*極限脱出 9時間9人9の扉 【きょくげんだっしゅつ くじかんくにんきゅうのとびら】 |ジャンル|脱出×サスペンス|&amazon(B002OL1KGQ)| |対応機種|ニンテンドーDS|~| |発売元|スパイク|~| |開発元|チュンソフト|~| |発売日|2009年12月10日|~| |定価|5,400円|~| |レーティング|CERO:C(15歳以上対象)|~| |コンテンツアイコン|暴力・犯罪|~| |ポイント|脱出ゲームの新機軸&br()この道はいつかきた道?|~| **概要 -脱出ゲーム+サウンドノベルといった感じのアドベンチャーゲーム。 --「脱出ゲーム」とは、主に「閉鎖空間に閉じ込められた状況からの脱却を目的とするクリックADV」を指す。画面中の怪しい箇所をチェックして、アイテムやヒントを集めたり謎解きをしたりしてクリアを目指すというもの。マウス操作のブラウザゲームで多く見かける形式である。 ---ストーリー性が希薄(あるいは皆無)であることも多いジャンルだが、本作ではそこに個性豊かなキャラクターとマルチエンディング形式のシナリオを盛り込んでいる。 -シナリオは打越鋼太郎、キャラクターデザインは西村キヌが担当している。 **ストーリーと舞台設定 見知らぬ部屋で目覚めた主人公は、自分が拉致されて閉じ込められたことを知る。~ 室内にしつらえられた仕掛けを解いて部屋を脱出すると、そこには自分と同じようにして集められたと思しき8人の男女がいた。~ 何やら豪華客船のような場所に拉致されて混乱する一同の間に、「ゼロ」を名乗る首謀者からのアナウンスが響き渡る。 「諸君には、生死を賭けた『ノナリーゲーム』に参加してもらう。9時間以内に、9と書かれた扉を探せ」 ~ -「ノナリーゲーム」は、1から9までの数字を割り振られた9人が参加し、「ナンバリングドア」を開けた先にある部屋の仕掛けを解いて先に進む。 -最終的に「9」の扉を開けることができればクリアだが、ルール違反や制限時間オーバーにより参加者が死亡する可能性もある。 #region(細かいルールについて) -「ナンバリングドア」とは、1から9までの数字の内1つが書かれたドアのこと。複数の人間が「RED」で認証(後述)を行う事で9秒間だけ開き、中に入ることができる。 -ゲーム参加者は全員、左手首に「バングル」をつける。バングルのディスプレイには1桁の数字が表示されていて、REDの認証の際はこの数字が使われる。また、ゲーム開始前にプレイヤーの体内に仕込まれた小型爆弾の起爆装置でもあり、ナンバリングドアの向こう側に入ると起爆のカウントダウンが始まる。 -「RED(Recognition Device)」と「DEAD(Deactivation Device)」 --REDは、バングルの認証装置。バングルをつけた方の手を直接ディスプレイ上に置いて認証を行う。 ---ナンバリングドアの脇に設置されていて、ドアに書かれた数字と、REDで認証した数字の「数字根」が一致した時、ドアが開く。判定には3人以上5人以下分の認証が必要で、2人以下や6人以上ではエラーが返される。 --DEADは、「バングルでRED認証した人間だけが確実に全員ナンバリングドアに入った」ことを確認するための装置。仕組みや認証方法はREDと同様。 ---ドアの向こう側に設置してあり、REDで認証した数字をもう一度すべて一致させると、時限起爆装置のタイマーを止めることができる。設置箇所は、対応するドアによってまちまち。 ---つまり、無事にナンバリングドアの向こうへ行くにはRED認証が必須となる。認証しないで他人と一緒にすり抜けようとすると、バングルの起爆装置を止められず死ぬしかなくなる。 -「数字根」とは、各数字の足し算の合計値が2桁以上になった場合、それぞれの位をまた足し算する…という処理を繰り返して1桁になった時の数字のこと。例えば1、5、8の数字根は「1+5+8=14、1+4=5」で5となる。 #endregion ---- **システム -ノベルパートと脱出ゲームパートを交互に繰り返す形でゲームが進行する。DSの上画面には人物立ち絵とセリフ文、下画面にはパートに応じて、サウンドノベルのような地の文章(会話以外の叙述などのこと)やアイテム管理画面などが表示される。 -脱出ゲームパートの作りは一般的な脱出ゲームとほぼ同じであり、画面中をタッチしてアイテムやヒントを集めた後、出口の暗号ロックにパスワードを入力してクリアする。 --アイテムは管理画面で360度回転させるなどしてじっくり調べることで、新しい情報を得ることもある。 -ノベルパートでは節目ごとに「自分が入るナンバリングドアの選択」を迫られ、これによってストーリーが分岐する。