ウスバカゲロウ/アリジゴク

登録日:2023/03/10 Fri 21:49:44
更新日:2025/07/09 Wed 14:57:31
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ウスバカゲロウ(薄翅蜉蝣)またはナミウスバカゲロウ(並薄翅蜉蝣)とは、アミメカゲロウ目(脈翅目)ウスバカゲロウ科に属する昆虫の一種である。
本項では幼虫の通称として知られるアリジゴク(蟻地獄)についても解説する。
ちなみに名前こそ似ているがカゲロウ目とは厳密には縁遠い昆虫である。


●目次

幼虫「アリジゴク」

恐らく、昆虫に精通している界隈以外の一般人にとって、恐らくはウスバカゲロウの成虫よりも馴染み深いのが幼虫の時の姿、通称「アリジゴク」だろう。

体長1cm程の小さな虫だが、その姿は大きな牙(大顎)をどっしり構えているという攻撃的なイメージを与えるもの。
神社の縁の下や、山道の小さな崖下など、乾いた土の上を掘り進んですり鉢状の巣穴を作る習性は、昆虫に詳しくない人でもイメージし易いと思われる。
ちなみに日本には十数種のウスバカゲロウ科の昆虫が生息しているが、実際にすり鉢型の巣穴を作るのはその内のナミウスバカゲロウ含む5種だけだったりする。
またアリジゴクという通称で知られるが、実際に獲物となる昆虫の内アリは60%程度で、それ以外の昆虫や蜘蛛、ヤスデ、ダンゴムシなんかもちょくちょく餌食になる。


アリジゴクが乾いた土を利用して作った巣穴は、斜面が粉の如く細かい土で覆われており、アリなどの昆虫が足を一歩踏み入れただけで即崩れ落ちる代物。
その為、獲物がこれによって一度足元を掬われると雪崩落ちる土共々斜面を滑り落ち、昇って逃げることなど出来ないまま、巣の中心に陣取るアリジゴクの元に直行してしまう。
おまけに、アリジゴクが無数の感覚毛で獲物の振動を感じ取り、的確に大顎を跳ね上げて土を投げかけることで更に獲物の身動きを封じるのである。
そして、身動きできなくなって土に埋まった獲物がアリジゴクの元に引き寄せられたが最期、アリジゴクは獲物に鋭い大顎を突き立てて消化液のを注入。
アリジゴクは消化液によって分解された獲物の体組織を、大顎を用いて土の中でゆっくりと啜り、吸収。
体液を一滴残らず吸い取られた獲物の死骸は、巣穴の外へポイッと捨てられるのである。

しかし、アリジゴクの巣に獲物が落ちるかは完全に運任せであり、野生では月に1匹しか獲物にありつけない事も多い。
その為、飢餓・乾燥に対しては大変強く、 3か月餌を食わなくても死ななかった記録もある

一方、巣穴に虫が入りまくる状態では怠けてしまうのか、巣の整備をにしてしまう事も確認されている。
ところが、一週間程度飢餓を迎えるとまた巣を整備し直すのだから面白い。


アリジゴクは初齢幼虫の時代のみ前進が可能だが、脱皮すると後ろ向きにしか歩くことが出来ない体となる。
その代わり前胸部の腹面に備わった強大な筋肉で土を遠くに飛ばし、掘り起こして巣穴を作るのである。
大顎には3対の歯があり、顎を閉じると隙間によって(ふるい)のようになる。これで土粒をふるい分けて、前述した天然のトラップに仕立て上げるのだ。

なお、前述した捕食性とは裏腹に防御力は低く、陸上に出ると獲物であるはずのアリなどに軽々と捕食されてしまう。
他にもアリジゴクの巣に他のアリジゴクを入れた場合は、入れられた方が食べられてしまう。
アリジゴクが攻撃性を発揮できるのは、自らの巣の中だけなのである。


なお、アリジゴクは成虫になるまで糞をしない…と言われているが、実際のところは微妙。
確かに成虫になるまで肛門が塞がっているため、固体としての糞はしないものの、半液体の排泄物自体は出すことが確認されている。
これを糞とするか尿とするかは未だに定説がないが、「全く排泄しない」という説は覆されつつある。
ちなみに、この「アリジゴクも糞をする」という事実は小学生が夏休み自由研究で確認したものだったりする。

成虫「ウスバカゲロウ」

こんな恐ろしいイメージの強いアリジゴクであるが、2~4年の幼虫期間を経て、獲物の取れ具合によって脱皮を繰り返し、地中で繭を作って蛹となる。
蛹になって2週間程度で羽化し、成虫へと姿を変える。カゲロウと異なり、成虫の寿命は1ヶ月程。
なお、蛹の状態で地中から出て羽化を行うという生態の関係から、蛹は脚が身体に密着しておらず、蛹の状態でもある程度歩けるという珍しい特徴を持つ。

