シャリア・ブル

登録日:2019/03/10 Sun 21:00:00
更新日:2020/02/07 Fri 17:05:40
所要時間:約 20 分で読めます






「『シャリア・ブルに関するニュータイプの発生形態』……わたくしに、その才能があると?」


【概要】

シャリア・ブルは、機動戦士ガンダムの登場人物。
ジオン公国軍に所属する軍人である。
登場エピソードは「ニュータイプ、シャリア・ブル」のみ。

CV:木原正二郎 (GUNDAM EVOLVE../15では小山力也) /広川太一郎 (GUNDAM GジェネレーションF)


【風貌】

毛髪の色は明るいグレー、もしくはシルバー。七三分けにしたウェーブかかった髪と優雅な口ひげが特徴で、まるで貴族のような風格を備えている。
しかし眼の周囲にはしわが寄っており、彫りが深いこともあってどちらかというと老けてみえる顔立ちをしている。
瞳の色は深いブルーで、いい意味でガンダム世界には珍しい、紳士的な風貌の人物

ちなみに、設定がだいぶ異なるが小説版だとなんと二十八歳と書かれていた。しかし風貌と合わなさすぎで、シャア・アズナブルからも「老けてみえる」と内心でつぶやかれていた。


【作中の活動】


【前歴】

もともとはジオン公国における、木星開拓船団の一員だった人物。
軍籍があり、一年戦争末期時点で大尉。大量のヘリウムの採掘と輸送に成功しており、これを持ち帰ったことでギレンからも「今回のきみの船団の帰還で、ヘリウムの心配はいらんわけだ」と誉められていた。
これ以前の前歴は不明。小説版だと天涯孤独の身とされる。

この木星開発というのは宇宙世紀の世界ではもっともフロンティア精神に満ちあふれた事業であり、かなりの歴史があるのだ*1が、あまりにも地球圏から離れすぎてしまうために死と隣り合わせ、善くも悪くも地球人としての常識やアイデンティティを失ってしまう任務でもあった。
これから半世紀後には「木星圏」というべき独自の文化圏を作り、ついには「木星帝国」が産まれてしまうほどである。

そんななかにあって、シャリアの危機に関する直感と対応の巧みさは群を抜いており、ついには「ニュータイプとしての才能がある」として極秘に調査がなされるほどになっていた。
そして、一年戦争末期に「ニュータイプ」および「サイコミュ兵器」が開発されるようになったため、折しも木星から帰還したシャリアは木星船団から引き抜かれ、総帥ギレン・ザビに抜擢されることになった。なったのだが……


【謁見】

ギレンに謁見したシャリアは、当初こそ軽いジョークを交えつつ冷静に話を受けていた。
しかしやがて、ギレンから『シャリア・ブルに関するニュータイプの発生形態』なる報告書を見せられてしまい、流れが変わってしまう。
自分がニュータイプなどといわれても信じられなかったシャリアだが、フラナガン機関に検討させたうえでできあがった報告書であることや、それを読んだうえで「その才能を役立ててほしい」といわれてしまう。
動揺したシャリアは、つい先走ってしまった。

「キシリアどののもとへ、行けと!!?」
「ほーう……言わぬ先からよくわかったな……」
答えたギレンは、口だけが笑っていた。……冷たい両目は、まるで獲物をいたぶる毒蛇のように歪んでいた。

「………………」
シャリアは聡明だった。そして、自分の才能だけで突っ走れるほど鈍感ではなかった。
――静かに視線を下ろして、シャリア・ブルは沈黙した。彼はもう、すべてを理解してしまったのかもしれない。

「キシリアのもとで、きみの即戦力を利用したモビルアーマーの用意が進められている」
「……お言葉とあらば」
「ウム。空母ドロスが用意してある」
「はっ」
よけいなことを言わずに、立ち上がったシャリアは固すぎる敬礼を返す。

