ヴォルフガング・ワッケイン

登録日:2025/05/09 Fri 17:00:00
更新日:2025/05/10 Sat 22:20:39NEW!
所要時間:約 20 分で読めます






「君の質問には、私が答えよう」
「ルナツー方面軍司令、ワッケインだ」


【概要】

ヴォルフガング・ワッケイン(Wolfgang Watkein)とは、「機動戦士ガンダム」の登場人物。
地球連邦軍の将校。宇宙軍に所属し、ルナツー方面軍の司令官として知られる。
CV:曽我部和恭(TV版、劇場版1作目)/木原正二郎(劇場版3作目)*1/稲田徹(特別版)/森川智之(THE ORIGIN)/阪口周平(GQuuuuuuX)


【作中の活躍】

◆前歴

出自などの詳細はほとんど不明だが、ヴォルフガングという名前からしてドイツ・オーストリア系の出身と考えられる。
外見は金髪を短く刈り込んだ白人男性。目つきは鋭く、ギレン・ザビに似ているという声も少しある。
年齢等も不明だが、少佐という階級や、目の下には多少のしわがあるものの、その他は特に老齢の描写がないことから、三十歳前後ごろと推測される。
ランバ・ラル35歳、シャリア・ブル&ドズル・ザビ28歳、という設定を考えるとワッケインはもっと若く、下手すると二十代半ばかもしれない……
外伝作品やゲームなどでは開戦前からの連邦軍将校として扱われることが多く、一年戦争にも最初から参戦しているというのが定説。


開戦初頭、ジオン軍は最新技術「ミノフスキー粒子」によるレーダーシステムの封殺と、新兵器「モビルスーツ」の機動力、そして「核バズーカ」の破壊力を組み合わせることによって、連邦宇宙艦隊に壊滅的な損害を与えた。
同時に「ブリティッシュ作戦」「ルウム戦役」を通じて、軍艦のみならず非武装の民間コロニーにまでメガ粒子砲や核ミサイルを打ち込み、MSに蹂躙させて、空前の大虐殺を開始。
さらに毒ガスを流し込んだ「無傷の」コロニーに核パルスエンジンをつけて地球に落とし、地球連邦の軍備も国土も壊滅せしめた。
ジオン軍本来の戦略目標だった「コロニー落としによる、連邦軍総司令部ジャブローの一撃撃破」こそ連邦軍の徹底抗戦により失敗したものの、連邦宇宙軍は最大で八割の戦力を失い、さらに連邦派コロニー・サイドがほぼ全滅、総人口の半数が死亡し、特に宇宙軍将兵はほとんどが払底した。


しかし、それでも連邦宇宙軍が「消滅」したわけではなかった。
多くの将兵が戦死し、艦艇や宇宙戦闘機の大半を失っても、なお多数の生き残りたちがいた。彼らは主要コロニー群のあった月方面から、地球を挟んで反対側に移動していた小惑星「ルナツー」に集結。
ルナツーには以前から大規模な軍港・軍事施設が存在していたため、彼らはここに籠城し、連邦宇宙軍における最後の戦力として宇宙空間に存続していた。
各コロニー・各サイドに駐留していた連邦宇宙軍が、その駐留する目標のコロニーを破壊し尽くされてルナツーに落ち延びたため、相対的にルナツーの戦力が充実することとなった。

その後ジオン軍は「南極条約」「地球降下作戦」などで連邦を屈服させようとしたが、いずれも失敗し、立ち往生。
対する連邦軍も「MSに対応する軍隊を再建する」ことを当面の方針としたため、双方攻め手を失い、戦争は膠着状態に陥る。

この状況下で、ルナツーに集結した連邦宇宙軍「ルナツー方面軍」は、宇宙空間における連邦軍唯一の抵抗勢力となる。
しかしそれは、ジャブローからの増援の見込みもなく*2、最前線で孤立したことを意味した*3


◆一年戦争中期

この膠着時期のルナツーをまとめていたのがワッケインである。

とはいえ、具体的にどのような状態で治められていたのか、詳細は不明な点が多い。
そもそもこの時期のワッケインの階級が少佐と、「ルナツー方面軍の司令官」としては信じられないほど低い。


