虹の八番目の色

  • 分類:長編小説
  • 初出:「家の光」1994年1月号~1995年12月号
  • 連載時挿絵:百田まどか
  • 初刊:1996年/幻冬舎
  • 刊行回数:2回
  • 入手:古書のみ

あらすじ

 押し寄せてくる黄色い波を刃でなぎたおしながら進んでいく。
 今年四十八歳、終戦の年に生まれた一洋に戦争体験はないが、戦車の乗り心地はこんなだろうかと、年に一度秋の最中にそう思う。

信州の農家・田沼家に嫁いで二十五年になる郁子は、結婚直後から抱いていた家出の決意を実行に移した。田んぼを継がず銀行員になった夫、家の大黒柱である姑、ボケの始まった舅、突然結婚相手を連れて来た息子、その連れてきた嫁、隠れて道ならぬ恋をしている娘――郁子の家出を呼び水に、家族の隠された秘密が次々と明らかになっていく……。

登場人物

  • 田沼郁子
    • 一洋の妻。45歳。旧姓山野辺。
  • 田沼一洋
    • 郁子の夫。48歳の銀行員。
  • 田沼鈴太郎
    • 一洋の父。
  • 田沼ユウ
    • 一洋の母。
  • 田沼康彦
    • 一洋と郁子の長男。
  • 津上雪乃
    • 一洋と郁子の長女。
  • 田沼美苗
    • 一洋と郁子の次女。
  • 艶子
    • 一洋の姉。
  • 野沢奈津
    • 康彦の恋人。農協勤務。
  • 高橋草太郎
    • 郁子の初恋の人。
  • 津上伸二
    • 雪乃の夫。
  • 伊藤ふみ
    • 鈴太郎の元愛人。
  • 安永民雄
    • 奈津の高校時代の教師。
  • 野々宮淳一
    • 美苗の交際相手。
  • 流太
    • ユウの幼なじみ。太平洋戦争で戦死。

解題

JAの発行している農家向け家庭雑誌「家の光」に連載された家族小説。
刊行時、週刊ポストのインタビューに連城は以下のように語っている。

「僕の母親は名古屋近郊の農家の出で、子供の頃から米俵を持ち上げられたというまったくの農民なんです。名古屋へ嫁にきてからも、庭をほとんど畑にしているような土一筋の人。僕は小説を書き始めた当初から、そういう母親の人生を書きたいと思っていたんです」
 連城三紀彦氏の最近刊『虹の八番目の色』(幻冬舎)は、信州の農家を舞台にした嫁姑の〝女の闘い〟の物語である。登場人物の中では、おそらく連城氏の母親と同じ年齢の、嫁いびりに執念を燃やす姑に、ひじょうに存在感がある。
「ぼくはなぜか、おばあさんはとても書きやすいし、割合うまいんじゃないかな、と自負しているんですよ。今回も、姑がいちばん生き生き書けていると思います」
 だから、全編を通して繰り広げられる嫁姑の確執は、家庭をもったことのない連城氏が書いたとは思えないリアルさだ。
「それも僕自身が子供の頃から見てきたものなんです。僕の家は嫁姑、親子、親戚など家系図のいろんな糸が、ごちゃまぜにこんがらがっていた。それを目の当たりにしてきたことも家庭を持つ気をなくした理由のひとつですが、自分が家庭を持たないと決心して、はたから眺めるようになってからは、逆にそういう家庭ドラマがものすごく面白い」
(「週刊ポスト」1996年5月24日号 「PeOPLe 〝母親の人生を書いた〟家庭小説を発表 連城三紀彦(48)」より)

同系統の家庭小説には『ゆきずりの唇』や『さざなみの家』がある。
幻冬舎文庫版の解説の安西水丸は、単行本の装画を手がけている。

刊行履歴

初刊:幻冬舎/1996年4月9日発行


家出、それは命がけの浮気。
45歳、郁子の家出。
惚けの始まった舅、老獪な姑、夫の裏切り…。古くからの農家で、女たちの壮絶な闘いは始まった。
とまどい、ためらい、そして決意する心がもとめる新しい幸福の色。
せつなくも、あたたかな傑作最新長編。
(単行本オビより)

単行本/321ページ/定価1456円+税/品切れ
装画/安西水丸 装丁/上原ゼンジ

文庫化:幻冬舎文庫/1999年8月25日発行


今日まで二十五年かかった――。長野の農家に嫁いだ郁子は、結婚間もないころから抱いていた決意を実行した。行き先は、再会した初恋の男の住む東京。ボケの始まった義父、老かいな義母、裏切りを犯した夫、そして深い問題をかかえ始めた息子と娘たちとの決別から始まる四十五歳の郁子の闘い! 大家族を舞台に、女の新しい幸福の答えを出す傑作長篇。
(文庫裏表紙より)

文庫/386ページ/定価600円+税/品切れ
解説/安西水丸(イラストレーター・作家)
カバーデザイン/上原ゼンジ

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最終更新:2017年08月10日 17:11