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アストロ球団

登録日:2021/09/29 Wed 18:26:13
更新日:2026/08/23 Sun 16:20:18NEW!
所要時間:約 25 分で読めます




問題:
バッターが打った球がどう見てもホームラン間違いなしの長打となった。
ボールは高々と舞い上がり、外野フェンスの20mは上を飛んでいく。
しかしホームランになる事はなかった。なぜか。
  1. バッターがうっかり1塁を踏み忘れたのでアウトになった(実話)
  2. バッターがランナーと手を取り合いぐるぐる回って喜んだので走者追い越しでアウトになった(実話)
  3. アメリカ人審判がアメリカびいきなのでメキシコ代表のホームランは認定されない(おおむね実話)
  4. センターがレフトの選手を上に20m投げた




アストロ球団とは、ここで躊躇せず4を選ぶ驚異の熱血超人殺人野球漫画である。
週刊少年ジャンプ1972年39号から1976年26号まで連載。
原作:遠崎史朗、作画:中島徳博。


…殺人野球漫画?




はじめに

時は1960年代後期。
巨人の星』の大ヒットにより、漫画界には2つの流行が生まれた。

1つはスポ根。スポーツ根性漫画の略であり、スポーツ選手が凄まじい努力と根性の果てに勝利を掴む、劇画仕立ての漫画を指す。
少年マンガ誌では『あしたのジョー』(少年マガジン)『タイガーマスク』(ぼくら)『柔道一直線』(少年キング)『侍ジャイアンツ』(少年ジャンプ)などが人気を集め、少女マンガ誌でもバレーボール漫画『アタックNo.1』(マーガレット)と『サインはV!』(少女フレンド)がしのぎを削った。

もう1つの流行が必殺技
これらスポ根漫画では、しばしば物理的にありえない超人テクニックが登場する。
野球であれば大リーグボール2号を筆頭とする「魔球」だが、野球に限らず柔道であれプロレスであれバレーボールであれテニスであれモータースポーツであれなにがしかの非科学的な必殺技が舞い飛ぶのが当然となっていた。

そしてこの2つの流行が極地に達してしまった、あらゆる面でやりすぎの漫画が、アストロ球団という熱血超人殺人野球漫画である。

やりすぎポイント

では、どこがやりすぎかを順番に解説してみよう。

ポイント1:主人公チームが強すぎ

多くのスポ根作品では超人的なプレーが飛び出すが、あくまで主人公は人間である。
『巨人の星』の星飛雄馬が振るう大リーグボールは、よくよく考えると人間技ではない。
それでも「まあ人間にもできなくはないのでは……」という範囲に留めねばならないという発想的ブレーキが掛けられていた。
例えば飛雄馬は時速200kmの球を投げないし、『あしたのジョー』の矢吹丈に殴られた相手がリングから飛び出し窓をぶち抜いて会場の外までブッ飛んでいく事もない。
「星飛雄馬」という名前の由来が「ヒューマンドラマ」にある事からも分かる通り、スポ根漫画は本来人間を描く漫画である。
人間が限界を超えて努力する美しさ、激しさ、哀しさ。
もっと言うならばスポーツと云う、元来は切った張った・殺した殺されたの戦争(かちまけ)から縁遠いことが理想のはずの勝負の場で、肉を鋼に鍛え血の涙を流して勝敗を競う極限世界。
少し前の時代に日本をズタボロにした本物の戦争ではない、しかし戦争に匹敵するような命と肉体と誠の物語。
それらを描くには、主人公は人間でなくてはならないのだ。

これに対し、『アストロ球団』の主人公チーム、つまり「アストロ球団」というチームに所属するみなさん(紛らわしいので、以降この項目では作品としての『アストロ球団』は二重カギカッコで表す)は、野球のために生まれてきた超人であると原作の最初から設定されている。
そして超人なので何をしても構わない
発想的ブレーキはブッ壊れている、というか、最初からそんなもん付いていないのである。

言い換えれば、スポ根世界が抱えた「たかがスポーツに何でそこまで入れ込むの」「むしろやらせちゃダメだろ」という根幹的矛盾を、初手から運命化することでスポ根次元を超えた別物に昇華させてしまったのだ
そして実態、この矛盾を突く構造はスポーツというものを取り巻く現実にとっても鋭い皮肉と風刺になっている。
先述のようなキレイ事で成り立ってるからスポーツがもてはやされてるわけではないのだと。
だからこそ『アストロ球団』は、スポ根支配の時代から次の潮流へのセンセーショナルすぎる先駆けとして時代に刻まれたのである。


そんなアストロ超人の面々がどのくらいブッ飛んでいるのか、いくつか例を挙げてみよう。


走!

1・2塁間、2・3塁間を守備の選手が猛スピードで往復し、残像で壁を作る無敵の内野守備アストロシフト


攻!

打球をキャッチしようとしたショートが打球の勢いでボールを持ったまま後ろにブッ飛び、

さらにそれを受け止めようとしたセカンドも一緒にブッ飛び、

さらにそれを受け止めようとした巨漢のセンターもまとめてブッ飛び、

選手3人を外野フェンスに叩きつけてボールを落としフェアにさせる水爆打法!!


守!

センターがライトの選手をブン投げてバックスクリーンへの打球はもちろん、

左右ポール際までありとあらゆるコースのホームランを捕球できる超人守備!!!


そして投!

ストレートの球速190km/h!!!!!