地球連邦軍を見ると、方面軍司令官や艦隊司令官を大佐クラスが勤めているケースは多い。
一年戦争中ならば、オーストラリア方面軍はスタンリー・ホーキンス大佐が、東南アジア方面軍はイーサン・ライヤー大佐が実質的にまとめている*4
一年戦争後ならば、ティターンズの軍務総司令官をバスク・オム大佐が、ロンド・ベルの艦隊司令官をブライト・ノア大佐が勤めている。
規模こそ小さいが、小惑星ペズンの教導団(およびそれを母体とするニューディサイズ)の指導者はブレイブ・コッド大尉、その教導団の反乱鎮圧にあたったα艦隊司令官はイートン・ヒースロウ少佐だった。

しかしそれらと比較しても、ルナツーほどの巨大な基地と、敗残軍とはいえ多数の将兵・艦艇をまとめるのが「少佐」のワッケインというのは異様なほど。
すでに登場していたシャアが同じ「少佐」ながら率いるのがムサイ一隻というのと比べても格差が大きい。
(メタ的には「すでに登場していたパオロ・カシアスが中佐なので、ワッケインをその下に置くと少佐になった」「すぐ後に『リード中尉とブライト少尉が争うシナリオ』が始まるが、リードも本来はあり得ないほど階級が低いのだがブライトより高くしすぎると話が成立しないので下げており、その中間としてワッケインを少佐にした」ということで決められた階級だと思われるが)
そのため「ワッケイン少佐は当直ゲートのみの司令官で、その上官としてのルナツーの責任者は別にいる」とも言われているが、各作品でそのような立場の人物が出てきたことはない。*5
近年の作品ではむしろ、ワッケインの階級を高くする方で整合性を取っている傾向にある*6
現実の軍隊なら戦闘艦の艦長が尉官なんてあり得ない、大型艦なら少佐でもまだ低いという話なのにルナツー所属サラミスの艦長がリード中尉という ホワイトベースの料理長と同格 でその部下も少尉なのだが、ORIGINではリードも大尉になっている。
というか宇宙世紀の連邦軍全体を見ても尉官の艦長はリードとこいつしかいない。

とにかく、当時の「敗残兵が駆け込んで籠城していたルナツー」をまとめていたのがワッケインであるのは確かな模様。
とはいえ、当時の連邦軍の戦略が「MSに対応した軍隊を創建する、それまでは時間稼ぎに徹する」だったため、ルナツー方面軍は籠城に徹しており、ワッケインが攻め込むことは原則としてなかった
そもそも攻め込もうとしても、ジオンには「ソロモン」「グラナダ」「ア・バオア・クー」「ジオン本国」と四つもの拠点にそれぞれ宇宙軍があり、ルナツー方面軍が動けばこれら四個軍団に袋叩きにされかねないこと、
さらにルナツー方面軍が最後の連邦宇宙軍であり、これが消耗すればもはや後が無いことから、もしもジオン軍をへたに刺激し「ルナツー攻略作戦」でも決行されれば壊滅は必至なため、ワッケインは「事なかれ主義」と言われるほどの徹底した籠城作戦を取り続けた。

とはいえ、連邦軍がいずれは宇宙への再進出を企画することを考えれば、「連邦軍唯一のまとまった規模の宇宙軍と宇宙基地」を維持するというのは、それだけでも戦略上の価値は計り知れないものがあった。
また、ルナツー方面軍がまったく何もしなかったわけではなく、この時期密かにルナツー内部でジムやボールの研究・試作・配備が行われている。
そもそも強力な兵器に必要な ルナ ・チタニウムを採掘できる連邦の勢力圏はどこか?という意味でもそこを明け渡すわけにはいかない。
一部外伝作品では、ジオン軍に対して果敢な奇襲作戦を展開していたことも描かれる。


