はじめに
ここでは主に、スティックデバイスの特性およびコントローラーとの相性についての検証結果を掲載する。
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スティックデバイス【解説】
この記事では便宜上、スティック関連の用語を次のように呼びます(表と図を参照)。
用語 |
説明 |
スティックデバイス
または
デバイス
|
スティック用電子パーツ |
レバー
|
スティックデバイスの棒状可動部分 |
スティック軸
または
スティック
|
スティック用プラスチックパーツ |
皿
|
スティック軸の指を乗せる部分 |
傘
|
スティック軸下部の半球 |
本記事にはコントローラーの改造を推奨する意図はありません。
故障のリスクや保証が利かなくなる可能性も踏まえ、自己責任で作業してください。
RKJXV1224005とSwitchプロコン
交換したデバイスの不具合
Switchプロコンのスティックデバイスは、はんだ作業によってRKJXV1224005系のデバイスと交換できる。
しかし、
交換後、スティックを倒し切っても入力値が最大の7割くらいにしかならない
という症例が多数報告されている。
↑ 失敗例。奥に見えるのはSwitch本体のスティック補正画面。
正常なスティックでは、緑の点が外周の円に到達する。
一方で不具合があると、このように最大まで倒しても外周円まで届かない。
↑ スティック補正で緑点が外周円に到達するスティック角度。
左がSwitchプロコン付属品、右がRKJXV1224005。
RKJXV1224005は大きく倒さないと、ゲーム上で同じ入力値を再現できない。
この不具合は、
デバイスとSwitchプロコンとの相性
に起因している。
デバイスそのものが不良品でなくとも、失敗は起こりうる。
失敗が起こるデバイス&コントローラー本体の組み合わせでは、正常な入力を実現する手段は無い。
Switch本体にはスティック補正機能があるが、これは最大値の約9割以上の入力ができるスティックでなければ使えない。
ゆえに、補正機能はこの問題に関してはあまり役に立たない。
【検証1】Switchプロコンでの動作確認
検証方法
実際にデバイスをいくつか購入してSwitchプロコンにはんだ付けし、正常に動作するかどうかを確認した。
検証対象のデバイス
RKJXV1224005、ALPSロゴの入ったデバイス2種類、ロゴの無い互換品(OEM)を用意した。
↑ 左から、Switchプロコン、RKJXV1224005、ALPS緑a、ALPS緑b、互換品(OEM)。
RKJXV1224005以外の可変抵抗器はどれも緑色だが、よく見るとどれもデザインが異なる。
- 備考
- Switchプロコン本体は、ヨドバシ・ドット・コムで2017/9/17に新品で購入したもの。
- プロコン本体のファームウェアは、2019年3月時点での最新版。
- はんだ付けには鉛はんだを使用。
動作結果
表1-1. デバイスと動作可否。購入情報も合わせて記しておく。
Switchプロコンで正常に動作するのは、プロコン付属品とOEMのデバイスのみであった。
こちらのAmazonレビュー
でも、OEM品が正常動作したと報告されている。
ALPS緑の外見はSwitchプロコン付属のデバイスによく似ているが、2種類両方で不具合が発生した。
【補助検証】他のコントローラーでの動作確認
これらのデバイスを他のコントローラーに移植したところ、次のような結果になった。
-
WiiUプロコン
にRKJXV1224005、ALPS緑aを移植したところ、正常に動作した。
→
「不可」の製品が不良品だったわけではない。
-
TNS-901に移植
した場合も、Switchプロコン同様に
デバイスによってスティック入力値範囲に差が出た。
結論&課題
- デバイスの特性は
製品種類ごとに差がある
- 入力値範囲の不具合は、
コントローラーとデバイス特性の相性
によるものである
ということが確認できた。
【検証2】可変抵抗器の電気的特性の計測
計測方法
前述したデバイス全てに加え、WiiUプロコンとTNS-901のデバイスが対象。
同じデバイスに装着されていた2つの抵抗器はほぼ同じ結果を示すため、今回は代表でそのうちの1つについて測定した。
測定する抵抗値は次の6種類。
1. ニュートラル抵抗値
レバーが中心にあるときの抵抗値。約5kΩ。
単体のデバイスの左と中のピンにテスターを当てて測定。
↑ 測定の様子。
2,3. レバー可動域 最小/最大値
デバイスのレバーを限界まで(
ロック機構が働くまで
)倒したときの抵抗値。最小:約1kΩ, 最大:約10kΩ。
テスターを当てるピンは、レバーを抵抗器に対して左に倒した場合、最小値:左と中、最大値:中と右。
