど、自然が少ない都市部でも見つけることが出来る。飼育ケージは小さなプラケースやガラス瓶を充分である。寿命は1〜3年程度。
コガネグモ科はオニグモAraneus ventricosusやコガネグモArgiope amoena、ゴミグモCyclosa octotuberculataなどを含み、分類体系によってはジョロウグモTrichonephila clavataやトリノフンダマシCyrtarachne bufoなども包含することもあり、世界に3000種以上が知られる大所帯でもある。
南方系の種には珍奇な形態のものが多く知られ、日本国内でもチブサトゲグモThelacantha brevipinaやゲホウグモPoltys illepidusあたりは相当に奇抜な種であるが、海外産のオオナガトゲグモGasteracantha arcuata(別名オオトゲナガグモ、ツノグモ)やヒョウロクゲホウグモP. nigrinusなどは、クモ目の形態的極致とでもいうべきものである。
コガネグモは鹿児島県加治木町の伝統行事、蜘蛛合戦に用いられるクモであり、異論はあるものの400年を越える歴史があるともされる。オニグモやジョロウグモなどは都市部でも見かけることが多く、近所迷惑にならない範囲で庭やベランダに住まわせて観察する、バタフライならぬスパイダーガーデンという楽しみ方もある。
いずれの種も、典型的な円網を張るクモであるため広い飼育スペースが必要となるのがネックで、特に造網性のクモでは日本最大種であるオオジョロウグモNephila pilipesは、三重網という住処とは別の網を前後に張る構造となり、足場糸を含めると網の長径は1.5m以上になるので、これを飼育下で再現するのであれば室内用のアルミ温室を一棹明け渡す覚悟がいるが、単に飼うだけならば60㎝水槽程度の容積でも飼えなくもない。1年で天寿を全うするものが多い。
キシダグモ科は河畔林や湿地でよく見かけるクモである。〜ハシリグモと和名がつくものが多いことからも判るように、網を張らずに獲物を探す徘徊性のクモである。
本土のアオグロハシリグモ
Dolomedes raptor、沖縄本島のオオハシリグモ
D. orion、八重山諸島のイシガキアオグロハシグモ
D. yawataiなどは、レッグスパンが10㎝近くなる大型種であり、
クモには珍しく小魚やオタマジャクシなど水中の小動物を捕食することが知られている。
湿度を高めに設定すれば普通のクモと同じように飼うこともできるが、水場と陸場を両方設けたアクアテラリウムで、植栽も凝ったレイアウトで飼育しても面白い。
また、別科で系統的に特に近縁という訳ではないが、ミズグモ
Argyroneta aquaticaは
クモ目唯一の完全水生種であり、アクアリウムでクモを飼うという、
ある種の倒錯的な雰囲気を味わえる。
餌にごく小さな活き餌、具体的には
アカムシや
イトミミズ、
ミズムシ類や
ミジンコ類などを常時必要とする点と、高水温に弱い点でやや上級者向けであり、世界的な分布は広いものの日本に於いては北海道以外では散発的な記録しかなく、環境省レッドリストには絶滅危惧Ⅱ類に選定されている点は留意すべきである。
コモリグモ科もキシダグモ科と同様に徘徊性のクモである。コモリグモの名の通り雌親が卵嚢を抱えて保護し、幼体は孵化後も暫く雌親の腹に群がる習性がある。
ウヅキコモリグモPardosa astrigeraやハラクロコモリグモLycosa coelestisはごく身近なクモであり、茶褐色から灰褐色の体色を基本として、頭胸部に黒色の縦条が走るという体色パターンの種が多数いて識別が難しいが、中にはイソコモリグモL. ishikarianaのように砂浜に縦穴を掘って暮らす大型種もいる。
何を隠そう、イソコモリグモに近縁なナルボンヌコモリグモL. narbonensisやタランチュラコモリグモL. tarantulaこそが、ヨーロッパのタランチュラ伝説の正体とされたクモであり、それに肖った学名もつけられたが、本項目名「奇蟲」と同様に名称と対象とがスライドしてしまったという経緯を持つ。
飼育に関しては小型のプラケースを用いれば充分で、寿命が短い小型種が多いため水切れや餌切れに注意すれば容易な部類である。イソコモリグモやナルボンヌコモリグモなどは3〜5年ほど生きることもある。
アシダカグモ科もまた徘徊性のクモだが、前二者と異なり立体活動を主とする。また、コモリグモ程の「子煩悩」ではないが、雌親は卵嚢を抱えて保護する。
「軍曹」と親しまれる無印アシダカグモについては、単独項目を参照。熱帯地域には近縁種が多数存在する。全身が燃えるよなオレンジ色の短毛に被われたボウイアシダカグモ
Heteropoda davidbowieやレッグスパンが30㎝を越えるキョジンアシダカグモ
H. maximaなどは稀に輸入される。
この科で変わったものとして、カマスグモ
Thelcticopis severaやコロガリサバクアシダカグモ
Cebrennus rechenbergiがいる。カマスグモは国産のクモで、中部以西の本州、四国、九州、南西諸島などて見られる。カマスとは藁で編まれた穀物や岩塩などを入れる袋の叺のことで、
日中は木の枝葉の間に張って叺に似た網の中に潜んでいる。クモ本体も光沢ある黄土色の短毛が密生して美しい。コロガリサバクアシダカグモはモロッコ産の砂漠に棲むクモであり、普段は灌木の根元や岩の下の地面に穴を堀って潜んでいるが、
敵に襲われた際に、前転を繰り返すような方法で回転しながら逃げるという珍しい特徴がある。転がる速度は普通に脚で走る速度の2倍にもなり、更に斜度40°の坂を駆け登ることも出来る。近縁種を含めて、ごく稀に輸入される。
更に別科だがアシダカグモ科似た生態を持つクモに、アワセグモ
Selenops bursariusとヒトエグモ
Plator nipponicusがいる。それぞれ和名は袷と単衣に由来しており、アシダカグモを縦に押し潰したような
平面ガエルならぬ平面グモである。特にヒトエグモはレッグスパンは3㎝強はありながら体の厚みが1㎜未満という、全てのクモの中村で最も扁平なものとして知られており、殆ど体毛がなく独特な艶がある赤茶色の頭胸部と歩脚も相俟って、一度見たら忘れないインパクトのある外見をしている。古い寺社仏閣や城郭、旧家の屋敷や農家の納屋などから見つかる例が多く、奈良時代や平安時代にまで遡る古い時代の外来種である可能性も指摘されている。
いずれの種も、瞬発力こそあるものの、普段はケージの壁面やシェルターの裏側などで静かに静止しており、高さのあるケージを用いて定期的なスプレーで水を飲ませることを忘れなければ、絶食にも強く、寿命も3〜8年ほどあり、飼育は容易である。
カニグモ科は樹皮や草木の葉の上で見られる樹上生のクモである。発達した第1歩脚と第2歩脚を持ち、大きく広げて獲物を待ち伏せている様子がカニに似ることが名の由来である。
必然として、待ち伏せ場所に擬態した体色を持つものが多く、樹皮に擬態するキハダカニグモBassaniana decorataや葉に擬態するワカバグモOxytate striatipesは人家付近でもよく見られて中々美しい。花に擬態するものもおり、ハナグモEbrechtella tricuspidataやアズチグモThomisus labefactusは擬態する花に合わせているのか同一種でも体色に変異があり、黄色いものから白いものまでいて、斑紋の数や形などが大きく異なる。非常に珍しい種として知られるものに鳥や昆虫の糞に擬態するとされるカトウツケオグモPhrynarachne katoiがいる。
殆どの種が体長1㎝以下の小さなクモであり、しかも擬態場所から滅多に動かないため、飼育ケージは小さなものでもよく、大きめのプラケースに樹皮や造花を立て置いて、複数飼育することも可能である。その場合、飼育個体が餌を食べ損ねないように一頭ごとにピンセットで餌を与えた方が良く、給餌の手間はかかる。