透明な翅が目を引く外見から、アリジゴクに比べて獰猛なイメージは薄れているが、こちらもこちらで生きてくために普通に小さななどの小昆虫を捕食する。
夜行性であり、昼間は木陰などでじっとしたままで、夜になってから活動するとされている。

実際の所、ウスバカゲロウが夜の暗闇の中でどうやって獲物を捕らえているのか、近年に至るまで未だ解明されてない謎も少なからずあり、
同じ仲間のウスバカゲロウ科も一部が幼虫の形態が未発見であるなど、まだまだ解明の余地が多々存在する生き物と言えるだろう。


余談

本項では主にナミウスバカゲロウとして知られる種類の性質について解説したが、その他のウスバカゲロウ科の昆虫も前述の通り幼虫の時にアリジゴクとしての性質を経るものが多い。
変わり種としては、巣穴には潜らず、主に岩や石の上を動き回り、地衣類の保護色で身を隠して獲物を捕らえるコマダラウスバカゲロウ(小斑薄羽蜉蝣)という種類もいる。


ウスバカゲロウ並びにアリジゴクをモチーフとしたキャラクター

創作作品ではアリジゴクをモチーフとした悪役キャラクターの出番はちょくちょく見かける。やはり、その生態故にヒール的なイメージがあるからだろうか。

逆にウスバカゲロウとなると非戦闘や美しいイメージで描かれがち。
アリジゴク姿からの成長でギャップを演出する、というケースもみられる。

実写作品

蟻地獄怪獣の肩書を持つ怪獣だが、デザイン的にはクワガタムシやカブトムシといった昆虫のキメラ的な外見。
大顎の間から虹色の磁力線を放つ能力を持ち、『ウルトラマン』では鉄製の飛行機などを引き寄せて捕食していた。
後年の作品では、が光線を放つ為のチャージを強制解除させる、同スケールの怪獣の血中の鉄分に磁力線を反応させて引き寄せる、宇宙から隕石を引き寄せて敵に落とすという芸当も見せている。

サハラ砂漠で採取されたアリジゴクを素体としたショッカーの改造人間。
空から大量の砂を降らせて、何処でも人工蟻地獄に変える能力を有している。

ブラックサタンの奇械人。左腕をドリルに変形でき、蟻地獄を作り出す事も可能。戦闘時には胸の装甲板を取り外して投げつける事も。

ネオショッカーの改造人間。巨大な蟻地獄を作り出す能力を持つ。

  • ジゴクロイド(仮面ライダーZX/10号誕生!仮面ライダー全員集合!!)
バダン帝国の改造人間。雑誌展開や映像作品では単なる一怪人といった扱いだが、
平山亨による小説版『ZX』では悪の組織に身を置きながらも誇り高い精神を持つ人物として描かれた他、安土じょうの漫画版『ZX』では村雨良小学校以来の親友が改造された姿、
仮面ライダーSPIRITS』では殺戮に喜びを見出す外道……と、メディアミックス媒体では方向性は違えど印象的なキャラ付けがなされている。

地球外生命体ワームの一体で、アリジゴク型の成虫ワーム。アリジゴクなのに成虫とはこれいかに
地中を移動し、獲物を地下へ引きずり込む。
なおデザイン担当の韮沢靖氏曰く、あくまでアリジゴクに「似ているだけ」のワームであるため、ここから更に成長してウスバカゲロウワームになる訳ではない、とのこと。

アリジゴク型ダークロボット。
アリジゴク型の初期形態から翅の生えた第2形態へ、更に第3形態のキイロウスバカゲロウへ変態する……と見せかけ、実際はアリジゴク1号、アリジゴク2号、そして3号にあたるウスバカゲロウの三兄弟ロボットだった。

暗黒科学帝国デスダークの合成怪獣と、アリジゴクモズーが操縦する巨大ロボット。
アリジゴクモズーは巨大な蟻地獄を作り出す能力を持つ。

銀河闘士サメギンとアリジゴクギンが合身した合身銀河闘士

邪電王国ネジレジアのネジレ獣。デザインにはウスバカゲロウも含まれまれている。


地帝国バグナラクの擁する怪ジームの一体で、アリジゴクのBNAを持つ。

漫画原作

「消えた王国」のエピソードに登場する敵キャラクター。
蜃気楼王国「光彩」において神として崇められる存在だが、その実態は魔毒……故障した原子炉から漏れた放射能によって誕生したアリジゴクの突然変異。
異次元空間に閉鎖された光彩の動物という動物を食い尽くし、王国の住人達が時折迷い込む外部からの侵入者を生贄にする事で静まっていたが、
伝説に導かれて国に迷い込んだドラえもんズ達とのび太が生贄から逃れたため暴走、街を破壊しながら彼らと激突する事に。
ドラえもんズ達はスモールライトの出力を上げて無力化しようとしたが頓挫、万策尽きたかに見えたが……?