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   /彡ミヽ )ー、::::
  /:ノ:ヽ \::|.:::
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野球にならねえよ…


しかも恐ろしい事に、上記した4つの技のうち超人守備を除く3つは劇中さして重要な技として扱われない
アストロ超人は超人なので、分身しながら走ったり、打球で守備の選手を外野フェンスに叩きつけたりするのは当たり前なのである。
時速190kmのストレートに至っては投げると相手バッターから「そんな手抜き球投げるな」と煽られる始末。

本作の連載時、作者は毎週いかにして読者の期待を裏切るかを考えていたという。それ自体は漫画家には割とよくある話
あなたは考えていただろう。ピッチャーは時速190kmの球を投げないと!
あなたは思い込んでいただろう。20m上に上がったホームランボールは取れないと!
あなたの思考は縛られていただろう。野球ボールで人は吹っ飛ばせないと!
そんな常識という檻の中に安住し、あたかも自分が常識人という高尚なもののように思い込んでいる読者の横っ面を

「アホンダラ~~~!!てめえそれでも男か~~~~っ!!!」

毎週バットでブン殴る!
それが『アストロ球団』という作品なのだ!

そんなアストロ球団の目標は意外にも現実的で、打倒巨人軍打倒大リーグである。
巨人軍も大リーグもここまでやらなくても倒せると思うけd「男ならごちゃごちゃ言うんじゃねぇ~~~っ!!」アッハイ、スミマセン

ポイント2:特訓が過酷すぎ

これらの無茶すぎる必殺技が使える時点でアストロ球団はどう考えても地上最強なのだが、本作はスポ根漫画なのでなんと更に特訓を重ねてパワーアップする。
だがアストロ超人は超人なので、常人にできるような特訓で強くなったって説得力がない。
したがって、常人に絶対にできないような特訓を行うのである。

『巨人の星』の花形満は、ビル解体用の鉄球を重さ10kgのバットで打つという大リーグボール打倒特訓を行った。
一歩間違えれば自分がネギトロになりかねない危険極まる特訓であり、なおかつこの辺がおおむね「常人にできそうな気がする特訓」の限界であろう。
ではアストロ超人がどのような特訓をするかというと


手足を縛られたはりつけ状態で長さ3mはあろうかというでっかい丸太で寺の鐘突きのように背中を殴打される特訓!


野球はどこ行ったんだ
初球からいきなりSMプレイが始まってしまったが、彼らはこの名状しがたいSMプレイのようなものを本気で野球のために行っている。
今回の相手の武器は当たれば即死の殺人ピッチャー返し。この恐るべき敵と相対して生還するには、急所の少ない背中を丸太殴打特訓で鍛え上げ、背中で打球を受けとめる他ないのである!
もっとも、血のにじむような特訓をしたわりに劇中でそれが生かされたのは1回だけだった。割に合わな過ぎるだろうがよ~~~~っ!!

いや、割に合うか合わないかなどといった打算的な価値観などアストロ戦士には唾棄すべきもの。
彼らは野球のためならば明日を捨てても惜しくない覚悟の集団であり、勝利のためならどんな変な過酷な特訓も身を惜しまず励むのである。
彼らも作者も大真面目である。どんな無謀な特訓も、覚悟を決めた真の男に不可能はないのだ。


回転するドリルを素手で握って意図的に手に傷をつける特訓!!


そいつは無謀すぎるだろうがよ~~~~っ!!

いや待て、いいか、これにはれっきとした理由がある!
ボールにツバを付けて投げる事で異常な変化を引き起こす「スピットボール」という不正投球がある。だがこれは現代の野球では禁止だ。
しかし、手の方に予め傷があるせいで異常な変化を引き起こすとしたら?
それを不正投球と謗る事は誰もできない!
野球の新たな地平を切り開くためならば、明日を捨てる事さえ恐れないという覚悟の特訓だ!!
スピットボールは球に付着したツバが空気抵抗を変える事で変化するので手の方に傷をつけても意味ないのは秘密だ!

今日の激しい特訓は明日の勝利を必ず引き寄せる。
ゆえにアストロ超人は
  • 球速0.1秒(時速664㎞)の球を打つ
とか、
  • 入ると死ぬので絶対に入ってはいけないと言われた数十倍重力室に20日間入る(なんで作ったんだ?)
とか、
とか、常人の域を超えた特訓に身を投じるのだ。

……でも、


試合中に突然新たな魔球のアイデアを思いついたので自軍の攻撃中にブルペン裏で特訓!!!


ってのは、そりゃいくらなんでも泥縄じゃねえか~~~~~っ!!

ポイント3:相手チームが邪悪すぎ

このようにパワーアップしたアストロ超人はどこをどう考えても地球最強なのだが、
本作はスポ根漫画なのでなんとこんなに強いアストロ球団を苦戦せしめるほどの敵が登場する。
というのも、本来アストロ超人は各ポジションに1人、全部で9人存在するはずなのだが、物語の開始直後に集まったのはたったの6人!2人しか居ない内野守備がヤバい

……「穴埋め入れないの?野球はサッカーとかと違って1人足りなくてもダメなルールでしょ?」なんて些末な疑問は一旦忘れてほしい。重要な事ではないからだ。

この地球上のどこかに存在する、残り3人の超人を探すのがアストロ超人たちの大目標の1つであり、そのために超人的野球能力を持つアストロ超人候補が敵として何人も登場する。
センターがレフトを投げてホームランボールを捕球する「超人守備」はアストロ球団の外野守備の要となる技であったが、

