アットウィキロゴ

メトロポリス(フリッツ・ラングの映画)

登録日:2026/03/06 Fri 18:19:11
更新日:2026/07/06 Mon 09:46:17
所要時間:約 26 分で読めます


タグ一覧
1927年 2026年 MOTHER SF映画 VIP先生 アンドロイド エージェントのメタルA クイーン サイレント映画 テア・フォン・ハルボウ ディストピア ドイツ映画 パブリックドメイン フィクションでは済まない問題 フリッツ・ラング ブリギッテ・ヘルム マドンナ メトロポリス レトロフューチャー 不朽の名作 全ての始まり 全てはここから始まった 原作読んだら全然笑えないシーンだった 原点にして頂点 地下世界 摩天楼 映画 時代が追いついた 時代が追いついてきた 時代が追い付いた 時代が追い付いてしまった 未来 未来の姿 未来予測 未来予知 未来都市 格差 格差社会 洋画 無声映画 白黒映画 社会風刺 神作 神映画 考えさせられる話 起源にして頂点 超大作 近未来 革命 風刺



脳と手の仲介者は心でなければならない。

Mittler zwischen Hirn und Händen muss das Herz sein.





METROPOLIS




メトロポリスとは、1927年に公開されたサイレント映画である。
監督はモノクルまたは眼帯姿でお馴染み*1、白黒映画時代の代表的映画監督フリッツ・ラング
脚本はその妻テア・フォン・ハルボウが担当。





概要

優雅な暮らしを享受する支配者である知識階級と、過酷な生活を強いられる被支配民である労働者階級が断絶した未来都市「メトロポリス」を舞台としたSF映画。

「SF映画」というジャンルに於いてはその最初期の作品であり、世界初のSF映画と呼ばれる『月世界旅行』と並び称される金字塔的作品。
アメリカの作家でありSF映画マニアでもあったフォレスト・J・アッカーマンを始めとして、本作を「SF映画の原点にして頂点」と称する声は数多い。
実際「知識層に虐げられる労働者層の反乱と真の融和」「文明の発達した未来都市」といった本作で描かれるあれこれは後のSF作品に多大な影響を与えており、直接的にしろ間接的にしろその影響は今日にまで及んでいると言って良い。
本作が無ければスターウォーズ』も『ブレードランナー』も(本作以降の映画版)『フランケンシュタイン』も『コブラ』も存在しなかった、ないしは全く違う姿だったかもしれないと言えばその影響力の一端が窺い知れるだろう。

本作の復元フィルムはユネスコが1992年から始めた歴史的記録物を後世に残すための「世界の記憶(世界記憶遺産)」にも登録されている。


しかし現在でこそ名作映画と称されているものの、当時としては評価は決して芳しいものではなかった。
巨大で手の込んだセット、「映画史上最も美しいロボット」と謳われるアンドロイド・マリアの造形、大量動員されたエキストラなど、本作は当時としても異例の大規模な作品であり、
  • 合計3万7000人に及ぶエキストラ
  • 撮影期間15ヶ月
  • 製作費は諸説あるが、概ね700万マルク±200万、最大で1300万マルク説も(現代の日本円*2にして約98億円±28億円)
という凄まじいリソースが注ぎ込まれている(因みに当初の予定していた予算は150万マルクだったそう)。

それでいて当時としてはヒット作とは言えず、それどころか興行収入は、ドイツのみならず国外にも積極的に売り込まれながら最終的な推定値は7万5000マルク――端的に言えば大爆死作品となってしまった。
結果として本作の製作会社ウーファは経営危機に陥り、またラングも次の映画からは自分の会社で映画製作することとなった。
当時の批評家からも、プロップやセットの造形や映像技術は高く評価されていた一方でシナリオ自体はそこまで高い評価ではなかった模様。
現代に於いて本作が再評価されているのは、第一次世界大戦から程無い1926年当時に制作されていながら現代の社会にも通じる矛盾と問題を描き切っているという点も無関係ではないだろう。

