衣
階級を問わず共通の慣習として、女性はスカート、男性はズボンが基本となる。
紡糸、機織り、縫製、刺繍など、仕立ては全て手作業で行われる。
特に刺繍は平民女性の美人の条件となり、貴族女性の嗜みとされる。
古着屋も存在するが、新しい衣装を仕立てる場合は個別に採寸するオーダーメイド方式となる。
服の清潔さをはじめとし、継ぎ接ぎも含めた布の質、布の量、袖の長さやボタンの位置などのデザインに、身分や立場が顕著に表れる。
貧民は、晴れ着以外は、生地の厚さと丈夫さが最優先で、週一程度の洗濯と、おさがり、継ぎ接ぎでしのぐ。
布の量の問題から、女の子の服はワンピースに限定される。
富豪になると、布の質があがることは勿論、清潔さを重視した高頻度の着替え、布の多用したデザイン性重視へと移る。
貴族用の衣装は、基本的には側仕えが着せることを前提に作られており、一人で脱ぎ着ができない。
逆に、一人で脱ぎ着ができるようボタンが前についた衣装は、平民用の服と認識される。
自分で動かなくても、
側仕えが動いてくれるので、服の汚れを気にしなくても良い立場だと示す場合は、邪魔なくらいに袖が長くなる。
但し、貴族であっても、袖が長いのは自分が働く必要がない時に限定され、騎士や文官などの仕事服や神官の普段着は長くない。
儀式に臨む
青色神官や、給仕の存在が前提となる食事時間の貴族は、袖の長い服を着る。
その為、汚さないように食べる練習が必須で、
洗礼式を終え、見苦しくなく食べられるようになるまで親と食事ができない。
- デザイン・流行
- 同一色、相似色、補色、中差色、彩度、明度などのカラーコーディネートの概念が存在し、貴色を纏うことが決まっている儀式以外では、季節や髪や目の色等にあわせて、色の組み合わせを変える。
- デザインを重視する一方で、富豪や貴族は流行を重視する。
- 領主一族や上級貴族は流行を発信する側である必要があり、下位の後追いは身分的に相応しくないと考えられている。
- その一方で、エーレンフェストでは下位の貴族は上位の貴族の流行を後追いしなくてはいけないという暗黙の前提があった。
- その前提の結果、体格に全く合わない服を着るという個人的な問題や、均一な染の布を貴ぶ大領地の流行が持ち込まれたことで、それまで存在した蝋結染めや絞り染めが廃れるという大きな問題なども生じていた。
- ローゼマインが領主の養女となった以降は、ローゼマインの薫陶の結果、各々に似合った服を身にまとったり、技術が流行で廃れないよう記録に残したりするように変化している。
- 地域差
- 国境門が開かなくなって十五年以上が経過している為、アーレンスバッハ以外では薄れているものの、国境門がある領地では、衣装等に、独自の異国風文化が存在する。
- その一例として、アーレンスバッハの女性は、公式の場において必ずヴェールを身に付けるというものが挙げられる。
- 同様に、シャツやズボンの上から、マントではなく、薄くて大きな一枚布を体に巻き付けるようにまとうのが、アーレンスバッハ風の男性の装いとされている。
年齢による変化
女性は、年齢に応じてスカート丈や髪の結い方を変える。
10歳までは膝まで、10~15歳は脛位の長さと決まっており、15歳で成人したら足首も見えない長さが推奨される。
更に髪を完全に結い上げるのは成人女性の証とされ、成人前の女子は結い上げず、成人後は基本的に寝台の上以外では髪を解かない。
髪型の基準は肩位置との関係であり、未成年の女性は肩より長くし、成人女性は肩より上げる。
実際には、平民の労働階級の成人女性のスカート丈は足首あたりまでであり、女性の貴族が
騎獣に乗ったり採集に赴いたりする場合は、見た目がスカート風のキュロット(
騎獣服)を着用する。
男性は、平民も貴族も10歳までは半ズボンもはくが、それ以降は大人と同じになる。
ただ、男性の服装などの変化は、女性ほど明確ではない。
晴れ着
洗礼式、成人式、星結びの儀式の衣装で、基本的には階級をまたいで共通となっている。
洗礼式は白の服を、成人式や星結びの儀式では生まれた
季節の貴色の服を身につける。
例外的に、農村では秋の収穫祭で一括して洗礼式・成人式・星結びの儀式を行うため、洗礼は白の服に秋の貴色の刺繍だが、成人や星結びは秋の貴色の服をまとう。
下着・靴下
下町の人間にとって靴下は防寒具である。
その為、夏は履かないし、冬は毛糸で編んだ巾着のような袋状のものに足を突っ込んで、紐を縛る。
この袋は足首までなので、その上に毛糸で編んだレッグウォーマーを膝の辺りまでつける。
見栄えではなく防寒重視なので、ズボンを数枚重ねて履き、その上に装着する。
富豪・神殿関係者・貴族階級では、素足を見せるのは恥ずかしいことだとされているので、男も女も必ず靴下を着用する。
これは身嗜みとか礼儀のようなもので、靴下を履いていないのはとてもみっともないことだとされている。
薄い布製の、太股の半ばまであるような長い靴下を履く。
ゴムが無い為、靴下には長い紐がついており、靴下をはく前に腰にまいた布の帯に紐を結びつける。
靴下を着用した後、膝より長くて、薄くて余裕がたっぷりあるドロワーズを履く。
スカートが捲れた際にドロワーズしか見えないように、ドロワーズの長さは、スカート丈、ひいては年齢に応じて変わる。
お腹の辺りに紐が通されていて、結ぶようになっている。10代未満の子供用は膝の辺りにも紐があったが、それ以降も紐なのか、年齢に応じて変わるのかは不明。
靴下とドロワーズを身につけた後に、上のシャツを着る。
また、ボディスが存在し、身体の線を綺麗に見せる目的で、(裕福な)平民の女性は10歳から身につけるようになる。
その一方で、
魔石による簡易鎧を衣装の下につける習慣があることから、貴族女性は、身体を締め付ける目的の補正衣服を身につける必要がない。
靴
下町の靴は、動きやすさを重視した皮製のショートブーツと、フランスのSabotのような木靴の二種類が存在する。
貧乏人は素足であることも珍しくない。
下(貧民)から上(富豪)にいくにつれて、素足、ぼろ布を巻くだけ、木靴、革靴となっていく。
貴族階級は、足元の防寒対策を靴で行う。
冬は裏が起毛した膝くらいまでの深靴(ロングブーツ)を中心に、夏は短靴(ショートブーツ)を中心に履き分ける。
靴の生地も、用途や見た目で使い分けられており、外出には硬めの馬皮製や柔らかめの豚皮製を、屋内では布製を使用する。
貴族院で、魔石を変形させて鎧の靴を作る練習をする為や、緊急時や
魔力の伝達を重視する場合に、魔石の靴を作って履くことができる。
また、貴族の使う魔石は魔力で温度調節が出来る。
装飾品
- マント
- 富豪や貴族階級は、正装の一部としてマントを着用する。宴などでは季節の貴色を使用する事もある。
- 貴族院等の公の場や、領地内にいる騎士団は、領地の色をまとうが、私的な場では特に色の制約はない。
- 王家の色(黒)をまとうと後ろ指をさされる為使用しないだけで、特に明文化された禁止事項はない。
- 貴族院に入学する子供は、ブローチと領地の色のマントを領主から与えられる。
- このマントは成人まで使える事を前提とした大きさで用意され、新品には刺繍は入っていない。
- 守りの魔法陣の刺繍が施されると、防具またはお守り代わりになるので、騎士も全身鎧の上から身に着ける。
- 貴族院の一年時は、もらったばかりなので刺繍がないことが多く、年を重ねるごとに増えていく。
- 男性は、母親がしてくれたり、姉の実験台になったりすれば刺繍があるが、女性は将来の練習として自分で刺繍をする。
- 母親や同母姉妹がいない貴族は、マントに刺繍がないことも珍しくないため、結婚前であれば、刺繍がないマントを見られても、刺繍をしてくれるものがいないのかと思われて終わり、特に不憫がられることもない。
- マントへの刺繍の詳細に関しては男女交際の項を参照。
- 帯・ベルト
- 貴族階級の者は、魔術具などを普段から使用するためベルトや帯を使用し、ベルト周りに引っかけるなどして携帯している。
- 各種薬品、魔石の入った金属の飾り、名捧げの石、各種魔術具などが腰周りに収納されている。
制服・専用服
- 見習い服
- 仕事着。基本的に洗礼式を終えた子供に親が新しいものを準備する。
- 商会の見習い服は商会ごとに違うため所属を表す制服のような意味合いもあり、小銀貨10枚弱で一式が揃う。
- 下働きのお仕着せ
- アーレンスバッハの城では揃いの制服として下働きにまで支給されている。
- 神殿の衣装(神官服、儀式服)
- 神殿では、灰色神官/巫女・見習いは灰色の衣、青色神官/巫女・見習いは青の衣、神殿長は白の衣をまとう。
- 神官/巫女服の袖はあまり長くなく、調合の際などにもそのまま着用できる。
- 普通の衣装の上から被って着る形であり、衣の下は各自で適当に変えられる。
