Bad City 3 : Ghost in the Shell ◆gry038wOvE




 警察署内に入ると、会議室で情報交換が始まった。
 今度は順序よく、これまでの経緯を一人ずつ、ゆっくりと順を追って話していく事になっていた。全員がメモを準備して、行き渡る情報をメモすべくペンを握る。孤門たちが先ほど見つけたガイアメモリに関するポスターも既にダークプリキュアを含む全員の手に行き渡っていた。
 最初に自己紹介と殺し合い以前の経緯、殺し合い後の動向や人物に関する知識が話される。孤門に続き、沖。そこから、アインハルト、いつき、源太、美希、ヴィヴィオと自分が知る情報を話していく。

しばらく、情報交換は続いた。七人分の話は一時間では収まりきらないが、美希のように内容の殆どが孤門やいつきと同じ者もいるので、後半になるにつれかける時間は少なく済んだ。
 孤門と美希や、いつきと沖のように、長時間共に行動していた人間が多いせいというのもあるだろう。
 あらゆる重要情報が開示され、ある者の話とある者の話がリンクする事もあった。
 知り合いの死に方を知って涙ぐむ者もいた。
 ある者に対しての決意を改める者もいた。







 彼らの手元には、注釈を入れた名簿が出来上がっていた。
 かなりの人数のデータが更新されている。
 これが彼らの名簿によるデータである。一部、伏せられた話もあった(いつきによるゆりに関する考察、いつきが聞いた流ノ介による丈瑠の考察など)。
 ○が生存、●が死亡。△が安全、▲が危険人物、△・▲の表記がないものは不明となる。


●▲相羽シンヤ/「相羽タカヤ」と接点あり(弟)。テッカマンエビル。
○△相羽タカヤ/「左翔太郎」と接点あり。テッカマンブレード。
●△相羽ミユキ/「相羽タカヤ」と接点あり(妹)。テッカマンレイピア。
○△アインハルト・ストラトス/行動中。
○△蒼乃美希/行動中。キュアベリー。
●△暁美ほむら/「鹿目まどか」「佐倉杏子」と接点あり。魔法少女。
●△池波流ノ介/源太、アインハルト、いつきと接点あり。シンケンブルー。洗脳されたスバルに殺害される。
●▲井坂深紅郎/「左翔太郎」と接点あり。ウェザードーパント。
○△石堀光彦/孤門と接点あり。ナイトレイダーの隊員。首輪解析可能?
○△泉京水/「左翔太郎」と接点あり。ルナドーパント。NEVER。
○ 一条薫/現在詳細不明。
○△一文字隼人/沖と接点あり。仮面ライダー2号。
○△梅盛源太/行動中。シンケンゴールド。
○△沖一也/行動中。仮面ライダースーパー1。
●△鹿目まどか/いつきと接点あり。仮面ライダー。洗脳されたスバルに殺害される。
●△来海えりか/いつきと接点あり。キュアマリン。
○ 黒岩省吾/現在詳細不明。
○▲ゴ・ガドル・バ/「左翔太郎」、「佐倉杏子」と接点あり。カブトムシの怪人。フェイト、ユーノを殺害している。
● 五代雄介/現在詳細不明。
○△孤門一輝/行動中。ナイトレイダーの隊員。
○△西条凪/孤門と接点あり。ナイトレイダーの副隊長。
○ 冴島鋼牙/現在詳細不明。
●△早乙女乱馬/全員と接点あり。水を被ると女になる。ダグバが殺害している。
○△佐倉杏子/源太、アインハルトと接点あり。魔法少女。ウルトラマンの光を継ぐ。ドウコクと交戦し、後にここで合流する予定。
●△志葉丈瑠/源太と接点あり。シンケンレッド。
●▲シャンプー/乱馬と接点あり。水を被ると猫になる。同じ特徴の人間とアインハルトたちが遭遇しているものの、正体はスバルであった(スバルが殺害した可能性が高い)。
●▲ズ・ゴオマ・グ/本名不明だが、アインハルトが遭遇したコウモリ怪人である可能性が高い。
●▲筋殻アクマロ/源太と接点あり。外道衆。スバルを利用し、実質的に多くの参加者を殺害している巨悪。
○ 涼村暁/詳細不明。
○▲涼邑零/「相羽タカヤ」と接点あり。殺し合いに乗る様子はないが、危険な人物には違いない。
●▲スバル・ナカジマ/ヴィヴィオ、アインハルト、いつき、沖と接点あり。洗脳。魔導師。ソレワターセ。
●△園咲霧彦/ヴィヴィオと接点あり。ナスカドーパント。ガドルに殺害される。
●▲園咲冴子/「園咲霧彦」と接点あり。タブードーパント。
○▲ダークプリキュア/行動中。砂漠の使徒。
○▲大道克己/「左翔太郎」と接点あり。仮面ライダーエターナル(エターナルは源太とあかねを襲撃している)。NEVER。
○△高町ヴィヴィオ/行動中。魔導師。
●△高町なのは/ヴィヴィオ、アインハルト、いつきと接点あり。ヴィヴィオの母であるが、ここに来ているなのははもっと昔のなのはである模様。魔導師。洗脳されたスバルに殺害される。
○▲血祭ドウコク/源太、アインハルト、いつき、美希と接点あり。外道衆。姫矢を殺害している。
●△月影ゆり/いつき、美希と接点あり。キュアムーンライト。
●△ティアナ・ランスター/ヴィヴィオ、アインハルトと接点あり。魔導師。
●△照井竜/「左翔太郎」と接点あり。仮面ライダーアクセル。
○▲天道あかね/全員と接点あり。乱馬のためゲームに乗る。ナスカドーパント。
●△巴マミ/「鹿目まどか」「佐倉杏子」と接点あり。魔法少女。
●▲ノーザ/美希、いつき、アインハルト、沖と接点あり。ラビリンス。スバルを利用し、実質的に多くの参加者を殺害している巨悪。
○△花咲つぼみ/いつき、美希と接点あり。キュアブロッサム。
● 速水克彦/詳細不明。
○ バラゴ/詳細不明。
●▲パンスト太郎/乱馬と接点あり。水を被ると巨大怪物になる。
●△東せつな/美希、いつきと接点あり。キュアパッション。元ラビリンス。テッカマンランスに殺害されている。
○△左翔太郎/アインハルト、源太と接点あり。仮面ライダーダブル。ドウコクと交戦し、後にここで合流する予定。
○△響良牙/乱馬と接点あり。
●△姫矢准/孤門と接点あり。ウルトラマン。血祭ドウコクに殺害される。
●△フェイト・テスタロッサ/ヴィヴィオ、アインハルト、「左翔太郎」と接点あり。情報によるとこちらもヴィヴィオたちの知るフェイトではなく若い少女。
●▲腑破十臓/源太と接点あり。外道衆。主義そのものは危険だが、源太とあかねにとっては恩人。
●△本郷猛/沖、アインハルト、いつきと接点あり。仮面ライダー1号。
●▲三影英介/「一文字隼人」と接点あり。タイガーロイド。
●△美樹さやか/「鹿目まどか」と接点あり。魔法少女。
○▲溝呂木眞也/孤門と接点あり。ダークメフィスト。安全である可能性もあるが警戒が必要。
○△明堂院いつき/行動中。キュアサンシャイン。
○▲村雨良/「一文字隼人」と接点あり。仮面ライダーゼクロス。元・BADAN。沖は知らないが、警戒するに越したことはない。
○△桃園ラブ/美希、いつきと接点あり。キュアピーチ。
○▲モロトフ/「相羽タカヤ」と接点あり。テッカマンランス。風都タワーを破壊。せつなを殺害している。
●△山吹祈里/美希、いつき、ヴィヴィオと接点あり。キュアパイン。ダグバに殺害される。
○△結城丈二/沖と接点あり。ライダーマン。
●△ユーノ・スクライア/「左翔太郎」、ヴィヴィオ、アインハルトと接点あり。やはり少年の時期。ガドルに殺害される。
○▲ン・ダグバ・ゼバ/アインハルトと接点あり。祈里、乱馬を殺害している。