台詞が一切なく、字幕も最低限しかないサイレント映画故、劇中の登場人物達は常に身振り手振りで感情を表現し、思いを伝えようとする。
このため一部にはコントシリアスな笑いという場面も少なくない。
後述するつっかえ棒の下りや「打ち壊し運動が一段落した達成感で手を繋いで文字通り輪になって踊り狂う労働者達」「そこから一転、取り返しのつかない事態を招いたと聞かされ文字通り頭を抱えて慟哭する」といった下りは代表的。
しかしサイレント映画故にこそ現代の作品には見られない生の感情を剥き出しにする人の様子は一概に笑い物にできるものではない。
「人はその時、どう思いどう振舞うのか」に思いを馳せつつ見てみるのも一興。

なお本作は2023年1月1日を以てパブリック・ドメインとなったため、各種動画サイトにて無料で全編を合法的に視聴可能


バージョン

本作のオリジナルの上映時間は153分だが、最初の公開版のフィルムが現存しない。
その長さや「労働者が支配者に反乱を起こす」というストーリーが政治的な、または「バベルの塔やモロク、七つの大罪がモチーフの石像が登場する」点に因む宗教的な理由から、アメリカで公開されたパラマウント版では110分台まで短縮され、ナチスによる検閲を受けた版に至っては90分台と一時間以上も短縮されているためである。
脚本担当の片割れであるハルボウ名義で出たノベル版が存在し、こちらは全部読むことはできるが、現存するフィルムにない場面については
  • 「そもそも検討案にあっただけで撮影されていない」
  • 「撮影されたが公開されずお蔵入り」
  • 「オリジナル版にはあったが後にカット」
の、いずれかのパターンなのか、オリジナル版が見つかってない以上確認のしようがない。

元々古い映画である上にパラマウントの些か強引な編集、ナチスドイツの台頭、第二次世界大戦の影響……とオリジナルのフィルムはとっくに散逸し最早「本来のメトロポリス」は視聴不可能の様にも思われたが、専門家そしてマニアの尽力により世界中からかき集められたフィルムを繋ぎ合わせる試みはなんと成功、今日では僅か5分を除いた大部分のメトロポリスを視聴可能となっている。

但し、販売・レンタルされたものはともかく、動画サイトで視聴可能なものは「長さのバージョン」に加えて「リマスター処理の有無」「カラー化の有無」、ついでに「日本語字幕の有無」は色々混在している。
あるシーンで突然画質が悪く(または良く)なるということも往々にしてある。
要求する仕様を満たすバージョンがあるかは各々で調べてみないと分からないところだが、こればかりは仕方ないことだろう。

現代で視聴可能なものは、
  • ミュンヘン映画博物館が復元した109分版(ミュンヘン版/1987(1986)年版)
  • 新たに発見されたフィルムを追加した123分版(2002年版)
  • 2008年にブエノスアイレスの博物館が保管していたのが発見されたフィルムも合わせて編集した148分版(2010年版)
辺りが代表的。

また特殊なバージョンとして「モロダー版」というものがある。
イタリアの作曲家ジョルジオ・モロダーによって制作され1984年に公開されたもので、フィルムを個人所有していたマニアから買い取ったものを繋ぎ合わせて編集、そこにロックミュージックを乗せる、一部をカラー化処理するといった再編集を加えた独自色の強いものとなっている。
長さは約90分と短めで、また結末が「労働者と支配者の和解」ではなく、フレーダーセンとグロットが握手すると同時に暗転して閉幕という「労働者の勝利」寄りになっており、最後の字幕も表示されない(ラングとしてはこちらの結末を構想していたらしい)といった具合に原典と微妙に異なっている。


あらすじ

「現代」から100年後の未来、2026年の大都市メトロポリスは、高度に発達した文明により超高層ビルが立ち並び、人々はその恩恵に与り豊かな暮らしを享受していた。
……しかしそれは市民を支配する極一部の指導者層に限定され、圧倒的大多数である労働者たちは地下工場で過酷な労働を強いられる暮らしを余儀なくされていた。
メトロポリスは一部の「知識者階級」が富を独占し、「労働者階級」はその残り滓を分け合い底辺の暮らしに甘んじる――一見して華やかな摩天楼の正体は恐るべき階級社会であった。

何不自由ない暮らしを楽しんでいたメトロポリスの支配者の息子フレーダーは、労働者階級の子供達を連れて地上を訪れていた女性マリアに心を奪われる。
彼女を追って地下に潜入した彼は、今まで興味すら持たなかったメトロポリスの闇の実態を知り、この構造に疑問を抱くようになる。
フレーダーはメトロポリス知識層の頂点に立つ父ヨー・フレーダーセンに自らが目撃した全てを訴えるが、フレーダーセンは一切取り合わない。フレーダーは労働者たちの実態をより深く知るべく再び一人で地下に潜る。