- 灰色神官/巫女の服の色には宗教的な意味はなく、青色神官と明確に区別出来ること、汚れが目立ちにくいという理由で灰色である。
- 青色神官/巫女は、最高神への信仰とこれから常に成長し続けることを誓う立場であることから、成長を促し助ける火の神の貴色であり、最高神の司る高く亭亭たる大空の色である青をまとう。
- 青色神官/巫女の儀式服は、晴れ着に相当し、縁取りの刺繍や家の紋章の刺繍のある特別仕立てのものを用意する必要がある。
- 帯は白地で、見習いは銀糸、成人は金糸で聖典の祈り文句が刺繍された物を用い、季節の貴色の飾りを身につける。
- 神殿長は、メスティオノーラの書を賜った初代ツェントやツェント候補達がメスティオノーラと間違われてエーヴィリーベに襲われないように、エーヴィリーベの貴色である白をまとう。
- 神殿長の儀式服は、裾が足元まである長さの白の衣に金のタスキ、帯、季節の貴色の小物(飾り紐などの帯飾り、髪飾り、タスキを留めるブローチなど)となっている。
- ただし星結びの儀式では、黒と金の生地のタスキ、帯飾りなども黒と金となる。
- ローゼマインが仕立てた儀式服の帯は銀色で、エーレンフェストの領主の子を示す、神官長とお揃いの紋章が前身頃に入っている。
- 貴族院の衣装
- 貴族院では、黒を基調とした衣装に領地の色のマントと専用のブローチをまとうことが規定で決まっている。
- 全てを吸収する闇の神に敬意を示し、貴族院での教えを貪欲に吸収する姿勢を見せることから黒の衣装を、所属する領地を示した上で、領地別の寮の入室選別を行う目的でマントとブローチを身につける。
- びっしりと色鮮やかな刺繍をしている者や、袖のぴったりとした服の上からボレロのような感じで袖のひらひらした上着を着て、講義内容によって袖の長さを調節している者もいる。ただし、このボレロ着脱式は領主候補生は不可とされた。
- 貴族院の先生のマントの裏やスカーフは、出身領地の色になっている。
- 奉納舞の衣装
- 神殿の儀式服に似たデザインで、振袖のような長い袖となっている。
- 奉納舞の動きに合わせて翻るように透けるような薄い素材で作られ、腰から裾にかけていくつか切れ込みが入っている。
- 稽古時は銀色の帯、本番は成人を祝うので金色の帯となる。
- また、役柄に合わせた神々の貴色の薄い布を頭からかぶる。
- 調合服
- 調合する時は袖が邪魔にならない調合服に着替える。文官のお仕着せに少し似ている。
- あまり袖がひらひらしておらず、作業の邪魔になりそうなレースやひだの装飾は極力排することと決められている。
- 調合服にはマントを付けず、マントと同色のスカーフのような布をブローチで留めることになっている。
- 騎獣服
- 女性が騎乗型の騎獣を使う場合に着用する。裾がひらひらとしたスカートの外見をしているが、キュロットになっている。
- 騎士の衣装
- 騎士は、いつでも戦えるように、魔石で作る鎧の基本となるものを衣装の下に着込む。
- 防弾チョッキのような役目を果たし、荒れている領地では、突然の攻撃を防ぐために、文官や側仕えさえ身に付けておくのが常識になっている。
- その上で、護衛任務に付く際などは身軽な簡易鎧を身に着け、討伐や採集目的の遠征などの際は全身鎧を身に着ける。
- 執務服
- ひらひらした部分が少なくて格段に動きやすい貴族の仕事服。
- とは言え平民の衣装とは全然違うので、貴族である事は一目瞭然。
- 文官のお仕着せ
- それほど袖がひらひらとしていない。
- 側仕えのお仕着せ
- あまりひらひらとしていない。
食
お酒、
チーズ、
酢(
ワインビネガー)が存在し、貧民でも手に入れられることから、発酵技術は普及している。
ローゼマインのスープが広まるまで、平民・貴族問わず、スープは一度完全に茹でて茹で汁を捨てる調理法が定着していた。
小さいゴミや砂などが入っていることがあるというのも茹で汁を捨てていた理由の一つだが、平民の料理人内で、良い子が恵まれなくなるとか、子供が生まれなくなるとか言われていることが大きい。
貧民は非常に固い雑穀パン、富豪は小麦だけで作られている白パンという差異はあるが、天然酵母の発見はなされておらず、ローゼマインが天然酵母パンを導入するまで、パンは固いものというのが基本概念だった。
アーレンスバッハ経由で、
ランツェナーヴェより砂糖が輸入され始めているが、普及率は依然低く、レシピは確立されていない。
中央の砂糖菓子も見た目は素晴らしいが、味は完全に砂糖の塊となっている。
その為、ローゼマインが導入した
お菓子の数々は、富豪は勿論、貴族社会にも非常に高く受け入れられている。
食に関する特殊事例として、
アウブの命令によって騎士団が遠征する際は、転移陣で城から食事を送る慣習もある。
また、騎士団の遠征先では、作法も何もなく水を飲みながら携帯食料をかじるだけという簡易さとなる場合がある。
食事内容
平民の富裕層でも、食事の量が多くなるだけで、それ以外の平民層と料理自体には大差ない。
貴族の食事は腕の良い料理人が、平民が使わない食材や調味料と、貴族の家でしか作らないレシピを用いて調理する為、味も品数も完全に違う。
品数の違いを反映し、貴族社会では、コース料理によく似た順番で料理が出される。
飲み物が注がれて、前菜の次にスープで、メイン料理が続き、果物やデザート、食後のお茶へと続く。
更に料理の飾り切りや盛り付けも工夫がなされており、レベルが高い。
平民と貴族の差は大きいが、貴族院や
領主会議で毎年お茶会交流をしている影響か、
中央と各領地間での、料理の種類やレベルの差は比較的小さい。また、中央のお菓子は特に甘く砂糖をそのまま固めたようなものであり、ローゼマインもお茶を飲みながらその甘さに耐えていた。それが故にエーレンフェストの素朴なお菓子がとてもウケた理由でもある。お菓子がとてつもなく甘い分、お茶はちょっと苦め。
その一方で、
アーレンスバッハの料理は
ランツェナーヴェから入ってくる調味料や香辛料の影響で、酸味が強く、辛みの強い物が多い。
新しい料理や珍しい味は社交の会食において大きな役割を果たしているが、珍しいだけではなく、他領の者に受け入れられる味であることも重要となっている。
アーレンスバッハ特有の酸味や辛みの強い料理は、他領に受け入れられないことがある為、アーレンスバッハでは、アーレンスバッハの者ではなく他領からきた配偶者が社交の会食の料理において采配を振るう。
飲料
水分補給の際は、水は勿論、
ハーブティをはじめとした様々な
お茶や、
濃い茶色の何かや、果汁水(
コルデ水)なども飲まれている。また、パルゥなどの木の実の果汁をそのまま飲むこともある。
食事の意味合いが強いが、母乳の代用で
山羊の乳が、パン食補助で
牛乳やスープが飲食されている。
なお、ミルクはお茶に入れる形でも飲まれている。
お酒は平民から貴族まで愛飲している。
発泡酒(
べレア)、果実酒(
ダンケルフェルガー産
ヴィゼ他)、
蜂蜜酒、蒸留酒(
クラッセンブルクや、エーレンフェストの北方産)など種類も豊富に存在する。
なお、飲酒に年齢制限はない。
作法
平民と貴族では食事の作法も異なる。
食前の挨拶は、平民はいただきますと告げるだけだが、神殿や貴族階級は、両手を胸の前で交差して、食前の祈りを捧げる。
食べ方も、階級が高くなるほど、優雅な仕草が要求される。
貴族社会では、長い袖を汚さず食べられるようになるまで親とすら同席しないし、中級貴族と上級貴族ですら仕草や作法にレベル差が存在する。
貴族社会では、毒殺の危険回避を重視した習慣や礼儀が多い。
まず、食器やカトラリーは、招待された客が持参する上、壊したり、盗まれたりする危険がある食器は自分の従者が扱い、他のものには触らせない。
更に、客が持参した物はその場で客の手で開封されて、毒見のために客自身が食べて見せることが礼儀となっている。同様に、招待主がお茶に口をつけ、毒が入っていないことを示してから、客側もお茶に口を付ける。
また、食事中に給仕を受けることが当たり前である為、身分差や職分・階級差に応じて食事の時間がずれる。
身分の高い者から順に食事をとると共に、先に食事をする者から後に食事をする者達へと下げ渡す習慣がある。
その一方で、上位者が下位者の料理に興味を示した場合、自分の皿を差し出し、相手が下げ渡すのを待たないといけない。
食堂に求める清潔さも、貴族と(エーレンフェストの)平民では大きく異なる。
エーレンフェストの平民は、街の汚れ度合の影響を受けて、ごみのポイ捨てが当たり前となっていた。
その結果、カチカチの固いパンを皿代わりにして、いらなくなった食べ物は床に落として、犬に食べさせることで片付けとする文化を持っている。
更に、大量の料理を運ぶせいで、平民の給仕は、乱暴だろうが、零れようが気にしない。
