- 分類:短編集
- 初出:別記
- 初刊:1982年/講談社
- 刊行回数:2回
- 入手:古書のみ
解題
82年までに発表された7編を収録した第3短編集。
ちなみに表題作「
密やかな喪服」の初出時のタイトルは「実験材料」。『
戻り川心中』『
変調二人羽織』と単行本のトーンを統一するための改題だったのだろう(「
黒髪」が表題作ではダメだったのだろうか……)。
この短篇集に納められた作品も、作家の小説というより、僕の夢の中の自由であり、未熟な芸人のサービス精神だけの芸であり、音符も読めない作曲家が必死に一音一音拾って作ったメロディであり、また戦後シラケ世代の端に引っ掛かった物の、卒直な、或いは裏返しの本音ではないかと思っています。
(単行本あとがきより)
単行本の表紙・裏表紙の見返しには、連城三紀彦の原稿の手書き文字が印字されている。
第4回吉川英治文学新人賞候補作。短編集としての雑多さが足を引っ張ったようだ。
『風の七人』(山田正紀)と『密やかな喪服』(連城三紀彦)の作者の才能を疑うものは一人としておるまい。(中略)後者は短篇集であるが、それが不運だった。各篇のもつ質の凸凹がたがいに足を引っ張り合ってしまった。しかしとにかくこの作家はすでに一家を成している。彼のトリックはすべて芸術品である。
(「群像」1983年5月号掲載 第四回吉川英治文学新人賞選評 井上ひさし「その質、上々の二作」より)
連城さんの作品集は、短篇それぞれに味わいがあるものの、一冊にまとまって読んだ場合、少し混乱してしまう。しかし、才能は明らかであって、余計なお世話かもしれないが、なるたけ広い世界をお書きになった方がいいように思う。
(同号掲載選評 野坂昭如「選評」より)
また収録作の中から「
白い花」「
ベイ・シティに死す」「
黒髪」の3作が抜粋される形で第88回直木賞候補となった(今ではあり得ないが、当時はこういった、短編集から数作を選んで、という形での候補入りの例は多かった)。
源氏鶏太は「
黒髪」を、池波正太郎は「
白い花」を推したようだが、この回は結局受賞作なしと意見がまとまらなかったようだ。
連城三紀彦氏の「黒髪」は、あまり票を得られなかったが、私は、再読し、女の執念の凄じさに打たれた。二作ならこの作品だと思った。
(「オール讀物」1983年4月号掲載 第88回直木賞選評 源氏鶏太「(選評タイトル未確認)」より)
他の候補作の中では、連城三紀彦の短篇が印象に残った。
ことに〔白い花〕がよく、これからも独自のたくらみの詩情に磨きをかけてもらいたいとおもう。
(同号掲載選評 池波正太郎「よきかな〔捕手はまだか〕」より)
連城三紀彦さんが全般的な力では候補者中のトップ。肌あいが立原正秋と似ているが、その立原の直木賞受賞作「白い罌粟」と較べて、まだ少し差があるというのが偽らざるところの感想。どうしてもこれが書きたかったという作品で受賞されることを希望する。
(同号掲載選評 山口瞳「うしろ姿が見えない」より)
私の見るところで、この後もますます力のある作品を続けて発表してくれそうな予感をおぼえさせるのは、赤瀬川氏と、連城三紀彦氏の二人かもしれない。
(同号掲載選評 五木寛之「日和見的選考の弁」より)
「白い花」「ベイ・シティに死す」「黒髪」の三作は、文章はしっかりしているのに、これが推理小説とするのなら、最後の謎解きに三作とも無理がある。
(同号掲載選評 村上元三「嘆きの種」より)
文庫版の新保博久による解説は、連城作品における傍点の数をカウントしてミステリ度との相関を示したものだが、これは後に『世紀末日本推理小説事情』(筑摩書房、1990年)に収められた連城三紀彦論「そして夢の中へ」の原型となっている。
収録作
- 初出:「オール讀物」1980年10月号
- 雑誌時挿絵:中原脩
- 初出:「幻影城」1978年8月号
- 雑誌時挿絵:山本博通
- 初出:「小説推理」1981年6月号
- 雑誌時挿絵:山野辺進
- 初出:「小説現代」1981年11月号
- 雑誌時挿絵:三嶋典東
- 初出:「小説現代」1981年1月号(「実験材料」改題)
- 雑誌時挿絵:松田穣
- 初出:「ルパン」1981年秋季号
- 雑誌時挿絵:門坂流
- 初出:「問題小説」1982年2月号
- 雑誌時挿絵:文月信
刊行履歴
初刊:講談社/1982年6月21日発行
連城ミステリーの魅力は人間心理のどんでん返し
連城三紀彦の第三作品集
「密やかな喪服」
手作りの探偵小説、絹の光沢を持つ文章、連城推理の魅力横溢、最新作品集をどうぞ!
(単行本オビより)
単行本/241ページ/定価980円/絶版
あとがきあり
装画・装釘/村上芳正
文庫化:講談社文庫/1985年7月15日発行
「ああ、そうだわ――喪服を用意しておかないと……」ふと目覚めた枕上の暗闇で妻が口にした一言が、夫の胸に暗い疑惑を棲みつかせた。妻は一体、誰の死に備えようというのか? そして死は確実に準備されて――表題作はじめ平凡な日常の仮面の下に隠された戦慄の人間ドラマ七篇を収めた推理傑作集。
(文庫裏表紙より)
文庫/290ページ/定価380円/絶版
解説/新保博久
カバー装画/村上昴 デザイン/菊地信義
最終更新:2018年12月23日 21:54