……だが、勘違いはしないで貰いたい。彼は、怪獣ではなく れっきとした人間である。
かつて行われていた宇宙開発競争にて、某国の打ち上げた人工衛星のロケットが帰ってこないという事故が起きた。
そのロケットに乗っていた宇宙飛行士が「ジャミラ」であった。
某国はこの事故により国際批判を浴びる事を恐れ、
ジャミラの救出を計画する事もせず、その事実はおろか彼の存在をも隠蔽・抹消してしまう。
宇宙を漂流していたジャミラはそのうち、どこかの星へと不時着。しかし、その星には地球のような水はおろか、
空気もない灼熱の星だった。ジャミラはその地獄の星の中でどうにかして生き延び、救助を待っていたが
星の気候風土の影響で体が怪獣のように醜く変貌してしまう。
いつまで経っても救助に来ないことでジャミラは自分が見捨てられたという事実を悟り、
乗ってきたロケットを何十年もかけて修理・改造し、地球へと戻ってきた。ただ復讐の為に。
そして、国際平和会議に出席する要人の乗った旅客機や船などを改造した見えない宇宙船によって次々と撃墜していった。
宇宙船を撃墜されてもなお巨大化して国際平和会議の会場を破壊しようとするが、 ウルトラマンによって倒される。
その後、 科学特捜隊の手によって建てられたジャミラの墓碑銘には、
「人類の夢と、科学の発展のために死んだ戦士の魂、ここに眠る」という言葉が記されていた……。 *1
体こそ醜い怪獣と化していたが、とある山村を焼き払った際、
科特隊・イデ隊員の「ジャミラてめぇ! 人間らしい心はもう無くなっちまったのかよー!」という叫びに
我に返ったように自分が壊滅させた村を見つめて立ち尽くすなど、心は人間のままであるということが極めて強調されていた。
灼熱の星で過ごしていた為に変化した身体は粘土質でひび割れており、熱には極めて強く
100万度の火炎放射まで吐けるようになっていた。
だが、悲しいことにその身体は追い求めていた筈の全ての命の源「水」に極めて弱くなってしまっていた。
守るべき存在である「人間」にスペシウム光線を撃つ訳にはいかない、という理由から、
(今回の監督であった実相寺昭雄氏が大の光線嫌いだったというエピソードもあるのだが)
スペシウム光線ではなくウルトラ水流という手から勢いよく水を出す技にて倒されるのだが……。
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100万度ってどのぐらいよ? |
柳田理科雄氏の『空想科学読本』によれば、物質は 摂氏10万度に達するとすべからくプラズマ化するらしい。
つまりジャミラが100万度の火炎を吐くと、同時に
100万度のプラズマジェット
が放射されるとの事。
現実にある商業用のプラズマジェットカッターですら、3800度で鉄板を容易に切り裂く威力を持つのだが、
100万度のプラズマジェットの場合は
地球を6秒で貫通する程の威力を持つ
らしい。
当然ながら劇中でそのような描写はないのだが、本当に火炎と同時にプラズマジェットが放射されていたならば、
ウルトラマンの手に余る凶悪怪獣と化していたに違いない。 どうしてプラズマジェットを使わなかった…
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その最期は、大量の水に苦しみ泥まみれになってのたうちながら、泣き声(赤ん坊の泣き声を加工したもの)を上げつつ
万国旗(国際平和の象徴と思われる)を潰し、泥に汚して力尽きる、という悲惨極まりないもの。
スペシウム光線で一瞬で爆死するのと、弱点である水を浴びせられて苦しみのたうち回りながら死ぬのと
どちらが良いかは疑問である。
40年後の世界である『 ウルトラマンメビウス』における過去の怪獣のデータを記録した「アーカイブドキュメント」の
ジャミラの項には「国際平和会議を妨害した、凶悪な怪獣」以外のことは一切記されておらず、
真実は隊長クラス以上でなければ閲覧できない「ドキュメント・フォビドゥン」にのみ記載されており、
40年の時が過ぎても極めて強くタブー視されて真実は隠蔽されている。 *2
ジャミラが登場した「故郷は地球」は、 ギエロン星獣や ムルチなどのエピソードと並んで、
ウルトラシリーズが単なる怪獣退治特撮番組ではない、という事の証左と言える。 *3
また『 ウルトラマン』では、故意ではなく事故だが人間によって住処に原爆を落とされ巨大・狂暴化したラゴン。
本当に何もしてないのに ドラコを足止めするというだけの理由で戦いに巻き込まれたうえ、逃げたら科特隊に爆殺されたギガス。
見せ物の為に拉致されたうえ、途中で目を覚ましたら空中投棄され狂暴化(普通は手負いという)した ゴモラ。
など、被害者である面は強調されていないが踏んだり蹴ったりな死に方をした怪獣も結構いる。
このように悲劇的な設定と救いのない秀逸なドラマで有名な怪獣だが、当時の多くの少年たちが
脱ぎかけのシャツを頭に引っ掛けて物真似をしたという微笑ましい影響を世間に与えたことでも有名だったりする。 *4
例えば直木賞作家・東野圭吾(現52歳/当時8歳)のエッセイでは“「ペギラごっこ」と「ジャミラやぞー」”という章で
そのスマッシュヒットぶりが描写されている。
ウルトラマンが怪獣を料理したという設定のカプセルトイ『ウルトラクッキングスイング』では「ジャミラのぬれ煎餅」がラインナップされている。
レシピ
材料:ジャミラ、醤油…適量
1.ジャミラを倒し、焼きます。
