12RIVEN -the Ψcliminal of integral-
【とぅえるヴりヴん ざ さいくりみなる おぶ いんてぐらる】
| ジャンル | ノベルタイプアドベンチャー |  
  
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| 対応機種 | プレイステーション2 Windows 2000/XP/Vista
 プレイステーション・ポータブル
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| 発売元 | サイバーフロント | 
| 開発元 | サイバーフロント/KID/SDR Project | 
| 発売日 | 【PS2】2008年3月13日 【Win】2008年4月4日
 【PSP】2009年4月16日
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| 定価 | 6,800円(税別) | 
| レーティング | CERO:B(12才以上対象) | 
| 判定 | なし | 
| ポイント | 「infinity」は「integral」へ 『infinity』譲りのミステリアスSF
 多数の矛盾
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概要
『infinity』シリーズの原案・脚本を手掛けた打越鋼太郎によるSF-ADV。
本作は『infinity』シリーズに続く『integral (インテグラル)』シリーズの第1弾とされている。
しかし、『integral』シリーズの第2弾については発売から10年以上経った現在もアナウンスは無い。
『infinity』シリーズお馴染みの「ループ」「閉鎖空間からの脱出」と言った要素は無く、2人の主人公の視点から事件を追っていく流れになる。
また、『Remember11』同様にギャルゲー要素は廃されている。
謎めいたSFストーリーという特徴は受け継がれており、原案・脚本の打越氏の作風は遺憾なく発揮されている。
打越氏が過去に手掛けた『EVE』の一作『EVE new generation』に通じる部分もあり、『infinity』と『EVE』の両方の要素を含んでいるという見方も出来るかもしれない。
ストーリー
2012年5月20日、雅堂錬丸は幼馴染の高江ミュウが正午に、既に営業を行っていないホテル"インテグラル"の屋上で殺されるという差出人不明のメールを携帯電話で受信し、現場へ向かった。
理文学園第六高校の生徒らがミュウをまさに殺さんとしている現場にたどり着いたものの、途中で現れた公安12課の女刑事と共に、彼らの操る"ψ(サイ)"の能力によって軽くあしらわれてしまった。
登場人物
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雅堂錬丸
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主人公の1人。男子高校生。高江ミュウとは幼馴染。
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三嶋鳴海
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もうひとりの主人公。警視庁公安12課所属の女刑事。27歳。サイクロペディア症候群により、一度見た物は忘れられない。
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高江ミュウ
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メインヒロイン。18歳の少女。ψの能力を持つ。
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霧寺メイ
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理文学園第六高校の銀髪の男子生徒。ψの能力を持つ。ホテルの廃墟屋上にて高江ミュウを殺そうとしていた。
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伊野瀬チサト
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理文学園第六高校の水色の髪の女子生徒。ホテルの廃墟屋上にて霧寺メイと対峙する。
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伊野瀬オメガ
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伊野瀬チサトの弟。姉と同じく理文学園第六高校の生徒。
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雪積真琴
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警視庁公安12課所属の女性刑事で三嶋鳴海とは学生時代からの後輩。
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大手町
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警視庁公安12課所属の刑事で三嶋鳴海の5年先輩で元カレ。
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三島紘光
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警視庁公安12課課長。三嶋鳴海の養父。通称ボス。
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マイナ
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自称作家の女性。27歳。雑学に詳しい。
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星野遊々
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鳩鳴館女子高校の女子高生らしい。天性のアジテーション能力とリーダシップを持つ。ミラージュというグループを率いている。
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堤誕吾
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ミラージュの構成員。やや幼く見えるが高校生。
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高林
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志村クラブの主宰代理(≠新主宰)。SATの制服を着た大男。
組織
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警視庁公安12課
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情報収集及び工作活動を行う秘密機関。警視庁の地下2階にオフィスがある。
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警視庁公安6課
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12課と同様に情報収集及び工作活動を行う秘密機関ではあるが、工作活動により特化している。所属者はなぜか感化されやすい。
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理文学園第六高校
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男女共学で全寮制の私立高校。通称リブロク。地方に他の5校があり、リブロクには成績優秀者が選抜されている。
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ψ(サイ)クリミナル
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霧寺メイが率いる、ψの能力を持ったリブロクの生徒のグループ。
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志村クラブ
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三嶋鳴海が以前から捜査を担当している秘密結社。元主宰の志村蔵之助は1年ほど前に亡くなっているが、組織は継続して活動している。
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ミラージュ
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星野遊々率いるグループ。志村クラブと対立している模様。錬丸らがミラージュと遭遇した時点でメンバーは72名。
システム
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本作はごく普通の、たまに出現する選択肢でストーリーが分岐するタイプのテキストアドベンチャーである
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マップを移動したり、CGの気になるところをクリックして調査したりすることもなく、ミニゲームもない。
 
