竹取物語

登録日:2009/05/26 Tue 18:33:30
更新日:2024/04/03 Wed 22:49:42
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源氏物語曰く、「物語のいできはじめの親」
日本最古の物語にして、日本で最初の仮名文字本。
書かれた年代や作者等一切不明。

その完成度の高さから、現在に至るまで殆ど改訂版の出回らなかった珍しい本でもある。



物語の流れ


その昔、讃岐のみやつこ(通称《竹取翁(オールドバンブーハーヴェスター)》)が居た。
野竹を使って様々な物を造る事を生業とする彼は、今日も山中で竹を採る最中、輝く一本の竹を発見。
不思議に思って伐採してみると、中に可愛らしい女児が……。

「おお!! 快なり!!」と女児を抱き上げ、翁は家路に付き、『かぐや』と名付けて妻と可愛がる。

金が詰まった竹を見つけて裕福になった夫妻の元でかぐやはすくすく育ち、わずか数ヶ月で巷で評判の美少女となった。
その美貌を一目見ようと、を問わずして集まる男たち。
それを見かねた翁は結婚しろと言うも、当のかぐやは唄を詠んだり、ゴロゴロしたりと悠々自適で断固拒否。

次第に翁の家に通う男も減って、最後に5人の男が残った。
この翁のしつこさに耐えかねて5人それぞれに条件を提示し、条件をクリアし一番先に持って来た人と結婚すると発表。 
+ その条件詳細
  • 御仏の石鉢
釈迦が使った天竺(インド)に有るとか無いとかいう石鉢。
磨くと超光る。これがなかったらまだましだったのに。

  • 蓬莱の玉の枝
日本海の何処かに在るとされる『蓬莱山』に生えている根は白銀、茎は黄金で、真珠の実が成る枝。
浦島太郎の原型作品にも蓬莱は登場しているんだとか。まぁ蓬莱にしろ竜宮城にしろ桃源郷であることは変わりない。

  • 火鼠の皮衣
火中に生息しているとされる伝説の生物「火鼠」の皮を使って作られた衣。にくべても燃えない。
マルコ・ポーロの東方見聞録に登場する「サラマンダーの皮」、鉄砕牙で有名なあの犬っころの服が有名だが、実際は平賀源内が山で拾い「火浣布」として幕府に献上している国産の石綿(アスベスト)だろう。

  • 龍の首の玉
ドラゴンが口にくわえている五色に光輝く玉。
7個集めても願いを叶える力はないと思われる。

  • 燕の子安貝
一応国内で手には入る、巷で噂な安産の御守り『子安貝』を燕が産んだもの。因みに某子安とは関係ない。


  • 石作皇子(いしづくり の みこ)  →御仏の石鉢
  • 車持皇子(くらもち の みこ)  →蓬莱の玉の枝
  • 阿倍御主人(あべ の みうし) →火鼠の衣
  • 大伴御行(おおとも の みゆき)  →龍の首の玉
  • 石上麻呂(いそのかみ の まろ)  →燕の子安貝

と決定し、それぞれが成婚に向けて動き出す。

+ そんなかぐやの無茶振りの果てに
  • 石作皇子
かぐやに天竺行きを告げると近場(大和国=奈良)の適当な石鉢を見つける。古めかしい石鉢だし大丈夫だろうと踏んで下山。
かぐやに『御仏の石鉢』と偽って差し出すも、「言ってなかったけどこれ磨くと光るんだよね」とその場で磨かれ、光らなかったため音速でバレる。


  • 車持皇子
「蓬莱山へ行ってきます」と告げて山中に篭もり、有り余る財力に物を言わせ、腕利きの職人等6人と共に3年掛かりで自作
ボロボロの服に着替えて下山し、長ったらしい嘘武勇伝を喋りつつ献上。全員完全に騙されて、翁は寝床を準備し始める始末。
刹那、その場に躍り出る6つの影!!
彼らは口々に言う、「給料払え」と……*1
察したかぐやは皇子に枝を返すと、6人に対し大量の褒美を与え、翁は準備した寝床で一人狸寝入り。
皇子は帰る道々6人をシバきつつ、褒美を没収しましたとさ。
一応モトを取ってるのを考えると他と比べマシな結果か?


