※このページには『真暗ノ記憶』に関するネタバレが含まれます。
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一話
The 1104th test record
「なあ、もう朝だ。そろそろ起きないか?」
男はそう言って妻の頬に手を添える。人肌より少し冷たい。
眠っているためか体温が下がっているようだ。
男はそう言って妻の頬に手を添える。人肌より少し冷たい。
眠っているためか体温が下がっているようだ。
妻が起きる様子はない。部屋には深い寝息だけが響いている。
ただ、その呼吸音だけが
妻がまだ生きていることを教えてくれる。
ただ、その呼吸音だけが
妻がまだ生きていることを教えてくれる。
妻はもう十日間も眠り続けていた。
――十日前。廃墟都市の中心街で起こった『花』との戦闘。
その戦いは苛烈を極め、大勢の死傷者が出た。
妻はその時の戦闘で頭部を負傷、
傷は何とか完治したものの意識が戻らずにいた。
その戦いは苛烈を極め、大勢の死傷者が出た。
妻はその時の戦闘で頭部を負傷、
傷は何とか完治したものの意識が戻らずにいた。
ドクターは強い衝撃を受けた際の後遺症だと言っていた。
もしかしたら、ずっと意識不明のままかもしれないとも。
生き残れただけ幸運だったのだろう。でも男は必死に祈った。
「目を開けてくれ......」
もしかしたら、ずっと意識不明のままかもしれないとも。
生き残れただけ幸運だったのだろう。でも男は必死に祈った。
「目を開けてくれ......」
男は過去に『花』に子供を殺されていた。
そして次は妻をも失ってしまうかもしれない。
その恐怖に全身が震え、不安が心に風穴を空ける。
そして次は妻をも失ってしまうかもしれない。
その恐怖に全身が震え、不安が心に風穴を空ける。
『花」は全てを奪っていく。
憎悪が渦を巻き、無意識に手に力が入る。
憎悪が渦を巻き、無意識に手に力が入る。
『花』さえ駆逐できれば、『花』を殺す力さえあれば。
「......沈んでいてはダメだ。妻は必ず目覚める」
男は心に空いた風穴を強引に塞ぐように、気合を入れ直す。
男は心に空いた風穴を強引に塞ぐように、気合を入れ直す。
その時、食事の時間を知らせるアナウンスが鳴った。
毎日同じ時間に流れるこの鬱陶しいアナウンスも、
気分を紛らわすのには役に立つ。
『管理」され規則通りに暮らすというルーティンが、
今ばかりは男に安心感を与えてくれていた。
毎日同じ時間に流れるこの鬱陶しいアナウンスも、
気分を紛らわすのには役に立つ。
『管理」され規則通りに暮らすというルーティンが、
今ばかりは男に安心感を与えてくれていた。
「食事してくるよ」
眠り続ける妻にそう呟き、男は栄養室へと向かった。
眠り続ける妻にそう呟き、男は栄養室へと向かった。
栄養室。IDを読み込ませると食事が配給される端末と、
食事ができる小さなテーブルが並べられただけの簡素な空間。
そこには同じ区画に住む囚人達が集まっていた。
食事ができる小さなテーブルが並べられただけの簡素な空間。
そこには同じ区画に住む囚人達が集まっていた。
規則正しく列に並び、同じ料理を配給され、
決められた席に座り、ただ黙々と食事する。
決められた席に座り、ただ黙々と食事する。
異様な光景。飼いならされた囚人。
戦争の為の道具は管理されなくてはならない。
戦争の為の道具は管理されなくてはならない。
男は隣の空席に目をやる。普段は妻が座っている場所だ。
味気ない食事が、普段よりも色をなくして見える。
味気ない食事が、普段よりも色をなくして見える。
「みな、注目しろ」
声がした方を見るとそこには上官がいた。
囚人達の間に緊張が走る。上官が現れるのは、
何か問題が起こったときが多いからだ。
声がした方を見るとそこには上官がいた。
囚人達の間に緊張が走る。上官が現れるのは、
何か問題が起こったときが多いからだ。
「新武装のテスターを募る、
志願者は自室の端末から応募するように。以上」