一方、労働者階級のアイドル的存在であったマリアは、暴力による知識層の打倒ではなく互いを認め必要とし合う融和と和解を理想とし、それを成し遂げるであろう者がきっと現れると忍耐を呼び掛けていた。
フレーダーと出会ったマリアは互いに心を通わせ合い、マリアは彼こそが「心」――「指導者()」と「労働者()」の間を取り持つ存在――になると確信する。

労働者たちがマリアの下で結束しつつあることを知ったフレーダーセンは発明家ロトワングに命じ、彼女を誘拐・監禁させてマリアと同じ姿のアンドロイドを放たせる。
フレーダーセンは偽のマリアを使って彼女の信頼を失墜させ、労働者達の反抗の意思を潰えさせることを企んだのだ。

マリアを基にして真に完成したアンドロイド・マリアは知識層達の良い見世物となり、また一方でアンドロイド・マリアは労働者たちを煽動、彼女が何としても避けたかった地下労働者たちの武装蜂起が始まってしまう。
実はロトワングの真の目的は、フレーダーセンの意思とは全く別のところにあったのである。




登場人物

一部の登場人物は英語版では名前の読み方が英語風に変更されている。

  • フレーダー
演:グスタフ・フレーリッヒ
主人公。知識層の青年。
冒頭の時点ではメトロポリスの地下がどうなっているか何も知らないまま日々を楽しく暮らしていたただのボンボンであった。
だが地上を訪れていたマリアの訴えを聞き、地下がどうなっているのか興味が湧いた彼は地下工場に忍び込むが、そこに広がっていたのは過酷な労働現場と、それに耐えながら必死に働き、しかし事故により無残に死ぬ労働者達――彼の目には労働者達が魔王モロク*3の生贄にされている様に見えた。
地下の現状に全く興味を示さない父を余所に、より地下の現実を知ろうと地下に潜入、「目撃」するだけでは足りないと考えたのか、倒れかけた労働者に成り代わってその過酷な労働を身をもって体験した後、労働者達の解放を訴えるマリアと再会する。
彼女と急速に距離を縮めていく内、マリアは彼こそがいずれ現れるであろう「調停者」ではないかと考えるようになる。

何も知らず不自由もない貴族の青年であり、父の言動を見るに甘やかされて育ったことが窺えるが、それでいて自ら地下に飛び込む、そしてその実態を知って現状を変えねばならないと考える正義感など、地位を考えれば非常にアクティブかつ柔軟な思想の持ち主。
労働者達が毎日こなす10時間の労働にヘトヘトになりながらもなんとか耐え切る、暴徒化した労働者達に襲撃されるもなんとか無事に済みすぐにまた走り回る、最終決戦でもロトワングと互角に戦うなど、ボンボンの割にタフでありフィジカルも結構大したものである。
自動でドアが閉まり侵入者を閉じ込めるトラップに気付くや、つっかえ棒を用意して出口を確保するなど機転も効く。棒くらい軽くへし折る程ドアの開閉力が強烈だったのは計算外だったらしく、無情にも閉まったドアの前で途方に暮れる羽目になる。お陰でシリアスなシーンの筈なのにギャグシーンにしか見えない
アンドロイド・マリアを見て眩暈を覚えるシーンの回転ポンデリングのような演出は『仮面ライダー(新)』のウニデーモンの痺れ毒に侵されるシーンや『透明少年探偵アキラ』のZ団団長の高笑いシーンなど日本の作品でも取り入れられた。


  • マリア
演:ブリギッテ・ヘルム
労働者の女性。改革を求める思想家的な側面も持ち、労働者層から支持を集めている。
知識層が労働者層を支配し虐げる現状の矛盾と不条理、それはいずれ瓦解すること、そのために必要なのは暴力革命ではなく調和であること、その役割を担う者がいつか必ず現れることを説き、労働者たちに希望を与えつつも決して早まった行動に出ないよう、今は耐えることを訴えていた。
フレーダーと出会い、彼と意思を確かめ合った直後にロトワングに攫われ、アンドロイドの元ネタとされてしまう。