  • 阿倍御主人
大陸に生息しているとされる火鼠狩にはわざわざ行けない。唐の行商人を集めると、どうやら『火鼠の衣』を売っている奴がいると聞く。
大枚叩いて買い付け、早速かぐやの家に持って行く。かぐやは「火鼠の皮って燃えないらしいわね」と着火
途端に凄い勢いで燃え上がり泣く泣く家路に……。


  • 大伴御行
大見得切ってとりあえずに出てみるも、往けども往けども波ばかり。部下の手前、ただ突っ立っている訳にも行かず、海に向かって、
龍は俺に恐れをなして出てこれぬと見える、仕方ないから出直すか
と叫んだところ、忽ち雷鳴轟き強風が波を逆立てる。流石の大伴御行も肝を冷やし、
「ナマ言ってすみませんでした。もう二度とアホな事言いませんから
とバッタのように這いつくばって謝りまくり何とか生きて帰るも、龍の祟りか、両目がスモモのように腫れ上がるという二度と人前に出れない顔に。日本最古のインスマス面。


  • 石上麻呂
倉に燕の巣が出来たとの報を受け、「我が世の春が来たぁぁぁ!!」と喜び勇んで見に行き、燕の巣に手を突っ込んでソレを握った。
う〜ん、かぐわしいかおり。って!燕のふんじゃないですかぁ!」
ゲィイィィィィィン!! っとなった石上麻呂はびっくりした反動でハシゴから落下。そのままを強く打って死亡
オ・ノーレ! 死因がケツ強打。なんともショボ……ゲフンゲフンケツ末である。因みに「甲斐()なし」という言葉はこのエピソードが由来である。
かぐや姫が唯一その結末に悪く思った求婚者とはいえ、しかしまあ、まさか無茶ぶりで死ぬとは思わんだろう。実際、他の四人は死んでないし、ダーウィン賞じゃないんだから。




そんなこんなで求婚者を全て退けたニー……ゲフンゲフン、かぐや姫であった。


「是非会ってみたい」と帝の使いがやってくるが、「面倒くさい」と相変わらず引き篭もる。

そんなやりとりを何度か繰り返したある夜、帝が乱入*2

対するかぐやは謎の力で姿を消したり出したりして、自分の非人間性をアピール。

「とりあえず友達から」とひとまず帰ってもらい、以後手紙や和歌を交換するような仲になった。
5人の求婚者涙目
*3

それから3年。

かぐやはしばしばを眺めるようになり、8月に入ると涙まで流し出す。

心配する翁に、かぐやは「自分は月の人」、更に「十五夜に月から迎えが来る」とまさかのカミングアウト。
話を聞いた帝は「見送るから」と、見送り精鋭部隊を編成。
あわよくば………と考えていたが、いざ十五夜になり月から降りてくる迎えを目の当たりにすると全員戦意を喪失。中には勇ましい者が矢を射かけるがまるで命中しなかった。
かぐやは記念品として帝に、


の三点セットを送る。
しかし「彼女の居ない世で長く生きる意味など無い」と三点セットを月に一番近い山頂で燃やさせた。

その霊薬の煙に包まれた山頂は、「ふしのやま」と称えられている。




余談

  • かぐやのモデル
古事記曰く、垂仁天皇の妃、迦具夜比売命(かぐやひめのみこと)の親は大筒木垂根王(おおつつきたりねのみこ)という。よって「つき」の人が「筒状の木」から生まれたので、かぐやは迦具夜比売命だという説がある。

  • 貴族のモデル
作中登場する5人の貴族にもそれぞれモデルが存在し、少なくとも、皇子ではない3人には同名の貴族が実在。石作と車持の皇子に関してもモデルはいる。*4

  • 考察
実のところかぐや姫が五人に貴公子に対して要求した無理難題は実際には当時の貴族の女性が男性を振る時の定番の断り文句なのである。
ようは五人の貴公子は無理難題を言われた時点で「かぐや姫は自分と結婚するつもりはないのだな」と察しないといけないのである。
しかしこの五人は言葉通りに受け取り無理難題をこなそうとして自滅してしまう。
これは「貴族(政治家)たるもの言葉の裏を理解できなければ破滅するぞ」という教訓であると考えられている。
ちなみにそれぞれの無理難題の裏の意味とは次の通り。
  • 御仏の石鉢
石鉢とは修行僧が修行中に托鉢や食事に使う粗末な食器のこと。これは修行僧の禁欲の象徴である。
すなわちこれを持ってこいとは「貴方が好色であることは知っています。お寺で修行でもしてお釈迦様並みにストイックになってから出直してください」くらいのニュアンスである。

