NieR Re[in]carnation ストーリー資料館

グリフ 『血塗られた勲章』

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shinichiel

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キャラクター  グリフ


一話

青年が軍に入隊した頃

ザンッザンッと音を立て、一糸乱れぬ隊列を成して行進する。
演習場の土を蹴り上げる、軍人たち。

軍への入隊。それは国に命を預けることと同義だ。
時がくれば容赦なく戦場へ駆り出されることになる。

だがそれでも、貧しいこの国では入隊希望者が後を絶たない。
軍人になる事で受けられる報奨金が目当てだった。


「軍に入隊すれば一生安泰」
そんな謳い文句があるほど、毎年何千人もが志願をする。

しかし、厳しい試験をいくつも合格する必要があり、
最終的に残る人数は数十人程度と言われている。


無事に入隊した者はいくつかの隊に分けられ、
先輩である指導役や上官となる隊長の元に配属される。
同じ隊に配属された者たちは、軍の寮で寝食を共にする。

集団行動で規律を身体に覚えさせるためだ。


ここは、ある国境沿いに配備された小さな拠点。
その軍会議室に、新人隊員たちが整列している。

隊員たちの前に立つ隊長が、軍の試験を首席合格したという隊員の名を呼ぶと、
一人の青年が前へ出て、凛とした敬礼をする。

隊長からの期待の言葉を受け、
「はっ!」と短く返事をする青年の目には、
軍に対する大きな志が灯っていた......


それからしばらく経ったある夜、寮内に騒がしい声が響く。
青年と、同僚の隊員が口論を始めたのだ。
彼らは普段の訓練でも競い合い、頻繁に対立していた。


青年は他人に横柄な態度をとるふしがあり、
他の隊員たちから距離を取られつつあったが、
その同僚とは気兼ねない関係を築けていた。
青年にとって数少ない「親友」とも言える仲間。

口論が過熱していく様子を、
まるで楽しむように周りの者たちが焚きつけていく。


「お前はいつも勝手な行動ばかりだな!」
頭に血が上った同僚からの言葉に、青年が反論する。
「うるさい! 俺にはデカい目標があるんだよ!」

やがて取っ組み合いの喧嘩へと発展し、
傍観していた隊員たちも止めに入るが、収まる気配はない。


喧嘩を止めたのは、ガチャリと寮の扉を開く音。

隊長の姿を見るや否や、隊員たちは全員静まり返り、
背筋を伸ばし、足を揃えて立ち構える。


隊長は「やれやれ、またか......」と呟き、
騒動の中心である二人に罰として倉庫の掃除を命じる。

連帯責任として同じ罰を課せられた指導役の先輩隊員も、
うんざり顔で深いため息をついた。


古く使われなくなった倉庫の掃除。

掃除をして何の意味があるのかと、
青年が抑えきれないように苛立ちを吐露する。
「あの隊長、俺にこんな雑用を押し付けるなんて......!」

それを聞いた先輩隊員が、仕事に戻れと青年を注意する。
「口よりも手を動かせ。罰を受けるのも軍人としての務めだ」

ただ黙々と掃除をしている同僚と先輩隊員の姿に、
青年の苛立ちは余計に募る。


「俺は一刻も早く戦場で功績をあげて、
 名誉勲章を手に入れなきゃならないんだ......」

名誉勲章。
この国で、功績をあげた軍人に授与される最高位の勲章。
勲章の受章は、軍での出世を約束されると言われている。


「俺の実力を知らしめて、軍のトップへ上り詰めるんだ」
軍の報奨金目当てで入隊を希望する隊員が多い中、
大きな志を胸に抱く青年。

同僚と先輩隊員は、青年の胸の内を初めて聞いた。
確かに実技訓練や試験における青年の実力は相当なもので、
その言葉が口だけだと否定することはできない。


言いたいことを言ってスッキリしたのだろうか。
倉庫から出ていこうとする青年を、
同僚が 「まだ掃除は終わってないぞ」と制止する。
しかし青年は当然のような顔でこう返した。

「俺の担当範囲は終わった。だから帰って寝る」


大きな志を成すためには、共に目指す者が必要不可欠だ。
「人望」というものがいかに大切であるかに、
青年は気付いていないのだろうか。

倉庫に残された二人は同じことを思っていたのか、
不思議と目が合い、思わず苦笑いした......