【暫定生存中の相手に対する認識のまとめ】(同行者と翔太郎、杏子を除外)
安全/相羽タカヤ、石堀光彦、泉京水(やや危険)、一文字隼人、西条凪、花咲つぼみ、響良牙、桃園ラブ、結城丈二
危険/ゴ・ガドル・バ、大道克己、血祭ドウコク、天道あかね、溝呂木眞也、村雨良、モロトフ、ン・ダグバ・ゼバ
中立/涼邑零
不明/一条薫、黒岩省吾、冴島鋼牙、涼村暁、バラゴ

【本名不明】
暗黒騎士キバ(沖と一文字が遭遇)
警察署内に安置されている少女(女子中学生ほどの少女の死体。その特徴から「東せつな」の可能性が思われたが、彼女の遺体は既にいつきが発見しているほか、発見した時期からも考えられず、首輪がないという点で魔法少女の特徴と一致する。よって、暁美ほむら、巴マミ、美樹さやかのいずれかの可能性が高い)

【街側にいる参加者】
警察署側:現在ここにいる面子
中学校側:左翔太郎、佐倉杏子、血祭ドウコク、モロトフ
来る予定:一文字隼人

【支給品・所持品を互いに確認済】
※ただし、デイパック内に入っていない支給品は秘匿可能。





 ほぼ全員の情報提供が終わり、残る一人はダークプリキュアになった。
 警察署は、もっとも気になる情報の持ち主に一斉に目を向け、先ほどまでよりもずっと静まり返っている。

「……君の番だよ。ダークプリキュア」

 いつきが真剣なまなざしで言ったが、ダークプリキュアはプイと無視を決め込んだ。
 彼女には、自分の経緯を話そうという気がまるで感じられなかった。
 口を開く様子もなく、まるで困った聞かん坊でもいるかのような空気である。

「……ダークプリキュア」
「好きにするといい。お前たちの情報はありがたく受け取った」

 と、こういう態度で平然と出て行ってしまうのがダークプリキュアであった。
 仕方がないといえば仕方がない。彼女自身、月影ゆりとの関係について話す気はないのだから。──全てを話せば、寝首をかこうとしている気がある事までわかってしまう。
 ただマイペースというか自分勝手なようにも見られたが、ここまでダークプリキュアが敵である事を踏まえれば仕方がないというような雰囲気が見られた。
 しかし、最も経緯が気になる相手でもあったため、ここでダークプリキュアの話を聞くのを諦めた人間も、内心では少し残念がってもいただろう。
 いつきが外に出たダークプリキュアを追いかけるように会議室を立ち去る。

「……あの、ゴメンナサイ。ちょっと僕が話を聞いてきます」
「あの……それなら私も」
「仕方ねえ、女の子だけにするわけにはいかねえ。俺も」

 いつきに続いて、ヴィヴィオ、源太の二人も会議室を出た。
 ある程度の情報が行き渡ったものの、ダークプリキュアについて知る者は少ない。
 いつきもダークプリキュアがいる手前、彼女に関する詳しい話はしなかったので、ダークプリキュアが生まれた経緯を知るのは、本人といつきを除けば孤門とヴィヴィオと沖だけだ。
 その後、会議室にて沖は残る全員にその話をした。






 孤門一輝は、奇妙な感覚で会議室の椅子に座っていた。
 姫矢准の死。その正体が、外道衆なる存在の総大将・血祭ドウコクという怪物によるものだと知って、なんだか妙に納得してしまったのである。
 姫矢も、普通に悩んできた人間である……それを孤門はよく知っている。だから、怪物との間には確かな壁があるのだ。
 ウルトラマンの力がそれを崩し、姫矢は自分が力を継いだ意味を知り始めた。
 今度は確実に命を奪われ、今度は佐倉杏子という少女(ちなみにアンコではなかった)の手に光を託したのである。

(今度のデュナミストは中学生ほどの女の子、佐倉杏子か……)

 孤門は三人のデュナミストを知っている。姫矢准と千樹憐、そして5年前に新宿を救ったウルトラマン──真木舜一だ。この三人は、男性という点で共通しているものの、憐が17歳、姫矢が27歳、真木が34歳と、年齢に関してはまちまちである。女性かつ14歳前後の佐倉杏子という人物が──仮に魔法少女なる存在であるとしても──どこまで戦い抜けるかは、かなり心配な話だった。
 既に、杏子はドウコクと交戦している。近くには風都タワーを破壊したテッカマンランスもいるらしいのだ。

(副隊長や石堀隊員、そして溝呂木の行方は依然不明のままだ……)

 凪、石堀、溝呂木と出会った者や、彼らを知る者はここにはいなかった。多くの人間について情報が判明するなか、三人は本当にこの会場にいるのかさえ危うくなってくる。死亡もしていなければ、影も形もないではないか。
 多くの人物の情報が明らかになるなか、凪と石堀と溝呂木の三人の情報は全く入ってこなかった。
 ただ、姫矢は確かにここにいた。これだけは事実だ。
 強く関ったのは、佐倉杏子と血祭ドウコクらしい。杏子という人物には、孤門も一度会ってみたいと思った。彼女が孤門を捜していた事もまた、孤門にとって少し嬉しい話だった。
 一方、ドウコクは最重要危険人物と言ってもいい。姫矢の仇ではあるが、それでも、ドウコクを殺したところでどうにもならないかもしれないという不安は、復讐心から孤門を遠ざける。
 復讐には身を投じない。たとえ、溝呂木やドウコクを前にしたとしても。

(あかねちゃん……)

 復讐。そう聞いて、天道あかねを思い出した。彼女もまた、乱馬を失い、歯車を狂わせてしまったらしい。
 孤門があかねを見たのは、その時間いっぱい寝たとしても寝たりないくらい最近の出来事だった。あの時見たあかねは性格面ではごく普通の少女だったはずなのに、この僅かな時間で乱馬のために殺し合いに身を投じるよう心を変えてしまった。
 まるでかつての孤門である。
 しかし、今は彼女を止めたい気持ちでいっぱいだった。
 それが、『今』の孤門一輝であった。






 沖一也は、「仮面ライダー」という言葉に対する疑念を膨らませていた。

(仮面ライダーエターナル……悪の仮面ライダーか)

 何でも、エターナル──大道克己これまであらゆる悪の組織が作り上げてきた偽の仮面ライダーとは、また違った存在であるらしい。
 梅盛源太と天道あかねを襲撃し、NEVERとして普段から殺しをやっていたのが仮面ライダーエターナルである。

(ダークプリキュアが会った仮面ライダーは、もしやエターナルか……?)