その一方で、貴族は教育の行き届いた側仕えによって給仕されることが前提であり、更に衛生面の向上から、貴族の間ではテーブルクロスではなく、ナプキンを使うようになっている。
保存技術
神殿や貴族社会には
貯蔵用氷室(冷蔵庫)や、
時を止める魔術具が存在する為、そこで食材や料理を保管することは可能だが、魔力が必要になることから、平民も貴族も、秋に収穫したものを保存食に加工した上で、暗室に保管することが
冬支度の基本となっている。
魔力節約目的で使用は控えられているものの、他領へ嫁ぐ際に、懐かしくなった時に食べられるようにと、故郷の料理を時を止める魔術具に保管して持参したりすることもある。
保存食の一種として、騎士の遠征用に保存性と栄養価が追及された携帯食料が存在する。
粉末状にした雑穀や野菜などを酒と塩に漬け、水分を飛ばしてピンポン玉くらいの大きさに丸めて固めた茶色い塊で、余裕があれば沸かした湯でふやかして食べるが、余裕が無い時はそのままかじるだけで食事を済ませる為、保存性と味を多少犠牲にしているとしても薄めの塩味に調整してある。
住
住居
貧民街は隙間の多い木肌そのものが露出した木造建屋だが、富豪が住む建屋は色とりどりに塗装されている。
エーレンフェストの下町では2階程度までの
白の建物の上に、自前で木造の建物を建造している。
かなり高層で、7階建てが存在している。
水の入手が通りの井戸に限定されることもあり、下町では、1階は店舗で、その上の2階は大体店の持ち主の家族が住んでいる。3~6階が貸し出され、7階は店の住み込みの見習いや従業員の部屋になっていることが多い。通りに近く、井戸に近い階ほど家賃が高くなる。
基本的に最上階は屋根裏部屋であり、夏は暑くて、冬は寒い。雨漏りをすることも、鳥を飼っていることも珍しくない。
エーレンフェストの貴族街は下町側の門から遠いほど高級住宅地になる。
一軒一軒が公園のような規模を持つが、冬のみ貴族街で暮らすギーベ達の
冬の館の庭のサイズは、一年中貴族街で暮らす者の家では庭のサイズより小さい。
騎獣か馬車が基本なので、道を歩いている者はいない。
領主の城の敷地内には、三階建てや四階建ての建物と庭園、農園、果樹園、騎士団の訓練場が存在している。
点在する建物は、城の本館、離れ、騎士団の寮、庭師の住まいや森の管理人の住まいなどである。
城の入口は、仕事用と領主の家族やごくプライベートな客人用に分かれており、エーレンフェストでは仕事用が南、家族用が北となっている。
城や貴族院の寮や神殿は、性別によって使う階が分けられており、女の子は上の階を割り振られている(男性は2階、女性は3階)。
貴族の館でも、女主人の部屋は上の階に存在することから、貴族社会一般的な慣習である可能性が高い。
トイレ
八十年程前に、
ドレヴァンヒェルがネバネバの有効活用として下水道の作成や利用方法を
領地対抗戦で発表するまでは、周囲に汚物を捨てるのが常だった。
ドレヴァンヒェルの発表の後、領主会議で申請→権利を
金銭で買い取り→許可取得→魔術改造実施という流れで上位領地から順に、下水処理とトイレの改造が進んだ。
新式のトイレは深い穴が開いた落下式で、穴の底には、排泄物を分解する
ネバネバしたものがうごめいている。
アーレンスバッハからの嫁入り騒動の波紋で、
エントヴィッケルンによる下水施設の整備が行きわたらなかった結果、エーレンフェストにおけるトイレと下水の整備は、貴族社会と神殿の集合捨て場のみに限定され、下町では、貧民から富豪まで、汚物を窓から道へポイ捨てすることが当たり前の習慣として続いていた。
風呂
水場事情もあり、平民には風呂の習慣はないが、貴族社会では大理石の風呂が流行している。
外国から入ってきたもので、貴族の間で美容と健康に良いと貴族社会では評判になっている。
湯船につかる形式で、側仕えに手伝ってもらって入る。
水瓶と水差しを繋ぐ魔術具である
緑の魔石の存在が、貴族社会で普及した要因と考えられる。
領主一族、上級貴族の一部、騎士寮は、個人部屋に風呂があるが、貴族の邸宅では共同で使用することが多い。
城に住み込みの貴族でも、側仕えは共同の風呂となっている。
平民は一部例外を除き風呂を持っていないが、水浴びの習慣(冬はお湯浴び)はある。
商人は清潔さを重視する為、高頻度で水浴びをする。
工房も、指名されていない限り、お客に面接するものは、身体が清潔なものを優先する。
髪は水につけて汚れを落としているが、身体は、マイン達がしているように、水で濡らした布で体を拭いているのか、水を張った盥に完全につかっているのかは不明。
照明
窓や隙間からの外光、暖炉、蝋燭(キャンドル)、オイルランプ、
魔術具の明かりが、照明として用いられている。
下町や神殿では、魔術具は使わず蝋燭を使用しているが、城や上級貴族の館では、魔術具の明かりが使われることが多く、あまり蝋燭が使われることはない。
下町でも、貧富の差によって冬場に用いられるランプの数が異なり、貧民は一つしかない上に油を節約して、ぎりぎりまでランプを使用しない。
冬前の蝋燭の確保は、下町における冬支度の一つであり、店や富豪一家は
蝋工房から購入し、それ以外の大多数は自前で製作する。
貧民以外の下町の平民は、金属製のキャンドルの型を持っており、型に芯と溶かした蝋を入れ固まるまで放置することで製作している。
なかでも
職人は、職場にある型を借りることもできるが、型の数に限りがあることから
ダルアは借りれないことも多い。
自前の型を持たず、職場から借りることもできなかった家では、油に紐を付けて乾かす作業を繰り返すことで、手間暇をかけて製作している。
白の建物
領主一族が
貴族院で習う
創造の魔術で作られる白い建材の物。
領主の城、貴族街の住居、
神殿、ギーベ領の
夏の館を始め、
貴族院の施設や
境界門など、様々な物がこれにあたる。
貴族街や下町は白の石畳に覆われているが、農村は土がむき出しになっている。
魔力では傷が入らないが、魔力の維持が絶たれると崩壊する上、セキュリティの設定が製作者単位なので、守りの強さの異なる建屋を製作する場合は、領主以外の領主一族が担う必要がある。
領主一族の魔力で製作されることから、領主の財産の扱いとなる為、建物を攻撃するだけでも反逆罪と見なされる。
なお、領主が製作した場合の建造物の守りの強さは、親子喧嘩や夫婦喧嘩をしたものが入れなくなるのを避ける為に、魔力攻撃に特化している。
その為、物理攻撃で壊すことは可能。
日常生活
時
時間と暦は、平民から貴族まで広く共有されている。
長さの単位としては、鐘(一日内の時間の区切り)、日、週、月、季節、年が存在する。
概念としての年は存在するが、〇〇王歴X年というような年号は使用されていない。
言語
貴族院や領主会議で一同に会する機会をもつ影響か、
ユルゲンシュミット国内では言語が統一されている。
その一方で、貴族社会は
婉曲表現を用いる習慣がある為、言葉は通じているが意味が通じていない場面が発生する。
特に貴族と平民の間では、その差が顕著に存在する。
建国期から現代までの間に言い回しや、
文字が変遷している。
一人称は、平民内では多少の多様性が存在するが、貴族内では、男性が「私」、女性が「わたくし」で統一されている。
- 話し言葉
- 「丁寧な表現」・「普通の表現」・「くだけた表現」が存在し、生活階層や話す相手によって使い分けられている。
- 平民の間では訛りが存在し、領地によって差異が生まれている。
- 貴族の女性は、基本的には親しい者や下位の者に対しても丁寧な表現を使用し、敬称や態度で差異をつけている。
- 同じ主に仕える貴族の側近同士は、階級に関わらず呼び捨てで名を呼ぶ。
- 特に男性側近は、側近同士間での敬語の不使用も許される。
- 文字
- 必要性と教育費の問題から、門番(兵士階級)、平民富裕層、貴族や貴族の側仕えは読み書きができるが、それ以外の平民は文字が読めない。
- その一方で、市場で値段が木札表示されていることから、数字は読める。
- なお、基本文字は全部で35種類ある。
- 貴族でも古い書物を読める者は限定されている。
- 特に政変による粛清や中央への召し上げによって古い文字を読める者が急激に少なくなった。
挨拶
階級や場面に応じて様々な所作がある。
特に対人の挨拶は多岐に渡る。
兵士・騎士階級は、姿勢を正して右手の拳で二回左の胸を叩く。
平民同士で、丁寧に挨拶をする場合は、軽く膝を曲げて腰を少し落とす。
商人同士が春になって初めて会った場合は、胸の前で右手を拳にして、指を揃えた左手の手の平に付けながら、軽く目を伏せて
春を寿ぐ挨拶を告げる。
商人が貴族に、あるいは、下位の貴族が上位の貴族に挨拶する際には、左の膝を立てて跪き、軽く首を垂れた状態で
挨拶の言葉を告げる。
貴族同士で初めて会った場合は、上記の挨拶を行い、相手の許可を得た上で、指輪に魔力を込めて祝福の魔力を贈る。