二話

数日後。
隊のメンバー全員を招集する通達があった。それはつまり、
重要な作戦会議が行われることを意味している。
会議室に集まり、ピリッとした空気に包まれる隊員たち。
誰しもが一言も発さずに会議の開始を待つ。
しかし十分経っても会議は始まらない......


理由は単純。隊長が今日も寝坊しているからだ。
今日も青年のイライラは募る。
しばらくして隊長が現れると、いつものように
「いや、わるいわるい。今日も寝坊だ......」と言い、
隊員たちの笑いを誘う。


ようやく作戦会議が始まった。隊長が真顔になる。
敵国の軍勢が国境付近に向かって進軍しているらしい。
その情報に、隊員たちの笑顔が消える。
隊長は続けて今回の作戦内容を伝え始めた。


「本作戦は敵軍の侵攻を阻止して自国の領地を守ること。
 つまり、侵攻方向にある我々の拠点を防衛することにある」
目的はあくまで拠点の防衛。犠牲は最小限に留め、
敵軍を撤退させればいいのだと、隊長は念を押す。

シンと静まった会議室に声が漏れ始めた。
やる気を見せる者、安堵する者、不安になる者。
三者三様の状況の中、青年が申し出る。


隊長があくびをしつつ、青年の発言を許可する。

青年はムッとした表情を隠しもしない。
敵国の情勢を踏まえた前置きを述べた後、
隊長が説明した作戦内容を真っ向から否定する。
敵軍の『殲滅作戦』を提案した。


ザワつく会議室。
青年は追い打ちをかけるように提案を続ける。

長年、国の脅威であった敵軍の一部隊を叩けば、
我が隊の大きな功績になると。

だが、その提案は隊長によって阻まれた。


「却下かな......作戦の要点は拠点の防衛だと言っただろう?
 隊員に犠牲が出たら、僕が責任を取ることになるじゃないか」

青年は食い下がらずに進言を続け、
両者の押し問答はその後もしばらく続いた。
しかし、隊長の作戦を覆すことは結局できず、
会議は閉会となった。


自分の立案した作戦が却下されて、
さらにイライラを募らせる青年。
「くそっ、どうして理解してくれないんだ!
 俺の方がよっぽどこの隊のために......!」


どうしても諦めきれない青年は寮内を回り、
自分の作戦に肯定的な隊員を秘密裏に集めることにする。

普段の青年の横柄な態度から、
賛同してくれる隊員は多くはなかった。

青年は親友である同僚にも誘いをかけてみたが、
彼は少し迷った後その誘いを断った。


確かに名誉勲章は、軍人になった者であれば
誰しもが目標とすべきものではある。
だが同僚は、それよりも日々の軍務を果たし、
故郷の家族のために仕送りをしてやりたい。
だから危険な作戦に参加することはできない、と話す。


その理由が本当なのか嘘なのか。
はたまた、裏で勝手にそんな作戦を企てている
青年の行動に対して苛立ったのか。
同僚が拳を握りしめていたことに、青年は気付く。
各々の想いが交錯したまま、
作戦当日は少しずつ近付いていった......


三話

戦場とは思えないほど、そこは静かだった。
聞こえてくるのは、青年自身の荒い呼吸の音だけ。
自軍の拠点に立つ青年の前に、
おびただしい数の死体が転がっている。
それらは紛れもなく......