「連載中、アストロ球団と戦った全ての敵がこれと同等のホームランボール捕球能力を持っていた」

と書けば、本作における野球のレベルの高さ(?)が理解していただけるだろう。

そしてもう1つの理由がラフ・プレー
アストロ球団と対戦する相手はなぜかことごとく殺人野球上等の卑怯千万な軍団である。
このプロレス漫画と取り違えてそうな設定のために劇中では野球による負傷者・再起不能者・死者が続出する。
青春とか人生とかを賭けて野球をする漫画は多いが、本作における野球とは文字通り命懸けでなければ勝利をつかめない修羅の世界なのである。
アストロ超人は毎試合全身血みどろとなり、万全のスペックから大幅に下がった状態でのプレイを余儀なくされ、苦戦を強いられる。
作中行われた全ての試合で死者または再起不能者が出ている野球漫画は、後にも先にもこれだけだろう。

さらに、ラフ・プレーのレベルが尋常でない
相手の足を狙ってスライディングするとか、タッチの際に足を強打してダメージを与えるなどは序の口オブ序の口。
  • 打つと高速回転によってバットを駆け上りバッターの頭部をえぐり抜いて殺害する「殺人L字ボール」
  • バッターが打った瞬間に一塁線上に全選手が飛び上がり、一塁へ向かうバッターめがけて次々と落下する「人間ナイアガラ」!!
    (本作を代表する殺人技だが、なんと実行したチームから1人の退場者も出ておらず、走塁妨害すら取られていない!
これら野球という概念に挑戦状を叩きつけるような堂々たる殺人技が飛び交うのである。
挙句の果てには試合中に切腹して死ぬ奴まで現れる始末。

最初にアストロ超人たちの異常なスペックを取り上げた際、「野球にならねえよ」と書いたのを覚えておられるだろうか。
敵の連中に比べればアストロ球団がとてもマトモに野球をやっているように見えてきましたよね?(感覚麻痺)

アストロ超人は強い。常人の10倍は強い。
だが、そんな常軌を逸した超人たちに常道の10倍の試練を与える事で、窮地の男が発揮する努力と根性の激しさと美しさを常識の100倍で描き出すのが「アストロ球団」という作品なのだ!!

なお、このように敵は卑怯千万なので、アストロ超人たちもつい力の入ったプレーをしてしまう。
そのため、アストロ球団側より敵チーム側の方が死者や再起不能者がはるかに多いという事はヒミツである
アストロ超人は欠員を出せないからね、仕方ないね。

それと、ここまで読んだ読者の方々は「こんな野蛮なプレイはどう考えても守備or走塁妨害では!?」などと思うかもしれないが、ところがどっこい本作の審判の目は節穴もいいとこであり、その手のコールは全くしてくれない。
それどころか
  • グリップが無い単なる棒やヌンチャクを「いやらしいくらいにルールブックの隙をついた」とバットとして認める
  • 一度投げた球をもう一度キャッチして投げるスカイラブ投法でボークを取らない
  • リョウ坂本が場外本塁打を打った直後で「私の仕事はホームランを打つことで走ることではない、一点入れてくれ」と言ってそのままベンチに帰って行ったらその主張通りに処理してしまう。*1 *2
などのムチャクチャな判定をしまくっており、どうもこの世界の野球のルールブックは現実と違うのではないかと思われる。
どうしてこうなったかって?作者が野球やった事なかったからね……。

一方、この『アストロ球団』が漫画界に殴り込みをかけた1972年という年代から、現実のプロ野球界の悪徳の一面を想起する方々もいるだろう。
その前年1971年に一応の決着の形を作った、プロ野球史に刻まれた一大八百長スキャンダル黒い霧事件」のことを。
時代背景を酌んでみれば、リアルとしがらみの縄目をほどけないままの王道スポ根野球になど目もくれず、「現実のなまじな八百長好きどもなど、このアストロ野球界に生き得るわけがない」と大喝するかのような熱量を、本作の超人野球からは感じられるはずである。
常識を無視した邪悪さ・ヒール達も、当時の球界に幻滅した人々に求められたダークヒーロー像なのだ
⋯⋯裏を返せば後年に読むとスポーツ漫画としてはギャグにしか見えないしやや思想が強いと感じるのも当然と言えるが。


ポイント4:試合が長すぎ

野球は1回表から9回裏までの9イニングで争うが、野球漫画でその全てを描くことはまずない。
大抵の場合、たとえ物語上の重要な試合であっても
「さて3回の表、1・2回とホエールズの上位打線を苦もなく抑えた巨人の星飛雄馬ですが、この回先頭バッターとして7番大洋の左門を迎えます」
ってな感じで現状を説明して主人公とライバルの対決など重要シーンまでスキップするなどして、飛び飛びで描くのが当たり前である。

ところが、『アストロ球団』はこのイニング・打順飛ばしが異様に少ない。
というのも、1イニングごとに
  • ビックリ新魔球の登場
  • 驚異の新打法の開帳
  • 卑怯な殺人技に倒れる仲間
  • 血みどろで根性を燃え上がらせるアストロ超人
  • 選手の壮絶な死
  • 再起不能だったはずの選手の復活(肋骨を8本折って肺に食い込んだ選手がその試合中に復帰したりする)
  • 上記の様々なイベントのたびに発生する「うお~~~~っ!なんて男なんだおめえはよ~~~~っ!」的な、その選手の行為がどれほど男らしいかのアピール
というクソ暑苦しい展開が息もつかせぬ密度で発生するため、飛ばそうにも飛ばせるイニングがないのである。

野球漫画界隈で「長い試合」と言うと、『大甲子園』の夏の甲子園準決勝で山田太郎の明訓VS青田(『球道くん』からの客演)の試合がよく挙がるが、延長18回を完徹したのでタイプの違う長さである*3
Mr.FULLSWING』の十二支VS武軍装戦も実質3巻(連載時期は半年)分あったが、ギャグ描写を削れば2巻半くらいには収まるだろう。
しかし本作の「アストロ球団vsビクトリー球団」戦は、2回の表・裏だけでコミックス2巻分あるのだ。

