遅延検証@オフ会場


はじめに

無線接続のコントローラーは、 電波干渉 の影響で入力信号の送受信が不安定になる可能性がある。
実際、ウメブラJapanMajor2019や大規模な海外大会に出場したプレイヤーからは
無線Switchプロコンに体感できるレベルの入力遅延が発生する
という報告が多数見られた。
この検証では、オフ大会の会場において無線コントローラーにどの程度の遅延が発生するのかを調査した。


Bluetoothについて

Switch対応の無線コントローラーの通信規格はBluetoothである。

Bluetoothは、デジタル機器用の近距離無線通信規格のひとつ。
通信範囲は 半径約10m *1、通信周波数は 2.4GHz帯
干渉対策として、通信周波数を高速で切り替える「 周波数ホッピング 」という方式を採用している。
2.402~2.480GHzの間に1Mhz刻みで79個の周波数帯を確保し、毎秒1600回の速さでそれらを切り替えて通信している。
他にも、周囲に2.4GHz帯の電波がある場合はそれを避けるようにホッピングするほか、
Bluetooth機器同士も干渉しにくいように設計されている。
とはいえ、周囲に同周波数帯を使用する機器が多数ある場合には、電波干渉によって通信不良が発生することがある。

2.4GHz帯を使用するために干渉の主な原因となりうる電気機器は
無線LAN 、ポケットWi-Fi、スマートフォンのテザリング、電子レンジ
Bluetooth機器は
ゲームコントローラー、マウス、キーボード、イヤホン
などがある。

Bluetoothのバージョンは、
  • Switchプロコン:Bluetooth3.0
  • ワイヤレスホリパッド、PowerA無線コン:Bluetooth5.0
である。
バージョン4.1以降には、スマートフォンのLTE電波との干渉を抑える機能が搭載されている。


方法

「ウメブラSP4」の会場内にて、無線コントローラーの応答時間を測定した。
使ったコントローラーは、 Switchプロコン ワイヤレスホリパッド

検証・解析の方法は 遅延検証の方法 と同様である。
モニターなどの機材をすべて持ち込み、自宅と変わらない検証環境を再現した。
測定した位置は下図を参照。 半径10m以内には、15~20台程度のSwitch本体がある
大会参加者に話を聞いたところ、モニター同士の間隔はウメブラJMよりも狭かったそうである。
↑ 会場の見取り図と検証スペースの位置。

測定時刻・コントローラーは以下の通り。
測定時刻 コントローラー 会場の様子
11:45-12:10 Switchプロコン1 予選。満席
12:30-12:55 ホリパッド1 予選。人少なめ
15:00-15:50 Switchプロコン2 本選。ほぼ満席
16:40-16:55 ホリパッド2 サブイベント。全台4人状態→ほぼ空席
17:00-17:25 ホリパッド3 フリー台開放。満席
17:30-17:55 Switchプロコン3 フリー台開放。満席


結果

<Switchプロコン>
測定 時刻 応答時間 標準偏差 大幅遅延割合
通常時 - 5.903 F ±0.316 F -
SwPro1 11:45 5.988 F ±0.391 F 0.962% (21/2183)
SwPro2 15:00 5.914 F ±0.316 F 0.000% (0/3813)
SwPro3 17:30 5.899 F ±0.314 F 0.051% (1/1946)
時系列データ(平均との差)。上段が通常時、下段が会場での測定。


<ワイヤレスホリパッド>
測定 時刻 応答時間 標準偏差 大幅遅延割合
通常時 - 5.949 F ±0.314 F -
HORI無線1 12:30 6.000 F ±0.336 F 0.596% (12/2005)
HORI無線2 16:40 6.014 F ±0.355 F 0.608% (5/823)
HORI無線3 17:00 6.025 F ±0.375 F 0.877% (18/2052)
時系列データ(平均との差)。上段が通常時、下段が会場での測定。

平均値には大きな差が出なかった。
0.05~0.08F程度の遅延は統計的に有意であるものの、これを体感できたらもはや人間ではない。
大幅遅延さえ除けば、標準偏差(応答時間のバラつき、安定性)にも大きな差は認められない。
一方で、1%に満たない頻度ではあったが 入力が大幅に遅延するケースが見られた (後述)。
また、通常時と同じく、 すべてのケースで応答速度の500秒の周期性が確認された。

