SEGA of Americaが発売した格闘ゲームシリーズ。
ここでは第一作目とアップグレード版『Eternal Champions:Challenge from the Dark Side』を取り上げる。
Eternal Champions
概要
1993年12月アメリカでメガドライブ(海外では「Genesis(ジェネシス)という名称」)用の完全オリジナル格ゲーとして発売された。
当然、
マイケル・ムアコック氏のファンタジー小説シリーズとは関係ない。
日本発売は1994年2月18日。また、日米共にWiiにてVC対応作として配信された(現在は配信終了)。
「Sega Genesis Mini」(北米版メガドライブミニ)及び「Sega Mega Drive Mini」(欧州版メガドライブミニ)にはこの無印版が収録されている。
その特色として、当時、『
モータルコンバット』の
究極神拳が市場で受けていたのを取り入れたものと思われるトドメ演出が用意されている。
この時点では比較的残虐度が抑えられていた(精々骨だけになるか跡形も無くなる程度)事もあり、日本版にも無事(?)収録されている。
何気にマルチエンディングが採用されており、エターナルチャンピオンとの一本勝負の勝敗に応じてエンディング前の文章が変化するようになっている。
この世界は、すべてのバランスを失い、壊滅の危機を迎えていた。それを防ぐために選び出されたのが9人の戦士たち。
しかし9人の戦士たちの力はあまりにも強大だった。
統率を取るためには1人の戦士を選出せねばならない。戦士たちの力はほぼ互角。
そこで、この者たちによる、生き残りをかけたサバイバルが開始されることになった。
混沌とした世界の中、熱い戦いの火蓋が今、切って落とされた―。
(以上、Wii用VC配信ソフト『エターナルチャンピオンズ(MD版)』特設ページから引用)
協力して世界を救うはずの戦士達が、何故グロいフィニッシュまでして生き残りを賭けたサバイバルなんて本末転倒をしでかすのかはわしにも分からん・・・・
キャラクター
システム
パンチ:小(X)、中(Y)、大(Z)
キック:小(A)、中(B)、大(C)
ガード:後ろにレバー入れ
投げ:前後レバー入れパンチ系。レバーを入れた方向に投げ飛ばす
体力ゲージの横にある陰陽マーク。
特殊技を発動する為に必要で、無くなると特殊技が出なくなってしまう。
特殊技を出すか相手の
挑発で減り、時間経過のみで回復する。
相手のインナーストレンジオーブを減らす事ができる。
ただしCPUはインナーストレージオーブが無くても特殊技を使ってくる。
評価
日本では一言で言うとマイナー格ゲー扱い。
モーコンを意識したようなフェイタリティが目に付く他に、
- 日本では見かけないやたら濃いメンツ
- もっさり気味な対戦
- 陰陽マークやら何故か出てくる「武士道」*1「黒い蘭の花」といった、正しいようで間違ってる怪しい日本語
…等々、一味違う格ゲーとして
一部で話題となった。
2019年12月16日放送の『しくじり先生 俺みたいになるな!!』SEGA特集にて知った人も多いと思われる。
*2
終いには似たような名前のファンタジー小説と間違われ、後述のとんでもないグロ画面を見る羽目に…!