貴族が最大の感謝の意を示す際には、相手の前に跪き、相手の手を取り、手の甲に自分の額を押し付けた状態で礼の言葉を述べる。
食前の挨拶は、平民はいただきますと告げるだけだが、神殿や貴族階級は、両手を胸の前で交差して、
食前の祈りを捧げる。
神事では儀式毎に様々な所作があるが、
神に祈りを捧げたり、
神に感謝を捧げたりする動作は、(神殿内または神殿関係者内では)儀式に関わりのない日常習慣と化している。
なお、ユルゲンシュミットでは、挨拶をする際に頭を下げたり腰を折ったりする習慣はない。
貨幣
身分階層や領地を問わない、ユルゲンシュミット国内で共通の貨幣制度が存在する。
貨幣単位はリオンだが、実際には7種類存在する硬貨の種類と枚数で金額を示す場合が多い。
預金の概念と機構が存在し、
ギルドカードのような個人認証機能と決済機能を持つカードも存在する。
少額の場合や、
商業ギルドに所属していない平民の場合は現金(硬貨)で取引が行われている。
その一方で、金額が大きい場合はカード決済が多い。
家族
基本的には核家族で生活しているが、平民、貴族、領主一族で家族のあり方や距離間が異なる。
領主一族や王族以外は、養子にでる、住み込みで仕事を始める、結婚する等までは、親と共に暮らす。
領主一族や王族は、洗礼式前は、同じく洗礼式前の同母兄弟姉妹と同室で暮らしているが、洗礼式をもって親と別の館(北の離れ)に、それぞれの部屋を与えられて生活するようになる。
但し、洗礼式前においても、親と接する時間は、朝食後の短時間や夕食後の挨拶と休日にのみと非常に短い。
一般的な貴族は、第一夫人とその子は、父親と同じ館で生活するが、第二夫人以降は敷地内に別の館を与えられ、夫人とその子供で生活する。
子供の育児権や、魔力的な繋がりが、母親に付属していることもあり、同じ敷地内に暮らしている父を同じくする兄弟姉妹であっても、異母兄弟姉妹は別の家庭に近い扱いをされる。
貴族の親子は洗礼式で決まることから、洗礼式で親子と公表すれば、以降は血がつながらなくても実の親子の扱いをされる。
生さぬ仲なので、洗礼上の親兄弟とうまく行かない場合が多いが、母親次第では仲の良い関係となることもある。
貴族の階級が魔力で決まることと、貴族として生活するには
魔力を溜めこむ魔術具が必要で、かつ、該当魔術具が素材的にも製作的にも新規入手が難しいことから、貴族の家で生まれた子供は、生家で貴族になれるとは限らない。
魔力量が家格に合わない場合は、生家の家格や財政に応じて、格下の家に養子に出したり、
神殿に預けたり、平民に落とし家の下働きにしたりする。
その為、出来ない者は切り捨てて一族を盛り立てようとする、個より血族重視の基盤がある。
家族の距離感の差は、感情表現にも表れている。
平民は基本的に家族間で感情を隠すことはなく、感情が表情に現れる。
一方貴族は、魔力制御的にも身分社会的にも、感情を抑えることが重要であることから、幼い頃から感情制御の訓練がされ、
隠し部屋の中以外では、家族に対しても感情を見せるべきではないとされる。
両親を失い、
孤児となった場合は、親族が面倒を見たり、見習い仕事先が面倒を見たり、
孤児院に入ったりと様々であるが、自然環境が厳しい影響もあり路頭で浮浪児になる例は見受けられない。
仕事・教育
交代勤務である兵士や騎士を除き、基本的には
土の日が休みとなっている。
貴族階級は思い思いの休暇を過ごすが、平民の、特に下働きなどいない貧民階層は、一週間分の家事に励む。
洗礼式前の子供に仕事をさせることは禁じられている。
その為、洗礼式前の平民の子供は、手伝いと言う名目で、
平民用の森での食べ物採取や、教育を兼ねた家業手伝いをしている。
また、「本来なら登録も仕事もできないはずの洗礼前の子供に、商人が家業を手伝わせるために編み出した法の抜け道のようなもの」として、
商業ギルドへの「仮登録」もある。露店の主が店番をさせるため我が子を登録する等で、血族でもない子供が仮登録される前例はエーレンフェストではなかった。
一方、神殿や貴族社会では、洗礼式前の子供は人間として認められていない。
その為、基本的には家の外にでず、母親の友人が連れてきた子供と遊んだり、教育を受けたりして過ごす。
洗礼式を受けることで、社会の一員として認められる。
洗礼式を受けた平民の子供は、親から与えられた見習い服と仕事道具を使って
見習いの仕事を行う。これには各職種に必要な教育も含まれる。洗礼式直後は教育の割合が多く、雇用側の負荷が大きいこともあり、見習いの就労時間は週に半分程度である。
エーレンフェストの下町の子供は、基本的に親や親戚の紹介で、見習い仕事を始める。その為、大体は親の仕事に関連した職種につくが、甘えが出やすいので、同じ職種でも親の仕事場に行くことは少ない。
貴族の子は、洗礼式の後、社会に関わり始める。城でのお披露目をした後、冬の社交期間は、城の一角に7~10歳の子供達が集められ、集団生活を送る。冬以外は、騎士希望の子が騎士の訓練を受けたり、側仕え希望の子が親戚の上で実地演習をしたりする場合もあるが、各家庭内の教育が中心となっていると思われる。
商人向の文字や計算の教育費は、週に三日、鐘一つ分だけの授業で、月に最低大銀貨一枚、10万
リオン必要となる。
その為、教育費が不足する下級貴族と、教育にお金をかけられる上級貴族で、教育のレベル格差が存在する。
自領の歴史に至っては、領主一族や領主一族の傍系レベルしか詳しく知らない。
商人や職人の見習いは、店長との雇用契約の
ダルアと、将来的に店や業務を任せるための徒弟契約の
ダプラの二種類が存在する。
将来独立して工房や店を構えたい者や、終身雇用を望まない者、能力的にタプラ契約の打診を受けられなかった者は、ダルア契約でつなぐが、そうでない者は、大体が洗礼時のダルア契約が切れる10~11才時点で、実家や将来働きたいと思う工房や店とタプラ契約を結ぶ。
タプラの見習い期間は8年で、見習い期間が終了すると給料があがる。
貴族は、10~15才の間が見習い期間となる。該当する年齢の冬は全領地の学生が集う貴族院に通い、国内の地理や国の歴史、一般教養的な共通知識および技能と、文官・側仕え・騎士・領主候補生という職種に応じた専門知識と技能を学ぶ。
それ以外の期間は、各領地で見習いとして訓練を受けたり実務を行ったりする。
成人後は、基本的に週休一日体制であり、
土の日以外はフルで働く。
平民の職種は、農民、商人、側仕え、下働き、職人、門番(兵士)に大別され、貴族の職種は、領主、領主候補生、文官、騎士、側仕えに大別される。
娯楽
平民、貴族問わず、遊びや娯楽の概念が存在する。
平民は、あまり余裕のない生活をしていることから、お手伝い中のおしゃべりや競争、大人の真似事や悪戯等が中心となるが、おもちゃや人形も存在する。
貴族の場合は、女性のお茶会や、男性の狩猟や
ゲヴィンネン大会が娯楽的要素を持つが、情報交換を兼ねた社交の意味合いが強い。
貴族も階級によっては裕福とは言えないが、雪に閉ざされる冬は、暇が潰れて、目先が変わる娯楽用品を購入する。
貴族社会にもぬいぐるみは存在するが、娯楽専用のカードもなく、魔力を用いて駒を動かす三次元チェスのようなゲヴィンネン程度しか登場していない。
例外的に、
ラオブルートが
ヒルデブラントに渡す玩具は、箱を開けると何やら飛び出してきたり、正しい手順通りに動かさなければ開かなかったりと種類が多い。
その一方で、
レティーツィアが
レオンツィオから受け取った花弁が飛び出して室内を舞うクラッカーのような玩具の存在や、ラオブルートとランツェナーヴェの関係、他国は魔石が少ない為、魔石を用いない道具や文化が発展する素地があることから、これらの玩具はランツェナーヴェ製品の可能性も高い。
娯楽用品が少ないという背景と、子供の教育に大きく役立つことから、ローゼマインがもたらした、
トランプや
カルタ、
各種出版物はエーレンフェストにおいて広く受け入れられた。
特に本は、貴族院内での流行を介してユルゲンシュミットにも広まりつつある。
同様に世に出された、
チェスや
リバーシは、平民の間ではそこそこ売れているが、貴族内での売れ行きは、本や知育玩具の購入に押されて芳しくない。
- イベント行事
- 日常的な遊びとは別に、イベント的な娯楽も存在する。
- エーレンフェスト以外の町や村では、収穫祭で行われるボルフェ、エーレンフェストの下町では、星祭りで行われるタウの実のぶつけあいが相当する。
- ボルフェは、秋と冬の戦いを模して行われる、魔獣ボルフェをボールとした村対抗球技で、ゴール枠外はサッカー、ゴール枠内はラグビーやハンドボールのような形式で進む。