強さと優しさを兼ね備えた女性であり、労働者達の革命を訴えながらも暴力に訴えさせることは決してなかった。
それ故にフレーダーは偽物と入れ替わっていることにすぐに気付けたのだが、労働者達には届かなかった。


  • ヨザファート(ヨゼフとも)(英語版:ジョセフ)
演:テオドル・ロース
フレーダーセンの部下。
彼に解雇を言い渡された失意と、向こう死ぬまで地下で奴隷労働という絶望の余り部屋を出た直後に拳銃自殺しようとするが、間一髪の所でフレーダーに止められ、それが切っ掛けでフレーダーの協力者となる。

フレーダーと別行動を取っていることが多いため出番は多くないが、必要な時にはフレーダーの元に駆け付け彼の手助けをするなど非常に有能
極端な階級社会であるメトロポリスで支配者の直属の部下をしていたのは伊達ではないのだろう。


  • ヨー・フレーダーセン(ヨハンとも)(英語版:ジョン・フレーダーセン)
演:アルフレート・アーベル
メトロポリスの支配者。フレーダーの父。
人格は一言で表せば傲慢かつ冷酷非情
地下の実態を知ったフレーダーから必死に訴えられるまでもなく、メトロポリスの繁栄の裏で労働者たちが地下で日々過酷な労働を強いられ、時には事故で死ぬ者も少なくないことを知っていたが、それに全く心を動かさず「メトロポリスを作り上げたのは彼らだが、彼らが住むのに相応しいのは地下だ」と冷たく言い放ったり、「本来しなければならない報告が別の部下から上がって来た」という理由で部下2名に立て続けにその場で解雇を言い渡すなど、知識層以外の人間のことは「知識層に奉仕するための奴隷種族」「替えの効く消耗品」程度にしか考えていない。

これでも息子のことは彼なりに愛しているようで、彼が地下に潜った際もその事自体は咎めつつも厳しく叱責したりはしない、労働者達を地下に隔離している理由の一つに「もし反乱を起こしたらフレーダーの身が危ない」と彼を案じている部分がある、心労が祟って倒れた彼をベッドに運び愛おしそうに見つめる、地下都市の水没にフレーダーが巻き込まれたことを聞いて激しくショックを受けるなど、彼に対してだけはかなりの甘さを見せる。


  • C.A.ロートヴァング(英語版:C.A.ロトワング)
演:ルドルフ・クライン=ロッゲ
どういう訳か彼の名前だけ英語読みの方が主流。
発明家。フレーダーセンとは旧知の仲。
人型機械「アンドロイド」を長らく研究しており、作中序盤にて遂に完成させた。
研究中の事故でか、右腕が義手になっているが本人は「腕の一本くらいどうってことない!」とガンギマった顔で言い放つという典型的マッドサイエンティスト。

シーンカット(とフィルム散逸によるバージョン違いの林立)の煽りを強く受けたキャラであり、ロトワングの過去と目的が原典とアメリカ公開版とで全く異なっている。

原典ではフレーダーを産むと同時に亡くなったフレーダーセンの妻ヘルの元恋人で、フレーダーセンの事は「ヘルを奪った上に死なせた」と見做して未だに憎んでおり、また未だ愛しているヘルの為に巨大な胸像を自宅に飾っている。
アンドロイドの開発目的もヘルの再現である。
そして知識層による支配をより盤石にするだけのつもりだったフレーダーセンに対して、彼の真の目的はアンドロイド・マリアに煽動された労働者達によって地下都市を壊滅させ、支配者層もアンドロイド・マリアの色香で堕落させることで地下都市も地上の摩天楼も諸共滅ぼすことであった。

一方でアメリカ公開版ではヘルに纏わる話が全て省略されており、フレーダーセンとの確執も全く語られていないため「単なる知人同士」の関係性になっている。
アンドロイドの開発目的も人間に代わる労働者の開発となっているため、単純なフレーダーセン側の協力者として描かれている。
ラストでマリアを攫おうとしたのも、原典では「錯乱して彼女をヘルと誤認」だったのに対して、アメリカ版では「生きたマリアの存在が衆目に晒されれば市民を騙していたのがバレて自分もマリアも殺される」という恐怖からだった。
終盤の大騒動も彼にとっては完全に誤算だった模様。