しかし……ギレンはそれでも彼を開放してはくれなかった。軽く挙げた右手で呼び止め、わざとらしい笑顔でシャリア・ブルに語りかける。

「私がなぜきみをキシリアのもとにやるかわかるか?」
「はッ!? ッ………………!!」

シャリア・ブルは凍りついた。彼の目の前には、仮面のような笑顔でこちらをのぞき込んでくる、ギレン・ザビ総帥がいる。

「………………」
……彼は聡明だった。そして、自分の才能に驕って突っ走れるほど鈍感ではなかった。

「私には、閣下の深いお考えはわかりません。しかし……わかるように努力するつもりであります」
「それでいい、シャリア・ブル。ひとの心を覗きすぎるのは、己の身を滅ぼすことになる。ただ、私がきみをキシリアのもとにやることの意味は考えてくれ」

そう宣告したギレンの顔には、あの笑顔は消え去っていた。
シャリアは無言で敬礼を返して、ギレンの広すぎる執務室を去っていった。



【シャアとの邂逅】


その後、シャリアを乗せた大型空母ドロスはサイド3からグラナダへと移動。
シムス・アル・バハロフ中尉と合流して試作型MAブラウ・ブロを受領したうえで、前線のザンジバル級機動巡洋艦へと差し向けられた。
ちなみに、キシリアからは「能力がララァ以上ならエルメスをシャリアに任せることも考えねばならん」「木星帰りの男か。ララァよりも期待できるかも知れん」といわしめていた。

ザンジバルでは、ブラウ・ブロに先だって実戦テストを済ませていたエルメスと、そのパイロットのララァ・スン少尉、そして指揮官のシャア・アズナブル大佐がいた。
……ブリッジに入ったシャリア・ブルは、なぜかシムス中尉に促されるまで一言も口を利かなかった。
入ってからずっと、ララァを見つめていたのである。

「……なるほど。大佐、この少女、ああいや、ララァ少尉からはなにかを感じます。そう、力のようなものを……」
「……で? 大尉は私からなにを感じるのかね?」
シャアの言葉には、押さえ切れない刺があった。

「いや! わたくしは、大佐のようなお方は好きです! お心は大きくお持ちいただけると、ジオンのためにすばらしいことだと思われますな!」
早口でまくしたてたシャリアに対して、シャアは「よい忠告として受け取っておこう。私はまた友人が増えたようだ」と、ごまかしとも折り合いを付けたとも取れる言葉を返した*2

「よろしく頼む、大尉」
「いえ……」
笑顔で握手を交わすふたり。
しかし――ここでシャリアは、ギレンが戒めたはずの「ひとの心を覗きすぎる」ような言葉を続けた。


「もし、我々がニュータイプなら、ニュータイプ全体の平和のために案ずるのです!」
「……人類全体のために、という意味にとっていいのだな?」
「はいッ!!」
その最後の頷きは、これまで聞いたこともないほどに力の込められた音だった。


「ララァ! わかるか! 大尉の仰ることを!」
「はい……」
一瞬伏せた眼を、改めてシャリアに向けるララァ。淡いグリーンと深いブルーの、ともにハイライトの射さない瞳がわずかに交錯した。
「うむ……ララァ少尉はよい力をお持ちのようだな」

「だがなシャリア・ブル」
ふたりを遮るようにシャアが続ける。それはもう軍人としての会話だった。
「やっかいなことは、ガンダムというMSのパイロットが、ニュータイプらしい。つまり連邦はすでにニュータイプを実戦に投入しているということだ」
「はっ、ありうることで……」
頷いたシャリアは、ついに両目を伏せた。



【アムロ・レイとの邂逅】


直後、ブラウ・ブロはたった一機でザンジバルから発して、旧ソロモン――現在の「コンペイトウ」――へと向かってしまった。
本人はブラウ・ブロのテストをしたいと強く求めていた(シャア曰く律儀すぎる)が、それにしてもエルメスやザンジバル隊の支援もつけないのは異様である。
そんな彼の様子と上司の言動を咎めるララァだったが、シャアはエルメスとララァの調整が万全になるまで出撃はさせないといい、
「上司の心づかいを無下にできない」状況になったララァは抗弁できなくなった。
それは、まるでギレンに対して韜晦したシャリアそのものだった。もっとも、彼女たちはそんなことは知りもしないだろうが……