全く別グループだが、樹皮やコンクリートの壁に硬貨大の平たいマシュマロのような網を張るヒラタグモUroctea compactilisも、同じ方法で飼育可能である。
ハエトリグモ科は最も派生的なクモ目のグループであり、鋏角類で屈指の視力と跳躍力を有するのが特徴である。
種数も非常に多く、世界に約6000種以上と、クモ目最大の科でもある。
屋内でもよく見られるチャスジハエトリPlexippus paykulliやネコハエトリCarrhotus xanthogramma、雑木林に生息して同一種内の色彩変異が非常は激しいカラスハエトリRhene atrata、山地に多いヤマジハエトリAsianellus festivus、波飛沫がかかる海岸に棲むイソハエトリHakka himeshimensis、ハエトリグモには珍しく地表生でアリを好んで補食するアオオビハエトリSiler cupreus、アリに擬態するアリグモMyrmarachne japonicaとその近縁種などが有名である。
殆どの種が体長1㎝以下の小型種で、ネオンハエトリNeon reticulatusやウスリーハエトリHeliophanus ussuricusのように3㎜程度の超小型種もいるが、北米産のオウサマハエトリPhidippus regiusは体長が2㎝に達し、特にペットとして人気がある。昼行性の種が多いためか体色が美しい種も多く、国産種ではヨダンハエトリMarpissa pullaやキアシハエトリPhintella bifurcilinea、タニカワヨリメハエトリAsemonea tanikawaiやカラオビハエトリS. collingwoodiなどがそれに当たる。また、オーストラリア産のクジャクハエトリ属Maratus sp.は、イワガネグモ同様に雄成体がクジャクの名に恥じぬ華美さを誇り、複雑な求愛ダンスを行うことが知られてから、行動生物学の材料として注目されている。
飼育ケージは小さなプラケースやガラス瓶で充分で、蒸らさなければシャーレや試験管やスクリュー管などでも飼える。餌には名前の通りハエを与えても良いが、コオロギやゴキブリでも特に問題ない。肉食を基本とするクモ目には珍しく、この科には花粉や花の蜜を舐めることが知られているものがいるため、糖蜜や昆虫ゼリーを試してみると良い。昭和中期頃まで東京都の下町や房総半島広域ではネコハエトリやミスジハエトリPl. setipesを「座敷鷹」と称して愛玩、あるいは喧嘩蜘蛛として戦わせる文化があったとされるが、現在は風前の灯である。
本項目で示した僅かな例からだけからも読み取れるとは思われるが、クモ目一つだけでも、一生楽しめるだけの興味深い形態や生態に満ち溢れており、一度足を踏み入れたが最後、まさに蜘蛛の糸に絡め取られて虜になるのは必至である。
蛛形綱の中では最も古い系統の末裔とされる、生きた化石にして、世間一般の有毒動物の代表格。単独項目も参照。
2005年の外来生物法施行以前にはイエローファットテール
Androctonus australis(和名
ミナミヒトコロシサソリ)だの
ジャイアントデスストーカーParabuthus transvaalicus(和名トランスバーグフクウシコロシサソリ)だのとかなり
毒が強い剣呑な種も多数輸入されていたが、軒並み特定外来生物に指定され、その後も古くからペットとして大量に輸入されていたダイオウサソリ
Pandinus imperatorとその近縁種を含めたアフリカ産の種も、原産国の政情の変化によって輸入が殆どなくなるなど、趣味としてはやや向かい風のグループである。現在は熱帯アジア産のカワリハカリサソリ属
Heterometrus sp.(別名チャグロサソリ属、ダイコクサソリ属)やヤエヤマサソリ
Liocheles australasiaeを中心に、20種程度が流通する。
なお、外来生物法によってマダラサソリ
Isometrus maculatusは「宮古・八重山諸島では在来種とされるが、キョクトウサソリ科全種の指定に伴い特定外来生物として扱う」という、奇妙な立場になってしまった。
よく知られているように、尾の先端に毒針があるが、わざわざ指を毒針の先に持っていったり素手の掌に乗せたりしない限り、まず刺されることはない。動き自体もかなり鈍いため、殆どの種はロングピンセットは勿論のこと、割り箸一膳あればどうとでも扱える。
特に成体はタランチュラ以上に手がかからない動物であり、毎日の世話は水を切らさないようにすることと、やや高温よりで管理することぐらいに注意すればよい。平面活動しかしないので、レイアウトもごくシンプルなものでよい。
あまりに手がかからないため、正直なところ、これだけを飼っていると飽きてしまったり、存在を忘れて乾燥死させてしまうこともしばしば。ケージは目立つところに設置して、他の奇蟲とセットで飼うと良いかもしれない。また、「サソリのダンス」で知られる求愛行動と交接は一見の価値があるので繁殖を目指すのもよい。ヤエヤマサソリは単為生殖種であり、健康に飼育すれば幼体を産んで着実き殖える。寿命は5〜7年程度のものが殆どだが、北米産のデザートヘアリーHadrurus arizonensisは20年以上生きることがある。
世界三大奇蟲の1つ。詳しくは単独項目参照。
危険性は全く無いが、飼育難易度は奇蟲界トップクラス。
特にエジプトやモロッコから輸入される乾燥地の種は飼育難易度が尋常ではなく、半年飼えればそこそこ成功、一年飼えれば上級者というレベルである。一説にはカビや細菌に覿面弱く、気候レベルで日本での飼育環境構築が困難であるとも言われている。
古くから数多くのマニアが挑んでいるのだが、いまだにベストな飼い方が見つかっておらず、今日も何処かで誰かが死なせてる始末である。
近年は若干改善傾向があり、同じエジプト産でも河原付近のやや湿度の高い地中に棲むとされるブラックキラーGaleodes sp.については、比較的長生きさせ易く、ごく一部のマニアが繁殖も成功させているので、まずはそこから始めるのが無難だろうか。
世界三大奇蟲の1つ。詳しくは単独項目参照。
他に類を見ない奇蟲屈指の異形な形態を誇るが、毒は無く人畜無害な蟲である。
「天井からぶら下がって、そのまま垂れ下がるように脱皮するため、ある程度高さのあるケージで飼わないと脱皮に失敗する」「コルク樹皮や植木鉢など、体全体を密着させて隠れられる場所を作って落ち着かせる必要がある」「やや水切れに弱く、定期的なケージ内にスプレーして滴にした水を飲ませる必要がある」
などの幾つかの注意点さえ守れば、比較的飼育は容易で奇蟲入門者にもお薦めできる。
後述する他の奇蟲にも、飼育管理技術が応用出来る。
世界三大奇蟲の1つ。詳しくは単独項目参照。
飼育方法は乾燥に注意を払う以外はサソリとほぼ同じで、管理は容易。
無毒だが、驚かせたり急に持ったりすると、腹部から独特の刺激臭のある液体を噴射する。
なかなか取れない上に、目や粘膜に入ると危険なので、そこだけは注意。
以下の4グループは、ペットとしての流通量は非常に少なく、マニアの中のマニア向けのものばかりである。寧ろ、フィールド観察を交えて楽しむものと思った方がよい。
ザトウムシは世界から6500種、日本からは80種程度が知られているが、クモに比べて研究者が非常に少なく、潜在的にはこの数倍の種数がいるという見積りもある。
比較的大型といえる種もおり、身近なオオナミザトウムシNelima genufuscaやモエギザトウムシLeiobunum japonicumはレッグスパンが10㎝を越えるが、殆どが脚であって本体は非常に小さく1㎝程度しかない。形態のバリエーションは意外と豊富で、日本産だけでも脚が短く本体が細長いスズキダニザトウムシSuzukielus sauteri 、触肢が長く、先端が油圧ショベルのバケットと鎌を足して割ったのような形をしたオオアカザトウムシEpedanellus tuberculatus、鋏角の長さが本体以上あるサスマタアゴザトウムシNipponopsalis abei、頭胸甲の中央の眼が飛び出し、タコ型宇宙人を彷彿とさせるマメザトウムシCaddo agilisなどがいる。南米産のスネボソザトウムシ科のMetagonyleptes calcarに至っては頭胸甲の後端に角のような太い突起が入り、第四歩脚の腿節には多数の棘があるという奇抜な外見をしており、いずれの種も奇蟲と呼ぶに相応しい異形である。