  • アリジゴク男/薄馬鹿下郎(栞と紙魚子)
諸星大二郎の漫画作品で、「空き地の家」のエピソードに登場。
ホラー映画同好会の面々が撮影していた映画「戦慄アリジゴク男」のキャラクターとして使用された着ぐるみで、クライマックスでウスバカゲロウに変身……するはずだったが、
脚本担当の人物がワープロでウスバカゲロウを「薄馬鹿下郎」と誤変換したため、本当に薄馬鹿下郎なる正体不明の怪人物が現れる事態となってしまった。

フロシャイム所属のアリジゴク型怪人で、エジプト出身。

誰にも相手にされないことを逆恨みした男がガイアメモリを用いて変身したドーパント。蟻地獄のような巨大な巣を作り人を引き摺り込んで殺害する。
メモリの力に完全に呑まれたようで、子供やカップルを無差別に襲撃している外道。

アニメオリジナル137・138話に登場。
見た目は出っ歯の醜い男で土遁を使う。しかし命をかけた奥の手を使えば儚げな少女の姿となりチャクラの翼で攻撃を仕掛ける。

すり鉢城の砂の底で敵を待ち構える鎧武者。
鎧を脱ぐと美女であり、奥の手は空中殺法。

武のためなら殺人をもいとわない組織“闇”の構成員。
長い腕と異様なまで柔らかい間接により放たれる必殺技、『秘剣・薄刃陽炎』を持つ。
剣閃どころか刀身までぐにゃぐにゃに曲がって見える変幻自在の斬撃は、屈指の達人であるしぐれですら捌ききれないほど。
なお愛剣・刹那丸でしか使えないのか使う気がないのか、離別後はこの技を出していない。一途な男である。浮気したけど

  • 隗 在了(クマル ツァイラ)(クリーチャーズ)
昆虫人間(クリーチャー)が暮らしている近未来の地球が舞台の漫画作品に登場するヒロイン。
数万年前に地球を捨てて月に移住した人間の子孫で「女アリジゴク」の異名を持つボンデージ姿のエロい女囚である。ちなみに胸にはアリジゴクの形をしたアザがある。

ゲーム作品

赤・緑世代から登場するポケモンの一体。
当初のモチーフ自体はアリジゴクだったが、紆余曲折を経てクワガタ要素の方が強くなり、ウスバカゲロウの要素は後述のフライゴンへと引き継がれる事となっている。
その名残なのか、『New ポケモンスナップ』のネッサ砂漠では、本来のアリジゴクっぽい生態を持つカイロスの姿を見ることが出来る。

ルビー・サファイア世代から登場した、カイロスの際に事実上没になったアリジゴク⇒ウスバカゲロウ要素を明確に持ったポケモン。
『New ポケモンスナップ』では上記のカイロスと似たような生態で同地域に共存している様子が確認できる。
ちなみにナックラーはアリジゴクらしくじめんタイプなのだが、羽化してビブラーバになるとどう見ても虫なのにドラゴンタイプが追加される

惑星ゼーベスに生息する緑色の原生生物。
その場から動けない代わりに水中、流砂、溶岩、強酸とあらゆる環境に適応しており、サムスを発見すると顎を伸ばして引きずり込もうとしてくる。
体も頑丈でビームでは倒せないが、アイスビームで固めることはできる。

前章終盤にサファル砂漠で遭遇する魔物。R-18作品なので啜るのは体液は体液でも男の精液。
ちなみに昆虫のアリジゴクとは異なり、アリジゴク娘はこの姿が成体であると魔物図鑑で明記されている。
次作『ぱらどっくすRPG』では仲間にする事が可能となった。名前は「ヘレン」。

シリーズ内の何作品かに登場する巨大アリジゴク。
初出は『4』。

地鋏。
流砂の底に潜む大アリジゴク。頭だけ……というか、大顎を除くと1頭身。
『64』初登場の敵キャラはその後の客演に恵まれない者が多いが、こいつは『コロコロカービィ』にも登場している。

ステージ1のボス。


追記・修正は、アリジゴクの巣穴に足を囚われないよう気を付けながらお願いします。

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最終更新:2025年07月09日 14:57

*1 いつの間にか背中にウスバカゲロウの翅が生えていたが、これがただのイメージによるものなのか、それとも本当に翅が生えたのかは定かではない。