一方欧米では、当時ジェネシスには少なかった完全オリジナル格ゲーとしての需要を満たし、
『モータルコンバット』ほどグロくなく
*3、かつやたら印象深いフェイタリティや、「悪役がいない」と評価された個性的なキャラが話題となり、
シャドーが主役の『X-pert』、ラーセンが主役の『Chicago Syndicate』といった外伝作まで発売された。
ゲーム以外でも、当時のSEGA公式ゲーム雑誌にて
アメコミが掲載されるなど、ジェネシス全盛期と合わせて一大旋風を巻き起こした格ゲーであった。
Eternal Champions:Challenge from the Dark Side
概要(CFTDS)
1995年6月6日、アメリカでSEGA CD(欧米版メガCD)で発売された、『エターナルチャンピオンズ』のアップグレード版。日本未発売。
以下、副題の頭文字を略して『CFTDS』と記す。
「Deep Water」という新たなブランドの第一弾として発売された。
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Deep Waterとは |
1990年代中期に米SEGAが当時公表していた、過激な描写をふんだんに盛り込んだ「SEGAによる成人向けのゲームブランド」である。
事実『CFTDS』内でもPVが流れていた。
しかし本作及びメガCDの商業的失敗から知名度はかなり低く、
また既にESRBの区分でゲームが過激か否かは事足りるくらい普及した事と、あまりにジョ●ズを意識しすぎたのかからブランド打ち切りになった。
結局ゲーム自体は本作とSSの『 Duke Nukem 3D』の 僅か二作にしか発売されなかった。
終いにはSEGA社員にすら新作ゲームのPVと勘違いされる始末
ちなみに、同シリーズのシャドーを主要キャラにした外伝作『X-perts』も含まれる予定だったのだが、パッケージにラベルが貼られるに留まっている
(というか『X-perts』はESRB:Teen(13歳以上対象)につき、 四肢欠損描写のあるDeep Waterの映像が使えないため)。
お世辞にも成功したとは言い難いDeep Waterであったが、SEGAは「大人向けゲーム」に対し強い思い入れがあり、
後年の『 龍が如く』(海外では『YAKUZA』という名称)にその意思が受け継がれている。
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凄まじい残虐描写がある事で有名であり、対象年齢はESRB:Mature(
17歳以上対象)。
*4
ヨーロッパとブラジルでは18禁指定を受けていた。
対象年齢が引き上げられたのもあり、トドメ演出は残虐度が大幅にアップ。
とにかくその凝りようが異常なレベルである。
メガドライブの少ない発色数の
ドット絵でありながら、やたら精密かつ滑らかに動くので、リアリティが半端ではない。
その労力をもう少しゲームバランスに活かして欲しかったものだが
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当時の広告 |
……当然と言うか、欧米の無印版プレイヤー達を震撼させたらしい。
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前作とほぼ同じだが、ストーリーが一部変更されている。
以下はゲーム内で説明される追加ストーリー。
滅びの危機を迎えた世界。均等を正すため、エターナルチャンピオン(以下EC)は事故や謀殺など不正により死すべき筈だった九人の戦士を呼び出した。
その内一人のみ死の運命を覆し、世界を救う使命を託す…その一人を選別するための試合を開始する。
しかしECの前にある存在が現れる。
ダークエターナルチャンピオン(以下DEC)。DECはECの対となる存在であり、彼同様世界の均衡を維持・復活する事を使命としている。
ただしECとは決定的な違いがある。
血と暴力、悪意と傲慢、自己愛こそが人間の紛れもない本性とし「悪こそ不滅」を信条としているのだ。
事実彼の方がECよりも常に優位に立ち、彼によってスカウトされた戦士が英雄になった事多数。
だがその世界は活気とバランスこそ取り戻したものの、暴力と不正が蔓延り犠牲と復讐が絶えない暗黒の時代が続いたという。
DECはECには秘密裏に4人の戦士を呼び寄せた。
彼らは悪政・略奪・謀殺・収賄など悪逆の限りを尽くし、野望を果たす直前に敵対者や報復により暗殺された者達であった。
そして、「今回は私も主催する。最後に残った戦士には、貴様だけでなく私自ら相応しいかどうか相手になる」と告げる。
しかし彼はECが知らない戯れを企んでいた。
DEC自身が選んだ4人による殺戮と混乱をもたらし、戦士全員の悪意と殺意を以て血塗られた宴とする事を。
そして、用済みになった敗者を自身が好きに処分する事を…。
一抹の不安をよそにECは英雄選出の戦いを開幕する。
果たして世界を救うに値する英雄は誰になるのか?そして世界の命運は……?
