NieR Re[in]carnation ストーリー資料館

ラルス 『塗りつぶされた過去』

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shinichiel

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キャラクター  ラルス


一話

少年が戦地から帰還したその後

土埃に晒され、色褪せた兵舎の中から、明るい声が響く。
作戦前夜の張り詰めた空気とは打って変わって、
兵士たちは笑い合い、自分たちが掴み取った勝利を祝う。

「乾杯――――――!!」

無礼講とばかりに注がれる黄金色の酒。
泡がグラスから零れ落ちることすら気に留めず、
男たちは次々とそれを飲み干していく。


先の作戦で奇跡的な成功を収めた部隊の兵士たち。
彼等には褒賞が与えられ、祝いの席が設けられた。
大きなヤマを越えた感覚、喉を潤すアルコール、
なによりも兵士たちは、その空気に酔っていた。


戦場での自慢話をする男、妻との惚気話をする男、
みんな口が軽くなり、話も弾む。
部隊の中には作戦での功績を称えられて、
昇格した兵士もいるらしい。


そんな明るい雰囲気の中で、
ただ一人浮かない顔をする少年兵がいた。
先の作戦では上官の命令を無視し単身で敵地に潜入、
そして敵部隊の隊長を殺害した。
その行動は部隊の勝利に大きく貢献したものの......
有り体に言えは問題児だ。


作戦内容を無視した少年の行動は、
軍法会議にかけられてもおかしくない暴挙だった。
しかもその行動に至った経緯は「私怨」。
無事に生きて帰ってきたことすら奇跡に近い。
結果的に作戦が成功したことも、少年がここにいることも、
部隊の仲間たち、特に隊長を務める青年のおかげだった。


にもかかわらず、少年は、
周りの兵士たちに感謝することもなく、
愛想よく会食に交わるでもなく、浮かない顔をしている。
その原因は、彼が敵の拠点に潜入し、
敵部隊の隊長を殺害する、まさにそのときにあった。


相手は、少年の私怨の根源。かつて両親を殺害した男だった。
少年は男を追いつめ、憎しみに染まる剣を突き立てる。
復讐の幕切れは、あっけなかった。爽快感も、達成感もない。
あるのはただ、戻ることのない過去だけ。


そんな薄暗い悲しみが少年の頭の中を埋め尽くすとき、
死に際に瀕した男が少年に語りかけた。
その内容は、今まで信じてきた人生の全てを、
根底から覆す内容だった。


今も頭の中で繰り返す、仇の男が語った言葉......
少年の出生の秘密、少年の暮らす国の過去、本当の父......
その話は、あまりにも突飛で、作り話のようで、
まったく理解の追いつかない「謎」だけが残った。


少年の瞳は虚空を見つめる。
手の熱でぬるくなっていくグラスの中身に、
気をとめることもなく。


そんな少年の様子を意に介すこともなく、
体格のいい兵士がやってくる。
そして、ドスッと無神経な音をたてて隣に腰かけた。
その男はいつも、生意気で協調性のない少年のことを、
目の敵のように扱っていた。
「また、いちゃもんを付けに来たのか......」
少年は益々うんざりした気持ちになり、顔を上げることすら、
億劫に感じた。


「おまえ、やるじゃねえか......」
少年の予想に反して、体格のいい兵士の口から出た言葉は、
批判や皮肉ではなく、賛辞の言葉だった。
予想しない展開に少年は思わず顔を上げる。

体格のいい兵士は、単身敵の拠点に潜入し戦った、
少年のその蛮勇を、半ば羨望のような気持ちで称える。
理由はどうあれ、部隊の仲間から手放しで褒められるなんて、
少年はなんだかむずがゆい気持ちになった。


少し赤らむ顔を隠すように俯いたまま、少年は立ち上がり、
兵舎の出口へと足を進める。
「おーいなんだよ、しょんべんでも行くのか?」
後ろに聞こえる粗暴な男の声に適当な生返事を返し、
少年は外に出た。


兵舎の外は夜の帳が下りて、静まり返っていた。
さっきまでの喧騒との落差で、耳鳴りがする。


少年が明るい雰囲気に馴染むことができないのは、
根っからの性格もあるが、今はそれだけじゃない。
考えなければならないことは山ほどあった。
少年は闇夜の中、出口のない思考に耽る。