シムス中尉とともにブラウ・ブロに乗り込んだシャリアは、まっすぐにホワイトベースへと突撃。さっそくガンダムの反応をキャッチし、交戦態勢に入る。
太陽からの光を反射して、青く輝く地球をまっすぐに見つめて――

――シャリアの眼前を、白い光が走った。それはガンダムとつながる光だった。

「こ……これは……すごい!! 敵のパイロットはこちらの位置と地球の一直線を読めるのか!?」

おののくシャリア。彼の視線には青い光の塊となった地球に、埋もれるように迫ってくるガンダムの姿がはっきりと映っていた。
ブラウ・ブロとガンダムは太陽と地球のあいだにはさまれていたということだ。
太陽を背にしたブラウ・ブロは肉眼では視認できないはずなのに、ガンダムはまっすぐブラウ・ブロに迫ってくる。


ガンダムがビームライフルを放つ。それはアムロ・レイ必殺の狙撃だった。
しかしシャリアのブラウ・ブロは最小限の動きでそれを回避してしまった。

「なにっ!? 違うぞ、さっきとは!!?」

驚愕するアムロ。数日前にブラウ・ブロと小競り合いを起こしたときとは、まったく異なる動きだった。
さらにシャリアはブラウ・ブロの攻撃端末を切り放し、全方位から包み込むようにメガ粒子砲を打ち込む。
ふつうのパイロットなら確実にメガ粒子の奔流に飲み込まれてしまう攻撃……だが、ガンダムは限界以上のスピードでこれをかわしていく。

それは実際に「限界以上」だった。アムロはガンダムの性能以上の反射能力で間一髪、シャリアの攻撃を捌いていた。しかしそれは、ガンダムの能力ではシャリアとブラウ・ブロには対抗できないことを意味する。
同時に、アムロは劣る機体でシャリアを相手に持ちこたえているということだ。

「すごいモビルスーツとパイロットだ! あのパイロットこそ真のニュータイプに違いない! そうでなければ、このブラウ・ブロのオールレンジ攻撃を避けられるわけがない!」

ブラウ・ブロの広いコックピットで、シャリアは敵が自分以上のニュータイプとはっきり認識した。


その一瞬気がそれたところで、ホワイトベース隊の攻撃隊も参戦。しかしシャリアは、オールレンジ攻撃を総動員してガンキャノンの脚を吹っ飛ばし、ガンタンクGファイターを翻弄する。
しかしアムロだけは依然として飛び回り、シャリアの攻撃を避け続ける。

「ガンダムの反応が遅い!!?」
「あのパイロットは、反対側からの攻撃も読んだ!!?」

人間では絶対に為しえない反応と行動――それは、アムロが急速にニュータイプとして、戦場のすべてを把握し始めていたことに他ならなかった。
さらにアムロはビームライフルでブラウ・ブロの攻撃端末を一つ撃ち落とす。が、そこでついにコックピットに火花が散った。

「お、オーバーヒートだ!!」

ガンダムは、ついに耐えられる限界を突破してしまったのだ。
だが――――――

「!? ―――・――――・―――――!!!!」

アムロの視界で、なにかが光り、そのなかに赤い線がよぎって描いた。
「敵は――――――ッ!!!」

「んっ!? なんだ!!?」
シャリアの視界にもそれが逆流した。
「――見つけたのか!!」

モニターに映るガンダムは、まっすぐにこちらに向かってくる。

「シムス中尉!! 逃げろ!!」
「えっ!?」
その絶叫がシャリアの最期だった。

ブラウ・ブロの攻撃端末が蛇のような動きで襲いかかるが、ガンダムは恐るべきスピードで掻い潜り、まっすぐブラウ・ブロの横腹に飛び込んだ。
ブラウ・ブロの三つのブロックが一本のメガ粒子ビームに貫かれ、やがて大きな光球を残して消滅した。