上官はそれだけ言うと、すぐに栄養室を去っていった。
悪いニュースではなかったことに、男は胸を撫で下ろす。
周りの囚人達も安堵している。
志願者は自室の端末から応募するように。以上」
上官はそれだけ言うと、すぐに栄養室を去っていった。
悪いニュースではなかったことに、男は胸を撫で下ろす。
周りの囚人達も安堵している。
『花』に対抗するため
開発部門では兵器や装備についての研究が進められている。
開発部門では兵器や装備についての研究が進められている。
着用している囚人服も開発部門で研究・開発されたものだ。
使用者の耐久性や筋力を高めてくれるが、
身体そして意識までも上官の手一つで支配されてしまう。
忌々しいものだが、皮肉にもこの服によって
何度も命を救われている。
使用者の耐久性や筋力を高めてくれるが、
身体そして意識までも上官の手一つで支配されてしまう。
忌々しいものだが、皮肉にもこの服によって
何度も命を救われている。
それに男は『管理』されてでも生き延び、
『花』へ復讐を果たさねばならないという目的があった。
その目的のためならなんでもやる覚悟があった。
『花』へ復讐を果たさねばならないという目的があった。
その目的のためならなんでもやる覚悟があった。
「新武装か......」
今より強い武器や装備があれば、
『花』に後れをとることもなく、死傷者は減るだろう。
もしかしたら、この『花』との戦争も終わるのかもしれない。
今より強い武器や装備があれば、
『花』に後れをとることもなく、死傷者は減るだろう。
もしかしたら、この『花』との戦争も終わるのかもしれない。
そんな希望を持ってか、テスターに志願する者は多い。
戦闘能力の高さは生存率に直結するのもあるからだろう。
戦闘能力の高さは生存率に直結するのもあるからだろう。
いま妻の隣にいても、してやれることはなにもない。
男は迷いながらも新武装のテスターに応募することにした。
二話
数日後。男は基地内にある訓練場に向かった。
そこには、自分のほかに五人の囚人たちがいた。
志願者の中から選抜された者たちだ。
そこには、自分のほかに五人の囚人たちがいた。
志願者の中から選抜された者たちだ。
筋骨隆々とした大男から華奢な女性まで、
幅広い層が集まっている。
全員が集合した所で、上官が話し始める。
幅広い層が集まっている。
全員が集合した所で、上官が話し始める。
「貴様らにはこれを着用し、模擬戦をしてもらう」
上官が取り出したのは、歪な形をした服だった。
上官が取り出したのは、歪な形をした服だった。
上官の説明によると、これらの服はアシストスーツと言われ、
様々な機能を付与・強化するスーツとのことだ。
様々な機能を付与・強化するスーツとのことだ。
男に渡されたのは、『パワー型』のアシストスーツ。
文字通り、使用者の筋力を高めてくれるという。
シンプルで分かりやすいものだ。
文字通り、使用者の筋力を高めてくれるという。
シンプルで分かりやすいものだ。
見た目は全体を黒く着色されており、重々しく威圧感がある。
表面はゴツゴツとした硬い質感で構成されており、
装甲も十分にあるようだ。
着用時は、身体だけでなく頭や顔をも覆い隠し、
全身をカバーできる。
表面はゴツゴツとした硬い質感で構成されており、
装甲も十分にあるようだ。
着用時は、身体だけでなく頭や顔をも覆い隠し、
全身をカバーできる。
他の囚人が手にしたのは、『スピード型』『防御型』
『魔法型』という攻撃的な役割のスーツと
『索敵型』『医療型』という補助的な役割のスーツだった。
『魔法型』という攻撃的な役割のスーツと
『索敵型』『医療型』という補助的な役割のスーツだった。
その名についた機能を強化する力を持っているようで、
今回は攻撃的な機能をもつスーツの戦闘テストを行うそうだ。
今回は攻撃的な機能をもつスーツの戦闘テストを行うそうだ。
男は支給されたスーツを身に着け、指示された位置に立つ。
向こうからやってきたのは、
『スピード型』のスーツを着た青年だった。