生物相が豊かな森林の林床や土壌中に生息するものが殆どで、環境指標生物に利用出来る可能性が指摘されている。
飼育する場合、乾燥と高温が大敵であり、保湿性の高い床材を用いた上で、ある程度密閉性を保った方が良く、蓋にごく小さな穴を少数開けたガラス瓶だとか、クワガタ用のプラケースなどを用いると良い。夏場の高温はエアコンで凌ぐか、ワインセーラーでの低温管理が求められる。反面、餌の方は楽で、基本的には捕食者であるものの、クモやサソリほどのパワーが無いためか、新鮮な死体や落ちた果物などもよく食べるため、活き餌がなくても飼育可能である。酵母菌や乳酸菌の匂いに惹かれるのか、食パンやビスケット、乳酸菌飲料やチーズを好んで食べ、これに蛋白源として昆虫の死体や魚肉ソーセージ、ゆで卵などを与えると良く、共食いも殆どしないため複数飼育も可能である。
カニというよりは、尾がないサソリといった雰囲気であるが、呼吸器が気管系であり、紡績腺(糸を吐く能力がある)を持つなど、系統的には離れた存在であるとされる。
世界から3000種、日本に70種程が知られているが、研究状況はザトウムシと五十歩百歩である。
特大の種でも1㎝を超えるかどうかで、殆どの種が体長は3㎜から5㎜程度である。ただし、小笠原諸島に固有のテナガカニムシMetagoniochernes tomiyamaiは体長こそ5㎜程度であるが、雄成体の触肢が非常に長く、片方だけで体長の3倍以上の長さがあり、この奇怪な形態から海洋堂がフィギュア化しているほどである。
大きく分けて、土壌中に棲むもの、樹皮の隙間に棲むもの、海外近くの崖の割れ目に潜むものがおり、この順番で乾燥に強い。大型の昆虫や鳥の体表を掴んで長距離を移動するものがいる。
海岸生のイソカニムシGarypus japonicusやコイソカニムシNipponogarypus enoshimaensisが偶に飼育されており、100円ショップの小型のアクリルケースなどで飼育可能で、飢餓にも強く複数飼育が可能である。
世界中でも180種しか知られていない小さなグループで、日本からは奄美諸島以南の琉球列島と小笠原から4種が知られるかなりの珍種。
外見は尾を無くして、触肢がやや長いサソリモドキといった雰囲気で、実際に系統的にもかなり近縁とされるが、サイズが全く異なり、体長が8㎝に達するものもいるサソリモドキに対して、ヤイトムシは最大種でも8㎜程度である。
土壌生物であると同時に好洞窟性でもあるらしく、鍾乳洞の入り口付近の土壌の中や転石の下から見つかることが多い。
基本的にはサソリモドキと同じ方法で飼育可能だが、サイズを考慮した飼育ケージや餌を用意したい。
少なくとも名称はクモと並んで人口に膾炙しており、事実としてもクモ目と互角の種数が記載されている鋏角亜門の二大巨頭の一角である。しかも、それなりに研究者がいるにも関わらず新種記載の頻度がクモ目以上であるため、潜在的な種数は既知種数の10倍とも20倍とも噂されており、その場合断トツの種数を誇る。
ごく一部の例外を除いて体長は1㎜以下であり、ペットの対象としては殆ど限界に近い微小動物と言える。
生態の多様性もクモを凌ぎ、よく知られているのは、ヤマトマダニIxodes ovatusやヒゼンダニSarcoptes scabiei、ワクモDermanyssus gallinaeのような動物寄生性の種であるが、実際に多いのはササラダニ類や代表とする土壌生のものとハダニ科のような植物寄生性のもので、ミズダニ類のような水生のものまでいる。ツツガムシ科のように複雑な生活史を送るものもいて、本項目で説明するにはキリがないため、大幅に割愛させていただく。
飼育対象となる種であるが、マダニ科やツツガムシ科など医生物学分野で長らく飼育研究されてきたものも多いが、個人レベルでの飼育は安全管理上、推奨できない。
人体に無害で比較的採集や飼育が容易なのはササラダニ類の大型種であり、ヒメヘソイレコダニRhysotritia arduaやヨコヅナオニダニNothrus palustris、ツヤタマゴダニLiacarus orthogoniosやコンボウイカダニFissicepheus clavatusなどが初心者?向けである。
土を入れると何を飼っているのが全く不明になってしまうため、シャーレやスクリュー管に湿らせた石膏を敷いて、餌となる落ち葉を数枚いれると良い。ドライイーストや熱帯魚用の人工飼料を細かく砕いたものも良い餌であるが、カビが生えやすいので忘れかけた頃にごく少量を与える程度でよい。また。非常に稀なことであはりがナミケダニ科の大型種がペットとして流通することがある。ダニとしては非常に大きく体長が2㎝近くになり、昆虫の卵や別のダニの体液が主食とされる。
いずれの場合も種の判別には顕微鏡が必須で、双眼実態顕微鏡と光学顕微鏡の両方を揃えておいた方が良い。
B多足亜門
頭部を除いて1対または2対の脚を有する体節構造が延々と繰り返される細長い体を持つグループ。多足類の名は伊達ではなく、1306本という全ての動物で最多の脚を持つものがいる。奇蟲界隈で扱われるのは唇脚綱(しんきゃくこう・ムカデ)と倍脚綱(ばいきゃくこう・ヤスデ)である。
奇蟲界最凶悪グループ。合法的に飼える最も危険な蟲とすら言われるほど。
ムカデの項目も参照。
世界に800種、日本に10種強が知られているが、サソリに並ぶ有毒節足動物の代表格でありながら世界的に研究者が非常に少なく、日本もまた同様であって、種の識別や学名の妥当性からして混乱している。
全長20cmを超える大型種の流通も多く、見た目のインパクトは凄まじい。10㎝以下の小型種にはタイワンオオムカデ
Scolopendra morsitansやレッドフェザーテールセンチピード
Allipes grandidieri、ノコバゼムカデ
Otostigmus scaberやアカムカデ
Scolopocyptops nipponicusなどの体色が美麗であったり特徴的な形態を持つものもいる。
言わずもがな有毒だが、タランチュラやサソリと比べても明らかに強毒。特にペットとして流通するベトナムオオムカデ
Scolopendra dehaaniや
ペルビアンジャイアントなどの30㎝オーバーの超大型種は
毒の量も多いため、咬まれた場合シャレにならない症状が出る場合もある。
国産種で全長10㎝程度の
トビズムカデであっても、次第によっては救急車に担ぎ込まれる羽目になりかねない。
さらに厄介なのが行動と性質。とにかく動きが素早く、柔軟で薄っぺらい体を生かした脱走名人でもある。
バードイーター系のタランチュラやサソリならば、誤ってケージから出てしまっても速度は知れているので、落ち着いて捕まえればいいのだが、ムカデは手を拱いているうちに家具の隙間などに逃げ込んでしまう。そして、体の先端に顎肢と呼ばれる肢が変化した毒牙を持ち、動くものにぶつかると殆ど反射的に毒牙で噛みついてくるというとんでもない性質を持っている。
部屋の中に逃がそうものなら、布団や枕の中に潜り込まれたり、天井から突然落ちてきたりと、おちおち眠ることもできなくなる。ましてや屋外に逃がしたりしたら目も当てられないので、ケージから逃がしたら直ちに殺虫剤で殺す覚悟をもって飼育に臨むべきである。なお、スリッパなどで叩き潰しても中々死なず、ピンセットで摘んでも長い体を上手く捻って、ピンセットを持っている手を咬んだりする。