どれぐらい考え事をしていたのだろう、
ふと気が付くと、背後に人の気配を感じた。
振り返ると、そこには片手に松葉杖をついた兵士。
彼は少年の目をまっすぐ見据え、
単刀直入に言い放った。



「お前......敵軍の拠点で何をしていた?」



二話

夜も深まり、辺りはすっかり暗くなっていた。
兵舎の窓からは、まだ明かりが漏れ出している。
中では、兵士たちが酒を酌み交わし、
自慢話に花でも咲かせているのだろう。


そんな喧騒から離れた屋外で、
少年と松葉杖の兵士が向かい合っていた。


少年は予期しない来訪者であるその相手を観察する。
いかにも好青年、というような整った顔立ち、
小さな光でも跳ね返す明るい金髪。
そして一番目につくのは、
宝石を溶かしたような、美しい碧眼。


その特徴的な風貌には、周りに疎い少年でも見覚えがあった。
同じ部隊にいる兵士......
先の作戦のあとに昇進した兵士のひとりだ。


少年はそれを認識して益々当惑する。
目の前にいる碧眼の兵士が言い放った問いかけ、

――お前、敵軍の拠点で何をしていた?――

同じ部隊に所属しているとはいえ、
大して親しくもないひとりの兵士が、なぜこんな質問を?
しかも、人目につかないタイミングを見計らったように......


「質問の理由を聞かなければ、答えられない......」
少年はそう言って、碧眼の兵士を脱み返した。


碧眼の兵士は少年の返答を聞いて、
仕方ない......と諦めた様子で語り始めた。
それは先の作戦での出来事だった。


碧眼の兵士が所属する部隊は敵拠点へ侵攻する。
敵の部隊は少年が敵軍の隊長を殺害したことで混乱していた。
その隙をつき、部隊は敵拠点を制圧することに成功、
敵拠点の調査を始めた。


碧眼の兵士はそこで機密事項と書かれたファイルを発見する。
そのファイルには自軍のシンボルが刻印されていた。
「なぜ自軍の機密事項が敵軍の拠点に......?」
そのファイルを手に取ろうとした瞬間......
碧眼の兵士は何者かに襲われて気を失った。
既に敵は掃討したはずだった......にもかかわらず。
意識を取り戻したときには、
既にファイルはなくなっていたという。


思わず、少年の口から言葉が出た。
「俺がお前のことを襲った、とでも言いたいのか?」


碧眼の兵士は少年を見据えはっきりと言った。

「ああ、お前のことを疑っている」

部隊の中に一人、作戦を無視し、
敵軍の拠点に単身で潜入した兵士がいる......
嫌疑の目を向けられても当然だ。

「改めて問う。お前は敵の拠点で何をしていた?」


少年は言葉を選びながら、碧眼の兵士に答える。
幼い頃に両親を殺害されたこと。
その犯人が、敵軍の隊長だったこと。
そいつのことを殺すために、軍人になったこと。


復讐を果たすためであれば、
たとえ咎められたとしても、かまわなかったということを。


碧眼の兵士は黙ったまま俯いていた。
少年の言葉の真偽を確かめるように。
沈黙が、二人の兵士の間に流れる。


沈黙の中、少年は碧眼の兵士の話を思い返していた。
自軍の機密事項が、敵の拠点にあったこと。
それを見つけた碧眼の兵士は襲われ、
ファイルが奪われたこと。
そして、恐らく部隊の仲間が碧眼の兵士を襲ったということ。
もしかしたら、その機密事項と書かれたファイルには、
敵軍の隊長から告げられたこと......
この国の過去、少年の知りたい「真実」が、
記されているのかもしれない。


碧眼の兵士は、少年が自分を襲った人物ではないと、
そう判断したのか、ただ一言「そうか......」と言って、
それ以上の詮索をやめ、そのまま立ち去ろうとする。


少年は、碧眼の兵士を引き留めるように問いかけた。
「そのファイルはどうなったんだ?」


碧眼の兵士は不意の質問に答えた。
部隊の仲間が俺を襲ったのであれば、
回収されたファイルは、
軍の保管庫で眠っているだろうな......
そう呟いたあと、少年の方に向き直り、言葉を付け足す。

「余計なことは考えるな」

「俺達下っ端は、上の言うことに従っていればいいんだ......」

それだけ言い残し、立ち去っていった。


しかしその忠告は、少年の耳には届かなかった。
少年の頭の中は既に、機密事項と書かれたファイル、
その中身を知らなければ......という考えに支配されていた......