◆ホワイトベースの寄港

「ホワイトベースは没収。ガンダムは封印して軍の管轄下に戻す。以上だ!」

一年戦争から九カ月を経た時期、ルナツーにほど近いサイド7から、連邦軍の新造宇宙艦ホワイトベースが、新型MS数機とともにルナツーに逃げ込むという事件が起きる。
しかもホワイトベースは、ジオンの幹部ドズル・ザビの腹心、シャア・アズナブル少佐のムサイ級軽巡洋艦「ファルメル」に尾行されていた。
(なお、シャアはもともと木馬を見張っていたのではなく、連邦軍のゲリラ部隊を駆逐していたという。その「ゲリラ部隊」の出所もルナツー方面軍であろう)

ワッケインは入港したゲートまで直接出向いたが、負傷したパオロ・カシアス艦長には丁重に対応したものの、軍の最高機密であるガンダムやホワイトベースを無断使用した咎で、一部のクルーや避難民を拘禁。ホワイトベースやガンダムには封印処理を施すよう指示している。
この処遇には、ジオンに殺されるところを無我夢中で乗り切ったブライトやアムロたちが大いに憤慨させている。
ブライトが言う「シャアがこのまま引き下がるはずがない」という諌言にも、ワッケインは耳を貸さなかった。
またガンダム封印の際には部下の兵士からも「ああ見えてうるさい」と陰口を叩かれていたが、勤務に手を抜かないことはわかる。


しかし対するシャアは、ルナツーに対して「ファルメルからノーマルスーツのみで離艦し、宇宙空間を長距離漂ってルナツーに侵入する」という離れ業で潜入。
宇宙港にひしめく艦艇*7にはさすがのシャアも溜息を吐いたが、赤外線探知網にも気づかれ、各所に機雷を仕掛けられてしまう。
その後、ファルメルがルナツーに対して砲撃を開始。ワッケインは自ら旗艦マゼランに乗り込み、ファルメルを撃破するべく出撃しようとしたが、港を出るところでシャアの仕掛けた機雷によって爆破され、マゼランが港で擱座、ワッケイン自身も負傷した。

この爆破で、ブライトたちの拘禁していた部屋のロックも解除されたため、彼らは脱出すると独自にホワイトベースの入り、封印も解除。
ワッケインはホワイトベースの異変に気付くと即座にブライトたちを「軍規違反」として制圧しようとしたが、ブライトの反論とパオロ・カシアスの懸命の説得で、ついに彼らを受け入れる。
ワッケインは自らの指揮でホワイトベースの主砲によるマゼランの排除を命令
マゼランの熱核反応炉を砲撃し、その爆風で(ほぼ偶然ながら)シャアの僚機のザクを消し飛ばしてシャアやファルメルを撤収に追い込むも、その衝撃で同時にパオロ艦長も死亡した*8

シャア撃退後はブライトらを認めて、ホワイトベースを託して地球に向けて出発させる。
この際、パオロという先達があまりに早く亡くなったことを悼み、「学ぶべき人を次々と失っていく、寒い時代」という言葉を残した。
また、地球に向かうホワイトベースにはサラミス級マダガスカルを護衛につけ、その艦長リード中尉がしばらくホワイトベースに乗り込むこととなったが、これは人選ミスだったと見えて余計な軋轢を招いた。


『劇場版』では、このルナツーのエピソードが大幅に簡略化された。
まず、重傷のパオロのみを治療のため収容すると、ホワイトベースの面々に対して拘束はしなかったものの、「すでに豊富な実戦経験がある」として、ロクな補給もなく即座にジャブローへと向かわせた。
命からがら逃げてきたところを門前払いと言わんばかりの扱いに、ブライトたちはテレビ版とは別方向の憤りを見せるも、ワッケインは強硬な態度を変えなかった。

しかし、実のところそれを命じたのはワッケインではなくジャブローの軍令部であり、ワッケインは伝達する矢面に立たされただけであった。
むしろワッケインは、ブライトたちの困難な状況を理解しつつ、それをまるで理解しないジャブロー本部の冷淡さを憤り、涙まで浮かべる。
副官はそんなワッケインの姿に驚きの声を上げるが、ワッケインは苦笑一つを返すと、「なによりそんな少年兵たちに、自分はサラミス一隻を護衛につけることしかしてやれない」と自嘲して、「寒い時代」とこぼしている。