かくして、単行本全20巻においてアストロ球団が戦った試合数はわずか3試合
おまけに連載初期に「昭和49年の9月9日にアストロ球団を結成する!」と豪語したにも関わらず、試合が長すぎて現実の昭和49年9月9日が過ぎてしまったというオチまでついてしまった。

このペース配分のムチャクチャさ1つ取っても分かる通り、本作の完成度は一言で言えば「粗い」
絵も粗い。ストーリーも粗い。容赦ない設定変更のために伏線は機能していない。
それらは現代の緻密な漫画とは比べるべくもない。

だが、そんな事は些細な問題である。
アストロ球団のスローガンたるこの言葉の前には!



一 試 合 完 全 燃 焼


今日の勝利のためならば明日を捨てても惜しくない。それがアストロ戦士の生き様だ。
それは当時20代だった中島先生も同じであった。彼は極限の体調の中、血を吐くように本作を描き続けた。
燃える時代、燃える若き作者。
『アストロ球団』は、あの時代、あの作者だからこそ生まれた怪作なのである。

あらすじ

時は太平洋戦争末期の昭和19年!
読売巨人軍投手・沢村栄治は戦地フィリピンで奇妙なを見る!
それは昭和29年9月9日に生まれ、体のどこかにボール型のアザを持つ9人の男が、超人的な野球プレイを見せる夢であった!
しかし、沢村は終戦を待たずして非業の戦死を遂げた……。*4

そして時は流れ昭和47年!
沢村より超人の夢を伝え聞いていたフィリピン人シュウロが来日し、超人球団結成のため奔走する!
阪神の超大型新人・江夏に化け球場に乱入した投手宇野球児
ホームランボールをキャッチャーミットに打ち返す怪童上野球太
長嶋茂雄が秘蔵し極秘に育て上げた三萩野球一
阪急ブレーブスに新入団した超人守備の使い手明智球七郎明智球八
5人の超人を見つけ出したシュウロは、新生球団をアストロ球団と命名するのであった!!

だが、アストロ球団の前には、続々と殺人野球を標榜する恐るべき凶悪球団が立ちはだかる!
それでも、アストロ戦士は超人ガッツ一試合完全燃焼の精神で邪道野球に立ち向かうのだ。
沢村栄治が夢見た、9人の超人戦士が集う球団を実現するために!!

主な登場キャラクター

アストロ超人

本作の主役となる男たち。
具体的に常人と何がどう違うのかは一切説明されないがとにかく超人。

本作は作者が「こっちの方が面白そうだな」と判断したらあらゆる設定を容赦なく変更し、試合中ですら朝令暮改がしばしばある漫画である。
とりわけ空前絶後なのは、連載7話目にして「アストロ球団の一員として生まれ変わった」証というよくわからん理由で、当時集まっていた超人5人のうち4人の名前を改名してしまったことである。
作者が「あれ?超人を9人集めるなら名前に一~九が付いていた方が良くない?」と連載を始めてから気づいたのでやっちゃったそうです。

この結果、連載初期とそれ以外で別人が「球一」を名乗っている(旧・球一は番号変えられてそのまま続投)というカオスな状況となっている。

アストロワン・宇野球一(投手)

4番ピッチャーでド根性熱血野郎という主人公属性のカタマリのような男。
先述の通り作者が野球を全くやった事がなかったので野球選手はどんな人なのか良く分からず、とりあえず主人公っぽいキャラを作ってみたという極めて雑な誕生秘話により生まれた。

時速190km*5という新幹線並のストレートと、沢村が投げた幻の変化球「3段ドロップ」を操る、常識では打ちようのないピッチャー。

3段ドロップとは「3段落ちてくるように見える」という、要するに当時の常識と比べ激しく落ちる縦のカーブなのだが、本作では
「真横に投げたボールが1段目で45度、2段目でさらに45度曲がって垂直に落下し、地面間近で真横に90度曲がってキャッチャーミットに収まる」
という物理法則をムチャクチャに無視したボールと化している。沢村が聞いたら怒るぞ……。

そんな3段ドロップも猛烈なインフレによって攻略されてしまい、右手でボールを後ろに投げ、それを左手で叩いて相手バッターに飛ばし、あまりのスピードの為近づいただけで衝撃波でバットが削り取られる「スカイ・ラブ投法」など新たな魔球の開発、あるいはバットにヒビを入れて打つ事でボールとともに砕け散ったバットの破片を飛ばし守備を撹乱する「ジャコビニ流星打法」などの必殺打法の開発に余念がない。
他にも「コホーテクすい星打法」など、本作の必殺技は宇宙関係の単語が付けられているものが多い。申し訳程度の「アストロ」要素だろうか。

アストロ球団は1ポジション=1人なので彼以外にピッチャーはおらず、彼がどんなに重傷を負おうが彼以外にピッチャーを務められる人物が1人も居ない。
そのため敵に狙われて満身創痍となる事が多く、投球回数24回2/3でなんと自責点28、驚異の防御率10.22*6を叩き出している。
おそらく野球漫画史上もっとも防御率の悪い主人公ピッチャーなのではないだろうか?
アストロ球団は全員ピッチャーできる特訓した方が良かったんじゃないかな

アストロツー・上野球二捕手

関西弁を操る3枚目ムードメーカーキャラ。
ブラック球団戦で殺人L字投法のターゲットにされ致命傷を負ってしまう。
超人集結の夢潰えたかと思われたが……?