三話

少年は碧眼の兵士から聞いた話を思い返す。
敵拠点内で襲われた碧眼の兵士、
機密事項と書かれた自軍のファイル......
碧眼の兵士は、この部隊に裏切り者がいると考え、
それを探るために俺にコンタクトしたようだった。


碧眼の兵士と協力関係を築くことはできないだろうか......
とも考えたが、少年はすぐに考えを改めた。
少年の探る真実、出生の秘密については、
できるなら誰にも知られたくはない。
少年は頭を切り替え、自分にできることを考えることにした。


本当に味方に裏切り者がいて、
そいつが件のファイルを回収していたとしたら......
確かにそれは保管庫の中に収められている可能性が高い。


軍の敷地には、様々な施設がある。
兵士たちが暮らす兵舎や、訓練場、資料室など。
そして、一部の人間しか入ることを許されない保管庫も、
この敷地内に内包されている。


少年は資料室で基地の設計図案を眺めていた。
誰もが忘れ去った遺物のように挨をかぶったそれは、
所々が黄色く風化し、いまにも破れてしまいそうだ。
少年は周りを窺い、図案の一部を破り取ると、
足早に資料室を出た。
保管庫にたどり着くための道のりをポケットの中に忍ばせて。


少年が向かった先は、更衣室。
といっても、変装をしたりするつもりはない。
目線を上げると、部屋の端に排気ダクトの金網がひとつ、
少年はロッカーの上に昇り、それを取り外した。
ここから保管庫に潜入する。


体格が小さいことを快く思ったことは無かったが、
このときばかりは、神に感謝した。
少年は肩をすぼめ、なんとかダクトの中に進入する。


懐中電灯を肩と首の間に挟み、身をよじるようにして進む。
そのたびに舞い上がる埃。
ハンカチでももってくればよかったな......と、
少年は後悔しつつ、こみ上げてくる咳をこらえる。


髪の毛が蜘蛛の巣まみれになり、
少年の心が挫けそうになる頃......
目的の場所へとたどり着いた。
設計図案によれば、この真下が保管庫だ。


少年はやれやれ......と一息つき、金網に手を伸ばす。
しかし今度は金網が外れない。
全身に纏わりつく埃と、予想外の邪魔立てで頭に血が上る、
そして、「あっ」と思ったときには遅かった。
無理にカを入れたことが崇り、金網は音をたてて壊れた。


少年は恐る恐る保管庫の内部を見渡す。
明かりの消えた室内の光源は、避難口誘導灯のみ。
しばらく息を潜め様子を窺う少年は、
沈黙する室内に胸をなでおろす。
もし誰かが中にいたら、ここでゲームオーバーだった......
ひたいに浮かぶ冷たい汗を拭い、ダクトから降りる。


保管庫の中は、鉄の壁のような収納棚が並んでいた。
それぞれに番号が振り分けられ、敵軍からの押収品や、
機密事項が記載された書類など、
収納する物の種別と日付で振り分けられているようだった。


懐中電灯の明かりを頼りに、並び立つ棚の間を巡る。
押収品の日付を確認し、それと思わしきファイルを、
片っ端から開いて目を通す。
その中にひとつ、機密事項と書かれたファイルがあった。


少年は碧眼の兵士の言葉を思い出す。
敵拠点の中で発見したファイル......

少年は深く息を吸い、ファイルを開く。

そこに刻まれた文字が目に入る。

「乳幼児拉致作戦概要」

早鐘のようになりだす鼓動、
震える指先で、少年は慎重にページをめくる。


そこには、この国がおこなった真実、
その一部始終が記されていた。


強い兵士を育てるという思想。
それを実現するために調べられた、各国の人々が持つ遺伝子。
優秀な遺伝子を持つ人間を集めるべく、組み立てられた作戦。
物心もつかない幼子を攫い、この国の人間として教育する......


仇の男が言っていたことを裏打ちするような記述の数々、
少年の信じてきた全てが、音をたてて崩れ去っていく。
その感覚は、今まで身に刻まれてきたどんな苦痛よりも深く、
少年の心を貫いた......


四話

少年はいま、この国の最も薄暗い場所にいる。
後ろ暗い真実の只中に。
忍び込んだ基地の保管庫で発見したファイル。
敵軍からの押収品に紛れた、この国の記録。


目の前のファイルに記された、
「乳幼児拉致作戦概要」の文字。
そこに並べたてられた真実。
仇の男が少年に向けて語った言葉。
すべてが結びついていく。

めまいのような感覚。
息が苦しい。
少年はその場に座り込みそうになる......