◆反攻時期

「お偉方が集まれば、私などあっという間に下っ端だ」

ホワイトベース隊がルナツーを出て程なく、連邦軍は徐々に反抗作戦を開始。ルナツー方面軍でも、初期型ジム先行量産型ボールが実戦投入された。
この初期型ジムはルナツー製とされており、上記のホワイトベース隊が拘禁もしくは追い出されたのも、ルナツー内部にてジムの工場が稼働しており、その機密を何としても隠さなければならなかったゆえの措置ともされる。
遅くとも「08小隊」一話時点でジムやボールは一般連邦兵も知るところとなっている。ルナツーにいたワッケイン隊も、MSを組み込んだ艦隊を率いて戦っていたと思われる。

やがて連邦軍は「ガルマ・ザビの戦死」をきっかけとして、地球各地で反撃を開始。
「オデッサ攻略戦」「ジャブロー防衛戦」「キャリフォルニアベース攻略戦」でことごとく勝利し、主戦場は宇宙へと移行しつつあった。

一度は壊滅した連邦宇宙艦隊も「ビンソン計画」で再建されており、それら新造艦艇は、ジャブローのマスドライバーから宇宙空間に打ち上げることになった。
ここで、ワッケインらが守り抜いてきたルナツー方面軍の価値が出てきた。
打ち上げ直後は無防備になるしかなく、かつマスドライバーやロケットによる打ち上げはそのコースを読むことも容易なのだが、ルナツー艦隊がその打ち上げ軌道上に展開して、ジオン艦隊の進出・攻撃を阻んだため、新編された連邦宇宙軍は壊滅することなく無事に打ち上げられた。
また、打ち上げられた艦隊はルナツーに合流し、補給と艦隊の編成を行っている。

それ以前にオデッサから宇宙に脱出したジオン軍地上部隊を攻撃したのもルナツー方面軍と思われる(というか他にない)。

ワッケインがこれらの作戦にどれほど参加したかは不明だが、いずれも「ルナツー方面軍がこの時期まで健在だったからこそ為しえた作戦」ばかりであり、これまでのワッケインの籠城が功を奏した瞬間であった。


◆チェンバロ作戦

「現在我が艦隊は、敵の宇宙要塞ソロモンから第三戦闘距離に位置している。以後は敵と我々のあいだを邪魔するものは一切ない。艦隊、横一文字隊形に移動!!」

ルナツーに戦力を終結させた連邦軍は、マクファティ・ティアンム提督のもと「チェンバロ作戦」を発令。
ワッケインはこの時期までに大佐に昇進し、ルナツー方面軍を再編した「第三艦隊」の司令官に就任。
旗艦マゼラン級レナウンに座乗し、ソロモンまでの道中でホワイトベースも傘下に加えて、ソロモン攻略戦に挑んだ。
作戦としては「主力ティアンム艦隊が対要塞兵器ソーラシステムを準備するまで、ジオン軍を引き付ける囮艦隊」の役割である。

このホワイトベースとの合流時に、作戦の説明がてら数か月ぶりにブライトと再会する。
前回は、敵中で孤立した軍の責任者という重圧ゆえか頑固さが表に出ていた*9が、今回は一見してブライトの成長ぶりを見出して喜んだり、アムロの秘められた才能を察していたりと、歴戦の軍人の余裕を見せていた。


ワッケインは作戦に従い、サイド4跡地から進撃して第三艦隊を横一文字に展開させ、正面からの正攻法によりソロモン攻略を開始。
まずパブリク隊によるビーム攪乱幕の形成に成功し、次いでジムとボールによるMS隊を発進させる。
ただ、ドズルは正面の第三艦隊の戦力が少ないと見て、ティアンムの本隊は別に来ると見ている。

しかし結果としてワッケイン艦隊は陽動作戦を成功させ、ティアンム艦隊のソーラシステム発射までの時間を稼ぐことに成功する。
ソーラシステム照射成功後はそのまま第三艦隊を進撃させ、ティアンム提督が戦死しながらも、ついにソロモンを陥落に追い込んだ。