 少なくとも、仮面ライダーダブルと仮面ライダーアクセルは正義の仮面ライダーだという。本郷猛と一文字隼人に関してはありえないし、左翔太郎も殺し合いには乗っていない。
 残る仮面ライダーは結城丈二、村雨良、照井竜、大道克己となるが、結城丈二は「仮面ライダー」を名乗っていないはずだし、結城丈二は数時間前にここで相羽タカヤたちと話している。まあ、村雨良に関しては詳しくはわからないが、一文字によると、危険な人間だった頃の村雨良は「BADANのコマンダー」であって「仮面ライダー」ではない。
 それに、ダークプリキュアは「ロストドライバー」という道具がない事に対して疑問を感じていたようである。
 左翔太郎が「ダブルドライバー」という道具を使って変身している事と、その左翔太郎から大道克己の名前が伝わっている事を考えれば、ダークプリキュアが遭遇したのはエターナルである事はほぼ間違いない。

(……風都タワーを破壊したのは、テッカマンランス……こいつも危険だ)

 今の所、左翔太郎と佐倉杏子は血祭ドウコクと戦っているはずだが、近くにはテッカマンランスがいる。そう思うと、やはり気が気ではない。
 彼らは生きてここに来られるのだろうか……。

(今はただ、ウルトラマンと、仮面ライダーである君たちを信じるしかない……)

 沖はただ、ウルトラマンの杏子と仮面ライダーの翔太郎の無事を祈っていた。
 ここから離れれば、また悲劇が生まれる気がして……沖は動けなかった。
 ここから自分が離れなければ、アインハルトの行動を止められたかもしれないのだ。それさえ防げれば、乱馬が死ぬ事もなく、あかねは生きて帰る事ができた。
 結果的に祈里が死亡していた事を考えると、やはり、本当は全員でここに残る事が正解であったような気がしてならないのであった。
 無論、そんな未来を予想する事は誰にもできないのだが……。






 蒼乃美希は、二人の友人の死の正体を知り、哀しみに暮れていた。
 山吹祈里は、ン・ダグバ・ゼバによって殺され、東せつなは、テッカマンランス──モロトフによって殺されたという。
 プリキュアが「戦っている」という事実を、美希は改めて実感した。
 これまでの戦いで、死人が出る事はなかったが、相手の力が圧倒的であればあるほど、死ぬ可能性だって在り得る事になってしまう。ダグバとランスは、それだけの強敵だったのだ。

(ブッキー、せつな……)

 二人を殺害した人間はわかった。
 しかし、来海えりかと月影ゆりを殺した人間は不明のまま……どうも腑に落ちない結果になっている。
 もしかすれば、ダークプリキュアが何かを知っているのかもしれないが……。

(えりか、ゆりさん……)

 美希は考える。
 ここまで、ラブやつぼみのこの殺し合いにおける情報は一切入ってこない。美希といつきが知っている基本情報のみだ。二人は現在も生存しているが、美希といつきがいなければ鋼牙などと同じく、「不明人物」のままになる。
 いつきの知り合いは、その死の正体さえつかめなかったのである。
 それはとてもやるせない気持ちなのではないかと思えた。
 殺人犯に大事な人を奪われ、その犯人が正体不明のまま終わってしまう……それほど理不尽な事があるだろうか。それは美希が今まで抱いてきた内心の複雑な部分だった。
 放送というのは、死者の名前の羅列だけで、殺人を行った者の名前は呼ばれない。不透明で、情報としては不足した内容である。最初に聞いた時は、美希にも、何故祈里とせつなが死んだのかを、ちゃんと知る事ができなかった。
 かなり心地の悪い時間を過ごし、ようやく真相を知る事ができた。
 だが、二人分──特にいつきと親しい二人の死の真相はわからないままだ。
 せめて、犯人の名前や手がかりが欲しい。それが、美希の想いだった。

(もしかしたら……)

 ふと、相羽シンヤの名前が浮かんだ。
 相羽シンヤは、美希の所持するマイクロレコーダーで話していた子供である。
 しかし、同時に────“今”は違う。
 テッカマンとして、ラダムに洗脳された怪物である。せつなを殺したモロトフも同様だ。彼に殺された可能性があるかもしれないのだと考えられた。
 自分が信じていた人間が、実はとんでもない存在であるかもしれないという恐怖もまた、彼女を落胆させていた。






 アインハルト・ストラトスは、冷静に名簿を見つめ直していた。
 あらゆる情報がアインハルトに渡ってきたが、やはり新しい情報というのはアインハルトには少なかった。
 他の人は、ここで行き渡っている情報の中で何かを見つけている。──たとえば、ヴィヴィオは、時系列の差異に関する驚きを見せているのがわかる。
 しかし、アインハルトは、あらゆる死に関りすぎたのだ。

(……確かに、たくさんの人が私の前で亡くなっている……)

 その情報が入り込んでくるたびに、アインハルトは少し後ろ向きな気分になった。
 アインハルトに眠る太古の昔の記憶もまた、幾つもの救えない命の記憶を持っていた──。

 だが──

(沖さんや孤門さんは、どんな不幸の中でも誰かを守るために生きている……)

 ここにいる沖や孤門は、ここに来る前からたくさんの命が奪われるのを見てきた。中には、自分の親しい人の命も幾つもあったという。
 沖は幼い頃に両親を亡くし、以来、家族のように育った少林寺の仲間たちや、国際宇宙開発センターの研究員たちも殺された。親友に裏切られ、親友をその手で葬った事もあるという。
 孤門はビーストによって幾つもの命が奪われるのを目にし、そんな中で斎田リコという恋人を失った。──それも、アインハルトが想像しえないほど悲惨で無残なやり方であった。彼女を実質的に殺された溝呂木眞也もまた、誰かに操られていた普通の男であり、彼もアンノウンハンドの策略によって死亡した。
 二人とも、自分を責め、やがて鍛え直し、次の命を救うために生きてきた。

(私にも……あの人たちのようになれるでしょうか)

 アインハルトは、自分も同じような生き方ができているだろうか──と、少し思っていた。
 あらゆる死を乗り越えて誰かのために戦っているアインハルトを、誰かが評価してくれているだろうか。






 ダークプリキュアは、ただ気の向くままに警察署の廊下を走っていた。
 彼女は、美希がいま丁度このころ気にかけている「えりかとゆりを殺した者の正体」を知っていた。
 しかし、それをダークプリキュアが口にする事はない。彼女は、自分の目的も過去も経歴も話す気はないし、他人が持つ情報を聞ければそれで良かった。


 ────ここから先は、上手い具合に「裏切り」を行うだけである。


 それ以外に、彼女の目的は無い。
 キュアサンシャインとキュアベリーの二人のプリキュア以外は皆殺しにするのが良いだろうかと考えていた。
 プリキュアとマーダーは生かすが、それ以外は皆殺しにするのがダークプリキュアの行動方針である。

(仮面ライダーエターナルの名簿での名前は大道克己か……)

 やはり、その名前ばかりはダークプリキュアも引っかかった。
 梅盛源太を襲撃し、腑破十臓を殺害した後、キュアムーンライトと最初の交戦をしたのだろうか。何にせよ、月影ゆりを殺した相手として、何より憎むべき相手だった。
 しかし、殺すのは後だ。エターナルがもっと殺してからでいい。ダークプリキュアもまた、優勝に近づくために殺すのみだった。
 万が一、エターナルが死んだ場合は、放送でもわかる事になる。

(……誰か来たな)

 ダークプリキュアは後ろから三名ほどの足音が鳴っているのを聞いた。
 追ってきたのは三人。仮にそのうち二人がプリキュアだとしても、残りの一人は殺せる。
 全員で追ってきているわけではないようなのが救いだろうか。──そのあたりは、相手の気が緩んでいるとしか言いようがない。
 とにかく、相手が戦力を分散しているのなら、それほどやりやすい事はないだろう。