年齢は二十歳そこそこだろうか。
向こうからやってきたのは、
『スピード型』のスーツを着た青年だった。
年齢は二十歳そこそこだろうか。
青年のスーツは派手な黄色をしており、装甲は薄めだ。
その名の通りスピード特化のスーツなのだろうが、
見た目からは性能は推し量れない。
その名の通りスピード特化のスーツなのだろうが、
見た目からは性能は推し量れない。
スーツを着用した二人が、訓練場の中央に相対する。
しばらくして、戦闘開始を告げるブザーが鳴った。
しばらくして、戦闘開始を告げるブザーが鳴った。
「行くぞ、オッサン!」
青年がそう言い終わった瞬間、目の前に拳が現れた。
青年がそう言い終わった瞬間、目の前に拳が現れた。
青年の加速のついた一撃を顔面に食らう。
不意をつかれたこともあり、
抵抗できずに転がり続け、訓練室の壁に叩きつけられた。
不意をつかれたこともあり、
抵抗できずに転がり続け、訓練室の壁に叩きつけられた。
「まだまだ、休むひまはねぇぞ!」
青年はそう言うと、目にもとまらぬスピードで駆け回る。
風のように機敏な動きから、
男の死角を狙い確実に一撃を浴びせてくる。
青年はそう言うと、目にもとまらぬスピードで駆け回る。
風のように機敏な動きから、
男の死角を狙い確実に一撃を浴びせてくる。
しかし、思ったよりダメージはない。
衝撃は強いがスーツを貫通するだけの攻撃力は無いらしい。
衝撃は強いがスーツを貫通するだけの攻撃力は無いらしい。
青年もそれを理解してか、手数で攻め立ててくる。
目にも留まらぬスピードで拳と蹴りが繰り出され、
風を切る甲高い音が何度も響く。
目にも留まらぬスピードで拳と蹴りが繰り出され、
風を切る甲高い音が何度も響く。
「どうした、もう降参か!」
青年は乱打を打ち込みながら、話しかけてくる。
挑発して、反撃に出た際の隙を狙おうとしているのか、
生来の性格によるものなのか。
どちらにしても戦闘のセンスがいい青年だ。
青年は乱打を打ち込みながら、話しかけてくる。
挑発して、反撃に出た際の隙を狙おうとしているのか、
生来の性格によるものなのか。
どちらにしても戦闘のセンスがいい青年だ。
男は死角を減らすため壁を背負い、防御を固める。
いくら一撃が軽いとはいえ、ダメージが蓄積していくと
深刻なものになってくるからだ。
いくら一撃が軽いとはいえ、ダメージが蓄積していくと
深刻なものになってくるからだ。
反撃のチャンスを窺うが、
青年のスピードは一向に衰えることがない。
青年のスピードは一向に衰えることがない。
あのスーツには体力を底上げする効果もあるのかもしれない。
パワー型のスーツは重く、持久戦には不利だ。
パワー型のスーツは重く、持久戦には不利だ。
男はとある策を講じることにした。
「......あまりにも攻撃が軽くて戦いにならないと思ってな」
「なんだとッ!」
青年はまんまと挑発にのり、大振りの蹴りを放ってくる。
男の脇腹に深々と刺さる鋭い一撃。そして、男の唸り声。
「なんだとッ!」
青年はまんまと挑発にのり、大振りの蹴りを放ってくる。
男の脇腹に深々と刺さる鋭い一撃。そして、男の唸り声。
勝負は『一撃』で決まった。
男の拳が青年の腹部に突き刺さる、カウンターの一撃。
一瞬の静寂のあと、青年は力を失い、
ゆっくりと男に倒れ掛かる。
一瞬の静寂のあと、青年は力を失い、
ゆっくりと男に倒れ掛かる。
「やるじゃん......オッサン......次は負けねぇぞ」
青年はそう言って意識を手放す。
青年はそう言って意識を手放す。
「君もな......小僧」
男は最後まで憎まれ口を叩く青年にフッと笑う。
暗く落ちていた気持ちが少しだけ軽くなった気がした。
男は最後まで憎まれ口を叩く青年にフッと笑う。
暗く落ちていた気持ちが少しだけ軽くなった気がした。
それから、何度かの模擬戦や性能テストを「小僧」や
仲間たちと重ね、いよいよ実戦へと投入されることになった......
仲間たちと重ね、いよいよ実戦へと投入されることになった......