- 一方、タウの実のぶつけあいは、拳大の水風船状態となったタウの実を、未婚者が、中央広場に揃った新郎新婦にぶつけることから開始し、新郎は新婦を守りつつ新居に走り込む。最終的には、街中を走り回りながらの相手を問わないぶつけあいが、広場に祝いの食事が並べられるまで続く。
- 貴族の娯楽行事としては、貴族の森で開催される大規模な狩猟大会が挙げられる。
医療
平民社会における医者の存在は明確にされていないが、
薬および薬を売買するものは存在する。
貴族社会における医者は、人の体内に流れる魔力を調べる魔法陣を用いて健康診断をしたり、状態を診て適切な投薬をしたり、戦闘等で精神的に不安定になったものに向き合って心のケアをしたりしている。
中には研究好きな変わり者もいて、珍しい事例を聞きつけると飛びついたりもする。
病院の存在が示されていない一方で、主治医の概念はあり、少なくとも領主一族の階級には専属医が存在する。
医者が存在する一方で、常時は医者にかかることなく、自作または側近に作らせた薬で対処している。
魔力や体力を回復させる薬(
回復薬)や、
解毒薬、体内での魔力凝固の抑制と溶解を行う薬(
ユレーヴェ)が存在し、素材の収集から薬の製作までを、自前または側近や同僚に依頼して行っている。
ユルゲンシュミットの貴族は全員が、回復薬やユレーヴェの作り方を貴族院で学ぶが、個人研究や一族の秘法により、より回復力の強い回復薬のレシピを使用している者もいる。
魔力を多く消費する為、使用場面や使用者は限定されるが、必要に応じて癒しの呪文が使用される。
傷を清めたり、魔力を満たしたりする場合は、
フリュートレーネの癒しが使用され、
体力的な疲労を回復させたり、傷を塞いだり、炎症を治めたりする場合は
ルングシュメールの癒しが用いられる。
ただし、癒しでは流れた血は戻らない為、多くの血が流れた場合は、十分な休養を必要とする。
近視や老眼は存在するが、近代的な眼鏡は普及していない。
貴族は訓練すれば視力強化の魔術が使用できるようになるが、魔力の消費が大きいことから、モノクルのような形状をした魔術具を使用している。
契約
羊皮紙での文書契約を基本とする。
ダルア契約(徒弟契約)・タブラ契約(雇用契約)・売買契約等、各種契約を基本とした社会形式になっている。
ユルゲンシュミットが魔力を基幹とした国であることから、魔力関係の特殊な契約が存在する。
従属契約、街限定の
契約魔術、領地全体の契約魔術、領地をまたがる契約魔術、
名捧げ等、魔力的な行動の縛りが存在する。
宗教
七つの大神とその眷属神を信じる多神教。
暦や節目の行事に密接に紐づいている為、平民から貴族まで同じ神々を信仰対象としているが、信仰レベルは各階層および生活場所によって異なる。
下町の平民は、日常生活において貴族や神々の恩恵を身近に感じていないことから、信仰心が薄く、
挨拶や決まり文句で口にする程度である。
農村の平民は、収穫が
祈念式の魔力奉納に直結していることから、信仰心が篤い。
貴族は、効率を優先して神々への
祝詞を省略した
呪文を作って使用したり、神事や
神殿の本来機能が忘れられて変質したりした結果(詳細は
個別ページ参照)、神々は、神の加護を得る儀式の為に貴族院の講義で名前を覚え、その後は忘れていく程度の認識に落ちていた。
ローゼマインが、
孤児院を改革し孤児達を
神殿の外の平民達と交流させたり、神殿の儀式で新成人達に祈りによる加護を示したり、祈りの重要性や祝詞を用いた儀式の効果を示したりした結果、平民達や貴族達も
神殿を見直し真摯に祈るように変わりつつある。
独自常識
階級毎に独特の言い回しがある。商人が価格を口にすることなく指のサインで示したり、貴族が非常に分かりにくい
婉曲表現を用いたりと、相手の常識を知らないと会話が成立していない場合も存在する。
- 面会予約
- 貴族社会で正式に面会を求める場合は、例えお互いに他の用事がなくても、本人が目の前にいたとしても、数日前に書面でお願いしなければならない。
- 特に下級貴族は、この数日間の猶予を用いて貴族としての体面を整えている。
- 上級以上の貴族の面会やお茶会の調整は、基本的に側仕え同士で実施する。
- 急な事でも主が決定せず、側仕えに任せることが正しいとされている。
- その一方で、緊急時には、オルドナンツを用いて直接伝言することもできる。
- また、貴族が平民に面会を要求する場合は、相手の都合を確認することなく、一方的に召喚状を送り付ける。
- 訪問方法
- 貴族の場合、騎獣での移動の方が容易だが、よほど訪問を知られたくないような間柄や気安くて仲の良い者でなければ、貴族の館を訪問する時は馬車を使用する。
- 恭順の姿勢
- 身分が下の者が上の者に対して敬意や恭順の意を示す場合は、両腕を胸の前で交差させる。
- 敬意や恭順の度合いに応じて、軽く首を項垂れたり、軽く腰を落としたり、跪いたりという動作が加わる。
男女交際
貴族社会において男女間に求められる節度は、実年齢ではなく外見で変わる。
身体的な成長に伴い、周りの反応が完全に変わり、今まで許されていた関係や距離感を見直すように求められる。
少なくとも片方が未婚の場合は、外聞への影響が大きくなり、
隠し部屋の扱いなども変わってくる。
恋人同士や婚約者でもない異性との相乗りは、騎獣を持っていない年齢、つまり
貴族院入学前の子供を除くと、問題視をされる。
他領からきた女性が、独身の下級騎士を故郷から連れてきて重用すると、変な噂を招きかねないし、側近や親戚であったとしても、未婚の女性が仮縫いを行う時に同じ館の中にいるのは外聞が良くないとされる。
その一方で、
娼婦に相当する者も存在し、下町では酒場の女給が、貴族社会では神殿の灰色巫女が該当する役割を負っている。
特に貴族社会では、
花捧げという呼び名で隠喩されている。
貴族やエーレンフェストの下町の平民の未婚の成人は、
星結びの儀式(星祭り)の夜に結婚相手を探す場を与えられる。
但し貴族の場合は、貴族院に通っている間が一番相手に恵まれる為、その間に相手を探す場合も多い。
求愛行動
貴族社会における一般的な求愛は、
求婚の決まり文句と共に、
求婚用の魔石を相手に捧げるというものである。
求婚の前段階として、求婚用の魔石からは少し質が落ちる
求愛の魔石と自分の魔力で鎖部分を作成した求愛のネックレス(
求愛の魔術具)を贈る場合もある。
貴族の男性は、女性が父親以外の男の魔力をまとうことに嫌悪感を抱き、女性は、父親に贈られた
お守りを少しずつ男性から貰う魔石に変えていくことに喜びを覚える。
そのような事情から、相手の魔力で鎖部分を作ったネックレスは婚約指輪と同じ扱いとなる。
求愛の魔術具が金粉化するような事態は、
魔力量を感じられないにもかかわらず求愛する身の程知らずということが公になってしまう大変な事態である。
貴族の女性の場合は、ハンカチのような布に刺繍をして好きな人に渡したり、「貴方のマントに刺繍をしたい」と告げたりすることも、女性から男性への告白と見なされる。
これは、身につける布に魔法陣を固定するには、魔力を持つ者が、自身の魔力で染めた糸を用いて刺繍することが一番確実であること、糸にこもった魔力の持ち主が、自身で刺繍した方が魔法陣の効力が高いこと、魔法陣の使用者と魔法陣の作成者の魔力が同じである方が魔法陣の効力が高いこと、親子や夫婦は魔力が近いことや、それに伴う魔力をまとう物を身につけることに関する男女の感覚等から、
マントに刺繍ができるのは、自分自身、親子、夫婦に限定されていることに由来する。
これらの魔力重視の一端として、貴族院の東屋で、男性がてのひらに集めた魔力を、女性がてのひらを重ねて受け入れる行為が、恋人たちの睦み合いと見なされている。
婚約
平民の婚約は、両親が認めれば整う。
儀式的には、女性の父親と男性の間に一つだけ杯を置き、約束の印としての酒をお互いが注いだ後に、順番に飲み干す事で成立する。
具体的な段取りとしては、まず、婚約する女性が、女性の父親の隣に座り、その対面に、婚約する男性と男性の父親が隣に並んで座る。
テーブルの中央に木製の杯を一つ置いた後、婚約する男性の母親が酒の瓶を、婚約する男性の父親に渡す。
婚約する男性の父親が、杯に少しだけ酒を注ぎ、続けて、婚約する女性の父親が酒を継ぎ足し、最後に婚約する男性が、満杯近くなるまで酒を継ぎ足す。
そうして満ちた杯の酒を、まず女性の父親が大きく一口のみ、「娘を頼む」という類の言葉と共に杯を婚約する男性に渡す。
続けて、婚約する男性が了承の旨の言葉を返し、受け取った杯の酒を飲み干すという流れになっており、飲み干した時点でて婚約が成立する。
なお、婚約する男性の親が死別等で同席できない場合は、婚約する男性の親の役割を、婚約する女性の親が担う。
貴族は、正式に婚約または求婚する前に、自力で準備可能な範囲内で最も品質の高い魔石を準備し、自分の魔力で染め、その上で、相手の属性の魔力を込め、最後の仕上げとして、求愛の文字を入れるという手順で、