なお、ナンバリングドアに入った先で、後の分岐に影響する選択肢が出てくる場合もある。 --エンディングは大きく分けて5種類。エンディングリストは6枠あるが、その内の1つはTRUEエンドルートの途中で話が中断される差分エンドである。 ---- **評価点 -緊張感のあるストーリー展開。また、DSのハード特性を生かした本作独自のシナリオ演出手法のオリジナリティは高い。プレイ時間の目安が10~20時間というのも、尺としては丁度良い。 #region(シナリオについて ※中程度のネタバレを含むので注意) -ノナリーゲームを生き残ろうと考えた場合、最も重要にして最も困難な壁と思われるのは「最終的に9番の扉を開けなければならないこと」だろう。自分1人だけでは脱出できないルールであるならば、誰かが欠ける場合を想定して最終局面で自分が貧乏クジを引かないように動く必要がある。非情に徹しきれない場合、一緒に脱出したい他のメンバーなどについても考えが至るだろう。&br実際本作は、ルート次第でメンバーに欠員が出る。このような状況下において、数字根とナンバリングドアは、そういった長期的な立ち回りについて考えさせる凝った設定と言える。 --最も、プレイヤーが任意で別の参加者を殺すことができるようなシステムではないため、ゲームの展開としては流れに身を任せるしかない。&brその上で本作の後半のシナリオは、前述したような「ルール設定を聞いた時点でプレイヤーが先回りして考えられる事」とは全く異なる方向に動いていく。これ以上は本作の核心に触れてしまうため伏せるが、先読みがしにくく意外性のある展開であるため熱中度は高い。 -上下二画面構成の携帯ゲーム機をプラットフォームとしている事を利用し、シナリオの進行に合わせて「本作の物語を見つめる視点が誰のものであるか」を、プレイヤーに様々に解釈させる。その1つには、プレイヤー自身が“本作の世界を構成する重要な存在”を擬似的に体現(人ではないが。)している、とする見方もある。 -丁寧に張られた何気ない伏線がさりげなく回収されていく様の巧さからか、「プレイ中は気付かなかった『OPの1シーン』や『クライマックスの描写』などの意味に後で気付いて((ネットで考察スレやサイトを回るなど。気付かない人は何度やり直してもなかなか気付けないほど、本当にさりげない。))衝撃を受けた」といった感想は多く見られる。 #endregion -登場人物の個性がよく出ている。 --「エニアグラム性格論」で分類される9つの性格を元にキャラクターが作られているとのことで、人数が多くても描き分けがしっかりしていて読みやすい。 --キャラクターの立ち絵は表情が豊かで、動きもなめらか。 -対応機種がDSだけあって、脱出ゲームパートの操作性は良好。 --カーソルを介さないタッチ操作での探索は快適だし、「背景を調べた時、同じ反応の返る場所全体が枠で明示される」((これが無いADV作品では、判定の広い探索箇所があると、違う場所を調べたつもりで同じメッセージを二度三度と見させられる事がある。))といった細かい部分への配慮もなされている。 -脱出パート中で部屋中のいろいろなものを調べていると、一緒に部屋に入ったメンバーがちょくちょく反応してくれる。最低3人以上でチームを組んで探索するという基本設定のおかげでメッセージパターンが多彩であり、あちこち何度もつつき回るのが単純に楽しい。 --ブラウザでプレイする脱出ゲームはセリフなしBGMなしが珍しくないので、ビジュアルノベルとしての彩りが追加されているだけでも好印象である。 **問題点・賛否が分かれる点 #region(※軽~中程度のネタバレを含むので注意) -ストーリーのジャンルはミステリー調かと思いきや、SFサスペンスである。 --事前情報やパッケージ裏などで把握できる舞台設定がロジカルにしてシビアなので、SF展開に面食らったとの感想を抱くプレイヤーもいた。PVやOPなどにSFを匂わす演出はあったのだが、それだけナンバリングドアなどの設定にインパクトがあったということだろう。 --一口で「タイムパラドックスもの」と言うのとも違った解釈の幅の広い設定であり、好みは割れやすい。 -難易度が低い。 --2桁の四則演算が暗算でできるなら、メモなしでもクリアできる。メモを駆使すれば小学生でも十分OK。謎解き要素の占める割合が大きいジャンルであることやCERO:Cで対象年齢が高い点などを考えると、少々物足りない。 --他のメンバーは主人公が暗証番号入力などをキャンセルする(一旦諦める)とヒントを口にするのだが、その内容がとてもストレート。さらに失敗を繰り返すたびどんどん露骨になり、最終的にはほぼ解答に近いところまで喋ってくれてしまう。 --ネタバレになるが、実は時間切れによるバッドエンド展開はない。プレイ中は緊張感が持続しても、クリアしてネタが割れてしまうとあっけなさを感じるだろう。 -ルートコンプリートするには何週もかかる(TRUEエンドだけでも最低二周必要)仕様だが、脱出ゲームパートは飛ばせない。同じ扉を選んだら、答えの変わらない仕掛けをもう一度解く必要が出てくる。 --実際にヒントを探さなくても答えさえ知っていればショートカットできる箇所が多く、シナリオ間をジャンプできるフローチャート機能を求める意見が多く見られた。 --もっとも、本作がこのような仕様になっていることにはシナリオ上納得のいく部分があり、意図的であった可能性は高い。 -事件の中心人物がラストシーンに登場しないこともあって、エンディングの爽快感が薄い。 -最後まで進めても正確なことは分からずプレイヤーの想像力で補うしかない、という疑問点を多く含むシナリオである。 --「誰がどこまで事件に関与していたのか」の詳細が明かされないことによって、その「中心人物」の人物像の解釈がプレイヤーごとに割れてしまいがち。この点は、物語の後味に影響する。 ---本作と同じシナリオライターが関わった『[[Remember11>http://www23.atwiki.jp/ksgmatome/pages/699.html]]』と似た構造の問題点と言える。 --実際のラストシーンは、主要人物である9人の男女の人間模様や首謀者「ゼロ」とはまったく無関係な内容で締められる。本作単体では完全解決を見ない謎やキーワードがいくつか残されているため、「そんな事より他に描くべきことがあったのでは」という突っ込みは多かった。 --ただし、エンディングの数はそう多くなく、既読リストもあるので、ルートの取りこぼしを心配する必要はない。 #endregion ---- **総評 古典的な脱出ゲームを基礎にもってくる原点回帰・温故知新の精神を出発点に、ハード特性と合致するアイデアを盛り込んで生まれた本作は、ADVゲームの可能性はまだまだ潰えていないという希望を見せてくれる秀作である。~ しかし、解釈の余地を残す複雑なストーリーやエンディングには賛否が割れた。そのため、演出の一部でもあった「脱出ゲームパートを飛ばせない」仕様も好意的に受け取れるか否かが分かれ、結果として「プレイが快適でない」と評価されがちである。ゲーム自体が同ジャンル内では簡単な部類に入るのも、人によってはマイナスになる。~ シナリオそのものは面白く意外性もあるのだが、評価点・問題点とも口コミで広めにくいデリケートな側面を持つために知名度的には隠れた存在となってしまった、非常に惜しい作品である。 ---- **その後の展開・余談 -海外でパッケージ新装版が発売された。 -小説版『極限脱出 9時間9人9の扉 オルタナ(上下)』 が講談社BOXから発売された。作者は黒田研二、挿絵は西村キヌ。 --物語の大筋はほぼ同じだが、主に続編に関係があると思われる設定が削られ、細かい設定や結末が変わった。これらの修正を受けた結果、単体で完結する締めとなっている。 -2012年2月16日に3DS・PSVマルチで『極限脱出ADV 善人シボウデス』が発売。これにより、本作は「極限脱出シリーズの一作目」に位置づけられる。 --続編構想は元々あったものの、それが具体的な企画になるまでは紆余曲折あり、海外版の好調などを受けて正式に開発・発売に至ったという。 -『風来のシレン5』に、本作のバングルを模したコラボ装飾品「ノナリーの腕輪」が登場した。装備した状態で扉(『シレン5』の新ギミック)をくぐると爆発する上、非常に高い確率で呪われている。 //-チュンソフトが開発し2010年7月に発売された『TRICK×LOGIC(トリックロジック)』も、既存のADVとは違った試みに溢れた実験的な作品だった。「ゲームの新しい形」を作ることに前向きな姿勢は、未だ健在であるようだ。 //チュンソフトノベルのリンクに関連作品として一括掲載された関係でCO。 -『極限脱出ADV 善人シボウデス』の発売を記念して、ニコニコ動画プレミアム会員限定でニコニコアプリにおいて期間限定で無償配信された。 --上記の問題点を考慮してか、一度解決した部屋をスキップする機能、既読文章のオートスキップ機能が追加され、これにより周回プレイが快適になった。 ---だが、部屋をスキップする仕様が『前回と同じ手順でスキップする』という物であり、前回立てたフラグもそのまま反映されてしまい、その事に気付かなければいつまでも別のEDに辿り着かない、という新たな問題点も発生している。 --ハードが変わった事で操作し難くなった箇所も存在する。