因みに、Rotwangはドイツ語で「赤い頬」の意味。


  • グロット
演:ハインリヒ・ゲオルゲ
地下工場の工場長。その名の通りメトロポリスの中核にして根幹である「Herz-Maschine(ヘルツ・マシーネ)(「心臓機械」の意。英語風に「ハートマシン」とも)」にて作業している。
労働者達が謎の地図を持っていることを自らフレーダーセンに報告できるなど、工場長だけあって労働者層の中でも地位は高いと思われる。

労働者達の反乱には距離を取っている(というかその機運自体を知らない)ようで、彼らが暴徒と化した際もしでかそうとしている事の重大さを訴え説得しようとするなど、ある意味作中で最も冷静だった人物。
しかし暴徒化した労働者達に対して彼たった一人ではあまりに多勢に無勢であった……。


  • Maschinenmensch(マシーネンメンシュ)
演:ブリギッテ・ヘルム(スーツアクター兼務)
ロトワングの長年の研究成果。「Maschinenmensch」はドイツ語で「機械人間」の意味で名前(固有名詞)とはやや異なる。
本作の登場人物としては単に「アンドロイド」「アンドロイドマリア」と呼称されることも多いが、こいつ自体の名前が「マリア」ではないので注意。
(あくまで「マリアに化けたアンドロイド」である)
制作者のロトワング自身から「パロディ」と呼ばれたがこれも名前というより、「人間を(パロディ)したもの」ぐらいの意味。

全身真鍮色で、ブリキのおもちゃよりはディテールに凝ったデザイン、という程度の造形だが、顔は美しい女性を模している。
(ノベル版では「金属の骨格にクリスタルガラスの外皮」という描写があり、クリスタル・ボーイのような質感の想定だったが撮影上不可能だったらしい。)
ロトワングが紹介した時点ではゆっくり歩ける程度の完成度だったが、マリアを基にしたもう一押しを加えることで人間と全く変わらない動きができるようになり、外見も間近で見てもロボットだとは誰も思わない程にマリアそのものとなった。
フレーダーセンとロトワングの陰謀により労働者達向けて放たれ彼らを煽動、一方で支配者層が楽しむナイトクラブ「ヨシワラ」ではバビロンの大淫婦の如く妖艶なダンスで男たちを魅了する。

そのデザインは当時「映画史上最も美しいロボット」と称され、『STAR WARS』シリーズに登場する金色のロボットC-3POのデザインはこのアンドロイドが元ネタとされている。
他にもロボコップやらアーマロイド・レディやら、上げたらキリがないだろう。


  • 労働者11811号
演:エルヴィン・ビスワンガー
労働者の一人。本名はゲオルギー。
フレーダーが地下に潜入した際に彼の目の前で力尽きそうになり、フレーダーが彼に代わって仕事を担当する。
それによってフレーダーは地下の労働者達の過酷な現実を身をもって知ることとなり、また彼が持っていた秘密の地図がフレーダーとマリアを引き合わせることになるなどマクガフィン的な人物。
フレーダーと入れ替わった後、ヨザファート宅で匿われる手筈になるも、「YOSHIWARA」なる歓楽街についつい吸い寄せられ、結局シンマンに発見され連れ戻されてしまう。


120分版ではフレーダーと入れ替わった所で出番が終わっている。


  • Schmalen(シュマーレン)(英語版:シンマン)
演:フリッツ・ラスプ
フレーダーセンの部下。名前は「痩せ男」の意味なのでおそらくコードネームの類。
地下を自らの目で確かめんとするフレーダーを監視する為に派遣された。
フレーダーやゲオルギーに割と簡単に出し抜かれており、あまり有能そうには見えない。

120分版ではほとんど出番が無い
元々ストーリー上そこまで大きく扱われておらず、大した見せ場も無いので仕方ないと言えば仕方ないのだが。



メトロポリス

本作の舞台、摩天楼が立ち並ぶ巨大都市メトロポリス。
「メトロポリス(metropolis)」とは一般的に「大都市」と訳されるが、語源はギリシャ語の「meter(母)」と「polis(都市)」を合体された単語で、元々は植民地の中心都市を意味していた。