アストロスリー・伊集院球三郎一塁手

美女と見まごう美貌を持つ盲目美青年という、当時としては極めて斬新なキャラクター。
その美しさは相対した投手をして「わしゃホモじゃないがキッスでもしたろかい!」と言わしめるほど。
あらゆる登場人物の口が悪い本作では例外的に女性的でたおやかな言動の人物だが、その胸に秘めた男らしさは他の超人たちに何ら劣るものではなく、その証拠にアストロ球団で一番敵チームに死者・重傷者をつくったのは彼であるキル数が男らしさの基準になる野球漫画とはいったい…

盲目で野球するのはいくらなんでも無茶な気がするのだが、劇中では心眼があるのでとにかくヨシ!ということになっている。
それどころか「10万人の観客の中から野球が上手い人を心眼で見つける」などのムチャクチャなミッションをさせられる始末。

作品の内外問わず女性ファンが多く、人呼んで「少年ジャンプの貴公子」
当時新興雑誌だったジャンプに女性読者を呼んだ張本人であり、連載当時ジャンプ編集部に女性読者から届いたバレンタインチョコの半分は球三郎宛てだったという。
球三郎がいなければ少年ジャンプの女性ファン層誕生は少なくとも数年遅れとなり、「テニミュの流行を発端とする2.5次元舞台の一般化」など、幾つかのムーブメントの発生が遅れるかそもそも生じなかった可能性がある。
現代のサブカル業界の隆盛を考える上ですごく偉大なキャラと言えよう。

この「外見が超美形で、内面も優しく女性的だが、男らしく戦いたいと願い、実際強い」というキャラクターは聖闘士星矢アンドロメダ瞬で1つの完成形を見るが、この後は目立った後継者がないように思われる。
強いて言うなら蔵馬とかとか、最近だと無一郎君くらいか。

アストロファイブ・三萩野球五三塁手

長嶋茂雄の秘蔵っ子。アストロ球団の常識人担当。
口数は少なく行動で男気を示すタイプだが、お陰でとても地味
当初「球児」だった主人公に「球一」の名前を奪われた人と言えば、劇中での扱いもお察しいただけるだろう。
アナウンサーからさえも、良くて「いぶし銀」、悪いと「たいへん地味」なんて失礼な評価をされまくっている。
必殺技も、他の連中が異様に仰々しい名前を付ける中で異様に地味な「バム打法」。地味すぎてむしろ印象に残る。
そういった事もあってか、ビクトリー球団戦においては先述の重力室に2カ月こもり続け、100㎏の鉄バットを万年筆並の重さに感じるようになるまで鍛え上げた。

アストロセブン・明智球七(右翼手)

超人守備のブン投げられる方。江戸っ子気質で喧嘩っ早い。
ボールを持った相手セカンドをジャンプで飛び越えて2塁に到達するなど、足の速さと身軽さもずば抜けており、アストロ球団のリードオフマンとして活躍する。
アストロ球団の外野守備は球七を投げる事に完全に依存しているため、ピッチャー球一と並び敵の攻撃の的にされやすく、毎試合両手粉砕骨折などの重傷を負いながらド根性を見せる。

アストロエイト・明智球八(中堅手)

球七の双子の弟で、超人守備のブン投げる方。「デカい方が弟で大人しくて朴訥」という意外性を狙ったキャラ。
現代の読者は「漫画で巨体とチビの兄弟が出たら十中八九デカい方が弟だろ」と思うかもしれないが、1970年代当時としてはこれは斬新な設定であり、むしろ「デカい方が弟」という風潮に先鞭をつけたのがこの男である。
戸愚呂兄弟よろしく肩に球七を載せている事が多い。
シーンによって身長のムラがとても大きく、2m~10mくらいまで伸び縮みしているように見えるが、男なら気にしちゃならねえ。
体格通り巨木を軽く引き抜く怪力を持ち、前掲の水爆打法に加えバックボードを貫通する威力の打球を打てる。捕球したら死ぬのでは?

ブラック球団

アストロ球団1戦目の相手。
巨人軍にゴミ屑のように使い捨てられた選手の子息などが大同団結して立ち上げた、巨人に対するふくしゅう球団。「ふくしゅう」は必ず平仮名で書くのがポイントだ。

バットを当てると全身が麻痺し、動けなくなった選手のバットを伝ってボールが頭部に直撃する「殺人L字投法」を擁する投手無七志(むなし)
そして強烈なピッチャー返しでピッチャーを殺害する「殺人X打法」を操るカミソリの竜
巨人へのふくしゅうのため鍛え上げられた殺人技がアストロを襲う!

ロッテオリオンズ

アストロ球団2戦目の相手。これのみ実在の球団(現在の千葉ロッテマリーンズ)である。
当時ホームスタジアムが無く「ジプシー・ロッテ」と揶揄されていたため、邪悪なロッテオリオンズ監督・金田正一(実在人物)はアストロ球団が都内に建造した巨大新ドーム球場「アストロ球場」を狙って勝負を挑む。
金田は極めて悪辣非道な男であり、ありとあらゆる卑劣な「アストロつぶし」作戦をオリオンズ選手(実在の人物)に指令し卑怯千万にもアストロ球場の強奪を狙う(重ね重ね言うが金田は実在の人物)
現役のプロ野球監督にこんな事をさせられるのも70年代という時代のおおらかさゆえであろう。
中島先生は当初金田をガチの悪役として描いていたが、オリオンズ編連載中にホンモノの金田監督が意外にも本作を高評価してくれた事を知り、慌てて「金田はプロ野球界の厳しさを教えるために敢えて悪役に徹していた」という設定に変えた……というほほえましいエピソードもある。21世紀のドラマ版でもロッテと金田監督が登場出来たのはそのせいかも知れない。