シャアはザンジバルの艦橋で、一部始終を確認していた。
そんなシャアにララァは「いますぐエルメスで出ればガンダムを倒せます」と訴えるが、シャアは「ソロモンにいるガンダムは危険だ」としてそれを却下する。
だがそれは、あくまで表向きの理由でしかなかった。実際、説得力には欠けている。

「……それに、シャリア・ブルのことも考えてやるんだ。
彼はギレンさまとキシリアさまのあいだで、器用に立ち回れぬ自分を知っていた不幸な男だ。……潔く死なせてやれただけでも、彼にとって……」
そこまで語って、シャアは頭を垂れた。シャリアへの哀悼であり、自分に置き換えての言葉でもあった。

「ララァ! ニュータイプは万能ではない。戦争の生み出した、人類の哀しい変種かも知れんのだ!」
その言葉は、ガンダムシリーズの「ニュータイプ」という存在について、どこまでも真を突いた一言であった。



【キャラクター性】

登場エピソードは「ニュータイプ、シャリア・ブル」の一話のみ。しかもシャリアはこの一件で死亡し、以後はよりニュータイプとして深く覚醒するララァとアムロのほうに重点が置かれ、あまり目立った存在ではない。
おまけにハイライト化した劇場版ではアニメーションディレクターの安彦良和氏から「いらない」と反対され、まるごとカットされてしまう。

しかしシャリアのエピソードは、これひとつだけでもニュータイプの限界と社会への無力さが理解でき、非常に重たいものとなっている。
はっきり言って子供向けな要素は絶無だが、大人の視点で読むとなんとも言いがたい感触に陥るだろう。


【性格】

ありとあらゆる意味でガンダム世界には珍しい、謹厳実直で誠実な人物
ギレンとの謁見やシャア・ララァとの会話ではそれが如実に現れている。

シャリアが特筆するべきなのは、アムロやシャア、ララァを初めとしたほかのニュータイプと比較して、落ち着きがあって紳士的で、他人のことを配慮して行動できる人物だということだろう。
ガンダムシリーズに登場するニュータイプは、ほとんどがエキセントリックで常識外れ、自分の能力に振り回されて周囲に反感をまき散らし、特殊性癖を振りかざしてはドン引きされる、という特徴がある。
「親父にだってぶたれたことないのに!!」という迷言を残したアムロ・レイが、ニュータイプ全体ではトップクラスの常識人、というとその無法っぷりがわかるだろうか。

そんななかにあって、シャリアは非常に落ち着いた言動、言葉を選んで発言する慎重さ、自然に出せる周囲への配慮、ギレンからも抜擢される洞察力、そして紳士的な気品、といった「大人らしさ」を高いレベルで保有している
正直、どいつもこいつもエゴ剥き出し、下品なキャラがまかり通るガンダム世界では、逆に浮きすぎているぐらいである。


しかし、そんなシャリアの最期はとにかくやるせない、悲哀に満ちたものになった。

シャリア・ブルは、前述の謹厳実直で落ち着きのある性格に加えて、他人の考えを察することのできる非常に優れた観察力洞察力があった(これは、ニュータイプ的な特殊能力ではなく、知性と勘を磨いたことによる人間的な能力であるが)。
同時に、他者の心情に配慮し、あえてごまかすこともできる、気配りのうまさもある。
ところが、そうした人間同士では美徳とされる要素が、「権力者」であるギレンの目に留まったばっかりに、ギレンからキシリアへの牽制役、スパイ役として抜擢される羽目になってしまった。
権力闘争の道具に使われたのである。