だが、そうはしなかった。

正確には、そうすることは許されなかった。
なぜなら、背後から少年を襲うナイフの切っ先を、
避ける必要があったからだ。


こんな状況でも、一瞬の気配を察知し、
首元を通過するナイフを皮一枚で避けることができたのは、
少年に備わる野生の勘か、それとも、
ファイルに記されていた優秀な遺伝子によるものだろうか。


少年を襲ったのは戦闘用ナイフ。
それを握るのは、仮面を付けた襲撃者。
ナイフの切っ先に触れた首筋からは、
細い血の筋が流れていく。
何が起こっているのかを理解するよりも早く、
少年の脳は、戦闘態勢に切り替わっていた。


相手は初手で息の根を止めるつもりだったのだろう。
予想外の状況に陥り、次の手を出す前に生まれた一瞬の隙、
少年はそれを見逃さなかった。
相手の腕をとり、関節を固めて動きを止める。


襲撃者を壁に向かって押さえつけ、
少年はその仮面を剥ぎ取った。
その下には............

こちらを睨みつける、宝石のように美しい碧眼。

「ッ............!!」


相手も少年の動揺を見逃さなかった。
隙をつき、少年の腕を振りほどく。


仕留めそこなったのが運の尽きか......と、
悔やむような口調で、男は口にした。

「......余計なことは考えるなと......言ったはずだ......」

兵士たちが自らの勝利を祝う夜、
碧眼の兵士は少年のもとに現れた。
その時の忠告も虚しく、彼等は再び対面することになった。
今度は言葉を交わすだけではなく、命を奪い合うことになる。

碧眼の兵士は破れかぶれになったのか、
その怒りを少年にぶつける。
その声色には、怒りと、悲しみと、ためらいが、混ざり合っていた。


「俺だってこんなこと......したいわけじゃない......!!」
「仲間を後ろから刺すようなこと............」

碧眼の兵士が真実を語る。
兵士たちが酒を酌み交わす際に話していた、
「碧眼の兵士が昇進した」という話は偽りだった。
実際は国の諜報部隊に転属となり、負傷兵を装い、
この国の秘密に近づく者を消せと命令されていた。


中でも、作戦を無視して単身で敵拠点に潜入した少年は、
目をつけられていた。
上層部からは、機密情報という内容をチラつかせ、
白か黒かをあぶりだせと命じられていたという。

「くそッ......くそッ......くそッ......!!」

襲い掛かってくる男は、冷静さを失っていた。
少年は静かに反撃の隙を窺う。
相手は少年が携帯している小型ナイフに気づいていない。
丸腰に見えた獲物のもとに飛び込んだ瞬間、
噛みつかれたのは碧眼の兵士だった。


怒気に飲み込まれた直線的な攻撃、
少年はぎりぎりまで引き付けた状態でそれをかわす。
手元に忍ばせた小型ナイフが、相手の首元を狩る。


くっ......という小さな声と共に、膝が折れる。
碧眼の兵士は必死に自らの首を抑えつけるが、
溢れ出る血が止まることはない。
小さくなっていく鼓動、男は壁を背にしてへたり込んだ。


目の前で光を失い、濁っていく、碧眼の瞳。
少年はその瞳を静かに見つめていた。


どれくらいの時間そこに突っ立っていただろう......
気が付くと彼の呼吸は止まっていた。


少年の足元に散らばった、ファイルの中身。
血に濡れた一枚を拾い上げる。
そこには、この国が拉致した子供たちの名前が記されていた。


作戦が立案された日付から推察するに、
上官や仲間のなかにも、該当する人間がいるかもしれない。

少年のように、他国から攫われ、
この国に組み込まれ、
偽りの人生をあてがわれた人間が......


混乱する頭を整理することもできないまま、
冷酷な真実を突き付けられ、
仲間だったはずの男を殺し、
信じられるものは何もない。
国も、仲間も、自分自身さえ............


怒り、憎しみ、悲しみ、不安、恐怖。
すべてが混ざり合い、ドロドロになった感情が、
少年の心から溢れ出していく。


「俺はいったい......何のために生きればいい......」
少年の、震える唇から漏れ出した言葉は、
薄暗い静寂の中に吸い込まれ、消えていった。
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