◆テキサスコロニーの戦い

「よおし! 艦首を敵艦に向けろ! 砲撃戦、用意!」

ソロモンは攻略したものの、連邦軍はティアンム提督が戦死し、第二連合艦隊も大きな損害を出した。
そこで、ソロモン戦では動員されなかった第一連合艦隊が投入され、レビル将軍も旧ソロモンへの赴任が決定。
その艦隊再編のためか、第三艦隊は分散して、ソロモンから発した残敵掃討にあてられた。

ホワイトベース隊もその任務の一環でテキサスコロニー宙域に攻め込んでいたが、ワッケインもホワイトベース隊の支援のため、レナウン一隻でテキサス宙域に向かっていた。

その途上でレナウンは、緑色に塗装されたチベ級重巡洋艦を発見する。
これは同じくテキサス宙域に展開していたマ・クベ大佐およびデラミン准将の艦隊との合流を急ぐ、バロム大佐の旗艦だったが、バロムはワッケインのレナウンに気付かなかった。
ワッケインは直ちに攻撃を命令。初弾がチベの格納庫に直撃して、船体を貫通。
バロムの緑色のチベもすぐさま反撃を開始するが、最初の一撃の差*10と、戦艦の砲撃力の差が決定的となり、レナウンはチベを見事に仕留める。

また、バロムはデラミン艦隊と睨み合うホワイトベースの背後を突く予定だったが、このバロムをワッケインが奇襲したため、逆にデラミン艦隊がバロム救出のため動き出すことになる。
しかしそれゆえに艦隊の背後をホワイトベースに曝け出すこととなり、背後からの猛攻でデラミン艦隊も壊滅した。

その後、レナウンはホワイトベースと合流。
テキサスコロニー内部には先にガンダムがギャンを追って突撃してから帰ってこないため、ホワイトベースはコロニー内部に進入してガンダム捜索、レナウンはコロニーの外で待機することになった。
ワッケインは、デラミン艦隊を倒してテキサスに進むホワイトベースの姿を見て、彼らの成長を静かに喜んでいた。

「ホワイトベースか……逞しくなったものだ」

その後、テキサスコロニーを出港するシャアのザンジバルを発見。
ワッケインはレナウンでザンジバルを阻むべく砲撃を開始し、双方軍艦の姿がビームに埋まるほどの激闘が繰り広げられる。
しかし、ホワイトベースがテキサスコロニーを出たときには、レナウンは破壊され、ワッケイン司令も戦死していた。


「ホワイトベース、見せてくれよ。ルナツー以来のヒヨッコが、どう一人前になったか」

テレビ版では「ソロモン攻略戦」→「テキサス戦」だが、劇場版では「テキサス戦」→「ソロモン攻略戦」に変更された。
そのためワッケインはテキサス戦に参加せず、ソロモン攻略戦で戦死する。
作戦自体はテレビ版と変わらず、第三艦隊を率いて囮としてソロモンに攻め込むが、旗艦ゆえにジオン軍の集中攻撃を受け、次々と被弾していく。
しかしワッケインは一歩も退かず、ミサイルの全弾発射を敢行して、ムサイやチベを沈めながら艦と運命を共にした。


【人物】

「戦法は正攻法。突撃艦パブリクによるビーム攪乱幕を形成後、全艦正面より進行する!」

テレビ版の初登場時はいかにも「硬直した官僚主義的な、頭の固い高圧的な軍人」と描かれていた。
しかし、初登場回の終盤からは「理があれば他者の意見も受け入れることができ、個人としても深い情感を持った人物」ということが明らかとなる。

もともと、当時の地球連邦軍はガンダムを中心としたMSに関しては非常に神経質になっていた。
実際、後に登場するレビル将軍やマチルダ・アジャンは「勝手にMSを動かしたブライトたちの行為は間違いなく重罪」「本来なら終身刑が妥当で、軍に参加するから目こぼししているだけ」「勝手に持ち出したあげく敵に鹵獲されかけたセイラ・マスは銃殺刑が相当。レビル将軍が八方掛け合って、ニュータイプの研究という名目を与えることでやっと立功贖罪の機会を与えた」などと言及している。
そのためワッケインの拘禁は、頭の固い非現実的な措置どころか、妥当なものであった。