求婚の魔石を製作する。
求婚をする側であっても、求婚を受ける側であっても、貴族が婚約をする場合は、互いに求婚の魔石を準備し、交換し合う。
その上で、受け取った求婚の魔石を身につけて肌に馴染ませることで、これから自分はこの魔力を受け入れるのだ、と心の準備をする。
親から婚約が認められ、
色合わせを経ると正式に婚約成立となる。通常、婚約期間は1年間とされる。
貴族院に通っている間に相手を見出し、婚約が成立した場合は、卒業式のエスコートの相手となることで公に披露する。
婚約披露の場として求婚の魔石を交換する婚約式を行う場合もある。
領主一族や
上級貴族が第二夫人を娶るのは、派閥のバランスを考えた結果だったり、第一夫人に子ができないことが理由だったり、子を増やすことが目的だったりする。
外交を担当する第一夫人は他領から迎えた妻の実家の援助やそれに付随する関係を上手く利用するために迎える存在。自領の妻は第二夫人として領地内の貴族を取りまとめるために迎える存在。という形を取るのが、大領地においては半ば常識となっている。
求婚の魔石を身に着ける際は、相手の魔力で作った鎖で加工され、女性はネックレスの形にする。
男性は第二夫人や第三夫人への配慮もあるため、あまり見えない形で腕輪やネックレスなど様々な形にする。
その後、
星結びの儀式を経て、婚姻が成立する(以降は
結婚の項を参照)。
なお、求愛と婚約で贈るネックレスは形状は異なるが、婚約から結婚へ移行することでネックレスを新調するケースは少なく、そのまま婚約ネックレスを使用し続ける。
ただし幼少期に婚約が成立し、成長によって
魔力量が大きく増えて金粉化の危険性がある場合は、結婚のネックレスとして新調する。
通過儀礼
出産・生誕
新生児誕生時の対応は、平民と貴族で大きく異なる。
平民のお産は男子禁制で、産婆と近所のご婦人方の手伝いの元、専用の椅子に座って行う。
更に、誕生後すぐに、出産を手伝ってくれた人々を労い、赤子と赤子の名を披露する「
命名会」を行う。
記録に残す文化がない為、多くの人に披露し覚えてもらって、記憶に残すことを目的としている。
同じ理由で、職場も含めなるべく多くの人に報告し、一人でも多くの人におぼえてもらうよう心がける。
お祝いのお返しは、お祝いをくれた人に子供ができた時に返せばよいという考えであり、貰う都度にお返しをしたりはしない。
貴族はお産の際に、魔力を与えることがある。夫や実子といった血族でないと魔力の反発が大きい為、血族が立ち合って行う。
生まれた子供には
魔術具を与え、貴族院に入学するまでの10年間で溢れる魔力を魔石に溜めさせる。
貴族社会では魔力を重視し、
魔力量が家格に合わない場合は、格下の家に養子に出したり、
神殿に預けたり、家の
下働きにしたりする。
その関係上、正妻の子供ならば生まれた時に祝いをするが、第二夫人や第三夫人の子になると、生まれた知らせをわざわざしないことも珍しくはない。貴族社会にその家の子供としてお披露目されるのは洗礼式の時である為、それまでは、子供がどれだけいるのか、よほど仲の良い友人でもなければ、知られることは少ない。
生まれたばかりの貴族の赤子は、他人の魔力をうまく取り込むことができなくて体調を崩しやすいことから、産まれてから季節2つ分は母親の母乳を与える習慣がある。
平民の母親は魔力量の問題で基本的に問題ないものの、身分的に平民女性が乳母に召し上げられることはない為、生まれてすぐに母親を失った子供は、母親の魔石や父親の魔力から作り出された液状魔力を与えられる。
ユルゲンシュミットに誕生日の概念はなく、洗礼式や成人式などの節目の誕生季に祝い事をする程度である。
洗礼
7歳は階級共通の節目年齢となっている。
どの階級でも7才時点で
洗礼式を行い、子供達は白を基調とした晴れ着を身につける。
洗礼式前に
養子に出されることがある(例、
レティーツィア)のでその場合は養家で家族の数に入れられるが、通常は「洗礼式前の子供は人として数えられていない」。神々が人を認識するのはメダルを登録した時点である。
平民の子供は洗礼式を終えた後に見習いとして仕事を始める。
エーレンフェスト神殿の
孤児院では、
成人式に準じ、朝早くに孤児院地階から出されて清めが行われ、新しく支給された服を着た後、礼拝室で祈りと感謝を捧げるものと推定される。その後側仕えに召し出される場合もあるが、大抵はそのまま孤児院に戻り、
灰色神官見習い・灰色巫女見習いになる。
なお灰色見習いたちは、洗礼式ではメダル登録をされない。
貴族の場合は、洗礼式を迎えた年の冬の社交が開始する
始まりの宴で、王族の場合は、洗礼式以降初めて行われる春の
領主会議時に
お披露目がなされ、貴族社会の一員と認められる。
貴族社会では洗礼式の際に正式に対応した親兄弟を、実の親兄弟と見なす。
生さぬ仲なので良好な関係を結べることは珍しいが、愛人の子が優秀なため、第一夫人の子として洗礼式を受けるということも珍しくはない。
その一方で、血のつながりがあっても、孤児院に入ったり、兄弟として洗礼をしなかったりすると、以降、実の兄弟として接することが難しくなる。
青色神官や青色巫女は貴族出身であり、
神殿へ入る前に洗礼式をして家とのつながりを明らかにする。洗礼式で
魔力を量る魔術具を光らせることができれば貴族で、家格に見合う魔力がない場合は平民扱いになる。後に貴族社会に戻る可能性のある者は必ず洗礼式を行うが、家の
下働きになる血縁者の中には洗礼式をしていない
無戸籍の者もいる。
洗礼式の際に、各個人の魔力が領地に登録される。
平民は血を
メダルに押し付けることで、血中に含まれる魔力を登録する。
その後は神話を聞き、祈りのポーズを取って神に祈ると終了する。通常、青色神官による魔力での祝福は行われない。
エーレンフェスト街の洗礼式は神殿で季節毎に年4回、直轄地の農村では秋の収穫祭で一括して行われる。街の平民のメダルは神殿で、それ以外の直轄地(ハッセなど)の平民の分は城で文官が管理している。ギーベ領の平民については、儀式の場で神官によって登録されたメダルを徴税官がギーベの館で受け取るので、メダル保管場所については明言されていないがギーベの館か領都の城と推定される。
貴族は
魔術具の棒に魔力を注いだものを神官に渡し、神官が棒に注がれた魔力をメダルに登録する。
メダルに魔力を移す際に、何に
適性があるのかが示されるため、通常はその際に適性を知らされる。
魔術具の棒を光らせられない貴族の子は、貴族として認められない。
無事に登録を終えた子供は、親から貴族の子の証として
魔力を放出する為の指輪を渡され、以後は挨拶の際に魔力を使った祝福を与える事ができるようになる。
その後、神具を使った青色神官に祝福を与えられ、指輪を使って祝福を返す。この時にやり取りされる祝福の魔力は普通の挨拶程度。
基本的に季節ごとに各家庭に神官を招いて行うが、冬生まれの子や遠隔地で神官を呼べなかった家庭の分は始まりの宴の際のお披露目と同時に城で行われる。
貴族のメダルは城や王宮で管理されるが、アダルジーザ出身の傍系王族のメダルは
中央神殿で管理されている。
洗礼式の前は、好きに改名できるが、洗礼式でメダルを登録した後は、改名に領主の許可が必要となる。
10歳の節目
7歳の次の節目年齢は10歳となる。
平民の10歳は、見習いとしての三年間の契約が切れる年で、別の工房と契約するのか、契約を更新するのか、はたまた、才能を見出されてダプラ契約を行うのかを決める、ある意味区切りの年となる。
貴族の10歳は、貴族院に入学する年である。
始まりの宴の際に領主からマントと
ブローチを手渡される。
貴族院は冬限定の教育機関である為、春生まれから冬生まれまでを同学年として扱い、翌春生まれの者は一学年下となる。
冬に学年が切り替わるシステム上、(冬の間に全ての講義を終えたとしても)冬から秋までは同じ学年のままである。
なお、貴族院の学年設定における、春の開始時期の基準は不明である。
貴族院へ入学すると、中央に名前が登録される為、改名に王の許可が必要となる。
魔力感知の発現
貴族の子の第二次性徴の一つで、10~15才位の間に起こる変化。
魔力感知が発現している人間の内、
魔力量の近い者を感じ取れるようになる。
魔力量の差が大きいと子供ができにくいことから、魔力感知が発現することは、結婚の適齢期に入ったことを周囲に知らせることになる。
その為、貴族の女性が魔力感知を発現させ、かつ、その女性を正式に結婚させる予定がある場合、その親は親族や知人に声をかけ、結婚相手の候補となる未婚の男性とその保護者を集めてお祝いをする。
声のかけやすさから、祝いの会合は、魔力感知を発現した後、最初に訪れる、星結びの時期か冬の社交時期に開かれる。
成人