  • 蓬莱の玉の枝
蓬莱は高貴さ、玉とは妻子の隠喩。枝とは木(一族)の一部、すなわち家庭を意味する貴族言葉。これを持ってこいとは「貴方には立派な妻子がすでにいますよね。他所の女(かぐや姫)にうつつを抜かさず自分の家庭を大事にしてください」くらいの意味である。

  • 火鼠の皮衣
火は火葬を意味し、誰かが亡くなったことを暗示する。鼠(ねずみ)とは寝ず身のことであり、夫が来るのを眠らずに待つ女性、すなわち既婚女性を意味する。皮衣とは乾かない衣、つまり濡れた衣服を意味する。これらを合わせると「妻を亡くした悲しみの涙で濡れた衣服→奥さんを亡くした直後」という意味となる。
これを持ってこいとは「貴方はつい最近奥さんを亡くしたばかりではないですか。それなのにすぐに次の女に目移りするのは薄情ではないですか」ということである。

  • 龍の首の玉
龍とは国家の最高位の存在、つまり天皇を意味し、首はその特に重要な存在、玉は妻子。すなわち天皇の正室のことである。これを持ってこいとは「天皇の正室を連れてこい」ということだがもちろんそのままの意味ではない。天皇の正室と会えるくらい天皇の信頼を得ろ、ということ。
ようは「貴方は最近マジメに仕事をしてなくて天皇から睨まれているようですね。天皇に信頼されるくらいマジメに仕事をしてから私を口説いてください」ということである。

  • 燕の子安貝
燕はつがいで協力して卵を温めて子育てをすることから子煩悩な夫婦の象徴。子安貝は安産のお守り。すなわち夫婦の子供への愛情ということである。
子供への愛情を持ってこい、とは「あなたには小さいお子さんがいますよね。私を口説いてる暇があったら奥さんと協力して子育てに励みなさい」ということである。


文体は高等教育を受けた人でないと書けないものなので、上記の貴族達のライバル貴族が書いたと思われる。つまり、

「俺の考えた美少女が憎いアイツをフルボッコwww」

諸説は源順、源融、遍昭、紀貫之、紀長谷雄、菅原道真など。
間違っても「ただの美少女引きニート物語じゃん、綺麗に纏めたけど!」等と言ってはいけない。

かぐや姫が地球に来た理由は所業から考えるに「結婚詐欺」とか、「不倫」とかの「月でなんかやらかしたことによる流刑」が意外と有名。

上記の霊薬のエピソードから、この時代の富士山は噴火していたとする学者さんも居る。ちなみに都から近いって距離感ガバな大臣はほざいてたけどこの当時の都は奈良*5富士山の山梨・静岡論争ではこの距離ガバ大臣が「駿河国にあるらしいよ!」というので、富士山は駿河国とする主張もあるらしい。

  • 類似する物語
平安末期の説話集「今昔物語集」にも収録されているが、具体的には、かぐや姫が空に鳴る雷、優曇華と云ふ花、不打ぬに鳴る鼓を持ってくるように命じているなど微妙に内容が違っている。勿論、誰も成功しなかった。

求婚者に姫が課題を課す『謎かけ姫伝説』、天女が天に帰れなくなり、結婚するが羽衣を取り戻して天にかえってしまう『羽衣伝説』、東南アジアに分布する『竹生神話』や『卵生神話』の亜種、輝きから月上と名付けられた美女が殺到する求婚者達に仏の教えを説いて天人を召喚し欲の空しさを悟らせ、成仏が約束された『月上女経』、さらに『万葉集』に神仙との遭遇を詠んだ歌を残している竹取の翁、夫を捨て不老不死の薬を持って月へ逃げた『嫦娥伝説』

………などなどの影響が見られ一種の古代クロスオーバー作品なのかもしれない。

これらの元ネタのうち『嫦娥伝説』における不老不死の薬を一人で服用すれば神になれるもので、『羽衣伝説』で天に帰るときに何かを残していく場合は「それを使って貴方も昇ってきなさい」という意味を頭の片隅に置いておくとまた違う余韻が残るかもしれない。

ただしチベットの物語「斑竹姑娘」に関しては、日本の竹取物語を採集者が翻案してしれっと混ぜておいたという説が現在では有力視されている。
繁原央「日中説話の比較研究」によると、斑竹姑娘の話について現地で尋ねまわったところ、「すでにその本を読んだ人以外は知らなかった」としている。