あるいはシャリアが野心家だったなら、開き直ってギレンの走狗を努めて権力を握れたかもしれない。
しかしシャアいわく「律儀すぎる」ほどに実直で温厚、かつ常識人であり、言ってしまうと凡人的、サラリーマン的な精神を持っていた彼にとって、ギレンとキシリアというふたりの強力な権力者のあいだを立ち回るのは、精神的にも人間的にも苦しいものだった


そして、シャア・ララァとの対談を経て、シャアに伝えたいことを伝えたシャリアは、いきなりひとりで出陣して戦死してしまう。
その最後の出撃では、アムロを「あれこそ真のニュータイプに違いない」と称するなど、自分のニュータイプの素質を否定した発言が目立つ
彼の死後にシャアが打ち明けるように、シャリアは政争の道具として生きねばならないことに絶望し、『アムロのガンダムと互角に戦って、名誉の戦死を遂げる』という自殺の道を選んでいたのだ。

最後にシャアは「ニュータイプは万能ではない。戦争の生み出した、人類の哀しい変種かも知れんのだ!」と厳しい言葉で締め括るが、本編で描かれるニュータイプの狂奔ぶりを思うと、実に穿った言葉であった。
シャリアはほかのニュータイプが持たない(あるいは持つまえにニュータイプ的能力を得てしまった)社交性・対人コミュニケーション能力を持っていたが、そんな彼でもニュータイプの狂奔の渦からは逃れられなかった
そして、彼のあとに続くニュータイプは、シャアやアムロを含めてますます混迷の度合いを深めていく。



【シャアとの対談】


ここでシャリアは、最初こそララァのニュータイプの能力に素直に感心していたが、シャアの「私からなにを感じるかね?」という言葉にあわてて「大佐のようなお方は好きです! お心は大きくお持ちいただけると、ジオンのためにすばらしいことだと思われますな!」と語調を強めて答えになっていない返答を返している。
この場面のシャリアは、ギレンとの謁見で釘を刺された通り、シャアの心を洞察しながらもあえてはぐらかしたようだ。実際、シャアはこれを「忠告」と捉えている。

おもしろいのはその後、ララァを前にしたうえで「ニュータイプ全体の平和のために案ずるのです」と繋げている。
それに対してシャアが「(ニュータイプ全体とは)人類全体、という意味か」と訪ね、それをいつになく強い語調で肯定している。
これは、本編通じて唯一のシャリアからの訴えである

「ガンダム」シリーズでニュータイプには二通りの意味がある。
ひとつは、強力な脳波やフィーリングでサイコミュを操るエスパー的・超能力者的なニュータイプ。強化人間が目指す対象でもある。
もうひとつは宇宙移民者そのものを指す言葉で、スペースノイドとほぼ同義である。ジオン・ダイクンは、宇宙という環境で過ごしていれば、人類のこれまでとは感性なりなんなりが大きく変わっていくだろうと考えた。
シャリアが「ニュータイプ全体の平和」と言い、シャアが「人類全体」と言い換えたのは、恐らくは後者のことであろう。

シャアはここで「宇宙移民者としてのニュータイプの未来」という考えに確信を持ったのだろう。
それは、のちのZ以降の彼の行動にも大きな影響を与えたようだ。あるいは、「逆襲のシャア」の萌芽はすでにこの頃からあったのかもしれない。



【小説版】

テレビ版の彼は、重要キャラではありながらも、演出的にはララァ・スンの前座という扱いであった。
しかし、ストーリーが全然違うことで知られる小説版では、シャリアはなんとララァ以上の重要キャラクターとして登場する


小説版は映像版とストーリーがまったく違うのだが、ララァが上巻で早くも戦死してしまうのも大きい(一番大きいとは言ってない)。
その後、ジオンはシャアの指揮する第300連隊(旗艦ザンジバル級マダガスカル)に、エルメス二号機とニュータイプ、クスコ・アル、それに七機のリック・ドムを配備する(七機のうちひとつはシャア用)。
そのリック・ドム隊のなかにシャリア・ブルがいるのだが、ギレンの差し金でキシリア編成のニュータイプ部隊に派遣されたというのは変わらない。