4時間前。
敵軍が国境に到達し、戦闘が開始された時刻。
隊長の作戦通りに、隊は敵軍から拠点を防衛し続ける。
消耗戦となった戦況にしびれを切らした青年は、
独断で殲滅作戦を実行へと移すことにした。


拠点周辺の地の利を活かした青年の奇襲作戦は、
見事に敵戦力の大半を無効化した。
作戦に賛同し協力してくれた数人の仲間を犠牲に、
多くの敵兵の命を奪い、撤退へと追い込んだのだ。


壊滅状態の敵兵を見て、青年は戦場で笑っていた。
「やはり、俺の考えに間違いはなかった」と。
これまで戦場で大きな功績も残してこなかった我が隊が、
此度の働きによって、大きく評価されることになるだろう。

名誉勲章に一歩近付いた......
そんなことを考えながら帰還した拠点で、
青年は地獄のような現実を見せつけられることになる。

その場にまるで石ころのように転がっているのは、
無惨にも血塗れで倒れている大勢の仲間たちだった。

土煙が舞い上がる中、薬莢と血がそこら中に飛び散り、
硝煙の中に人の血肉が焦げた臭いが混ざる。
それは、青年がこれまで見たどこよりも凄惨な戦場だった。
吐き気を必死に抑えて、息を整える。
大丈夫、大丈夫だと言い聞かせ、
思うように動かない足を必死に前へ出して歩いていく。


しかし何かに足を引っかけたのか、青年はその場に転ぶ。
足元には、爆発で土を被った重傷の仲間......
指導役の先輩隊員が倒れていた。
まだかろうじて息はあるが身体中に銃弾を浴びており、
助かる見込みはないに等しかった。


「先輩!先輩......」
青年の声に気付いたのか、うっすらと瞼を開ける先輩隊員。
意識は朦朧としており焦点が合っていないが、
青年がそこにいることだけは感じているようだった。


「お前......敵拠点に......攻め込んだだろう......」
青年の独断行動は、当然のように見抜かれていた。
「隊長が......お前を......救おうと......」
「陣形を......変えたら......このザマさ......」
そう言って、先輩隊員は息を引き取った。
隊長が俺のために......? 普段あれほど口答えし、
手を焼かせていたはずなのに......
青年は先輩隊員の死を受け止めきれず、
朦朧とした意識のまま、隊長を探そうと戦場を進む。


次に発見したのは、親友である同僚の変わり果てた姿。
爆薬で左脚が吹き飛んでおり、
そこから大量の血が染み出していた。


「元気かよ......」
もう手遅れな身体でも、同僚は皮肉を言う。
これは自分が招いた結果だと、懺悔する青年。
「すまない......俺......」


「俺も......憧れだった名誉勲章......
 家族のため......なんて言ったけど......欲しい......よな......」
彼の口はそれ以上動くことはなかった。


青年は涙を垂れ流しながら、隊長を探し続ける。
出会うのは、仲間の死体、死体、死体......

ようやく見つけた隊長の姿。青年は駆け寄る。
すでに事切れてしまったのか、どれだけ声をかけても、
グッタリと倒れこんだまま反応がない。


「隊長、俺......おれ......」
ボロボロになった隊長の手を取る。
作戦を無視し独断で行動をするという、
重罪を咎められることもなければ、謝罪することもできない。
自分の犯してしまった罪の大きさ、
そして隊長のことを誤解していたこと。
言いたいことが混ざり合い、うまく話せない。
溢れだした涙も止まらず、それをさらに助長する。


ふと、青年があることに気付く。
隊長が青年の手を握り返していた。
まだ息がある。助かるかもしれない。
青年がそう思い、声を出そうとしたとき......

