日曜日と九つの短篇

  • 別題:『棚の隅』(2007年、コスミック出版再刊より)
  • 分類:短編集
  • 初出:別記
  • 初刊:1985年/文藝春秋
  • 刊行回数:3回
  • 入手:古書のみ

解題

「小説新潮」「別册文藝春秋」「オール讀物」の3誌に掲載された、原稿用紙換算で30枚程度の恋愛短編を集めた短編集。

巻頭の「日曜日」は第91回直木賞の結果発表と選評が掲載された「オール讀物」1984年10月号に、受賞後第一作として発表された短編。なお「街角」も「小説新潮」1984年10月号掲載時に「直木賞受賞第一作」と銘打たれている。
直木賞受賞以降、連城は主に「別册文藝春秋」「オール讀物」の2誌でこのぐらいの分量の恋愛短編を長年に渡って書き継ぐことになる。この後の同系統の短編集に『恋愛小説館』『新・恋愛小説館』『夏の最後の薔薇』などがある。

 最近よく息ぎれがします。
 もともと体力も精神力もない方でしたが、この頃は道を歩くのに、原稿を書くのに、絶えず息つぎが必要になってきています。単純に年齢のせいにしてますが、視線にもその影響が出てきました。昔は、遠い手の届かないような所に立った人ばかりを見ようとしていたのに、最近は短く切れ始めた視線が、ごく身近にいる、どんな名前でもいいようなありふれた人ばかりを捉えるようになっています。(中略)
 そんな息ぎれし始めた視線で書いてみた、十の、短い小さな物語です。
(単行本あとがきより)

単行本の装画は、俳優の萩原健一が手がけた。文庫版にも同じ絵が流用されている。

収録作の多くは、主に80年代に単発ドラマ化されている。CS放送のTBSチャンネルでは、「改札口」「敷居ぎわ」「形見わけ」「青葉」などがときおり再放送されている模様。

2007年、収録作「棚の隅」が門井肇監督・大杉漣主演で映画化されたのに伴い、コスミック出版から『棚の隅』と改題され再刊された。『棚の隅』版では収録作の順番が一部入れ替わり(8番目に置かれていた「棚の隅」が巻末に回った)、書き下ろしのあとがきと、プロデューサーの小池和洋による映画化に至るまでの経緯が記された解説がついている。

 原作では、古いオモチャだから安くすると言う店の主人に、女性客は「定価どおりで買わなきゃ可哀相よ」と言います。
 原作者自身、ストーリーもうろ覚えになっていたのに、なぜかこの一言だけは忘れずにいました。たぶん、この一言を書きたくて話を作りあげたのだと思います、短編を書く時には、思い浮かんだ一つの台詞をきっかけにすることがよくありますから。
 映画を見た時、古本屋の隅っこに忘れられていたこの本にも、やっと定価どおりの値段で買ってくれる客が現れたのだと思いました。
(『棚の隅』あとがきより)

現在は文春文庫版、コスミック出版版ともに新品では入手できない。
母の手紙」は『連城三紀彦レジェンド』に、「裏町」「敷居ぎわ」「青葉」は『六花の印 連城三紀彦傑作集1』に再録されたため、そちらで読める。

収録作

日曜日

  • 初出:「オール讀物」1984年10月号
  • 雑誌時挿絵:池田真一

裏町

  • 初出:「小説新潮」1984年4月号
  • 雑誌時挿絵:安久利徳

改札口

  • 初出:「小説新潮」1984年7月号
  • 雑誌時挿絵:坂本富志雄

敷居ぎわ

  • 初出:「別册文藝春秋」1984年9月号
  • 雑誌時挿絵:中島千波

母の手紙

  • 初出:「小説新潮」1984年9月号
  • 雑誌時挿絵:小松久子

街角

  • 初出:「小説新潮」1984年10月号
  • 雑誌時挿絵:早川良雄

形見わけ

  • 初出:「別册文藝春秋」1984年12月号
  • 雑誌時挿絵:長谷部日出男

棚の隅

  • 初出:「小説新潮」1985年3月号
  • 雑誌時挿絵:小松久子

一夜

  • 初出:「オール讀物」1985年5月号
  • 雑誌時挿絵:池田真一

青葉

  • 初出:「オール讀物」1984年9月号
  • 雑誌時挿絵:池田真一

刊行履歴

初刊:文藝春秋/1985年9月20日発行


あの時、思いを伝えられなくて……
見知らぬ男の後妻となるホステス、二十年前の恋人と再会するやくざ、腹違いの子を育てる妻……裏町に住む人々の胸の思いをあざやかに掬い上げた、情感あふれる短篇集
(単行本オビより)

単行本/189ページ/定価900円/絶版
あとがきあり
装画/萩原健一 装幀/竹内和重

文庫化:文春文庫/1988年9月10日発行


見知らぬ男の後妻となるホステス(「日曜日」)、二十年前の恋人と再会するやくざ(「裏町」)、腹違いの子を育てる玩具店の女房(「棚の隅」)……。名作『恋文』の直後に書かれ、裏町に住むさまざまな人人の胸の思いをあざやかに掬い上げて、著者の新たなる到達点を示した珠玉の十篇を収録する短篇集。
(文庫裏表紙より)

文庫/205ページ/定価330円+税/絶版
あとがきあり(単行本と同一内容)
解説/岸田理生(脚本家)
装画/萩原健一 AD/森玲子

改題再刊:コスモブックス/2007年4月20日発行


「棚の隅」は、ぼくにとって
待ち望んでいた宝物の映画です!
            大杉漣
主演:大杉漣 連城三紀彦の世界がついに映画化!!
『棚の隅』
シネマアートン下北沢ほか全国順次ロードショー
(オビより)

単行本/222ページ/定価1238円+税/品切れ
あとがきあり(書き下ろし)
映画『棚の隅』が生まれるまで/小池和洋(プロデューサ-)
カバーデザイン/エイディーエム 大野優子

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最終更新:2018年12月23日 04:53