三話
都市居住区・第一区画。
男は五人の囚人とともに放棄された居住区に来ていた。
全員がスーツを着用し、完全武装している。
男は五人の囚人とともに放棄された居住区に来ていた。
全員がスーツを着用し、完全武装している。
今回の作戦は居住区に残存する『花』の駆逐。
性能テストも兼ねてはいるが、れっきとした実戦だ。
性能テストも兼ねてはいるが、れっきとした実戦だ。
このテストが無事に終われば、
アシストスーツは新武装として正式にロールアウトされ、
仲間達の生存率も上がることだろう。
アシストスーツは新武装として正式にロールアウトされ、
仲間達の生存率も上がることだろう。
全員が今回の作戦を無事成功させようと意気込んでいた。
『索敵型』がセンサーを使い居住区全体のスキャンを行う。
第三区画の方に『花』が十体ほど確認された。
第三区画の方に『花』が十体ほど確認された。
『花』は基本群生していることが多い。
スキャンに反応しないステルス型も存在している。
十体とは言え、油断はできない。
スキャンに反応しないステルス型も存在している。
十体とは言え、油断はできない。
周囲を警戒しつつ、男は仲間とともに奥へと向かった。
都市居住区・第三区画。
注意深く通路を進み、十体の『花』を目視で確認した。
素敵した情報と違いないことにとりあえず安堵し、
事前に打ち合わせていた作戦を実行する。
注意深く通路を進み、十体の『花』を目視で確認した。
素敵した情報と違いないことにとりあえず安堵し、
事前に打ち合わせていた作戦を実行する。
まずは『魔法型』が奇襲攻撃。
巨大な砲身を持つ銃から放たれた熱線が『花』を燃やす。
熱線を照射している間は無防備になってしまうが、
奇襲であれば問題はない。
巨大な砲身を持つ銃から放たれた熱線が『花』を燃やす。
熱線を照射している間は無防備になってしまうが、
奇襲であれば問題はない。
「小僧! 任せたぞ!」
男は叫ぶ。
小僧と呼ばれた青年は、手で合図を返すと、
群生する『花』たちの中に飛び込んでいき撹乱する。
男は叫ぶ。
小僧と呼ばれた青年は、手で合図を返すと、
群生する『花』たちの中に飛び込んでいき撹乱する。
その隙に『パワー型』である男が接近し、
大剣による大振りの一撃で『花』を次々と刈り取っていく。
大剣による大振りの一撃で『花』を次々と刈り取っていく。
戦闘はあっという間に終わりを告げた。
スーツの性能は圧倒的なものだった。
スーツの性能は圧倒的なものだった。
これなら戦況をひっくり返すことができるかもしれない。
そんな希望が、圧倒的な勝利が、『油断』を招いた。
そんな希望が、圧倒的な勝利が、『油断』を招いた。
「何か来る、逃げろ!」
『索敵型』の足元から、硬い地面をえぐり『花』が飛び出す。
『花』の奇襲攻撃が直撃した『索敵型』は、
首があらぬ方向に向いている。即死だった。
『索敵型』の足元から、硬い地面をえぐり『花』が飛び出す。
『花』の奇襲攻撃が直撃した『索敵型』は、
首があらぬ方向に向いている。即死だった。
「全員俺の後ろに!」
『防御型』が声を荒げ、肩を構える。
また足元から複数の『花』が現れる。
『魔法型』が吹き飛ばされ、ただの肉塊へと変わり果てた。
『防御型』が声を荒げ、肩を構える。
また足元から複数の『花』が現れる。
『魔法型』が吹き飛ばされ、ただの肉塊へと変わり果てた。
男は剣を強く握る。心が折られてしまわぬように。
現れた『花』は十五体。そこから先は地獄だった。
現れた『花』は十五体。そこから先は地獄だった。
『防御型』が前に出て『花』の攻撃を一身に受け、
『医療型』が常時回復を繰り返す。
『スピード型』と『パワー型』が『花』の攻撃の隙間を狙い、
一匹ずつ確実に仕留めていく。
始めは安定した戦い方に思えた。
『医療型』が常時回復を繰り返す。
『スピード型』と『パワー型』が『花』の攻撃の隙間を狙い、
一匹ずつ確実に仕留めていく。
始めは安定した戦い方に思えた。
しかし『医療型』の回復は傷を癒やすことはできるが、
足や腕を潰される痛みそのものは消すことができない。
足や腕を潰される痛みそのものは消すことができない。
『防御型』は蓄積されていく痛みでだんだんと壊れていった。
最後は痛みを恐怖するようになり、
戦闘から逃げ出した所を複数の「花』に押しつぶされた。
最後は痛みを恐怖するようになり、
戦闘から逃げ出した所を複数の「花』に押しつぶされた。
残る『花』は六体。『パワー型』の男が先陣へと出た。
次々に繰り出される『花』の体当たり攻撃に、
男も全力の攻撃を当てて弾き返していく。
次々に繰り出される『花』の体当たり攻撃に、
男も全力の攻撃を当てて弾き返していく。
「私はここで倒れるわけにはいかないんだ!」
眠ったままの妻を一人にすることはできない。
その一心で男は自らを奮い立たせる。
眠ったままの妻を一人にすることはできない。
その一心で男は自らを奮い立たせる。
噛み締めた男の唇から、音が漏れ出す。
それは、恐怖によって引き起こされる雄叫びだった......