飼育ケージには爬虫類用の頑丈かつ無意味な隙間の無いものやクワガタ用のスリットが小さいものを用いるのが無難。メンテナンス性は落ちるが、二重ケージにすることも検討した方がよい。
使い古しプラケースなどを大型種に使うと、蓋のスリットを食い破られることがある。小型種や幼体ならば破壊力は小さいものの、スリットからさえ逃げ出すことがあるので要注意。
意外と水をよく飲み、乾燥は大敵だが高温下で蒸れるのは更に拙い。グワンシーペパーミントレッグS sp.やマレーシアンジュエルS sp. aff. calcarataなど、25℃を超えると明らかに調子が悪くなるものもいて、エアコンで室温や下げるなりワインセーラーなど冷却機能のある飼育設備を用意するなり、夏場には何らかの対処が必要である。
広範な知識と充実した設備、奇蟲そのものを扱う高い技術が必要であるため、「奇蟲は一通り飼いたいから」くらいの軽い気持ちでは手を出さないほうがいい。「同じ部屋の中に危険生物がいる」という感覚を味わいたい人だけが飼うべきだろう。
とはいえ、危険性と魅力度は表裏一体の関係であるのも事実であり、愛好家はかなり多く、ムカデをメインに扱う専門店が存在しているほどである。
オオムカデと比べてペットとしてはかなりマイナーだが、危険性は皆無でコンパクトな設備で充分飼えることから、通好みと称されることもある。それぞれ別系統に属するものであり、ジムカデはオオムカデに、イシムカデは後述するゲジに近縁とされる。
ジムカデは世界に1500種以上、日本で50種以上が知られている。
非常に細長い体と短い多数の脚を持ち、真に「百足」といえるのはこのグループである。体長は1〜5㎝程度のものが多いが、ナガズジムカデ属Mecistcephalusには10㎝を超えるものもいる。体色は色素が薄く模様も無い黄褐色系のものが多いが、ベニジムカデ科は鮮烈な赤色を呈するものが多い。また、唇脚綱では珍しく発光能力を持つものがおり、国産種ではヒラタヒゲジムカデOrphnaeus brevilabiatusが該当する。
森林の倒木下に多く、伸縮性に富んだ体を生かして土壌の隙間を自在に移動し、ダニやトビムシなどの小動物を捕食する。フタマドジムカデPachymerium ferrugineumやイソシマジムカデTuoba littoralisなど、時に海水が被る転石下から見つかるような種も少なくない。
イシムカデは世界に1200種以上、日本からは50種以上は記録があるものの、種の判別は非常に難しく実態は殆ど分かっていない。
ムカデとしては寸詰まりで体長も殆どの場合3㎝以下で、1㎝前後の種も少なくない。形態のバリエーションも乏しく、15対のやや長めの歩脚に分厚く大きな背板、赤褐色から茶褐色の体色いう特徴がほぼ全ての種に共通するため、口器の微細構造の違いなど形態学的または解剖学的な深い知識がないと同定不可能なものが圧倒的に多い。卵や孵化直後の幼体を保護するものが多いムカデ一族にあって、イシムカデは産みっぱなしで卵保護をしないため、祖型的系統だと考える人もいる。
森林に多いものの様々な環境で見られ、特にイッスンムカデBothropolys asperatusやホルストヒトフシムカデMonotarsobius holstiiは攪拌された環境にもよく適応し、適度な湿度さえあれば庭先の植木鉢や石の下や、車庫に放置されたコンクリートブロックやベニヤ板の下からもよく見つかる。
飼育についてはジムカデもイシムカデもほぼ同じ方法で飼うことが出来る。
乾燥と脱走に要注意で、灼いた針を用いて最低限の通気穴を開けたタッパーが飼育ケージとしてはベスト。シャーレやガラス瓶なども使える。大型種であれば弱らせたコオロギやゴキブリを捕らえて食べるが、小型種の場合はトビムシやダニを増やして与えた方が良い。自家採集で少数を飼育する場合、採集地の土も持ち帰り、定期的に飼育ケージに入れ替えることで、土に含まれる諸々の土壌生物を与えるという方法も取れる。また、種によっては肉食熱帯魚や爬虫類用の人工飼料や昆虫ゼリーを食べるものもいるので、色々試してみるとよい。
無毒無害にも関わらず、不快害虫の代表格とされ、奇蟲界隈でも好悪が別れるという哀しい扱いをされがちな蟲である。詳しくは単独項目参照。
基本的にはウデムシと同じ飼育方法で良いが、意外と繊細で特にオオゲジの飼育はマニアでも苦戦することがある。
空気の流れを作りつつ、乾燥させずに湿度を保たせることが重要。水容器も常設して、水をしっかりと飲ませること。
一般にはムカデと混同されがちだが、綱のレベルで別の動物であり、例えるならばサメとイルカほどの違いがある。
エサも奇蟲では珍しく植物食であり、そういう意味では手を出しやすいのだが、長期飼育が難しい
上級者向けのグループである。
温度や湿度、餌などを色々試行錯誤して頑張れる人向け。
メジャーなタンザニアオオヤスデは比較的飼いやすい。
C甲殻亜門
いわゆる甲殻類であって、2対の触角と3対の顎肢、8節の胴節と6節の腹節が基本体制であるが、例外多数あって形態のバリエーションは非常に豊かである。基本的には水生動物であるため
アクアリストが扱うものが多いが、陸生種の一部が奇蟲界隈で扱われることがある。
甲殻類の下位グループの一つにフクロエビ上目というグループがある。このグループの特徴として、腹面に哺乳類の有袋類のように育房という器官を持ち、そこで卵を孵化させて幼体を保護する性質がある。幼体の方も他の甲殻類と異なり卵の中で
変態を終えて、生殖能力以外は成体のミニチュアというべき状態になってから孵化する。この性質を持つため、生育に大量の水を要しないものがこのグループから現れた。それが等脚目ワラジムシ亜目の面々である。
等脚目は前述のフクロエビ上目では最大派閥で、約10000種が記載されており、その中でワラジムシ亜目は5000種以上が含まれる。等脚目の半数を占めるワラジムシ亜目の構成員の殆どが陸生種であるため、最も陸上への進出に成功した甲殻類の仲間とも見做される。
最も身近な存在はダンゴムシであろう。単独項目も参照されたい。
他にはワラジムシやフナムシが等脚目に含まれる。
一般人にも身近な存在であり、ダンゴムシやワラジムシを子供の頃に飼育していたという人もいるだろう。
また、海外産のカラフルなダンゴムシが輸入されて販売されている。
ちなみに深海生物として人気の
ダイオウグソクムシもまた等脚目の一員であり、近縁なグソクムシやミズムシ、ヘラムシやコツブムシやウミナナフシなどは奇蟲と呼ぶに足る外見で、飼育者も少なからずいるが、亜目レベルで異なるグループに属し、水生生物であることから、本項では割愛させていただく。
ちなみに世界最大のダンゴムシして販売される「メガボール」はヤスデの仲間である。
世界中で約1000種が知られるヤドカリは殆どが海産種であるが、その中で2属16種が知られるオカヤドカリ科は全種が陸生種である。15種はオカヤドカリ属で、残る1種は後述するヤシガニである。
太平洋、大西洋、インド洋の亜熱帯から熱帯地域の海岸付近の森林に生息し、日本からは7種の記録がある。本土では黒潮の影響がある鹿児島県や和歌山県の南部でごく僅かな個体が定着している他は、無効分散で偶に記録される程度であり、小笠原諸島でも入植や開発によって減少傾向にあったため、1970年に日本産全種が天然記念物に指定された。一方で、当時は本土復帰していなかった沖縄では非常に数が多いありふれた存在で、子供の遊び相手や釣り餌として扱われるものであり、1972年の復帰後も、種の天然記念物の指定こそされるものの、特定の業者には採集と販売を認める鑑札があり、そこから買い付けたものは不問にするという、合法的に飼える天然記念物の野生生物という奇妙な立場になった。
当項目で紹介するものの中では最もメジャーなペットであり、飼育したことのある人も多いのではないだろうか。
夏場になると一般的な観賞魚店やホームセンターのペットコーナーにもよく入荷していて、場合によってはスーパーマーケットや縁日などでも売られることがある。