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本作は2人の主人公の体験を別々に追うことによって、最終的に事件の全貌が分かるという、『Remember11』のようなシステムとなっている。
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ただし、『Remember11』のように片方の主人公の選択によって、他方の主人公の状況が変化するという要素は本作にはない。
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ゲーム開始直後は、主人公2人の視点を交互に体験する「共通ルート」。途中から「錬丸ルート」と「鳴海ルート」に分岐する。
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「錬丸ルート」と「鳴海ルート」にてそれぞれグッドエンド(「続く時」)を迎えた後、「共通ルート」の内容が変化して「∫(インテグラル)ルート」への分岐が現れる。
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PSP版には「錬丸ルート」にイベントが追加されている。
 
 
評価点
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シナリオが練られている
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とにかく予想を裏切る展開の連続である。
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本稿の登場人物の欄は素っ気なさ過ぎると思うかもしれないが、ネタバレにも嘘にもならないギリギリの内容で紹介するにはこれが精一杯なのである。登場人物は多いとは言えないが、各々に多くの隠された事実がある。
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キャラの名前にも重大な秘密が隠されている事がある。ヒロインの「ミュウ」は一見すると変な名前だが、これもストーリー上の由来が存在する。
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主人公2人にボイスが無いのもこの手のADVとしてはごく普通の事だが、それすら本作を構成する上で重要なファクターなのである。
 
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錬丸ルート、鳴海ルートのどちらか一方をクリアしてもストーリーは消化不良のまま後味の悪い結末を迎え、謎も殆ど解けない。しかし両方をクリアしても却って謎は深まるばかりである。
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その全てが明かされるのが∫ルートである。『Ever17』の最終ルート同様、謎が次々と明かされ、バラバラだったピースが自ら集まってパズルが組みあがっていくかの如く怒涛の勢いでストーリーが展開していく。そして謎が明かされると展開は一層勢いを増し、ここからが本当の『12RIVEN』の始まりと言っても過言ではない。
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『Ever17』ほどの壮大なトリックこそ無いものの、カタルシスの度合いは勝るとも劣らない。打越氏の作風が存分に生きている。
 
 
賛否両論点
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ルート分岐がわかりにくい
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共通ルートから、「錬丸ルート」「鳴海ルート」に分岐する条件が、特定の選択肢を選ぶという分かりやすいものではなく、共通ルートにて、進みたい方の主人公の選択肢ではまともな選択肢を選び続け、一方の主人公の選択肢は的外れな選択肢を選ぶことで、分岐後のルートを確定させるしかない。
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もちろん本作にはバッドエンドもあるため、共通ルート内ではバッドエンドがないという攻略情報でも見ない限り的外れな選択肢を選びにくいため、分岐がわかりにくいことになっている。
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「∫ルート」開放後は、開放前に「錬丸ルート」へ入ったのと全く同じ選択肢を選んでも「∫ルート」へ入ってしまう場合がある。
 
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なお、このようなことになっているのは打越氏の理想が、1本道ではないけれども各々のエンディングを作り手の意図した順番にプレイしてもらうようにシナリオ側で工夫するというものだからであり、よりエンディングの多かった『Ever17』などでもその努力が垣間見れる。
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また、選択肢の順番がプレイごとに変わらずに固定であることが意図したものかは不明だが、1番目に表示される選択肢を選んでゆくと特定ルートに、2番目に表示される選択肢を積極的に選ぶと別のルートになるようになっている。
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それも、攻略後に気づくようなものであって、プレイ中に気づくのは難しいのではないか。
 