 ダークプリキュアは、ひとまず目の前の一室に入る事にした。






 明堂院いつきは、ダークプリキュアを追いかけながら、高町なのはの事を考えていた。
 なのはと出会ったのは、怪我をしている流ノ介を見かけ、そこにいたなのはと共に流ノ介を運んだ時である。
 少し彼女と親しくなり、彼女と色んな事を話した。……そう、何より印象的だったのは、ダークプリキュアの事と、ヴィヴィオの事だ。

(ダークプリキュアの名前は……僕にはわからないけど……)

 ダークプリキュアを名前で呼んであげて、というなのはの懇願。
 彼女が重ねたフェイト・テスタロッサという少女。
 そして、なのはの子であり、フェイトの子であるヴィヴィオ。
 彼女もまた、こうしてダークプリキュアを一緒に熱心に捜している──それなら、きっとなのはもフェイトも、ここで死ななければ、これだけ素敵な子を育てられたはずなのだ。
 いつきだって、母というものに憧れている。女性すべての憧れだろう。
 だから、それを奪った殺し合いゲームは許せないし、ダークプリキュアにだって「母」になる価値はあるのではないかと、そういつきは思っていた。

(……いつか心を開いて、それを教えてもらったら、僕もその名前を呼ぶよ)

 そう誓いながらも、いつきはダークプリキュアの姿を見失っていた。
 ダークプリキュアの足取りは想像以上に速かったのである。
 いつきは、彼女を捜しながら、きょろきょろとしている。すると、目の前で何かドアがゆっくりと閉まっていくのが見えた。
 あそこにダークプリキュアがいるようだと思い、いつきはそこに向かって走った。






 高町ヴィヴィオは、いつきに追従しながら、ダークプリキュアの影を追っていた。
 なのはの死、フェイトの死、ユーノの死……全ての回答を知ったヴィヴィオは、その話を聞いて、泣いた。
 確かに、そのなのはやフェイトやユーノは、ヴィヴィオの知る世界のなのはたちではないし、スバルやティアナもきっと別の人だろうと思った。
 異世界であっても、ずっと昔の彼女たちであっても、みんなの優しさは変わらなかった。
 自分の知っているなのはたちではないとわかって、少しだけ悲しみは薄らいだが、それでもとても悲しかったのである。

(……もう誰も犠牲にしちゃいけない)

 知り合いばかり、たくさん死んでしまう。
 自分と一緒にいてくれた人たちもまた、次々と死んでしまった。
 元の世界の知り合いはアインハルトだけだし、中学校でヴィヴィオの看病をしてくれた人たちはもういない。

 ヴィヴィオの手には、乱馬や霧彦の持ち物が源太やアインハルトから手渡されていた。
 それを見ると、決意が湧く。

(大丈夫、ダークプリキュアさんはずっと前のフェイトママと同じで……お父さんのために頑張っていた優しい人なんだ……)

 ヴィヴィオやフェイトもいわば人造人間で、誰かのクローンである。
 その事実はヴィヴィオが今考えている以上に重い事かもしれない。
 自分は唯一無二ではなく、誰かの模造でしかないその苦しみ……本当なら、それを抱くかもしれない。
 ダークプリキュアは、きっとそんな苦しみを持っている人だ。
 同じように生まれたヴィヴィオだから、今はこうしてダークプリキュアのもとへ行こうとしていた。
 いつきと同じように、ヴィヴィオもまた、ある部屋のドアが閉まっていくのを見ていた。
 ドアが動いたのは、以前、乱馬とともに入った霊安室だ。ダークプリキュア以外に、ドアを開けた人間などいるはずはない。

(もしかして、あの人の死体を供養するために……?)

 ヴィヴィオたちの話を聞いて、ダークプリキュアは「時空魔法陣」でも「ソルテッカマン」でもなく、この霊安室に向かった。
 戦いに使える武器のある場所ではなく、まず真っ先にこの霊安室に向かってのである。
 もしかすると、あの女の人の死体の話に対して、何か思うところがあったのだろうか。
 でも、死体は武器にはならない。できるのは、手を合わせてあげる事だけだ。
 彼女はもしかすると、自分たちに黙って、それをしようとしているのかもしれない。

(やっぱり、本当は良い人なんだ……)

 ヴィヴィオは、内心少し嬉しくなって、いつきの後を追いかけた。






(腑破十臓、やっぱりただの良い兄ちゃんってわけじゃなかったのか……)

 腑破十臓が、池波流ノ介を襲っていた事実を知って、梅盛源太は何とも言えない気分になっていた。ショックというほどでもない。何となくわかっていたが、それを言われて、確信へと変わっただけだ。
 十臓は、源太の寿司をほめてくれたし、何より命の恩人として仮面ライダーエターナル──大道克己から源太たちを助けてくれた。この殺し合いに来てから、十臓がいなければ源太が生きていられる事はなかっただろう。
 確かに、斬り合いこそが生きる道などと言っていたが、それでも源太たちに襲い掛かる様子はなかったのである。

(……外道衆を信じるなんて……やっぱり俺、侍には向いてないのかもな)

 十臓を信じていた自分。今も信じている自分。
 それが侍に向く器ではないのは確かだろうと思えた。侍ならば、外道の罠にかからないためにも、外道は全て斬り捨てる覚悟を持たねばならない。
 しかし、源太にはそんな覚悟がなかった。
 今もダークプリキュアをどこかで信じている。あの女は実際に源太たちを襲ったというのに、源太も何故かフレンドリーに接する事ができた。

(……でも、やっぱり……戦わなくていいなら、それが一番だよな……丈ちゃん、流ノ介)

 ダークプリキュアを説得したい。
 絶対に誰も殺さないでくれ、絶対に誰も悲しませないでくれと、お願いしたい。
 源太はいま、そう思っていた。





 いつきは、「霊安室」という無感情なプレートを前に、少しだけドアを開けるのを躊躇った。そう、その先には死体がある。
 自分と同じ年頃の少女の死体だ。やはり、安易に立ち入ってはいけない場所だし、なるべくなら死体がある部屋に入りたくないという想いがあった。
 せつなと同じく黒髪の長髪の少女らしいが、せつなの遺体は既に目にしていたし、時間的にもせつなのものではない。おそらくは魔法少女のものだ。
 いつきは、その部屋に立ち入るのが少し怖かった。
 だが、勇気を出してそこに立ち入る事にした。
 ドアノブは硬く、まるで鉛の詰め物でも入っているのではないかと思った。

「ダークプリキュア……?」

 問いかけるように彼女の名前を呼び、いつきはゆっくり部屋に立ち入る。
 電気がつけられていない霊安室は、不気味そのもので、ダークプリキュアや黒髪の少女の死体がどこにあるのかもわからなかった。
 ドアの付近に電灯のスイッチがあるだろうと思って、いつきは壁を探る。
 だが──

「……あっ!」

 いつきは後頭部に衝撃を感じた。大きな衝撃ではない。まるで拳で殴られた程度の衝撃だ。しかし、誰かに殴られたようなのは間違いない。そこにいるのが何者なのか、いつきにはわからなかった。
 ダークプリキュアか?
 ──いや、ダークプリキュアではないはずだ。
 彼女が生身でいつきを殴れば、即座に意識が失われる。
 ダークプリキュア以外の誰かがいるのだろうか……いつきは、ゆっくりと振り向こうとする。
 しかし、振り向く前にヴィヴィオが部屋に立ち入った。

