処刑までの十章

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処刑までの十章 - (2017/07/26 (水) 00:32:14) のソース

-分類:長編小説
-初出:「小説宝石」2009年1月号~2010年2月号、2010年7月号~2012年3月号
-雑誌時挿絵:ヤマモトマサアキ
-初刊:2014年/光文社
-刊行回数:2回
-入手:入手可(電子書籍あり)

*あらすじ
> 紅茶を飲み終えた夫が、
>「じゃあ出かける」
> といつも通りネクタイを直しながら立ち上がった時、純子は一旦「ええ」と頷いてから、
>「今日は天気予報見ないの?」
> と訊いた。

平凡な会社員の西村靖彦が、ある日突然失踪した。彼の残した謎めいた言葉「五時七十一分」が、その失踪と土佐清水での放火殺人事件とを繋ぐ。弟の直行は、兄嫁の純子とともに兄の行方を追うが……。

**主な登場人物
-&bold(){西村靖彦}
--会社員。突然失踪する。
-&bold(){西村純子}
--靖彦の妻。主婦。
-&bold(){西村直行}
--靖彦の弟。楽器店に勤めながらバイオリン教室をしている。
-&bold(){荻原勝美}
--看護師。
-&bold(){村野百合}
--土佐清水の放火殺人現場から姿を消した女。
-&bold(){石田勇}
--バーテン。
-&bold(){小瀬一夫}
--直行の友人。高知の新聞記者。
-&bold(){荻原}
--勝美の母。
-&bold(){森脇}
--靖彦とバスでよく一緒になるという男。
-&bold(){加島}
--靖彦の部下。
-&bold(){永井}
--タクシー運転手。

*解題
2009年から2012年にかけて「小説宝石」に連載された、連城三紀彦の生涯最後の小説となったミステリー長編。
胃癌の発見された時期はおそらく連載期間中で、途中4ヶ月の休載は手術に伴うものだろう。

> 『処刑までの十章』は、癌が作家の命を奪う一年半前まで雑誌連載されていた、実質的な遺作長編である。ある朝、一人の中年男が、いつもと同じように会社に向かうため家を出て、そのまま姿を消す。弟の直行は義姉に乞われて一緒に兄の行方を追い始める。平凡と言っていい兄の唯一の趣味は蝶々で、アサギマダラという蝶がきっかけで、高知県の同じ趣味の女性とやりとりがあった。失踪の日の早朝、高知県土佐清水で放火殺人事件があった。男が焼死し、女が現場から逃げ去った。事件は一枚の絵葉書によって予告されていた。そこには「午前五時七十一分」という謎めいた記述があった……まさに連城節全開の序章から、物語は直行と義姉の禁断の恋を孕みながら、思考が追いつかないほどの反転劇を繰り広げてゆく。連城小説のキーワードのひとつである「疑心暗鬼」が極限まで突き詰められた、凄まじい作品だ。
>(「朝日新聞」2014年11月30日掲載 佐々木敦「[[たおやかで繊細、「物語り」の大技>http://book.asahi.com/reviews/reviewer/2014120100010.html]]」より)

> 帯には「闘病中に書き上げた執念の大長編」という惹句が付されている。最後まで読むと、表題に込められた主要人物たちの決意というか怨念も生々しく伝わってくるが、それはあくまで小説世界の中でのおどろおどろしさ。著者が病身に鞭打って書いたような重苦しさは感じられない。それどころかまだまだ余力が残っていそうで、もう少し長生きしていたらさらにトンデモない傑作を書いてくれたであろうことは疑いない。
>(「小説宝石」2014年11月号掲載 香山二三郎「耽美ミステリーの名手、連城三紀彦の世界」より)

> 東京と高知で生じたふたつの三角関係が相似形を成して、複雑な様相を見せる事件を、主として直行の視点から描いた本書では、推理や想像による行動が、それまで信じられていた事実を突き崩し、改めて解釈の再構築を迫る様が、何度も描かれる。一種の、推理のスクラップ&ビルドともいうべきそれは、関係者の言葉や記憶の端々がきっかけとなる。それはあたかも、恋愛相手の一挙手一投足、一言一句にこだわって相手の気持を忖度するのにも似ており、自分を納得させる解釈を追い求め、関係回復、関係維持を図る行為を思わせる。それは恋愛関係において、相手の嘘を暴き、心の真実を探るさいの猜疑心に等しい。そうした恋愛に伴う焦燥と、事件の謎をめぐる混迷とが、限りなく近づき重なっている。
>「五時七十一分」という奇妙な表記の謎は、後半になって暗号解読の興味に等しくなり、放火事件をめぐる真相は、アメリカの有名な長編ミステリを髣髴させる。その、斜め45度あたりから真犯人を導き出してくるテイストは、本格ミステリ以外の何ものでもない。とはいえ本書は、骨がらみの恋愛作家がそのまま、骨がらみのミステリ作家でもありえた秘密を、よく示している。そこをこそ味わいたくなるような逸品だ。
>(『2015本格ミステリ・ベスト10』より 執筆者:横井司)

デビュー作「[[変調二人羽織]]」から連城作品に通底し続けた、アンチミステリー的指向の強い作品と言えるだろう。
モチーフや読感などが『[[わずか一しずくの血]]』と重なるところが多く、読み比べてみるのも一興。

**各種ランキング順位
-年間
--「2015本格ミステリ・ベスト10」 &bold(){14位}

**刊行履歴
***初刊:光文社/2014年10月19日発行
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>&bold(){遺作}
>聞こえる……これは、連城三紀彦のレクイエムだ &bold(){奥田瑛二}(俳優・映画監督)
>禁断の愛、交錯する嘘と真実
>これぞ、連城マジックの極み
>耽美ミステリーの名手が遺してくれた渾身の1000枚!
>(単行本オビより)

単行本/499ページ/定価1900円+税/入手可
装幀/鈴木久美 装画/亀井徹「花虫達」2013年

***文庫化:光文社文庫/2016年10月20日発行
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>平凡なサラリーマンであった西村靖彦が突然消息を絶った。弟の直行は、真相を探るうちに兄が殺されたという疑念をもつ。義姉の純子を疑いながらも翻弄されるなか、高知の放火殺人事件の知らせが入る。高知と東京を結ぶ事件の迷路を彷徨いながら辿りついた衝撃の真相とは――。これぞ、まさに連城マジックの極み! 耽美ミステリーの名手が遺した渾身の傑作。
>(文庫裏表紙より)

文庫/592ページ/定価920円+税/入手可/電子書籍あり
解説/香山二三郎
カバーデザイン/多田和博 カバーイラスト/黒川雅子

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