 
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終盤のストーリー展開
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終盤になるとかなり物語が飛躍し、よくある陰謀論で語られる影の支配者や人類全てを巻き込むような計画と言った大仰な要素が出てくる。しかしそれらについてはあまり詳細に描かれる事もなく、突飛な設定だけが飛び出したようにも思える。
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最終盤でラスボスに立ち向かっていく錬丸が「愛」を叫ぶシーンも「熱い」「盛り上がる」「薄い」「説得力が無い」などと好みが分かれる。
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これらは勢いはあるのだが、作中の描写に説得力が持たせられているかは微妙な所なので、勢いで押し切れる人とそうでない人で評価が変わる。
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また、事件そのものには決着は付くが、結末はよくある「俺達の戦いはこれからだ」的なエンド。一連の騒動については収束している為、『Remember11』のような露骨な消化不良感は無いものの、続きとなる作品も出ておらず、後味スッキリとは言い難い。
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クライマックス~エンディングで「錬丸には特殊な力があるのでは?」という思わせぶりな事が語られるが、それに関しての答えは出ない。続編があったら語るつもりだったのだろうか。
 
 
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メインヒロインのミュウが電波ワードを用いる
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打越作品では『メモリーズオフ』時代からよくある要素だが、今回は「ありんちょす」などかなりの頻度で出て来る上に真面目な場面でも使用される。これを受け入れられるかどうかでヒロインの印象が大分変わる。
 
問題点
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矛盾だらけのSF考証
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怒涛のストーリーと謎解きのカタルシスは確かなのだが、肝心のSF考証についてはあまりに矛盾が目立つ。infinityシリーズ同様、トンデモ理論の超科学が登場するのだが、過去作に比べて無理があり過ぎる。
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ネタバレになってしまうので詳しくは語れないのだが、特に指摘されるのが作中の超能力「ψ」の原理。∫ルートで明かされるものの、それまでに描かれたψはそれでは説明がつかないものばかりなのである。
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その代表格が「ヒロインが小学時代にψでトラックを空中に出現させて体育館に落とした」というエピソード。これを作中の理論で説明しようとするとヒロインは人外の超人という事になってしまう。
 
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他にも無理のある展開、整合性の取れていない展開が相当数散見される。infinityでも無かった訳ではないが、本作は激増している。時折指摘される「展開を優先して整合性を気にしない」という打越氏の悪癖が最も現れてしまった作品とも言える。
 
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登場人物もかなり癖が強い
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主人公やヒロインを始め、殆どの登場人物が癖のある人物として描かれている。真意を読み取りづらいキャラ、行動が理解しかねるキャラ、好感の持ち辛いキャラが多く、『infinity』と比べても感情移入し難い。
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それでいてストーリーが進んでも印象が良くならないキャラ、却って悪くなるキャラもちらほら見られ、『infinity』のキャラ達のような親しみは湧き辛い。
 
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グラフィック面
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本作のキャラクターデザインは2名居り、錬丸視点では『Ever17』に続いて起用された滝川悠、鳴海視点ではbomiがそれぞれのキャラデザインを担当している。
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結果、同じキャラでも視点によって印象が変わる演出にはなっているのだが、デザインのバラつきが否めないのも確か。特に鳴海視点のチサトは顎が太く、顔ものっぺりしているので違和感が強い。
 
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一枚絵もあまり作画が良いとは言えないものが幾つか。
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一枚絵は外注なのだが、発売延期の際に滝川氏が「自分なりに考えて納得しかねるところ」の修正作業を手伝ったと語っている。つまり外注先はそれ相応の技能だった事が窺える。
 
 
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TIPS(用語集)の廃止
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『Remember11』にあったTIPSが廃止され、作中の用語について整理するのが難しくなった。
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元々『Ever17』で説明部分が長いという指摘から導入された機能だっただけに、また長い説明が復活。更に今作は専門的な解説や雑学の蘊蓄が非常に多い為、理解を妨げる。
 
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既読スキップについて
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オプション設定にてスキップ機能に「すべて」と「既読のみ」を選んで設定できるのだが、「既読のみ」を選んでも、テキストに変更はないがCGが変わっている箇所も容赦なくスキップされる。
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具体的には、プロローグの屋上でのやり取りにて、∫ルート解禁後にCG演出が変わる演出があるのだが、テキスト自体には変化がないため既読スキップが適用される。何も知らずに「どうせここは同じだろう」とスキップすると重要なサプライズを見逃してしまう。
 
