NieR Re[in]carnation ストーリー資料館

四章:流水の章 『錆』

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nier_rein

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三章 四章 五章

キャラクター  アケハ



「終に咲く」

男が誰かに話しかけている


其の座敷には大名たる彼以外に
人の影はない


大名は見えない相手に対し
先の任は大儀であったと口にした


少し躊躇うように
男は目を細めて呟く


「引き続き 頼むぞ」


壁を隔てた影の中


其処で 一人の女が
男の詞に耳を傾けていた


人相書を懐に納め
静かに立ち上がった女は


冷淡な声で
ただ一言「承知」と答えた



厚い雲に覆われた空とは裏腹に


城下町は
人々の活気に溢れていた


道を行く親子が
目に留まる


其れは童が 余りに
眩しく笑っていたからか


若しくは己が命が
暗闇に馴染み過ぎたのか


胸の騒めきを振り払い
女は市外を目指す



女の視界に銀が閃く


眼前に現れた辻斬りを見て
女は薄く笑った


其処が 己の居場所と
知っていたから





余りの剣技に 辻斬りの男は
何が起きたかさえ
解らないまま絶命した


彼女の歩む血塗られた道は
幸せな親子の行く道とは程遠い


自分は彼の童の様に
笑った事が在っただろうか


彼等の様な生活が
私にも有り得たのだろうか


淀んだ空気の中
手に出来なかった生き方に
思いを馳せた


「玉響の花」

目を醒ました少女は
やつれた顔で庭へ向かう


幼き日の彼女は 鍛錬に
明け暮れる日々を過ごしていた


疲労で骨は軋み
肉は裂けたように痛む


其れでも彼女は
痛む脚を動かして廊下を進んだ


庭へ辿り着いた少女に
早く参れと怒号が浴びせられる


感情を押し殺した声で
少女は「只今」と答えた


遅い と
低い声が少女の耳を刺す


謝罪の言葉を述べようとする
少女を遮り 男は叱責を始める


道具は使う時に
手元に無くては意味が無い


お前は御屋形様の道具となる身
如何なる時も疾さを尊べ と


そうして其の日も
命懸けの鍛錬が始まった





とある大名の家に古くから仕え
主君の敵を斬る一族


其れが彼女の生まれた家だった


誰かを殺す事を
生まれる前から定められていた


彼女の生きる道


道を選ぶ自由など
許される筈も無かった



生まれを憎んだ所で
意味は無い 然し


二度と手に入らぬ何かを想うと
酷く 惨めな気分になった


雑念を振り払い足を前に進める


何時の間にか
空は雨を零し始め


巨大な城は幻怪な気配を漂わせる


城門の前に立っていたのは
一人の番人


女は音も無く近付き
刀の鯉口を切る


静かに刀を納め
女は城内へと足を踏み入れた


「翳り無し」

女は標的を探し 一人城内を進む


敵大名の跡継ぎ息子の始末
其れが彼女の此度の任


敵軍は血を重んじる組織
跡継ぎが死ねば 混乱は免れない


彼女の役目は敵軍に混乱を与え
友軍が攻め入る隙を作る事だった


廊下を通り抜け
女は座敷へ辿り着いた


気付けば雨脚は
更に勢いを増している


広い座敷に不釣り合いな子供が
独り座っていた


その顔付きは
人相書のものと良く似ている


女は何も言わず刀を抜き
幼い標的の顔へと突き付けた


然し童は刀を見詰めるばかりで
まるで逃げようともしない


童のやつれた顔を見て
女はある事に気付いた


其の子供が
男装をさせられた娘である事に


女は娘に其の理由を問う


すると娘は
家への怨み言を漏らし始めた


斯様な家も 此の国も
全て滅んでしまえば良い と





娘はこう語る
私は父の人形です と


父の勝手に産み落とされ
父の勝手に生かされる只の道具


心を騙し 性別さえ偽り
与えられた役割を満たすだけの生


御家の道具となった私は
殺される為に 生きているのです


だからどうか
私を殺して下さい と


娘の瞳が 女へと向けられる


此の娘は 何時かの私だ
女はそう想った


生まれる前から
歩む道を決められた者


女は俯き 逡巡する


汚れた地を塗り潰さんと
勢いを増す雨音が


何故か却って 静かに感じた


「散りゆく赫に 五月雨ぞ消ゆ」

雨の音だけが
二人の耳に響いている


長き沈黙の後


女は刀を鞘へと納めた


困惑する娘に 女は問う


斯様な家 滅んでしまえば良い
其の言葉に偽りは無いかを


娘は震えながら頷く


其れを聞いた女は表情を変えずに
こう答えた


「承知」と




背後に大勢の兵が集まる音がする


座敷には何人もの兵が
集まって居た


然し 女の表情に
恐れの色は欠片も無い


女は構え
いざ と呟いた





駆け寄る少女が手を取る


何故こんな事をしたんだろうか


雨音が遠ざかってゆく


人は 生まれる場所を選べない


死に方さえ
争いばかりの浮世では
選べ無い事が殆どだ


でも 誰かを生かす事は
出来るかもしれない


私は家に縛られ
決められた役割を果たすだけ


この手で
数え切れない程の人を斬った


こんな事で
罪が贖われるとは思わないが


地獄への手土産くらいには
なるだろう


もう雨の音は聞こえない


少女の涙がゆっくりと零れる


動かなくなった女の顔は


少し
微笑んでいるようにも見えた


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