珊瑚砂を敷いたケージに隠れ家や登り木を入れて、野菜や熱帯魚の人工飼料を与え、冬場は保温するという方法で割と楽に飼育可能であるが、幾つか注意点がある。
一つは水で、貝殻の中に蓄えた水を用いて鰓呼吸を行うため、飼育個体の全身が浸かることが出来る水場を設置して、常に清潔な水で満たしておくことである。あまり水深を深くしすぎると溺れることもあるので注意する。
もう一つは脱皮で、これが飼育失敗の最大要因と思ってよい。基本的に砂の中に潜って脱皮するため、床材の砂は充分に厚さが必要である。老成した大型個体ならば15㎝は欲しい。また、カルシウムを中心としたミネラルが不足すると脱皮失敗しやすいため、餌からのミネラル補給は強く意識する。カメや甲殻類用の人工飼料にはミネラル配合量が多い製品があり、コウイカの甲やカキ殻卵の殻を餌に混ぜる方法もある。一番効果的なのは甲殻類そのものの殻で、乾燥オキアミがよい餌となる他、
アメリカザリガニを湯通しにして、天日で乾燥させたものを与えるとよく食べる。脱皮の兆候を見るのは難しいが、その気配を感じたら時に水場の水を海水や苦汁に変えるのも有効である。
そして忘れがちだが、脱皮すると体が大きくなり、必然的に貝殻に収まりきらなくなるので、新しく大きな貝殻を、個体が好みに合わせて選べるように複数用意しておく。
繁殖は海に降って幼生を放ち、幼生はプランクトン生活を送った後に変態して上陸するため、個人レベルの設備では繁殖は難しい。
上手く飼えば10年以上生き、生理学的寿命は30年以上あるともされる。ヤシガニや後述の陸生のカニにも飼育技術が応用することが出来る。
陸生節足動物最大最重種にして、奇蟲界最強の破壊神。詳しくは単独項目参照。
オオムカデは毒性的に危険だが、こちらは物理的な破壊力が尋常でない。
ライオンの咬合力に匹敵する握力340㎏重の鉗を二つ持つため、プラケースの蓋どころか金属製の鳥籠さえヤシガニの前には無力である。挟まれれば人の指や鼻は容易く落ちると思ってよい。
取り扱い自体もさることながら、飼育も中々手強い。基本は前述のオカヤドカリと同じように飼うことが出来るが、飼育ケージははるかに大型で頑丈なものが不可欠。より高温多湿な環境を要求し、水場によく浸かって水もよく飲む癖に、オカヤドカリ以上に溺れ易い。
自然界ではスカベンジャー傾向が強く、何でも食べる反面、ベストな餌を絞るのが難しく、偏食傾向のある個体も少なくない。
脱皮は更に難しく、これに失敗する例が後を絶たない。脱皮の兆候はオカヤドカリよりは判り易いため、三方がレッグスパンと同大の衣装ケースに慎重に移して、そこで脱皮させるのもあり。
オオムカデは生体そのものを扱う技術を要求し、ヒヨケムシは生体の状態を読んで適切な管理を行う判断力を要求するのに対し、ヤシガニはその両方の能力が同時に必要である
奇蟲界の裏ボス的な存在といえる。
巨大な鉗と分厚い甲殻を持ち、基本体制は同じであっても各部位の比率の差で、科ごとにまるで異なる印象を抱かせるカニは、奇蟲界隈の嗜好によく合致して飼育欲な蒐集欲を刺激するのだが、その殆どが水生動物であり、アクアリストにも熱心な愛好家が多いため、本項目では生活の大部分を陸上で暮らす、オカガニ科とベンケイガニ科とサワガニ科、一部のモクズガニ科とイワガニ科に属するものを紹介するに留める。
オカガニ科は最も陸上生活に適応したカニである。
D六脚亜門
昆虫とそれにごく近縁な幾つかのグループが含まれる。
概要で説明した通り、奇蟲界隈で扱われるものが幾つか存在する。
肉食昆虫の代表格。詳しくは単独項目参照。
その食性ゆえに元より植物防疫法に抵触しておらず、90年代から様々な海外産の種が輸入されていた。
幾度かブームの兆しはあるものの、寿命が1年程度しかないことと、近親交配に弱く系統維持が難しいことが、ガラスの天井となっている感がある。
比較的飼育し易いのはヒョウモンカマキリ
Theopropus elegansやヒシムネカレハカマキリ
Deroplatys lobataなど。カレハカマキリの類は擬態の完成度が高く互いを認識し辛いためか、共食いが少なく複数飼育に成功し易い。ハナカマキリ
Hymenopus coronatusやマレーイッカクカマキリ
Ceratocrania macra、ダブルシールドマンティス
Pnigomantis medioconstrictaは中級者以上向けでやや繊細。オオカレエダカマキリ
Toxodera beieriやニセハナマオウカマキリ
Idolomantis diabolica、ケンランカマキリ
Metallyticus splendidusはかなり難しい。特にケンランカマキリは樹皮上を高速で這い回り、ガやハエなど飛ぶ虫を主に食べるという生態であるため、トリッキーな動きで扱い辛く、餌付きもやや悪い。
国産種では、実はアジア最大級の種である
オオカマキリ、ハリガネムシの寄生さえなければ丈夫で長生きなハラビロカマキリ
Hierodula patellifera、日本では局所分布で繊細な美しさのあるウスバカマキリ
Mantis religiosa、唯一の幼虫越冬種であるサツマヒメカナキリ
Acromantis satsumensisや成虫が無翅のヒナカマキリ
Amantis nawaiなどが特に注目される種である。
ウデムシと同じ飼育方法で問題ない。成長が早いので、数を飼う時はデリカップのような安価な容器が重宝する。ハラビロカマキリやオオカマキリのように慣れ易い種の場合、ピンセット越しに魚肉ソーセージや鶏のササミ肉を与えることも可能で、牛乳をシリンジで飲ませると長生きする。
虚実綯い交ぜであるが、世間一般的には害虫の王にして、コードネーム「G」。単独項目も参照。
世間一般では害虫としてのイメージが特段強い昆虫だが、中には美しい外観の種類も存在している。
適度な大きさからモデル生物としての需要は古くから存在し、害虫種と呼ばれるもの(
クロゴキブリ、
ワモンゴキブリ、
チャバネゴキブリの項目を参照)の存在から、防除対策の一環として飼育実験が長らく行われてきた。
2000代初頭から徐々に海外産の種が輸入され始め、最近では完全に1ジャンルとして定着した。
ネットオークションや即売会の常連であり、100種以上は流通している。
一つの目安として、流通価格が安価な種ほど繁殖させ易く、高価になればなるほど飼育や繁殖が難しくなる場合が多い。
飼育するに当たって、多くのゴキブリは周知の通り、垂直なガラスでもプラスチックでも平気で登るため、脱走防止策を講じなければならない。よく使われるのは、飼育ケージの上側5㎝ほどに、ワセリンか水やアルコールで溶いた炭酸カルシウム粉末を塗る方法で、更に念を入れて、ケース本体と蓋との間に新聞紙やガーゼなどを挟むのもよい。メンテナンスの際も大型の衣装ケースに同様の細工を施し、その中に飼育ケージを入れて行うとよい。これは他の動作が俊敏な奇蟲のメンテナンスにも通用する方法である。
一部に偏食の種もいるが、基本的には人が食べて問題ないものならば大概のものは食べる種が多く、マウスや錦鯉用の人工飼料を中心に、偶に野菜屑や果物の切れ端を与えればよい。
都市伝説的な殖え方はしないが、状態良く飼育し続ければ、いずれ卵鞘を産み落とすか幼虫を出産する。一部の種は取り出して別々に管理しても良いが、そのまま親と一緒に飼い続けても問題ないものも多い。
初心者向けの種はメンガタゴキブリ類(
Blaberusや
Eublaberusなどの総称。前胸背板の模様からからこの名称があり、前者はドクロゴキブリ属、後者はユウレイゴキブリ属という和名がある)やジャイアントウッドローチ
Archimandrita tesselataやカブトガニゴキブリ
Hemiblabera sp.などで、これらのプラケースを登ることが出来ない点でも管理が楽である。
前述の脱走防止措置が施せるならば、害虫種を初めとしてマダガスカルゴキブリ類(
Aeluropoda、