また彼はあくまでMSを封印しており、私物化しようとはしていない*11
当時のルナツー方面軍といえば、宇宙に孤立して地球からの増援もほぼ見込めず、それでいてゲリラ戦やなんやらで消耗していく……という状況であり*12
むしろワッケインたちこそ、目の前の新造艦とMSは喉から手が出るほどに欲しいものであったことは間違いない。
それでも「現場裁量でルナツー方面軍に組み込む」などという暴走はしなかったあたり、彼の厳格さは相当なものであった。
むしろこういう人物だからこそルナツーに閉じ込められた将兵の志気を束ねられたのかもしれない。

劇場版ではホワイトベースのクルーや難民たちに対して、面と向かっては厳格な態度で接しながら、それを見送る際には静かに涙ぐむ、という姿を見せる。
この際には副官とおぼしき人物からも意外そうな反応を返されている。

ソロモン攻略戦に再登場した際には、ブライトに対して「貴様も、いっぱしの指揮官面になってきたかな。結構なことだ」「(作戦を果たせるかと案じるブライトに)そんなことを考えられるようになったのも、だいぶ余裕が出てきた証拠だな。大丈夫だ」と成長を認め、アムロに対しても「素晴らしい才能の持ち主だ。彼は我々とは違う。そう思えるんだ」と発言している。
アムロとは直接の面識はほとんどないので、報告書などで彼の素質を見抜いていた模様。
ルナツーではジムの生産も行っていたが、パイロットの育成もやっていたと思われ*13、ほかのパイロットたちとアムロの「違い」も察せられるほど見てきたのだろう。


そうした人間性はホワイトベースのクルーにも伝わっていたようで、一度は拘留された関係でありながらも尊敬されており、ワッケインの死にはクルーの誰もが悼んだ。
特にブライトにとっては上級軍人としての鑑でもあり*14、テレビ版では涙ぐみながら敬礼をしている。


【各作品】

  • トミノメモ
シャリア・ブルゲルググに撃墜されて戦死する予定だったという。

「パイロット四名で三機のモビルスーツのフル稼働は辛かろうが、しばらくの辛抱だ。諸君ら以降のニュータイプを捜すのには骨が折れるのでな」

階級は初登場時から大佐。また、ルナツーにはより上位の軍人としてレビル大将も駐屯していた。
今回は彼の執務室も登場。殺風景な部屋に抽象画のレプリカが一つだけある、といういかにも彼らしい部屋。
言動はぶっきらぼうな印象を与えているが実は詩人でもあり、ルナツー基地のプライベート新聞にて、詩の批評をしていることも記述された。

当初はルナツー基地司令官だったが、ペガサス(小説版におけるホワイトベース)のルナツー合流後、当艦とマゼラン級ハルを中核とした「第13独立艦隊」の指揮官を拝命。
グラナダ方面に攻め込み、キシリアの軍勢を混乱させる陽動任務に就く。

アムロたちが正規のクルーということもあって、アニメ版のような拘束はしない。
アムロがザクを五機も撃墜した際には感状も出している。

ただ、前線の哨戒にガンダムも出せとブライトに命じたところ、ブライトから「アムロの過労が懸念される」という理由で反対され、「別のパイロットにガンダムを操縦させる」というワッケインの代案も「ガンダムはアムロの専任にしたい」と二重に反対されたために、ついにワッケインから叱責された、という一幕はあった。
ただ、アムロ一人に任せきるのではなく、ガンダムを中心にしてパブリク四隻も一緒に哨戒任務に出している。
また懸念は当たっており、偵察に出たアムロは早くも覚醒したニュータイプ能力もあって、敵艦隊の奇襲にギリギリながらも対応している。
ワッケイン艦隊はそのままテキサス・ゾーンでマ・クベ艦隊と交戦。激しい砲撃でチベを半壊に追い込むものの、直後に乗艦ハルを沈められて戦死する。