人々の支配者が住む地上には多数のビル群とその合間を縫う高架道路、そこを行き交う自動車複葉機で混雑しており、大変賑わっている。

支配者層の若者は平日の昼間から「息子たちのクラブ(庭園)」と呼ばれる遊園地や植物園、運動場、図書館、劇場などを複合した施設でレジャーやスポーツ等の娯楽を楽しむ快適で不自由ない生活を送っている。
大人達もまた、夜になると身なりの良い衣服で歓楽街「ヨシワラ」に繰り出しアダルティーな夜を満喫することができる。
なお「ヨシワラ」の由来は日本の遊郭「吉原」*4だが、その名前や人々が提灯を手に練り歩いていること以外に日本的な要素はあまりない。
というか未来都市メトロポリスでは「ヨシワラ」が「歓楽街」の意味として用いられている節がある。

ちなみにフレーダーセンのオフィスと地下工場にはテレビ電話が設置されているが、当時テレビは世界最新鋭にしてまだまだ黎明期の技術であり*5、解像度もかなりぼんやりとしたものだったが、本作のテレビは大画面ではっきりとした映像が映る上に電話の機能も兼ねるという、1926年当時としては非常に未来的な空想技術だったと言える。

一方で、メトロポリスの地下には地上を支えるための工場が配置されている。
凄まじい数の労働者達は来る日も来る日も労働に明け暮れ、何の希望も持てない過酷な暮らしを強いられる日々。
メトロポリスの地下は地上とは異なり1日20時間であり、労働者達は毎日10時間ずつの二交代制で働かされ続けている。
大勢の労働者らが一様に俯き、生気の無い顔で廊下や居住区と工場区を往復するエレベーターにすし詰めにされながら労働に赴く、または帰って来る様は丸っきり現代日本の駅の通勤時間帯そのもの異様な迫力にも似た陰気が立ち込めている。

労働者の居住区は工場区の更に下層に位置しており、様々な意味で快適さとは程遠い。
更には労働中に事故が起きてもメトロポリスの支配者であるフレーダーセンは大した出来事とは受け止めず淡々と処理しているため大した保障があるとも考えにくく、労働環境も生活環境も最悪と言って良いだろう。

序盤には多数の子供達を引き連れたマリアが地上の遊園地を訪れたり(すぐに現地の係員が駆け付け追い返されるも特に罰則を受けた様子は無い)、工場長グロットがフレーダーセンに地図に関する報告を上げに行ったりという場面はあるが、基本的に地上と地下は分断されているらしく、自由な行き来はできない模様。
実際フレーダーは地下の様子を見に行くために「忍び込む」という手に出ており、また終盤の大事件でも子供達が地上まで避難して来るとは誰も予想していないような様子があった。

まっこと、植民地の最初の入植地(メトロポリス)とはよく言ったものである。



オマージュ・パロディ

古い、かつ有名な作品だけあって本作や本作に登場したあれこれが様々な作品に影響を与えているのは上記の通り。
また本作の映像そのものをオマージュしたものも少なくない。

  • Radio Ga Ga
イギリスのロックバンド・クイーンが1984年に発表した楽曲『Radio Ga Ga』のミュージックビデオでは本作の実際の映像が使用されており、また新録映像も多くの部分が本作をパロディしたものとなっている。
上述したモロダー版でフレディ・マーキュリーの『ラヴ・キルズ』が提供された縁で、その返礼としてメトロポリスの映像が提供されたとのことで、PVの最後には謝辞のコメントが入っている。


  • Express Yourself
アメリカの歌手・マドンナが1989年に発表した楽曲『Express Yourself』のミュージックビデオは本作を下敷きにしており、ビデオの最後には『脳と手の仲介者は心でなければならない』が引用されている。
あくまで本作を下敷きにしたというだけでビデオの内容はマドンナ独自の解釈がなされており、性的自由を訴えたものになっている。
監督は『セブン』『ファイト・クラブ』のデヴィッド・フィンチャー。


  • メトロポリス 1927
ピーター・グレイアム/Peter Grahamによる本作をモチーフにした曲。元々は金管バンド編成に向けて作られたが、後に木管を含めた吹奏楽版に自ら編曲している。
「ストーリーの表現ではなく、セットや雰囲気など映像から受けた印象を音楽化した」とあるが、原典が無音のサイレント映画であることも踏まえると対極的な表現とも言える。