キャラクター(CFTDS)
前作に登場したキャラは全て使用可能。
サファイア・リップタイド、
ラムセス三世、レイヴェン・ギンダー、ダウソン
ストーリーの通り、全員悪人ポジションである。また、新規キャラだけあって
ステージもやはり残酷な描写が用意されている。
セネター、ブラスト、チン・ウー、タナトス
クリスピー(鶏)、ヤッピー(犬)、ホッター(梟)、スリザー(蛇)、ズーニー(猿)
「CFTDSには
隠しキャラが9体+あっと驚くサプライズ2名がいる。もちろん我々は君に出し方を言うつもりは無い。
……強いて言えばとにかくプレイだ!それもたくさん!まずそのうち2体に会えるだろう……」(by取扱説明書)
要するにタイムリリースキャラである。
ちなみにブラストとチン・ウーは、無印版にも登場予定だった没キャラでもある
(ステージ自体はジェッタとミッドナイトのホームステージとして流用されている。『CFTDS』では晴れて専用ステージが用意された)。
エターナルチャンピオン1・2
ダークエターナルチャンピオン(ゲーム中では「Dark Champion・Dark E.C」名義)
なお、両者ともタイムリリース後に対戦モードでのみ弱体化した性能で使用可能。
その他
エターナルチャンピオン1→2のみと対戦する。
なお、Neophyteは「初心者」という意味だが、
キリスト教などでは「新改宗者」の意味もあるのでそういうニュアンスも入っているのかもしれない。
エターナルチャンピオン1→2→ダークエターナルチャンピオンと対戦する。
Finishing moves
ある意味『CFTDS』一番の特徴。
メガCDによる拡張した演出による血と内臓ぶち撒けの惨劇が、戦士達とプレイヤーに襲い掛かる。
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Finishing movesの詳細(やや猟奇的な表現があります) |
所謂「ステージフェイタリティ」。
基本的に無印版にあったものと同じで、演出も一緒。
…が、無印版より残虐度合いが大きく増している。
とは言え後述の「サドンデス」よりはマイルドと言えるかもしれない。
ただし、新規ステージは同レベルの残虐っぷりである。ミッドナイト、お前の事だ
本作で追加された、更なるステージフェイタリティ。第二のOverkillsと認識して差し支えない。
内容はほぼ同じだが、職人芸的ドット絵で表現された 殺意と狂気全開な演出が見る者を戦慄させる。
「黒い蘭の花」ことシャドーステージのゴ●ラが一番緩く感じるくらいに
各人間キャラが持つ特殊技を強化したような技でトドメを刺す(従って動物とEC二名は使用不可)。
棍棒や暗器はともかくとして、試合中は使わない刀や銃をここでのみ使う奴がやたらと多いのが特徴。
あと全体的に演出がスピーディーかつ余計な読み込みが無い点を評価する声も
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ヴェンデッタの裏設定 |
取扱説明書によると、「互いに殺し合うようDECが戦士達に無断で与えた力」であるとの事。
血と暴力を象徴した技であり、ECに悪影響を与え、逆にDECを活性化すると言われている。…が、ゲーム中では特に意味は無い。
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勝者を次の舞台に移動させた後に、ラスボスであるDECが突如乱入。
敗者を根城である「暗黒領域(Cimmerian Complex)」へと連れ去り、各キャラが内心に抱く恐怖や特徴、及び能力を嘲笑うような手段で抹殺する
(機械の目や四肢を無理やり引き剥がす、遺伝子操作で魚まで退化させる等)。
メガCDが得意としていたFMV(Full Motion Video)を盛り込み、本作の見所として取り上げられていた。
なお、対象になるのは最初から使用できる13人のみ。
補足として、動物キャラ5体及びEC2名は全てのFinishing moves対象外。
ただし、ヴェンデッタ以外の3つを人間キャラに対して使用する事ができる。
ラスボス補正のみならず、動物愛護団体の目も厳しいのだ
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評価(CFTDS)
結論から言うと売り上げは極めて壊滅的であり、格ゲーとしての評価も芳しくなかった。
無印版の爆発的売り上げと、鳴り物入りで始動したメガCDとあって、膨大な開発費と宣伝費をかけて開発したのだが…。
海外レビューやゲーム雑誌で批判されている点は概ね以下の通り。
- 人を選ぶ凄まじいまでの残虐描写(『モータルコンバット』以外では最高クラス)
- 格ゲーとしては見た目も中身も無印版と変わり映えしない(そのせいで無印版と『CFTDS』の仕様が混同された事例も)
- 格闘ゲーム部分と売りである残虐演出の相性が致命的に悪い(後述)
- そもそもメガCD自体の普及率が……
確かにその狂気的とも言えるドット絵は評価に値するが、それがゲームの面白さや売り上げに直結するかはまた別問題である。
そして何より問題だったのは、上記の通り格闘ゲーム部分と売りである残虐演出の相性が悪かった事。
具体的には、
「FinishingMovesが作動すると長い読み込みが発生→ヴェンデッタ以外は勝者が消え去る演出&更にFM自体が長い(スキップ不可)→合計約1~2分の待機時間」