ユルゲンシュミットにおける成人年齢は階級共通で15歳である。
成人式が行われ、子供達は生まれ季節の貴色を基調とした晴れ着を身につける。
平民の場合、エーレンフェスト街の成人式は神殿で季節毎に年4回、直轄地の農村では秋の収穫祭で一括して行われる(その為、農村の成人は秋の貴色の晴れ着を着る)。
灰色神官、灰色巫女の成人式は、朝早くに清めを行い、新しく支給された服を着て、礼拝室で祈りと感謝を捧げる事で成立し、この儀式は下町の成人式が始まる3の鐘までには終えられる。側仕えとして召し出されている者は、この際に主から贈り物をされる事もある。
貴族社会では、貴族院の
卒業式の日の午前中に行われる。入場にはエスコートが必須とされ、エスコートの相手は婚約者もしくは一目で対象外と分かる親族が務める。
なお、貴族の二次性徴には
魔力の感知が含まれるため、妊娠は二次性徴後に可能となる。
一般的に成人より前には年頃となり、同程度の
魔力量の相手の魔力が感じられるようになる。属性は感じられないので
色合わせで確認する事になる。
結婚
平民の女性と貴族は二十歳まで、平民の男性は二十歳前半が適齢期となる。
平民の男性のみ遅いのは、家族を養っていける頃合いを加味するとその頃が妥当という判断による。
平民も貴族も、親が結婚相手を選ぶ事は普通であり、貴族社会ではしばしば政略結婚が行われる。
家長は三人まで結婚相手を持つことができる。一夫多妻が多いが、一妻多夫も許容されている。
同性間には子供が作れないため、正式な婚姻としては認められない。愛妾として扱う事は許されている。
婚約期間を経て、
星結びの儀式(結婚式)を受けると正式に婚姻成立となる。
星結びの儀式は各階級別に一年に一度のみ執り行われる。
下町の平民は夏に神殿で、農民は秋に
収穫祭で、貴族は夏に城で、
領主候補生や王族は春に
領主会議の場で行う。
貴族は、通常一年間の婚約期間を設けるため、星結びの儀式は卒業後最短で二年後となる。
ただし、状況次第では、卒業の翌年に星結びの儀式を行う場合もある。
貴族街では、上級貴族でも建物を勝手に増やせないことから、領主が白の魔術で製作した敷地内の離れの数が妻と愛妾を足した人数の上限値(=3)となる。
ギーベの土地など、貴族街以外の土地であれば、自己裁量で建物を増やせるため、三人の妻以外に、平民の愛妾をもつことが可能となる。
なお貴族の愛妾は、星結びの儀式をしなかった存在を指し、身食いや、下働きとして育てられた貴族の子等の貴族院を卒業していない者や、血筋が良くても正式に嫁入りができない女性や、子も実家もない未亡人等の身寄りを失って持参金や後ろ盾のない貴族女性がなることが多い。
平民(特に貧民)と貴族では、結婚相手に求める基準が異なる。
貧民街における良い嫁とは、まず、健康で丈夫であること第一条件で、次いで気立てが良くて働き者であることが続く。美人の条件に裁縫の腕ややりくり上手などが加わる。
一方、貴族は魔力的な釣り合いが取れないと子供ができない為、魔力の釣り合いが第一で、次いで身分や派閥関係の調整が挙げられる。
相手に合わせて魔力濃度を薄める事で釣り合わせれば子供はできるが、濃度調節は身体に負担をかける上、薄めた魔力で生まれる子は家の魔力基準に満たず、神殿行きか下働きになる可能性が高い。
子供の
魔力量は妊娠中の母親が注ぐ魔力量に左右されるので、妊婦はなるべく多く魔力を与えられるように、他への魔力の使用を控える。かといって、期待をかけすぎて初期に大量に注ぎすぎると流産しやすく、母体にも良くないため、適切に行う必要がある。
この為、一般の貴族女性は妊娠、出産、子育て期間は丸々職から離れることになり、女性領主も
礎に魔力を注げなくなる。この制約から、女性が領主となる場合は、必ず夫も領主候補生でなくてはならない。
なお、妊娠期間はほぼ9か月であり、多少の個人差はあるものの魔力による変化はない。
子供は母親とほぼ同じ魔力だが、夫婦関係が良好な場合は、互いに染まり合い、夫婦の魔力が近い状態になる。
子供を父親の魔力に近付けるには、妊娠期間中もなるべく頻繁に夫から妻へ魔力を流すようにした方が良い。この辺りの事情もあって、妻が妊娠中に他の妻を娶らない方が良いとされている。
一般的に1ヶ月程度で染め合った魔力は元に戻るため、離れると互いの影響が薄れることになる。
夫の影響が薄くなった母親は本来の自分の色に戻り、子供の魔力は生まれた時が基準になるので、成長すれば親子でも差が出てくる。
子供の魔力に大きな影響を与えるのが母親である為、貴族の結婚の血統禁忌は、同じ母親につながるか否かで異なる。
同母の場合、兄妹(第二親等)での結婚は許されないが、異母の場合は許される。なお養女は異母妹と同じ扱いになる。
血筋を遡った際に、同一の女性に至る場合、従兄妹(第四親等)から結婚を許可される。
同母の年の離れた妹を養女にした場合の息子と養女の結婚可否や、父娘間の可否、洗礼式で戸籍変更した場合の血筋上のみ兄妹間の結婚可否等は不明。
通常の貴族で、他領からの輿入れがある場合、それぞれの領主の許可を得た後、親族だけで領地の境界にある門へと迎えに行き、お互いに挨拶をして、花嫁や花婿を連れて帰ってくる。この時点ではまだ儀式を終えていない婚約者の状態で、正式な婚姻は夏の星結びの儀式を待つことになる。
王族や領主候補生の婚姻は、領主だけでなく、王の許可が必要になるため、領主会議の時に
中央神殿から
神殿長がやってきて、星結びの儀式を行う。貴族院の祭壇のある礼拝室で星結びの儀式を執り行い、その後、領地ではお披露目のみが行われる。
いずれにせよ、他領に輿入れする場合は、洗礼式の際に登録した
メダルを持参する。
離婚
所定の手続きを踏むことで、離婚することができる。
ただし、星結びの儀式で最高神の祝福を得たのにもかかわらず離婚した場合、それから先は最高神の祝福を得にくくなり、普通にお祈りしても半分くらいしか祝福を得られなくなる。
あくまでも離婚後に祝福が得られにくくなるだけであり、結婚前に得ていた御加護や祝福・属性等を奪われるわけではない。
死亡
平均寿命は栄養状態で決まり、貴族が六十三歳くらいで、平民は五十歳位。ただし魔力持ちは、魔力を適切に抜くことができなければ、長生きができない。
魔力を持つもの(魔獣を含む)は、死ぬと
魔力を溜める器官へと魔力が流れ込んで固まり、血液凝固のように固まって
魔石が形成される。
戦闘で死ぬ、
即死毒で死ぬなどの特殊な例を除くと、死んですぐさま魔石になるということはない。
死後どのような形態になるのかは、肉体の部位(魔獣で言うと素材)が身体から切り離される際に、魔石になる部位がどういう状態だったかで変わる。
死ぬ前かつ魔石を傷つけられる前に剥ぎとられたものは生前の状態で、死後や魔石を傷つけられた後は、魔石以外の部位はどろりと溶けてなくなる。
- 遺言
- 今際の台詞が話題にあがることはあるが、故人の財産の処分等、遺された生者の行為に効力を持つ遺言の存在は明示されていない。
- その一方で魔力による遺言が存在する。魔力を持つ者が、自身の魔力を振り絞って助けを求めた場合、助けを求めた相手に声と映像が飛ぶ現象が生じることと、その性質上、該当現象が戦死や処刑などの際に起こりやすいことから、貴族はこの現象を死の間際の遺言的に扱っている。現象自体は命の危機に陥ったものが自分の状況を伝えるもので、ほとんどが意図せず無意識に行われる
葬式
平民は、死後すぐに葬儀を執り行う。
家族とその近所の住民は、黒い布を腕に巻くことで、葬儀に関係していることを示す。
死者の国の扉が開くのは、闇の神と光の女神が出会う夜明けであり、無事に朝日が昇る時、夫婦神の導きで死者の国へと迎え入れられると考えられている。
その為、井戸の広場に黒の布を腕に巻いて結んだ近所の人達が集まり、故人が無事に死者の国に迎え入れられるまで、故人の思い出を語りながら夜を明かす。
葬式が終わるまで、肉の類は口にしてはならず、2の鐘が鳴り響く頃に婦人方が配るパンとお茶で朝食とする。
朝食後に、近所の皆で板を担いで、神殿へと向かい、死亡したという届出をして、埋葬に必要な
メダルを受け取る。
洗礼時に登録したメダルが埋葬の許可証となる。金をかけて墓石や墓碑を準備できない者は墓石代わりに使う。
神殿でメダルを受け取ったら、街の外にある墓地へと向かい、木箱を埋葬し、板を土に差し込む。
板に墓石代わりのメダルを押し付けるとピタリとくっついて離れなくなる為、この板を墓標として、葬式は終了になる。
死んだのが一家の主であれば、遺産相続についての話し合いやこれから先の一家を支える跡継ぎの決意表明のようなものがある。
神殿が近隣にないことから、領都エーレンフェスト以外の平民の登録証(
メダル)の受け渡しは直ぐにできない。
その為、死者を神殿に運ぶ代わりに、葬式時に死者の血を木札に取っておき、秋の収穫祭時に