金田は卑劣にも契約金5億円で対アストロ用の助っ人を2人も雇い入れており、卑劣なプレー以外では何の役にも立たない実在選手に代わり彼ら助っ人が超人プレイでアストロを追い詰める。

ちなみに、この「契約金5億円」というのは当時の物価基準とプロ野球選手の年俸を考えるとむちゃくちゃ高額で、かの長嶋すら生涯最高年俸は4920万円であった。
オリオンズは対アストロのために10億円もの資金をつぎ込んだ事になる。その10億円で球場を買えよ。*7


ビクトリー球団

アストロ超人の1人・峠球四郎アストロ球団を倒すためだけに旗揚げした球団
野球経験者はほとんどおらず、陸上・アメフト・相撲・ボクシング・プロレスなど様々な分野から、才能を評価されず鬱屈した選手たちを集めて結成された。
陣流拳法総帥・伊集院大門の提唱するデスマッチ野球により、野球を通じてアストロ球団を文字通り抹殺する事を目的とする。

ビクトリー球団登場辺りで作者の筆に脂が乗り切り、画風が安定すると共にムチャクチャ度も安定して高止まりするので、序盤を読んでみてイマイチだな~と思った方はビクトリー球団戦までワープしてみると良いかもしれない。
トゲのついたヘルメットにノースリーブという野球漫画史上有数のダサいユニフォームが衝撃的である。

峠球四郎

アストロ超人の一人にしてビクトリー球団総帥(フューラー)関西弁
生まれながらの超人という運命に従う生き方を否定し、アストロ球団に挑戦状を叩きつけた。
灘高主席の超頭脳を持ち、球一の魔球を完全にコピーしてみせるなど、他の超人と比べてもずば抜けた能力を持つ。
……が、アストロ球団との戦いでは打算と計略で生きてきた球四郎にとって想定できない出来事が次々と発生し、彼の人生観を揺るがす事となる。

伊集院大門

球三郎の兄。そしてデスマッチ野球の元凶
運命のすれ違いから球三郎を深く恨み、彼を 野球で 抹殺するため卑劣な殺人野球を挑む。野球で抹殺ナンデ!?*9
何かするたびに一々長い陣流拳法の技名を叫ぶのが特徴。「無意無感有耳音(むいむかんうじおん)の極~っ!!」

バロン森

球四郎の懐刀。最初はオネエキャラとして登場するも、アストロ球団との戦いの中で徐々にその闘争本能を研ぎ澄まし、最終的には本作屈指の漢として読者に強烈な印象を残した。
ビクトリー戦後半はバロンが準主役と言っても過言ではない。

読売ジャイアンツ


悪役。

『巨人の星』にせよ『侍ジャイアンツ』にせよこの時代の野球漫画は基本的に大正義巨人軍は正義の球団なのだが、本作は世にも珍しいアンチ巨人漫画である。
何しろアストロ球団は最初から「打倒巨人軍・打倒大リーグ」を公言しているのだ。
本作の沢村栄治は徴兵されながらも「アメリカとは戦争ではなく野球で正々堂々と戦いたい」と言い残して戦死したので大リーグをライバル視するのはわかるが、巨人軍に因縁は無い
とはいえ、当時の日本国民にとって巨人軍の人気は圧倒的であり、王貞治がアストロ潰しを仕掛けたり、長嶋茂雄が地球侵略に来た宇宙人だったりするなんて事は無い。
そのため、悪行はおおむね川上哲治監督がやらされる事になり、アンチ巨人感はいささか貫徹しきれなかった感がある。

最終的に本作は巨人の陰謀によるアストロ球界追放で幕を閉じるが、後に描かれた読み切りで巨人が超人チームにボコられているところに助けに駆けつけたアストロが同点まで試合を盛り返し、再び巨人にバトンタッチして王のホームランで勝利し、巨人に恩を売る形で溜飲を下げる流れになっている。
試合開始前に登録されていなかった選手どころか他球団に交代していいのかとか、いったん交代した選手(というか球団)に再び戻していいのかとかいう突っ込みは、もはやこの漫画の前には無意味だ。
本編の最後の最後でようやく揃った超人9人で試合したシーンはそこだけ……上述のあらすじ通り「9人集める」ことは果たしたから良いのだろう、多分。


余談あれこれ

本作は冒頭に記した通り原作を遠崎、作画を中島が務めたとされているが、遠崎が関わったのは序盤だけで、途中からは中島と担当編集者の後藤広喜がストーリー作りまで行っていた。
遠崎が降板した理由は「漫画の内容のエスカレートに耐えられなかったから」……としばしばネット上には記載されているが、この話は真偽不明。*10
とはいえ、結果として本作が「読者アンケートをもとに漫画家と編集者が二人三脚でストーリーを作る」という『ジャンプ』の伝統的な漫画作り手法の原点となった作品となった事は確かなようだ(これはWikipediaでもソースつきで記載されている)。

超人たちは当初、「昭和29年9月9日9時9分9秒に生まれた」とされていたのだが、超人が集まり始めてからは誕生日だけが重視され、誕生時刻について言及される事は全くなくなった。
仮に「9時9分9秒に生まれた」という設定が生きていると、双子である明智兄弟の母が1秒以内に2人出産した大超人ということになってしまうため、さしもの本作と言えど無用のツッコミ所として有耶無耶にしたのかもしれない。
後述の『空想科学漫画読本』では「人類史に残る安産であった事だろう」と書かれていた。