  • 漫画『機動戦士ガンダム0079』
テレビ版『機動戦士ガンダム』をフルコミカライズした作品だが、当初はルナツー編がかなりダイジェスト化されていた。なんとたった五ページに。
恐らく、前作『MS戦記』が打ち切りにあったため、本作も打ち切られるという懸念があり、完結を急いでルナツー編を早く進めたのだろう。
しかしその後は打ち切られる懸念がなくなり、本編は描写を増しつつ完結。
そのため通して読むとルナツー編だけが浮いていたが、完結から何年も後に別冊として『エピソード・ルナツー』が作られ、補完された。
またこの別冊『エピソード・ルナツー』では、ルナツーの方針をワッケインのほか数名の士官が合議制でやっていたらしい様子がある。

ルナツー編の後はソロモン攻略戦で再登場。テレビ版通り、ソロモン戦は突破するが、その後のテキサスで戦死する。
ブライトとの再会時にはテレビ版と同様に成長を認めるが、「大変な任務ですね」というブライトに「もともと我々に選択の余地などないのだよ。命令には従う、それが軍隊だ」と厳格さを見せながらも不敵に笑っている。
また、ソロモン攻略後、戦死したティアンム提督の後任としてコンペイトウに到着したレビルを出迎えたのがワッケインとなっている。

階級は、基地司令に相応の少将とされた。
また、階級が下のパオロ・カシアス中佐に敬語を使う理由として「パオロ中佐が兵学校教官時代の教え子だった」という設定も加わった。
パオロによるワッケインの総合評価は「理論・実習共に申し分なし。ただし、時として思考に柔軟性を欠く」。

過去編で描かれたルウム戦役では、分遣艦隊を率いていたが、シャアの率いるモビルスーツ部隊の待ち伏せにあい艦隊が壊滅、自身の乗る旗艦もシャアによって撃沈された。

本作ではキャラクターとしての重要性が映像版よりもアップ。
ソロモン攻略戦では限られた戦力でソロモンに対して苛烈な攻撃を展開。ドズルやラコックにも「陽動にしては強力すぎます」「連邦本隊に間違いない」と判断させるほどの奮闘を見せ、ティアンムからも「よくやっている」と評されるなど、優れた采配を見せた。
さらにはソロモンやテキサスでは戦死せず、なんとソーラ・レイの照射にも巻き込まれずに、戦死したレビル将軍に代わって連邦艦隊をまとめ上げて再編、ア・バオア・クー攻略戦を指揮した
なお、この際に階級が「中将」にあがっている。また彼の座乗艦は「ルザル」となっている。
しかしキャラデザは少し老けたぐらいであまり変わらず、ティアンムに比べてもかなり若いというか、高く見積もっても四十歳ぐらいと推測されるので、これはこれで階級との違和感が……

戦闘当初は後方から指揮を執っていたが、その背後にキシリア・ザビの移動要塞ドロスが出現。
前線部隊の挟撃を阻むべく、直属の艦隊を率いてドロス攻略に当たるが、ミノフスキー粒子の長距離狙撃妨害を克服したらしいドロスの超大型砲塔からの長距離射撃により艦艇を次々と破壊される。
正面決戦では勝ち目がないと判断したワッケインは、前線のホワイトベースたちに最後の指令を与えようとする中、ルザルが撃墜され、戦死。
しかし、ブライトは途切れたワッケインの最後の指令を読み取る。それは、ドロスの巨砲を撃ち込ませないためにも、遮二無二ア・バオア・クーに取り付き、その上でジオン首脳部を討ち取ることであった。

  • 漫画『MSV-R 虹霓のシン・マツナガ』
宇宙世紀0079年2月にはルナツー司令になっている。
襟章からの階級は『THE ORIGIN』に準じ、少将設定。
ジオン軍は月から地球にマスドライバーを使った攻撃を繰り広げており、ジャブローのゴップから「連邦軍の存在感を示す、なんらかの戦果を上げてくれ」と求められていた。
ワッケインは「ルナツーの戦力不足」を訴えつつも、いざとなればルナツーを月にぶつける覚悟まで伝えるが、これは諌められた。
落とすものが違うものの、『GQuuuuuuX』でマジで決行に移すとはこの時読者も予想できるはずがない