しかし、シャアとの面談からはすぐに意気投合し、実質彼の右腕として活動するようになる。

ジオン・ダイクンのニュータイプ論に魅かれると語っており、シャアとともにその理想を実現できると考え、「ニュータイプのための世直し」を自分たちでやろうと考えている。
テレビ版ではシャアに託して自分は死んでしまった「ニュータイプ=人類全体のための戦い」を、シャアとシャリアが実現しようというのである。
こちらでは、テレビ版のような厭世的なふうはあまりなく、シャアとともに強い理想を抱きながらも、クスコ・アルほど我執は強くない。
シャアが精神的に成熟しているのもあって、パートナー、相棒として活躍する。

パイロットとしての腕前も非常に高く、連邦が占領・建設した月基地を威力偵察した場面では、迎撃に出たアムロのG-3ガンダムの狙撃を二連続で回避し、互角以上に奮闘。
アムロやシャアからも「シャア以上のニュータイプ」と感じさせ、エルメスのクスコ・アルが自信をなくすほどだった。
コレヒドールの死闘では、殿軍を努めるシャアに代わってMS隊の撤収を指揮しながら、アムロを牽制してシャアを援護するという離れ業を演じてみせている。
終盤でブラウ・ブロに乗り換えてからは、初めて乗るMAにもかかわらずアムロの超人的な連射*3を回避すると言う超人的な反応を見せる。


コレヒドール戦でクスコ・アルも戦死したため、いよいよシャリアが最後のエスパー的ニュータイプとなり、彼の重要度はいよいよアップ。
シャアも、シャリアたちの前では自分のマスクを外してみせるほどになった。

「総帥の前でも外さないですませてきたのだが、諸君らの前ではガードはやめた」

この場面で、シャリアはシャアについて「意外と険のないその素顔に感嘆した」としている。ギレンやキシリアのように、厳つさや鋭さのある表情を感じていたらしい*4


そしてこの場面で、シャリアはジオン防衛戦の強さやソーラ・レイの存在、ギレンの性格やレビルの焦り、そして地球連邦の歴史的な無意味さ*5など、さまざまな情報を正確に洞察していた
さらには、クスコ・アルから聞いた特徴だけでアムロの性格まで把握し、彼と協力すれば、歴史の流れの中心を掴むことができるのではないか、という、のちのストーリーに大きく関わる提言をしている。

人間関係にできた人物という特徴はここでも発揮されており、シャアの心のなかに残っていたわだかまりをも捉えてなだめている。
「申し上げにくいのですが、中佐はアムロ・レイに偏見を持ちすぎてはいませんか? すでに彼とは接触なさっているはずです。中佐が率直に問いかければ彼は応えるでしょう?」

ちなみに、このシャアの偏見というのは、シャリア配属前のララァの件とか、シャアのプライベートであるアルテイシアの件とかで、シャリアはどれも知らないこと。もちろん、エスパー的に読み取ったのではなく、人間的な洞察力のたまものである。
正直彼ぐらいの人が本編にいたらシャアもああいうふうにはならなかったのだが……


幸いというか、そのアムロたちはより戦局を洞察しており、ギレンを直接討ち取って歴史の流れを変え、かつ連邦の象徴する古い時代からの変革ができないかと考えていた。
しかも、ペガサスジュニア単独では無理でも、シャアと協力すれば可能かも知れないと考えるところまでいたっていたのである。


そんなことまでは知らないながらも、シャリアはMAブラウ・ブロを用い、アムロとコンタクトを取ってシャアと協力できるよう、双方を導くことを決意する。
この瞬間から、シャリアはシャアすらも抜いて、ストーリーの中核となったのだ。

「お互いに死ぬなよ。殊にガンダムだ。奴は戦争の道具になりすぎている」
「フフ……。アムロ・レイ、率直な青年なのでしょう? 私はうらやましく思います」
「率直は決して美徳ではないよ。大尉」
「いえ、我々が屈折しすぎているのです。中佐……いえ、キャスバル・ダイクン」