大幅遅延について

今回の測定において、 入力値が応答時間の平均値に対して大幅に遅延するケースが稀に見られた。
遅延具合は、最大で+2.5F程度。
ここでは、平均値から標準偏差の3倍(3σ)以上外れた値を「大幅遅延」とみなして上表に記載した。
大幅遅延は通常の測定では基本的に発生しないため、 電波の干渉が原因の現象 だと考えられる。

↑ Switchプロコン測定1の応答時間時系列データ。赤枠が大幅遅延。


議論

全体的な差
周囲にほぼ常に無線コン使用者がいたにもかかわらず、平均値への影響が小さかった。
これは、 ある程度の稼働台数まではBluetoothの干渉対策が機能している ためだろう。
大幅遅延の発生率に時間的なムラがあるのは、 周囲の無線コンの稼働台数が変わった ためと考えられる。

コントローラー間の差
ワイヤレスホリパッドは、Switchプロコンよりも大幅遅延の割合が高かった。
ホリパッドには干渉対策が進んだバージョンのBluetoothが搭載されている。
したがって干渉による遅延が小さいことが期待されたが、逆の結果となった。
考えられる要因は、
  • 周囲の無線コン稼働台数の変化(偶然性による差)
  • ワイヤレスホリパッドの電波強度が弱い
などがある。


サブ検証1:ウェーブバード

方法
同様の手法で、ウェーブバード(無線タイプのGCコン)の応答時間を測定した。
ウェーブバードの通信規格は 無線2.4GHz である(Bluetoothではない)。
測定時刻 コントローラー 会場の様子
18:05-18:20 ウェーブバード フリー台開放。満席

結果
<ウェーブバード>
測定 時刻 応答時間 標準偏差 大幅遅延割合
通常時 - 6.059 F ±0.340 F -
ウェーブバード 18:20 6.138 F ±0.366 F 0.054% (9/1662)
時系列データ(平均との差)。上段が通常時、下段が会場での測定。
Switchプロコン・ワイヤレスホリパッドと同じ傾向だった。


サブ検証2:モニター比較

方法
BenQ社の GL2580HM を使って検証した。
ウメブラSP4で使われたモニターは、GL2580HMと GL2460T の2種類だった。
当日の朝早くに測定したため、電波干渉の影響はとても小さい。
比較対象は、普段検証に使用している EX-LDGC251TB
Switch本体やHDMIケーブルは普段と同じものを使用した。

結果
モニター コントローラー 応答時間 測定回数
GL2580HM GCコン 5.820 F 1085
EX-LDGC251TB GCコン 5.786 F 2153
GL2580HM Switchプロコン 5.931 F 1286
EX-LDGC251TB Switchプロコン 5.903 F 4546
EX-LDGC251TBの方が約0.03F (=0.5ms)応答が速かった。一応、差は統計的に有意である。
液晶の応答速度(GTG)のカタログスペックは
  • GL2580HM:1ms
  • EX-LDGC251TB:0.8ms(オーバードライブ2時)
なので、この差0.2msに加えて内部処理速度の差が約0.3msだけあるものと思われる。
究極まで速さを追求したいならこだわってもよいが、この差はまず体感できないレベルである。
「大会と同じものを使う」という安心感や、発色・モニターの機能・デザイン・値段などを優先して検討するのもよいだろう。


まとめ

ウメブラSP4にて、無線コントローラーの混線が起きているかどうかを確かめるために遅延検証を行なった。
平均値の変化は最大でも0.1F未満で、体感できるほどの違いはなかった。
一方で、最大+2.5F程度の大幅な入力遅延が1%以下の頻度で発生した。
無線コン特有の応答速度の周期性は、大会会場でも同様に確認できた。


おわりに

このたび検証のために大会会場のスペースを提供してくださったウメブラ様に心からお礼申し上げます。
また、現地でコントローラーをお貸しくださった方々にも感謝いたします。
ありがとうございました。


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最終更新:2019年08月20日 00:40

*1 一般的なBluetooth機器の場合