【余談】

フルネームに関しては漫画『アウターガンダム』にてヴォルフガング・ワッケインとされた。
本作は独自設定が多く、パラレル色が強い作品だが、カードゲーム『ガンダムウォー』やゲーム『ガンダムバトルユニバース』などで採用されたり、ゲーム『エンブレム・オブ・ガンダム』でW・ワッケインとされたりと、ほぼ公式化している模様。
少なくとも「ミゲル」か「A」かで定まらない「黒い三連星」のガイアよりは定着している模様
ただし「なんでドイツ系なのに姓だけ英語読みなんだよ、ヴァツケインじゃないとおかしいだろ」というツッコミも生まれた。
案外、英国系とドイツ系の混血なのかもしれない。アムロ・レイは実は日系人で「アムロ・嶺」とする資料も稀にあるが、「アムロ」はどう見ても日本系の名前ではないし、ハヤト・コバヤシについて「混血でない日本人は珍しい」という裏設定があったりするので、意外と混血を重ねたスペースノイドかも。


劇場版「めぐりあい宇宙」ではソロモン攻略戦で戦死している。
しかしその後のア・バオア・クー攻略戦の最中、連邦軍正面艦隊のマゼラン級艦長(艦隊司令?)にワッケインの作画が使い回され、「復活」したように見えてしまう。
声優も同じで「全MS隊、発進!!」とボイス付きで登場し、さらに混乱を煽った。
その直後にマゼランは撃沈されたため、この指揮官も戦死したと思われる。





「これが現在、我々の目にしている項目だ」
「ホワイトベースは我々と共に、追記・修正の先鋒に当たる」

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最終更新:2025年05月10日 22:20

*1 木原氏はTV版にてシャリア・ブルを担当。

*2 ジャブローの出入り口がどこにあるかは、それこそジオンが血眼で探している最重要目標である。地上のジャブローから宇宙のルナツーに援軍を出すには打ち上げ施設を開かねばならず、そんなことをすれば衛星軌道からの監視船に即座に見つかり、ジオンの大軍が殺到するだろう。

*3 ジャブロー以外の基地からの援軍打ち上げも厳しいだろう。打ち上げる輸送船は即座にジオンに捕縛されかねない状況である……。

*4 正確にはライヤーは「東南アジア方面軍の機械化連隊の司令官」ではあるが、内通疑惑のある将兵の処分にも強い進言ができるほどの権限がある。

*5 当直の司令官というのは本来の総司令官が仮眠を取るなどで不在の時の代行役であり、ヤバい状況になったら総司令官が戻るまで「耐え凌ぐ」のが役目であり、ホワイトベースの封印とかシャアが攻めてきてドックが破壊されるまで1人で指揮するのは権限を越えている。

*6 実は企画段階ではワッケインの上官として「ハムスキー提督」という人物が登場予定だったらしい。

*7 緑色のサラミス、灰色のマゼラン、といった珍しい艦も見られる。

*8 ただしパオロはすでに致命傷を負っていたと思しき様子もあり、この件がなくても負傷から回復した可能性は低い。

*9 地上に降りて敵中に孤立していた時期のブライトや、オデッサ攻略戦時の連邦軍に迫られた時期のマ・クベ、ソロモン戦が近づいた時期のドズルも、責任の重大さと後の無さ故か部下たちを怒鳴りつける描写が多かった。

*10 チベもMSを積んでいたと思われるが、よりによって格納庫を撃ち抜かれており、艦載機は全滅したと思われる。

*11 例えば「ガンダムSEED」で似た立場にいたジェラード・ガルシア少将はガンダムやアークエンジェルを押収し、それを手土産に僻地から中央へ復権する積もりだった。

*12 そもそもFG一話でシャアがホワイトベースを見つけたのも、ゲリラ掃討作戦を達成した帰りである。そのゲリラ部隊の出所と言えば、十中八九ルナツーだろう。

*13 「宇宙空間の訓練」ができるのも、当時はルナツー方面軍ぐらいのものだろう。

*14 レビルとは立場が違いすぎ、ティアンムとは対面するシーンがない。