文官(徴税官)に報告して木札(血)を渡す。
文官は徴税の品物と一緒に、木札(血)を発送専用の
転移陣で、登録証が保管されている城に送る。
死者の登録証は、血にこもった魔力を目印とした魔術で取り出され、木札に貼り付けられた状態で送り返される。
従って、遺族が受け取った登録証付きの木札を墓標につけるのは、送り返された木札を受け取った後となり、葬式から相当日数が経過する。
貴族は
時を止める魔術具を持つため、死亡時期と葬式の時期が乖離することが多い。
領主が死亡した場合は、領主会議で次期領主が承認された後、周辺の領地を招いて葬式を執り行う。
葬式は
青色神官を呼び、遺体から
命の神の神具を使って
魔石を取り出し継承を行う。
魔石を取り出すと遺体が消える為、遺体の埋葬はしない。
魔石は日用品と共に各家の館の当主しか入れない地下室に保管される。
魔石は先祖代々受け継ぐが、保管し続けるか使用するかは継承者次第である。
血族の魔石は、その属性や品質から
子供が生まれた時に与える魔術具を調合するのに向いているため、各家庭の財政状況にもよるが、その為に使用されることが多いと推測される。
青色神官が死亡した場合、魔石は実家が引き取る。ただし何らかの理由で実家が魔石の引き取りを拒否した場合は、神殿の所有物となる。
反逆者は葬式がなされず墓標も存在しない。
領主と領主候補生のみ使用できる
闇の神の魔術で、
メダルを破棄して処刑を行う。
処刑されたものは灰すら残らない。
芸術
文芸
文芸(言語芸術) は、親から子や吟遊詩人から大衆への口承が中心だったが、エーレンフェストの印刷本の台頭により、記載文学が普及しつつある。
口承文学は広く普及している。
平民や貴族を問わず、親が子に物語を語ったり、
吟遊詩人が騎士物語を語ったりしている。
記録媒体が、木板か羊皮紙と、没食子インクであり、羊皮紙とインクが
非常に高額であること、更に印刷がなく手書きで作成するしかなかったことから、本の絶対数が少ない。
蔵書場所も、神殿の図書室、上級貴族の書斎、城の図書室、
貴族院の図書館等に限定される。
貴族院の図書館の蔵書量でも、貧乏貴族救済目的で成績の良い者や字が綺麗な者の参考書を毎年購入したり、成績優秀者についてまとめた資料を毎年保管したりしているにもかかわらず、保存用の書庫に収めた古い資料まで含めて、3~4万程度にとどまっている。
これらの状況に加えて、エーレンフェストの本が広く認識されるまでは、本は一点ものであり芸術品であると考えられていた。
その為、美しい字を書く者に本文を書かせ、芸術家や絵の工房に色鮮やかな挿絵を頼み、皮の職人に宝石や金をあしらえた皮張りの表紙をつけさせて、初めて本と認められた。
結果として、中級貴族ですら手に出しにくいほど高額になり、重くて持ち運びどころか紙を捲るのにも労力がいる物となっていた。
価格面で手が出しにくいことに加えて、聖典や古い書物は、日常で使用されている新しい言葉とは異なる、古い言葉で記載されている為、古い言葉に親しんでいる少数の者以外には、読書行為自体が負荷となっていた。
一方で、エーレンフェストの印刷本は、植物紙に(
植物油と煤等からなる)印刷インキで印刷され、和綴じで製本され、皮の表紙はついていないことから、価格も重さも捲りやすさも大きく改善されている。
加えて、新しい言葉で記載されていることから、古い言葉の知識のない者でも容易に読むことができる。
これらの事情から、エーレンフェストの印刷本の台頭により、記載文学が一気に普及しつつある。
なお、印刷技術自体は、写本で収入を得ている下級貴族や青色の生活を圧迫するのではないかという危惧を抱かれていたが、絵画の印刷により、その価値が貴族にも受け入れられた。
美術
美術(造形芸術・視覚芸術)として、彫刻と絵画が存在する。
彫刻物は、
神殿にある神々や神々以外の石像、礼拝室や図書室等の壁や柱や棚等の彫刻およびレリーフ等で見受けられる。
彫刻の内、像の制作は平民の芸術関係の工房が担っている。
建物は王や領主の創造魔術で作られていることや、彫刻物の一部が魔法陣と連動していることから、貴族が魔術で制作したものも存在すると思われる。
神殿の宗教画、城等の肖像画、本の表紙や挿絵、資料の絵など、主に貴族社会において絵が見受けられる。
絵画は写実的に描かれており、デフォルメは認められていない。
音楽ほどではないものの、貴族は嗜みとして画力も求められており、自称不得意でもそれほど下手ではなく、得意と言うと絵師になれるレベルとなる。
絵具の材料である素材(鉱物・
油)や、絵を描く布や紙それぞれが魔力を持ち、互いの属性の影響を受ける為、同じ鉱物でも異なる油に混ぜると様々な色に変化したり、絵具同士を混ぜると黒になったり、絵具を紙に塗ると時間と共に変色したりする。
この為、絵具の製法は完全に工房独自の物で秘匿されて、同じ工房に注文しなければ、同じ色を取り寄せることができない。
加えて、絵具は下町には売りに出されておらず、貴族向けには注文を受けた工房が作って直接納めに行く形式をとっている。
なお、塗った後の色の変化の抑制は、予め色を付ける対象に定着剤を塗って、定着剤が乾いた後に色をつけることで回避している。
ローゼマインの出資で印刷用の色インク製造技術が確立した結果、同じインク工房から取り寄せた色インクで多色刷りができるようになった。
更に、
ハイディの研究により、上から塗ってインクを変色させることなく保護する薬剤が開発された。
音楽
伴奏を伴う声楽が中心であり、伴奏用の楽器として、弦楽器(
フェシュピール)、管楽器(横笛、笛)、打楽器(太鼓)が存在する。
農村で暮らす平民とって音楽は歓喜の表現であり、収穫祭にて、手拍子、足拍子、口笛や楽器と共に、大きな声で歌い踊る。
貴族にとって音楽は嗜みであり、奏者の技量と場との調和が必要となる。
貴族のお茶会では、
楽師が複数呼ばれて、代わる代わる演奏する。
曲目は、
最高神と五柱の大神に捧げる歌や
芸術の女神に捧げる曲、戦いの時に鼓舞する軍歌のような曲が多く、
英知の女神に捧げられる曲は少ない。
ローゼマインが
クラシックや
アニソン等の曲をもたらした結果、曲の種類が一気に増えた。
エーレンフェストで印刷がはじまるまでは、家庭で音楽の教師から学ぶか、貴族院の講義で学ぶか、お茶会で他の楽師が披露した曲を耳で覚えた後に楽譜をおこすかすることで、曲が広まっていた。
エーレンフェストで印刷製の楽譜の販売を開始したことから、楽譜をもとにした曲の普及も進んでいる。
洗礼式の
お披露目、貴族院の実技の講義、
貴族院の卒業式の奉納用の音楽や歌と、自身の腕前を披露する公式の場が多いことから、洗礼式を迎える前から練習を重ねる。
音楽の演習は、フェシュピールで、音階や歌、曲を覚えておくことを基本とし、その上で、自分に合った楽器を探す。
その一方で、教育費の結果生じる、楽器や教師の質の差で、演奏の腕前に差が生じることから、お披露目は下位階級から行うし、貴族院の練習も貴族階級で分かれる。
貴族が専属楽師になる場合は、
側仕えを兼任する。
平民でも、音楽の才能が高い場合は、専属楽師として身を立てる場合もある。
魔力量の問題で貴族になれずに平民となった、貴族一族の者がなる場合がほとんどだが、神殿の灰色神官や灰色巫女が楽師となる場合もある。
いずれにせよ、音楽的な才能と貴族社会で浮かない立ち居振る舞いが必要とされる。
舞台芸術
舞台芸術として、舞や演劇が存在する。
貴族は、貴族院の卒業式で歌舞音曲の奉納を行う。
その中で、領主候補生は奉納舞を、騎士の内選抜されたものは剣舞を披露する為、貴族院の実技の講義の中に、奉納舞の練習や剣舞の練習が組み込まれている。
お茶会や狩猟大会以外の、娯楽的な催しの有無や種類は領地によって変わる。
クラッセンブルクでは、神殿の青色神官や青色巫女が演じる神話をもとにした演劇が楽しまれている。
交易
国内の領地間、ユルゲンシュミットと外国間で交易が存在する。
国内の交易は、貴族院の領地対抗戦で交易対象物を示し、
領主会議の場で具体的な取引量と取引内容を決める。
その取り決めに従い、平民の商人達が、領地間を移動して商品を入手・輸送する。
政変以前は、アウブが領地対抗戦や領主会議以外の場で会議をすることに何の問題もなかったが、政変後は、勝ち組領地同士以外で行うと反乱を疑われる為、止めるようになった。
同様に、里帰りや婚約以外の理由で、貴族が他領を訪問することも、勝ち組領地以外は問題視される為、アウブの許可が出ない。
従って、政変後の国内の交易において、貴族が平民に同行して他領を訪れることは基本的にはない。
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最終更新:2025年02月09日 19:11