Elliptorhina、
Gromphadorhinaなどの総称)やマデイラゴキブリ
Rhypharobia maderae、ハイイロゴキブリ
Nauphoeta cinereaも飼育は容易である。ただしチャバネゴキブリやハイイロゴキブリは生活環の周期が短めで、繁殖制限をかけないと手に負えなくなることがよくあるので注意する。
フタテンコバネゴキブリ
Lobopterella dimidiatipesやアミメヒラタゴキブ
リOnychostylus notulatus、レッドヘッドビュレットローチ
Oxyhaloa deustaやポーセリンローチ
Gyna luridaなども容易な方だが、小型種なので、水切れには注意する。
ヨツボシゴキブリ
Paranauphoeta formosanaやミドリバナナゴキブリ
Panchlora nivea、キボシクサリトイゴキブリ
Thyrsocera spectabilisやニジイロゴキブリ
Pseudoglomeris magnificaなどの小型美麗種はやや繊細なものもおり、出入口用の穴を開けたタッパーに水苔を入れたウェットシェルターを設けるなど湿度調整に注意する。
日本最大種で幼虫が半水生のヤエヤママダラゴキブリ
Rhabdoblatta yayeyamanaや、それに近縁で枯れ葉に擬態するカレハゴキブリ
Morphna dotataは湿度管理がかなり難しく、飼育難易度は高めで繁殖まで至らないことが多い。
全く別の飼育方法が必要なものにオオゴキブリ属
Panesthiaやクチキゴキブリ属
Salganeaがいる。立ち枯れた木の洞や朽ち木の中に家族単位で生活している亜社会性ゴキブリであり。ケージ内に湿らせた昆虫マットと朽ち木を入れて固く詰め、偶に果物や昆虫ゼリーを与えるという、カブトムシやクワガタと大差ない方法で飼育可能である。似た方法で世界最大最重種の
ヨロイモグラゴキブリも飼育出来る。
従来から活き餌として用いられてきたコオロギと比べて、増殖力は劣るものの管理の手間が少なく、種数が多いためサイズのバリエーションが豊富で、栄養価的にも遜色ないとされることから、最近は奇蟲界隈に限らず、昆虫や爬虫類、熱帯魚の餌用として飼育する場合も多い。一方で、逸出したと思われるトルキスタンゴキブリPeriplaneta lateralis(通称レッドローチ)やアルゼンチンモリゴキブリBlaptica dubia(通称デュビア)が野外で発見された例が関東を中心に複数の報告があるため、管理は徹底したい。
熱帯アジアからオセアニアを中心として世界から3500種以上、日本から15種以上が知られる
擬態のスペシャリスト。世界最長の昆虫を含むグループでもある。
巨大昆虫の項目を参照。
残念ながら海外産の種は植物防疫法に悉く抵触するため愛玩目的での輸入は不可能。多摩動物公園附属昆虫館や石川県ふれあい昆虫館などの限られた施設で、教育や啓蒙の一環として展示されているに過ぎない。
一方で、欧米ではペット昆虫としてかなり人気で、200種以上がマーケットに流通し、専門図鑑や飼育マニュアルが何冊も出版されている。インドナナフシCarausius morosusやユウレイヒレアシナナフシExtatosoma tiaratum、ゴライアストビナナフシEurycnema goliathやセンストビナナフシTagesoudea nigrofasciata、サカダチコノハナナフシHeteropteryx dilatataやオオコノハムシPhyllium giganteumなどが特に人気らしい。
愛玩用に飼育する場合は国産種に限られる。
食草の種類が多く長寿なトゲナナフシNeohirasea japonicaが初心者向け。コブナナフシNeohirasea japonicaやアマミナナフシEntoria miyakoensisも観葉植物や庭木として流通が多い種を食べるためハードルは低い。ナナフシモドキRamulus mikado(無印ナナフシとも)やトビナナフシ属Micadinaは食草管理に慣れた中級者向け。国産では最重種のツダナナフシMegacrania tsudaiは食草であるアダンやタコノキを大量にストックしなければならないため、個人向けとは言い難い。
コノハムシ科のコブナナフシは両性生殖だが他のナナフシは単為生殖であるため、1匹入手すれば繁殖可能である。
上記の3グループは、バッタやキリギリスやコオロギなどが分類される直翅目の、亜目レベルの下位分類群として扱われていた時代があった。
これは不完全変態昆虫のうち、体軸に沿って直線的に翅を畳むことが可能で、翅脈自体も直線的でやや単純なものを基本とし、咀嚼型の口器を持ち、尾肢を有するものを一括りにしたものであった。
現代の分岐分類学定や分子生物学的手法に於いては、後述のグループを含めて、一定の類縁性は認めつつも、単一の目として扱うのは不適当とされるのが一般的である。
しかしながら、最近の昆虫の大分類に於いては多新翅亜節という分類階級が認められ、構成が「旧」直翅目とほぼ同一であり、採集や飼育、標本作成など研究手法に共通点があるという視点を含めて「(広義の)直翅類」「直翅系昆虫」と呼ばれることも割合多い。
ナナフシと同じくほとんどの種が植物防疫法に引っかかってしまうので国産種が多い。
たまに肉食性の種が出回ることがあり、中でも
リオックはその巨体と凶暴性から人気が出ているという。
セミやビワハゴロモ、カメムシなどが含まれる半翅目は多くが植物食である。
その中で例外的に、構成員の多くが肉食性の種であるのがサシガメ上科である。
シロモンオオサシガメやベニモンオオサシガメが比較的ポピュラーである。
水生昆虫の中で一生を水中ないしは水辺で暮らすものは、形態や生態が独特であり、昆虫としては比較的寿命が長いものが多いことも相俟って、虫屋、アクアリスト、奇蟲界隈の三者それぞれに熱烈な愛好家が一定数存在している。その水生昆虫の片翼を担うのが水生カメムシである。
代表格は
タガメであるが、特定第二種国内希少野生動植物種に指定されたため販売不可となった。自力で採集して飼育することは許されている。タイワンタガメを中心とした海外産の種が入荷することがあるが、飼育難易度は高めである。
タイコウチやミズカマキリもよく飼われており、特にインドシナオオタイコウチは、体長が日本のタガメと同等以上になり、呼吸管の長さを含めて迫力がある。
変わり種として、アシブトメミズムシが注目される。
代表格は
オオエンマハンミョウである。
マイマイカブリも熱心な愛好家が多い、
その他、オサムシやゴミムシの類は奇蟲界隈でも注目されるものがおり、成虫の飼育は比較的楽だが、繁殖は一筋縄でいかないものが多い。
ゲンゴロウも人気がある。
アメリカとオーストラリアではアリバチがペットとして飼われる例がある。
上記で紹介したもの以外のグループでは、ウスバカゲロウとシミ、イシノミやトビムシなどが注目される場合がある。
◆有爪動物
脚の数に対応した体節構造や複数の節からなる脚を持たないが、体側に対をなす疣状の脚が数多く並び、多数の環状の皮褶が認められるなど、多足類ないしは後述するゴカイ類を想起させ、皮膚呼吸を基本とするが祖型的な気管系を補助的に用いており、開放血管系の循環器系を有し、体表は柔らかいビロード質の疣状短毛に覆われつつも、成分は節足動物と同じキチン質であり、脱皮して成長するといった節足動物と環形動物の特徴をそれぞれ併せ持った独特の形態が認められる。故に、これらの特徴から「生きている化石」だとか「
系統上のミッシングリンク」などと古くから考えられてきた。また、口器の構造が現存する動物の中では独特であり、類似する構造を持つ
バージェス動物群、特に
アノマロカリスとの関連が指摘されたこともあった。
現在、諸研究の結果、節足動物と環形動物は直接の系統関係にないとするのが一般的で、ミッシングリンク説は潰えたものの、有爪動物が限りなく節足動物に近い外群であるのは疑いなく、現在はこの2グループに緩歩動物(