「どうしたんですか、いつきさん……?」
「来ちゃダメだ!」

 そう叫んだいつきの腕が、何者かに掴まれた。振りほどこうとするが、それより先にその何者かはいつきの身体を対角上の壁に向けて吹き飛ばされた。
 しかし、いつきの身体を吹き飛ばすには力が足りず、その中途にある棺桶にいつきがぶち当たる。格闘技をやっているいつきは受け身を取る事ができたが、その中の死体に申し訳なく思った。
 いや、本当に死体など入っているのだろうか……と今、いつきは思った。
 この棺桶は、確かに重量はあったが、妙に衝撃は薄かった。あともう少しいつきが重ければ、棺桶は傾いて地面に落ちたかもしれない。

(これは……)

 いつきは、棺桶に触って、その蓋が空いている事に気づいた。
 そして、何より、その中には死体が入っておらず、全くの空であった。

「……ヴィヴィ……!」

 と、ヴィヴィオの名前を叫ぼうとしたいつきの口が後ろから塞がれる。
 口だけではなく、鼻までも強い力で塞いでいた。お陰でいつきは呼吸をする事ができず、あまりの息苦しさに、他の何を考える事もできなくなった。
 目の前にヴィヴィオと源太がいる。
 彼女と彼に助けてほしいと思ったが、暗闇で視覚を奪われ、いつきは声を発する事ができない。
 次の瞬間、いつきは酸素を得る事ができなくなり、気を失った。

「いつきさん!?」

 ヴィヴィオの声が霊安室に響いた。いつきの声は聞こえなくなってしまった。しかも、何者かにシャットダウンされるような形で聞こえなくなった。
 その瞬間、ただでさえ気味の悪い霊安室がより一層不気味なものへと変わった。
 だが、この先にはいつきがいる。逃げたいほど怖いが、いつきを置いて逃げるわけにはいかないのだ。
 そっとヴィヴィオが前に出る。

「ちょっと待てよ……おおおお俺が先に……」

 源太も怯えながら、ヴィヴィオより前に出ようとする。
 幽霊の仕業だろうか。
 そういえば、ダークプリキュアの姿も見えない。
 殺し合い以前に、この空間が恐ろしかった。……ダークプリキュアといつき。二人の姿が暗闇に消えている。
 源太は部屋のドアを全開にして、廊下の光を室内に入れる。
 しかし、そのドアは金属製の硬いドアで、ドアストッパーがない限り、ゆっくりとまた戻ってきてしまうものだった。再び、光に照らされたこの先がゆっくりと闇に帰っていく。
 そして、ドアがパタンと閉じ、ヴィヴィオと源太を取り残して、霊安室は完全な暗闇になった。

「げげげげげげげ源太さん、こここここここここれ幽霊の仕業じゃないですよね」
「まままままままままさか幽霊なんているわけがねええええええええええだろ」

 といいつつ、二人は互いの身体を触れ合う。源太はヴィヴィオの肩に手を乗せ、霊安室の壁をバン、バンと叩いていく。
 どこかにスイッチがないかと思いつつ、それが幽霊の背中か何かなのではないかという恐怖から、壁をちゃんと押す事ができないのだ。
 この部屋には誰かいる。人間を消す誰かが……。
 それが幽霊である可能性は高く……。

「助けてーっ!! 孤門さんっ!! 沖さんっ!! アインハルトさーーーんっ!!」

 ドアや壁をガンガン叩く音が間近から聞こえた(犯人は源太)事で、ヴィヴィオは半泣きでパニックに陥る。
 とにかく、知っている人の中でも頼りがいがありそうな仲間の名前を呼ぶが、その声が届いているのかさえ凄く怪しかった。
 壁を叩く謎の音が止まないので、ヴィヴィオは恐ろしかった。
 今まで見たあらゆる心霊現象や心霊写真の話が頭に浮かぶ。そういえば、こういう時、肩に触れているのは実は幽霊というオチがある場合も……。

「きゃあっ!」
「ぎゃああああああああああああっ!」

 怖い想像をしたヴィヴィオが源太の掌をはらう。霊安室という場所、暗闇、目の前で消えたいつき……三つの要素のせいで、怖がらない方がどうかしているといえる。
 パニックになったヴィヴィオに手をはらわれたことでパニックになり、源太は壁を叩くのをやめる。

「だだだだだだだ、誰か今俺の手を……!! 今俺の手を触った!! 触った!!」
「嘘っ! 嘘っ! 本当にっ!? げげげげげげげげ源太さん、ドア開けて……!!」
「ドドドドドドド、ドア!? ドア、ドア、ドア……」

 源太は焦って、ドアのノブを捜した。一瞬、ドアの意味さえわからなくなったが、ドアの意味をすぐに思い出した。ドアとはすなわち、この異世界から脱出するための希望の出口だ。
 ここからヴィヴィオと共に出よう。
 そうだ、ダークプリキュアといつきを助けなければならないが、ここは本当に危険だ。

 ガチャ、と音がして、ドアの先から光が漏れる。
 大丈夫だ。ドアは開く。もしかしたら、ドアが開かないのではないかとか、ドアの先にもまた暗闇が広がっているのではないかとか、少し怖い想像をしてしまったのはホラー映画の影響だろうか。
 ホラー映画に対して怨念が湧くほど、そうしたイメージが憎くなってきた。
 とにかく、この先が普通の世界であった事に安心して、源太はドアの外に出る。

「やった! 開いたぞ!  オイ……ここから……」

 ドアの外に出た源太は、ヴィヴィオを呼ぼうとした。
 ヴィヴィオの名前を呼び、手招きするが、返事は返ってこなかった。嫌な予感がしてヴィヴィオの方を向くが、源太の真後ろに、ヴィヴィオがいなかった。
 いたのは、人間の気配さえない……まるで死体のような「黒髪の少女」であった。
 ダークプリキュアでもなく、それは源太が初めて見る少女だ。
 そう、ここに安置されているという少女の特徴とまるっきり一致する──幽霊のような女子中学生だった。

「嘘、だろ……」

 その少女の幽霊の足元に光がこぼれると、そこには高町ヴィヴィオが倒れていた。






(……怖いいいい~……誰か助けて~…………)

 ヴィヴィオが霊安室の暗闇で怯えていると、またそっと誰かがヴィヴィオの肩に触れた。
 ぞくっとして、悲鳴をあげようとするが、同時に、それが源太の手である可能性を考えた。しかし、その手はゆっくりとヴィヴィオの首に手の位置を変えていく。
 その手は、まるで氷のように冷たく硬かった。ヴィヴィオの首についている金属の輪っかなどよりも、遥かに冷たい指先に、一欠片の人間らしさも感じる事はできなかった。
 ヴィヴィオは、それが首に触れた瞬間、全身の毛が逆立っていくのを感じた。
 明らかに、それは人間の手ではなかった。ダークプリキュアの手でも、明堂院いつきの手でもない。血の通わない手であった。

(うっ!)

