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第1話
日光を反射して煌々と輝く海の傍、
その砂浜に、一人の女がいました。
幽雅に、そして幽然と歩く、黒い蝶のような水着姿。
その砂浜に、一人の女がいました。
幽雅に、そして幽然と歩く、黒い蝶のような水着姿。
彼女はある『仕事』のために国を離れ、
異国の港を訪れていました。
異国の港を訪れていました。
その仕事とは、近くここへ寄港する船に乗った、
とある人間の抹殺です。
とある人間の抹殺です。
女の正体は暗殺者。
彼女は過去にもこの地を訪れた事がありました。
彼女は過去にもこの地を訪れた事がありました。
光が溢れる水面を見ながら、
女は古い記憶に思いを馳せます。
女は古い記憶に思いを馳せます。
それはまだ、彼女が幼く未熟だった頃......
若かりし頃の女は、修行の一環として、
不穏な動きを見せる敵国の政治家を追っていました。
不穏な動きを見せる敵国の政治家を追っていました。
ここは多くの船が、航海の中継地点として入港する場所。
様々な国、人種の人間が訪れるこの港で、
少女が一人歩いている事を気に留める人などいません。
様々な国、人種の人間が訪れるこの港で、
少女が一人歩いている事を気に留める人などいません。
無垢な子供を装い、情報を手に入れた彼女。
数刻ののちに出航する船で政治家達の会合があり、
そこに彼女の追う標的も参加するようです。
数刻ののちに出航する船で政治家達の会合があり、
そこに彼女の追う標的も参加するようです。
しかし停泊している船は多く、
どの船で会合が開かれるかは分かりません。
どの船で会合が開かれるかは分かりません。
忍び込む船を誤れば、全てが無駄になる......
少女がそう考えていた時――
少女がそう考えていた時――
その身体に、衝撃が走りました。
船ばかり見ていた彼女は、
走ってきた男の子とぶつかってしまったのです。
走ってきた男の子とぶつかってしまったのです。
第2話
ある任務で港町を訪れていた暗殺者の少女は、
浜辺で男の子とぶつかってしまいました。
浜辺で男の子とぶつかってしまいました。
声を上げて泣き出す、身なりの良い男の子。
転んで擦りむいた膝小僧からは、血が流れています。
転んで擦りむいた膝小僧からは、血が流れています。
人々の注意を引く泣き声を放っておく事もできず、
少女は怪我の手当てをしてあげる事にしました。
少女は怪我の手当てをしてあげる事にしました。
手当を終えて、少女は男の子に尋ねました。
親の元まで送るから、どこにいるか教えて欲しいと。
親の元まで送るから、どこにいるか教えて欲しいと。
しかし男の子は、うつむいたまま首を横に振ります。
聞けば、一緒にいた父とはぐれてしまったそうでした。
聞けば、一緒にいた父とはぐれてしまったそうでした。
「父さん、大事な話し合いですぐ港を発つって......」
再び泣き出しそうな声で、そう呟く男の子。
再び泣き出しそうな声で、そう呟く男の子。
それを聞いて、少女は思いました。
彼の父が乗る船は、私が探しているそれかも知れない。
もしこの男の子が会合に参加する政治家の息子なら、
身なりの良さも説明が付きます。
彼の父が乗る船は、私が探しているそれかも知れない。
もしこの男の子が会合に参加する政治家の息子なら、
身なりの良さも説明が付きます。
少女はそう考えて、
親を探すのを手伝おう、と男の子に申し出ました。
親を探すのを手伝おう、と男の子に申し出ました。
男の子は目を輝かせ、お礼にと何かを差し出します。
それは少し汚れたおもちゃの人形でした。
それは少し汚れたおもちゃの人形でした。
その人形は、彼の母国のお伽話に出てくる、
凛々しくも優しい女性の英雄を模した物。
凛々しくも優しい女性の英雄を模した物。
「あなたにそっくりだ」と、男の子は笑みをこぼします。
しかし少女は、その笑顔から目を背けました。
しかし少女は、その笑顔から目を背けました。
彼女が協力するのは優しさからではなく、
ただ、任務の遂行のためなのですから......
ただ、任務の遂行のためなのですから......