「ああ......お前が助かってよかった......」


目が開いていたわけでもない、
咽び泣いていた声が青年であることも、
手を握るのが青年であることを知っていたわけでもない。
けれど隊長はそれが青年であることを確信したかのように、
笑顔でそう言い残した。


青年を除いた生存者は......0名。
仲間の命を犠牲に、英雄の戦闘は幕を閉じた。


四話

地獄のような作戦が終了し、一人帰還した青年。
多大な犠牲が出たが、敵を撤退させたことに変わりはない。
青年にはしばらくの休暇が与えられた。


休暇中、青年はすることがなかった。
することができなかった、という方が正しいかもしれない。

ただ一日家の中に引きこもっては酒に溺れる日々。
酒の空き瓶が床に何本も転がり、
生ごみが部屋中に散乱してネズミがたかる有様。


目覚めて、酒を飲み、いつしか寝ている。
それが繰り返される毎日だった。
それだけならまだよかったかもしれない。

眠れば、戦の記憶がフラッシュバックし、
悪夢となって青年を苦しめ続ける。
あの日の戦場、この手で殺した敵の顔、
目の前で死んでいく仲間達。
指導役の先輩も。親友だった同僚も。隊長も......
目の前で、青年の手の中で死んでいく。


毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日............

悪夢は繰り返され、
生活に支障をきたすほどの強いストレスを青年に与え続けた。


あの日、俺があんな提案をしなければ。
あの日、俺があんな作戦を決行しなければ。
あの日、俺が......
思い返せばキリがないほどの後悔を繰り返しながら、
青年は自分自身を責め続ける。


俺のやってきたことに、はたして意味はあったのだろうか。
俺のやってきたことに、はたして誇りはあったのだろうか。
俺のやってきたことに、はたして正義はあったのだろうか。
名誉勲章を得るための、身勝手で横暴な行動が原因なのか。


いっそのこと、楽になってしまおうか。
酒に酔った勢いで銃に弾を込め、
銃口をこめかみに向け、立ち上がる。
引鉄に人差しをかけ、目を瞑り、肺一杯に空気を吸い込む。
「この引鉄を引けば......みんなのところに......」
人差し指に力をこめる。


だが、酔った状態で目を瞑ったせいか、
目の前のテーブルに勢いよく倒れこんでしまった。

一通の封書が目に入る。
それは軍上層部からの通達書類。
殲滅作戦の決行が評価された青年への名誉勲章の授賞と、
隊長への昇進を告げる内容だった。


「馬鹿らしい......」
青年はそう呟いた。
この命も、隊長たちの犠牲の上に成り立っているのに......
そういえば、明日はその授与式だっただろうか。
そう思いながら青年は睡眠導入剤を飲んでベッドに入る。


夢の中。
そこはやはりあの日の戦場。
いつもと違うのは、
青年が独断で殲滅作戦を決行する前の状況であること。


「俺はもう二度と間違わない......」
殲滅作戦は決行せず、拠点に残り敵を一人一人、
確実に殺していく。もう誰も殺させないと強く願いながら。
修羅にでも呑まれたかのように青年は殺し続けた。
一体何人の敵兵を殺し続けたのかもわからない。
でもいいんだ。これで、仲間を助けられるのだから。
ふと、殺した敵兵の顔を覗く。


それは全員、隊の仲間たちだった。
先輩を、親友を、隊長を......またこの手で殺した。
短い悲鳴と共に、青年は察する。
「どう足掻いても、俺は仲間を助けられないのか......」

胸糞悪い夢を見て青年は目覚める。
窓から差し込む朝の陽射し......
今日は念願だったはずの名誉勲章の授与式典だ。


隊を全滅にまで追いやったやつが、
この章を受け取ることにどんな意味があるというのか。
彼らに一体どんな顔で、どんな姿で向き合えばいいのか。


式典を終えれば、青年は隊長へと昇格する。
そして、いずれ部下もできるのだろう。
「......俺、どうやって罪を贖えば......
 隊長、俺に教えてくださいよ......」

そんなことを考えながら、礼装に袖を通す。
久々に鏡で見た自身の姿は、酷いやつれようだった。
己の姿から目を背けるように、
青年は重い足取りで式典会場へと向かった。


まるでそれが、贖罪かのように......
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