 声を失うほどの恐怖。ヴィヴィオは声を出そうとしても、舌が震え、声帯が硬直し、何かを言う事ができない。
 それに、声を出した瞬間、この何かに確実に消されてしまうのではないかという気もした。
 そんな状態のままに、ヴィヴィオの首は強い力で押さえつけられ、遂にヴィヴィオの身体に空気が運ばれなくなった。

(……ぁ……)

 これはまずい、とヴィヴィオが思い、その手を掴み始めたころには、その手は明確な殺意を持ってヴィヴィオの首を締め上げはじめた。
 冷たい掌が、ヴィヴィオの首を強く締めていく。ヴィヴィオはその手を引き離そうと力を込める。
 少し硬い服──そう、制服やスーツのようなものを着ていて、おそらく女性のものだ。でも、ダークプリキュアでもないし、たぶんいつきでもない。
 ヴィヴィオは、その服に爪を立てるが、全く痛みを感じている様子がなかった。
 本当に人間ならば、少しは痛がるはずなのに。
 ヴィヴィオは、必死でその手に力を込める。
 だが、ヴィヴィオの手は滑って、相手の服の袖がビリッと音を立てて引きちぎれた。

 相手の手は依然として冷たい。
 普通の人間に首を絞められたなら、きっと、これだけの力を入れれば手に汗を握るくらいはあるだろうが……この時は、そうした感覚がなかった。冷たいまま、汗さえ流さず、ヴィヴィオの命の灯を消していく。
 いつきやダークプリキュアも、こうしてこの「幽霊」に殺されたのだろうか……そんな怖い想像がヴィヴィオの脳裏に浮かんだ。

 自分の首元で、その手以外の何かが蠢いている事に、ヴィヴィオは気づいた。
 ヴィヴィオからは見えなかったが、そのもふもふした感触は、間違いなくクリスのものだとわかった。クリスは、いま必死でヴィヴィオをこの幽霊の手から解放しようとしているのだ。

(……クリス……)

 だんだんと脳に酸素が回らなくなり、景色も思考も曖昧になった。
 いつきとダークプリキュアが誰なのか、だんだんと彼女の思考の中で呆けていく。
 源太が何かを言っているが、それを聞き取る事はできない、無音の世界に来ているような気がした。

(……逃げて)

 最後に、ヴィヴィオはただ首元にいるクリスにそう言おうとしたが、それは声にすらならず、届く事もなかった。
 ヴィヴィオは、誰も疑う事なく、「幽霊」によって、その若い命を奪われ、事切れ倒れた。


【高町ヴィヴィオ@魔法少女リリカルなのはシリーズ 死亡】
【残り27人】






「……」

 ダークプリキュアは、霊安室の暗闇の中で息をひそめていた。ダークプリキュアは、傍らで眠るいつきの様子をちらちと見てから、また指先に神経を集中した。
 ……いや、今の彼女はダークプリキュアの姿をしていなかった。今の彼女は、黒い美少女ではなく、その顔をグロテスクな仮面に隠したパペティアードーパントであった。
 他の者たちが推測したように、幽霊が消したわけではない。
 パペティアーメモリを使って変身した彼女が、ここに安置されている暁美ほむらの死体を操り、いつきを気絶させ、ヴィヴィオを殺害したのである。

(……あの時破壊したのは、隠し持っていた全く別のメモリだ)

 実は、以前、沖たちの前で踏み潰したメモリはパペティアーメモリではない。あれはパペティアーメモリではなく──バードメモリだったのである。
 バードメモリはパペティアーメモリと色の違いはあれど、中身が飛び出た破片を見て大きな違和感を持つ者もいないだろう。ダークプリキュアはバードメモリを腕飾りに隠していたから、バードメモリとパペティアーメモリをすり替えて破壊するくらいは容易だった。
 隠し持っていたバードメモリを破壊し、代わりにパペティアーメモリを所持し続け、こうしてパペティアーメモリを使ってゲームを進めているわけである。
パペティアーメモリは他人を操る能力があるガイアメモリである。
 それが使用できるという事は、仮面ライダースーパー1のような強敵を手中に収めるのと同じだ。捨てるわけがない。
 もしかすれば、バードメモリがパペティアーメモリより強力な能力だった可能性もあるが、あの状況ではどう使えるかわからないメモリよりもこのパペティアーメモリを優先すべきだと思ったのだ。

 今はパペティアーの試験のためにこの霊安室にあった死体を利用させてもらっているだけだが、いずれは全く別の人間に変更する予定である。いつきだけは生かし、残りの二人は殺害するつもりだったので、手始めにヴィヴィオを殺させてもらった。
 ヴィヴィオは強い力で首を絞められ、既にその命が絶たれているようだった。やはり、パペティアーで動かす人間は強力である。
 ヴィヴィオも気を失っているだけではあるまい。元々、この霊安室自体、あまり空気が薄いので、すぐに呼吸困難になり、窒息したはずだ。あれだけの時間締め付ければすぐに死ぬ。いつきもあと一秒で生死を変えるレベルであったかもしれない。

『ダークプリキュアさん、あなたにとって……そうして誰かのために他の人の命を奪う事は正しい事なんですか? たとえ誰かを失ったとしても、もうそれと同じ悲劇を繰り返さないために、たくさんの命を助ける事だってできます』
『あなたも、私の家族になってほしいんです。一緒に……みんなのために戦って』

 ヴィヴィオを殺害した事を思い出すと、ふとヴィヴィオがダークプリキュアにかけた言葉が脳裏に浮かんだ。
 ダークプリキュアの中に、彼女の言葉はしっかり残り続けていた。
 ……正直言うと、少しだけ憧れのようなものを感じたかもしれないが、ダークプリキュアはそれを振り払った。
 新しい家族を作る──それは月影親子に対する裏切りである気がしたのだ。
 ダークプリキュアは、自分に初めてできた家族を簡単に裏切る事はできなかった。

(……これが、私の決めた答えだ)

 ダークプリキュアは、ヴィヴィオの遺体に目を向け、心の中でそう告げた。
 死人にテレパシーができるわけではないので、それしか言えない。
 ともかく、油断していた敵を、ダークプリキュアは一人潰した──今はそれだけだった。
 同じように家族を喪った人造人間。
 もし、天国というものがあるとしたのなら、ヴィヴィオとその家族は出会えるだろうか。
 天国があるとしたら、ダークプリキュアの行いそのものが無駄になるような気がするが、今はそれで良いような気もした。






 源太は、目の前でゆっくりと歩いてくる少女に怯えるしかできなかった。
 あそこで倒れているヴィヴィオや、どこかに消えたダークプリキュアといつき。
 彼女たちのためにも退くわけにはいかない。退くわけにはいかないのだが、やはり死人が歩いて向かってくる事に、源太は恐怖を拭い去れなかった。

「ななななな、なんだよお前……!!」

 霊安室の前の廊下で、ゆっくりと自分の方に向かってくる奇妙な死体。
 触れるのも躊躇われるので、近づけない。目にしたものはこのまま消されそうな恐ろしい予感だけが源太の頭の中にあった。
 どうあがいても逃げられなくなるのが、幽霊の常だ。
 これは外道衆ではない。人間の幽霊である。
 そういえば、仮面ライダーエターナルは死者の兵士NEVERというものだったらしいが、これはどう見てもエターナルとは違い、何の意思もないマリオネットのような怪人だ。
 どうする。

(俺はこのままコイツに殺されるのか……? オイ、このまま死んじまうのかよ……)

 源太の問いにすら答えず、着々と人を殺しているこの幽霊に、源太は死を覚悟した。
 ドウコクと戦った時やエターナルと戦った時とも違う。得体の知れない幽霊が、こちらに何も言わず進行してくるのである。
 これまで、ここまで露骨に幽霊を見た人間など聞いたことがない。
 もしかすると、幽霊というのは、見た人間すべてを消してしまうのかもしれない。
 ダークプリキュアは、いつきは、ヴィヴィオは、全部この幽霊に消されてしまったのだろうか……。






『助けてーっ!! 孤門さんっ!! 沖さんっ!! アインハルトさーーーんっ!!』

 会議室で休憩していた沖、孤門、アインハルト、美希のところに、突然小さな呼び声が聞こえた。小さいが、「声」ははっきりと聞こえた。
 平穏だった会議室に、電撃が走る。
 ヴィヴィオの声である。あの小さな少女の声だと、誰もが直感した。
 彼女が助けを求めているというだけで、とても嫌な予感がした。──ダークプリキュアに何かをされているのではないかという予感だ。
 源太やいつきもいるはずだが、どうしたのだろうか。

『ぎゃああああああああああああっ!』

 次に、男性の悲鳴が届いた。
 今度は間違いない、源太である。大の男がこれだけの悲鳴をあげる状況というのがあるだろうか。
 胸騒ぎを感じながら、全員は真剣なまなざしで互いの目を見つめ、頷いた。
 ……行くしかない。これから全員でその場に向かうしかないと、全員が思った。

(……ダークプリキュア……もし奴が何かをしたのなら……)

 沖はドアを勢いよく開け、先陣を切って廊下を走る。

(──それは、俺の責任だ……!)