レバーの物理的可動域の個体差が結果に表れないよう、
1つのデバイス本体のY軸側にその都度抵抗器を付け替えて測定した。
4,5. スティック可動域 最小/最大値
コントローラーのスティックを通常使用の範囲でいっぱいまで倒したときの抵抗値。最小:約2kΩ, 最大:約9kΩ。
テスターを当てるピンは、スティックを抵抗器に対して左に倒した場合、最小値:左と中、最大値:中と右。
検証にはTNS-901を使った。
↑ 検証風景。
スティック用基板は、ピンの周りの導電板をパターンカットした。
デバイスはRKJXV1224005系を使用。
スティック軸はWiiUプロコンのものを使用。
6.全抵抗値
抵抗器内の抵抗シート部分全体の抵抗値。約10kΩ。
単体のデバイスの左と右のピンにテスターを当てて測定。
ちなみに
デバイスの仕様書
には、「全抵抗値=10kΩ」と記されている。
↑ 抵抗器の内側。オレンジ色部分が抵抗シート。
それぞれの測定項目について、
抵抗値を5回測定し、平均を取った。
測定結果
Switchプロコンに装着したときの動作可否も合わせて掲載する。
表2-1:抵抗値の測定結果。
デバイス |
プロコン動作 |
レバー小 |
スティック小 |
中心 |
スティック大 |
レバー大 |
全抵抗 |
SwPro付属 |
可 |
0.574 |
2.724 |
6.278 |
10.798 |
10.514 |
9.74 |
OEM |
可 |
0.206 |
1.456 |
4.946 |
8.534 |
9.358 |
9.42 |
RKJXV1224005 |
不可 |
0.912 |
2.824 |
5.4 |
8.236 |
9.678 |
10.21 |
ALPS緑a |
不可 |
1.07 |
3.236 |
6.096 |
9.196 |
10.68 |
10.33 |
ALPS緑b |
不可 |
0.848 |
3.106 |
6.69 |
11.436 |
11.164 |
9.18 |
WiiU |
不可? |
1.008 |
未測定 |
5.582 |
未測定 |
10.148 |
9.81 |
金属軸(非互換) |
可? |
0.09 |
0.14 |
5.374 |
10.104 |
10.302 |
9.04 |
表2-2:測定結果(中心との差)。
デバイス |
プロコン動作 |
レバー小 |
スティック小 |
スティック大 |
レバー大 |
SwPro付属 |
可 |
-5.704 |
-3.554 |
4.52 |
4.236 |
OEM |
可 |
-4.74 |
-3.49 |
3.588 |
4.412 |
RKJXV1224005 |
不可 |
-4.488 |
-2.576 |
2.836 |
4.278 |
ALPS緑a |
不可 |
-5.026 |
-2.86 |
3.1 |
4.584 |
ALPS緑b |
不可 |
-5.842 |
-3.584 |
4.746 |
4.474 |
WiiU |
不可? |
-4.574 |
未測定 |
未測定 |
4.566 |
金属軸(非互換) |
可? |
-5.284 |
-5.234 |
4.73 |
4.928 |
同じデバイスで複数回測定したときの抵抗値には、0.2 kΩ程度の振れ幅があった。
これは、レバー位置が測定のたびに微妙にずれてしまうためである。
中でも、Switchプロコン付属デバイスは測定値が他と比べて非常に不安定だった。
同時に複数個購入したデバイスは、すべての可変抵抗器が近い抵抗値を示した。
それらはプロコンの動作可否も同じ結果だった。
考察・議論
製品間の差は認められるが、動作可否と関連付けて一貫した説明をすることができない。
デバイスの仕様書
によれば、この可変抵抗器は「Bカーブ」の特性を持つ(=抵抗値が線形に増減する)。
したがって、スティックのデジタル入力値は
中心からの抵抗値の差
に比例する仕様だと考えられる。
実際、プロコンで正常動作する2つの抵抗器は、不具合を起こすものに比べて「スティック可動域-中心」の値が大きい。
これは、上記の推測および「不具合品では入力値が小さくなる」という事実と整合的である。
しかしながらALPS緑(b)は、「スティック可動域-中心」の値が大きいにもかかわらず、プロコンで不具合を起こす。
総合的に見た測定結果もプロコン付属品とさほど変わらないため、別途検証が必要である。
実用的には、
レバー最小値が小さければ(0~0.5kΩ程度)、Switchプロコンで正常に動作する可能性が高い
ということが言える。
ところで、どのデバイスでも中心からの変化量が「最大値側<最小値側」となった点は気になる所である。
この傾向は、テスターを当てる位置を「中央と左」から「中央と右」に変えても認められる。