 
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ルートの少なさ
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1ルートの長さは作品によってまちまちとは言え、4ルート+最終ルートの『Never7』や『Ever17』に対して本作は2ルート+最終ルートと少ない。
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それなら『Remember11』より多そうだが、あちらはバッドエンディングが多く、両方のルートを相互にプレイしてエンディングを探す楽しみがあった。本作はエンディングが少なく、そういった要素も無い。更に一つのルートもそこまで長くは無い為、infinityシリーズに比べると総プレイ時間が短めとなってしまっている。
 
総評
プロット自体はセカイ系と呼ばれる、ヒロインが世界の危機に直結していて、でもそれを守る主人公男子はごく普通の少年というSF群の一つである。
また、登場人物らのトラウマとその癒やしというテーマも、いわゆる「ポスト・エヴァンゲリオン」と呼ばれる作品群の特徴である。本作はそういった作品群の王道を行くものである。
ストーリーは序盤から何を信じて良いのかが全くわからないという展開の連続であり、情報が増えても謎が深まるばかりで、「∫ルート」解禁後は更にそれまで信じていたことすら間違いだった事が判る。
謎が謎を呼ぶミステリー、種明かしによるカタルシスと、infinityの特徴は確かに受け継いでいる。
ギャルゲー要素を廃したのは『Remember11』も同じだが、本作はinfinity特有の閉鎖空間からの脱出という展開も取り払い、より多くの人が手に取りやすい舞台設定を用意した事で、ギャルゲーや脱出ものが苦手な人々にも間口が広がったのではないか。
しかし物語としての整合性、辻褄を求めると多くの問題が噴出する。
簡潔に表現するなら『Ever17』が「整合性が取れていて明快」と、『Remember11』が「整合性は取れているが明快ではない」とすると、『12RIVEN』は「明快だが整合性は取れていない」となる。
フィクションなのだから現実にはあり得ない設定、世界観を構築するのは一向に構わないのだが、作中で定めた設定で説明が付かないとなると話は別である。
その為、本作は「物語としての完成度を求める人」と「整合性を気にせず、楽しめるエンターテイメント性を求める人」で大きく評価が分かれる。
登場人物の思考や行動も癖がある上にそこにも理解しがたい点や矛盾点を孕んでいる為、感情移入は従来よりし辛く、
設定面の矛盾点に目を瞑ったとしても『Ever17』ほどの満足感が得られるかは微妙な所である。
『Remember11』とは違う意味で人を選ぶ作品と言った所だろうか。
余談
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Windowsにて本作が『infinity』シリーズ3部作とセットになった『Infinity Plus』というものが販売されており、シリーズの線引なども曖昧となっている。
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元々過去の『infinity』シリーズ同様にKIDで開発されていたが、開発中の2006年末に破産。版権がサイバーフロントに移り、開発もそちらで継続された。
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その為、打越氏を始めとしてスタッフはinfinityシリーズに関わった人物が多い。後に科学アドベンチャーシリーズを手掛ける林直孝も『Remember11』に続いてシナリオに関わっている。
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ただし、『infinity』の監督を務めた中澤工は関わっていない。
 
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プロデューサーをinfinity同様に市川和弘(元KID, 本作発売当時は5bp.所属)が務めている事で、氏の個人ブランド「SDR Project」に含まれる(同様の作品に後の『DUNAMIS15』がある)。
 
その後の展開
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本作以後、『integral』の第2弾が発売されることは無く、打越氏は新たなシリーズ『極限脱出シリーズ』に着手。
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その後も『パンチライン』や『AI: ソムニウム ファイル』と言った、ただテキストを読むだけではないゲーム性を盛り込んだADVを生み出していくが、『integral』に関しては一切触れなくなった。
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本作監督の若林健は後に『integral』ではなく『infinity』の新作として『code_18』を手掛けたが、それがどのような結果となったかは当該記事を参照されたし。
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さらに、サイバーフロント自体が2013年に解散。『infinity』シリーズの版権は5pb.(MAGES.)に移り、PCダウンロード版の販売が開始されたが、本作と『code_18』については配信されておらず不明である。
 
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打越氏の元同僚で、共に『infinity』シリーズを生み出した中澤氏が以前手掛けた『I/O』とは「月食がキーワード(本作は日食がキーワード)」「クリミナルという組織が登場する(本作に登場するのはΨクリミナル)」など、どことなく通じる要素があるが、本作が意識したのかは不明。
最終更新:2023年04月26日 15:55