 ダークプリキュアに対して、少し緩慢な態度で接する事。それ自体が間違いであるような気がした。
 源太がいるから大丈夫だろうと、彼に二人を任せたが、それが甘かったのだろうか。
 沖は、ここでこうして、のほほんと彼らの帰りを待ちながら思考していたのである。
 とにかく、自分の気が緩んでいた事を後悔しながら、沖は精一杯にヴィヴィオの声がした場所を探した。

 アインハルトと沖、孤門と美希に分隊して、二組はめいめいの方向でヴィヴィオの叫び声の在り処へと向かった。






 ばたん、と霊安室のドアが閉じた。
 それだけで、向こうの世界と隔絶されたような恐怖を源太は感じた。全く別の事に注意を向けていたので、突然ドアが閉まる音がしたのも恐ろしかったし、その瞬間、いつきやヴィヴィオやダークプリキュアのいる世界と完全に分断されてしまったのが悲しかった。
 彼女たちがいる場所にはもう行けないような気がしたのだ。
 そして、きっともう源太は自分が住んでいた世界に戻れない。
 この恐ろしい幽霊に神隠し(?)されてしまうような気がした。

 と、その幽霊が急に力を無くし、源太の方に向かってドミノのように倒れ込んだ。
 幽霊に急接近された源太は思わず廊下に向けて尻もちをつき、腰が抜けるような痛みを味わった。

「ウワアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!」

 思わず喉が枯れそうなくらいの雄叫びが口から発される。
 当たり前だ。幽霊が突然、自分の身体に向けて倒れてきたのである。これで淡々としていられるだろうか。そのうえ、思いっきり腰を抜かしたのも痛かった。このくらいの叫び声は漏れて当然だろう。
 慌ててばたばたと手足を動かして後方に這う。源太の膝の上から、幽霊の長い黒髪がすり抜けていく。源太は一瞬で数メートルは後退しただろう。幽霊の方が思い切った行動をすると、幽霊に遭遇した方も全力が出せる。
 相手のペースに乗せられている証だった。幽霊と遭遇すると、人間はこうなりやすい。そっと出てくる幽霊には驚いて声を出す事さえできなくなり、幽霊に足を掴まれれば大声で騒ぐだろう。
 とにかく、数メートル先に残った幽霊の頭は、長い黒髪を放射状に広げて倒れ伏していた。どうやら動く様子も何もない。
 ドアが閉まった途端、幽霊は魂が抜けたように倒れ伏し、動くのをやめた。ただの死体に戻ったようだった。

「……ここか!」

 すると、すぐに沖一也が源太を見つけて駆けだしてきた。
 それに続いて、アインハルトが現れる。続いて、いまの源太の絶叫を聞いて、美希と孤門も少し遅れて現れた。
 それで、源太はようやく生きて帰ったような……現実の世界に戻ったような気分になった。
 しかし、幽霊の死体は目の前にある。

「……おおおおおおい!! 幽霊!! 幽霊が!!」
「「「「幽霊!?」」」」

 源太が開口一番に、死体を指差してそう言ったが、返ってきたのは、哀れな人間を見るような目だった。間近でそれを見た沖もアインハルトも、怪訝そうな瞳で源太の顔を見ている。そこには、重度のパニック状態にある人間の顔があるだろう。
 これでは、信じてくれないのは当然だ。
 この殺し合いの現場で、いま起きた出来事が幽霊の仕業だと言われても、誰も信じてはくれまい。源太も逆の立場だったなら、相手に体温計を探してきてあげただろう。

「……いま、コイツ!! コイツが動いて、俺達を……!!」

 どんなに必死で説明しようとしても、頭は混乱するばかりである。
 説得力のある説明をしたいのに、口は震え、頭は混乱し、結局筋の通った話どころか、話すらできない状態だった。

「……落ち着いて話してくれ。君は一体、何を見たんだ?」
「コイツ!! コイツが動いて俺達を襲ったんだよ!! あとの三人もみんなコイツに……!!」

 沖は、怪訝そうに源太を見ながらも、彼の言っている事が気になり、そこに転がっていた少女の死体に触れた。
 こんな事が平然とできるのは、時に死んだ人間と対面する事がある男だからだ。
 うつ伏せの死体を仰向けにして、顔にかかった髪をずらす。美少女のあまりに安らかな死に際があったが、その目を開いても瞳孔が開いており、生者の輝きを失っていた。

「……死体だ。おそらく、ヴィヴィオちゃんが言っていた、乱馬くんと霊安室に運んだという死体だろう。だが、なぜこんなところに?」

 美希は後ろで「うげっ」と思っていたが、確かに何故ここに死体があるのかは気になっていた。源太が担いでここまで運んできたわけでもなさそうだし、本当に死体が動いたのだろうか。
 いや、そんなはずはない。死体は文字通り死んだ人間の体である。死ぬという事は動かなくなる事であり、現実にいま、彼女の死体は動かない。
 それどころか、体はかなり冷たくなっており、随分前に死んだのだという事がよくわかる。

「……この死体は、このドアの向こうに安置されていたものだろう?」

 沖が数歩歩いてドアノブに手をかけようとしたが、源太が慌ててそれを止める。

「待て!! それを開けるな!! 開けたらまたコイツが動き出しちまうかも……」

 沖は源太の方を見て、手を止めた。
 源太は、先ほどドアが閉まった瞬間、この少女の死体が動かなくなるのを見ている。
 そのため、ドアを開ける事に対して強い恐怖を感じていた。もしこのドアが開かれれば、またほむらの死体が動き出すのではないかという恐怖だ。
 そんな予感がした。今度こそ、ここにいる全員が殺されてしまうのではないだろうか。

「何故開けちゃいけないんだ?」
「……このドアを開けちゃいけねえ……。開けたら、またとんでもねえ事になる……」
「だが、中にはいつきちゃんたちがいるんだろう?」

 彼らは、いかにも源太の様子を怪しげに見ていた。
 源太の挙動や発現に信用が持てなくなっていたのだろう。
 源太は、それに気づいて、唾を飲んだ。

「……わかった。じゃあ、俺が開けるから、みんなは下がっていてくれよ……。俺も男だ、幽霊なんかに負けるわけにはいかねえ……」

 そうだ、この中にはダークプリキュア、いつき、ヴィヴィオがいる。
 このまま逃げるという事は、彼女たちを見捨てる事になるのだ。そんな人間を誰も信じてくれるはずがない。ただでさえ、今自分が言っていた事は支離滅裂そのものだ。
 だが、自分の名誉のために彼らは巻き込めない。もし、彼女たちを救うならば、源太はこの恐怖の暗闇の中に一人で身を投じなければならないのだ。
 この暗闇の向こうには何かが棲んでいる。このドアノブに手をかけ、ドアを開けた瞬間に、またこの死体が動き出してしまうかもしれない。