クマムシ)と化石分類群の葉足動物を加えて汎節足動物と呼ばれ、これに線形動物(線虫)、類線形動物(
ハリガネムシ)などを更に含めたものグループは脱皮動物と呼ばれ、無脊椎動物の一大勢力となっている。
現存するものは全て陸生種で、
水生種が存在しないのは動物界の門では唯一の特徴とされ、また、
門レベルで日本国内の分布が知られていない稀有な例の一つである。
・カギムシ
ゴンドワナ大陸由来の地域から150種程度が記載されている。熱帯地域に産するものが多いが、オーストラリア南部やニュージーランドなど、やや寒冷な温帯地域に産するものがいる。
捕食行動が独特で、触角基部と口器の中間辺りに口側突起という器官があり、そこから非常に粘着力の粘液を発射して獲物を捕える。粘液の分泌腺自体は胴体の中間から後半にかけてに収まるなど、体に対してかなりのサイズがあり、必然として分泌量も多ければ射程も長く、全長の10倍近く飛ばす種もいるらしい。また、この粘液は防御に用いることもある。
過去には数種が流通したことがあるが、近年ペットとして飼育されるものは、ほぼバルバドスカギムシEpiperipatus barbadensisに限定される。全長は最大で7㎝程度でカギムシ全体では中型の部類である。過去に流通した種は非常に高温に弱かったが、本種はある程度耐性があり、28℃くらいまでならば何とか耐えるため、エアコン管理で夏場を凌ぐことが出来る。餌はコオロギやワラジムシなどでよく、前述の捕食行動により意外と大きな獲物も仕留めることが出来るが、動きが素早すぎるものには粘液が当たりにくいため,コオロギやゴキブリを与える場合は弱らせてから与える。カギムシは基本は卵生だが、子宮を持ち母体から栄養を受け取って卵発生する胎生種が相当にいる。本種もその一つで1度に1〜5頭ほどの幼体を産む。親は子供を保護して共喰いをすることもないので、大きな飼育ケージであれば、そのまま飼い続けることが出来る。
独特の可愛らしさで密かなファンも多い蟲である。
◆軟体動物
所謂「貝」の仲間であり、節足動物に次ぐ無脊椎動物の大派閥であり、世界から約10万種が記載されている。殆どが水生動物、更に言えば海産種であり、タコやイカなどの頭足綱やヒザラガイなどの多板綱など海でしか見られないものも多い。一般には食品や宝飾品の材料として知られており、趣味としてはアクアリウム界隈で扱われるものもいるが、「虫屋」の貝バージョンである「貝屋」と呼ばれる人種も日夜暗躍?している。
奇蟲界隈で注目されるのは陸生種であり、それらは全て腹足綱、即ち巻貝に属するものである。
貝屋発祥と思われる言葉に「陸貝」というものがある。読んで字の如く陸に棲む貝を指す言葉であるが、貝屋ごとに異なるニュアンスで使われることがある。一番広い用法としては全ての陸生軟体動物を意味して、後述のナメクジをも含むこともある。一方で軟体動物の種の和名を見ると、〜ガイや〜ニシ、〜マイマイなど貝を意味するグループ名がつくものは、ほぼ全て一見して判る貝殻を持つ種であることを鑑みて、陸生軟体のうち外套膜(貝の本体、とほぼ同義)が収納できる程度の貝殻を持つものを陸貝と呼ぶ、とするのが最多数派と思われる。難しいのは「陸貝」の内訳である。実は陸生貝類は複数の系統か独立的に上陸を果たして放散したものであって、自然分類群ではない。最も陸上生活に適応して種数も多いのは有肺類((外套膜の一部が肺嚢という呼吸器となっているためこの名前がある。分類階級としては亜綱から目レベル相当とされる))で、その多くが柄眼類に属している。柄眼類の俗称がこそが「カタツムリ」であり、またその中で殻が細長いものには〜ギセルという和名がついているため「キセルガイ」という。
飼育方法の違いもあるため、本項目では貝殻を有する陸生貝類を陸貝として、カタツムリ、キセルガイ、その他の三者に分けて紹介する。
◆環形動物
環形動物の中でもケヤリムシやイバラカンザシなど、よく飼育される種類は当頁では扱わない。
単独項目も参照。
一般人にも身近な存在である
ミミズだが、ペットとして楽しむ人は少ないのではないだろうか。
しかし、美しい体色を持つシーボルトミミズなどは、マニアから人気がありペットとして飼育されることがある。
どちらもゴカイの仲間としては大型で、ウミケムシChloeia flavaは10cm前後で太く、オニイソメEunice aphroditoisに至っては最大3mにも達する。実際はそこまで大きくなることは少ないようだが。
水生種ではあるが、どちらも奇蟲界隈とも親和性のある見た目をしている。
アクアリウムでは、ライブロックなどに紛れ込んで、意図せず水槽に紛れ込んでいる例もあり、魚を捕食するなどの実害を及ぼす害虫としても知られている。
健康な魚が急に行方不明になったりする場合は、どこかにオニイソメが隠れているかもしれない。
また、ウミケムシは釣りの外道としても知られており、その不気味な外観や毒性から釣り人に嫌われている。
一方で、その独特な見た目に惹かれ、オニイソメを好んで飼育する人も一定数存在している。
世界中に分布しているが、ペットとしてはあまり流通しておらず、稀に入荷しているショップがあるくらい。
水族館でも飼育されていることがある。
・ヒル
世界に500種、日本で約100種が知られるヒルも、また世間一般と実態とに乖離のある動物である。
確かに吸血動物または寄生動物として有名で、水が澱んだ沼地に多いイメージもあるが、生態は結構多様であり、貝類やミミズ類を捕食して自由生活を送るものも少なからずおり、渓流から深海まで種ごとに様々な環境に棲み、陸生の種もいる。
寄生生活を送る種は生活ステージごとに宿主を変えるものもいる。
飼育し易いのは捕食型の自由生活を送るもので、特に水生種はクワガタ用のプラケースか最低限の空気穴を開けたガラス瓶に水を張っただけの設備で飼育可能である。水は1週間から10日に1回ほど換えれば充分で、水草を入れれば更に頻度を少なくしても良い。共食いもまずしないので水が汚れすぎない範囲ならば複数飼育も問題ない。
餌の用意は、用水路や溜池で見られるシマイシビルErpobdella lineataやナミイシビルE. octoculataは楽で、冷凍アカムシや肉食魚用の人工飼料を食べる。
水田で最も普通に見られるセスジビルWhitmania edentulaは貝類食で、餌となるタニシ類やモノアラガイ類を定期的に入手する必要がある。繁殖力が強いインドヒラマキガイIndoplanorbis exustus(通称レッドラムズホーン)やサカマキガイPhysa acutaを予め殖やして与えるという方法もある。
より大型になるウマビルW. pigraはスクミリンゴガイPomacea canaliculata(通称ジャンボタニシ)をよく食べる。スクミリンゴガイは外来種で、農業被害があることを含めて餌用に乱獲しても生態系へのインパクトが少なくて済む。
陸生種はやや難しく、水苔を敷いて湿度を保ちつつ空気の流れも作った方が良く、更に暑さに弱い種類が多いので、夏場の高温対策は多くの場合で必要。
本土産のクガビル属Orobdellaは低温には強いものが多く、冷蔵庫の野菜室で夏を越す方法もある。餌はミミズを与える。
そして本丸とでも言うべき吸血性の種であるが、飼育環境自体は上記の水生種や陸生種に準じたもので良く、水生種には餌用の
金魚や
カエル、陸生種には生きたマウスやウサギの血を吸わせるのがセオリーである。
だが、
筋金入りのマニアは自分の血を吸わせる。そして、ネッタイチスイビル
Hirudinaria manillensisなど一部の種は
人間の血を吸わせ続けると40cmを超える巨大サイズに成長する。
ニコチン、アルコール、カフェインなどが血中に残っているとヒルには有害なため、
自身の血を吸わせる場合は生活習慣にも気を配る必要がある。
自分の血を吸わせる行為は感染症の危険もあるので、やるなら自己責任で!!