2.焼けたら、さめる前にすぐに醤油で濡らします。
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ゲーム作品におけるジャミラ |
SFC版『 ウルトラマン』ではステージ3に登場。 ベムラー・ テレスドンとは一線を画す強さを持っており
適当に攻撃を振り回すだけで勝つのは難しい。また、口から発射する火炎放射攻撃は前2面と違い、
消え際に 炎の先端が火の玉となって真っ直ぐ飛んでいくという素敵トラップが仕込まれている為、
範囲外だからといってボーッと突っ立っていると突然火の玉にやられることになる。
また、 マイコーのようなポーズで飛び道具を回避することもあり、起死回生のスペシウム光線が
あっさり回避された時のショックは大きい。
TV番組『ゲームセンターCX』でも課長を大いに苦しめた(尤も、その後に 更なる地獄を見る事になる訳だが……)。 また、他の怪獣と違ってスペシウム光線でとどめをさしても爆発せずに倒れ込む他、勝利後の演出がジャミラの追悼シーンとなっている。
アーケード版ではさらに、原作通りに止めの一撃がスペシウムではなくウルトラ水流となっている。
アーケードのシューティングゲーム『ウルトラ警備隊 空想特撮ゲーム』では 単なる雑魚敵として登場。
しかも何故か 大量のジャミラが一編に纏めて出てくる。一体どんな異変が起きたのだろうか。
尤も、TVでもウルトラマンタロウで「昔ウルトラの星を襲ったエンペラ星人の率いる怪獣軍団」にジャミラがいたりしたので、
ひょっとしたら彼が遭難した星は昔からそういうことが頻発していたのかもしれない。
円谷プロの別作品「ファイヤーマン」では超重力の惑星からやってきた温和な怪獣が巨大化してしまい帰れなくなる話があるため、
ジャミラの場合は逆に重力が異常に小さい星であった可能性はある。
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漫画・小説作品におけるジャミラ |
ウルトラシリーズの漫画を数多く手掛けている内山まもる氏の長編漫画『かがやけ ウルトラ兄弟』では
メフィラス星人率いる怪獣軍団の一員として終盤に登場。何故か 海上で普通に活動していた。
高田裕三氏の漫画『ウルトラマン THE FIRST』ではかなり設定が変わっており、怪獣墓場を調査していた
宇宙船のパイロット「ジャミラ」が バルタン星人が操る ブルトンに捕まって改造されたという設定。
割と後述のパワード・ジャミラに近い設定である。終盤の『THE FIRST』のストーリー自体も ゼットンがバルタン星人に
操られている等、全体的にパワードに近いので意図的なものだと思われる。
地球に放たれて同胞たる地球人に攻撃されるものの、人間としての意識が残っていた為、決して手出ししようとせず
現れたウルトラマンにバルタン星人や彼らが制作していた 黒い影の危険性を説いたところで
イデのマルス133の攻撃によって爆死。 ウルトラマンではなく地球人に殺されるという非業の結末を迎えた。
その後の扱いはTV版と同じ。自分が喜々して倒した相手が同じ地球人だった事に絶望したイデはやさぐれてしまい
この後の事態を余計に混乱させる事になってしまった。
ただ、ウルトラマン=ハヤタの心にジャミラの無念は強く刻まれ、彼の遺志を継ぐべく宇宙へ向かう為、
決して無駄死にではなかったと思いたい。たとえそれがバルタン星人の罠だったとしても…。
なお、ウルトラマンと戦った訳ではないので水に弱いという描写はない。むしろ、水を欲しがっていた。
『ウルトラマンギンガ』のパラレルワールドを舞台にした外伝短編小説『 マウンテンピーナッツ』では、 スパークドールズとして登場。
本作でウルトラマンに変身する久野千草は ウルトラマンタロウと交友があったのでジャミラの正体を把握しており、
彼を殺す事を躊躇っていたのだが、そこに現れた環境保護団体マウンテンピーナッツの戦闘機はジャミラに容赦なく放水攻撃を仕掛けた。
環境保全と怪獣の保護の為ならばウルトラマンの妨害はおろか殺人も辞さない彼らにとって、
元宇宙飛行士であるジャミラは「守るべき怪獣」ですらなく「生きる資格の無い人間」に過ぎなかったのである。
ウルトラ怪獣擬人化計画にも登場。
デザインは電撃版、POP氏版の二種類で、両者とも肩と一体化したような特徴的な頭部は肩パットという形で上手く取り入れられている。
地球人男性→怪獣→美少女という波乱万丈過ぎる人生についてはPOP版(しかもこちらでは女子高生)にて本人が言及している。
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また、2000~2001年に放映されたアニメ『アルジェント=ソーマ』は、物語全体を通して
ジャミラのエピソードに対するオマージュのような部分が色濃く見受けられる。
最近では「事故で火星に一人取り残された宇宙飛行士の脱出劇」を描いた映画「オデッセイ」の公式ツイッターが
「(´-`).。oO(日本の皆さんが、しきりとぼくに「ジャミラにならないようにね」とか「これは完全にジャミラになるパターン」といった感じのメッセージを送ってくるのだけど、アメリカ人のぼくにはチンプンカンプンだよ)」
と発言した
ことがちょっとした話題になった。
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