しかし歴史とはそう都合よくは行かない。
まず戦局はシャアたちの頭上で進行している。ランドルフ・ワイゲルマン中将の指揮するア・バオア・クー防衛戦は鉄壁を誇り、レビル艦隊は特攻の体を見せつつある。
さらにサイド3に残っていたギレンは切り札ソーラ・レイで、レビルだけでなくそこに駐留していたキシリアまで焼き払おうと考えていた。
そのためには、ギレン腹心のランドルフやア・バオア・クー要塞、大多数の自軍将兵をも巻き込むつもりでいる。
シャアたちはキシリアとの相談でギレンの陰謀を見抜いており、アムロたちと接触するとともに、ア・バオア・クーを脱出してソーラ・レイの攻撃から離脱しようとしていた。


ところが、その戦場のど真ん中に、ソーラ・レイの第一射が打ち込まれた。
出力35%のテスト発射だったが、それだけでも連邦軍カラル中将艦隊といくらかのジオン艦艇を消滅させた。
その蒸発した兵士たちの、死の怨念、断末魔の咆哮、憎悪の塊が、ニュータイプとして敏感になりつつあったひとびとの精神に津波のような勢いで襲いかかった。
アムロやセイラ、カイやハヤトはもちろん、レビル将軍ブライト・ノアまでもがその衝撃を受けた。

それは、ソーラ・レイの存在や発射時刻を知っていたシャアやシャリアすらも例外ではなかった。
この時のシャリアの衝撃はアムロたち以上で、死んでしまったほうが楽だ!と叫び、この恐怖は死んでも魂に残る、と諦観するほどになった。

それでもシャリアはなんとかアムロを発見し、ブラウ・ブロの有線端末を伸ばして、その端末が発するわずかなサイコウェーブをガンダムに向けて発信した。
ギレンを倒してひとまず戦争を終わらせ、そのうえで新しい歴史を切り開くため、まずは自分たちと合流して、一緒にア・バオア・クーを脱出してほしい! この宙域はすぐにソーラ・レイで、敵も味方も消し飛ばされるのだから! ――と。


だが、ここでシャリアは過ちを犯していた。ただでさえソーラ・レイの攻撃で、シャリアもアムロもパニックに陥っている。そんな精神状態で、だれも経験のない「サイコミュによる交信」という半ば不合理なものに頼ったために、アムロはシャリアの意図を読み違えて逆上してしまったのだ。
もしこの時、シャリアがレーザー通信など「ふつうの方法」で通信していたなら、アムロはそれが自分たちで討論しレビルも許可したテーマと合致すると理解し、手を組めたのだが――

(連邦のニュータイプよ、協同してくれ!)
「ええい!」
あまりにも乱暴的でありすぎたシャリアのサイコウェーブは、アムロを苦しめ追いつめてしまうものだった。
いつもは穏やかで紳士的で、人への洞察力とコミュニケーション能力に長けるシャリア・ブルが、人生で最も大事なこの局面でそれを忘れたのだ。


パニックに陥ったアムロが目にも留まらぬ勢いでバズーカを連続狙撃し、それをシャリアも超人的スピードで回避する。
さらに、シャリアが展開したブラウ・ブロの有線端末はビームを発射せざるを得ず、それがますますアムロを恐怖させてしまう。
そして、カイとハヤトのガンキャノンがアムロを支援し、シャリアの意識が一瞬それた瞬間、ガンダムのビームライフルの閃光がブラウ・ブロのコックピックを狙撃した。

(情緒不安定なパイロットが!)