第3話
政治家達の会合が開かれる船を、早く見つけ出さねば。
その手掛かりを握る男の子の手を引き、
少女は足早に浜辺を歩いています。
その手掛かりを握る男の子の手を引き、
少女は足早に浜辺を歩いています。
すると、遠くに父の姿を見つけたのか、
男の子が突如駆け出しました。
「父さん」と声を上げて走る背を、少女も追いかけます。
男の子が突如駆け出しました。
「父さん」と声を上げて走る背を、少女も追いかけます。
自身を呼ぶ声に気付いた父親は、
飛び込んでくる息子を笑顔で抱きしめます。
飛び込んでくる息子を笑顔で抱きしめます。
「さぁ、早く船に。もうすぐ会合の......」
父親は少女に軽くお礼を言うと、
男の子と共に船へと向かいました。
男の子と共に船へと向かいました。
彼らを見送る少女の顔に浮かぶ、微かな笑み。
その笑みは、一瞬にして冷静な表情に変わります。
その笑みは、一瞬にして冷静な表情に変わります。
会合の開かれる船は見付けた。
次にすべきは船に忍び込み、その情報を掴む事。
次にすべきは船に忍び込み、その情報を掴む事。
すぐさま船への潜入経路を考える少女。
気づくと、彼女の背後に女が擦り寄っていました。
その女は、少女と同じ国、同じ家筋の人間。
修業中である少女の任務を見届ける、監視役でした。
本来、接触してくる事はないはずです。
修業中である少女の任務を見届ける、監視役でした。
本来、接触してくる事はないはずです。
事情が変わった事が、少女にも分かりました。
女は、彼女だけに聞こえる声で囁きます。
女は、彼女だけに聞こえる声で囁きます。
「相手方に宣戦の意志がある。
諜報は終わりだ。船に乗る者全てを殺すぞ」
諜報は終わりだ。船に乗る者全てを殺すぞ」
第4話
血に濡れた甲板。
刃の先から滴る雫。
もはや動くことのない、屍の山。
刃の先から滴る雫。
もはや動くことのない、屍の山。
少女と監視役は、船に乗り込むや否や、
瞬く間に船にいた人々を殺し尽くしました。
瞬く間に船にいた人々を殺し尽くしました。
慣れた手つきで刀の血を払い、監視役の女は言います。
「これほどの死体に囲まれたのは初めてか?」
「これほどの死体に囲まれたのは初めてか?」
女に背を向けたまま、
少女はかぶりを振って答えました。
少女はかぶりを振って答えました。
「......忘れました、そんな事」
流石は頭の娘か、と監視役は笑います。
少女は黙ったまま、刀を鞘へと納めました。
少女は黙ったまま、刀を鞘へと納めました。
ふと海面に目をやると、
持っていたはずの人形が波間に揺れています。
持っていたはずの人形が波間に揺れています。
少女は男の子の言葉を思い出し、
彼の言った通りだと、目を伏せました。
彼の言った通りだと、目を伏せました。
暗殺者の業に流されるだけの自分は、
確かにあの人形に似ていると......
確かにあの人形に似ていると......
――あれから幾歳。
船の到着を告げる鐘が、
女を追憶から現実へと引き戻しました。
今入港した船に、彼女の狙う標的が乗っているはずです。
女を追憶から現実へと引き戻しました。
今入港した船に、彼女の狙う標的が乗っているはずです。
女の母国を侵略せんと企む、異国の政治家達。
彼女の任は、その危険の芽を早くに摘む事でした。
彼女の任は、その危険の芽を早くに摘む事でした。
標的の政治家を見逃さないよう、
女は下船してくる乗客たちを遠巻きから窺います。
女は下船してくる乗客たちを遠巻きから窺います。
船上がよほど暑かったのか、
下帯姿のまま下船する大柄な異国人も見えました。
下帯姿のまま下船する大柄な異国人も見えました。
その異国人に続いて船を降りてきたのは......
見つけました――標的の人物です。
見つけました――標的の人物です。
侵略者の渡来を未然に防ぐ。
そのために、殺す。
これが、主君より賜った重任だから。
そのために、殺す。
これが、主君より賜った重任だから。
かつて船上を血に染めたのも、同じ理由でした。
だからこそ彼女は、思い出さずにいられないのです。
あの日命を奪った、男の子の言葉を。
自身が人形のようだという、振り払えない幻像を......
あの日命を奪った、男の子の言葉を。
自身が人形のようだという、振り払えない幻像を......
女は遥か水平線を一瞥し、
幽愁を帯びた表情を見せました。
幽愁を帯びた表情を見せました。
「あの人形は、どこかへ流れ着いたのだろうか――」
女は一時の感傷を振り払うと、標的を追って歩き出します。
浜辺に残った足跡は、引き波に攫われていきました。
浜辺に残った足跡は、引き波に攫われていきました。