初心者向けも蜂の頭もあったものでないが、漢方薬局で販売されるチスイビル
Hirudo verbana辺りがまだしも無難で、自家採集したヤマビル
Haemadipsa zeylanica japonicaや野外採集品が多いネッタイチスイビルで試す場合は腹を括るように。
また、
注射器や刃物の使い回しが危険なのと同じく、感染症の恐れがあるため複数人のを餌にすることも避けよう。
ピアスやボディサスペンションといった身体改造(Body Modification)とも相性が良いらしく、
非常に数は少ないものの専門店が存在する程度にはマニアの需要があり、
この趣味の極北であると同時に、
飼育行為の臨界点といっても過言ではない。
◆扁形動物
蠕虫(ぜんちゅう)と呼ばれる動物の中で最も単純な体構造のもので、体節、骨格系、呼吸器系、循環器系を欠く。一方で単純な体構造ゆえに再生能力が高いものが多く、特にナミウズムシDugesia japonica(プラナリア)とその近縁種は再生のモデル生物によく使われる。
多くの種は水生または寄生生活を送るものであるが、三岐腸目には陸生種が少なからず存在する。
人呼んでKGB。ヒルの名を冠するが、上記のヒルとは全くの別物。コウガイとは髪結い道具または髪飾りの笄のことで、笄の頭と同じイチョウ葉状の頭部を持つことに由来する。
硬組織らしい組織がないため、分類形質の設定からして難しく、標本作成を含めて肉眼サイズの動物では最も分類が難航しているものの一つである。世界から150種以上が記載されているが、実際の種数はその10倍とも20倍とも言われている。日本でも数10種は存在しているとされるが、学名を宛てることが出来るのは片手で数えるほどである。
全長は10〜30㎝程度だが、後述のオオミスジコウガイビルBipalium nobileのように1mを越えるものもいる。伸縮性に富むため正確な数値は固定標本でない限り知るのは難しい。体色は意外にも派手なものが多く、鮮血のような濃い紅色や、黄色と白と黒の帯が入れ替わり入るような種もおり、熱帯地域ではよく似た模様の毒蛇が同所的に分布するという例が複数あるため、ベーツ型擬態の一種とも考えられている。
マニアックなショップで販売されていることもあるが、自家採集のほうが入手しやすい。
遭遇の機会が多いのは本州や四国で広く見られる中型在来種のクロイロコウガイビルB. fuscatumや、東南アジア原産とされる大型外来種のオオミスジコウガイビルである。どちらも都市部の公園や花壇の付近など人家付近に多い。梅雨時の雨上がりの夜には特に見つけ易い。
ごく稀な事例ではあるが、スーパーで売られている野菜などに紛れ込んでいる事例も報告されている。
飼育は意外と厄介で、粘液の量が多く、これが腐敗すると自家中毒を起こしてあっさり死ぬ。しかも死ぬと消化液か何かによって自己融解が忽ち進行し、みるみる本体が溶け出す上に猛烈に臭い。
タッパーに湿らせたキッチンペーパーを敷き、植木鉢の欠片程度の簡易的なシェルターを入れた程度のシンプルなレイアウトで管理し、ペーパーの交換と飼育ケージの洗浄は毎日行うこと。予め飼育ケージを複数用意しておき、飼育個体を毎日移し替える方法にすると多少の猶予が出来る。
空気の流れをつけたいところであるが、名人を通り越した脱走の神であるため、ごく小さな穴を開けるに止めるか、場合によっては無改造のタッパーの方法が良いかもしれない。
高温で蒸れると即死するので夏場はワインセラーを利用するのが安全で、低温に強いクロイロコウガイビルについては冷蔵庫の野菜室で飼うという手もある。餌はミミズかナメクジで、オオミスジコウガイビルはカタツムリを襲うこともある。
◆原生生物またはアメーボゾア
通称の「粘菌」の方が有名であろうか。
日本人の極限と言われた民俗学者にして博物学者の南方熊楠が生涯通じて熱中した、リアルスライムとでも言うべき奇ッ怪な生物。
もはや動物界に属するものですらないが、動物の形態造形美を散々味わい尽くした後は却って無形のものに惹かれる、或いは刺激の分布状況に応じて自在に形が変わるという逆に形の無限性を感じ取るという、哲学的命題に片足を突っ込みかけたマニアが、この手のものを欲し出すということらしい。
かいつまんで説明すると、アメーバの親戚筋にあたる原生生物である。普段のスライムのような状態は変形体と呼ばれ、単細胞生物であるため餌を求めて移動もすれば、分裂して数が増えることもあるため一見すると動物的であるが、餌の不足や光刺激などで生育環境の悪化を感じると、子実体という小さなキノコのような構造を造り、そこから胞子を放つという菌類のような生殖活動を行う。放たれた胞子が発芽するとアメーバ細胞または鞭毛細胞という状態に変化し、これが接合すると変形体に成長する。
もう少し込み入った話をすると、変形体や子実体の核相は複相だが、胞子やアメーバ細胞、鞭毛細胞は単相であり配偶子に当たる。ヒトで乱暴に例えるならば、精子や卵子がそれぞれ好き勝手自由に動き回った挙句に餌を食べて成長し、適当なタイミングで互いに融合してヒトになるようなものであり摩訶不思議というより他ない。
実は「粘菌」と十把一絡げに呼ぶ場合、本項で説明した変形菌以外にも、細胞性粘菌と呼ばれるものも含まれる。細胞性粘菌も変形菌とよく似た生活史を送るが、細胞性粘菌の変形体はある程度の細胞の独立性があることから偽変形体と呼ばれ、変形菌の子実体は変形体が直截的に変化するのに対して、細胞性粘菌はの子実体は個別に細胞が積み重なって器官分化のように変形するため、累積子実体と呼ばれるなどの違いがある。基本的には門レベルで同じものではあるが、遺伝子を解析すると綱レベルでの別物であり、更に細胞性粘菌は多系統群であると見做されるなど、生物学上は区別の必要がある。
モデル生物としては変形菌も細胞性粘菌もどちらも利用されており、前者の代表は
モジホコリ、後者の代表はキイロタマホコリカビ
Dictyostelium discoideumである。モジホコリの項目も改めて参照されたい。
趣味での飼育(培養)管理は両者とも大同小異であり、タッパーなど気密性の高い容器に湿らせたキッチンペーパーを敷き、餌にオートミールを与えるというものである。なるべく冷暗所で管理して過度な刺激を与えないことで、子実体を作らせないようにする。
追記・修正は
ヒヨケムシの繁殖に成功してからお願いします。
- な、なんですかこの魔境は(;´Д`) -- 名無しさん (2023-04-01 12:40:39)
- 秘密のレプタイルズの作者は奇蟲にも造詣が深く「秘密の奇蟲ズも5巻位はやれる」とか言ってたな……色々飼育してる親戚曰く爬虫類の飼育をやってると虫系に耐性が付いて奇蟲飼育に興味を持つのは割とあるのだとか -- 名無しさん (2023-04-01 13:02:25)
- 自分で飼うのはごめん被るけど人が飼ってるのはじっくり観察したい -- 名無しさん (2023-04-01 13:22:29)
- なんかサソリモドキのリンク先がないんスけどいいんスかこれ… -- 名無しさん (2023-04-01 16:21:36)
- タイトル忘れたけど吸血鬼小説の主人公がこれの愛好家でタランチュラ盗もうとしてた -- 名無しさん (2023-04-01 20:04:58)
- 「ダレン・シャン」やね アレを読んで毒虫は飼育すまいと思ったものだ -- 名無しさん (2023-04-01 21:03:09)
- あざーっス、どなたかの編集のおかげでサソリモドキのリンク先が見れるようになったっス -- 名無しさん (2023-04-02 15:02:00)
- カギムシは足一杯生えてるのに気持ち悪いではなくかわいいになる謎、やはりあの「あんよ」感か -- 名無しさん (2025-03-18 23:03:51)
- カギムシはマジで可愛い -- 名無しさん (2025-03-22 14:18:56)
最終更新:2025年04月07日 10:49