が一試合ごとに発生する。これは格ゲーとしては致命的であり、擁護意見は殆ど見られない。
加えて北米同様に大ヒットした欧州では18禁指定であり、購入可能な人自体が限られるという有り様。
売り上げについては…最早語るまい。
そんな訳で、「『CFTDS』は格ゲー要素がおまけに入ったスナッフフィルムだ」と揶揄される事も。
なお、これらの評価には、当時巷に氾濫していた『モータルコンバット』の類似品に海外プレイヤーが辟易していた…という事情もあったりする。
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1992~1995年における海外格ゲーのグロ事情 |
当時の『モータルコンバット』の人気は社会現象と言っても過言ではないほどであり、
「グロければグロいほど良い。残虐は正義」という 日本から見たらトチ狂った神話めいた風潮が冗談抜きにあった。
更に、一部のメーカーは 「ゲームとしての面白さ・出来は二の次。グロけれ(ry」と考えたからさあ大変。
格ゲーとしては完成度の低い粗製濫造ゲームが大量発生し、海外プレイヤー達は振り回される羽目になった。
その結果、 「グロければ良い訳じゃない」とユーザーの審美眼も厳しくなり、
結果としてゲーム業界は「グロ有りかつきちんとゲームとして完成する」作品と「グロがあればそれでいい」作品とに二極化。
後者とそのメーカーは呆気なく淘汰される事となったのである。
現在も最前線に位置する『モータルコンバット』以外で未だに語られる作品としては、
純粋に格ゲーとして成功していたレア社の『 キラーインスティンクト』シリーズや、
海外の子供達に人気の恐竜を上手く融合し一時代を築いた、アタリ社の『 プライマルレイジ』あたりだろうか。
悪い意味で未だに語り継がれる作品もあるが…『カスミニンジャ』とか
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永遠の終焉
その後、SSにてシリーズ完結作『Eternal Champions:The Final Chapter』の開発が一時公表された。
……が、結局
開発中止になり、同時にシリーズも僅か2作で終了となった。
理由としては、『モータルコンバット』や『
ストII』のMD及びSSへの進出の影響、
何より『CFTDS』の売り上げ不振+予想を裏切る赤字計上が大きかったのだろう。
とは言えシリーズ打ち切りまで引き起こすとは、無印版の大ヒットを加味すると異常事態と言える。
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大人の事情 |
実の所、当時の日本SEGA(セガサターン推進派)と米SEGA(ジェネシス延命派)の間には軋轢が生じており、
日本SEGAは次世代機SSにキラータイトルとなる新作格闘ゲームを出すため、シリーズ開発を打ち切るよう圧力をかけたのであった。
そのゲームこそ、あの世界初の3D格闘ゲーム『 バーチャファイター』である。
日本では『エターナルチャンピオンズ』自体がマイナー扱い、更にメガCDと『CFTDS』が失敗したため、立場の悪化から開発を回された訳である。
このあたりは結果論になるが、『エターナルチャンピオンズ』はメガドライブと栄枯盛衰を共にした、正に一連托生のゲームであった……とも言えよう。
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MUGENにおけるエターナルチャンピオンズ
欧米では一世を風靡しただけあり、海外で主に無印版のキャラが製作されている。
ただし、『CFTDS』のような過激な描写は騒動の元になるからかステージの仕様に依存する事もあり、再現しているものは少ない。
Juan Carlos氏のザヴィエルやミッドナイト、Keioh氏のブレードやトライデント等が入手不可となっており、
現在DL可能なキャラはhsiehtm氏のセネター、Joey Faust氏のダウソンとブラスト、Nexus Games氏のヤマト、HelloMyNameIsAAA氏のクリスピー、
supermystery氏のエターナルチャンピオン及びダークエターナルチャンピオンである。
*1
エターナルチャンピオン曰く「礼節・謙虚・思いやり・自他共生と言った英雄に必須な思考」であるとか。
*2
ちなみに、無印版を周辺機器「Sega Activator」でプレイしたり、
かの有名な「メガドラタワー」(MD+メガCD+スーパー32Xが合体した最終形態)が登場したりと、中々にカオスな内容であった。
*3
この評価は当時かなり重要であった。
と言うのも、『モータルコンバット』はその残虐描写故に良くも悪くも注目を集めており、購入を許可しないという家庭も多かった。
『エターナルチャンピオンズ』はその辺りの需要も満たしていたと言える。
*4
北米で家庭用ゲームとして出せる中では事実上一番厳しい基準であり、日本で言うCERO:Z指定の作品が普通にある。
これ以上更に厳しくなると、家庭用ゲームメーカーから認可が降りなかったり、大手小売店からの取り扱いが禁止されるなど、
社会的にも商業的にも洒落にならない事態になる。
*5
「Cinekill」は「映画的な殺害」と言う意味の造語。
何気に米SEGAの登録商標であり、どうやら続編でも使用する予定があったようだ。
叶わぬ夢だったが
最終更新:2024年11月08日 18:17