余談

  • 目の周りの隈
「眼に狂気を宿す」という言葉の通り、本作の「狂人」に当たる登場人物は目の周りに黒い隈が描かれている。
片腕を犠牲にしてでも死者の蘇生を目指すロトワングや、人の心を持たないアンドロイド・マリアが分かりやすい。
音声が無く画質も悪い白黒映画である本作で視覚的な分かりやすさを強調する工夫の一つである。
シザーハンズ』のメイクはこれに着想を得たものとも言われている。


  • バベルの塔
マリアが「指導者と労働者が互いを理解し合わなかった故に上手く行かなかった事業の例」として語った、凄まじい数の人間が働いているバベルの塔の下りは本作を代表する名場面の一つ。
当初は6000人のエキストラで撮影しようとしていたのだが、諸々の理由で1/4の1500人しか集められず、結局様々な角度で撮ったものを一つの映像に合成することで映像中の夥しい労働者が描写されたという。


1949年に手塚治虫によって本作と同名の「メトロポリス」という漫画が執筆されている。
このメトロポリスは48年の「ロストワールド」、51年の「来るべき世界」と合わせて「SF三部作」「(手塚治虫の)初期SF三部作」などと称されている。

舞台が「文明が発達した未来の大都市メトロポリス」という点や、主要登場人物の一人に人造人間を研究しているロートン博士という科学者が居るなど、ラングのメトロポリスを下敷きにしていると思しき部分は散見されるが、
テーマは「人工生命の是非」「行き過ぎた科学万能主義への警鐘」が主であり、労働者と支配者の対立・和解といった部分は全く描かれておらず、大枠以外の共通点はほぼ無いと言って良い。

2001年にはりんたろう監督でアニメ映画化されており、本作もラングのメトロポリス同様製作期間5年、総作画枚数15万枚、製作費10億円という超大作となっているが、それに対して興行収入は、何の因果か7.5億円とこれまたラングのメトロポリス同様の(そして数字もよく似た)大赤字映画となってしまった。
評論家からの評価は結構高く、『ターミネーター』シリーズでお馴染みジェームズ・キャメロン監督等から絶賛の声が上がっているのは対照的と言えるか。


  • VIP先生
「インターネット老人会」を語る上では決して欠かせない、腰蓑を付けたアンドロイドが奇妙な踊りを披露する動画「VIP先生」は本作の映像に『スーパーマリオRPG』のBGM「森のキノコにご用心」に海外のファンが歌詞を付けたものを合体させたものである。
なお件のシーンは別にVIP先生が切っ掛けで有名になった訳ではなく、元々本作を代表する名場面である。

力の抜けそうな踊りとBGMと空耳今まさに力を抜かれている男たちが笑いを誘う映像だが、元々は労働者たちの支配階級からの解放を訴えていた女性が支配階級に捕まり、彼女そっくりのアンドロイドが情けない姿で支配階級のための見世物にされるという尊厳破壊も甚だしいワンシーンである。
VIP先生の元ネタを見ようとして前後も見た結果、あまりに救いの無い描写とかなりホラー調の演出に呆然とする視聴者は多い。
因みに「VIP先生」と聞こえる部分の実際の歌詞の意味は「(多くの)人々を狂わせる」。何気に劇中の様子とシンクロしている。

因みにニコニコ生放送「VIP先生」投稿と同日に本作を配信したことがある。
この時は148分版が使用され、音楽は特に乗せられず音声は無声映画の雰囲気を出すための映写機の音のみ、字幕もドイツ語の原文が使用され運営コメントで邦訳を適宜表示という形態が取られた。
この放送は現在でも一般会員でも常時視聴可能。









項目作成(のう)追記・修正()の仲介者はアニヲタ(こころ)でなければならない。

この項目が面白かったなら……\ポチッと/

最終更新:2026年07月06日 09:46

*1 戦争で右目を失明している

*2 諸々の理由で当時のライヒスマルクを現代の日本円に直接換算するのは難しいため、当時の物価から1RM≒1400円前後とする推定値を元に計算

*3 古代中東で信仰されていた神。牛の様な頭を持つとされ、生け贄として子供が捧げられていた。

*4 フリッツ・ラングは日本を訪れた際に吉原にも寄り、いたく感銘を受けたそうである。

*5 本作が製作された1926年といえば丁度高柳健次郎がブラウン管で「イ」の文字の送受信を成功させたのと同じ年である。