本作の特徴の1つとして、敵・味方・観客のすべてがとんでもなく口が悪い事が挙げられる。
例を挙げよう。
  • このバットが血を見てえんだとよ!どう見てもヤンキー漫画の1シーンにしか見えない
  • 川上さ~ん! 養老院が待ってるわよ~っ!
  • なめるな~~~っ毛唐~~~っ!
  • ど◯百姓きたねえぞ!
  • 金田のこ◯き野郎
  • 木樽*11~~!! ビア樽~~!! ク〇樽~~ッ!!
  • ロッテのばか死ネ
    (観客席の横断幕。試合前にわざわざ作ってきたのだろうか?)*12
  • あいつら…キ…キ◯ガイか…
  • このドメ◯ラが~っ!!
  • カ◯ワにしてやるぜ!
  • ドキ◯ガイめ~っ!!
現代ではとてもお日様の下に出せないようなフーリガンのごとき放送禁止級の悪罵がこれでもかと飛び交うのだ。
観客の掌返しの速さとモラルの低さは数あるスポーツ漫画の中でもワーストクラスで、満身創痍の超人たちがちょっとでも力の入らないプレイをしようものなら「ヘタクソ」だの「超人の看板をおろせ」だのと観客席から罵倒の嵐。超人プロレスの観客でもドン引きするレベルである。
何があってもアストロを応援し続けてくれるのは球三郎の女性ファン軍団だけである(当然、球三郎がピンチになると敵を罵り始める)
なお敵・味方・観客の全員口が悪いので、アストロ球団のみなさんも
  • ぶっ殺してやるぜ~っ あいつらのドギタネエ心臓をえぐりとってやる!
などと当然のように口走るのであった。なんで野球漫画で「ぶっ殺す」って選択肢が出るんだよ。

そのムチャクチャな描写から『空想科学読本』では常連作品であり度々取り上げられているが、17巻の「現実にできそうな野球漫画の珍プレーBEST5」という企画においては、「アストロ球団は除外とする」と門前払いされていた。しなかったら全部本作で埋まっちゃうかもしれないから仕方ないね
章前の扉絵においても『侍ジャイアンツ』の番場蛮に対し、球一が「何でお前はランクインして我々はダメなんだ!?」と突っ込んでいた。

まさかの実写化

2005年、深夜枠ながらテレビ朝日系列でまさかの実写ドラマ化を果たした。
尺の都合でブラック球団戦が削除された(カミソリの竜はロッテの刺客として登場)以外はおおむね原作を再現し、かの人間ナイアガラも見事に再現を果たしている。
その作風からか多くの特撮経験者(本作後に関わった面々も含む)が出演。『特捜戦隊デカレンジャー』のデカブルー/戸増宝児役で知られる林剛史が宇野球一役を演じており、元高校球児で後に「羞恥心」で知られる上地雄輔も三荻野球五役で出演していた。
ちなみに金田監督役は本作の2年後に特撮レギュラー出演を果たす石丸謙二郎、沢村栄治役は巨人OB(但し野手でヤクルトから移籍)の長嶋一茂、一茂氏の父でもある長嶋茂雄役は神保悟志が担当した。

また、ドラマ放送と同時期にPS2でゲームソフト『アストロ球団 決戦!!ビクトリー球団編』が発売されている。
これは野球ゲームではなく、漫画のストーリーをなぞりつつ何か起こるたびにQTEと連打を行うというなんとも微妙な作品であった。
しかもビクトリー球団側がミニゲーム失敗で原作とは違う展開を辿っても、アストロ球団にとっちゃ有利なはずなのにゲームオーバーになる理不尽仕様。

これ以外のゲーム出演としては、1989年の『ファミコンジャンプ 英雄列伝』において球一がプレイヤーキャラ、球四郎が敵キャラとして出演している。
ちなみに球四郎は戦闘時、他漫画のキャラは学生・教師キャラを除き「野球のルールも知らんでワイと勝負なんざ10年早いわ!!」と戦闘拒否をするのだが、ここまで読んでわかるように原作はそういうルールに縛られた作品ではなかったような気がするのだが。


青春はいま…燃えつきた

1972年連載開始の『アストロ球団』は、スポ根ブーム末期の作品であった。
10年あまりにわたり日本の漫画界を席巻したスポ根は、科学的トレーニングの普及に伴う現実との乖離、スポ根ものの影響を受けた指導者による悪影響が目立つようになり、いつしかコント番組などでパロディされる側へと回っていた。
学生運動の当然の敗北は若者から熱気を奪い、何事にも無気力な「しらけ世代」と呼ばれる若者が増加していった。
そもそも人間ドラマを描くところから始まった「スポ根」が、過剰なヒートアップの結果、人ならざる「超人」を主役にせざるを得なくなった時点で、
既にスポ根という鉱脈は掘り尽くされていたのかもしれない。

一試合完全燃焼。
1976年。スポ根の極北と言うべき本作の連載終了は、同時にスポ根ブームという巨大な炎が燃え尽きた事も意味していた。

中島先生もまた、本作で完全燃焼してしまった。
過酷なスケジュールもさる事ながら、あまりに巨大な熱量を持つ『アストロ球団』と向き合い続けた彼の身体には、嘔吐・蕁麻疹・異常な手の腫れといった身体異常が次々と現れ、遂には入院を余儀なくされた。
彼はその後本作以上のヒット作を生み出せないまま、1985年に36歳の若さで脳内出血に倒れ、漫画家としての筆を折る事となる。