レバー可動域と可変抵抗器の変化量はともに左右対称であるはずなので、これはやや不自然な結果と言える。
測定方法に何か問題があるか、考え落としている現象があるのかもしれない。
課題・改善点
今回の計測では、「品番の異なるデバイス間の個体差」があることを確認できた。
しかしこれだけでは、同一製品(RKJXV1224005)のレビューでプロコン動作の可否が分かれているという事実に説明がつかない。
これを説明するには、
「スティックデバイスでのロット差」
または
「Switchプロコンの個体差」
の存在を示す必要がある。
この2点は本質的に同義なので、実際には差があるプロコンの存在を確認できればよい。
もしこれが正しいなら、プロコンは出荷時にキャリブレーションされているのだろう。
まとめ
- Switchプロコンなどのスティックデバイスは、RKJXV1224005系デバイスである。
- Switchプロコンのスティックデバイス交換は、
AliExpressのOEM品
ならば上手くいく。
- 可変抵抗器の電気的特性には、明らかな製品差がある。
- 最小抵抗値が小さいデバイスは、プロコンに取り付けた時に正常動作する可能性が高い。
補足:Switchプロコンの故障について
Switchプロコンはスティック故障のレビューが非常に多い。
2019年3月現在でも故障レビューが絶え間なく投稿されていることから、製品としての改良も特に行われていないようである。
今回デバイスを分解して可変抵抗器の構造を確認したことで、
故障のパターンがいくつか考えられた
のでここに記しておく。
なお、私はスティック軸にグリスを塗ってプロコンを使用していたため、スティックが不調になったことはない。
この節で記載した内容は実体験を伴っておらず、また電子工作素人の不確実な推測が多く含まれることに留意いただきたい。
<故障パターン>
上から起こりやすそうな順に並べた。
- レバーや可変抵抗器回転パーツ周辺にゴミが溜まり、
物理的にパーツの可動性が阻害
されている
- 可変抵抗器のピン周辺にゴミが付着し、
基板上で接触不良
を起こしている
- 可変抵抗器内部に粉が入り込み、
抵抗器内部(抵抗シートとセンサーの間)で接触不良
を起こしている
- 可変抵抗器内部の抵抗シートが摩耗し、
抵抗器が寿命を迎えている
1番,2番は
プロコンを分解し、デバイスおよび基板上のゴミを取れば解決する。
特に2番が原因の場合、シリコンスプレーや接点復活スプレーなどで汚れをしっかり落とすべきだろう。
3番は、
可変抵抗器内部を掃除する
必要がある。
実は、レバー部分付け根は可変抵抗器内部と空間的につながっている。
レバー付け根から抵抗器の方を目掛けて、接点復活スプレーをかけてやるのが良いだろう。
ただしやりすぎるとかえって反応が悪化したり、レバーの可動性に悪影響を及ぼしたりする可能性がある。
4番は
スティックデバイスの寿命
なので、修理するならデバイスの交換しかない。
ただし
仕様書
によると、
可変抵抗器は200万回の動作に耐えられるという。
Switchプロコンの抵抗器はRKJXV1224005と全く同じではないが、短い期間で故障した場合は抵抗器の寿命以外の原因が有力だと思われる。
故障に伴う症状としては、
スティック軸とコントローラーカバーがこすれて白い粉が出る
という報告が特に多い。
白い粉が出やすい原因は、主にSwitchプロコン外側ケースのスティック周りの材質にある。
そのため、仮にスティック軸を交換したとしても改善しない。
ケースのスティック周りの材質も特殊だが、スティック軸の材質がゴムっぽいというのも他のコントローラーにはない特徴である。
果たして、ケースとスティックのどちらが悪いのだろうか。
白い粉による故障を防ぐには、他の多くのサイトで紹介されている白い粉の対処法を実践するのがベターである。
↑ 白い粉が出たSwitchプロコン。購入日は2019/4/2。
掃除せずに10~15時間ほど使うとこのようになる。
白い粉はスティック軸を1周するように発生するほか、コントローラー天面、スティック傘部分にも付着する。
ところで、「本当に白い粉はコントローラー故障の原因になるのか?」という疑問が持ち上がることも多い。
しかし、故障したコントローラーの分解写真を見ると、スティックパーツの半球裏側にまで粉がついていることがある。
このように粉はどこにでも入り込むと思われるので、デバイスに付着して故障を引き起こすというのは十分ありえるだろう。
ただし私には、
WiiUプロコンのLスティックが3か月で故障した
という個人的な経験がある。
無償交換で送られてきた次代WiiUプロコンは故障せずに長く使えたので、1個目はデバイスがたまたま不良品だったのだろう。