「……もっと下がっててくれ。あの死体が動き出したら、みんな一目散に逃げてくれよ」

 源太は、真剣なまなざしで、そこにいる全員に訴えかけた。
 沖たちは、腑に落ちない顔をしながらも、それに従い、とぼとぼと源太たちから距離を置き始めた。
 ゴクリ、とまた唾を飲んで、源太はドアを開ける。
 やはり、目の前には暗闇が広がっている。源太は、ゆっくりとその暗闇の中に身を投じた。






 ダークプリキュアが息をひそめていると、霊安室のドアが開き、ゆっくりと誰かが入ってくる。
 梅盛源太であった。
 先ほどの源太とヴィヴィオの叫び声が聞かれたせいで、この部屋の前にはここにいた人間がほとんど集まっている。そんな中で何故、彼は独りでこの部屋に入ってきたのかはわからないが、それほど都合の良い事もない。
 彼女が人形の糸を切ったのは、その数名に対して、ほむらの死体は弱すぎると感じたからに違いない。
 所詮は死体であるため、沖などと戦えば一瞬で敗北する。糸を取り付ける相手を変える隙に攻撃されてしまっては、ダークプリキュアとしても敵わないので、早い段階で糸を取り外しておいて、次の標的を操ろうと思っていたのだ。

 このままいけば、その相手は源太になるだろうとパペティアーは思っていた。
 部屋の中央まで、源太はゆっくりと歩き出す。パペティアーは、その指先を源太に向けて構えていた。

「一貫献上!」

──イラッシャイ!──

 すると、源太は、目の前でシンケンゴールドに変身する。
 彼は変身すると同時に煌めきを発し、周囲が一瞬だけ光に包まれた。

「……そこだっ!!」

 シンケンゴールドは、その一瞬でパペティアードーパントの方に走り出した。変身時の光を利用して明かりを作り、その一瞬でパペティアーの位置を探り出したのである。
 咄嗟に、「外道衆のような不気味な怪物がいる」と感じたシンケンゴールドは、そこに向けて走り出した。
 僅か数歩の距離であるものの、その距離を一秒でも早く詰めようと、シンケンゴールドは足を素早く動かした。

「はっ!!」

 しかし、その彼の行動全ては無駄だった。
 パペティアーに跳びかかろうとしたシンケンゴールドは、そのままパペティアーが指先から放たれた糸を四肢に浴びた。一瞬の衝撃がシンケンゴールドの体に走ると、その体はパペティアーに傷跡ひとつ作る事なく、パペティアーの手前に着地する。

(……少し焦ったが、何とか操れたようだな)

 ……パペティアーは、ともかく身の安全が保障された事で安堵する。
 シンケンゴールドは一度あっさりと倒した敵である。そのため、本来ならスーパー1が良かったが、ともかくこの場から脱出するのには丁度良い手段だろうと思った。
 情報は手に入ったし、他の参加者を殺すのは後でもいい。佐倉杏子や左翔太郎が来れば非常に厄介だし、今はシンケンゴールドでもいいだろうと思った。

(……とにかく、そろそろ脱出させてもらうか)

 シンケンゴールドの体を試運転し、問題がないと判断したパペティアードーパントは歩き出す。
 先ほどまで源太が恐れていたはずのドアノブは、シンケンゴールドの手によって、あっさりと一回転し、暗闇の世界と外の世界を繋げた。






 沖は、突然目の前に現れたシンケンゴールドを怪訝そうに見つめた。
 沖はシンケンゴールドの姿をまだ見た事が無かったので警戒したのだ。
 この分厚いドアの向こうで誰かの声と喧騒を聴覚は捉えていた。その直後、奇妙な静寂が流れ、この中で一体何が起きたのかは沖にもわからぬまま、時間が過ぎた。

「……」

 目の前のシンケンゴールドは、何を言う事もなく、ただ黙ってこちらを向いた。
 その様子は、見るからに不気味というほか無かった。

「源太さん!」

 だが、アインハルトは、この中にいる誰かと戦い、それに勝った源太だと認識した。一欠片の警戒心もそこにはなかった。アインハルトは既に、シンケンゴールドの姿を何度か見ていたのである。シンケンゴールドの姿と、梅盛源太の姿は、既に彼女の中で一体化している。
 源太を迎え入れようと、アインハルトは沖よりも前に出た。沖が迎えないのなら、自分が迎えようと思ったのかもしれない。

「この中で、一体何が……」

 そう問いかけるが、シンケンゴールドは返事をしなかった。
 返事が返ってこない──その事実が、沖たちにシンケンゴールドの確かな異常を確信させる。
 やはり、今のシンケンゴールドはおかしい。
 そう、アインハルトが先頭でシンケンゴールドに近づくのは──

「駄目だっ!!」

 沖は、アインハルトに向けて手を伸ばした。
 しかし、その手は、アインハルトには届かなかった。
 アインハルトが沖の呼び声を聞いて、沖の方を振り向いた。

「え……」

 シンケンゴールドはサカナマルを鞘から抜き、アインハルトの体を切り裂き、廊下をここにいる全員の前で鮮血に染めた。壁も床も、真っ赤に染め上げられ、霊安室のドアもまた、血まみれになった。
 沖の指先と頬に、アインハルトの血が少し飛び散る。
 その姿に、孤門と美希は唖然とした表情で、息を飲んだ。
 目の前で殺人が起きた。──若干13歳の少女の体を無残に切り裂く怪異が、目の前にあった。
 あまりの衝撃に、孤門と美希は一瞬、目を見開いた。こちらを向いたまま血の海に倒れるアインハルトの惨劇に、目を逸らす事さえできなかった。
 目を逸らす事できないほど、いや、永久に脳裏に焼き付くほどの衝撃を前に、孤門と美希は何も言葉を口にできなかった。






(あれ……私は、どうして……)

 アインハルトは、自分自身が何故倒れたのかも理解できなかった。
 アインハルトの背中にいるのは、シンケンゴールドであるはずなのに、何故自分は倒れようとしているのだろう。
 沖の声を聞いて振り向いた直後、背中に走った衝撃と、何もできなくなるほどの痛み。
 アスティオンが目の前で地面に着地するのが、アインハルトの中でスローモーションになって見えた。
 アスティオンの四足は、目の前で血の海に落ちた。血が撥ねる。
 アインハルト・ストラトスには、それが誰の血なのかも理解する事ができなかった。

 彼女もまた、地面に激突し、背中いっぱいに血を浴びた。
 一体、何が起きたのかさえ理解できないまま、アインハルトは地面に倒れ伏した。
 そんな自分を踏みつける誰かが居た。冷静に考えれば、そこにいるのはシンケンゴールドであるはずだが、それは無いとアインハルトは思っていた。

(そうか、私は……)

 結局のところ、アインハルトに在った答えはひとつだった。

「……まだ…………弱かっ、たん……ですね…………」

 弱さは罪であるという、アインハルト自体も知っているはずの答えだった。



【アインハルト・ストラトス@魔法少女リリカルなのはシリーズ 死亡】
【残り26人】






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最終更新:2013年09月10日 19:09