それが、シャリア・ブルの最期の思惟だった。



しかしシャリアが死んだ瞬間、彼の発していた念波はやっとアムロに直撃し、彼に物事のすべてを理解させることになる。
アムロもその直後に戦死したが、シャリアの意志を取り込んでさらに成長していたアムロのサイコウェーブは戦場の全域、そして遠くルナツー、あるいは宇宙全域にまで広がり、一部のひとびとの意識を変えて歴史の流れを動かし、新しい宇宙移民者の時代を開く道標となった。



アニメ版の彼は、人間社会の軋轢によって苦しめられ、自らの死を選ぶほどに憔悴した、大人らしい悲哀さがにじみ出る結末だったが、
小説版の彼は同じキャラクター性ながらも、逆に大人らしい希望を抱き、そのために奮闘する展開となり、
これはこれでシャリアらしく、かつ大人の心にもよく響く存在となっている。

富野氏にとってはかなり重要なキャラクターだったのではないだろうか。





【THE ORIGINのシャリア・ブル】


(ジオン十字勲章のオレが、あんな小娘と並べられてたまるか!!)

劇場版で「シャリア・ブルはいらない」と反対した安彦氏が描いた本作では、テレビ版・小説版とは悪い意味で真逆のキャラクターとなっている。

簡単にいうと「狂信的な国粋主義者で、狂気的なギレン信者」
エギーユ・デラーズかなんかと間違えたんじゃないか? と言いたくなる性格で、かなりの危険人物。
プライドも高すぎて傲慢なほどであり、ララァのことも自分と並び立ったというだけの理由で心から軽蔑し、嫌悪した。
枯れた老人のようなテレビ版とは見た目も異なり、ふさふさの黒髪・黒ひげに野心と欲望でぎらついた顔立ちで、まるでギュネイ・ガスのような印象になっている。

エスパー的ニュータイプの素養があったため、ギレンの特命でブラウ・ブロのパイロットに任命されるが、原作のような大人らしい駆け引き・配慮はまったくない。
さらに内心ではこの任務についても「実験動物」と感じて強い不満を持っており、撃墜されたときにはその恨み節をギレンにぶつけていた。
信奉しているはずのギレンの指示にも、自分の意と合わなければ不満を抱く様を見ると、彼が本当に抱いていたのは公国やギレンへの忠誠ですらなく、自分自身の才能をひけらかして名誉に浸ることであったようだ。

これはまさしく「生の感情丸出しで戦う」「品性を求めるなど絶望的」な姿であり、悪い意味で典型的なニュータイプ、強化人間の姿に陥ってしまった。

こんな性格ではブラウ・ブロの性能も生かせず、アムロの挑発に乗って大型機が動きにくいコロニー内部に誘い込まれ、袋叩きにされるというみじめな最期を迎えた。
シャアからは「所詮きさまもそこまでの男か」と失望しきった独白をされた。
この後原作でいいとこがなかったシャア専用ゲルググがガンダムを追い詰める事ができたのはここでガンダムが消耗したのも一因なので、シャリアはある意味シャア専用ゲルググにとっては恩人である。

あと、「テキサスが舞台」「シャアやララァの前座」「シャアたちに強い敵愾心を持つ」「ザビ家新派」「我欲が強過ぎ」という数々のポイントを見ると、
おそらくテレビ版マ・クベギャン搭乗時)の代役と思われる。
ORIGIN版のマ・クベは「誰だお前」レベルの「きれいなマ」だったが、この想像が正しければシャリアはマ・クベの搾り滓にされたことになる。


もともと安彦氏は劇場版制作にあたってシャリアの存在を削るよう進言したらしいが、安彦氏はシャリアのことが嫌いだったのだろうか?




【余談】

「ニュータイプ」としてごく初期の登場人物であるとともに、同時にシリーズで初めて登場した「木星帰りの男」でもある。
しかし共通点の多いパプテマス・シロッコとも人物像はかなり違う。


木星開拓団の一員だったという事情からして、年代的にクラックス・ドゥガチ(当時三十代後半~四十代?)とも面識があったと思われる
(クラックスは0133時点で九十代らしい。仮に九〇歳ちょうどとすると0079時点で36歳ぐらいとなる)




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