今日からすれば信じがたい話だが、1970年代の少年ジャンプは、掲載漫画のアニメ化は行わないのが原則であった。
編集部はアニメから読者が増えることよりも、アニメを観た読者がそれで満足し漫画を買わなくなる事を危惧していたのだ*13
80年代以降、『Dr.スランプ アラレちゃん』のヒットを皮切りに方針を転換。『キン肉マン』『北斗の拳』『聖闘士星矢』『ドラゴンボール』等の大ヒット作が次々とアニメ化を果たす中、ジャンプがマイナー誌だった時代の非アニメ化作品である本作は、華々しい後輩たちの影に埋もれていった。
1992年にテレビアニメ化企画が持ち上がるものの、テレビ局からは「今の子供たちにはギャグにしか見えない」「この作風は現代ではウケない」と一蹴され、幻の企画に終わった。

しかし、前述の実写ドラマ版のオープニングにおいてドラマ版のアストロ超人たちと共演する形でProduction I.G制作の下、原作タッチのアストロ超人たちのアニメ化が実現。
この映像はドラマ版が放映された2005年のテレビ朝日系列のプロ野球中継のオープニングにもドラマ版キャストの映像を新庄剛志松坂大輔を始めとした当時のプロ野球のスター選手の物に差し替えて使用された。








今や『アストロ球団』の名を知る人は決して多くない。
名前くらいは聞いた事があっても、読んだ事はない、ネタに特化した漫画というあながち間違ってはない印象を持つ人がほとんどである。

それでも、『アストロ球団』の遺産は、確かに現代に生き続けている。
スポーツ漫画は「どこまでリアルでない描写が許されるか」というレギュレーション分けが存在する。
タッチ』『キャプテン』のように現実的なプレイを描くもの。
『巨人の星』『キャプテン翼』のように現実には再現不能な必殺技が飛び交うもの。
大きく2つに分けられるが、基本的には前者も後者もスポーツのルールとしての勝利を目的とするものである。
飛雄馬が投手生命と引き換えに魔球を投げるのは打者からアウトを取るためであり、翼くんの必殺シュートはあくまでゴールを奪うために破壊的な威力を伴う。
だが『アストロ球団』はこれらとは別に、「点の取り方さえだいたい合っていれば後は何をしてもいい」という、言うなればバーリ・トゥード(なんでもあり)のスポーツ漫画という新レギュレーションを生み出してしまったのだ。

このレギュレーションには、時折怪作が現れる。
やたら長い名前のパンチを打つと相手が会場外までブッ飛んでいくボクシング漫画『リングにかけろ』。
気がつけばテニスで敵をKOするのが当然となった挙げ句光速で動いたり空間を削ったり馬上でテニスしたりするテニ漫画『テニスの王子様』及び『新テニスの王子様』。
ペンギンが出たりブラックホールが出たり挙句の果てにはキーパーがゴールをずらしはじめる超次元サッカーゲーム『イナズマイレブン』。
そして、漫画ではなくシェアワールドであるが、例の財団が超常物も超技術も野球のためだけに総動員する『ワールド・ベースボール・コンテイン』。*14
なんでSCP以外全部中学生なんだ……

こうした作品が生み出され、受け入れられる土壌が日本にはある。
前人未到のアフリカの大地のような、その未開の地平を切り開いたのは、『アストロ球団』という熱すぎる漫画だったのだ。




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最終更新:2026年08月23日 16:20

*1 一応実際の野球のルールでも打った打者が一塁にすら進まないのは反則でも何でもないためそれをアウトにしたいならボールを持って一塁に触れないといけない。打球がスタンドに入っても審判に言えばタッチ用のボールをくれる。

*2 また別件、「ホームランに代走を送る」という交代例は複数ある。現実では、打った瞬間肉離れなど、歩けない重傷と判定された事例ばかりだが……『あぶさん』では深酒が回りボックスで寝てしまったので代走が出たが、現実で許可されるかは謎。

*3 引き分け再試合でもう9回やったので、それはそれで凄い長さなのだが。

*4 現実の沢村は屋久島沖で船が撃沈され水死したが、本作では地上戦で敵の弾丸に貫かれて息絶えている。

*5 ただしこれは公式設定ではない。作中では「キャッチャーまで0.3秒で届く」とのみ言われており、これを元に豊福きこうが著書『ブラックジャック89.5%の苦悩』で算出した推計値である。

*6 そのピッチャーが1試合完投すると平均10.22点取られる事を意味する。プロ野球で3試合先発してこの防御率なら間違いなく二軍落ちであり、秋には球団をクビになって再就職先を探さねばならないレベルの酷い成績。

*7 比較的作中の時代に近い1960年に作られた東京スタジアムは土地代が10億+建造費が20億の計30億で作れているが、東京より地価の安い地域で既存の球場を買い取るならば10億あれば不可能ではなかった。

*8 ……と書いたら、本当に新庄が日本ハムの監督になってしまった。

*9 球四郎によれば「野球のプレイの中で運悪く相手が死傷しても罪に問われないから」らしいのだが、人間ナイアガラは言い逃れできねえだろ…。

*10 Wikipediaのこの記述には情報ソースがついておらず、中島・後藤両名のインタビューが掲載されている書籍『アストロ球団メモリアル』でも降板の原因については全く触れられていない。

*11 ロッテの木樽正明投手(1947~)のこと。

*12 この4つの悪罵については前述のオリオンズとライオンズの遺恨試合でも似たような悪罵が飛び出している。

*13 それも基本姿勢は「雑誌を買わせること」だったので、単行本発刊もジャンプ黄金時代後期まで遅かった。雑誌連載時の話の順番を数巻分前後させて再編発刊することもあった。

*14 本作は作者が「アストロ球団をリスペクトして書いた」と明言している