現代における受容


東宝が1988年に映画化しているが、怪獣は出るわUFOは出るわとまるでゴジラである。

2013年にスタジオジブリが、原作に忠実な部分もそこそこある高畑勲監督の「かぐや姫の物語」としてアニメ映画化している。

東方Projectにはかぐや姫本人とされる蓬莱山 輝夜というキャラクターが登場する。上記の流刑の件は「禁忌とされた不死の薬を飲んだから」とされており、輝夜の不死能力の裏付けにもなっている。
また、彼女の初登場作である永夜紗に登場する藤原 妹紅によれば「父はかつて輝夜に恥をかかされた」と語っており、求婚者の1人が藤原不比等(玉の枝の人)説を採用している模様。
さらに同シリーズに登場する稗田 阿求のモチーフである稗田阿礼は、藤原不比等と同一人物とする説も存在し、そこから発展させて二次創作では家族愛的な意味で阿求は妹紅を愛しているとか、恋愛的な意味で輝夜を愛しているというえらく経緯がまわりくどいカップリングを組まれることもある。なお稗田阿礼=藤原不比等説に根拠は全くない。

ドラえもんの世界では実話だったようで、ドラえもん のび太の月面探査記では現在のかぐや姫本人が出ている。

現在稼働中のSEGAのゲーム「Wonderland Wars」では、7月の大型アップデートより「かぐや」として大聖と共に参戦している他、ソウルとして「さかきの造」*6が登場している。
漫画『かぐや様は告らせたい〜天才たちの恋愛頭脳戦〜』では主要登場人物のモチーフとなっており、終盤では「かぐや姫が残していったアイテムは、再会を願うメッセージだったのではないか」という前述した解釈が展開の鍵となっている。

かぐや姫を匿おうとする翁に月からの迎えが「かぐや姫は月で犯した罪に対する罰として地上に落とされ、今刑期を終えて帰るのだ」と明かしているが、何の罪なのかは全く触れられないため、メディアミックス作品などでは様々な解釈がなされることも多い。
前述の通りイメージソースの一つが仏教の経典っぽいので、六道輪廻的な意味であろうか。

現在はインターネットが発達しているため、他国の文化を明瞭な画像付きで受容できる。暇と知識を持て余した人ウィキペディアンが洋の東西を問わず、情報の充実のために日夜項目を書いている。
しかしそれができなかったころというのは他国の文化は、ある程度の想像に任せるしかなかった。さらに当時の国民の一般的な知識レベルに中身をある程度変えることが求められた。
そのためインターネットが発達する前に書かれた海外翻訳版の挿絵は非常に面白く、「鎧武者が江戸時代の浮世絵みたいな女性に求婚する」という日本人には突っ込みどころ満載の挿絵があったりもした。何もかもが違う
ただしこれ自体はたとえばタートルズの武器がどう見ても忍者に見えないように、別に当時としてはありふれたものである。日本人だって、たとえば宮崎駿の「天空の城ラピュタ」も文化がだいぶごちゃ混ぜで海外圏にはほんとに怪訝な顔をされたらしい。
1996年には「和英併記 かぐやひめ - The Moon Princess」という真面目な本で
かぐや姫の罪とは一族が月で内戦を起こしたことへの連座で、勝てば官軍というわけで許された」となっていたらしく、
英語Wikipediaに2005年から2022年までその設定が一般的なものとして載ってしまったとか……。

かぐや「月は出ているか?



追記・修正は月を眺めつつお願いします。

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最終更新:2024年04月03日 22:49

*1 情報の漏洩を防ぐために3年間もほぼ監禁状態だったため。踏み倒されてはたまらないため、かぐや姫の方へ礼金をせがみに行った。

*2 垣の間から女性を見て、いい女だな!と思ったら歌のやり取りをして仲良くなってから会いに行く。それ自体は当時としては割と普通の恋愛である(妻問婚)。これは「垣間見える」などの語源にもなっている。

*3 これはさすがにやんごとなさすぎる身分の人だったため、思いっきり批判するわけにもいかなかったのだろうとされている。そもそも昭和天皇の批判だって戦前はタブーである。当時のことなら推して知るべし。

*4 石作は石作氏と親戚の多治比嶋とする説、車持は母親が車持氏の藤原不比等とする説あり。特に車持のシーンは本作屈指の見せ場であり、かぐや姫が絶体絶命にまで追い込まれてからコケにされるという力の入れようもあり、当時文字通り右に出る者のいなかった不比等であるという説に説得力を持たせている。

*5 奈良から富士山までは直線距離で300キロ越え

*6 SSQによりグランマ同様かなり筋肉モリモリ