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「生き甲斐」
雪深い山道を
男は進んでいた
男は進んでいた
動く物も 音も無い
白く凍りついた景色が続く山道
白く凍りついた景色が続く山道
男の白い息だけが
進んでいる
進んでいる
気がつくと
日が沈みかけていた
日が沈みかけていた
それでも 男は
決して歩みを緩めることはない
決して歩みを緩めることはない
道を阻む大地の切れ目
そのクレバスは
底が見えないほどに深い
底が見えないほどに深い
男は 懐から
使い慣れた手斧を取り出した
使い慣れた手斧を取り出した
不安定な足場を
バランスを取りながら歩いていく
バランスを取りながら歩いていく
そしてまた
山頂を目指し 歩み始める
山頂を目指し 歩み始める
気がつくと辺りは
月明かりに包まれていた
月明かりに包まれていた
この山には
不思議な魅力があった
不思議な魅力があった
夜の山は
昼のそれより危険だと
当然承知している
昼のそれより危険だと
当然承知している
しかし
経験・体力・知恵・自信
それらが彼の背を押していた
経験・体力・知恵・自信
それらが彼の背を押していた
その時
月夜に紛れ
男を窺う獣の目が光った
月夜に紛れ
男を窺う獣の目が光った
男は落ち着いた様子で
狼の群れと対峙する
狼の群れと対峙する
走らない
背を向けない
目を合わせない
背を向けない
目を合わせない
そしてトドメの一喝
狼の群れを追い払った男は
再び山道を進む
再び山道を進む
ここはかつて
誰も登頂を成し得たことがない
と言われる山
誰も登頂を成し得たことがない
と言われる山
男はこれまでいくつもの名峰を
制してきた冒険家だった
制してきた冒険家だった
厳しい自然を通じ
いかなる時も
生と死の境界線を探していた
いかなる時も
生と死の境界線を探していた
それを発見することが
己が生きる理由であると信じて
己が生きる理由であると信じて
「不退転」
雪山は激しい吹雪に
覆い尽くされていた
覆い尽くされていた
凍てつく風と雪
男の足取りも重い
男の足取りも重い
疲弊しきった目に映ったのは
人ひとりが休めそうな岩陰
人ひとりが休めそうな岩陰
気持ちに余裕が出来ると
懐に忍ばせた手紙の事を
思い出した
懐に忍ばせた手紙の事を
思い出した
「お父さん 早く帰ってきてね
お母さんと待ってるよ」
この山へ挑む直前に
娘が贈ってくれたものだ
娘が贈ってくれたものだ
もう一度懐を探り
手作りのお守りを取り出した
手作りのお守りを取り出した
ややいびつな形が
凍てついた男の頬を緩ませる
凍てついた男の頬を緩ませる
立ち上がった男の足には
力が溢れていた
力が溢れていた
山の中腹には
氷の湖が広がっていた
氷の湖が広がっていた
転がっていた死体は
格好を見るに登山家のようだ
ここで力尽きたのだろう
格好を見るに登山家のようだ
ここで力尽きたのだろう
登山家の無念が
死霊となって闇を広げた......
死霊となって闇を広げた......
遺体の傍らに
一冊の手記が落ちていた
一冊の手記が落ちていた
その手記には
この山へ挑んだ事への後悔
この山へ挑んだ事への後悔
そして残してきた家族への謝罪
寒さに凍えていたのか
悲しみに暮れていたのか
悲しみに暮れていたのか
その文字は微かに震えていた
「呵責」
男の前に
巨大な崖が立ちふさがる
巨大な崖が立ちふさがる
ここを登りきれば
山頂にたどり着けるはずだ
山頂にたどり着けるはずだ
かじかんだ手を硬く握り
男は自分を奮い立たせた
男は自分を奮い立たせた
凍えきった体には
無謀に思えた崖を
男はついに登りきった
無謀に思えた崖を
男はついに登りきった
人跡未踏と言われた山頂には
驚くべき事に朽ちた神殿があった
驚くべき事に朽ちた神殿があった
その不思議な光景に
導かれるように進む
導かれるように進む
そこで出会ったのは
いるはずのない 男の妻だった
いるはずのない 男の妻だった
[妻]
ずっと待っていたのよ あなたを......
ずっと待っていたのよ あなたを......
妻だと思っていたそれは
見知らぬ妊婦の凍死体だった
見知らぬ妊婦の凍死体だった
凍死体は
不格好なお守りを握りしめていた
不格好なお守りを握りしめていた
そのお守りは
娘からの贈り物に
よく似ていた
娘からの贈り物に
よく似ていた
......山を下りよう
幻覚まで見た男は
家族の元へ帰る決意を固めた
家族の元へ帰る決意を固めた
「願い」
雪がしんしんと降り積もる森の中
明かりが灯る家がひとつ
明かりが灯る家がひとつ
[娘]
お父さん 早く帰ってこないかな
お父さん 早く帰ってこないかな
ゴンゴンと
乱暴に扉を叩く音が聞こえた
乱暴に扉を叩く音が聞こえた
[娘]
!
お父さんだ!
!
お父さんだ!
乱暴に扉が開き
そこに立っていたのは
父親の姿をした異形の何かだった
そこに立っていたのは
父親の姿をした異形の何かだった
扉を叩く音は
風のいたずらのようだった
風のいたずらのようだった
[娘]
お父さんが帰ってきたらね
私が作った手袋あげるの!
お父さんが帰ってきたらね
私が作った手袋あげるの!
[妻]
ふふ お父さんきっと喜ぶわ
............
ふふ お父さんきっと喜ぶわ
............
[妻]
ううっ......
ううっ......
妻は
大きいお腹を押さえ
その場にうずくまる
大きいお腹を押さえ
その場にうずくまる
新たな命が
今にも生まれようと
していた
今にも生まれようと
していた
男は 暗闇の中にいた
全身に激痛が走る
身動きすらもままならない
身動きすらもままならない
それでも懸命に手足を動かすが
身体はどんどん重くなっていく
身体はどんどん重くなっていく
身体が冷たくなっていくなか
男は悟る
男は悟る
「そうか 俺は
とっくに......」
とっくに......」
すでに感覚を失ったその手を
男はそっと懐に入れる
男はそっと懐に入れる
娘の作ったお守りには
まだほのかに
ぬくもりが残っていた
まだほのかに
ぬくもりが残っていた

指先に家族を感じながら
男はゆっくりと
目を閉じた
男はゆっくりと
目を閉じた
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