それは、恐怖によって引き起こされる雄叫びだった......
――どれだけ時間が経ったのか分からない。
「やった......やったぞ!」
『スピード型』の青年がそう叫んで膝をつく。
男はその姿を見てようやく、
自分が切り刻んでいる『花』が死んでいる事に気づいた。
「やった......やったぞ!」
『スピード型』の青年がそう叫んで膝をつく。
男はその姿を見てようやく、
自分が切り刻んでいる『花』が死んでいる事に気づいた。
まだ、潜んでいる『花』がいるかもしれない。
だが、警戒できるほどの余力は男達には残されていなかった。
だが、警戒できるほどの余力は男達には残されていなかった。
そうやって安心しきった時、
突如聞き慣れたアナウンスが聞こえた。
突如聞き慣れたアナウンスが聞こえた。
「アシストスーツの戦闘テストを終了」
「実験を第三フェーズへ移行します」
「実験を第三フェーズへ移行します」
その声をトリガーにするように、頭に激痛が走る。
そして誰かの声が流れ込み、意識が塗りつぶされていく。
そして誰かの声が流れ込み、意識が塗りつぶされていく。
カゾクヲマモレ。
カゾクヲマモレ。
カゾクヲマモレ。
テキヲ――コロセ。
カゾクヲマモレ。
カゾクヲマモレ。
テキヲ――コロセ。
その声を最後に、男は意識を失った......
四話
男が瞼を開ける。意識を失い床に伏していたらしい。
身体を起こし、おぼろげだった意識が覚醒していく。
身体を起こし、おぼろげだった意識が覚醒していく。
そこには凄惨な光景が広がっていた。
床に広がるおびただしい量の血。その血溜まりの中央に肉塊と折れた杖が転がっている。
「あれは『医療型』が持っていた......」
男が近寄るとその肉塊の中に、女性の半壊した顔がある。
スーツを無理やり剥ぎ取られ、皮膚が削げ落ち、
肉が剥き出しになっている。
人だったころの姿は見る影もない。
スーツを無理やり剥ぎ取られ、皮膚が削げ落ち、
肉が剥き出しになっている。
人だったころの姿は見る影もない。
男はこみ上げる吐き気を必死に抑えた。
凄惨な死体から男が目を背けると、
今度は別の「何か」が飛び込んでくる。
それは、変わり果てた「小僧」の姿だった。
今度は別の「何か」が飛び込んでくる。
それは、変わり果てた「小僧」の姿だった。
腹部に大きな『剣』を突き立てられた『スピード型』の青年。
両腕をもがれ、顔面は大きく凹み歪んでいる。
何度も何度も、恐らく絶命した後も殴られ続けたのだろう。
両腕をもがれ、顔面は大きく凹み歪んでいる。
何度も何度も、恐らく絶命した後も殴られ続けたのだろう。
「そんな......なぜ......」
嫌な予感が背筋を駆け、冷や汗が流れる。
突き刺さった剣。それは紛れもなく男の剣だったからだ。
嫌な予感が背筋を駆け、冷や汗が流れる。
突き刺さった剣。それは紛れもなく男の剣だったからだ。
「お前が殺したんだ」
背後から声が聞こえて慌てて振り向くと、
そこには上官の姿があった。
そこには上官の姿があった。
「私が......殺した......?」
そんなはずは無いと心が否定する。
しかし、男の手は血まみれになっていた。
いや、手だけではない。
黒色だったスーツは全身が真っ赤に染まっている。
そんなはずは無いと心が否定する。
しかし、男の手は血まみれになっていた。
いや、手だけではない。
黒色だったスーツは全身が真っ赤に染まっている。
「ご苦労だった。悪いようにはしないから話を聞け」
上官は事の顛末を話し始めた。
上官は事の顛末を話し始めた。
全ては実験だった。