粉だけがスティックの故障原因ではないのもまた事実ということである。
おわりに
抵抗値測定でプロコンでの使用可否が明確に判断できるだろうと思っていたが、残念ながら期待通りの結果にはならなかった。
電子工作に関しては初心者なので、もしこの記事を読んだ中に詳しい方がいれば情報をくださると幸いである。
また自前でのコントローラー修理は、工具や部品を揃えるコスト、作業が失敗するリスクを考えるとあまりお勧めできない。
ちなみに執筆者のプロコンは、分解とはんだ付けを繰り返すうちに充電端子が逝きました。
記事執筆のために作業を続けていたら通電しなくなりました。
分解やはんだ付けが楽しいと思える人、税込定価7538円のコントローラーを壊してもへっちゃらだという人は挑戦してほしい。
Switchプロコンの故障率は、WiiUプロコンやよそのメーカーと比較しても群を抜いている。
家庭用ゲーム機の標準コントローラーの中では定価が最も高いこともあり、ユーザーの不満の声も大きい。
任天堂には早めに対策を取ってもらいたいものである。
コメント
- RKJXV1224005を換装して、ヤスリでプロコンカバーを削って補正できる範囲まで可動域を増やすことで対応はできました… -- 名無しさん (2019-05-21 21:11:35)
- 丁寧な説明有難うございます。スティックを倒した時の抵抗値がこれほど違うと 入手できるのがRKJXV1224005系のデバイスだけなのでこのスティック の特性にどの程度ばらつきがあるかが気になりますね。このばらつきが大きければ、ユーザーで行える誤差補正範囲と工場で行ている誤差補正の範囲が異なるとかそういう可能性も出てくると思います。 -- 名無しさん (2019-11-09 17:46:38)
- 「Switchプロコンの故障について」にある仕様書のリンク(https://www.alps.com/prod/info/J/HTML/MultiControl/Potentiometer/RKJXK/RKJXV1224005.html)が切れてしまっているようですが、どこか見られるサイトをご存知の方いらっしゃいませんでしょうか。 -- あきば (2021-03-21 18:11:29)
- ↑Webarchiveでよければ https://web.archive.org/web/20180312034213/https://www.alps.com/prod/info/J/HTML/MultiControl/Potentiometer/RKJXK/RKJXV1224005.html -- ゆうら (2021-05-03 19:44:00)
- このデバイスは電圧を分圧するものなので電圧を測定した方が良いです。PS3のコントローラーの片側デバイスの可変抵抗だけ中華に変更したところSteamのキャリブレーションで斜め入力で振り切らなくなったので、コントローラーに組み込んだ状態で電圧を測定しました。全周:1.320V 倒した時 中華:1.172V 0.141V 純正:1.263V 0.052V。中華の方が振れ幅が少なくなったので振り切らなくなったのが分かりました。抵抗はこちらのページと同じく、ぱっと見では相関が取れません。中華全抵抗 9.99k 倒した時 10.43k 1.80k、純正全抵抗 9.32k 倒した時 9.77k 1.94k。あと伝導性シート青の抵抗は0では無いです。回転パーツの接触点1箇所と足で測定すると0.2k前後(テスターだとブレが凄い)あります。 -- 名無しさん (2021-12-14 12:40:02)
- RKJXV1224005を付け替えて失敗した者です。しかし、抵抗器の円形金属を入れ替えるだけでドリフト現象は直ります。これならハンダづけも不要で交換できます。お試しあれ。 -- もーまんたい。 (2023-06-02 17:07:49)
- RKJXV1224005の後継で秋月電子で売られてるRKJXV122400Rを試しましたが、だめでした。ただ、可変抵抗器だけAmazonでswitch用に売られてる緑の物に交換したら、正常に動きました。 -- 名無しさん (2024-10-09 15:13:28)
- WiiUプロコンのスティックを交換しようと思ったのですが、 -- 名無しさん (2025-02-26 17:43:32)
- WiiUプロコンのスティックを交換しようと思ったのですが、 https://ja.aliexpress.com/item/1005007492336748.html 探してみるとこのURLの製品しか出てこず。他のコントローラーの基盤でも互換はあるのでしょうか? -- 名無しさん (2025-02-26 17:44:13)
最終更新:2025年02月26日 17:44