囚人同士の模擬戦も、『花』との戦闘や奇襲も、
そしてこの意識を奪われた囚人同士のコロシアイも
上官によって仕組まれたものだった。
そしてこの意識を奪われた囚人同士のコロシアイも
上官によって仕組まれたものだった。
上官は続けてアシストスーツの性能がどうだの、
花との戦闘データがどうだのと説明をしていたが、
男の耳には半分も届かなかった。
花との戦闘データがどうだのと説明をしていたが、
男の耳には半分も届かなかった。
ただ沸々と憎悪が心に渦巻いていく。
「使用者の精神状態や性格にも左右されるようだが、
概ねは『パワー型』が攻守ともにバランスがよく、
優れていることが分かった」
「今後は『パワー型』の量産計画を推し進めることにしよう」
概ねは『パワー型』が攻守ともにバランスがよく、
優れていることが分かった」
「今後は『パワー型』の量産計画を推し進めることにしよう」
淡々と話す上官に、男は怒りを剥き出しにする。
「ただの実験のために仲間たちは死んだのですか!」
「発展に犠牲は付き物だ」
上官は当たり前のようにそう告げる。
男は感情の昂りが抑えきれず、上官目掛けて拳を突き出す。
しかし、それは上官の眼前で急に止まり、
それ以上先に進むことを身体が許さない。
「ただの実験のために仲間たちは死んだのですか!」
「発展に犠牲は付き物だ」
上官は当たり前のようにそう告げる。
男は感情の昂りが抑えきれず、上官目掛けて拳を突き出す。
しかし、それは上官の眼前で急に止まり、
それ以上先に進むことを身体が許さない。
「クソッ......」
改めて分からせられる。
自分たちは『管理』されているのだと。
改めて分からせられる。
自分たちは『管理』されているのだと。
「貴様を処分し口封じすることもできるが、いいのか?」
冷静な口調で上官は告げる。
冷静な口調で上官は告げる。
男の脳裏に残された妻の姿が浮かぶ。
まだ死ぬわけにはいかない。
まだ死ぬわけにはいかない。
男は唇を噛み締め、ゆっくりと拳を下ろした。
「よろしい。ここで起こったこと全ては機密事項だ」
「貴様の生への執念には今後も期待している」
「全ては『花』を駆逐するために......」
上官は幾つかのスーツの残骸を回収して去っていく。
後には痛いほどの静寂だけが残された。
「貴様の生への執念には今後も期待している」
「全ては『花』を駆逐するために......」
上官は幾つかのスーツの残骸を回収して去っていく。
後には痛いほどの静寂だけが残された。
「......私は死ぬわけにはいかないんだ」
男は何度も何度もそう呟き、言い聞かせていた。
愛した人のために生きなければならないと。
男は何度も何度もそう呟き、言い聞かせていた。
愛した人のために生きなければならないと。
それにこのスーツが実戦配備されれば、生存率は上がる。
男は必死に言い聞かせた、これは仲間たちのためなのだと。
男は必死に言い聞かせた、これは仲間たちのためなのだと。
眼前に広がる『花』の死骸と仲間だった者たちの成れの果て。
そしてそれら全てを殺し、生き残った男。
そしてそれら全てを殺し、生き残った男。
優れているという万能感が、
仲間を切り裂いたという罪悪感が、
力を手に入れた高揚感が、心を蝕んでいく。
仲間を切り裂いたという罪悪感が、
力を手に入れた高揚感が、心を蝕んでいく。
この力さえあれば、妻を守ることができる。
この力さえあれば、『花』を殺すことができる。
この力さえあれば、『花』を殺すことができる。
黒く渦巻く感情が空っぽだった男の心を塗り潰していった......